(上):民法265条及び旧民法財産編171条(他人の土地の使用権vs.地上物の所有権及び権利の内容)
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(中):旧民法財産編172条から176条まで及び民法266条から268条まで(「山ノ芋カ鰻ニナル」,地代,1筆中一部の地上権,相隣関係等及び存続期間)
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9 旧民法財産編177条と現行民法269条と:工作物等の収去等
(1)条文
旧民法財産編177条は次のとおりです。
第177条 建物又ハ樹木ノ契約前ヨリ存スルト否トヲ問ハス地上権者之ヲ売ラントスルトキハ土地ノ所有者ニ先買権ヲ行フヤ否ヤヲ述フ可キノ催告ヲ1个月前ニ為スコトヲ要ス
右先買権ニ付テハ此他尚ホ第70条ノ規定ニ従フ
Art. 177. Soit que les constructions et plantations existent antérieurement ou non au contrat, le superficiaire qui veut les vendre doit sommer le propriétaire du fonds, un mois à l’avance, d’avoir à declarer s’il entend user du droit de préemption.
L’article 70 s’applique audit cas, pour le surplus de ses dispositions.
同編70条は次のとおり。
第70条 用益権消滅ノ時用益者又ハ其相続人カ前条ニ従ヒテ収去スルコトヲ得ヘキ建物及ヒ樹木等ヲ売ラントスルトキハ虚有者ハ鑑定人ノ評価シタル現時ノ代価ヲ以テ先買スルコトヲ得
用益者ハ虚有者ニ右先買権ヲ行フヤ否ヤヲ述フ可キノ催告ヲ為シ其後10日内ニ虚有者カ先買ノ陳述ヲ為サス又ハ之ヲ拒絶シタルトキニ非サレハ其収去ニ著手スルコトヲ得ス
虚有者カ先買ノ陳述ヲ為シタリト雖モ鑑定ノ後裁判所ノ処決ノ確定シタル時ヨリ1个月内ニ其代金ヲ弁済セサルトキハ先買権ヲ失フ但損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
用益者又ハ其相続人ハ代金ノ弁済ヲ受クルマテ建物ヲ占有スルコトヲ得
虚有権者とは,フランス語のnu-propriétaire(文字どおりには「裸の所有者」)です。
現行民法269条は次のとおりです。
第269条 地上権者は,その権利が消滅した時に,土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし,土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは,地上権者は,正当な理由がなければ,これを拒むことができない。
2 前項の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
(2)諸外国の例
ボワソナアドによれば,当時の諸国における,「地上権」が消滅したときの地上物の取扱いの例は,次のようなものでした。
常に地上権があらかじめ定められた期限と共に設定されるヨーロッパの一部の国,特にフランスにおいては,建物及び樹木は,期限の経過と共に,補償なしに土地の所有者によって取得される。地上権者はあらかじめ,法律又は合意に含まれるこの厳しい条件を承諾しているのであるから,これを不正義だということはできない。
オランダ及びベルギーにおいては,代価支払の負担なしに,地上権者によって当初取得され,又は彼によって築造された建物を土地の所有者が再取得することはない。これは法定先買権(un droit légal de préemption)である。
(Boissonade I, p.351)
ベルギー国1824年1月10日法を見ると,次のようにあります。
Art.6 À l’expiration du droit de superficie, la propriété des bâtiments, ouvrages ou plantations, passe au propriétaire du fonds, à charge par lui de rembourser la valeur actuelle de ces objets au propriétaire du droit de superficie, qui, jusqu’au remboursement, aura le droit de rétention.
(地上権が消滅した時には,建物その他の工作物又は植物の所有権は,当該目的物の時価を地上権者に補償する負担とともに土地の所有者に移転する。地上権者は,償金の支払まで留置権を有する。)
Art.7 Si le droit de superficie a été établi sur un fonds sur lequel se trouvaient déjà des bâtiments, ouvrages ou plantations dont la valeur n’a pas été payée par l’acquéreur, le propriétaire du fonds reprendra le tout à l’expiration du droit, sans être tenu à aucune indemnité pour ces bâtiments, ouvrages ou plantations.
(既に建物その他の工作物又は植物が存在していた土地の上に地上権が設定された場合であって,その価額が取得者によって支払われなかったときは,権利の消滅に伴い土地の所有者は,当該建物その他の工作物又は植物の補償をする負担なしに全てを再取得する。)
この「法定先買権」は,オプションというよりも,所有権移転の効果がまず当然生ずるもののようです。梅が「外国ニハ随分地上権ノ消滅シタル場合ハ建物樹木等ハ当然土地ノ所有者ノ所有物トナツテ其代リ夫レニ対スル償金ヲ払ハナケレハナラヌト云フ規定カアリマス」(日本学術振興会『法典調査会民法議事速記録第11巻』3丁表)と言う「外国」は,ベルギー国等でしょうか。
(3)日本民法
ア 旧民法財産編177条から現行民法269条へ
我が旧民法財産編177条の規定に対して,ボワソナアド自身は,土地所有者の先買権は当事者に特約がある場合にのみ認められるべきであって,「日本国においては,経済的に見てよく,かつ,所有権の規則に調和したものである同国の慣習を保持することが好ましいと筆者は考える。すなわち,地上権者は建物の所有権を有し,したがって,例外的な事情によって権利が当該建物の朽廃前に消滅したときには,それを収去することができるのである。」と述べていました(Boissonade I, pp.351-352)。日本国における地上物収去の容易性は,ボワソナアドに強い印象を与えていたようです。いわく,「筆者は既に,日本国においては建物(少なくとも木造のもの)が収去され,移築されることが非常に容易にできることに注意を喚起する機会〔略〕があった。喬木を含む樹木についても,移植を見越して根が幹から遠くまで伸びないようにするよう配慮された場合,又はそのような想定がなかった場合であっても,1ないし2年間,新しい根が生える間当該樹木を動かすことなく,順次太い根を切除していったときは,同様である。」と(Boissonade I, p.350 (c))。ただし,このボワソナアドの認識と梅謙次郎の認識とは異なっており,地上権者の地上物収去権のみ認めて土地所有者の買取権を認めない主義について梅は「是レハ経済上余リ面白クナイ,建物ヲ壊ハシテ持ツテ往ク樹木ヲ引キ抜イテ持ツテ往クト云フコトハ多クノ場合ニ於テハ其物ノ価ヲ減ズルモノデアリマスカラ一般ノ経済上カラ考ヘテモ面白クアリマセヌ」と述べていました(民法議事速記録第11巻3丁裏)。
現行民法269条の案文は,他の地上権規定が1894年9月28日の第32回法典調査会で審議されていたのに対し,積み残されて,同年10月2日の第33回法典調査会で審議されています。梅謙次郎によれば,現行民法269条は旧民法「財産編第177条ト粗ホ精神ヲ同フシテ居」るものですが(民法議事速記録第11巻2丁表),旧民法財産編177条では「地上権者カ土地ノ所有者ニ売リ度クナイノデ一旦ハ売ラナイ自分ノ方ニ都合カアツテ売ラナイト言ツテ取リ去ツテ又後日夫レヲ外ノ人ニ売ツテモ夫レハ仕方ガナイ」ということで「先買権ナシト云フ大層ナ名ヲ附ケルヨリモ実際双方ノ為メニ都合ノ宜イ様ニ規定シタ方ガ宜カラウ夫レデ本条ノ如ク書キマシタ」ということでした(同丁裏)。
ところで,現行269条1項本文を設けた趣旨は,梅によれば「外国ノ例カ区々ニナツテ居ルシ又地上権ノ場合ニ於テハ権利ノ存在シテ居ル間ハ工作物及ヒ竹木ノ所有者テアルガ権利カ消滅スルト同時ニ添付ノ一般ノ規定カ当嵌マルト云フ様ナ学説カ立タヌコトモナイト思ヒマス又権利消滅ノ時ニ土地ヲ原状ニ復サナケレバナラヌト云フコトカアルカラ普通ノ原則ト少シ違ヒハシマセヌカ」ということです(民法議事速記録第11巻7丁裏-8丁表)。
イ 土地を原状に復しつつする地上権者の地上物収去の権利に関して
(ア)原状回復義務のボワソナアド案における不在
「権利消滅ノ時ニ土地ヲ原状ニ復サナケレバナラヌト云フコトカアルカラ普通ノ原則ト少シ違ヒハシマセヌカ」とは語尾がはっきりしませんが,確かに,旧民法財産編177条成立後のボワソナアドによる同条に係る理想案においては“Les constructions et plantations, tant celles établies antérieurement au contrat que celles faites par le superficiaire, peuvent être enlevées par celui-ci, à moins que le propriétaire du sol ne se soit réservé le droit de préemption.”(土地の所有者が先買権を留保していない限り,建築及び植物は,契約の前から存していたものも地上権者によって設けられたものも,地上権者が収去することができる。)と規定されていて,地上物収去の際の原状回復義務については言及されていません(Boissonade I, p.342)。また,そもそも旧民法には「地上権」者による地上物収去の権利義務に関する規定がありません。
(イ)永借人,賃借人及び用益人による収去の際の旧状回復義務
この点旧民法の永借権(「永貸借トハ期間30年ヲ超ユル不動産ノ賃貸借」です(同法財産編155条1項)。最長期は50年でした(同条2項)。)及び賃借権並びに用益権(「用益権トハ所有権ノ他人ニ属スル物ニ付キ其用方ニ従ヒ其元質本体ヲ変スルコトナク有期ニテ使用及ヒ収益ヲ為ノ権利」です(同編44条)。)と比較すると,①永借権においては「永借人カ永借地ニ加ヘタル改良及ヒ栽植シタル樹木ハ永貸借ノ満期又ハ其解除ニ当リ賠償ナクシテ之ヲ残置クモノトス」(同法財産編170条1項),「建物ニ付テハ通常賃貸借ニ関スル第144条ノ規定ヲ適用ス」(同条2項)とされ,②賃借権については同法財産編144条が「賃貸人ハ賃貸借ノ終ニ於テ第133条ニ依リテ賃借人ノ収去スルヲ得ヘキ建物及ヒ樹木ヲ先買スルコトヲ得此場合ニ於テハ第70条ノ規定ヲ適用ス」と規定しているところ,同編133条2項は「賃借人ハ旧状ニ復スルコトヲ得ヘキトキハ其築造シタル建物又ハ栽植シタル樹木ヲ賃貸借ノ終ニ収去スルコトヲ得但第144条ヲ以テ賃貸人ニ与ヘタル権能ヲ妨ケス」(À la fin du bail, il peut enlever les constructions et plantations qu’il a faites, si les choses peuvent être rétablies dans leur état antérieur; sauf la faculté accordée au bailleur par l’article 144.)としており(下線は筆者によるもの),③用益権については「用益者ハ自己ノ設ケタル建物,樹木,粧飾物其他ノ附加物ヲ収去スルコトヲ得但其用益物ヲ旧状ニ復スルコトヲ要ス」(Il peut enlever les constructions, plantations, ornaments et autres additions par lui faites, en rétablissant les choses dans leur état primitif.)とされています(同編69条3項。下線は筆者によるもの。なお,同条1項は「用益者ハ用益権消滅ノ時猶ホ土地ニ附著シテ其収取セサリシ果実及ヒ産出物ノ為メ償金ヲ求ムル権利ヲ有セス」と,同条2項は「又用益物ニ改良ヲ加ヘテ価格ヲ増シタルトキト雖モ其改良ノ為メ虚有者ニ対シテ償金ヲ求ムルコトヲ得ス」と規定しています。)。こうしてみると,ボワソナアドがその「地上権」について,地上物収去に当たっての原状(旧状)回復を求めていないのは意図的なものだったと考えるべきなのでしょう。
(ウ)附加物収去権の由来
賃借人の収去権(旧民法財産編133条2項)に関するボワソナアドの解説を見ると,用益者のそれ(同編69条3項)を参照せよということになっています(Boissonade I, p.275)。そこで用益者の収去権に関するボワソナアドの解説を見ると,当該収去権は、母法であるフランス民法599条及び555条(同条は不動産に対する添付に係る旧民法財産取得編11条に対応)との関係に係る問題に遡る大層な由来を背負っているものなのでした。
同様の状況〔他人の設けた地上物に係る土地の所有者からの除去請求の可否並びに除去されない場合における同人による償金支払の要否及び額が問題となる状況〕が用益地上に築造又は栽植をした用益者に生じた場合に当たっては,フランスでは,二つの主要な考え方(systèmes)が存在している。
その一においては,用益者を,悪意で地上物を設けた者と同視するものとする〔フランス民法555条により,土地の所有者が除去を求めれば,悪意で地上物を設けた者は,その費用で,かつ,補償なしに地上物を除去しなければならず,更に土地の所有者に損害があった場合には,その賠償もしなければならないことになります(同条1項・2項)。なお,土地の所有者は,償金を払って地上物を保持することもできます(同条1項・3項)。〕。なぜかというと,彼は自分に所有権が帰属しないことを明白に知っているからである。しかして論者は,法は用益者がした改良(améliorations)に係る何らの補償も同人に認めないこととしてはいるが〔フランス民法599条2項は,用益者の行った改良に対する償金を,用益物の価格が増加していても,用益権が終了した時に同人に与えることを否定しています。〕,建築(constructions)は改良であるとはしていないと説きつつ,少なくともそれらの収去は同人に認め,更に,所有者がその保持を望むときは,第555条の第1の場合について規定されるところに対応する償金〔費用額又は価格の増加額〕を支払うべきだと説く。
第2の考え方においては,論者は,第599条を,補償の否認において絶対的であるものとみなし,かつ,同条においては「粧飾物」のみが挙げられている物の収去権について〔同条3項は,原状回復を条件として,用益者又はその相続人は,用益者の設置した鏡,絵画その他粧飾物を収去することができるものとしています。〕,限定的であるものとみなしている。
この解決方法によっては,法は,論理的なものとも衡平なものとも受け取られないものとなる。〔筆者註:1885年11月4日のフランス破毀院審理部決定は,土地に加わってその価格を高める新たな建築も,起工された建物を完成させ,又は既存のものを拡張する建築もフランス民法599条の改良とみなされねばならないものとし,かつ,用益者は用益権の消滅時において,何らの関係においても,追奪された第三占有者と同視され得ないので,その際,同法555条の適用を受け得ないものとしています。すなわち,用益者のした建築は,たとえ用益物の価格が増加されていても,フランス民法599条2項の改良であるものとして,同項の規定により,用益権が消滅した時に何らの補償も受け得ないわけです。〕
106. 日本国の〔法〕はこれらの考え方と全く異なるものである。
〔旧民法財産編69条3項〕は,用益者に対して,その建築及び植物を収去することを正式に認めている。確かに彼は,彼のものではない土地に築造又は栽植をしているということを必然的に知っているわけではあるが,虚有者に対して贈与をするつもりではないということも明らかなのである。また,彼を悪意の占有者のように取り扱うことも正当ではない〔善意であれば,地上物の除去を強制されないことになります(フランス民法555条旧3項後段)。〕。なぜなら,用益物は他人のものだと知ってはいても,彼はそれを占有する正当な権原を有しているのである。
(Boissonade, pp.159-160)
単純に,用益者が附加物の所有者なのだ,とア・プリオリに言うことはできなかったようです。
梅謙次郎は民法旧598条(「借主は,借用物を原状に復して,これに附属させた物を収去することができる。」)について「蓋シ借主ハ物ノ使用ニ便スルタメ往往之ニ他物ヲ附属セシメテ之ヲ使用スルコトアリ此場合ニ於テハ其附属セシメタル物ハ貸主ノ所有物ニ非サルヲ以テ之ヲ収去スルコトヲ得ルハ殆ト疑ヲ容レサル所ナリ或ハ添附ノ原則ニ依リ之ヲ収去スルコトヲ得サルカヲ疑フ者ナシトセサレトモ第242条ニ依レハ権原ニ依リテ不動産ニ物ヲ附属セシメタル場合ニ於テハ敢テ添附ノ規定ヲ適用スヘカラサルモノトセリ而シテ借主ハ物ノ使用,収益ヲ為ス権利ノ結果トシテ其使用,収益ノ為メニ他ノ物ヲ附属セシムルコトヲ得ルカ故ニ之ニ添附ノ規定ヲ適用スヘカラサルヤ明カナリ」云々と述べていますが(梅謙次郎『民法要義巻之三債権編』(私立法政大学=有斐閣書房・1912年(第33版))620-621頁),用益者の収去権に関する上記の煩瑣な議論に鑑みるに,使用貸借が民法242条ただし書の権原であることが既に認められていることを前提に同法旧598条の規定が設けられたというよりは,同条があることによって,使用貸借が同法242条ただし書の「権原」であることになったというべきもののようにも思われます。
地上権の場合は,地上物が地上権者の所有物であることは定義上明らかであって(民法265条の「工作物又は竹木を所有するため」),地上権が消滅しても当該所有権の所在に変動がないこととするのならば,そのことを明らかにする条文さえあれば,地上権者の所有権に基づく地上物収去が可能であることを特に基礎付ける条文は不要であったはずです。
(エ)民法269条1項の原状回復義務の由来及び地上物収去権の法律構成
ところで,民法269条1項本文に「その工作物及び竹木を収去することができる」に加えて「土地を原状に復して」(富井=本野のフランス語訳では“en rétablissant le sol dans son état primitif”)との文言が付されたのは,そのままだとすると,「例ヘハ工作物ヲ取去ルニ当リ土中ニ埋メタル物ヲ掘取リ又ハ竹木ヲ抜去リタル跡ニ穴ヲ生シタルトキ」に「其穴ヲ埋メテ之ヲ平坦」にするのは土地の所有者か,それとも地上権者かという問題が残るので(梅二240頁参照),そこをあらかじめ解決しておこうとしたものでしょう。1895年6月11日の第93回法典調査会において梅は「元来地上権者ト云フ者ハ自分ノ権利デ其上ニ家ヲ建テタリ樹木ヲ植エタリスルコトガ出来ルデアルカラ其権利ノ結果トシテ家ヲ建テルニハ泥ヲ掘ツテ石ヲ据エナケレバナラヌ木ヲ植エルニハ無論穴ヲ掘ラナケレバナラヌソレハ当事者モ初メカラ知ツテ居ラナケレバナラヌモノデアルソレニ付テ地上権ト云フ物権ガアル以上ハドウモ仕方ガナイソレハ権利行使ノ結果デアルカラ仕方ガナイ大キナ木ヲ植エテアツタノヲ掘ツタ為メニ何間四方ノ穴ガアイタ家ヲ引イテ往ク時ニ土台石ヲ掘ツテ穴ヲ掘リ放シテ往クト云フヤウナコトハ若シコレガ削ラレルト私ハ然ウ解釈スル権利行使ノ当然ノ結果デアルカラサウダラウト思ヒマスソレデ此原状ニ復シテト云フコトガ必要デアラウト思フ」と述べています(日本学術振興会『法典調査会民法議事速記録第32巻』85丁裏-86丁表)。ここで地上権者が行う地上物の収去は,当該地上物の所有権に基づくものでしょう。
ただし,地上権消滅後に土地の所有者が地上権者に工作物及び竹木の除去を請求できるかといえば,梅は消極でした。いわく,「所有者ノ方デ原状ニ復シテ竹木ヲ除去シロト言ツテ地上権者ニ迫ルコトガ出来ルカト云ヘバ地上権者ニ強ユルコトハ出来ナイ外国ノ法律ニハ明カニ書イテアル所モアリマスガ書カナケレバ当然強ユルコトハ出来ナイト思フ何ゼナラバ〔略〕今迄永々御世話ニナツタカラ残シテ置クトカ御礼ニ上ゲルトカ言ツテ残シテ往クコトガアルカモ知ラヌ理由ハドウデアツテモ其使用権行使ノ結果トシテ建物ガ残ツテ居ル樹木ガ残ツテ居ルト言ツテモ仕方ガナイコトデアルソレニ対シテ土地ノ所有者ハ何共苦情ヲ云フコトハ出来ナイ若シ邪魔ニナルナラ自分ノ方デ取レバ宜イソレデアルカラ地上権者ガ残シテ置ケバ多クノ場合ハ地上権者ハソレニ付テ権利ヲ失フモノト思フ明文ガナケレバサウナルソレデ収去スルコトヲ得トアレバ原状ニ復シサヘスレバ収去スルコトニナルサウ云フ訳デ土地ノ所有者カラ地上権者ニ持ツテ往ケト云フコトハ言ヘヌ」と(民法議事速記録第32巻86丁表裏)。しかし,地上物の「収去と原状回復とは,権利であると同時に,義務だと解されている(例えば地上権者が設けたタンクなどの地下施設が無用の長物と化している場合を考えよ)。」とのことで(我妻=有泉370頁。また,川島=川井編888頁(鈴木禄弥),星野英一『民法概論Ⅱ(物権・担保物権)』(良書普及会・1980年)153頁),民法269条1項本文のいわば裏としての土地所有者の地上権者に対する地上物除去請求権の否認論は,一般的な解釈ではないようです。また,当該除去請求権否認論は,次に見るようにそもそも法律構成が難しい。
つまり,梅流の除去請求権否認論は,一見すると,「地上権者ガ残シテ置」くことによる黙示の地上物所有権放棄(「権利ヲ失フ」)という構成を採るもののようなのですが,工作物及び竹木は不動産なので,その所有権の放棄は可能であるかがまず問題となり,可能であるとしても,その場合は国の所有物となってしまうので(民法239条2項),土地所有者が「自分ノ方デ取レバ宜イ」どころではなくなります。そうであればやはり,地上権の消滅に伴い地上物は土地に添付するものとした上で,民法269条1項本文が,同法248条の償金請求権に代わるものであるところの原状回復と共に行う地上物収去権を地上権者に創設的に与えたものと解すべきでしょうか。この場合,同項ただし書の買取請求権における「これを買い取る」の「これ」は,地上物ではなく,地上権者の地上物収去権のことであると強弁することになるようです。ただし,梅謙次郎は民法269条1項ただし書の収去権について「詰リ原則トシテハ地上権者ハ勝手ニ自分ノ所有物タル所ノ工作物樹木等ヲ取リ去ルコトガ出来ル」と当初説明していましたから(民法議事速記録第11巻2丁裏。下線は筆者によるもの),無理なこじつけは,夫子による食言的改説を想定するものということになってしまいます。
なお,地上物の収去に必要な期間中,地上権者が土地を使用できること(我妻=有泉370頁,舟橋409頁)については,地上物中心の地上権=地上物役権的把握からの方がよりもっともらしく納得できそうです。
10 旧民法財産編178条及び民法施行法44条の経過規定:後者の分かりづらさ
旧民法財産編178条は次のとおりです。
第178条 本法実施ノ時ニ存スル地上権ハ左ノ規定ニ従フ
期限ヲ立テテ設定シタル地上権ハ其期限ニ至リ当然消滅ス
期限ヲ立テスシテ設定シタル地上権ハ第176条ニ従ヒテ建物存立ノ時期間継続ス
右両様ノ地上権ハ共ニ前条ニ規定シタル先買権ニ服ス
Art. 178 Les droits de superficie qui se trouvront établis au moment de la mise à exécution du présent Code seront réglés ainsi qu’il suit:
Ceux qui auront été établis pour un temps déterminé cesseront de pleine droit avec le temps qui leur avait été assigné;
Ceux auquels les parties n’avaient pas assigné de durée fixe, dureront autant, que les bâtiments, conformément à l’article 176.
Les uns et les autres seront soumis au droit de préemption réglé par l’article précédent.
これに対して,民法施行法(明治31年法律第11号)44条は次のとおり。
第44条 民法施行前ニ設定シタル地上権ニシテ存続期間ノ定メナキモノニ付キ当事者カ民法第268条第2項ノ請求ヲ為シタルトキハ裁判所ハ設定ノ時ヨリ20年以上民法施行ノ日ヨリ50年以下ノ範囲内ニ於テ其存続期間ヲ定ム
地上権者カ民法施行前ヨリ有シタル建物又ハ竹木アルトキハ地上権ハ其建物ノ朽廃又ハ其竹木ノ伐採期ニ至ルマテ存続ス
地上権者カ前項ノ建物ニ修繕又ハ変更ヲ加ヘタルトキハ地上権ハ原建物ノ朽廃スヘカリシ時ニ於テ消滅ス
民法施行法44条は分かりづらいです。
まずその第2項及び第3項は存続期間の定めのある地上権に適用があるかどうかですが,これは,「民法施行前に設定された地上権であって存続期間の定めのないものについては,工作物等の存否の区別に従って民法施行法第44条に存続期間(同条2項3項)もしくは決定基準(同条1項)が定められている(大判明治36・2・9民128頁参照)。」ということですから(我妻=有泉354頁。下線は筆者によるもの),存続期間の定めのある地上権については同条の適用はないということでしょう。旧民法財産編178条2項のような明文は無くとも,同項の規定する帰結は当然のことと解されているのでしょう。つとにボワソナアドも,同項に関し「当事者が確定した存続期間を定めている〔地上権〕については,決められた期間中享受すべき既得権が,地上物又は地代という形で,合意によって各当事者に生じているのである。したがって,法はそれを絶対的に尊重するのである。」と述べていたところです(Boissonade I, p.352)。
民法施行法44条1項とその第2項及び第3項との適用の順番は,「民法施行前に設定された地上権で建物または竹木がない場合には,当事者の請求により,裁判所が,〔略〕その地上権の存続期間を定める(民施44条1項)。」ということですので(我妻=有泉354頁),第2項及び第3項が優先され,第1項はそれ以外の場合に働くものであるわけです。
以上は民法施行法44条の文言上の分かりづらさですが,理論的にも,その第2項及び第3項は,梅謙次郎によって否定されたはずの地上権=地上物所有権説が復活しているようにも見え,民法265条との関係が不透明です。これは一体どうしたことかということであれば,筆者としては結局,当該規定の出生の秘密を探ることになります。
場面は,民法施行法を議する法典調査会の第8回会合(1897年6月9日)になります。実は,当該会合に梅謙次郎が提出した原案は,成立した民法施行法44条中の第1項の部分のみのものであって(施行法議事要録2ノ8丁表),趣旨は,「民法施行ノ日ヨリ50年以内」として,民法268条2項の規定そのままだと民法施行時「既ニ50年ヲ経過シタルモノハ民法施行ト同時ニ消滅スルニ至ル」ということになってしまうことを避けるためのものでした(同丁裏)。しかし,前記のとおり永久地上権の存在を主張する委員が多く,民法施行後50年では短過ぎるとこもごも原案を非難し(この点,民法施行後には永久地上権は認められなくなるとの認識の一致があったのでしょう。ただし,既得権尊重ということであれば,永久地上権の永久性も尊重されるべき既得権であって民法施行前設定の永久地上権は「存続期間ノ定メナキモノ」には含まれない,という了解があれば十分であったはずです。),磯部四郎🎴が石造・煉瓦造の建物については旧民法「財産編176条ノ如キ主義ニ修正スルノ説ヲ提出」するに至り(施行法議事要録2ノ10丁表),議事は「其他論難攻撃及ヒ之ニ対スル起草者ノ答弁及ヒ反駁アリテ容易ニ決着スルニ至ラス」ということになりましたが(同2ノ11丁裏),「最後ニ長谷川〔喬〕君ノ説トシテ本条ヲ大体既成法典第178条第3項及ヒ第176条第2項ノ精神ニ改ムルノ説ヲ提出シ以テ起草者ト協議ヲ遂ケ議場多数者ノ賛成ヲ得採決ノ結果右ニ可決シ文章ハ慣例ニ因リテ起草者ニ一任スルコトトナリ散会ヲ告ケタリ」ということになったのでした(同)。
要は,妥協の産物でありました。民法施行法44条2・3項の起案は,梅としては不本意な作業だったのでしょう。しかし,その後永久地上権が判例で認められたことにより,同条の適用場面はその分縮小されたわけでした。
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