2023年01月


(上):はじめに並びに連続複利法の場合の収束値及び旧判例

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(中):大判昭和11101日並びに山中評釈及び我妻説

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4 最判昭和45421

 

(1)最高裁判所判決

 ここで改めて最判昭和45421日の判示(前記1に掲載してあります。)を見てみると,「いわゆる法定重利につき民法405条が1年分の利息の延滞と催告をもつて利息組入れの要件としていることと,利息制限法が年利率をもつて貸主の取得しうべき利息の最高額を制限していることにかんがみれば,金銭消費貸借において,年数回にわたる組入れをなすべき重利の予約がなされた場合においては,毎期(●●)()おける(●●●)組入れ(●●●)利息(●●)()これ(●●)()対する(●●●)利息(●●)()()合算(●●)()()本来(●●)()元本(●●)()()対する(●●●)関係(●●)()おいて(●●●)1()()につき(●●●)同法(●●)所定(●●)()制限(●●)利率(●●)をもつて(●●●●)計算(●●)した(●●)()()範囲内(●●●)()ある(●●)とき(●● )()かぎり(●●●),その効力を認める(●●●)こと(●●)()でき(●●)その(●●)合算(●●)()()()()限度(●●)()こえる(●●●)とき(●●)(),そのこえる部分については効力を有しないものと解するのが相当である。」との部分のうち,下線部分には我妻説,傍点部分については山中評釈の影響が歴然としています(しかし,山中評釈から横着に「コピペ」したわけではないのでしょうが,発生した利息の全てが不払のまま元本に組み入れられるわけではなくきちんと弁済期に弁済される利息もあるのであろうところ,そのような弁済済み利息は利息制限「法所定の制限利率をもつて計算した額」と比較されるべき額に算入されないものとされてしまっているように読めます。それでよいのでしょうか・・・。また,金融法委員会「論点整理 メザニン・ローンに関わる利息制限法・出資法上の問題――重利特約の取扱いを中心に――」(201511月)7頁註19は,最判昭和45421日における「毎期における組入れ利息とこれに対する利息との合算額が本来の元本額に対する関係において,1年につき同法所定の制限利率をもつて計算した額の範囲内にあるときにかぎり」との判示の部分にいう「本来の元本額」とは,「各期における「組入れ前の元本額」(すなわち,各期の期初時点における前期までの元本組入れ額を含む元本金額)を指しているものと考えられる。」との解釈を示していますが,しかし,当該解釈は「本判決における事案への当てはめ部分を見ると,「組入れ前の元本額」という表現が用いられてお」ることからの推論であるところ,当該「当てはめ部分」は,利率が利息制限法上の上限利率であるときには利息の元本組入れを少しでもするとたちまち「1年につき同法所定の制限利率をこえる」ので「重利の約定に従つて元本に組み入れる余地を失つた」ことを説明するものです。すなわち,当該利率の場合は最初から利息の元本組入れはされないのですから,「各期の期初時点における」元本金額は最初の元本額から変わらないのであって,「前期までの元本組入額を含む」ことはそもそもないわけです。特殊な場合に係る表現を捉えて一般化することは適当ではないでしょう。)。ここでの問題は,「そのこえる部分については効力を有しない」の意味です。

前記32)第3段落(及び同(3)カ最終段落)のとおり山中評釈では,利息の計算をやり直せということになっています。しかし最高裁判所は,単に「効力を有しないもの」としています。しかしてその,効力を有しないものとなる主体は何かといえば,「年数回にわたる組入れをなすべき重利の予約がなされた場合においては」なのですから,当該「重利の予約」であるのでしょう。また,「そのこえる部分」が失効するということですから,前記33)の我妻説にも鑑みるに,不払利息の元本組入れの全部又は一部が認められなくなるということになるのでしょう。調査官解説も,我妻説式に「本件の事案についてみると,本件のような1年内に6回の組入れをする予約も全体として無効というわけではなく,1年を基準としてみて,利息制限法所定の制限利率をこえる〔筆者註:ここは,最判昭和45421日の記載にも鑑みるに,精確には「利息制限法所定の制限利率をもって計算した額をこえる」でしょう。制限利率を超える利率であれば制限利率に引き直されるだけです。〕額の部分はその組入れを認められない限度で特約が働く余地を失うことになる。」と述べています(吉井213頁。下線は筆者によるもの)。利息の発生自体には変化がないのでしょう。

 最判昭和45421日が上告論旨に直接答えている部分は,我妻説(「〔利息制限法上の〕最高の利率だから――債権者は,特約に拘わらず,単利計算による総計額を請求することができるだけである(但し,2年の後に請求する場合には,1年分の利息を催告なしに組み入れて計算してよい。その限りで特約の効力を認むべきだからである)。」)を彷彿とさせるものとなっています。いわく,「昭和32920日にその利率が日歩5銭(年利182厘強)に改定されて後は,上告人は右制限利率の範囲内〔利率年15パーセント又は18パーセント〕においてのみ利息の支払を求めうるのであるが,そればかりでなく,右利率改定の結果,重利の約定に従つて2箇月ごとの利息の組入れをするときは,ただちに,その組入れ利息とこれに対する利息の合算額が組入れ前の元本額に対する関係において,1年につき同法所定の制限利率をこえる状態に達したことになり,上告人は,右改定後は延滞利息を重利の約定に従つて元本に組み入れる余地を失つたものというべきである。それゆえ,これと同旨に出て,同32921日以降利息の元本組入れの効果を認めなかつた原判決には,なんら所論の違法はない。」と。上告論旨は,原審判決が「1年を経過しなければ利息を元本に組入れることを得ない」としたことが違法だと言っていましたが,では1年が経過したら利息を元本に組み入れることができるのかどうか,という点についてまでの判示はされていません(昭和32921日以後昭和33531日までの8箇月余間にされた利息の元本組入れの有効性が争われていたのであって,現実に1年経過前であった当該事案において,利息の元本組入れが認められないという結論を導くには,これで充分な判示であったわけでしょう。)。

とはいえ,1年が経過したら利息を元本に組み入れることができるのかどうかという点については,我妻説的には「1年分の利息を催告なしに組み入れて計算してよい。その限りで特約の効力を認むべきだからである」ということですから,肯定されるのでしょう。調査官解説も「原判決が述べるように,240万円の債権については,すでに約定利率が制限利率をこえているから,予約は制限利率に引き直された利率により単利計算をした1年分(昭3183日から同3282日まで)を元本に組み入れる限度で特約が働き,その後弁済期である同33531日までは1年に満たないから制限利率による単利計算の額を加えうるにとどまる。」と述べています(吉井213頁)。

しかし,我妻説において「但し,2年の後に請求する場合には,1年分の利息を催告なしに組み入れて計算してよい。その限りで特約の効力を認むべきだからである」とある部分の適用を,1年ずつということについて過度に限定的に考える必要はないのではないでしょうか。利率が上限利率である貸付けにおいて最終的に元本の弁済期が到来したときは,その時が直前の利息組入れ期又は当初貸付時から1年が経過する前であっても,筆者としては,「特約の効力」を認めてよいように思われます(最判昭和45421日の事案については,最後に組入れ手続のされた昭和33531日の日は各債権の弁済期であったことが,最高裁判所によっても認められています。)。この点については,前稿「(結)起草者意思等並びに連続複利法及び自然対数の底」の52)において御紹介した「日本近代法の父」ボワソナアドの見解,すなわち,旧民法財産編3941項に関する「法はそれについて述べていないが,最終的な形で(d’une manière finale)利息が元本と共に履行期が到来したもの(exigibles)となったときには,当該利息は1年分未満であっても,総合計額(la somme totale)について,請求又は特別の合意の日から利息が生ずる,ということが認められなければならない。返還期限又は支払期限が1年内である(remboursable ou payable avant une année)貸金又は売買代金に関する場合と同様である。これらの場合においては,債務者は,この禁制がそこに根拠付けられているところの累増の危険にさらされるものではないからである。」との見解が筆者を援護するものでしょう。利息制限法からする組入れ利息額の制限については,1年未満の期間については期間比例的に額を考えればよいはずです(通常の利息計算自体はそうされています。)。(ああ,心ならずも判例にケチをつけてしまった。)

 

(2)原審・東京高等裁判所昭和431217日判決に関して(及びニセ石田説再構成)

 最判45421日の事案における債権のうち,240万円の口の処理(これは上告論旨の対象となっていないものと判断されています。)及び1200万円の口のそれの是非が,筆者を悩ましています。

 まず,「昭和3181日付契約書によ」るものとされていながら,両口の貸付けについて現実に出捐がされたのは,昭和3183日であり同「日(ママ)前は利息を生ずる余地がない」もの(なお,民法5892項参照)と原審の東京高判昭和431217日によって認定されているところが,最初から少々いやらしかったところです(民集244338-339頁)。

 次に,「2箇月ごとの手形の満期日に利息を支払つて手形を切り替えて行くことにした」とされていますが,手形の満期日(利息の支払期)は精確に2箇月ごとではありませんでした。利息発生開始日である昭和3183日の後の各利息支払期は,同年930日(59日分),同年1130日(61日分),③昭和32131日(62日分),④同年331日(59日分),⑤同年531日(61日分),⑥同年720日(50日分)及び⑦同年920日(62日分)並びに⑧同年1120日,⑨昭和33131日,⑩同年228日,⑪同年331日及び⑫同年531日であったものと原審によって認定されています(民集244339頁)。

 約定利率については,240万円の口については前記1記載の判決文のとおり一貫して年36.5パーセントでしたが,1200万円の口のそれは,当初は年10.95パーセントだったものが,昭和32721日から年14.6パーセント(民集244339頁),同年921日から年18.25パーセント,同年1130日から年29.2パーセントへと変化しています。

 上記の利率のうち,年15パーセントを超えるものは利息制限法上の上限利率年15パーセントに引き直されるので(同法13号),ある意味分かりやすいところです。また,年10.95パーセントであれば,連続複利法でも1年後には元本は1.1157倍強(=e^0.1095)にしかなりませんので,利息制限法上の最低上限利率の年15パーセントを超えることはなく,同法上の問題を起すことにはなりません。しかし,年14.6パーセントは厄介です。組入れ間隔均等の年6回組入れで1年後に1.155175倍,同様の年2回組入れでも1年後に1.151329倍になってしまいます。いずれも上限利率年15パーセントに係る1.15倍を超えるものです。

 さて,筆者を悩ましている240万円及び1200万円の両口の処理に係る問題は3点ありましたが,そのうち,昭和32921日から元本弁済期の昭和33531日までの分の利息の組入れがされなかったことについては,既に前記(1)の最終段落で触れたところです。残っているのは,第1に,東京高等裁判所は,240万円の口について昭和3183日からきっかり1箇年経過時の昭和3282日限り単利年15パーセントでの利息36万円を元本に組み込んでいるが,その時点で利息の元本組入れを行う法的根拠は何か(その時点で利息の元本組入れをする旨の当事者の合意はありません。),第2に,上記のように剣呑な利率である年14.6パーセントの割合での利息62日分を当該62日経過時にあっさり元本に組み入れているが,それは許されるのか,という問題です(利率年14.6パーセントで2箇月ごとに利息を元本に組み込んでいけば,「1年につき」利息制限法所定の制限利率年15パーセントをもって計算した元利金合計額の範囲を超過する結果になることは,前記のところから明らかでしょう。)。

 前者については,民法405条に拠ろうにも同条は1年分以上といっているのできっかり1年分で組入れを行う理由付けには利用できないでしょうし,利息制限法は利息組入れを制限することはあっても積極的に根拠付けるものではないでしょう。1年経過以後最初の合意による利息組入日である昭和32920日での組入れではいけなかったのでしょうか(なお,計算上,昭和3282日組入れの場合における昭和33531日経過時の元利金合計額は3102542円であるのに対して,昭和32920日組入れの場合は310万円0316円となります。上告人としては,東京高等裁判所による2226円分の温情を感じていたかもしれません。)。

 後者については,東京高等裁判所は「1200万円〔略〕の〔略〕口につき日歩3銭〔年10.95パーセント〕或いは4銭〔年14.6パーセント〕の率により昭和32920日迄になされた大体2ヶ月毎の重利の約束による利息の元本組入れは,その結果が利息制限法の制限利率年15分〔略〕の率により単利計算した結果の範囲内であるから,有効と解すべきであるが,昭和32921日より日歩5銭〔年18.25パーセント〕と改訂された以降の前記利率の定めは利息制限法による前記制限利率を超える部分は無効であり,かつ,これらの率により昭和33531日迄になされた前記重利の約束による利息の元本組入れは,右改訂時から1年を経ていないから,利息制限法の関係で,これについて効力を認める余地がないものとするのが相当である」と判示しているところです(民集244340-341頁)。昭和32920日経過時の組入れ後元本額は13654663円ですが(民集244341頁・362頁),この額は昭和3183日から年15パーセントの利率で149日間分単利計算した場合の元利金合計額14041463円を下回るからよいのだ,ということのようです。しかし,利率年15パーセントである240万円の口については厳格に守られた端数なしの1箇年の区切りが,1200万円の口に係る利率が年15パーセント未満の期間については弛緩してしまっているようでもあります。(とはいえ実は,1200万円の口について機械的に1箇年の区切りを厳格に適用すると問題がありました。1200万円の口は,元本出捐日から1年経過時(昭和3282日経過時)において,組入れ済み元本額13324223円であったのですが(民集244362頁。なお,弁済期が未到来であるその時までの(利率年14.6パーセントの)利息分69285円との合計は13393508円。これは,利息制限法13号の上限利率である年15パーセントで単利計算をした算出額1380万円を優に下回ります。),当該元本額につき同月3日から年15パーセントの利率で単利計算をすると,元本弁済期の昭和33531日までの302日間には利息が1653663円つき,同日終了時の元利金合計額は15047171円となるはずでした(ちなみに,元本額13393508円で計算しても,15055770円)。ところが,現実に東京高等裁判所が認めた昭和33531日終了時の元利金合計額は15074373円であって(昭和32920日の組入れ後の元本13654663円及びこれに対する同月21日から昭和33531日まで253日間における年15パーセントの割合の利息1419710円の合計額),昭和3283日基準の利息制限法準拠上限額を27202円(又は18603円)超過していたのでした。1年きっかりの期間で区切って計算して見てみると,実は利息制限法違反の高裁判決に最高裁判所がお墨付きを与えていたのではないか,ということになってしまうのでした。)

東京高等裁判所の採用した理論を筆者なりに忖度してみましょう。

まず,同裁判所は,適用されている利率が利息制限法上の上限利率未満である場合と上限利率そのものである場合とを分けて処理するもののようです。

利息制限法上の上限利率未満の利率で発生する利息に係る元本組入れは,それを認めた上,その結果については――その間利率の変動があっても――通算し(実は最後まで通算せずに各1年経過以後最初の組入れ期で区切るのかもしれませんが,一応区切らずに通算するものと考えます。少なくともきっかり1年で締めるとまずいことになったのは,前記のとおりです。),これと,最初の元本額について利息制限法上の上限利率によって単利計算をし,かつ,1年ごとに元本組入れ(判決文には,単利計算をしつつも各1年経過時には元本組入れをするとは書かれていませんが,民法405条との関係で,1年ごとの元本組入れは必要でしょう。ここは正に筆者の忖度です。)をした結果たる元利金合計算定額(面倒ですから,以下「1+405条基準元利金合計額」といいましょう。)との比較を事後的にして,当該1+405条基準元利金合計額を超過していない限り有効とするのでしょう(しかし,超過した場合にはどう処理するのかははっきりしていません。本件の場合は結果オーライでしたが,厄介な問題です。むしろ,あらかじめ超過の結果が発生しないような仕組みにしておくべきもののようです。)。

利息制限法上の上限利率で発生する利息については,1年ごとの元本組入れしか認めないこととしているわけなのでしょう。しかし,上限利率も上限利率未満の利率も利息制限法上はいずれも適法な利率であるのに,利息の元本組入れの場面では取扱いが異なるのは奇妙ではあります。

以上のような筆者の諸小疑問にかかわらず,「延滞利息を元本に組み入れる重利の予約と利息制限法との関係に関する基本的なルールは既に確立されている状況にあると言ってよい」そうです(金融法委員会8頁)。所詮小疑問は小疑問にすぎず,「基本的なルール」は金甌無欠なものとして厳然と確立しているのでしょう。(なお,当該「ルール」の一環として,金利制限法規の適用において制限基準となる(それを超えてはならない)元利金合計額は,単純な単利計算に基づくものではなく,1+405条基準元利金合計額となるのだ,ということもあるものでしょうか(最判昭和45421日の射程に関する金融法委員会11-14頁参照)。)

 適用利率が上限利率である場合には1年未満の間隔での利息の元本組入れを一切認めないのは,1+405条基準元利金合計額を上回る額の組入れ後元本額(と既払利息額との合計額)の発生をもたらすこととなる余計な利息の発生をあらかじめ抑えるためなのでしょう。しかし,そうであれば,当該事前予防的効果を得るためには,組入れを制限するよりも,端的に利息自体の発生が制限されるものとする解釈を採用する方が,筆者には分かりやすいところです。上限利率が適用される場合でもそれ未満の利率が適用される場合でも,約定どおりの時期に不払利息の元本組入れを認めることとするが,その結果の組入れ後元本額と既払利息額との合計額が当該時点における1+405条基準元利金合計額を上回ることとなる場合には,(事後的に制限超過状態が発見されてしまってその修復処理を――改めて理論構築しつつ――することとなる面倒を避けるために)その都度,超過をもたらす分の利息はそもそも発生しなかったものとする(あるいは発生することに執着がされるのならば,「裁判上無効」でもよいでしょう。),というような解釈論の展開がされるわけにはいかないものでしょうか。(なお,その都度処理が望ましいことに関しては,利息制限法は「単に制限超過の利息契約(●●)をなすことを制限するに止まらず,制限超過の利息の生ずる法律(●●)状態(●●)そのものを禁圧する趣旨と解し,遡及効を認めなくとも,なお改正後における利息の発生を制限すると解するのが正当」と,利息制限法改正の際の法の適用関係に関して説かれてもいるところです(我妻51頁。下線は筆者によるもの)。ただし,経過規定の定めがなかった大正8年法律第59号による旧利息制限法の改正の際,判例は,「法律不遡及の原則」を理由として「大正7年中の契約により2000円につき12分の利息を生じているときに大正8年の改正があっても1割に制限されない(大判大正10523957頁)」としていたそうです(同頁)。しかし,当該前例にかかわらず,現行利息制限法附則4項は「この法律の施行前になされた契約については,なお従前の例による。」との明文規定を設けています。)

ちなみに,上記解釈論は,前記33)エのニセ石田説の修正版ということになりましょう(ということで,石田真説の孫だと思ってもらえば,全くの荒唐無稽の説ということにはならないでしょう。)。すなわち,その弁済期にちゃんと支払われていた利息についても忘れずに考慮に入れることとし,制限基準を純粋単利の「最初の元本に対する最高制限利率による〔貸付時からその時点までの〕利息の額」から1+405条基準元利金合計額に改め,利息の元本組入れに係る複利契約の効力を失わせるまでのことはしないこととし,「爾後は,約定利率の如何に拘わらず最初の元本に対する最高制限利率に依る利息が発生する」を「当該時点における1+405条基準元利金合計額を上回ることとなる場合には,その都度,超過をもたらす分の利息はそもそも発生しなかったものとする」と改める,というわけです。

 念のため検算すると,昭和3183日に貸付けられた1200万円について,昭和33531日経過時の1+405条基準元利金合計額は15512712円となります(=12,000,000×1.15×1+0.15×302÷365))。1200万円の口に係る昭和33531日経過時の現実の元利金合計額は,東京高等裁判所によれば,前記のとおり,元本13654663円及び利息1419710円の合計15074373円です。当該合計額について見れば,1+405条基準元利金合計額との関係はもとより問題ありません。ただ筆者としては,元金合計額ではなく,すっきりと元本額15074373円ということでもよかったのではないか,と(今年20231115日が来日150周年となるボワソナアドと共に(というProjet解釈(前記(1)最終段落参照)でよいのですよね))思うばかりであるところです。

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(上):はじめに並びに連続複利法の場合の収束値及び旧判例

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3 大判昭和11101日並びに山中評釈及び我妻説

最判昭和45421日の先駆とされる判例が,大審院第一民事部の昭和11101日判決(民集15221881頁)です。

最判昭和45421日について「本判決が右の学説の見解によったものであることは,その判文によって明らかである」といわれる場合の「右学説」は,大判昭和11101日に関する山中康雄・判民昭和11年度127事件評釈及びそれを承けた我妻榮の学説でした(吉井212頁及び216頁(注6))。

 

(1)大判昭和11101

 

ア 事案及び判示

大判昭和11101日の事案は,山中評釈によれば次のようなものでした。

 

  X(原告・控訴人・上告人)はY(被告・被控訴人・被上告人)先代に対し大正131217日より昭和673日に至る間数回に金3005010050300円を貸渡し利息を月15厘〔年18パーセント〕と定め,毎年12月末日之が支払なきときは夫々元本に組入るる旨の複利契約を為して居たのであるが,Xが先代死亡に因る家督相続を為したYに対して,右利率を〔旧〕利息制限法2条所定の利率〔元本50円の口は年15パーセント,300円及び100円の口は年12パーセント〕に引直し複利計算を為したる元利金の支払を訴を以て請求して来たのが本件である。所が一審二審共に,元本に利息を組入れ複利計算を為すべき場合と雖其の結果元本に組入れられたる利息及之に対する利息の合計額が最初の元本に対する関係に於て利息制限法の制限利息を超過するときは其の部分は無効なりとして,結局,最初の元金に前記各貸借成立の時より右制限利率に依る利息を加へたる金額の範囲に於てのみ,Xの請求を認容したに過ぎなかつた。そこで,Xは尚,制限内利(ママ)に依る複利計算の為さるべきことを要求して,上告を試みた。要するに,消費貸借に於て一定の弁済期に利息を支払はざる場合には之を元本に組入れ更に利息を生ぜしむべき旨を約した複利契約は,其の利率が利息制限法2条に定むる制限を超過せざる限り同法に抵触するものでは無く,之を有効と認むべし,と為す抽象論に関する限りは原審も又上告論旨と一致するのであるが,右の「利率が利息制限法2条に定むる制限を超過するか否か」に関して,右の有効なる複利契約に基き元本に組入れられたる利息及び之に対する利息を加へたる合算額が本来の元本自体に対する関係に於て利息制限法の制限利率の範囲を超ゆる結果を生ずる場合に,之を利息制限法2条に抵触すると見るべきか否かに関し,原審は之を肯定するに対し,上告論旨は否定する見地に立つのである。大審院は上告を容れて原判決を破毀差戻した。(480-481頁)

 

 大判昭和11101日は,次のとおり判示しています(原文は濁点及び句読点なし。)。

 

  按ズルニ,消費貸借ニ於テ一定ノ弁済期ニ利息ヲ支払ハザル場合ニハ之ヲ元本ニ組入レ更ニ利息ヲ生ゼシムベキ複利契約ハ,其ノ利率ガ利息制限法第2条ニ定ムル制限ヲ超過セザル限リ同法ニ抵触スルモノニアラズシテ有効ナリト解スルヲ相当トス(大正6年(オ)第510号同年88日当院判決)。尤モ複利契約自体ガ利息制限法ノ規定ヲ潜脱セントスル目的ニ出デタルモノト認ムベキ場合,例ヘバ利息組入ノ時期ヲ短期トナシ年数回ノ組入ヲ為スコトヲ約スルトキノ如キハ之ヲ無効ト解スベキハ論ヲ俟タズ。而シテ右有効ナル複利契約ニ基キ元本ニ組入レラレタル利息及之ニ対スル利息ヲ加ヘタル合算額ガ本来ノ元本自体ニ対スル関係ニ於テ利息制限法ノ制限利率ノ範囲ヲ超ユル結果トナルモ,之有効ナル複利契約ノ当然ノ結果ナレバ之ヲ認容スルノ外ナキモノトス。本件消費貸借ニ於テモ上告人〔X〕ガ被上告人〔Y〕ニ対スル貸金債権ノ利息ニ関シ原審認定ノ複利契約ニ基キ貸金元本ニ対スル利息制限法ノ利率ニ依ル利息(元本ニ組入レラルルモノ)ニ対シ更ニ同一ノ利率ヲ以テスル利息ヲ加算シタル結果ガ本来ノ元本ニ対スル関係ニ於テ制限法ノ利率ニ超過スルニ至ルモ,其ノ超過部分ハ法律上効力無キモノト謂フベカラズ。原審ガ,右ト反対ノ見解ニ基キ,元本債権ニ対スル利率ガ既ニ制限法ノ利率ナルトキハ複利契約アルモ結局元本ニ対スル右制限率以上ノ利息ノ支払ヲ求ムルヲ得ザルモノト判定シタルハ,利息制限法第2条ノ趣旨ヲ不当ニ厳格ニ解釈シタル違法アルモノニシテ破毀ヲ免レズ。

 

イ 利息の弁済期に関する問題

 ところで,山中評釈における事案説明を見ても利息の弁済期日がはっきりしないので(月当りの数字でもって利率が表現されていますから,1箇月ごとということでもありそうです。),大審院民事判例集15221882頁にある「事実」を見てみるのですが,そこでもやはり「利息ヲ月15厘ト定メ毎年12月末日之カ支払ナキトキハ夫々元本ニ組入ルル旨ノ複利契約」とあります。「12月末日」に元本組入れがされることは分かりますが,当該利息の支払期日はそれより前に既に到来していてもよいはずです(民法405条参照)。上告人の上告理由には「利息月15厘其ノ支払期毎年12月末日右期日ニ利息ヲ支払ハサルトキハ之ヲ元本ニ組入レ更ニ月15厘ノ利息ヲ附スル約ニテ」とあるのですから(同号1883-1884頁),そうであるのならばそのとおり利息の「支払期」たるものとしての「毎年12月末日」を明示してくれればよかったのに,一体どうしたことでしょうか。

 そこで,原審札幌控訴院の判決(民集15221889-1893頁)を見てみると,同控訴院の事実認定は,「控訴人〔X〕カ弁済期及利率ヲ其ノ主張ノ如ク〔弁済期は「定ナク」,利率は「月15厘」〕約シテ〔略〕各金員ヲ被控訴人〔Y〕先代〔略〕ニ貸渡シタルコトハ当事者間ニ争ナク」,かつ,「成立ニ争ナキ甲第1,第3号証並原審〔第一審の札幌地方裁判所〕ニ於ケル被控訴人〔Y〕本人ノ供述ニヨレハ利息ハ毎年末之ヲ計算シテ元本ニ組入レ更ニ月15厘ノ利息ヲ附スル約ナルコトヲ認ムルニ足ル」ということであって,利息については「毎年末之ヲ計算シテ元本ニ組入レ」るところまでは認定されていますが,「支払期毎年12月末日」であるのだとのXの主張までは採用されていません。同控訴院は「然レトモ元本ニ利息ヲ組入レ複利計算ヲ為スヘキ場合ト雖ソハ利息制限法ノ制限範囲ニ於テノミ有効ニシテ若シ制限法ノ利率ヲ超過スルトキハ該超過部分ハ効力ナキモノ」と述べていますが,ここでは専ら複利計算の場合における利息制限法の適用がどうあるべきかが問題になっているものでしょう。大審院は,「一定ノ弁済期ニ利息ヲ支払ハサル場合ニハ之ヲ元本ニ組入レ更ニ利息ヲ生セシムヘキ」ものたる複利契約の存在を前提として,当該契約がある場合の利息制限法の適用問題を論じたわけですが,札幌控訴院は,「毎年12月末日」は利息に係る当該「一定ノ弁済期」ではなく,複利計算上の区切りの日とのみ認定していたようにも思われます。

札幌控訴院は,元本弁済の時に初めて利息の弁済期も到来するものと解したものでしょうか。「当事者の意思表示,元本債権の性質,取引上の慣習などから,利息債権の弁済期を明らかにすることができないときは,利息債権の弁済期は元本債権の弁済期と同一であると解すべきであろう(勝本〔正晃〕・上248,小池隆一「利息債権」民法法学辞典(下)(昭352085)。」とされているところです(奥田昌道編『新版注釈民法(10)Ⅰ債権(1)債権の目的・効力(1)』(有斐閣・2003年)344頁(山下末人=安井宏))。当該解釈が採用され,利息の弁済期が元本の弁済期とされた場合,元本と同時にではなく,利息だけ先行して弁済できるかどうかがここでは問題になります。民法1362項ただし書は,期限の利益の放棄によって「相手方の利益を害することはできない」と規定していますが,ここでの「相手方の利益」に,元本弁済時までの期間における「利息の利息」収入を含めてよいものかどうか,という問題です。「旧法〔平成29年法律第44号による改正前の民法〕の下においては,民法第136条第2項を根拠に,利息付きの金銭消費貸借において,借主が弁済期の前に金銭を返還した場合であっても,貸主は,借主に対し,弁済期までの利息相当額を請求することができると解するのが一般的であった」ところです(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務・2018年)299頁(注))。

利息の先行弁済が許されない(債権者に受領の義務がない)場合に関しては,「利息の弁済期が到来しても債権者に受領の義務はなく,当然その利息を元本に組み入れ,〔元本の〕弁済期において元利を支払うというような特約では,――各期の計算上の額は利息と呼ばれただけで――最初の元本に対して弁済期に支払われるべき余分額が真の意味の利息であるから,この数額について利息制限法を適用すべきことはいうまでもない。」とされているところです(我妻Ⅳ・46-47)。このような思考が,札幌控訴院の判決が前提とするところだったようにも思われます(ただし,大審院は,札幌控訴院の判決について,「元本債権ニ対スル利率カ既ニ〔利息〕制限法ノ利率ナルトキハ複利契約〔筆者註:利息の弁済期(及びその際における債権者の受領義務)の存在を前提とします。〕アルモ結局元本ニ対スル〔単利計算による〕右制限率以上ノ利息ノ支払ヲ求ムルヲ得サルモノト判定シタル」ものと理解しています。しかし,当該「判定」に係る理論は,札幌控訴院の判決においてその旨そこまで明示されていたわけではありません。)。

ところで,大審院は「原審認定ノ複利契約」と判示しています。札幌控訴院の認定し得た事実をもって,十分に複利契約の存在を認定できるということのようです。元本弁済前でも,貸主には利息受領の義務があったということになるのでしょう。利息の計算が云々される以上,そのときには元本とは別個のものとしての利息が存在することになるのだから,貸主に受領義務のないことが特約されていない以上,その際借主が当該利息のみを支払い得ることは当然であるというわけでしょうか。(また,そもそもXYの先代間との消費貸借には返還の時期の定めがなかったことも大きいのでしょう。借主がいつでも元本を返還できる以上,貸主は利息ないしは「利息の利息」をもってその既得権益視することはできません(民法1362項ただし書に関しては「例えば定期預金の預り主(銀行)も,期限までの利息をつければ,期限前に弁済することができる(大判昭和9915日民集1839頁〔略〕)。」と説かれていたところです(我妻榮『新訂民法総則(民法講義Ⅰ)』(岩波書店・1965年(1972年補訂))422頁。下線は筆者によるもの)。反対解釈すれば,定期預金でなければ,期限までの利息をつけて返還云々ということにはならないことになります。)。当該利息の弁済期限が元本の弁済期であるとしても,当該期限は債権者の利益のためのものとはいえないことになるでしょう。そうであれば,債務者は自己の期限の利益を放棄して元本の弁済期より前に利息を支払うことができることになるわけです。その際「相手方が損害を蒙るときは,その賠償をなすべきもの」とされてはいるものの(我妻Ⅰ・422頁),貸主は余計な苦情を言うべきものではない(賠償されるべき損害はない。)と解されるのでしょう。)。「一定ノ弁済期」といっても,債務者の弁済義務までは必要ではなく,その際利息を弁済できるということであればよいようです。


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旧札幌控訴院庁舎(札幌市中央区大通公園)

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旧札幌控訴院の正義の女神は丸顔ですね。また,「札幌控訴院」の文字(右から左へ横書き)も丸まっこく,モダンです。1926年竣工という時代の雰囲気を感じさせます。


ウ 「利息制限法ノ規定ヲ潜脱セントスル目的」による複利契約の無効に関する問題

しかし,大判昭和11101日に係る最大の解釈問題は,「尤モ複利契約自体カ利息制限法ノ規定ヲ潜脱セントスル目的ニ出テタルモノト認ムヘキ場合例ヘハ利息組入ノ時期ヲ短期トナシ年数回ノ組入ヲ為スコトヲ約スルトキノ如キハ之ヲ無効ト解スヘキハ論ヲ俟タス」との判示部分をどう理解するか,です(以下,当該判示部分を「昭和11年大判傍論」といいます。)。

 

(ア)石田文次郎による批判

石田文次郎(判批)・民商55345頁以下は,昭和11年大判傍論の存在ゆえに,当該判決におけるそもそもの本論部分についてまで,大審院の「見解の全幅的妥当性が疑はれねばならぬ」ものとなると痛論しています。

いわく,「元本(組入元本も含む)に対する利率が利息制限法に抵触しない限り,複利契約は有効と為す〔筆者註:ここの引用では,そう「為す」理論を以下「本論」といいます。〕のであるから,其の場合に当事者の目的を探究して複利契約を無効と解すべき余地は全然存在しないわけである。〔略〕60日の期限を以て手形により金を借りた場合には,年6回の利息の組入は現代に於ける取引上通常に行はれてゐる所である。然らば,毎月利息を元本に組入れらるべき複利(ママ)は,(ママ)利息制限法の規定を潜脱せんとする目的に出でたものとして,無効と解すべきか。私は大審院の如き見解に於て之を無効とすべき理由を発見し得ない。斯る複利契約を無効とせんとする考方は,既に〔本論〕の見解と矛盾し,それは〔本論〕の見解を棄たことを意味する。大審院が〔本論〕の見解を採りながら,其の見解と矛盾する但書を附けねばならぬ所に,其の見解の全幅的妥当性が疑はれねばならぬのである。」と(石田350頁)。

大審院は,蛇足👣ゆえに石田文次郎に噛みつかれる藪蛇🐍状態となったというわけです。(なお,1892年生まれの石田の干支は,巳ではなく,辰🐉です。)

確かに,次の利息弁済期到来までの期間が短く,利息弁済期が年数回到来する場合,例えば100万円を利率年15パーセント(利息制限法13号の上限利率)で貸し,かつ,年2回以上利息の弁済期が到来するものとした上での重利の予約は,直ちに「利息制限法ノ規定ヲ潜脱セントスル目的ニ出テタルモノト認ムヘキ」ものではないでしょう。なるほど,約定されたとおりに利息が支払われない場合,半年複利であれば1年経過後の元金は1155625円となってしまって,単利計算による元利金合計額115万円を5625円超過します。しかし,重利の予約だからとて債務者がその利息支払債務の履行を当然妨げられるということがお約束であるわけではなく,約定どおり利息支払期の都度きちんきちんとその弁済をしていけば,元利金支払合計額は単利契約の場合と同一になるはずですし,こちらの方が普通でしょう。

 

(イ)年複数回の利息組入れを有効とする前例

なお,大判昭和11101日が前例として引用する大審院大正688日判決(民録231289頁)は,6箇月ごとに(換言すれば,年2回)利息の元本組入れがされた事案であったようで,したがって,大判昭和11101日の段階で既に「年数回ノ組入ヲ為スコトヲ約スル」ことのみからは直ちに当該複利契約の無効はもたらされないものであるところでした。

すなわち,大判大正688日は,「金200円ニ金1円ニ付キ1个月12厘ノ割合〔利率年14.4パーセント〕ノ利息ヲ附シ期限ニ其支払ヲ延滞シタルトキハ之ヲ元金ニ組入レ同一利率ノ利息ヲ附スヘク尚ホ支払ヲ延滞シタルトキハ6个月毎ニ元金ニ組入レ更ニ同一利率ノ利息ヲ附スヘキコトヲ契約シタルハ有効ナル旨判示シタルハ相当ナリ」と判示しているところです(民録231292頁)。ただし,大判大正688日の時点における元本200円の場合の利息制限法上の上限利率は年15パーセントであったところ,年14.4パーセントの利率で半年ごとに利息の元本組入れを行っても1年後の元本額は当初元本額の1.149184倍にしかならず(=1.072^2),年15パーセントでの単利計算による元利金合計額に係る1.15倍にはなお及ばなかったところです。

大判大正688日が更にその前例とする大審院明治44510日判決(民録17275頁)も,「当事者間ノ契約ハ利子ヲ金1円ニ付1个月金12厘宛〔利率年14.4パーセント〕ト定メ6个月毎ニ支払フヘク之ヲ怠リタル場合ニ元金ニ組入ルル」元本659円(利息制限法上の上限利率は年15パーセント)の消費貸借の事案に係るものでしたが,この場合,元本額は当初(190311日)の659円から8年たった19101231日の経過時(半年当り7.2パーセントの利率で16回(=8年間×2)回ったことになります。)には1345円余増加して2004円余となっていたわけであるところ(=659×1.072^16)),当初の元本以外については「利子ニ利子ヲ附シ請求」する「利子」の請求が債権者からされているものであって,かつ,当該請求「利子」額は利息制限法上の上限利率によって認められるものを超過しているとの理由による債務者からの上告(ただし,元本659円に対する利息制限法上の上限利率年15パーセントでの単利8年分の利息79080銭(元利金合計144980銭)までであれば支払を受け容れるのでしょう。)は「元来当事者カ延滞利子ヲ元金ニ組入レ将来之ニ制限内ノ利息ヲ附スルノ契約ヲ為スハ違法ナリト云フヘカラス何トナレハ利息ノ性質ハ契約ニ因リ既ニ元金ニ変更シタルヲ以テ利息制限法ニ違背スルモノニアラサレハナリ」との判示がされた上退けられています(なお,上告理由では,債権者の請求において当初元本額に加算された金額(いうところの「利子」の額)は1345円余ではなく「1441円余」であるものとされています。誤記でしょうか,計算違いでしょうか,それとも他に理由があるのでしょうか。)。

 

(ウ)他人の無思慮・窮迫に乗じて不当の利を博する行為となるか否か

ところで,最初から各利息弁済期における利息の弁済が全く想定されない場合とはどのようなものかと考え,更にその場合における問題性を探ってみれば,複利契約の不当性は,弁済能力のおぼつかない危険な借主との間で,当該リスクに応じた高利率をも超える利率(これは,利息制限法上の上限利率を超えたものとなるというわけでしょう。)を実質的に実現すべく行なわれることにあるのである,ということになるのでしょうか。そうであれば,「他人の無思慮・窮迫に乗じて不当の利を博する行為」(我妻Ⅰ・274-276頁参照(同書275頁は,当該行為の規制の一環として「金銭の消費貸借については,利息制限法の制限がある」と述べています。))であるとまで評価されるのであれば,当該契約は無効となるのでしょう。

しかし,利率年15パーセントの場合,連続複利法によっても1年後の元本額は当初元本の約1.1618倍にしかならず,1年間全く利息を支払わない危険な債務者に対するリスク・プレミアムとして十分かどうか,「利息制限法ノ規定ヲ潜脱」云々と言って騒ぎ立てるべきほどのものかどうか,という点については,既に前記2において感想を述べ置いたところです。また,年に1度まとめて利息を支払わされるよりも,数度(「年数回」程度)に分割して支払うこととする方が,債務者にとってかえって優しい,ということにもならないでしょうか。

 

(エ)支払の遅滞を条件としない利息の元本組入れを対象とするものか否か

あるいは,昭和11年大判傍論では「利息組入ノ時期」が問題とされ,利息弁済の時期は問題とされていないところから,利息弁済期が年1回(大判昭和11101日の事案におけるXの主張であり,大審院もそのように認定しているわけです。)しかないのに,当該弁済期に係るもの(「①利息の支払を遅滞することを条件として,これを元本に組み入れる場合」(奥田編361頁(山下=安井)))のほか,弁済期未到来期間中における,債務者に弁済の機会がない利息に係る元本組入れ(「利息の遅滞を条件とせず,利息が発生したときは当然に元本に組み入れる場合」(奥田編361頁(山下=安井)))が更にされる場合が問題にされている,とは考えられないでしょうか。大判昭和11101日の事案では約定利率が利息制限法上の上限利率を超えていたため裁判上は当該上限利率で計算するものとなっていたところ,確かに,上限利率は1年当りのものなので,年2度以上の利息の元本組入れがされてしまうと直ちに当該上限を超過してしまう計算になります。しかし,債務者にその弁済の機会を与えずに利息の元本組入れがされることを約することまでをも「複利契約」といったのでしょうか,大審院は「弁済期ニ利息ヲ支払ハサル場合ニ」云々と述べていたはずです(ただし,奥田編361頁(山下=安井)は,上記①及び②のいずれも「いわゆる重利の予約」であるものとしており,吉井215頁(注2)も「利息の弁済期が到来しても債権者に受領の義務がなく,当然に利息分の金額を元本に組み入れ,元本の弁済期に元利金を支払うことを約する場合」を「重利の予約の他の形態」としています。)。

 

(オ)小括

 以上要するに,昭和11年大判傍論については,「しかし,このような概括的な基準を設定することは必ずしも賢明な方法とはいえない,〔略〕どの程度の期間,回数ならよいかが問題になるし,回数だけでは判定できず,利率との関係,さらに貸借の具体的事情も考慮すべきは当然であるから,その判定は困難であり,基準は不明確といわざるを得ない。このようなことは金融取引の実際面からみても望ましいことではない。」という厳しい評価が後輩裁判官から下されていました(吉井212頁)。

 

(2)山中評釈

山中評釈の説の特徴は,昭和11年大判傍論を解釈するに当たって「〔民法〕405条の1年の要件を強行規定と解する」ことと評されています(我妻47)。

山中評釈を見ると,「蓋し元金300円,利息月1〔年12パーセントとなり,当該元本額に係る当時の旧利息制限法2条における最高利率〕の複利契約の存する場合,法定重利に(イ)〔「利息が1年分以上延滞せること」との民法405条〕の要件存在せざるものと仮定せる場合には,右〔筆者註:昭和11年大判傍論にいう「年数回ノ組入」,ということでしょう。〕に付き〔旧〕利息制限法2条の「年」の文字に力点を置き右を無効と解することは困難であり,延いて約定重利に於いても之を有効と解せざるを得ぬと思はれる」と述べた上で(484頁),「(イ)の要件を設くる事により法定重利に於ては,1箇年につきて,利息制限法所定の制限利率以上の利息をあげ得ざる効果に関しては,我が民法が重利を認める上について示した最小限度の制限として,約定重利についても之を認むべきものと私は考へる」ものとされています(485頁)。

すなわち山中説は,「利息組入の時期を短期となし年数回の組入をなすことを約する」ときのごとき場合においては,「法定重利の場合に実現し得べき結果と同一に於て――蓋し,その限度に於てのみ民法は重利を容認したと解すべきを以て――即ち組入れられたる利息並に其れより生じたる利息の合算額が元本に対する関係に於て1年に付き利息制限法の制限利(ママ)を超ゆるを得ず〔筆者註:最判昭和45421日では「同法所定の制限利率をもつて計算した額の範囲内にあるときにかぎり,その効力を認めることができ」〕,若し之を超ゆる場合には之を制限利率に引直して計算せらるべきものと考へる。私は右述の如き趣旨に於いて理論は異にするが尚判旨の結論に賛成したいと思ふ。」というものです(山中485頁)。大判昭和11101日の結論に賛成というのは,当該事案においては,利息制限法上の上限利率によることになるのではあるが利息の元本組入れがうまいことに毎年12月末日にされる(すなわち,1年ごとにされる)ということによって民法405条の示す「1年分以上延滞」との「最小限度の制限」をクリアすることになっているからだ,ということでしょう(ただし,当該事案においては,11日にされた貸付けはなかったので,厳密にいえば各初回組入れは1年経過前にされたということになるようですが,そういう細かいことを気にするのは筆者のような小人ばかりでしょう。)。

前稿(「(結)起草者意思等並びに連続複利法及び自然対数の底」)で御紹介したとおり,民法起草者たる梅謙次郎は,契約の自由を根拠に(1年未満の短期(「月月」)組入れものを含め)重利をあっさり認めており,かつ,利息制限法の廃止を予期していたのですから,「1箇年につきて,利息制限法所定の制限利率以上の利息をあげ得ざる効果」が「我が民法が重利を認める上について示した最小限度の制限」であるのだ,というのは,立法経緯に即した事実論ではなく,理論的な解釈論でしょう。重利の特約なき場合における債権者保護のための補充規定として想定されていたはずのものが,利息制限法と合して,債務者保護のための強行規定に変じているわけです。しかし,あるいは梅的所論を無視すれば(「梅は,簡単だが示唆に富むコンメンタールを民法全体について書き〔『民法要義』〕,総則,債権総論などについての詳しい講義録も残されているが,早世したこともあって〔1910825日歿〕,その後の民法学への影響はそれほど大きくなかったように見受けられる。〔略〕その再発見は,第二次大戦後,比較的最近といえよう。」と言われていますから(星野英一『民法のもう一つの学び方(補訂版)』(有斐閣・2006年)166頁),1936年の判決に係る評釈が書かれたころには,梅の所論の影響は,確かに事実として「それほど大きくなかった」わけです。),民法405条の前身規定たる旧民法財産編3941(「要求スルヲ得ヘキ元本ノ利息ハ塡補タルト遅延タルトヲ問ハス其1个年分ノ延滞セル毎ニ特別ニ合意シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル為メ元本ニ組入ルルコトヲ得ス」)の趣旨にかなった当然の解釈,ということにもなるのでしょう(なお,旧民法財産編3941項については,前稿「民法405条に関して」の「(承)旧民法財産編3941項」を御参照ください(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258062.html)。)。


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1 はじめに 

 20221222日の前稿「民法405条に関して」の最後(「(結)起草者意思等並びに連続複利法及び自然対数の底」http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258087.html)において,「民法405条と利息制限法1条との関係,具体的には最判昭和45421日の研究が残っています。「最高裁は,年数回利息の元本組入れの約定がある場合につき,組入れ利息とこれに対する利息との合計額が本来の元本に対して〔利息制限〕法の制限利率を超えない範囲においてのみ有効とした(最判昭和45421日民集298頁(年6回組入れをする))。(星野英一『民法概論Ⅲ(債権総論)』(良書普及会・1978年(1981年補訂))19-20頁)」と簡単に紹介されるだけでは済まない難しい問題が,筆者にとって,当該判決及びその対象となった事案にはあったのでした。」などと思わせぶりなことを書いてしまいました。本稿は,当該宿題に対する越年回答であります。

実は,前稿において筆者は当初――その性格にふさわしく――穏健に,判例理論をその妥当性と共にさらりと紹介し,もって行儀よく記事を終わらせるつもりだったのですが,頼りの御本尊である最高裁判所第三小法廷(関根小郷裁判長)は,昭和45421日判決(民集244298頁)において当時の流行学説の口ぶりを安易に採用してしまったもののようでもあって,当該判決において提示されたものと思われる理論を直ちに実地に応用展開しようとすると,少なくとも筆者にとっては,いろいろと心穏やかならぬ問題が生起してしまうのでした。

あらかじめ,最判昭和45421日の関係部分を掲記しておきましょう。

 

   上告代理人谷村唯一郎,同塚本重頼,同吉永多賀誠,同菅沼隆志の上告理由第1点について。

消費貸借契約の当事者間で,利息について定められた弁済期にその支払がない場合に延滞利息を当然に元本に組み入れ,これに利息を生じさせる約定(いわゆる重利の予約)は,有効であつて,その弁済期として1年未満の期限が定められ,年数回の組入れがなされる場合にもそのこと自体によりその効力を否定しうべき根拠はない。しかし,その利率は,一般に利息制限法所定の制限をこえることをえないとともに,いわゆる法定重利につき民法405条が1年分の利息の延滞と催告をもつて利息組入れの要件としていることと,利息制限法が年利率をもつて貸主の取得しうべき利息の最高額を制限していることにかんがみれば,金銭消費貸借において,年数回にわたる組入れをなすべき重利の予約がなされた場合においては,毎期における組入れ利息とこれに対する利息との合算額が本来の元本額に対する関係において,1年につき同法所定の制限利率をもつて計算した額の範囲内にあるときにかぎり,その効力を認めることができ,その合算額が右の限度をこえるときは,そのこえる部分については効力を有しないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみると,原審の確定するところによれば,被上告人〔債務者〕は,上告人〔債権者〕との間で,昭和31年〔1956年〕81日付契約書により譲渡担保の被担保債権合計2140万円(原判示元本1200万円,700万円,240万円の各債権〔利息制限法(昭和29年法律第100号)上の上限利率はいずれも年15パーセント(同法13号)〕)の元利金の支払のため,上告人を受取人とする約束手形を振り出し,2箇月ごとの手形の満期日に利息を支払つて手形を切り替えて行くことにしたが,その後,右利息の支払期(手形の満期日)にその支払がないときは,当然に延滞利息を元本に組み入れる旨の契約(重利の予約)が成立するとともに,後には,その被担保債権に原判示の元本25万円および50万円の各債権〔利息制限法上の上限利率はいずれも年18パーセント(同法12号)〕が加えられ,右同様の約定がなされたものであるところ,右被担保債権のうち,論旨指摘の4口の債権(前記債権のうち240万円の債権を除くもの〔当該240万円の口の債権に係る約定利率は当初から日歩10銭,すなわち365日当たり36.5パーセント(民集244338頁)〕)の利率は,昭和32年〔1957年〕920日までは日歩3365日当たり10.95パーセント〕ないし4365日当たり14.6パーセント〕の約定であつたが,同日,翌21日以降は日歩5365日当たり18.25パーセント〕に,また,同年1120日には,同月30日以降は日歩8365日当たり29.2パーセント〕に順次改定された,というのである。してみれば,右利息の約定は,各債権につき利息制限法による制限利率をこえる限度では無効であるから,昭和32920日にその利率が日歩5銭(年利182厘強)に改定されて後は,上告人は右制限利率の範囲内においてのみ利息の支払を求めうるのであるが,そればかりでなく,右利率改定の結果,重利の約定に従つて2箇月ごとの利息の組入れをするときは,ただちに,その組入れ利息とこれに対する利息の合算額が組入れ前の元本額に対する関係において,1年につき同法所定の制限利率をこえる状態に達したことになり,上告人は,右改定後は延滞利息を重利の約定に従つて元本に組み入れる余地を失つたものというべきである。それゆえ,これと同旨に出て,同32921日以降利息の元本組入れの効果を認めなかつた原判決には,なんら所論の違法はない。

 

 「日歩(ひぶ)」は,「元金100円に対する1日分の利息で表した利率」です(『岩波国語辞典 第4版』(岩波書店・1986年))。

 なお,「〔上告〕論旨指摘の4口の債権(前記債権のうち240万円の債権を除くもの)」ということですから,240万円の債権に係る原審判決(東京高等裁判所第10民事部昭和431217日判決)における処理については上告がされていないものと解されたわけです(したがって,当該債権に係る利率も最高裁判所によっては言及されていませんでした。)。確かに,上告理由第1点においては,原判決中から「昭和33531日迄になされた前記重利の約束による利息の元本組入れは右改訂時(昭和32921日)から1年を経ていないから利息制限法の関係で,これについて効力を認める余地がないものとするのが相当である」と判示する部分が取り上げられ(民集244311頁),「しかし,特約による利息の元本組入れについては1年を経過するを要せず,これより短期に利息を元本に組入れることを約するのは契約自由の原則により有効であることは大正688日第3民事部が同年(オ)第510号貸金請求事件につき判示したところである。(大審院民事判決録第231289頁同抄録16684頁)〔略〕然るに原審判決が1年を経過しなければ利息を元本に組入れることを得ない〔略〕として上告人の請求を斥けたのは法令の解釈適用を誤つた違法がある。」と論じられていますから(民集244312頁。ちなみに,当時は法令違背も上告理由でした(旧民事訴訟法(明治23年法律第29号)394条)。),昭和32921日に利率の改訂がされなかった240万円の口(民集244338-340頁)は上告対象外であるわけです。

 

2 連続複利法の場合の収束値及び旧判例

 連続複利法がとられた場合であってもその結果は拡散せずに収束するので――すなわち,利率年100パーセントでもってあらゆる瞬間に連続的に利息が発生し,かつ,それが元本に組み入れられることとしても,t年後の元本額(利息は各瞬間に発生すると共に元本に組み入れられてしまうので,元本しか残りません。)はではなく,最初の元本額のe2.7183)のt乗(=e^t)倍にとどまり,利率が年Rパーセントであれば,e^rt倍にとどまるので(ただし,r=R/100――明治以来のかつての判例――これは,「右の内容〔「債務者が利息の弁済期に支払をしないとき,その延滞利息を当然に元本に組み入れてさらにこれに利息を付することをあらかじめ約する」〕の重利の予約について,「ソノ利率ニシテ(旧)利息制限法第2条ニ定ムル範囲内ニアルトキハ同法ニ抵触セズ又民法ニ於テ之ヲ禁ズル所ナキヲ以テ契約自由ノ原則ニ依リ有効ナルモノト謂ハザルヲ得ズ」(大判大688民録231289頁,同旨,大判明44510民録17275頁ほか多数)としてその有効性を認めてい」たもの,換言すれば,「組入れ利息とこれに対する利息の合計額が本来の元本に対する関係で利息制限法の制限利率をこえる結果となることを容認し,利率自体が制限の範囲であればよいとする」ものです(吉井直昭「25 年数回の組入れを約する重利の予約と利息制限法」最高裁判所判例解説民事篇(上)昭和45年度210-211頁。下線は筆者によるもの。この吉井解説が,最判昭和45421日のいわゆる調査官解説となります。)――は,実は筆者にとっては納得し得るものでした。利息制限法の規定の数字は単利によるものであっても,連続複利法による場合における数字との幅までをもそこにおいて許容しているものと吞み込んで割り切ってしまえば,確かにそれまでのことであるからです。

 ちなみに,旧利息制限法(明治10年太政官布告第66号)2条の規定は,制定当初は,「契約上ノ利息トハ人民相互ノ契約ヲ以テ定メ得ヘキ所ノ利息ニシテ元金100以下(ママ)1ヶ年ニ付100分ノ20二割100円以上1000以下(ママ)100分ノ15一割五分1000円以上100分ノ12一割二分以下トス若シ此限ヲ超過スル分ハ裁判上無効ノモノトシ各其制限ニマテ引直サシムヘシ」であり,同法を改正する大正8年法律第59(赤尾彦作衆議院議員提案の議員立法)の施行(旧法例(明治31年法律第10号)1条により191951日から)以後は,前段が「契約上ノ利息トハ人民相互ノ契約ヲ以テ定メ得ヘキ所ノ利息ニシテ元金100円未満ハ1ヶ年ニ付100分ノ15一割五分100円以上1000円未満ハ100分ノ12一割二分1000円以上100分ノ10一割以下トス」と改められています。現在の利息制限法(昭和29年法律第100号)は,旧利息制限法を1954年に「全面的に改正して,新法(法100号)を制定した。新法は,制限率を高め,旧法が制限を超える部分を「裁判上無効」と規定した文字を改め〔筆者註:昭和29年法律第1001条旧2項は「債務者は,前項の超過部分を任意に支払つたときは,同項の規定にかかわらず,その返還を請求することができない。」と規定していました。ただし,平成18年法律第115号によって,2010618日から削られています(同法5条及び附則14号並びに平成22年政令第128号)。,天引について新たに規定を設け,かつ遅延賠償金の予定の制限内容を明確にするなど,現時の情勢に適応するものとなった」ものです(我妻榮『新訂債権総論(民法講義)』(岩波書店・1964年(1972年補訂))49-50頁)。

 なお,現行利息制限法の規定の数字(法定重利規定の適用があった場合を含む。)と連続複利法による場合との間の幅を具体的に示すと次のとおりです。

 

   元本の額が10万円未満の場合の利息制限法上の上限利率は年20パーセントであって(同法11号),当該利率による1年後の元利合計高は当初元本の1.2倍となり(①),これに民法405(「利息の支払が1年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。」)によって1年ごとに利息の元本組入れをして重利計算をするとt年後には当初元本の1.2^t倍になりますが(②),連続複利法の場合,1年後の元本高が当初元本の約1.2214倍(1.2214e^0.2)となり(③),t年後には約1.2214^t倍となります()。

   元本の額が10万円以上100万円未満の場合(利息制限法12号)の数字は,それぞれ,①は1.18倍,②は1.18^t倍,③が約1.1972倍,④が約1.1972^t倍です。

   元本の額が100万円以上の場合(利息制限法13号)は,①は1.15倍,②は1.15^t倍,③が約1.1618倍,④が約1.1618^t倍です。

   ついでながら更に,旧利息制限法2条で出てきた利率年12パーセント及び同10パーセントについてそれぞれ見てみると,

   利率年12パーセントならば,①1.12倍,②1.12^t倍,③約1.1275倍,④約1.1275^t倍,

   利率年10パーセントならば,①1.1倍,②1.1^t倍,③約1.1052倍,④約1.1052^t倍となります。

 

20パーセントが22.14パーセントになり,18パーセントが19.72パーセントになり,15パーセントが16.18パーセントになり,12パーセントが12.75パーセントになり,そして10パーセントが10.52パーセントになるぐらいであれば呑んでもいいのかな,この程度であれば,「利息の組入れ時期を短かくし,年に数回もの組入れを約する場合」は「債権者はこのような特約をすることによって文字どおり巨利を博し,債務者には極めて酷な結果となる」こと(吉井211-212頁)が実現されるものとまでは――法定重利(これは,単利で規定する利息制限法も,民法405条の手前認めざるを得ません。)の場合と比較するならば――実はいえぬだろう,などと思ってしまうのは,弱い者を助けるという崇高かつ遼遠な目標の達成に挑む気概を忘れた,資本家の走狗🐕的な弱腰というものでしょうか。


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