2022年11月


(上):秩父宮雍仁親王火葬の前例等

http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080110294.html

(中):墓埋法143項の規定は「皇族の場合を考慮していない」ことに関して

http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080110311.html


(「3 昭和28年衛環第2号の検討」の続き)


(2)「2」について:陵墓に係る墓埋法41項の特別法としての皇室典範27

 火葬許可証は,火葬それ自体のみならず,その後焼骨の埋蔵をするためにもなお必要です。すなわち,墓埋法141項はいわく,「墓地の管理者は,第8条の規定による埋葬許可証,改葬許可証又は火葬許可証を受理した後でなければ,埋葬又は焼骨の埋蔵をさせてはならない。」と(なお,この火葬許可証には,火葬場の管理者による火葬を行った日時の記入並びに署名及び押印があります(墓埋法162項,墓埋法施行規則8条)。)。昭和28112日衛環第2号の記の2は,火葬許可証無き焼骨の埋蔵の段階において,その可否に係る問題に関するものでしょう。

 

ア 皇室典範27条及び陵墓

昭和28112日衛環第2号の記の2において環境衛生課長は,皇室典範27条に言及します。同条は「天皇,皇后,太皇太后及び皇太后を葬る所を陵,その他の皇族を葬る所を墓とし,陵及び墓に関する事項は,これを陵籍及び墓籍に登録する。」と規定するものです。皇室典範附則3項は「現在の陵及び墓は,これを第27条の陵及び墓とする。」と規定しているところ,皇室陵墓令(大正15年皇室令第12号)1条の規定は「天皇太皇太后皇太后皇后ノ墳塋ヲ陵トス」と,同令2条の規定は「皇太子皇太子妃皇太孫皇太孫妃親王親王妃内親王王王妃女王ノ墳ヲ墓トス」とするものです。

「葬」は,「〔艸を上下に二つ重ねた字〕バウ→サウ(〔略〕くさむら)の中に死(しかばね)を納めたさまにより,死体を「ほうむる」意を表わす」そうです(『角川新字源』(第123版・1978年))。であれば,「葬る所」は埋葬ないしは埋蔵をする所ではあっても,死体を焼く所ではないようです。

「墳」は「土と,音符賁フン(もりあがる意→肥ヒ)とから成り,土を高くもり上げた墓の意を表わす」そうです(『角川新字源』)。「塋」は「音符〔かんむりの部分〕ケイエイ,めぐらす意縈エイ」からなり,「はか。つか。墓地。」の外「いとなむ。」の意味があるそうです(同)。

不動産である陵墓は,行政財産たる皇室用財産として国有財産となっています(国有財産法(昭和23年法律第73号)213号参照)。武蔵陵墓地もこの陵墓たる皇室用財産でしょう。内閣総理大臣の管理に服し(国有財産法5条,42項),それは宮内庁の所掌事務となります(宮内庁法(昭和22年法律第70号)214号は「皇室用財産を管理すること」を,同条12号は「陵墓に関すること」を同庁の所掌事務とします。)。

 

イ 墓埋法41項並びに墓地及び墳墓

また,墓埋法41項は「埋葬又は焼骨の埋蔵は,墓地以外の区域に,これを行つてはならない。」と規定しています。同条の規定に違反した者については墓埋法211号に罰則規定があります(同法14条の規定に違反した者と同じ号。なお,更に「行為の態様によっては刑法第190条の死体遺棄罪に問われることがある。」とされ,大審院大正1434日判決が参考として挙げられています(生活衛生法規研究会19頁)。当該判決はいわく,「死体の埋葬とは,死者の遺骸を一定の墳墓に収容し,其の死後安静する場所として後人をして之を追憶紀念することを得せしむるを以て目的とするものなれば,必ずしも葬祭の儀式を営むの要なきも,道義上首肯すべからざる事情の下に単に死体を土中に埋蔵放置したるが如きは,未以て埋葬と云うべからざるを以て死体を遺棄したるものと云はざるを得ず。」と。)。

「官許ノ墓地外ニ於テ私ニ埋葬シタル者」を3日以上10日以下の拘留又は1円以上195銭の科料に処するものと規定する旧刑法4251318778月段階のフランス語文では,軽罪として,“Quiconque aura, sans une permission spéciale de l’autorité compétente, procédé à une inhumation dans un lieu autre que l’un de ceux consacrés aux sépultures, sera puni d’une amende de 10 à 50 yens. / Sont exceptés les cas d’inhumations urgentes où le transport des morts aux sépultures publiques serait difficile ou dangeruex; mais à la charge d’une déclaration immédiate à l’autorité locale.(「当局の特別の許可を受けずに,墓地として指定された場所以外の場所で埋葬を行う者は,10円から50円までの罰金に処せられる。/死者を公的墓地に運搬することが困難又は危険であるときにおける緊急埋葬については,この限りでない。ただし,直ちに届け出ることを要する。」)と規定されていました。)に関してその趣旨を尋ねれば,ボワソナアドが,その同号改正提案(18778月段階案と同じ条文に成規の手続によらぬ墳墓の発掘又は変更の罪に係る構成要件の1項を第3項として加えたもの(Boissonade, pp.775-776))について説明するところがあります。いわく,「公的墓地の場所は,行政によって,できるだけ公衆衛生を確保すべき条件において選択されねばならない。住宅地から余りにも近過ぎる所は避けられねばならず,水源地たる高地を選んではならず,また,各埋葬は,死体からの滲出物を避けるために十分な深さをもってされねばならない。更に,死者への崇敬を確保するためにされる当局の見回りの効率のためには,相当多数のものがまとまった形で埋葬がされるということが便宜である。/各々がその所有地において,又は公的墓地として定められた場所以外の場所で,その親族を埋葬する自由を有するとしたならば,上記の用心は無駄なものにならざるを得ないということが了解されるところである。/また,後になってから遺骸が発見されたときに,それについて確実なことを知る手段のないまま,重罪が犯されたのではないかと懸念しなければならないという不都合も生じることであろう。」と(Boissonade, pp.794-795)。

「墓地」とは,「墳墓を設けるために,墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつては,市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域」をいい(墓埋法25項),「墳墓」とは,「死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設」をいいます(同条4項)。墓地に係る都道府県知事の許可については,墓埋法10条に規定があります(同条1項は墓地の「経営」といいますが,個人墓地を設けるにも墓埋法10条の許可が必要であるとされています(昭和271025日付け衛発第1025号厚生省衛生局長から京都府知事宛て回答「個人墓地の疑義について」(生活衛生法規研究会119-120頁))。)

陵墓地について,墓埋法10条の許可がされているということはないでしょう。

 

ウ 環境衛生課長の判断

昭和28112日衛環第2号における環境衛生課長の判断は,皇室典範27条の陵墓は墓埋法上の墓地に係る墳墓ではないが,同条によって,陵墓において天皇・皇族を埋葬し,又はその焼骨を埋蔵することは,墓埋法の特別法たる皇室典範によって合法なものとされていることとなる,その際陵墓の管理者による埋葬許可証又は火葬許可証の受理など当然不要である,というものでしょう。

 

(3)「3」について:過度の一般命題化

ところで,昭和28112日衛環第2号の記の3における「墓地,埋葬等に関する法律は皇族には適用されない」との言明は,筆者には――環境衛生課長の筆の滑りによるものなのでしょうか――過度の一般命題化であるように思われます。

その第71項において「皇族ノ身位其ノ他ノ権義ニ関スル規程ハ此ノ典範ニ定メタルモノノ外別ニ之ヲ定ム」と規定していた明治40年の皇室典範増補は,皇室典範本体等及び皇室令と共に日本国憲法下においては廃止されたものとなっているところです。天皇・皇族にも日本国憲法下の法令が一般的に適用されるというところから出発しなければなりません。天皇・皇族に対する法令の適用除外は,例外的かつ具体的であるべきです。例えば,皇族だからとて,薨去後24時間たたぬうちに埋葬又は火葬されてしまっては,実は仮死状態にすぎなかったときには困るでしょうし(墓埋法3条,211号参照),死体の埋葬又は焼骨の埋蔵を陵墓でも墓地でもない場所でしたり,火葬場以外の施設で火葬をしてはいけないのでしょうし(同法4条参照。同条2項の法文は「火葬は,火葬場以外の施設でこれを行つてはならない。」です。),墓地,納骨堂又は火葬場の経営を,墓埋法10条の都道府県知事(なお,同法25項括弧書きにより,市長及び特別区の区長も含まれます。)の許可なしに勝手にしてはならないでしょう。

環境衛生課長としては,これ以上皇室とかかわるのは畏れ多過ぎるので,政府高官として有するその所管法令解釈権限をもって明治典憲体制風の墓埋法適用除外の特権を天皇及び皇族方に献上申し上げ,顔を覆い,目を伏せ,以後御勘弁してもらうつもりだったということかもしれません。

 

 Abscondit…faciem suam non enim audebat aspicere contra deum (Ex 3,6)

 

しかしながら,墓埋法を制定した,国の唯一の立法機関である国会との関係はどうなるのでしょうか。良識ある議員諸賢の心が頑なになるということはないと考えてよいのでしょうか。

 

 Induravitque Dominus cor Pharaonis regis Aegypti (Ex 14,8)

 

4 墓埋法と「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」との関係

さて,以上見てきた墓埋法の諸規定と,前記20131114日付け宮内庁「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」の21)(イ)「御火葬施設の確保」において示された同庁の目論見とはうまく整合するものかどうか。

 

(1)墓埋法の適用:八王子市長の大権限

「墓地,埋葬等に関する法律は皇族には適用されない」(昭和28112日衛環第2号の記の3)ということであれば,墓埋法の検討ははなから不要であるようです。しかし,天皇・皇族について墓埋法の一般的適用除外があるものとは筆者としては考えにくいということは,前記33)のとおりです。またそもそも,「御火葬施設」が内廷費で維持される皇室の私的施設ではなく,宮内庁に属する国の施設であれば――宮内庁長官以下の宮内庁職員になれば皇族になるというわけではないでしょうから――墓埋法皇族不適用論のみではなお不十分でしょう。国のする埋葬及び火葬にも墓埋法の適用があるのであって,それゆえに自衛隊法115条の4は,墓埋法の例外的適用除外規定として,「墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)第4条及び第5条第1項の規定は,第76条第1項(第1号に係る部分に限る。)の規定により出動を命ぜられた自衛隊の行動に係る地域において死亡した当該自衛隊の隊員及び抑留対象者〔略〕の死体の埋葬及び火葬であつて当該自衛隊の部隊等が行うものについては,適用しない。」と規定しているところです。(なお,自衛隊法7611号ならぬ同項2号の事態に際しての自衛隊の出動は国外派遣になるところ,そもそも墓埋法は日本国外では適用されないものでしょう。)

「御火葬施設」を設けるにも墓埋法101項の許可が必要である場合,それが八王子市長房町の武蔵陵墓地内に設けられるのならば,許可権者は八王子市長となります(前記のとおり,墓埋法25項括弧書きによって,同法の「都道府県知事」は,市又は特別区にあっては,市長又は区長です。)。

 

ア 火葬場の経営主体等の問題

そこで,八王子市墓地等の経営の許可等に関する条例(平成19年八王子市条例第29号)を見てみると,その第31項には次のようにあります。

 

  (墓地等の経営主体等)

3条 墓地等〔筆者註:火葬場を含みます(同条例1条)。〕を経営しようとする者は,次の各号のいずれかに該当する者でなければならない。ただし,特別の理由がある場合であって,市長が,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めたときは,この限りでない。

1) 地方公共団体

2) 宗教法人法(昭和26年法律第126号)第4条第2項に規定する宗教法人で,同法に基づき登記された事務所を市内に有し,かつ,永続的に墓地等を経営しようとするもの(以下「宗教法人」という。)

3) 墓地等の経営を行うことを目的とする,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)第2条第3号の公益法人で,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)に基づき登記された事務所を市内に有し,かつ,永続的に墓地等を経営しようとするもの(以下「公益法人」という。)

 

 皇室も宮内庁も,地方公共団体でも宗教法人でも公益法人でもないところです。

 火葬場の経営者が地方公共団体,宗教法人,公益法人等でなければならない理由は,その永続性(上記条例312号及び3号各後段参照)と非営利性の確保のためであるそうです。すなわち,昭和4345日付けの厚生省環境衛生課長から各都道府県,各指定都市衛生主管部局長宛て通知「墓地,納骨堂又は火葬場の経営の許可の取扱いについて」において同課長はいわく,「従来,墓地,納骨堂又は火葬場の経営主体については,昭和2193日付け発警第85号内務省警保局長,厚生省衛生局長連名通知及び昭和23913日付け厚生省発衛第9号厚生次官通知により,原則として市町村等の地方公共団体でなければならず,これにより難い事情がある場合であっても宗教法人,公益法人等に限ることとされてきたところである。これは墓地等の経営については,その永続性と非営利性が確保されなければならないという趣旨によるものであり,この見解は現時点においてもなんら変更されているものではない。従って,墓地等の経営の許可にあたっては,今後とも上記通知の趣旨に十分御留意のうえ,処理されたい。」と(生活衛生法規研究会143-144頁)。

 「御火葬施設」の設置は「特別の理由がある場合であって」かつ「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がない」のだと主張して,よって上意のとおり直ちに許可をすべしと八王子市長を説得しようにも,「その都度設け」られる火葬場は永続性を欠くからそんなものを許可したら厚生労働省に叱られる,と抵抗される可能性があります。

 

続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


(上):秩父宮雍仁親王火葬の前例等

http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080110294.html



3 昭和28年衛環第2号の検討

 

(1)「1」について:墓埋法と戸籍法との結合及び天皇・皇族についてのその欠如等

 

ア 墓埋法に基づく火葬の許可と戸籍法に基づく死亡の届出等との結合

現在の墓埋法52(「前項〔「埋葬,火葬又は改葬を行おうとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない。」〕の許可は,埋葬及び火葬に係るものにあつては死亡若しくは死産の届出を受理し,死亡の報告若しくは死産の通知を受け,又は船舶の船長から死亡若しくは死産に関する航海日誌の謄本の送付を受けた市町村長が,改葬に係るものにあつては死体又は焼骨の現に存する地の市町村長が行なうものとする。」)にいう「死亡の届出」とは何かといえば,「戸籍法第25条,第88条又は第93条において準用する第56条の規定に基づく届出をいう。すなわち,死亡者本人の本籍地,届出人の所在地,死亡地(それが明らかでないときは最初の発見地,汽車等の交通機関の中での死亡の場合は死体を降ろした地,航海日誌を備えない船舶の中での死亡の場合は最初の入港地)の市町村長に対して届出をすることができる。」ということだそうです(生活衛生法規研究会22頁)。航海日誌の謄本の送付については,戸籍法93条の準用する同法55条に規定があるところです。

これに対して,雍仁親王薨去当時の墓埋法82項の死亡の届出に係る当時の戸籍法88条は「死亡の届出は,外国又は命令で定める地域で死亡があつた場合を除いては,死亡地でこれをしなければならない。但し,死亡地が明らかでないときは,死体が最初に発見された地で,汽車その他の交通機関の中で死亡があつたときは,死体をその交通機関から降ろした地で,航海日誌を備えない船舶の中で死亡があつたときは,その船舶が最初に入港した地で,これをしなければならない。」と規定していました(下線は筆者によるもの)。これを現在の戸籍法88条の「できる」規定と比較すると,現在の規定では同法25条による「事件本人の本籍地又は届出人の所在地」での死亡届出が原則となってしまい,死亡地ないしは死体の到着地の市町村長が死亡の届出を受けるものでは必ずしもなくなっています。墓埋法5条の趣旨は,「埋葬,火葬又は改葬を市町村長の許可に係らしめ,埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われるように,自由な埋葬等を禁ずるものである。」と説かれていますが(生活衛生法規研究会20頁。同法1(「この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。」)参照),死亡地でも死体の到着地でもない地の市町村長は,公衆衛生云々といわれてもピンとこないのではないでしょうか。

いずれにせよ,戸籍法に基づく死亡の届出と墓埋法に基づく火葬の許可及び火葬許可証の交付とが結合されているわけです。

なお,墓埋法現52項にいう「死亡の報告」は「戸籍法第89条,第90条又は第92条の規定に基づく報告をいう」そうで(生活衛生法規研究会22頁),これも戸籍法の適用が前提となります。

 

ちなみに,墓埋法52項にいう「死産の届出」,「死産の通知」及び「死産に関する航海日誌の謄本の送付」は,「死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号(昭和27年法律第120号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く厚生省関係諸命令の措置に関する法律」第3条の規定により,法律としての効力を有する。))の規定〔同令4条及び9条〕に基づく」ものです(生活衛生法規研究会22頁)。

しかし,昭和21年厚生省令第42号の第3条は「すべての死産は,この規程の定めるところにより,届出なければならない。」と規定し,同令第2条は「この規程で,死産とは妊娠第4月以後における死児の出産をいひ,死児とは出産後において心臓膊動,随意筋の運動及び呼吸のいづれをも認めないものをいふ。」と規定しているところ,皇族の死産に同令の適用はあるのでしょうか。同令7条は,父親を第1次的の届出義務者としていますから,畏れ多くも皇后陛下の御死産の場合には天皇陛下が千代田区長に対して届出をせねばならないのか,ということにもなりかねません。聯合国軍最高司令官の要求に係る事項を実施するため昭和20年勅令第542号に基づき1946930日に昭和21年厚生省令第42号を発した河合良成厚生大臣は,そこまでの共和国的な光景をも想定していたのでしょうか。

1946年当時はなお有効だった明治40年(1907年)211日の皇室典範増補8条は「法律命令中皇族ニ適用スヘキモノトシタル規定ハ此ノ典範又ハ之ニ基ツキ発スル規則ニ別段ノ条規ナキトキニ限リ之ヲ適用ス」と規定していましたところ,同条の解釈適用が問題になるところです。これについては,天皇の裁可に係る勅令ならばともかく,一国務大臣の発する省令は,そもそも法形式として「皇族ニ適用スヘキモノ」としてふさわしくないものと通常解されるところでしょうし,かつ,昭和21年厚生省令第42号には「皇族ニ適用スヘキ」旨の明文規定も無いところです。すなわち,昭和21年厚生省令第42号は天皇・皇族に適用がないものとして制定され,そのことは,その施行日(194753日)の前日を限り明治40年の皇室典範増補が廃止された日本国憲法の下でも変わっていない,と解釈すべきものなのでしょう。

 

イ 皇室典範26条による天皇・皇族に対する戸籍法の適用除外

皇室典範(昭和22年法律第3号)26条は「天皇及び皇族の身分に関する事項は,これを皇統譜に登録する。」と規定していて,確かに,天皇・皇族には戸籍はなく,戸籍法の適用はないわけです。

ちなみに,外国人も戸籍がありませんが,こちらについては,「外国人にも戸籍法の適用があり出生,死亡などの報告的届出義務を課せられ」ているところです(谷口知平『戸籍法』(有斐閣・1957年)54頁。戸籍法252項参照)。厚生省衛生局長は,外務省欧米局長宛ての昭和32415日付け衛発第292号回答において,戸籍法の適用との関係には言及してはいませんが,「埋葬許可は,死亡者の国籍の如何をとわず,本法〔墓埋法〕施行地で死亡した場合,死亡地の市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)がこれを与えることとなっている。」と述べています(生活衛生法規研究会133-134頁。ただし,現在の戸籍法における外国人の死亡の届出は,死亡地でできることには変わりはありませんが(同法881項),届出人の所在地でするのが本則になっています(同法252項)。)。

 戸籍法の適用を受けぬ皇族たる雍仁親王の薨去の際には,同居の親族たる勢津子妃も藤沢市長に死亡届出をする義務(同法871号(当時は第2項なし))を有さず,仮に届出をしても「届出義務者でない者よりの届出は受理されるべきでない」ので(谷口55頁)結局受理されず,秩父宮家としては藤沢市長の火葬許可証を入手することができなかった,ということであったようです。

 なお,戸籍法上の死亡届出義務者に係る同法87条は,現在次のとおりです。

 

  87 次の者は,その順序に従つて,死亡の届出をしなければならない。ただし,順序にかかわらず届出をすることができる。

第一 同居の親族

第二 その他の同居者

第三 家主,地主又は家屋若しくは土地の管理人

 死亡の届出は,同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人及び任意後見受任者も,これをすることができる。

 

ウ それでも皇族の火葬は可能であるとの結論に関して

しかし,火葬許可証がない以上皇族の火葬を火葬場の管理者は行ってはならないものとは環境衛生課長は杓子定規に解していません。「第14条第3項の規定は皇族の場合を考慮していないもの」として,なお火葬の可能性を認めています。

 

(ア)墓埋法13

墓埋法13条が「墓地,納骨堂又は火葬場の管理者は,埋葬,埋蔵,収蔵又は火葬の求めを受けたときは,正当の理由がなければこれを拒んではならない。」と規定しているということが,火葬許容の方向に秤を傾けたということがあるでしょう。同条は,「埋火葬等の施行が円滑に行われ,死者に対する遺族等関係者の感情を損なうことを防止するとともに,公衆衛生その他公共の福祉に反する事態を招くことのないよう」にするためのものとされています(生活衛生法規研究会64頁。なお,同条については,後出(41)イ)の津地方裁判所昭和38621日判決に先立つものとしての内閣法制局意見(昭和35215日法制局一発第1号厚生省公衆衛生局長宛内閣法制局第1部長回答)があります(生活衛生法規研究会138-140頁)。)。当局は「遺族等関係者の感情」を重視するものと明言しているのであれば,確かに,心をこめて求めよさらば与えられん,です。

 

Petite et dabitur vobis, quaerite et invenietis, pulsate et aperietur vobis. (Mt 7,7)

 

(イ)墓埋法51項及び墓埋法施行規則14号並びに感染症予防等法30

更にこの点に関して墓埋法14条の趣旨を見てみると,「本条は,第5条及び第8条に定める埋火葬等の許可制度の実効を期するため,墓地等の管理者に対して正当な手続を経ない埋火葬等に応ずることを禁じた規定である。」とあります(生活衛生法規研究会65頁)。そうであると,市町村長による火葬の許可がそもそも何のためにあるのかを考えることも必要であるようです。

墓埋法51項の厚生労働省令である墓地,埋葬等に関する法律施行規則(昭和23年厚生省令第24号。以下「墓埋法施行規則」と略称します。)1条の第4号に,墓埋法51項の規定により埋葬又は火葬の許可を受けようとする者が市町村長に提出しなければならない申請書の記載事項として,「死因(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)第6条第2項から第4項まで及び第7項に規定する感染症,同条第8項に規定する感染症のうち同法第7条に規定する政令により当該感染症について同法第30条の規定が準用されるもの並びに同法第6条第9項に規定する感染症,その他の別)」とあるのが気になるところです。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症予防等法」と略称します。)62項から4項までに規定する感染症は,それぞれ「一類感染症」,「二類感染症」及び「三類感染症」です。同条7項に規定する感染症は「新型インフルエンザ等感染症」であって,これには,現代の恐怖の大王である新型コロナウイルス感染症が含まれます(同項3号)。同項8項に規定する感染症は「指定感染症」です。同条9項に規定する感染症は「新感染症」であって,これは,「人から人に伝染すると認められる疾病であって,既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので,当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり,かつ,当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう」ものです。

感染症予防等法30条は,次のとおりです。なお,新感染症についても,政令により一類感染症とみなされて同条が適用されることがあり得,また,都道府県知事が一類感染症とみなして同条に規定する措置の全部又は一部を実施することが可能です(感染症予防等法531項・501項)。

 

(死体の移動制限等)

30 都道府県知事は,一類感染症,二類感染症,三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の発生を予防し,又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは,当該感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体の移動を制限し,又は禁止することができる。

2 一類感染症,二類感染症,三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体は,火葬しなければならない。ただし,十分な消毒を行い,都道府県知事の許可を受けたときは,埋葬することができる。

3 一類感染症,二類感染症,三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体は,24時間以内に火葬し,又は埋葬することができる。

 

 感染症予防等法302項を見ると,火葬はlast resortとして,結局常に許可されるべきもののようです。また,死体の移動を制限又は禁止しつつも,公衆衛生のためには放置するわけにはいかないということであれば,やはりその地で火葬されるのでしょう。

 それならば,火葬をするのになぜわざわざ墓埋法51項による市町村長の許可手続が必要なのかといえば,むしろ埋葬の許可を求める者に対して,火葬の許可を受けて当該死体を火葬するように窓口指導を行う機会を得るためのもののようでもあります。「埋葬又は火葬の許可申請は,戸籍法に基づく死亡届の提出と同時に行われる場合が多く,かつ,届出事項と重複するものがあることから,同一文書による取扱いの便法が認容されている〔昭和4152日付け環整第5032号環境衛生局長から愛知県知事宛て回答「墓地,埋葬等に関する法律施行規則第1条の申請について」〕。」とされていて(生活衛生法規研究会25頁)重みが無く,また,厚生事務次官から各都道府県知事宛て通知である昭和23913日付け厚生省発衛第9号「墓地,埋葬等に関する法律の施行に関する件」の3に「埋葬,火葬(ママ)及び改葬の許可は,原則として死亡届を出した市町村長の許可を受けることとし,統計上の統一を図った。」とあるので(生活衛生法規研究会105頁),何だか統計を取る目的ばかりのように思われて力が入らなかったのですが,確かに,感染症予防等法302項に鑑みるに明らかなとおり「公衆衛生」の見地(墓埋法1条参照)からして望ましく,かつ,時には専らそれによるべきものとされる葬法であるところの火葬への誘導機能は期待されてあるわけでしょう。

 感染症予防等法302項の「規定に違反したとき」は,「当該違反行為をした者は,100万円以下の罰金に処」せられます(同法776号)。

 

   しかし,感染症予防等法302項本文,776号の罪の構成要件は分かりにくいところです。同法302項ただし書に鑑みるに,当該死体の無許可埋葬が実行行為になるのでしょうか。そうであると,埋葬も火葬もせずに放棄した場合は,刑法190条の死体遺棄罪(3年以下の懲役)でなお問擬されるのでしょう(前田雅英『刑法各論講義 第4版』(東京大学出版会・2007年)499頁参照)。死体遺棄罪に関しては,「不作為による死体遺棄罪が成立するのは,埋葬義務のある者に限られよう」と述べられています(前田499頁)。(なお,軽犯罪法(昭和23年法律第39号)118号は「自己の占有する場所内に,〔略〕死体若しくは死胎のあることを知りながら,速やかにこれを公務員に申し出なかつた者」を拘留又は科料に処するものと規定していますが,当該死体及び死胎については,「公務員をして処置させるまでもなく,その存在する場所の占有者自ら処置すべきものを含まないものと解する。また,〔略〕処置すべき者が判明しており,これらの者による処置が当然予想されるものについても同様である。したがって,〔略〕自宅療養中又は病院入院中の者が死亡した場合に,これを公務員に申し出ない行為などは,本号に当らない。」と説かれています(伊藤榮樹原著=勝丸充啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房・2013年)155頁)。同号の前身規定としては,旧刑法(明治13年太政官布告第36号)4258号が「自己ノ所有地内ニ死屍アル(こと)ヲ知テ官署ニ申告セス又ハ他所ニ移シタル者」18778月段階でのフランス語文では,“Ceux qui n’auront pas signalé à l’autorité locale la découverte par eux faite, dans leur propriété, d’un cadavre ou d’un corps humain inanimé ou l’auront transporté au dehors”3日以上10日以下の拘留又は1円以上195銭以下の科料に処するものとしていました。当該規定前段の趣旨は,ボワソナアドによれば,「死亡したと思われる者に,適時の救護をもたらし得ないということがないようにする」ということでした(Gve Boissonade, Projet Révisé de Code Pénal pour l’Empire du Japon accompagné d’un Commentaire; Tokio, 1886. p.1258)。)

当該「埋葬義務のある者」は誰かといえば,「専ら埋葬・祭祀・供養をなす権能と義務とを内容とする特殊のものと考えねばなら」ず,「その意味では放棄も許されない」ところの「屍体」の所有権(我妻榮『新訂民法総則(民法講義)』(岩波書店・1965年)203頁)が帰属する者でしょう。しかして死体の所有権は誰に帰属するかといえば,「判例は,相続によって相続人に帰属するという(大判大正107251408頁(家族の遺骨をその相続人が戸主の意に反して埋葬したので戸主から引渡請求をしたが認められない))。しかし,慣習法によって喪主たるべき人(〔民法(明治29年法律第89号)〕897条参照)に属すると解するのが正当と思う」ということになっています(我妻203頁)。「死体は,埋葬や供養をなす限りで権利の対象として認められる(東京高判昭62108家月40345頁,遺骨は祭祀主(ママ)者に属する。)」というわけです(山野目章夫編『新注釈民法(1)総則(1)』(有斐閣・2018年)790頁(小野秀誠))。東京高等裁判所昭和40719日判決・高集185506頁は刑法190条の死体遺棄罪の成立に関して「〔当該死体は〕被告人の妻子であるので,被告人は慣習上これらの死体の葬祭をなすべき義務のあることは明らか」と判示しています(下線は筆者によるもの)。以上をまとめる判例としては,「宗教家である被相続人と長年同居していた信者夫婦が遺骨を守っていたところ,相続人(養子)が祭祀主宰者として菩提寺に埋葬するため,遺骨の引渡しを求めた事案で,最高裁は,遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者とみられる相続人に帰属するとした原審を正当とした(最判平元・718家月4110128)。」というものがあります(谷口知平=久貴忠彦『新版注釈民法(27)相続(2)(補訂版)』(有斐閣・2013年)89頁(小脇一海=二宮周平))。死体ないしは焼骨の共同所有は法律関係を複雑なものにするでしょうから(遠藤浩等編『民法(9)相続(第3版)』(有斐閣・1987年)71頁(遠藤)参照),相続人帰属説よりはこちらの方がよいのでしょう。

ただし,死体の処分については別の配慮も必要であるとされています。「これまで学説は,遺体・遺骨を一括して,所有権の客体性,帰属原因,帰属者を議論してきたが〔略〕,両者には違いがある〔略〕。遺体の場合,特別な保存方法を用いない限り,腐敗が急激に進行することから,衛生上速やかに火葬など一定の処分をする必要があり,葬送を行う近親者に処分を委ねることが妥当である。」というわけです(谷口=久貴編88頁(小脇=二宮))。これは,葬送を行う者(近親者に限られず,戸籍法87条に基づき死亡届出をした者を含めて解してもよいように思われます。)のする死体の処分は事務管理(民法697条以下)として適法化されるということでしょうか。ちなみに,生活保護法(昭和25年法律第144号)182項は,「被保護者が死亡した場合において,その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき」(同項1号)又は「死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において,その遺留した金品で,葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき」(同項2号)において,「その葬祭を行う者があるときは,その者に対して,前項各号〔①検案,②死体の運搬,③火葬又は埋葬及び④納骨その他葬祭に必要なもの〕の葬祭扶助を行うことができる。」と規定しています

続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

1 宮内庁の「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」(2013年)

 宮内庁が20131114日付けで発表した「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」には,上皇及び上皇后(これらの称号については天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成29年法律第63号)31項及び41項を参照)の火葬について次のようにあります(「.検討内容」の「2.今後の御喪儀のあり方について」)。

 

  (1)御火葬の導入

(ア)御火葬導入の考え方

皇室の歴史における御葬法の変遷に鑑み,慎重に検討を行ったところ,

①皇室において御土葬,御火葬のどちらも行われてきた歴史があること,

      我が国の葬法のほとんどが,既に火葬になっていること,

      ③御葬法について,天皇の御意思を尊重する伝統があること,

      ④御火葬の導入によっても,その御身位にふさわしい御喪儀とすることが可能であること,

     から,御葬法として御火葬がふさわしいものと考えるに至った。

   (イ)御火葬施設の確保

御火葬の施設については,天皇皇后両陛下の御身位を重く受け止め,御専用の施設を設置する。

御専用の御火葬施設はその都度設け,御火葬後は,その資材・御火葬炉等を保存管理し,適切な利用を図るものとする。

御火葬施設は武蔵陵墓地内に設置することとし,その具体的な場所については,周辺環境に十分配慮し定める。

 

 上記(ア)②にあるように,我々日本国の人民には,火葬はなじみのあるものとなっています。しかしながら,なじみはあるというものの,いざ不幸があって火葬となると,火葬場には火葬許可証なるものを持っていかなくてはならないというようないろいろの手続があり,墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号。以下「墓埋法」と略称します。)という大法律との関係が厄介だったのでした。これに対して宮内庁は,上記「御火葬の導入」という検討結果を出すまで「この1年余,全庁挙げて検討に取り組み,また,議論が浅薄なものとならないよう,祭儀,歴史等について専門的な知見を有する方々のお考えをうかがい,取りまとめを行った」そうですから(「.はじめに」)――当該「専門的な知見を有する方々」には例示を見る限り法律家は含まれてはいないようであるものの――60年経過後の当該検討においては,1953年(昭和28年)1月におけるフライングのような遺漏はなかったものでしょう。(なお,2016年度,宮内庁は一般社団法人火葬研と武蔵陵墓地附属施設整備工事に伴う設計業務(御火葬施設の設計)の委託契約(金額9882000円)を締結しています。「一般的にはない火葬施設を設計するもの」であるそうです(宮内庁の情報公開資料)。)


DSCF1296(昭和天皇武蔵野陵)
昭和天皇武蔵野陵(東京都八王子市長房町武蔵陵墓地)


 

2 秩父宮雍仁親王の火葬(1953年)

 と,前段において,筆者は,「19531月におけるフライング」などと勿体ぶった表現を用いました。何があったのかというと,要は,同月には次のような出来事があったところです。

 

(1)表:宮中の動き

 

  4日 日曜日 胸部疾患等のため神奈川県藤沢市鵠沼の秩父宮別邸にて静養中の〔昭和天皇の弟宮である秩父宮〕(やす)(ひと)親王が,この日午前220分薨去する。〔昭和〕天皇は818分より御文庫において宮内庁長官田島道治の拝謁を受けられた後,直ちに御弔問のため同35分自動車にて皇后と共に御出門,955分秩父宮別邸に御到着になる。故雍仁親王妃勢津子の案内により雍仁親王とお別れの対面をされ,1046分秩父宮別邸を御発,午後零時5分還幸になる。これに先立つ午前10時,宮内庁より雍仁親王がこの日午前4()30()分薨去した旨が発表される。〔略〕

   〔略〕

  夕刻,御文庫において宮内庁長官田島道治の拝謁を受けられ,故雍仁親王の喪儀につき説明をお聞きになる。これに先立ち,宮内庁長官田島道治は宮内庁次長宇佐美毅・同秘書課長高尾亮一と共に,故雍仁親王妃勢津子と同件につき相談し,午後には宣仁親王・同妃と協議した。夜,宇佐美次長より喪儀は秩父宮家の喪儀として行い,喪儀委員長等は秩父宮家が委嘱すること,喪儀の日取り,喪主等については翌日午前再び秩父宮別邸で相談すること,皇太子〔現在の上皇〕の渡英〔同年62日のエリザベス2世女王戴冠式参列のためのもの〕に支障はないことなどが発表される。また翌日夕刻には,宇佐美次長より,喪儀は12日に行い,遺骸は故雍仁親王の遺志により火葬されること等が発表される。

  (宮内庁『昭和天皇実録 第十一』(東京書籍・2017年)479-482頁)

 

  12日 月曜日 この日,故雍仁親王斂葬の儀が執り行われる。〔略〕午前10時より豊島岡墓地において葬場の儀が行われる。〔略〕儀終了後,雍仁親王の遺骸は落合火葬場に運ばれ,遺言に従って火葬に付された後,墓所の儀が行われ,豊島岡墓地に愛用の品々と共に埋葬される。なお墓所には比翼塚形式の墓が営まれる。明治以降における皇族の火葬,及び比翼塚形式の墓の造営は初めてとなる。またこの度の喪儀では,従来の皇族の喪儀と異なり,参列者に制限が設けられず,葬場の儀に続いて一般の拝礼が行われた。さらに霊柩の移動に際して,多数のスポーツ関係者が奉仕した。なお,去る5日には,同じく遺言により雍仁親王の遺骸が神奈川県藤沢市鵠沼の秩父宮別邸において,元東京大学教授岡治道の執刀,財団法人結核予防会結核研究所長隈部英雄の助手,及び故雍仁親王の療養に尽力した主治医の遠藤繁清・寺尾殿治・坂口康蔵・児玉周一・折笠晴秀の立会いにより,解剖に付された。〔略〕

  (実録第十一486-487頁)

 

実は,雍仁親王の火葬に関する195314日から同月5日にかけての協議には,重要な政府高官が一人招かれていなかったようです。厚生省公衆衛生局環境衛生部環境衛生課長です。

 

(2)裏:東京都公衆衛生部長及び厚生省環境衛生課長の働き

 

ア 東京都公衆衛生部長の指示伺い及び墓埋法の関連条項(143項,211号等)

195315日夕刻の宮内庁次長の発表を聞いて数日がたち(書面の日付は同月10日),自分の管内で雍仁親王の火葬が行われるものと気付いた東京都公衆衛生部長が――困惑してのことでしょう――厚生省の環境衛生課長にお伺いを立ててきます。

 

 (問)墓地埋葬等に関する法律第14条第3〔「火葬場の管理者は,第8条の規定による火葬許可証又は改葬許可証を受理した後でなければ,火葬を行つてはならない。」〕に火葬場の管理者は第8条による「火葬許可証又は改葬許可証を受理した後でなければ火葬を行ってはならない」と規定されて居るが,皇族の方の転帰に際し,火葬に付さる場合は如何に取り扱うべきか,証明書は如何なる所から発行せられたものに基くべきか,少なくとも依頼により火葬すべきか,御指示を仰ぎたい。

  (生活衛生法規研究会監修『新版 逐条解説 墓地、埋葬等に関する法律(第2版)』(第一法規・2012年)120頁)

 

 当時,墓埋法81項は「市町村長が,前3条〔第5条から第7条まで〕の規定により,埋葬,改葬又は火葬の許可を与えるときは,埋葬許可証,改葬許可証又は火葬許可証を交付しなければならない。」と,同条2項は「市町村長は,死亡若しくは死産の届出を受理し,又は船舶の船長から,死亡若しくは死産に関する航海日誌の謄本の送付を受けた後でなければ,埋葬許可証又は火葬許可証を交付してはならない。」と規定し,同法51項は「埋葬又は火葬を行わうとする者は,死亡地又は死産地,死亡地又は死産地の判明しないときは,死体の発見地の市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない。」と規定していました。墓埋法14条の「規定に違反した者」は「1000円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に処せられました(同法211号。同法22条に両罰規定。当時の罰金等臨時措置法(昭和23年法律第251号)2条及び41項により,「1000円以下」の罰金額は1000円以上2000円以下となり,科料額は5円以上1000円未満。ついでながら,現在の墓埋法14条の刑は,2万円以下1万円以上の罰金(罰金等臨時措置法21項)又は拘留(刑法(明治40年法律第45号)16条により1日以上30日未満とされ,刑事施設に拘置)若しくは科料(同法17条により1000円以上1万円未満)です。)。

なお,墓埋法上,「埋葬」とは「死体(妊娠4箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ること」をいい(同法21項),「いわゆる「土葬」がこれに当たる」ものとされます(生活衛生法規研究会13頁)。「火葬」は,「死体を葬るために,これを焼くこと」です(墓埋法22項)。なお,死体は墳墓に「埋葬」されますが,焼骨は「埋蔵」されます(墓埋法24項参照)。「焼骨」とは何かについては,「死体を火葬した結果生ずるいわゆる遺骨であるが,遺族等が風俗・習慣によって正当に処分した残余のものは,刑法においても遺骨とはされない。」と説明されています(生活衛生法規研究会14頁)。

 秩父宮家から雍仁親王の遺体を火葬できるかと打診を受けた落合火葬場が,それでは火葬許可証を当日御持参くださいと言ったところ,えっそれにはどうしたらいいのと宮家側から反問されての問題発覚だったのでしょうか。実は以下に見るように,ここには法の欠缺があったのでした。人民流に単純に,雍仁親王の死亡地の藤沢市役所に戸籍法(昭和22年法律第224号)上の死亡届出をして(下記31)ア参照),藤沢市長から火葬許可証の交付を受ける,というわけにはいかなかったのでした。

いかに皇室尊崇の熱い心があろうとも,うっかり墓埋法143項,211号違反の犯罪者となって警察署や検察庁に呼び出された挙句(ここで「呼び出された」にとどまるのは,墓埋法21条の刑に係る罪については,住居及び氏名が明らかであり,かつ,逃亡のおそれがなければ,現行犯であっても逮捕はされず(刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)217条),定まった住居があり,かつ,検察官,検察事務官又は司法警察職員による取調べのための出頭の求めに応じている限りは,逮捕状による逮捕もされないからです(同法1991項)。なお,立法当初の罰金等臨時措置法71項参照),簡易裁判所の厄介になって(裁判所法(昭和22年法律第59号)3312号)2000円の罰金を取られたり,1日以上30日未満の期間でもって刑事施設に拘置されるのは,火葬場の管理者としては御免を蒙りたいところだったのでしょう。(なお,火葬場の「管理者」は,「自然人であり,〔略〕火葬場の運営及び管理についての事務取扱責任者」であって(生活衛生法規研究会63頁),火葬場の経営者(「ほとんどは法人」であるとされています(同頁)。)によって置かれ,その本籍,住所及び氏名は当該火葬場所在地の市町村長に届出がされます(墓埋法12条)。)

 

続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ