1 罰金・過料等の裁判の執行に係る現行刑事訴訟法の規定
(1)第490条
現行刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)490条は,次のように規定しています。
第490条 罰金,科料,没収,追徴,過料,没取,訴訟費用,費用賠償又は仮納付の裁判は,検察官の命令によつてこれを執行する。この命令は,執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
前項の裁判の執行は,民事執行法(昭和54年法律第4号)その他強制執行の手続に関する法令の規定に従つてする。ただし,執行前に裁判の送達をすることを要しない。
(2)過料
ここでの「過料」は,「133条・137条・150条・160条など刑訴法に規定された過料をいい,民法,商法等他の法律に規定された過料を含まない」ものです(松尾浩也監修,松本時夫=土本武司編集代表『条解 刑事訴訟法(第3版増補版)』(弘文堂・2006年)1000頁)。
過料は,刑法(明治40年法律第45号)の刑に含まれません(同法8条)。
美濃部達吉は過料について,秩序罰としてのものを3種(①民商法等に定められている私法的秩序の維持のための民事上の秩序罰,②民事訴訟法,刑事訴訟法等に定められている訴訟手続上の秩序維持のための訴訟法上の秩序罰及び③行政上の秩序罰)及び執行罰としてのもの(旧行政執行法(明治33年法律第84号)5条1項2号)を挙げています(美濃部達吉『日本行政法 上巻』(有斐閣・1936年)327-329頁,333-336頁)。すなわち,刑事訴訟法490条1項にいう「過料」は訴訟法上の秩序罰たる過料であって,民事上若しくは行政上の秩序罰としての又は行政上の執行罰としての過料ではないことになります。
なお,行政上の執行罰としての過料に係る旧行政執行法(明治33年法律第84号)5条1項2号は,「当該行政官庁ハ法令又ハ法令ニ基ツキテ為ス処分ニ依リ命シタル行為又ハ不行為ヲ強制スル為」「強制スヘキ行為ニシテ他人ノ為スコト能ハサルモノナルトキ又ハ不行為ヲ強制スヘキトキハ命令ノ規定ニ依リ25円以下ノ過料ニ処スル」「処分ヲ為スコトヲ得」という規定であって,同条2項本文は「前項ノ処分ハ予メ戒告スルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス」と,同法6条1項は「第5条ノ過料ハ国税徴収法ノ規定ニヨリ之ヲ徴収スルコトヲ得」と規定していました。現在も残っている砂防法(明治30年法律第29号)における執行罰たる過料の規定(同法36条から38条まで)が旧行政執行法のそれによって上書きされなかったのは,砂防法36条の過料の額が,当初から「500円以内」と大きかったからでしょう。
(3)執行力のある債務名義と同一の効力を有する検察官の命令書
ア 解説
また,刑事訴訟法490条1項後段及び2項本文については,「検察官の命令を記載した書面が債務名義,即ち給付義務の存在を証明し,かつ,執行力を付与された公正の文書とみなされるが,実際の執行事務の処理は,法務局の長または地方法務局の長に依頼して行なわれることになっている」と(松尾,松本=土本1000頁),あるいは,「執行の方式については,執行指揮書ではなく,命令書が用いられる(490条は単に「命令」とするが,書面によらなければならないことは当然である。ちなみに治罪法462条2項は「命令書」としていた)。執行の実際は,徴収係の検察事務官が徴収金原票と題する書面を作成し,検察官が指揮印を押してこれを徴収命令書にする。この書面は,民事執行法にいわゆる執行力のある債務名義」(民執51条参照)で,強制執行が可能である」(松尾浩也『刑事訴訟法(下)新版』(弘文堂・1993年)315頁),「検察官は,強制執行をするときは,法務局長または地方法務局長に対し,強制執行手続依頼書に徴収命令書を添えて手続を依頼する」(同書316頁)と説明されています。(なお,現在は法務局又は地方法務局の手を煩わすことになっていますが,かつては検察庁が自ら強制執行の申立てをしていたようです。「罰金,科料,過料等の裁判については,検察庁の長官又はその指定する所属官吏が申立をすべき〔「債権者の地位に立って,執行の申立をす」べき〕である(民刑局長回答明治44年11月6日通達回答集390頁)。」と1976年段階で紹介されていたところです(菊井維大『強制執行法(総論)』(有斐閣・1976年)95-96頁)。)
イ 書式の謎
この強制執行手続依頼書及び徴収命令書の書式は,法務省の徴収事務規程(平成23年3月19日同省訓令)26条1項に基づく同規程の様式第20号及び第19号です。当該規程の2013年11月28日改正後当時のこれらの様式を山中理司弁護士のウェブサイトで見ると,強制執行手続依頼書(様式第20号)は某法務局長又は地方法務局長を宛先として表示しつつ「次の者は,別紙〇〇〇本のとおり裁判が確定したものであるところ,下記の徴収金を納付しないから〇〇〇〇〇〇につき強制執行の手続をとられたく,関係書類を添付して依頼します。」というもので,その添付書類は,徴収命令書(徴収事務規程26条1項後段には「強制執行手続依頼書には,徴収命令書を添付する。」とあります。)及び裁判書又は裁判を記載した調書の謄(抄)本です(このことは同号様式の(注意)に記されてありますし,「別紙〇〇〇本」の部分でも分かります。)。徴収命令書(様式第19号)は,「徴収原票」と題された書面に検察官の印が押捺されているだけというものではなく,きちんと「徴収命令書」と題されており,「次の者に対する下記確定裁判につき,徴収を命令する。」という居丈高な命令文言が記されています。しかし,法務局長又は地方法務局長の機嫌を損じてはいけないと考えられたものなのか,当該命令書には当の「命令」の名宛人が表示されないことになっています。名宛人なき命令というものが果たして命令なのか,単なる検察官の独り言になってしまわないのか。また,強制執行手続依頼書と徴収命令書との記載事項は大幅に重複しているところ(罰金刑の言渡しを受けた者の氏名・生年月日・住居,裁判の罪名(件名),裁判所,裁判の日及び確定の日並びに執行すべき徴収金の種別及び金額),なぜ強制執行手続依頼書に一本化して(命令書が依頼書に「添付」されるのですから,強制執行手続依頼書の方が主なのではないでしょうか。)徴収命令書を廃止しないのかも不思議なところです。これは刑事訴訟法490条1項の「検察官の命令によつてこれを執行する」の文言に縛られているからなのでしょう。しかし,そうだとすると,当該不可解な呪縛には,何か立法経緯上の由来がありそうです。
(4)「執行前に裁判の送達をすることを要しない」
刑事訴訟法490条2項ただし書の「執行前に裁判の送達をすることを要しない」ことについては,「刑訴法においては,裁判の効力はすべて告知によって生じ,執行前に裁判の送達をすることを要しないので,本但書は民事執行法29条の規定の特則である」とされています(松尾,松本=土本1001頁)。民事執行法29条は「強制執行は,債務名義又は確定により債務名義となるべき裁判の正本又は謄本が,あらかじめ,又は同時に,債務者に送達されたときに限り,開始することができる。第27条の規定により執行文が付与された場合においては,執行文及び同条の規定により債権者が提出した文書の謄本も,あらかじめ,又は同時に,送達されなければならない。」と規定しています。しかし,そもそも裁判書ではない(ただし,執行力のある債務名義と同一の効力を有するものではありますが)ところの刑事訴訟法490条1項後段の検察官の命令書の取扱い(送達の要否)はどうなるのでしょうか。
刑事訴訟法490条2項ただし書は民事執行法29条の例外である「執行前に債務名義の送達を要しない場合」を定めたものと解釈され,「この場合同時送達も不要なのかについて見解が分かれますが,裁判の告知がなされているのであれば,不要と解します。」と説かれています(新堂幸司=竹下守夫編『民事執行・民事保全法』(有斐閣・1995年(遠藤功))108頁)。確かに,「債務名義の送達は,債務者に,その内容及び存在を知らせて,執行に対する正当な防禦の機会を与えるための形式的通知であって,立法政策的価値は大きくない」とともに(菊井135頁),罰金刑の言渡しを受けた者にその納付をきつく命令するのではなく他人事のようにその「徴収を命令する」命令書を送達しても,受け取った側では怪訝に思うばかりということになるのでしょう。
2 旧刑事訴訟法の規定
現行刑事訴訟法490条に対応する条項は,旧刑事訴訟法(大正11年法律第75号)では次のとおりでした。
第553条 罰金,科料,没収,追徴,過料,没取,訴訟費用又ハ費用賠償ノ裁判ハ検察官ノ命令ニ因リ之ヲ執行ス此ノ命令ハ執行力アル債務名義ト同一ノ効力ヲ有ス
前項ノ裁判ノ執行ニ付テハ民事訴訟法ヲ準用ス但シ執行前裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス
3 旧々刑事訴訟法の規定及び旧非訟事件手続法の規定
(1)旧々刑事訴訟法
旧々刑事訴訟法(明治23年法律第96号)には次のようにありました。
第320条 刑ノ執行ハ其刑ヲ言渡シタル裁判所ノ検事又ハ上告裁判所ヨリ命ヲ受ケタル裁判所ノ検事ノ指揮ニ因リ之ヲ為ス可シ刑ノ執行ノ停止ニ付キ亦同シ
罰金,科料,訴訟費用及ヒ没収物品,追徴金ハ検事ノ命令ニ依リ之ヲ徴収ス可シ
前項ノ徴収ニ付テハ非訟事件手続法第208条ノ規定ヲ準用ス
破壊又ハ廃棄ス可キ没収物品ハ検事之ヲ処分ス可シ
旧々刑事訴訟法320条1項後段及び同条3項は,刑法施行法(明治41年法律第29号)50条により,1908年10月1日から挿入されたものです(同法附則1項並びに明治40年法律第45号の別冊ではない部分の第2項及び明治41年勅令第163号)。「前項ノ徴収ニ付テハ非訟事件手続法第208条ノ規定ヲ準用ス」ということで,思わぬ方角の「非訟事件手続法」からの準用がされていることが注目されます。
(2)旧非訟事件手続法
1908年10月1日当時の旧非訟事件手続法(明治31年法律第14号:現在の題名は「外国法人の登記及び夫婦財産契約の登記に関する法律」)208条は次のとおり(なお,旧非訟事件手続法は,同法旧210条により民法(明治29年法律第89号)の施行日である1898年7月16日(明治29年法律第89号及び明治31年法律第9号のそれぞれ別冊でない部分の第2項並びに明治31年勅令第123号)から施行されています。)。
第208条 過料ノ裁判ハ検事ノ命令ヲ以テ之ヲ執行ス此命令ハ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力ヲ有スル
過料ノ裁判ノ執行ハ民事訴訟法第6編ノ規定ニ従ヒテ之ヲ為ス但執行ヲ為ス前裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス
旧刑事訴訟法では,旧々刑事訴訟法のような旧非訟事件訴訟法旧208条(なお,同条は,平成16年法律第152号の第2条により,2005年4月1日から(同法附則1条本文・平成16年政令第418号),旧非訟事件手続法163条になっています。現行非訟事件手続法(平成23年法律第51号)では121条です。)の規定の準用をやめて,検事の命令の効力及び執行の準拠法規について書き下ろしていますが,これはやはり,堂々たる訴訟法が非訟事件手続法の規定を準用するのは上下顚倒のようで恰好悪く感じられたからでありましょうか。
なお,旧非訟事件手続法18条1項及び2項は「裁判ハ之ヲ受クル者ニ告知スルニ因リテ其効力ヲ生ス」及び「裁判ノ告知ハ裁判所ノ相当ト認ムル方法ニ依リテ之ヲ為ス」と規定していました。
4 旧治罪法の規定
(1)第462条
旧治罪法(明治13年太政官布告第37号)では次のとおりでした。
第462条 刑ノ執行ハ原裁判所ノ検察官又ハ大審院ヨリ命ヲ受ケタル裁判所ノ検察官ノ指揮ニ因リ之ヲ為ス可シ
罰金科料裁判費用及ヒ没収物品ハ検察官ノ命令書ニ依リ之ヲ徴収ス可シ
破壊又ハ廃棄ス可キ没収物品ハ検察官之ヲ処分ス可シ
(2)ボワソナアドのProjet案及びその構想について
旧治罪法462条に対応するボワソナアドのProjet案は,次のとおりでした(Gustave Boissonade, Projet de Code de Procédure Criminelle pour l’Empire du Japon (1882): pp.917-918)。
626. Les condamnations pénales seront exécutées, aux poursuites et diligences du commissaire du Gouvernement près le tribunal qui a statué ou qui a été délégué pour l’exécution.
Néanmoins, les amendes, les frais dûs au Trésor public et les objets confisqués dont la destruction n’est pas ordonnée, seront perçus par le receveur des finances du département, sur un mandat du commissaire du Gouvernement, accompagné d’un extrait du jugement.
Les objets confisqués qui devront être détruits le seront sous la surveillance du commissaire du Gouvernemant.
第626条 有罪判決は,裁判をした,又は執行を委任された裁判所の検察官による求め及び発意により執行される。
しかしながら,罰金及び科料,国庫に対して負う費用並びに破壊が命ぜられていない没収物は,裁判の抄本が添えられた検察官の委託書に基づき,府県の財政収入官吏によって徴収される。
破壊されなければならない没収物は,検察官の監督下においてそうされる。
裁判所の検察官とは何事かといえば,旧治罪法33条は「裁判所ニハ検察官1名又ハ数名ヲ置ク」と規定していました。
国庫(Trésor public)のための財政収入官吏(receveur des finances)が府県(département)に属しているとはどういうことかといえば,旧税務管理局官制(明治29年勅令第337号)が1896年11月1日に施行されるまでは,国税の業務は,収税長及び収税属並びに収税部及び収税署によってされる府県の仕事だったのでした(同官制11条参照)。
その草案626条についてのボワソナアドの解説は次のとおりでした(Boissonade: p.925)。
原則として,刑を執行せしめるのは,その適用を求めた当事者として,検察官である。
この原則は,自由刑(peine corporelles)及び権利剥奪刑,更に監視に適用される。
国庫の担当者(agents du Trésor public)の求め及び発意(aux poursuites et diligences)によって執行される財産刑についてのみ例外が存在する。そのために裁判の抄本を添えた委託書を交付するのは,なお検察官である。
はて,現在の刑事訴訟法490条の解釈においては,「財産刑の裁判の執行にあたっては,まず前提として,472条・473条により検察官の執行指揮がなければならない。これに基づき,納付を命ぜられた者が完納しない場合に,本条〔第490条〕によって強制執行が行なわれることになる」とされているのですが(松尾,松本=土本1000頁。法務省の徴収事務規程10条と26条との関係です。),ボワソナアドは,罰金刑等の執行の指揮(“aux poursuites et diligences”を筆者は「求め及び発意により」と訳してみたのですが,確かに「指揮」は良い訳語です。)は国庫の担当者がするものと考えていたようです。そうなると,mandatは,命令書というよりも委託書なのでしょう(前記のとおり,現行刑事訴訟法の下,罰金等の徴収のために検察官から法務局長又は地方法務局長に送付される文書は強制執行手続依頼書です。)。刑の執行の指揮者は2本建て(死刑の執行は司法卿の命令によるので(旧治罪法460条2項),正確には3本建て)であるものと構想されていたようです。ボワソナアドはその草案626条に対応するナポレオンの治罪法典の条項として第376条(“La condamnation sera exécutée par les ordres du procureur général; il aura le droit de requérir directement, pour cet effet, l'assistance de la force publique.(有罪判決は,検事長の命令により執行される。彼は,このために,警察力の助けを直接求める権利を有する。)”)を挙げていますが,同条はボアソナアド草案626条1項のみに対応するものとされています(Boissonade: p.917)。そうであるならば,同条2項以下はボワソナアドの考案に係るものなのでしょうか。
(3)府県の財政収入官吏の権限に関して
ア 旧明治10年太政官布告第79号
なお,ボワソナアドがそのProjetを出版した1882年当時には,旧明治10年太政官布告第79号(題名のない布告で,一般に「租税不納処分規則」といわれています(小柳春一郎「明治期の国税滞納処分制度について」税大ジャーナル第14号(2010年6月)5頁・24頁註(18))。)が施行されていましたが,同規則においては租税に係る自力執行権の対象たる換価対象は税の賦課財産に限定されており(同規則1条(したがって,地租については土地のみが対象で,建物も動産も対象外)。営業税・酒税については製造品及び器物(同規則2条)。ただし,同規則3条の府県税の戸数割については,土地建物を除いた動産などの公売が行われたそうです。),結局,罰金同様に賦課財産が観念できぬ税たる所得税については,「明治20年3月23日勅令第5号で導入された所得税に関しては,「租税未納者処分規則中適当の条項之なきにも拘はず追加の発令難相成」として,「民事裁判に訴出る」との明治21年〔1888年〕3月27日付内訓〔略〕がある」ということになったそうです(小柳5-7頁(なお,1889年4月20日に閣議に提出された国税滞納処分法案に関して松方正義大蔵大臣は「現行の租税不納処分規則たるや〔略〕所得税不納の如きに至ては之を制裁するに由なし」と述べていたそうです(同10-11頁)。))。「租税未納の者は従来怠納金を徴し本人身代限りを以て取立る等処分も有之処自今右処分を廃止し」たことになったはずですが(旧租税不納処分規則の布告文(小柳5頁)),「民事裁判に訴出る」ということは,なおも身代限の手続の実行を求めるということだったのでしょうか。
イ 身代限
ここで,身代限とは何か,といえば,次のとおりです。
〔御定書百箇条〕によれば,支払不能に陥った債務者に関する手続として2種類のものが用意されていた。第1は,債権者の申立てにもとづく身代限の手続であり,第2は,債務者の申立てにもとづく分散の手続である。身代限では,個別の債権者が,その債権の支払を求めて裁判所に出訴し,裁判所は,一定の期限を定めてその弁済を命じ,弁済がなければ債務者に対して身代限を宣告する。身代限の手続においては,債務者の財産が売却され,債権債務の清算がなされる。この手続の性質に関しては,今日の個別執行に近似するという見解が一般的であるが,債権者申立ての破産手続としての性格も併せもっていたとみられる。
(伊藤真『破産法(第4版)』(有斐閣・2005年)44頁)
身代限は債務者の財産に対する裁判上の強制執行にして,これが実行には必ずしも多数の債権が競合することを要せず。
(中田薫『徳川時代の文学に見えたる私法』(岩波文庫・1984年(原著1925年))102頁)
なお,「明治初年には裁判所に執達吏・執行官は存在せず,身代限りでも地方官が入札等の具体的手続を担当していた」そうです(小柳6頁)。「強制執行は固有の意味では司法作用ではないから,これを司法機関以外の機関に行なわせることも可能である(刑事裁判の執行は行政機関に委ねられている如し〔筆者註:ただし,刑事訴訟法490条1項の裁判の場合は,最終的には民事執行法に従って司法機関によって強制執行がされます。〕)。従って,例えば行政機関たる執行局の如きものを設置し,強制執行権能をこれに附与することも一案である。」と説かれていますが(菊井145頁),明治初年は正にそうであったわけです。
ウ 旧国税滞納処分法(明治22年法律第32号)
現在の国税徴収法(昭和34年法律第147号)につながる旧国税滞納処分法(明治22年法律第32号)が施行されたのは,1890年1月1日からでした(同法53条本文)。旧執達吏規則(明治23年法律第51号)の施行は1890年11月1日からです(同規則上諭)。
国税「以外の国の金銭上の債権で,特別の徴収手続を必要とするものについては,個別の法律で国税徴収法に規定する滞納処分の例によるものとしている」ところですが(塩野宏『行政法Ⅰ』(有斐閣・1991年)186頁),いかにも「公法上の債権」らしく思われる国の罰金債権の徴収はどういうわけか「国税徴収法に規定する滞納処分の例によるもの」とされていません。この間の分岐点は,大日本帝国憲法の施行(1890年11月29日から)を控えて各種法典の整備が進んだ時期に,あるいはあったものでしょう。
(4)旧治罪法下の実務:検察官から書記局への命令
ボワソナアド草案626条2項は府県の収税官吏が罰金等を徴収することを構想したようなのですが,現実の旧治罪法462条2項は「府県の財政収入官吏によって」の部分が脱落した形になっています。しかして翌1882年1月1日からの旧刑法及び旧治罪法の施行を前に,大審院・裁判所宛ての明治14年12月5日司法省丁第25号達は「治罪法第462条第2項罰金科料裁判費用及没収物品ノ徴収ハ書記局ニ於テ之ヲ担当シ会計主任ヘ引渡ス儀ト可心得此旨相達候事」と定めました。その結果として「検察官ノ命令書ニ依リ書記局ニ於テ徴収ノ手続ヲ為スヘシ/但命令書ハ別ニ書式ナシ」(1882年1月18日内訓),命令書の「書式ハ便宜取計フ可シ」(同年1月14日指令),また,「検察官ニ於テ直チニ人民ニ対スルノ命令書ヲ作リ之ヲ書記局ニ送致シ書記ハ其ノ命令書ヲ人民ニ下付シ其命令ニ基キ徴収ノヿヲ取扱フ」のではなく,「検察官ノ命令書ハ書記ニ対スル者トス」(同年3月15日指令)ということになったというのが司法省の見解となりました(『現行治罪法質疑録 完』(同盟印刷・1883年12月)下巻176頁・178頁)。
没収物品が被告人の手中にあれば,巡査をして命令書によって引き揚げしめることができるとも1882年2月20日の内訓で司法省は言っています(現行治罪法質疑録・下巻177-178頁)。罰金・科料未納の場合は軽禁錮又は拘留への換刑処分をしたのでしょう(旧刑法(明治13年太政官布告第36号)27条1項には「罰金ハ裁判確定ノ日ヨリ1月内ニ納完セシム若シ限内納完セサル者ハ1円ヲ1日ニ析算シテ之ヲ軽禁錮ニ換フ其1円ニ満サル者ト雖モ仍1日ニ計算ス」と,同法30条には「科料ハ裁判確定ノ日ヨリ10日内ニ納完セシム若シ限内納完セサル者ハ第27条ノ例ニ照シ之ヲ拘留ニ換フ」とありました。)。
問題は裁判費用なのですが,旧刑法附則(明治14年太政官布告第67号)48条は刑事の裁判費用を呼び出された証人,医師,鑑定人,通弁人及び翻訳人に対する日当,旅費及び止宿料並びに数多の時間又は特別の技能若しくは費用に応じた日当外の金額及び日稼者の償金に限定した上,明治15年(1882年)6月25日司法省丙第25号達は「刑法治罪法実施已来刑事ニ付出庭セシメタル証人鑑定人等ノ旅費日当等一時官庁ニ於テ立換渡ヲ為シ候義モ有之候処該旅費日当等ハ則チ裁判費用ニシテ総テ被告人ノ担当スヘキ者ナルハ勿論ノ義ニ付自今右立換ヲ為スニ不及儀ト心得ヘシ此旨相達候事」と定めて,その結果司法省としては「証人鑑定人等ノ旅費日当等ハ目下直ニ被告人ニ係リ請求授受セシムヘキ手続ニ付〔略〕検事ニ於テハ命令スルニ不及儀ト心得ヘシ」(1882年11月27日内訓)と安心したことになっています(現行治罪法質疑録・下巻194-195頁)。ただし,当該明治15年司法省丙第25号達がその6月に出る前の1882年2月2日の司法省の内訓では「刑事訴訟費用ノ宣告ヲ受ケタル者一時差出スヿ能ハサル旨申立ルトキハ書記局ヨリ其宣告ヲ為シタル裁判官ニ執行ノ言渡ヲ請求シ其裁判官ハ他ノ通常民事裁判言渡ト同シク警察官ノ公力ニ因リ執行スヘキノ言渡ヲ為スヘキモノトス」となっていました(現行治罪法質疑録・下巻201頁)。しかしその後司法省の見解は変化したようで,いずれも明治15年司法省丙第25号達が出る前のものですが,1882年5月15日の司法省回答は「裁判費用ヲ科セラレタル者納完セサルトキハ検事ハ其犯人所在ノ地ニ於テ(犯人監獄ニ在リト雖モ)追徴方ヲ民事裁判所ニ請求スヘキヤ」との問いに対して「裁判費用ヲ納完セサルトキハ検事ニ於テ其始審裁判所ニ請求ス可キ者トス」と述べ(現行治罪法質疑録・下巻204頁),同月27日の回答は刑事の裁判費用が納完されないときは「民事ノ規則ニ従ヒ身代限ノ処分ヲ検事ヨリ民事裁判所ヘ請求シ得ル」ものとしています(同205頁)。検事は命令書を出しておけば,後は書記局に全部お任せ,というわけではなかったようです。浦和始審庁検事の質問に対する1882年6月15日回答の司法省の考えでは訴訟費用の負担の裁判(旧治罪法307条)は「本案ニ附帯スル一ノ民事ト見做シ」ていましたが(現行治罪法質疑録・下巻205頁),そうであればその徴収規定が同じ旧治罪法462条2項にあった罰金も,民事の債権に係るものということだったでしょうか。
以上要するに,旧治罪法施行時の実務においては「検察官ノ命令書」は検事から書記局に対するものとされており(明治14年12月5日司法省丁第25号達),したがって当該命令書には「執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力」まではないものとされていたと考えるのが自然と思われ(なお,ボワソナアドは,財政収入官吏が租税徴収手続の例によって公法上の金銭債権に係るものたる罰金等の行政上の強制徴収を自ら行うことを構想していたように思われるのですが,そうであれば,検察官の財政収入官吏に対する「命令書」というより委託書ないしは依頼書であるもの(mandat)自体には,対人民の直接の執行力があることまでは不要であったわけです。),であるからこそ,訴訟費用等を実際に強制執行により徴収しようとすると,当該命令書にかかわらず,書記ではなく検事が改めて民事訴訟手続に取り組まなければならないと解されていたのでしょう。
5 民事上の秩序罰たる過料の誕生時における経緯
身代限による執行ということに関して,罰金及び民事上の秩序罰たる過料について,後者の誕生過程において注目すべき発言があります。
旧商法(明治23年法律第32号)256条から261条までは商事会社関係の罰則としての過料による制裁について定めていますが,これは,原案には「罰金」とあったものが,1888年1月19日の法律取調委員会において村田保が頑張って「過料」と改められたものでありました(後に「村田は性格が執拗,偏狭という評を受け,貴族院における「鬼門」だといわれ」るようになります(大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』(岩波新書・1998年(追補版))164頁)。)。その際村田は罰金について,「罰金ト定メレバ刑法ニ依ラナケレバナリマセン又之〔罰金〕ヲ出サントキハ身代限リニスルトカ或ハ1円ヲ1日ニ積算スルコトニシナケレバナリマセン」と語っています(法務大臣官房司法法制調査部監修『日本近代立法資料叢書18 法律取調委員会 商法草案議事筆記』((社)商事法務研究会・1985年)230頁)。それでは罰金ではなく「過料トシテ払ハントキハ」との松岡康毅の質問に対しては,「身代限リニナル」と答えています(日本近代立法資料叢書18:231頁)。
旧商法における商事会社関係の過料の裁判についてはその第261条1項において「前数条ニ掲ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得」と規定されていたところですが,手続に関して旧商法施行条例(明治23年法律第59号)に追加的規定があり,その命令の執行については,同条例23条によって検事が「其執行ノ責ニ任ス」るものとされました。検事がこの「命令執行ノ責任ヲ負ハシ」められるのは,「社会ノ代表者タルノ故ヲ以テ」だそうです(磯部四郎🎴『大日本新典商法釈義 第15編』(長島書房・1891年)23頁)。当該執行の方法は,従来の流れからすると身代限ですから,1891年1月1日からの旧民事訴訟法(明治23年法律第29号)施行以後はその第6編の強制執行によるものと想定されていたのでしょう。旧商法の施行日も,当初は1891年1月1日が予定されていました(しかし,その後「法典論争」で旧商法の施行は延期され,会社・手形・破産の規定は1893年7月1日から,残りの規定は1898年7月1日から施行。ただし,1899年6月16日からの現行商法(明治32年法律第48号)の施行により破産編を除き廃止されています(明治32年法律第48号の別冊ではない部分の第2項及び第3項並びに明治32年勅令第133号)。)。
6 旧執達吏規則及び旧執達吏職務細則
(1)旧執達吏規則3条
旧々刑事訴訟法(同法附則5条により1890年11月1から施行)320条2項に基づく検察官からの「命令」の名宛人に,同法と同時に施行された旧執達吏規則において,執達吏が加わっています。
旧執達吏規則3条はその柱書で「執達吏ハ法律規則ニ定メタル職務ノ外裁判所及検事局ノ命令ニ依リ其職務ニ応スル事務殊ニ左ノ事務ヲ取扱フノ義務アリ」と規定した上で,第2号において「罰金科料過料ヲ徴収シ及没収物品ヲ取上ケ若クハ売却スルコト」と掲げています(なお,当初の同規則16条では,同規則3条に掲げる職務を行うについては,執達吏は立替金の弁済を受けるだけで,手数料を受けることができませんでした。しかし,不評だったのでしょう,明治42年法律第2号によって執達吏規則16条にただし書が加えられ,罰金,科料,過料,追徴金及び公訴に関する訴訟費用の裁判の執行については,執達吏は手数料を受けることができるようになりました。)。旧執達吏規則は1966年12月30日まで現行法でした(執行官法(昭和41年法律第111号)附則1条・2条及び昭和41年政令第380号)。旧執達吏規則施行当時旧民事訴訟法にあった過料に関しては,「〔旧〕民事訴訟法〔旧355条〕中ニ過料トアルハ刑法上ニ刑名ナキ真正ナル民事上ノ処罰ニ止ルナリ故ニ刑事上ノ訴追ニ影響ヲ及ホサス又刑事訴訟法若クハ刑法附則等ノ支配ヲ受ク可キモノナラス民事上ニ付裁判官カ単ニ本法ノ規定ニ依リ過料ヲ言渡シ若シ之ヲ完納セサレハ民事上ノ強制執行ノ方法ヲ以テ之ヲ取立ツル(其手続ハ執達吏職務細則ニ明ナリ)ニ止リ換刑スルノ限リニ非ス」との説明があります(今村信行『民事訴訟法解疑』(博聞社・1891年)89-90頁)。
(2)旧執達吏職務細則97条
1890年11月20日に旧執達吏職務細則(明治23年司法省民2410号訓令)が出ています。その第97条1項から3項までが注目すべき規定です。次のとおりです。
判決,決定及ヒ命令ヲ以テ科シタル罰金,科料及ヒ過料ノ徴収ハ民事訴訟法中金銭ノ債権ニ関スル強制執行ノ規定ニ従ヒ之ヲ執行ス可シ
右ノ執行ハ裁判所又ハ検事ノ命令ニ依リ執達吏之ヲ為スヘキモノニシテ(刑事訴訟法第320条及ヒ執達吏規則第3条)此命令ハ執行力アル債務名義ニ代用スルモノトス
此執行ニ関シテ執達吏ノ為ス可キ手続ハ民事訴訟法ノ強制執行ニ於ケル規定ニ同シ但執行ヲ始ムル前ニ執行文ヲ送達スルコトヲ要セス(本則第49条第4号)
検事の命令書が「執行力アル債務名義ニ代用スルモノ」であることの効用が現れる場面としては旧民事訴訟法534条があったところです。同条はいわく「執達吏ハ執行力アル正本ヲ所持スルヲ以テ債務者及ヒ第三者ニ対シ強制執行及ヒ前条ニ掲ケタル行為〔支払その他の給付の受取,受取証書の作成・交付,弁済後の執行力アル正本の債務者への交付〕ヲ実施スル権利ヲ有ス債権者ハ此等ノ者ニ対シ委任ノ欠缺又ハ制限ヲ主張スルヲ得ス/執達吏ハ其正本ヲ携帯シ関係人ノ求メアルトキハ其資格ヲ証スル為ニ之ヲ示ス可シ」と。「同時送達は,執行官が執行機関である動産執行の場合に起りえ」るのでした(新堂=竹下編109頁(遠藤))。
不動産執行や債権執行の場合の執行官の役割はどうかというに,罰金・過料等徴収のための「不動産強制競売または債権差押の申請をする場合は,検事局(検察庁)の長官または所属官吏においてすべきものであつて,検事は執行吏に命じてこれをさせることはできない(明45・6・5民事第584号民事局長回答)。」というのが,1954年段階での実務でした(最高裁判所事務総局民事局編纂『執行吏執務提要』(法曹会・1954年)107頁)。
なお,旧執達吏職務細則97条3項ただし書の「但執行ヲ始ムル前ニ執行文ヲ送達スルコトヲ要セス(本則第49条第4号)」との規定が気になるところですが,当該規定をもって「〔裁判所又は検事の〕執行命令は執行文に,裁判,審判自体が債務名義に相当すると解すべき」こと(菊井95頁註(1)で言及されている小野木常説)の根拠を示すものと解するのは深読みのし過ぎでしょう。これは,旧民事訴訟法528条2項(「判決ノ執行カ其旨趣ニ従ヒ債権者ノ証明ス可キ事実ノ到来ニ繋ルトキ又ハ判決ノ執行カ判決ニ表示シタル債権者ノ承継人ノ為ニ為シ又ハ判決ニ表示シタル債務者ノ承継人ニ対シ為ス可キトキハ執行ス可キ判決ノ外尚ホ之ニ附記スル執行文ヲ強制執行ヲ始ムル前ニ送達スルコトヲ要ス」)が,それに対応する1877年ドイツ民事訴訟法671条2項(„Hängt die Vollstreckung eines Urtheils seinem Inhalte nach von dem durch den Gläubiger zu beweisenden Eintritt einer Thatsache ab oder handelt es sich um die Vollstreckung eines Urtheils für die Rechtsnachfolger des in demselben bezeichneten Gläubigers oder gegen die Rechtsnachfolger des in demselben bezeichneten Schuldners, so muß außer dem zu vollstreckenden Urtheil auch die demselben beigefügte Vollstreckungsklausel und, sofern die Vollstreckungsklausel auf Grund öffentlicher Urkunden ertheilt ist, auch eine Abschrift dieser Urkunden vor Beginn der Zwangsvollstreckung zugestellt sein oder gleichzeitig mit Beginn derselben zugestellt werden.“)を忠実に翻訳し損ねたことについてのこっそり後始末です(「又はその〔強制執行の〕開始と同時に送達されなければならない。(muß … oder gleichzeitig mit Beginn derselben zugestellt werden.)」の部分が訳し漏れになっています。)。後の民事訴訟法学者からは「強制執行を始める前(事前送達)にしなければならないと定められているが(528条2項),同時送達でもよい。」とあっさり説明されています(菊井136頁)。旧執達吏職務細則49条4号も,旧民事訴訟法528条2項の執行文が「未タ送達セサル場合ニ於テハ執達吏ハ其送達ヲ為シタルト同時ニ強制執行ヲ始ム可シ」と簡単に定めていたのでした。この点については,現在の民事執行法29条後段は如才なく訂正済みです。
7 旧非訟事件手続法における過料関係条項に関して
ところで,民事上の秩序罰たる過料の裁判及びその執行に関する旧非訟事件手続法旧206条ないし旧208条の規定(現行非訟事件手続法の第119条から第121条までに相当)は,当時のドイツの非訟事件手続法(案)に倣ったというよりも,むしろ我が旧商法及び旧商法施行条例並びに旧執達吏規則及び旧執達吏職務細則の流れを汲むものでしょう。
(1)FGG由来説について
ドイツ非訟事件手続法の影響に関しては,「〔旧非訟事件手続法の〕起草委員らは,〔略〕明治民法草案およびすでに施行中の旧民事訴訟法がドイツ法の強い影響を受けていたのに対応し,〔旧々非訟事件手続法(明治23年法律第95号)の〕改正草案――とくに1編総則と過料に関する規定――の起草に際しては,1898年(明治31年)5月17日制定・同20日公布されたドイツ非訟事件手続法(Gesetz über die Angelegenheiten der freiwilligen Gerichtbarkeit; FGG)」の草案ないし法案を入手し,これを参考として作業を進めたものと思われる。」と説かれた上で(岡垣学「非訟事件手続法の制定と改正(1)――第1編総則と過料に関する審議を中心として――」民商法雑誌72巻4号(1975年7月)716頁),更に「両者の規定内容,とりわけ1編総則と過料に関する規定の著しい類似性からすると,わが法の起案にあたり起草委員らがFGGの草案ないし法案を入手し,これを模範にしたと推定して,ほぼ誤りないであろう」と述べられています(同719頁註(1))。しかして当該FGGの第「1編総則〔第1条から第34条まで〕は,手続上の最小限度の要請である管轄,手続上の原則,裁判の種類と効力および抗告ならびに過料に関して規定してお」るものとされていますので(岡垣(1):717頁),筆者は1898年FGGの第1条から第34条までをざっと眺めてみました。しかし,そこでの過料に関係する条項は次の1箇条だけでした。
§. 33.
Soll in den gesetzlich zugelassenen Fällen Jemand durch Ordnungsstrafen zur Befolgung einer gerichtlichen Anordnung angehalten werden, so muß der Festsetzung der Strafe eine Androhung vorausgehen. Die einzelne Strafe darf den Betrag von dreihundert Mark nicht übersteigen.
第33条 法律で認められた場合において,秩序罰(Ordnungsstrafen)によってある者が裁判所の指示に従うように仕向けられるときには,額の確定に対して警告が先行しなければならない。各箇の罰は,300マルクの金額を超えることはできない。
しかしこれは,執行罰としての過料ではないですか。Ordnungsstrafeの語は更に1898年FGGの第83条1項,第132条1項,第133条1項,第138条,第139条1項,第140条2号,第151条及び第159条に登場しますが,例えば,第83条1項は,遺言書の遺産裁判所への引渡義務を履行させるために同裁判はその所持人を執行罰としての過料に処し得る旨の規定です。過料に相当するドイツ語は,Geldbuße(須藤陽子「「秩序罰」に関する一考察」立教法学第99号(2018年)241頁註7),Bußgeld又はBußeということになるようなのですが,1898年FGGには,これらの語はないのです。
したがって,旧非訟事件手続法の過料関係規定のドイツFGG由来説には筆者は左袒しかねるところです。
(2)旧206条
旧非訟事件手続法旧206条(現行非訟事件手続法119条に対応)は地方裁判所をもって過料事件の管轄裁判所としていますが,これには旧商法261条に関する前記1888年1月19日の法律取調委員会の議論が関係するようです。出来上がりの旧商法261条1項本文では「前数条ニ掲タル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス」となりましたが,同日の議論では「本条ハ〔略〕「裁判所」ヲ「地方裁判所」ト改ム」となっていました(日本近代立法資料叢書18:232-233頁)。南部甕男が「〔裁判所〕構成法ガ出来レバ裁判官ガ3人デヤリマスカラ治罪〔法〕ノ手続ヲ用ヒズ処分スレバ事ガ簡便デ都合ガ宜シイ」と発言していたこと(日本近代立法資料叢書18:231頁)に基づくものでしょう。旧治罪法の手続によらずに「簡便」に済ますとしても裁判官3人の合議で決定するのであるから許してよ,ということだったのでしょう。しかして旧裁判所構成法(明治23年法律第6号)によれば,区裁判所の裁判権は単独判事が行うもの(同法11条1項)であったのに対して地方裁判所は第一審の合議裁判所とされていました(同法19条1項)。また,旧非訟事件手続法案を審議する1898年5月13日の法典調査会(岡垣(1):717-718頁)において,富谷鉎太郎が立案趣旨として「此事件ハ当事者ノ為メニハ重イ事テアリマスカラ地方裁判所ニ致シマシタ」と述べています(岡垣(1):737頁)。
なお,現行非訟事件手続法119条によれば同法が過料事件に係る一般法ということになっていますが,これは昭和14年法律第79号による旧非訟事件手続法旧206条の改正(1940年1月1日施行)以後のことであって,それより前は旧非訟事件手続法の過料関係規定は民法,民法施行法(明治31年法律第11号),商法,商法施行法(明治32年法律第49号)及び小切手法(昭和8年法律第57号)における過料(民事上の秩序罰)についてのみ適用があったのでした。1939年2月27日の第74回帝国議会貴族院人事調停法案特別委員会における大森洪太政府委員(司法省民事局長)の説明によると「近頃頻リニ出テ参リマス特別会社等ノ特別法令ニ依リマスト,ソレ等ノ過料ニ付テノ規定モ必要デアリマスルカラ,ソレ等ニ付キマシテハ総テ第206条ヲ準用シテ居ルノデアリマス」ところ「誠ニウルサイノデアリマスルカラ,其ノ弊害ヲ断チマスル為」,「他ノ一般法規ノ整理ノ便宜ノ為ニ斯様ニ改正ヲ致」すのだということでした(岡垣学「非訟事件手続法の制定と改正(3)――第1編総則と過料に関する審議を中心として――」民商法雑誌72巻6号(1975年9月)1098頁)。
(3)旧207条
旧非訟事件手続法旧207条(現行非訟事件手続法120条に対応)2項にある裁判所が当事者の陳述(明治32年法律第51号による改正までは「申述」)を聞き検察官の意見を求める旨の規定は,旧商法施行条例21条及び22条に由来します。
旧非訟事件手続法旧207条3項前段の即時抗告を認める規定は,旧商法261条1項ただし書(「但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得」)及び旧商法施行条例24条に対応します。かの1888年1月19日の法律取調委員会において南部甕男が「併シナガラ間違ノナイト云フコトモ保セラレマセンカラ命令ニ対シテハ抗告ガアリマスカラ抗告ノ手続ヲシタ上ニ〔デ?〕裁判所デヤツテ貰ヘバ差支ナイト思ヒマスカラ過料ハ〔ニ?〕換ヘテモ本条ハ存シテ置キタイ」と述べていたところです(日本近代立法資料叢書18:231頁)。
旧非訟事件手続法旧207条については,前記1898年5月13日の法典調査会において富谷鉎太郎が「207条ハ黙ッテ居ルト決定テスルト云フ事トソレカラ此裁判ニ対シテハ不服カ言ヘルト云フ事ト又此裁判ヲスル前ニハ直接ニ関係ノアル者ニ問ハネハナラヌト云フ事又抗告ノアッタ場合ノ訴訟費用負担ノ仕方ヲ定メマシタ之ハ総則ニ当嵌メルコトハ出来ヌノテ此処ニ規定致シマシタ」と述べています(岡垣(1):737頁)。
(4)旧208条
ア 検察官の命令
さて,旧非訟事件手続法旧208条(現行非訟事件手続法121条1項及び2項に対応)なのですが,同条1項前段の検察官の命令で過料の裁判を執行することは,旧執達吏規則3条2号に執達吏による過料の徴収についてその旨規定されていたほか,「検事ハ〔略〕其執行ノ責ニ任ス」とする旧商法施行条例23条を承けたものであり,また,刑罰ではないとしても過料は罰金が変じた一種の罰として,当時の旧々刑事訴訟法320条2項の「検事ノ命令」の存在も恐らく参考にされたものでしょう(というより,既に旧執達吏規則3条2号が旧治罪法462条2項を参考にしたものでもありましょうか。)。
現行非訟事件手続法121条1項前段の検察官の命令については,「検察官の執行命令は,内部的には会計官吏,執行係官に対する命令であり,外部的には検察官が自ら執行手続を開始する旨の意思表示(ただし,納付義務者に対するものでなく,また執行機関に対するものでもない)であって,検察官またはその指定した官吏は,各執行機関に強制執行の申立てをしなければならないと解されている。」と説明されています(金子修編著『逐条解説 非訟事件手続法』(商事法務・2015年)411頁)。
イ 執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力
旧非訟事件手続法旧208条1項後段の検察官の執行「命令ハ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力ヲ有ス」との規定は,旧執達吏職務細則97条2項の規定(「此命令ハ執行力アル債務名義ニ代用スルモノトス」)を受けたものと思わざるを得ません。明文の法律の根拠なしに,検察官の執達吏に対する命令書をもっていきなり「執行力アル債務名義ニ代用スルモノトス」とするのはいかにもtrickyな拡張解釈及び実務だったので,旧非訟事件手続法では正面から法律で規定したのでしょう。
検事の命令が判決(旧民事訴訟法516条1項)でないことは勿論ですが,旧民事訴訟法559条に個別具体的に掲げられている債務名義(抗告ヲ以テノミ不服ヲ申立ツルコトヲ得ル裁判(1号),督促手続に係る執行命令(2号),訴訟上の和解(3号),起訴前の和解(4号)及び執行証書(5号))に検事の命令それ自体を含ましめる解釈は無理だったのでしょう。当該検事の命令の前提となる裁判自体であれば,同条1号の「抗告ヲ以テノミ不服ヲ申立ツルコトヲ得ル裁判」たる債務名義であるといい得るのでしょうが,それらを離れた検察官の命令自体を債務名義と解することはできず,更に執行文を付与する者は裁判所書記であって検事ではありませんでした。そこで,苦心の「代用スルモノ」との表現が,旧執達吏職務細則97条2項ではあるいは採られたのではないでしょうか。
旧非訟事件手続法旧208条1項後段は「此命令ハ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力ヲ有ス」と規定して,検察官の命令をもって端的に執行力ヲ有スル債務名義だとはしていません。民事訴訟法(民事執行法)ならざる法律で新たな債務名義を作ることに対する憚りないしは遠慮があったものか,あるいは執行力ヲ有スル債務名義そのものと規定するよりも「同一ノ効力ヲ有ス」と規定した方が,検察官の命令の性質に応じた解釈上の操作の余地があるものと考えられたものか。
旧非訟事件手続法旧208条については,前記1898年5月13日の法典調査会において富谷鉎太郎が「208条ハ詰リ此過料ヲ執行スル方法テアリマス検事ノ命令テ出来マス検事ノ命令ハ執行力アルソレテ徃ケル其執行ノ方法ハ民事訴訟法ノ第6編ノ規定ヲ準用致シマシタ併シ茲ニ一ツ民事訴訟法ト異ナル点ハ裁判ノ送達ヲ其執行ノ前ニスルコトヲ要セナイト致シマシタ之カ例外テアリマス」と述べています(岡垣(1):737頁)。
ウ ドイツ刑事訴訟法
でここで,筆者は,1898年FGGならぬ1877年のドイツ刑事訴訟法(Strafprozeßordnung)の影響の可否有無について考えてみたいのです。
同法495条は次のとおりです。
§. 495.
Die Vollstreckung der über eine Vermögensstrafe oder eine Buße ergangenen Entscheidung erfolgt nach den Vorschriften über die Vollstreckung der Urtheile der Civilgerichte.
第495条 財産刑又は〔附帯私訴の〕損害賠償について下された裁判の執行は,民事裁判所の判決の執行に関する規定に従って行われる。
これは旧執達吏職務細則97条1項及び旧非訟事件手続法旧208条2項に対応します。我が国のそれまでの実務に照らせば,身代限による私法的な執行方式がドイツ法によっても是認されているということになるでしょう。
他方,検事の命令(書)に,執行力を有する債務名義と同一の効力を与える旧執達吏職務細則97条2項(旧非訟事件手続法旧208条1項後段)の規定の発想源はどこにあったものか。
1877年ドイツ刑事訴訟法483条1項は次のように規定していました。
§. 483.
Die Strafvollstreckung erfolgt durch die Staatsanwaltschaft auf Grund einer von dem Gerichtsschreiber zu ertheilenden, mit der Bescheinigung der Vollstreckbarkeit versehenen, beglaubigten Abschrift der Urtheilsformel.
第483条 刑の執行は,裁判所書記から交付されるべき,執行力があることの証明が備わった,判決主文の認証済み謄本に基づいて検察当局により行われる。
この謄本は,上記第495条の財産刑の民事執行がそれに基づきされるのでしょうから,そうであれば一種の債務名義です。裁判所書記によって執行力があること(Vollstreckbarkeit)が証明され,かつ,内容について認証のされた判決主文の謄本ないしは写し(Abschrift)です。我が旧民事訴訟法516条以下で「執行力アル正本」として活躍するところの正本(Ausfertigung)であるまでの必要はないようです。
さて,日本国の旧々刑事訴訟法にはフランス人・ボワソナアドの草案に起源を有する検事ノ命令(書)という証書についての規定が残されているが,それを1877年ドイツ刑事訴訟法483条1項の謄本と同じ性格のものであることにしたらどうであろうか,という発想は横着でしょうか。短い判決主文の謄本を作ってそれを認証し,かつ,それに執行力があること(Vollstreckbarkeit)を証明することをドイツでは裁判所書記がしているが,我が国では司法官たる検事が手ずからやってもいいじゃないか,文書の名宛人は裁判の言渡しを受けた者ではなく執行すべしとの命令を受けた者ということになってしまうがまあ執行機関としては気にしないだろう,ということにはならなかったでしょうか。
エ 「執行力ヲ有スル債務名義」との用語及び旧々刑事訴訟法への移入
この罰金に係る命令書は,刑の言渡しが確定した後(旧々刑事訴訟法317条1項)になってから,その刑の内容を忠実に反映した形で作成したのだと作成者たる検事が胸を張れば,司法当局によって執行力があると証明され,かつ,認証された判決主文の謄本と同価のものとなるわけです。「執行力ヲ有スル債務名義」です。当該用語が採用されたのは,旧民事訴訟法用語である「執行力アル正本」のままでの規定では,同法を離れた場においては何の執行に係る何の正本であるのかが分かりにくかったからでしょうか。なお,旧執達吏職務細則発出時(1890年11月20日)ないしは旧非訟事件手続法施行時(1898年7月16日から施行)の旧民事訴訟法には「執行力ヲ有スル債務名義」という用語はありませんでした。昭和の民事執行法51条がそれまでの「執行力アル正本」を新たに「執行力のある債務名義の正本」と称することにしてしまって,かえって後者と非訟事件手続法121条1項等の「執行力のある債務名義」との異同が気になるようになってしまったわけでしょう。
旧非訟事件手続法という思わぬ方角において発足した新制度(「〔過料の裁判の執行を命ずる検察官の〕命令ハ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力ヲ有スル」)を準用する第3項が,刑法施行法50条によって1908年10月1日から挿入されて,それまでいわば死に体であった(司法省の訓令に過ぎない旧執達吏規則97条2項のみではいかにも苦しい)旧々刑事訴訟法320条2項の「検事ノ命令」は賦活せしめられたのでしょう。(国の罰金債権が公権であるとすると,妙な議論も可能なのでした。「公権の民事上の強制執行利用不能性は権利確定手続を含めた,当時〔大日本帝国憲法下〕の観念における行政と司法の区分,法律関係でいえば,公法と私法の区分に基礎をおくものである。例えば,商業会議所が組合経費の徴収について司法裁判所に出訴した事件に関し,大審院大正3年11月9日判決(民録20輯897頁)は,商業会議所は公法人であり,したがって其の組合員に対する経費の徴収権は公権であるから司法裁判所に其の救済を求めることができない旨を判示していた」そうです(塩野宏「「行政強制」論の意義と限界」『行政過程とその統制』(有斐閣・1989年)207頁註(9))。)
英文官報を検すると,現行刑事訴訟法490条1項の「検察官の命令によつてこれを執行する」は“… shall be executed by an order of a public procurator”,「執行力のある債務名義と同一の効力を有する」は“… shall have the same effect as an executable title of obligation”と訳されています。後者の“title of obligation”はドイツ語の„Schuldtitel“そのままですね。しかし,“order”やら“executable title of obligation”の語とボワソナアドがその刑事訴訟法案で使用した元のフランス語の“mandat”と間に懸隔はあるのかないのか。
オ 第2項ただし書の謎
ところで,旧非訟事件手続法旧208条2項ただし書(「但執行ヲ為ス前裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス」。現行非訟事件手続法121条2項ただし書)の意味はやはりよく分かりません。
「検事ノ命令テ出来マス検事ノ命令ハ執行力アルソレテ徃ケル」,だから裁判の送達は不要であるというのならば,「但執行ヲ為ス為裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス」と規定すればよかったように思われます。
「民事訴訟法ト異ナル点ハ裁判ノ送達ヲ其執行ノ前ニスルコトヲ要セナイト致シマシタ之カ例外テアリマス」というにしても,事前送達は不要であるが同時送達はなお必要であるというのならば,事前送達又は同時送達を必要とする旧民事訴訟法528条1項(「強制執行ハ之ヲ求ムル者及ヒ之ヲ受クル者ノ氏名ヲ判決又ハ之ニ附記スル執行文ニ表示シ且判決ヲ既ニ送達シ又ハ同時ニ送達シタルトキニ限リ之ヲ始ムルコトヲ得」と規定するもので,民事執行法29条本文に対応)の「例外テアリマス」とまではいえないようです。また,裁判の同時送達が必要であるということですと,折角の「執行力ヲ有スル債務名義」たる検事の命令書との関係も分かりづらくなります。
現在では,「過料の裁判自体は債務名義にはならないから,この送達の対象となる「裁判」とは,債務名義である検察官の執行命令であると解される」ということです(金子編著411-412頁)。裁判所ならぬ検察官の命令を「裁判」であるものとする・文理的には強引な(と筆者には思われる)解釈が採用されています。
しかし,ここでの「裁判」が検察官の執行命令であるとしても,強制執行をするに当たってのその同時送達の要否の問題は残ります。御当局の見解は如何というに,「なお,「執行をする前に送達をすることを要しない」の意味に関し,執行前の送達が必要でないとは,執行開始要件としての送達が必要でないという意味であると解して,執行開始と同時の送達も必要ないとする見解もある」ということです(金子編著412頁)。同時送達必要説なのか不要説なのかはっきりしていません(同時の送達も必要ないとする見解もある,ということは,やはり同時送達必要説が主流なのでしょうか。)。ただし,債務名義の事前又は同時送達がないままされた執行行為の効力については,取り消されない限り有効であって,その間に送達又は責問権の放棄があれば瑕疵は治癒されるという取消説が通説であるそうですから,余りくよくよする必要はないのでしょう(菊井135-136頁,新堂=竹下編116-117頁(遠藤))。
旧執達吏職務細則97条3項ただし書的な,ドイツ民事訴訟法671条2項の訳し漏れである旧民事訴訟法528条2項対策であったというわけではないでしょう。罰金や過料の裁判の執行が「債権者(国)ノ証明ス可キ事実ノ到来ニ繋ルトキ」を挙げよといわれても難しいですし,債権者(国)の承継はまずないでしょうし(日本国が他国に征服されたような場合でしょうか),処罰の一身専属性からすると債務者の承継人に対する執行も余りなさそうです(旧刑法附則20条は「罰金科料ノ宣告ヲ受ケ未タ納完セサル前ニ於テ犯人身死スル時ハ之ヲ徴収セス附加ノ罰金ニ於ル亦同シ」と規定していました。ただし,今村信行は前記のとおり,過料については「刑事訴訟法若クハ刑法附則等ノ支配ヲ受ク可キモノナラス」と述べてはいました。)。また,旧非訟事件手続法旧208条2項ただし書は「裁判」と規定し,「執行文」とはいっていません。
それとも,1898年6月2日の第12回帝国議会衆議院民法施行法案外2件審査特別委員会における河村譲三郎政府委員の非訟事件手続法案の提案理由説明の次の部分に注目すべきでしょうか。
此総則ノ規定ハ,第一ニ手続ノ簡略ト云フコト,即チ訴訟手続ノ如キハ錯雑ナ手続ヲ設ケマシテ,非訟事件ノ事デアリマスカラ,成ルベク手続ガ簡易ニ致シマセヌト行カヌト思ヒマス,〔中略〕ソレカラ又裁判ノ送達是ハ訴訟ノ判決ノ送達ノ如クニ厳重ニ致シマスル必要モアリマセヌト考ヘマシテ,裁判所ノ相当ト認ムル方法ニ依テ,是ヲナスコトニシマシタ,例ヘバ書記ヲシテ直チニ当事者ニ報告シテモ宜イ,尤モ其事ハチャント原本ニ記入シテ,乱雑ノ弊ハ防グコトニナッテ居リマス,ソレガ18条ノ規定デアリマス
(岡垣学「非訟事件手続法の制定と改正(2)――第1編総則と過料に関する審議を中心として――」民商法雑誌72巻5号(1975年8月)918-919頁)
確かに,旧非訟事件手続法10条は,送達について「民事訴訟ニ関スル法令ノ規定」を準用していません(現行非訟事件手続法38条対照)。
過料の裁判(それから旧非訟事件手続法31条の費用の裁判)のような重い裁判であっても,非訟事件手続法の下においては送達不要なのだ(そもそも送達しないのだ),それでもその裁判について旧民事訴訟法第6編の強制執行の段階に進み得るのだ,ということをいわんがための為念的規定だったのでしょうか。
改めて,旧非訟事件手続法18条は次のとおりでした。なお,同法17条1項は「裁判ハ決定ヲ以テ之ヲ為ス」と,同法207条1項は「過料ノ裁判ハ理由ヲ附シタル決定ヲ以テ之ヲ為スヘシ」と規定していたところです。
第18条 裁判ハ之ヲ受クル者ニ告知スルニ因リテ其効力ヲ生ス
裁判ノ告知ハ裁判所ノ相当ト認ムル方法ニ依リテ之ヲ為ス
告知ノ方法,場所及ヒ年月日ハ之ヲ裁判ノ原本ニ記入スヘシ
「決定又ハ命令ハ相当ト認ムル方法ヲ以テ之ヲ告知スルニ因リテ其ノ効力ヲ生ス」(旧民事訴訟法204条1項)ということは,「その成立につき言渡の方式は必ずしも必要ではな」いということです(三ケ月章『民事訴訟法』(有斐閣・1959年)305頁)。しかして旧民事訴訟法旧245条3項(旧民事訴訟法の旧規定とは,大正15年法律第61号(1929年10月1日施行)による改正前の規定)は言渡しをしない決定及び命令について,「言渡ヲ為ササル裁判所ノ決定及ヒ言渡ヲ為ササル裁判長並ニ受命判事又ハ受託判事ノ命令ハ職権ヲ以テ之ヲ当事者ニ送達ス可シ」と,送達が必須である旨規定していたのでした。
刑事訴訟法490条2項ただし書は,民事執行法29条の特則というよりは,むしろ民事訴訟法(平成8年法律第109号)255条的手続の特則であるというべきでしょうか。
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