第1 はじめに

 

1 恐怖の熊

 熊🐻は怖いですね。

 

23 Ascendit autem inde Bethel. Cumque ascenderet per viam, pueri parvi egressi sunt de civitate et illudebant ei dicentes: “Ascende, calve; ascende, calve! ”.
24 Qui cum respexisset, vidit eos et maledixit eis in nomine Domini; egressique sunt duo ursi de saltu et laceraverunt ex eis quadraginta duos pueros.

Liber Secundus Regum: 2

 

  23 さて,そこ〔エリコ〕から〔Eliseusは〕ベテルに上った。彼が道を上って行くと,小さな子供たちが町から出て来て,「ハゲ,上れ。ハゲ,上れ!」と言いつつ彼を馬鹿にした。

24 彼が振り返ると,子供たちがいたので,主の名において彼らを罵った。2頭の雄熊が森から出て来て,群れている者のうち42人の子供を引き裂いた。

 

(なお,このお話は,「乱臣賊子・一輝北輝次郎」記事において既に御紹介していたところです(https://donttreadonme.blog.jp/archives/1066681538.html)。そこでの英語では殺人熊は雌(she bears)ということになっていましたが,ラテン語版では雄熊になっています(ursiursusの複数主格形です。雌熊はursaで,その複数主格形はursaeです。)。また,「上る(ascendere)」という語が用いられていますが,エリコからその西北西にあるベテルへは,高地に向け上り坂になっているのです。)

 

 我が国においても,202541日から同年1117日までの間に13名の方々が熊(ツキワノグマ(ursus thibetanus)及びヒグマ(ursus arctos))によって殺されています。パレスティナにおけるたちまちのうちの42人殺し(羅和辞典を見ると,lacerareには「苦しめる,悩ます」という緩和された意味もあるとされていますが,やはりここは直截に,引き裂かれて殺されたのでしょう(laceraveruntは,lacerareの単純過去三人称複数形)。)と比べれば,凄惨の度はなお低いとはいえ,恐ろしいことです。

 やはり熊は無慈悲に駆除(有体に言えば,殺すこと。)されるべきだ(Смерть медведям!(熊どもに死を!)),とここでいきなり騒ぎ出すのは性急に過ぎるでしょうか。可愛い熊ちゃんを恐怖の新型コロナウィルスなどとは比べてはならず,当該ウィルスとの比較においては極めて微弱な危険性(40万人死ぬ v. 42人殺し)しかない熊たちは――熊であり,かつ,野生である以上動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)44条の「愛護動物」には含まれませんが(同条4項参照)――愛護されるべきものなのでしょうか。

 野生の熊を捕獲等することに関する法律関係について調べてみましょう。

 

2 「捕獲等(捕獲及び殺傷)」の概念

 なお,本稿における「捕獲等」は,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下「鳥獣保護法」といいます。現在は通常「鳥獣保護管理法」と略されるようですが,2文字節約です。)28項にある定義に倣って,「捕獲又は殺傷をいう」ものとします。

ちなみに現在のこの「捕獲等」概念は,平成2年法律第26号の第3条によって,当時の旧鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(大正7年法律第32号。以下「旧鳥獣保護法」といいます。)ではそれまで単に「捕獲」といっていたものが「捕獲(殺傷ヲ含む以下同ジ)」に改められたことに由来します。「鳥獣を単に殺傷し,又は損傷する行為が〔1990年当時〕社会的な問題となっていたことを受けて,〔略〕鳥獣の捕獲規制を強化する観点から,鳥獣を殺傷し又は鳥類の卵を損傷する行為についても,捕獲又は採取する行為と同様に制限」することとしたものだそうです(環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室監修『改訂5版 鳥獣保護管理法の解説』(大成出版社・2017年)10頁)。「捕獲」の概念は,平成2年法律第26号の法案審議の際における山内豊徳政府委員(環境庁自然保護局長)の答弁では,本来は「産業」としての捕獲ということであるようですから(118回国会衆議院環境委員会議録第310頁及び同国会参議院環境特別委員会会議録第330-31頁),「肉や毛皮を利用する目的」等(鳥獣保護法27項参照)をもって鳥獣を「自己の支配内に入れ」ることであって(鳥獣保護管理室・解説64頁),「自己の支配内に入れる」気も無い単なる殺傷は含まれないということだったのでしょう。

なお,平成2年法律第26号による改正の原因は――1990525日の衆議院環境委員会で宇都宮真由美委員が指摘していたところですが(第118回国会衆議院環境委員会議録第310頁)――1989年に発生した朝日新聞カメラマン珊瑚傷害(珊瑚は,動物です。)虚報事件です。当時の自然環境保全法(昭和47年法律第85号)2734号は珊瑚の「採捕」を罰則(同法542号(6月以下の懲役又は10万円以下の罰金)及び57条(両罰規定))付きで禁じていたところ,朝日新聞のカメラマンは自分で珊瑚に傷をつけてそれを写真に撮って「大変だ」と報道したものの,珊瑚の傷害に留まるものである以上は採捕の「捕」たる捕獲には当たらないものとされて刑事責任を問われずに終わってしまったのでした。旧鳥獣保護法も自然環境保全法の改正にお付合いしたところです。

 

   おって,旧鳥獣保護法における「捕獲」は,「法の目的を踏まえ」,「現実ないし実質的に鳥獣を自己の支配下に入れるか否かを問わず,捕獲の方法を行い,鳥獣を捕獲しうる可能性を生じさせることをいう」と解されていました(鳥獣保護管理室・解説64頁)。しかし,現在の鳥獣保護法では未遂犯処罰規定が設けられ,既遂と未遂との整理がされています。したがって,『有斐閣 判例六法 Professional 令和7年版 011181頁において紹介されている最高裁判所平成828日判決・刑集502221頁の「捕獲」解釈は,旧鳥獣保護法下のものであるので,現行鳥獣保護法における「捕獲」についてはそのまま妥当しないことになります。

 

3 熊の捕獲・殺害の方法

ここであらかじめ,野生の熊の捕獲・殺害の方法について一言。漫画でなければ(ヤマモトマナブ『嘘から出た真琴①』(少年画報社・2024年)94-99頁参照),素手では無理でしょう。大山倍達が殺したのは牛🐄であって熊ではありません。なお,例えば,2016921742分ウェブサイト掲載のJ-CASTニュースによれば,同月1日,群馬県長野原町で63歳の空手高段者が,ツキノワグマに襲われたものの格闘してその右目を指で突いて撃退に成功したそうですが,生け捕り又は殺害には至っていないわけです。環境省の後記「認定鳥獣捕獲等事業者一覧」ウェッブページを見てみると,熊の捕獲等の方法は,銃器を用いるか,罠にかけるかしかないようです(網による捕獲等は,主に鳥類を対象とするもののようです。)。


狸小路の羆

Good bears are dead bears.(札幌市中央区狸小路)

 

第2 熊の捕獲等に係る刑法及び民法の原則

 

1 所有権の客体である場合

 刑法(明治40年法律第45号)には次の規定があります。

 

   (窃盗)

  第235条 他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。


   (遺失物等横領)

  第254条 遺失物,漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は,1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

 

   (器物損壊等)

  第261条 前3条に規定するもの〔公務所の用に供する文書又は電磁的記録,権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録及び他人の建造物又は艦船〕のほか,他人の物を損壊し,又は傷害した者は,3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

 

「他人の財物」である他人の飼い猫をその他人の占有下から勝手に奪い取れば窃盗ですし,「他人の物」である他人の飼い犬を故なく殺傷すれば器物損壊罪が成立するわけです。

ペットは家族なのに物扱いするとは何だ,と憤慨される向きもあるかもしれません。しかし,民法(明治29年法律第89号)において「「物」とは,有体物をいう」ものとされ(同法85条),旧民法財産編(明治23年法律第28号)62項は「有体物トハ人ノ感官ニ触ルルモノヲ謂フ即チ地所,建物,動物,器具ノ如シ」と規定しており,動物は有体物であるからすなわち物,ということになるのでした。(なお,有体物の定義については,梅謙次郎は旧民法的に「有体物ノ定義ハ触官ニ感スルモノトスヘキカ」と述べていましたが(梅謙次郎『訂正増補 民法要義巻之一 総則編』(法政大学=中外出版社=有斐閣書房・1911年(第33版))181頁),現在の通説では「空間の一部を占めて有形的存在を有するもの」となっています(我妻榮『新訂民法総則(民法講義)』(岩波書店・1965年)201頁)。これは,「人ノ感官ニ触ルルモノ」のようではある「電気・熱・光などは物ではない」(我妻201頁)とされることによるのでしょう。)刑法学者も「動物も財物である」と明言しています(前田雅英『刑法各論講義 第4版』(東京大学出版会・2007年)356頁)。

 

2 附論:独仏等民法の動物非物論

 

(1)ドイツ

しかし,ドイツ方面には面倒な議論があります。ドイツ民法90a条は次のように規定しています。

 

  Tiere sind keine Sachen. Sie werden durch besondere Gesetze geschützt. Auf sie sind die für Sachen geltenden Vorschriften entsprechend anzuwenden, soweit nicht etwas anderes bestimmt ist.

 

動物は,物ではない。それらは,特別の法律によって保護される。別段の定めがない限りにおいて,それらには物について効力を有する規定が準用される。

 

同条は,1990年に新設されたもので,ドイツ基本法20a条と関係するものであるそうです(山野目章夫編『新注釈民法(1) 総則(1)』(有斐閣・2018年)793頁(小野秀誠))。

動物をも保護すべく2002年に改正されたドイツ基本法20a条は次のとおりです(なお,同条自体は,まず環境保護に係るものとして1994年に設けられたものです。)。

 

  Der Staat schützt auch in Verantwortung für die künftigen Generationen die natürlichen Lebensgrundlagen und die Tiere im Rahmen der verfassungsmäßigen Ordnung durch die Gesetzgebung und nach Maßgabe von Gesetz und Recht durch die vollziehende Gewalt und die Rechtsprechung.

 

  国家はまた,将来世代に対する責任のため,憲法的秩序の枠内において立法により,並びに法律及び法に則して執行権及び司法により,自然に係る生活基盤及び動物を保護する。

 

 動物の「疑似人格化」(山野目編793頁(小野))ということでしょう。

 ドイツ人は進んでいると言うべきか,どうか。

 そういえば,18世紀プロイセンのフリードリヒ大王も,女嫌い・人間嫌いで,最後は愛犬ら🐶と一緒に死後埋葬されることを希望するに至っていたのでした。

 

(2)オーストリア

 なお,ドイツ民法90a条に先行するものとしては,1988年に設けられたオーストリア民法285a条があります。同条は,次のとおり。

 

Tiere sind keine Sachen; sie werden durch besondere Gesetze geschützt. Die für Sachen geltenden Vorschriften sind auf Tiere nur insoweit anzuwenden, als keine abweichenden Regelungen bestehen.

 

動物は,物ではない。それらは,特別の法律によって保護される。物について効力を有する規定は,別異の規制がない限りにおいてのみ動物に適用される。

 

(3)スイス

 更に,2003年から施行された2002年改正によるスイス民法641a条は次のとおりです。

 

  1 Tiere sind keine Sachen.

2 Soweit für Tiere keine besonderen Regelungen bestehen, gelten für sie die auf Sachen anwendbaren Vorschriften.

 

  1 動物は,物ではない。

  2 動物について特別の規制が存在しない限りにおいて,それらに対しては物に適用されるべき規定が効力を有する。

 

(4)フランス

 2015年に設けられたフランス民法515条の14は,動物は物ではないとの宣言まではしないものの,次のとおり規定しています。

 

   Les animaux sont des êtres vivants doués de sensibilité. Sous réserve des lois qui les protègent, les animaux sont soumis au régime des biens.

 

   動物は,感覚を備えた生物である。それらを保護する法律の留保の下,動物は物に係る規制に服する。

 

 閑話休題。

 

3 無主物である場合

 旧民法財産編には,次の規定がありました。

 

  第24条 無主物トハ何人ニモ属セスト雖モ所有権ノ目的ト為ルコトヲ得ルモノヲ謂フ即チ遺棄ノ物品,山野ノ鳥獣,河海ノ魚介ノ如シ

 

「山野ノ鳥獣,河海ノ魚介ノ如」きもの,すなわち野生動物は,無主物であるというわけです(「野生の鳥獣,海洋の魚介類などはその〔無主物の〕典型である」(我妻榮著=有泉亨補訂『新訂物権法(民法講義)』(岩波書店・1983年)299頁)。)。したがって,「他人の財物」又は「他人の物」ではないことになるので,それらを採捕しても窃盗ないしは遺失物等横領にならず,殺傷しても器物損壊にならないようです。「野生動物を捕獲する行為は,〔略〕窃盗にはならない」し,「動物の殺傷行為は,ペットなら毀棄罪だが,無主犬なら犯罪を構成しない」わけです(前田・各論180頁)。民法2391項は,「所有者のない動産は,所有の意思をもって占有することによって,その所有権を取得する。」と規定しています(不動産以外の物は,動産です(同法862項)。)。

 刑法・民法の原則によれば,野生の熊の捕獲等は自由にできそうです。

 しかし,鳥獣保護法によって鳥獣の保護がされているのです。

 

なお,「漁業法や狩猟法は魚・鳥・獣の捕獲等に種々の制限や禁止を加えているが,それに違反した先占も私法上の効果は妨げられないと解される。」とされています(我妻=有泉300頁)。そうだとすると,鳥獣保護法101項(及び同法1510項)には環境大臣又は都道府県知事が「鳥獣を解放すること」を命ずることができる場合に係る規定がありますところ,これは,同法に違反した鳥獣捕獲者にも当該被捕獲鳥獣の所有権が存することを前提に,それらの場合において,当該所有権を放棄する意思表示をし(特定の人に対する意思表示である必要はありません(我妻=有泉248頁)。),かつ,当該鳥獣を物理的に解放することを命ずるものということになるのでしょう。この点なお,旧民法財産取得編(明治23年法律第28号)はその第2条で「先占ハ無主ノ動産物ヲ己レノ所有ト為ス意思ヲ以テ最先ノ占有ヲ為スニ因リテ其所有権ヲ取得スル方法ナリ」と規定しつつ,続く第31項で「狩猟,捕魚ノ権利ノ行使及ヒ漂流物,遺失物ノ取得ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス」るものとしていました。すなわち,先占による所有権取得に係る同編2条の規定の例外を,狩猟権・捕魚権に関する特別法によって設けることも想定されていたわけです。

 

第3 鳥獣保護法

 

1 「鳥獣」の概念

 

(1)鳥類又は哺乳類

 鳥獣保護法上の「鳥獣」は,「鳥類又は哺乳類に属する野生動物」です(同法21項)。熊は哺乳類に属しますから,野生の熊は鳥獣保護法上の鳥獣ということになります。

 

(2)鳥獣保護法の適用を受けない鳥獣

 なお,鳥獣保護法は難儀な法律であって,同法801項に基づく鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則(平成14年環境省令第28号。以下「鳥獣保護法施行規則」といいます。)781項によって,ドブネズミ,クマネズミ及びハツカネズミが「環境衛生の維持に重大な支障を及ぼすおそれのある鳥獣」として,同条2項によってニホンアシカ並びにゼニガタアザラシ,ゴマフアザラシ,ワモンアザラシ,クラカケアザラシ及びアゴヒゲアザラシ並びにジュゴン以外の海棲哺乳類が「他の法令により捕獲等について適切な保護又は管理がなされている鳥獣」として定められており,その結果,これらのものについては同法の適用が排除されています(同法801項)。ドブネズミ,クマネズミ及びハツカネズミには鳥獣保護法の適用がない一方,海棲哺乳類であってもニホンアシカ並びにゼニガタアザラシ,ゴマフアザラシ,ワモンアザラシ,クラカケアザラシ及びアゴヒゲアザラシ並びにジュゴンには同法の適用があるわけです。

 

(3)「野生」の概念

 

ア 環境省の解釈

「野生動物」にいう「野生」は,鳥獣保護法上は「当該個体が元々飼育下にあったかどうかを問わず,飼主の管理を離れ,常時山野等において,専ら野生生物を捕食し生息している状態を指」すそうです(鳥獣保護管理室・解説25頁)。しかしてこの「野生動物」には,家畜に分類される動物も含まれ得ます。「飼主の元を離れて常時山野等において,専ら野生生物を捕食し生息している個体は「ノイヌ」「ノネコ」と定義され」,「生物学的な分類ではペットとして飼われているネコ,イヌと変わらない」のですが,「狩猟鳥獣」となるそうです(鳥獣保護管理室・解説25頁。なお,狩猟鳥獣は,その前提において野生動物であります(鳥獣保護法28項及び1項)。)。他方,「飼い主のもとを離れてはいても,市街地または村落を徘徊しているようないわゆる「ノラネコ」「ノライヌ」は〔鳥獣保護〕法の対象にはならない。」とされています(鳥獣保護管理室・解説25-26頁)。「常時山野等において,専ら野生生物を捕食し生息している状態」までが必要です。

 

イ 無主ならざる野生動物の存在可能性

 

(ア)ローマ法と日本法と

ローマ法では,「無主物先占〔略〕による鳥獣は占有者の占有を脱して逃げ去つたときは,自然状態に復帰して無主物となる。野生動物が馴養せられた場合には帰還の意思(animus revertendi)をも失つたとき初めて所有権は消滅」したそうです(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)117頁)。

しかし,我が現行民法下においては,一旦所有権が成立したところの飼養されている元野生動物は「逃失しても直ちに無主物に帰るわけではない(〔例外として,〕山で捕獲したが,帰途逃げられた場合は無主物に戻ると解される)。」(我妻=有泉499頁),家畜外の動物は「逃失しても直ちに無主物とはならない(〔ただし,〕飼養者が放棄すればもちろん無主物になる〔略〕)」とされています(同頁)。家畜以外の動物について規定する民法195条によれば,飼主の占有を離れた家畜以外の動物の所有権はなお当該飼主にあるのです(ただし,「飼主の占有を離れた時から1箇月内に飼主から回復の請求を受け」た場合を除き,善意の占有者が所有権を取得)。

 

(イ)有主の「野生動物」の存在

「元々飼育下にあった」が「飼主の管理を離れ」たという前歴を有するところの鳥獣保護法上の野生動物には,所有者が存在しているようです(前段の(ア)では家畜以外の動物について見ましたが,いわんや解釈で,家畜に分類される種類の動物についても当てはまることになります。)。

そうであれば,当該所有者持ち「野生動物」の捕獲等については,遺失物等横領罪(刑法254条)又は器物損壊罪(同法261条)の成立が一応問題になり得ます。しかし刑事上は,それらしい動物が「常時山野等」にいるのであれば「無主物であろう」と通常思われますから,横領者又は損壊者には他人の財物性の認識がないということで犯罪成立に必要な故意が欠けるとされるのでしょう。

他方,民事上はなお――家畜以外の動物であれば飼主の占有を離れてから1箇月経過後は善意で占有すれば直ちに所有権を取得できるのですが――銃で撃って傷害を負わせるにとどまったりすると所有権侵害ということで問題が残りそうです。

また,ノイヌやノネコのような,そもそもが家畜である動物については問題がより大きくなります。家畜については,飼主の所有権の消滅は民法195条ではなく遺失物法(平成18年法律第73号)の規定する拾得者の所有権取得によることになり(同法21項括弧書き及び3条並びに民法240条),拾得者の所有権取得のためには遺失物法による手続を経ることが必要です。

要するに,鳥獣保護法上の野生動物は全て無主物である,ということにはならないのでしょう。しかして所有権には消滅時効がありませんから(民法1662項反対解釈),当初の所有者(又はその相続人)が所有権放棄をしない限り当該動物及びその子孫はいつまでも所有者持ちということになるようです(所有権の放棄は「占有の放棄その他によって,放棄の意思が表示されれればよい」とされていますが(我妻=有泉248頁),動物が勝手に逃亡したときなどは問題です。)。鳥獣の卵や子はそれらの鳥獣の天然果実(民法881項)ということになりますが,「天然果実は,その元物から分離する時に,これを収取する権利を有する者に帰属」してしまいます(同法891項)。元物たる鳥獣の所有者であれば,果実たる卵又は子を収取する権利を有する者でしょう。また,所有権存続の執拗性に関しては判例があります。大審院昭和839日判決・刑集12232頁は,宮崎県児湯郡の「塚」に副葬品として埋蔵されていた鏡,勾玉,管玉等に係る所有権の存在について,「叙上埋葬者ノ権利〔副葬品に対する埋葬者の所有権〕ハ其ノ子孫又ハ他ノ親族其ノ他ノ者ニ依リ承継セラルヘキ関係ニ在ルカ故ニ仮ニ本件被告人等ノ発掘シタル古塚ハ昔時墳墓タリ且本件発掘物件ハ遺骸ト共ニ納蔵セラレタル物ニシテ所論ノ如ク千五六百年以上ヲ経過シタルモノトスルモ其ノ所有権者ナキコトニ付何等ノ証拠ナキ本件ニ於テハ直ニ無主物ナリト速断スヘカラス原判示ノ如ク其ノ所有者不明ナル埋蔵物ヲ以テ論スヘキモノトス然レハ原判決カ本件物件ヲ以テ刑法254条ニ所謂占有ヲ離レタル他人ノ物ナリト判示シタルハ正当ニシテ所論ノ如ク実験則ニ反スル違法ノ認定ナリト謂フヘカラス又現時該物件ノ所有者不明ナルコトハ原判示ニ挙示シタル全証拠ヲ総合スレハ之ヲ推認スル()()カラサルヲ以テ所論ノ如ク此ノ点ニ付証拠ヲ缺如スルノ違法モ亦存在セス」と判示しています。

なお,現在の少子化日本社会においては,所有者の家系が先に絶えてしまい,当該所有者のもとから逃失した動物及び/又はその子孫が法人を構成しているということもあるのでしょう(民法951条)。

 

(ウ)環境省の見解:全野生動物無主物論

しかし環境省御当局の認識は,「野生鳥獣は無主物である」ということであるそうです(鳥獣保護管理室・解説124頁)。そうであると,家畜であっても,家畜以外の動物であっても「飼主の管理を離れ,常時山野等において,専ら野生生物を捕食し生息」する状態になれば自由を獲得して無主物になって所有権の頸木の下から脱して鳥獣保護法の保護下に入るのだ,動物は物ではないからそこに所有権の恒久性は妥当しないのだ,我が鳥獣保護法制はドイツ民法90a条にいう「別段の定め」なのだ,云々というような議論が同省内ではされているのでしょうか。(Waldluft macht frei?

 

(この辺に関して,かつて「蜜蜂ノオト」記事において煩瑣な議論をしたことがあります(https://donttreadonme.blog.jp/archives/1076108312.html)。)

 

2 鳥獣保護法8条本文の鳥獣保護の原則とその例外(緊急銃猟を除く。)と

 

(1)鳥獣保護法8条の条文等

 鳥獣保護の原則に関して,鳥獣保護法8条が次のように定めています。

 

   (鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の禁止)

  第8条 鳥獣及び鳥類の卵は,捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない。ただし,次に掲げる場合は,この限りでない。

   一 次条〔第9条〕第1項の許可を受けてその許可に係る捕獲等又は採取等をするとき。

   二 第11条第1項の規定により狩猟鳥獣の捕獲等をするとき。

   三 第13条第1項の規定により同項に規定する鳥獣又は鳥類の卵の捕獲等又は採取等をするとき。

 

 なお更に,鳥獣保護法8条の規定は,指定管理鳥獣捕獲等事業を実施する場合(同法14条の28項),保全事業を実施する場合(同法28条の26項)及び緊急銃猟を実施する場合(同法34条の25項)には適用されません(枝番号ですから,これらは後から加えられた制度です。更に余計な感想を言えば,これらの制度については鳥獣保護法8条における一覧性が確保されておらず面倒です。)。

 鳥獣保護法8条による鳥獣の捕獲等禁止に対応する罰則規定は,当該鳥獣が同法28項の「狩猟鳥獣」(これは,環境省令によって定められます。)に該当するか否かによって適用が変わります。同法8311号(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)のそれは,狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等に係るものです。狩猟鳥獣については同項2号等で罰せられることになります(しかし同号及び同項3号には「第8条の規定に違反して」という文言がありません。このことについては後に論じます。)。

 ちなみに,現在の鳥獣保護法8311号から3号までは,同法の制定当初は次のように規定されていました(なお,未遂も罰せられます(同条2項)。)。

 

一 第8条の規定に違反して狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をした者(第9条第13項〔現在は第14項〕の規定により同条第1項の許可を受けることを要しないとされた者を除く。)

   二 狩猟可能区域以外の区域において,又は狩猟期間(第11条第2項の規定により限定されている場合はその期間とし,第14条第1項〔現在は第2項〕の規定により延長されている場合はその期間とする。)外の期間に狩猟鳥獣の捕獲等をした者(第9条第1項の許可を受けた者及び第13条第1項の規定により捕獲等をした者を除く。)

 

 現在の鳥獣保護法8313号が抜けています。実は同号は,制定時の規定振りについて立法ミスが発覚して,平成18年法律第67号によって「第2号の2」として追加されたものです。立法ミスというのは,制定時の第2号で「第14条第1項の規定により延長されている場合はその期間とする」となっている都道府県知事による狩猟期間延長は専ら特定鳥獣たる狩猟鳥獣に係る種類限定のものとしてされるのでしたが,制定時の第2号の構成要件では,一の特定鳥獣たる狩猟鳥獣について狩猟期間の延長がされると全ての狩猟鳥獣にまで狩人不可罰の狩猟期間の延長の被害が及ぶことになっていたのでした。(なお,あるいは当然のことですが,鳥獣保護管理室・解説13-14頁の平成18年法律第67号による改正の紹介においても,同書304-310頁の罰則釈義においても,このカッコ悪いトホホな裏話に触れられるところはありません。)環境省も内閣法制局も信用ならないですなぁ。鳥獣保護法の解釈は,当該実定法律の完璧性を前提にして行ってはならないようです。令和7年法律第28号による今次改正で第2号の2が第3号とされて,非枝番号化によって現行第3号が制定当初からあったものと見えるように姑息な小細工(と言うのは失礼でしょうか。)がされていますが,まあ相身互いです。本稿における筆者の謬見・妄想も御海容ください。

野生の熊は,鳥獣保護法施行規則3条及び別表第2によって,狩猟鳥獣であるものと定められています。他の狩猟鳥獣たる哺乳動物は,タヌキ,キツネ,ノイヌ🐶,ノネコ🐈,テン(ツシマテンを除く。),イタチ(オスに限る。)💭,シベリアイタチ(対馬市の個体群以外の個体群),ミンク,アナグマ,アライグマ,ハクビシン,イノシシ🐗,ニホンジカ,タイワンリス,シマリス🐿,ヌートリア,ユキウサギ及びノウサギです。


(2)保全事業

保全事業は,「鳥獣の生息地の保護及び整備を図るための鳥獣の繁殖施設の設置その他の事業であって環境省令で定めるもの」ですから(鳥獣保護法28条の21項),里に下りて来た熊の退治には関係ないでしょう。

鳥獣保護法28条の21項の環境省令で定める事業として「鳥獣の生息地の保護及び整備に支障を及ぼすおそれのある動物の捕獲等」が掲げられていますが(鳥獣保護法施行規則33条の26号),これについては「増加したシカの食害による植生の荒廃,人為的に放たれた動物による土壌の荒廃,あるいは〔略〕整備した植生への被害等を防止するために行う,これらの動物の捕獲等」が想定されているそうです(鳥獣保護管理室・解説182頁)。また,保全事業は鳥獣保護区内で実施されるものです(同法28条の21項)。

 

(3)指定管理鳥獣捕獲等事業

 

ア 概要及び熊の対象性

 指定管理鳥獣捕獲等事業とは,「当該都道府県の区域内において,その生息数が著しく増加し,又はその生息地の範囲が拡大している鳥獣(希少鳥獣を除く。)がある場合において,当該鳥獣の生息の状況その他の事情を勘案して当該鳥獣の管理を図るため特に必要があると認めるとき」に都道府県知事が定めることのできる「当該鳥獣(以下「第二種特定鳥獣」という。)の管理に関する計画」であるところの第二種特定鳥獣管理計画(鳥獣保護法7条の21項)において,当該「第二種指定鳥獣が指定管理鳥獣であり,かつ,都道府県又は国の機関が当該指定管理鳥獣の捕獲等をする事業を実施する場合において」その実施に関する事項が定められる当該捕獲等をする事業です(同条25号)。

野生の熊は,鳥獣保護法上の「希少動物」(同法24項)ではないところ(鳥獣保護法施行規則1条の2及び別表第1反対解釈),同法上の「指定管理鳥獣」(同法25項)であります(同規則1条の3。ただし,四国の4県のツキノワグマの個体群を除きます。ちなみに他の指定管理鳥獣は,イノシシ🐗及びニホンジカであって,これらは平成26年法律第46号の施行当初からの指定管理鳥獣です。熊が指定管理鳥獣になったのは,2024416日公布・施行の令和6年環境省令第19号によってでした。)。

なお,鳥獣保護法上の鳥獣の「管理」は,「生物の多様性の確保,生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から,その生息数を適正な水準に減少させ,又はその生息地を適正な範囲に減少させること」だそうで(同法23項),マクロ的な対策であって,鳥獣による目前の生命身体に対する危険の除去といったミクロ的な対応を念頭に置いてのものではないようです。

 

イ 秋田県の例

熊による人身被害の多い秋田県においては20253月に同年4月から5箇年間にわたる「秋田県第二種特定鳥獣管理計画(第6次ツキワノグマ)」が定められています。しかし,同計画中に「指定管理鳥獣捕獲等事業」の語はありません(PCで検索をかけてみました。)。また,同県の県庁ウェブサイトを見ると,2025728日現在で,2025年度の指定管理鳥獣捕獲等事業実施計画(鳥獣保護法14条の21項参照)は「今後策定する予定です。」ということになっています。

熊に係る指定管理鳥獣捕獲等事業は,一番熱心な取組がありそうな秋田県においてすら不活発なのですね。

指定管理鳥獣捕獲等事業は,実際には認定鳥獣捕獲等事業者(鳥獣保護法18条の2以下)に委託して実施することが想定されていたのでしょうが(同法14条の27項参照。そもそも「都道府県及び国の機関の職員のみで実施することは困難であると想定され」ていました(鳥獣保護管理室・解説111頁及び「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」(平成28年環境省告示第100号)Ⅳ第4)。),環境省の「認定鳥獣捕獲等事業者一覧」ウェブページを見ると,20251031日現在で,秋田県内の認定鳥獣捕獲等事業者は1事業者のみであって,その捕獲等の方法はわなであり,かつ,捕獲等の対象とする鳥獣にツキノワグマは含まれていなかったのでした(同法18条の312号参照。なお,ツキノワグマを捕獲等の対象とする認定鳥獣捕獲等事業者は,東北地方には岩手県及び宮城県に各1事業者しか存在しないようです。)。

ちなみに,当該ウェブページによれば,同日現在北海道では34事業者が認定鳥獣捕獲等事業者となっていますが,ヒグマを捕獲等の対象とするものは2事業者のみでした(捕獲等の方法は,いずれも装薬銃又はわなによるもの)。

緊急銃猟については最後に論ずることとして,鳥獣保護法8条に戻りましょう。

 

(4)鳥獣保護法8条3号=13条1項:土竜・鼠退治

 鳥獣保護法83号にいう同法131項に規定する鳥獣は環境省令によって定められます。しかして当該鳥獣は,鳥獣保護法施行規則12条によって土竜(もぐら)及び(ねずみ)🐭(ドブネズミ,クマネズミ及びハツカネズミを除く。)とされています。

(ここでドブネズミ,クマネズミ及びハツカネズミがわざわざ除かれているのは,前記のとおり鳥獣保護法801項に基づく鳥獣保護法施行規則781項の定めにより,これら3種の鼠はそもそも同法8条の保護の外にあるからです。)

なお,鳥獣保護法131項の規定による捕獲等とは「農業又は林業の事業活動に伴いやむを得ずする捕獲等」です(鳥獣保護法施行規則13条)。

鳥獣保護法83号=131項では土竜及び鼠しか退治できず,保全事業はそもそも性格が違い,また指定管理鳥獣捕獲等事業は不活発であるようであるところ,野生の熊の捕獲等がされるのは鳥獣保護法81号若しくは2号又は緊急銃猟の場合であるということになります。

まず鳥獣保護法82号による狩猟鳥獣の捕獲等について見てみましょう。

 

(5)鳥獣保護法8条2号の狩猟鳥獣の捕獲等

 

ア 鳥獣保護法11条1項

鳥獣保護法82号に指示されて,狩猟鳥獣の捕獲等に係る同法111項を見ると,号が二つある同項の第1号又は第2号の場合には,狩猟可能区域内において,かつ,狩猟期間中であれば,同法91項の許可を受けずに野生の熊(狩猟鳥獣です。)の捕獲等ができることになっています。なお,狩猟可能区域以外の区域で,又は狩猟期間外の期間に野生の熊の捕獲等をした場合には,同法91項の許可を受けた者であるとき等を除き,1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金刑に処されます(同法8312号)。

 

イ 鳥獣保護法11条1項1号:狩猟者登録が必要な場合

鳥獣保護法1111号は,「狩猟」の場合です。

 

(ア)「狩猟」の概念

鳥獣保護法上の「狩猟」は,その猟法の及び対象となる鳥獣の各範囲において,鳥獣の捕獲等よりも狭い概念です。すなわち,「法定猟法により,狩猟鳥獣の捕獲等をすること」です(鳥獣保護法29項)。

「法定猟法」は,装薬銃若しくは空気銃(圧縮ガスを使用するものを含み,コルクを発射するものを除く。),網(むそう網,はり網,つき網及びなげ網に限る。)又はわな(くくりわな,はこわな,はこおとし及び囲いわな(囲いわなにあっては,農業者又は林業者が事業に対する被害を防止する目的で設置するものを除く。)に限る。)を使用する猟法です(鳥獣保護法27項及び鳥獣保護法施行規則2条。鳥獣保護法27項の「その他環境省令で定める猟法」は,鳥獣保護法施行規則には見当たりません。)。

また,「銃器を使用した鳥獣の捕獲等」が「銃猟」ということになります(同法34条の21項)。しかし,狩猟鳥獣に係る銃猟であって狩猟でないものが存在し得ます。すなわち,銃猟についていわれる「銃器」は装薬銃及び空気銃であり,当該空気銃には,圧縮ガスを使用するもののほか,法定猟法の空気銃とはならないコルクを発射するものも含まれるからです(同法27項括弧書き)。

 

(イ)狩猟者登録(鳥獣保護法55条1項)等

狩猟をする場合は,狩猟をしようとする区域を管轄する都道府県知事の登録(狩猟者登録)を受けなければならず(鳥獣保護法551項本文),また,当該登録は,狩猟免許(同法391項)を前提としています(同法581号及び63条)。狩猟者登録を要さず狩猟ができる場合として規定されている鳥獣保護法1112号に掲げる場合,同法91項の許可を受けた場合又は緊急銃猟の実施の場合(同法551項ただし書)等を除くほか,狩猟者登録を受けないで狩猟をしたとき,又はその未遂のときは,1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金をもって罰されます(鳥獣保護法551項並びに8316号及び2項)。なお,狩猟者登録の有効期間は,1015日から(北海道では915日から)翌年の415日までに限られています(鳥獣保護法552項)。

 

ウ 鳥獣保護法11条1項2号:狩猟者登録が不要な場合

 鳥獣保護法11条1項2号の場合には狩猟者登録が不要です。

鳥獣保護法1112号は更にイ及びロに分かれています。同号イはそもそも狩猟ではない場合,すなわち「法定猟法以外の猟法」による狩猟鳥獣の捕獲等の場合です。結果としてはやはり狩猟鳥獣の捕獲等をすることになるのに,猟法に着目して狩猟が別立てで規定されているのは,鳥獣保護法は,鳥獣の保護及び管理のみならず,狩猟の適正化(「猟具の使用に係る危険を防止」(同法1条))をも重ねて目的としているからでしょう。

鳥獣保護法1112号のロは「垣,柵その他これに類するもので囲まれた住宅の敷地内において銃器を使用しないでする狩猟鳥獣の捕獲等」の場合ですが,当該捕獲等の際の猟法は,法定猟法以外の猟法に係るイとの重複を避ければ,銃器を使用するもの以外の法定猟法――すなわち,網(むそう網,はり網,つき網及びなげ網に限る。)又はわな(くくりわな,はこわな,はこおとし及び囲いわな(囲いわなにあっては,農業者又は林業者が事業に対する被害を防止する目的で設置するものを除く。)に限る。)を使用する猟法――ということになるわけです。一見すると網又はわなによる狩猟ということのようですが,「狩猟」とは表記されていません(「狩猟鳥獣の捕獲等」と表記)。「垣,柵その他これに類するもので囲まれた住宅の敷地内」において網又はわなで狩猟鳥獣を捕獲等する分には狩猟扱いしない,ということでしょう。ただし,この鳥獣保護法1112号ロの場合について狩猟者登録を不要とする同法551項ただし書の除外規定を見ると,そこではなお狩猟扱いのようであります。

 

エ 狩猟可能区域

狩猟可能区域以外の区域(当該区域に鳥獣保護法8312号の罰則が適用されることになります。)は,①鳥獣保護区,②休猟区(鳥獣保護法141項により指定された区域を除く。)並びに③公道,④自然公園法(昭和32年法律第161号)211項の特別保護地区,⑤都市計画法(昭和43年法律第100号)46項の都市計画施設である公共空地(都市計画施設に係る同法111項の第2号においては「公園,緑地,広場,墓園その他の公共空地」とあります。)その他公衆慰楽の目的で設けた園地であって,囲い又は標識によりその区域を明示したもの,⑥自然環境保全法(昭和47年法律第85号)141項の原生自然環境保全地域,⑦社寺境内及び⑧墓地です(鳥獣保護法111項の各号列記以外の部分及び鳥獣保護法施行規則8条)。

これら区域以外の区域が「狩猟可能区域」です(鳥獣保護法111項第2括弧書き)。

                

オ 狩猟期間

狩猟期間は,鳥獣保護法の原則では,北海道で毎年915日から翌年415日まで,それ以外の地域では毎年1015日から翌年415日までですが(同法210項),同法112項に基づき環境大臣が限定をかけており,北海道においては毎年101日から翌年131日まで(猟区の区域内では毎年915日から翌年2月末まで),それ以外の区域では毎年1115日から翌年215日まで(猟区の区域内では毎年1015日から翌年315日まで)となっています(鳥獣保護法施行規則9条。なお,環境大臣によりされたこの限定の再緩和について鳥獣保護法142項に規定があり,それによって秋田県ではツキノワグマの捕獲等を111日からできるようにしています(「秋田県第二種特定鳥獣管理計画(第6次ツキワノグマ)」14頁参照)。)。

なお,猟区とは,「狩猟鳥獣の生息数を確保しつつ安全な狩猟の実施を図るため」の一定の区域であって,「放鳥獣,狩猟者数の制限その他狩猟の管理」がされ,かつ,規程が定められているものです(鳥獣保護法681項)。猟区については,入猟承認料を徴収することができます(鳥獣保護法6825号及び鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行令(平成14年政令第391号。以下「鳥獣保護法施行令」といいます。)65号)。

 

カ 熊退治への適応不良

結局,鳥獣保護法82号に拠ろうとしても,狩猟可能区域以外の区域である公道🛣や公園🏞等に熊🐻が出たらどうするんだ💦,狩猟期間外の夏に熊🐻が出たらどうするんだ💦,ということになります。したがって,人間様の安全のためにする・人里に下りて来た野生の熊退治は,指定管理鳥獣捕獲等事業が余り当てにならない以上,鳥獣保護法上は専ら同法81号に規定される同法91項の許可又は緊急銃猟に係る規定(同法34条の2以下)に基づくことになるようです。

 

(6)鳥獣保護法8条1号=9条1項の許可を受けての捕獲等

 

ア 従来の熊退治における法的根拠

緊急銃猟は,令和7年法律第28号により202591日から導入された(同法附則1条及び令和7年政令第254号)新しい制度です。したがって,それより前の時期に「人里に出て来た熊を猟友会に頼んで撃ってもらった」場合の熊の殺傷の法的根拠は,鳥獣保護法91項の許可であったことになります(同法82号によった可能性もなおありますが)。

ところで,いざ熊が出て来ると行政は慌てて猟友会に「お願い」をしたのでしょうが,鳥獣保護法81号=91項の規定振りは,まず猟友会サイドから「熊がいたら撃たせてください」と行政に許可を申請する形になっています。

鳥獣保護法91項の各号列記以外の部分は,次のように規定しています。

 

  学術研究の目的,鳥獣の保護又は管理の目的その他環境省令で定める目的で鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をしようとする者は,次に掲げる場合にあっては環境大臣の,それ以外の場合にあっては都道府県知事の許可を受けなければならない。

 

イ 熊退治の目的:「有害鳥獣駆除」

 

(ア)「鳥獣の管理の目的」

ここで,里に下りて来た野生の熊を捕獲等するための許可は「鳥獣の管理の目的」をもって受けるのか,鳥獣保護法91項の環境省令の定めである鳥獣保護法施行規則5条のうち最後の第6号の「前各号に掲げるもののほか公益上の必要があると認められる目的」をもって受けるのかが筆者としてはちと気になりました(なお,同条1号から5号までには,のどかな目的が並んでいます。いわく,①博物館,動物園その他これに類する施設における展示,②愛玩のための飼養,③養殖している鳥類の過度の近親交配の防止,④鵜飼漁業への利用及び⑤伝統的な祭礼行事等への利用,と。)。前記のとおり,鳥獣の管理は「〔前略〕生活環境の保全〔略〕を図る観点から,その生息数を適正な水準に減少させ,又はその生息地を適正な範囲に減少させること」ですので,「鳥獣の管理の目的」では,里に下りて来たところの目前の怖い具体的なその熊を捕獲等する必要に比べるとのんびりし過ぎて(「その生息数を適正な水準に減少させ,又はその生息地を適正な範囲に減少させているうちに里に熊が下りてこなくなるんじゃないのぉ・・・」),ずれがあるように思われたのです。

しかし,これまでの経緯からすると,「鳥獣の管理の目的」による鳥獣の捕獲等に,有害鳥獣駆除が含まれるのでしょう。

 

(イ)従来からの経緯

鳥獣保護法91項の前身規定は旧鳥獣保護法121項でしたが,そこでは「〔前略〕有害鳥獣駆除ノ為〔略〕主務大臣又ハ地方長官ノ許可ヲ受ケタル場合ニ於テハ〔狩猟の規制に係る同法の規定にかかわらず〕鳥獣ヲ捕獲シ又ハ鳥類ノ卵ヲ採取スルコトヲ得」と規定されていました。野生の熊は有害だから許可してください,とは言いやすいところでした。

また,現行鳥獣保護法91項の各号列記以外の部分は当初は「学術研究の目的,鳥獣による生活環境,農林水産業又は生態系に係る被害の防止の目的,第7条第2項第5号に掲げる特定鳥獣の数の調整の目的その他環境省令で定める目的で鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をしようとする者は,次に掲げる場合にあっては環境大臣の,それ以外の場合にあっては都道府県知事の許可を受けなければならない。」であって,これもまた,野生の熊が出てくると「生活環境に係る被害」が生ずるおそれがあるからその防止のために当該熊らの捕獲等が必要だ,と言い得たものでしょう。

現行鳥獣保護法23項の鳥獣についての「管理」の定義規定が設けられ,同法91項の各号列記以外の部分が現在の形になったのは,平成26年法律第46号による改正によってのことでありました。当該改正において,「鳥獣による生活環境,農林水産業又は生態系に係る被害の防止」が「鳥獣の管理の目的として整理された」ものと説明されています(鳥獣保護管理室・解説71頁)。「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」環境省告示のⅢ第42-32)において,「鳥獣の管理を目的とする場合」中「鳥獣による生活環境,農林水産業又は生態系に係る被害の防止の目的」をもってする鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等に係る鳥獣保護法91項の許可の基準について記載されています。

 

(ウ)銃刀法

なお,銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号。以下「銃刀法」といいます。)411号は「狩猟,有害鳥獣駆除又は標的射撃の用途に供するため猟銃又は空気銃(空気拳銃を除く。〔略〕)又はクロスボウを所持しようとする者〔後略〕」は都道府県公安委員会の許可を受けるべき旨を定め,同法3条の134号は「次条〔第4条〕第1項第1号の規定により狩猟又は有害鳥獣駆除の用途に供するため猟銃若しくは空気銃又はクロスボウの所持の許可を受けた者が,当該用途(有害鳥獣駆除の用途にあつては,政令で定める有害鳥獣駆除(次号及び第6号において「特定有害鳥獣駆除」という。)以外の有害鳥獣駆除(第10条第2項第1号及び第3号において「一般有害鳥獣駆除」という。)の用途に限る。)に供するため,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の規定によりこれらを使用して鳥獣の捕獲等(捕獲又は殺傷をいう。以下同じ。)をする場合〔後略〕」には「道路,公園,駅,劇場,百貨店その他の不特定若しくは多数の者の用に供される場所若しくは電車,乗合自動車その他の不特定若しくは多数の者の用に供される乗物(以下この条において「道路等」という。)に向かつて,又は道路等において」当該猟銃若しくは空気銃又はクロスボウの発射が可能であると規定し,同法1021号は「第4条第1項第1号の規定により狩猟又は有害鳥獣駆除の用途に供するため猟銃若しくは空気銃又はクロスボウの所持の許可を受けた者が,当該用途(有害鳥獣駆除の用途にあつては一般有害鳥獣駆除の用途に限る。)に供するため,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の規定によりこれらを使用して鳥獣の捕獲等をする場合〔後略〕」には当該猟銃若しくは空気銃又はクロスボウの発射が可能であると規定しています。

銃刀法3条の134号の「政令で定める有害鳥獣駆除」たる特定有害鳥獣駆除は,鳥獣保護法91項の規定による許可に基づく鳥獣の捕獲等以外の有害鳥獣駆除です(銃砲刀剣類所持等取締法施行令(昭和33年政令第33号)1条)。銃刀法1021号の一般有害鳥獣駆除(同法3条の134号)は,したがって,鳥獣保護法91項の規定による許可に基づく鳥獣の捕獲等に限定されます。

 

ウ 捕獲等に係る対象となる鳥獣,期間,区域及び方法に関して

鳥獣保護法91項の許可の申請に当たっては,同条2項の「環境省令で定めるところ」として,「捕獲等をしようとする鳥獣又は採取等をしようとする鳥類の卵の種類及び数量」(鳥獣保護法施行規則7条1項2号)及び「捕獲等又は採取等の目的,期間,区域及び方法」(同項3号)を申請書に記載せよということになっています。

 

(ア)対象となる鳥獣,期間及び区域

すなわち,狩猟鳥獣のみが対象とされ,かつ,狩猟期間及び狩猟可能区域について制限のある鳥獣保護法82号=111項の場合とは異なり,同法81号=91項の場合,これら(対象となる鳥獣,期間及び区域)については環境大臣又は都道府県知事(なお,地方自治法(昭和22年法律第67号)252条の172又は鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(平成13年法律第134号。以下「鳥獣被害防止特措法」といいます。)6条により都道府県知事から市町村長に権限が委譲されている場合があります。)の許可の内容次第ということなのでしょう。

 

捕獲等の対象となる鳥獣に関して,環境大臣又は都道府県知事による対象狩猟鳥獣の捕獲等の禁止又は制限(鳥獣保護法121項から3項まで)に対して,その適用を同法91項の許可を受けた者及びその従事者について排する同法125項を参照。(「対象狩猟鳥獣」とは何かといえば,狩猟鳥獣(これには鳥類のひなは含まれません(同法28項第2括弧書き)。)にそのひなを加えたものです(同法112項)。)なお,鳥獣保護法1211号に基づき三重県,奈良県,和歌山県,島根県,広島県,山口県,徳島県,香川県,愛媛県及び高知県の区域においては2028914日までツキノワグマの捕獲等が禁止されています(鳥獣保護法施行規則101項)。

罰則についてみると,狩猟鳥獣以外の鳥獣を捕獲等する場合は,鳥獣保護法9「条1項の許可を受けてその許可に係る捕獲等」をする以上は同法「8条の規定に違反して」いないので処罰されず(同法8311号。むしろ同法81号の規定に従っています。),狩猟鳥獣を捕獲等する場合に係る狩猟可能区域及び狩猟期間に関する制限も同法91項の許可を受けた者には及びません(同法8312号第2括弧書き及び3号括弧書き)。ただし,特別保護地区における環境大臣又は都道府県知事が指定した区域及び期間内でする動物の捕獲等(農林漁業を営むために行うものを除く。)については環境大臣又は都道府県知事の許可が必要であり(同法2974号及び鳥獣保護法施行令31号。違反すると6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金刑(同法8415号)),垣,さくその他これに類するもので囲まれた土地又は作物のある土地における鳥獣の捕獲等をするに当たってはあらかじめ土地の占有者の承諾が必要であり(同法17条。違反には50万円以下の罰金(同法8512号。ただし,親告罪(同条2項))。また,旧鳥獣保護法17条参照),並びに猟区における鳥獣の捕獲等にも猟区設定者の承認が必要です(同法741項。違反には50万円以下の罰金(同法8514号))。

 

(イ)方法

方法についても同様に許可の内容次第ということになります。

 

鳥獣保護法91項の許可を受けた場合に係る適用除外規定が,対象狩猟鳥獣の捕獲等の禁止又は制限に係る前記鳥獣保護法12条の第5項(なお,同条13号に基づき熊についてわなを使用するものその他の猟法が禁止されています(鳥獣保護法施行規則103項)。),使用禁止猟具の所持規制に係る161項の第1号並び特定猟具使用禁止区域等に係る352項及び3項の各ただし書にあります。

ただし,重ねて許可が必要な場合があります。すなわち,指定猟法禁止区域において指定猟法により鳥獣の捕獲等をするとき(同法154項ただし書。なお同条については「平成14年改正以前は,鉛散弾による水鳥の鉛中毒事故の防止を図るため,旧法第1条ノ55項の規定に基づき〔略〕鉛散弾の使用を禁止してきた」と説明されており(鳥獣保護管理室・解説117頁),鉛製銃弾の使用制限がまず念頭にあったわけです。違反して指定猟法で鳥獣の捕獲等をするとは6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金で(同法8415号),未遂も罰せられます(同条2項)。),危険猟法(爆発物,劇薬及び毒薬並びに据銃,陥穽その他人の生命又は身体に重大な危害を及ぼすおそれがあるわなを使用する猟法(同法36条及び鳥獣保護法施行規則45条))を行うとき(同法36条ただし書及び371項。違反して危険猟法で鳥獣の捕獲等をすると1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金で(同法8315号),未遂も罰せられます(同条2項)。)及び住居が集合している地域又は広場,駅その他の多数の者の集合する場所で麻酔銃猟をするとき(同法38条の21項。許可なしで麻酔銃猟をすると,同法38条違反になります。)です。

 

方法については,特に鳥獣保護法38条に,以下に見るような重要な制限規定があります(同条に違反すると1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金で(同法8315号),未遂も罰せられます(同条2項)。)。

 

エ 狩猟者登録の不要性

また,鳥獣保護法91項の許可を受けて狩猟をする場合には狩猟者登録が不要であって(同法551項ただし書),したがって狩猟免許も不要です(同法393項ただし書)。

 

(後編に続く