1 他人の土地を使用する権利たる地上権と地上物の所有権たる「地上権」と
民法(明治29年法律第89号)265条以下に,地上権に関する規定があります。同条は,「地上権者は,他人の土地において工作物又は竹木を所有するため,その土地を使用する権利を有する。」と規定しています。
地上権は,家屋を築造し,トンネル・溝渠・架橋などを建設し,植林をするなどの目的で,他人の土地を使用する物権である。現行法の体系では,土地所有権を一時的に制限する権利であり,その制限は,原則として,所有者の意思に基づいて成立する〔略〕。〔略〕物権法定主義〔略〕の結果,地上権を設定する以上,所有者の留保ないし獲得しうる有利な地位にもおのずから限度がある。そこで,所有者は,自分の土地を他人に使用させるという地上権と同様の目的を,賃貸借によって達成しようとする。賃貸借においては,賃借人の使用権は,土地に対する直接の支配権としてではなく,賃貸人に対する債権(土地を使用させるように請求する権利)を介して,間接に生ずる権能として,構成されている。したがって,賃借人の使用権は,地上権に比して,あたかも,債権がその効力において物権に劣る点だけ,弱いものとなる〔略〕。〔後略〕
(我妻榮著=有泉亨補訂『新訂物権法(民法講義Ⅱ)』(岩波書店・1983年(1984年補正))338頁。下線は筆者によるもの)
地上権(jus superficies, superficie, Erbbaurecht)ハ土地ニ関スル物権ニシテ所有権ニ次イテ強力ナルモノナリ其定義ハ第265条ニ於テ之ヲ掲クヘシト雖モ従来我邦ニ行ハルル借地権ノ一種ナリ新法典ニ拠レハ借地権ハ之ヲ4種ニ分ツコトヲ得(第1)地上権,(第2)永小作権,(第3)賃借権,(第4)使用借権是ナリ
(梅謙次郎『訂正増補民法要義巻之二物権編』(私立法政大学=有斐閣書房・1911年(第31版))224-225頁)
借地借家法(平成3年法律第90号)2条1号 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
以上のような説明及び法文を読むと,地上権とは,土地の賃借権の物権版であって,当該土地の使用(ちなみに,富井政章=本野一郎のフランス語訳では,所有権に係る民法206条の「使用,収益」は“d’user, d’jouir”と,賃貸借に係る同法601条の「物の使用及び収益」は“l’usage et la jouissance d’une chose”となります(Code Civil de l’Empire du Japon, Livres I, II & III(新青出版・1997年))。)の目的が工作物又は竹木を所有するためであるもの,というふうに早分かりすることになります。これで大過はないところです。
しかし,中小の興味深い事実を見逃してしまうかもしれません。
本条〔民法265条〕ハ地上権ノ定義ヲ下シタルモノナリ地上権ノ性質ハ古来大ニ議論アル所ニシテ各国ノ法律亦一様ナラサル所ナリ旧民法ニ於テハ仏国ノ一部ノ学者ノ説ヲ採リテ地上権ヲ以テ建物又ハ竹木ノ所有権トセルカ如シ是レ必スシモ誤謬ナリト謂フコトヲ得スト雖モ若シ此説ノ如クンハ地上権ヲ以テ所有権ニ異ナレル一ノ物権トシテ視ルコトヲ得サルヘシ苟モ之ヲ所有権ノ支分権トシ所有権ニ異ナリタル一ノ物権トスル以上ハ建物,竹木ノ所有権以外ニ一種ノ権利ヲ認メサルヘカラス然ルニ他人ノ土地ノ上ニ建物若クハ竹木ヲ所有セント欲セハ勢ヒ其土地ヲ使用セサルコトヲ得ス此土地ノ使用権即チ之ヲ地上権ト謂フヘキカ如シ故ニ本条ニ於テハ地上権ヲ以テ他人ノ土地ノ上ニ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ其土地ヲ使用スル権利トセシナリ〔後略〕
(梅二225-226頁。下線は筆者によるもの)
「地上権ヲ以テ建物又ハ竹木ノ所有権トセル」とは,確かに奇妙ですね。所有権は所有権なので,それがどうして「地上権」なる別の物権になるものか。旧民法における「地上権」は一体いかなる権利だったのか興味が湧いてきます。また,旧民法においては,賃貸借はせっかく物権として規定されていたところ(旧民法財産編(明治23年法律第28号)115条以下),それとは別にわざわざ「地上権」の規定を設けていたのも(同編171条以下),現在の土地の賃借権と地上権との関係を考えると不思議ではあります。かくして筆者による旧民法的「地上権」に関する探訪が始まるのでした。
2 旧民法財産編171条と現行民法265条と:権利の内容
(1)旧民法財産編171条の条文及びそれに対する梅謙次郎の批判
旧民法財産編171条 地上権トハ他人ノ所有ニ属スル土地ノ上ニ於テ建物又ハ竹木ヲ完全ノ所有権ヲ以テ占有スル権利ヲ謂フ
ここでの「地上権」は,単純な「建物,竹木ノ所有権」自体ではなく,「他人ノ所有ニ属スル土地ノ上」で自己所有の建物又は竹木を「占有スル権利」ではあります。土地所有者から旧民法財産編36条1項本文(「所有者其物ノ占有ヲ妨ケラレ又ハ奪ハレタルトキハ所持者ニ対シ本権訴訟ヲ行フコトヲ得」)の本権訴権の行使を受けないという附加的効能があるわけでしょう。
しかしながら,現行民法の地上権規定の審議を行った1894年9月28日(ちなみに,この月の15-16日には平壌攻略戦があり,17日には黄海海戦があって,日清戦争たけなわの時期です。明治天皇は広島に行在していました。)の第32回法典調査会において,梅謙次郎は旧民法財産編171条を酷評します。いわく,「苟モ建物及ヒ竹木ノ所有者テアレハ夫レヲ占有スルコトハ言フヲ俟タヌコトテアツテ若シ占有スルコトカ出来ナイ場合ハ所有者テナイノテ所有者ト言ヘハコソ占有スルコトカ出来ルト言ツテ宜イ位テ若シ是レカ建物又ハ竹木ノ完全ノ所有権ノ為メニ他人ノ土地ヲ所有スル権利ト言ツタラ稍々本案〔「地上権者ハ他人ノ土地ニ於テ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ其土地ヲ使用スル権利ヲ有ス」〕ト同シ様ニナリマスカ既成法典ハ然ウナツテ居ラヌ」と(日本学術振興会『法典調査会民法議事速記録第10巻』175丁裏。下線は筆者によるもの)。
当該会合においては磯部四郎🎴が,旧民法流の「地上権者ハ他人ノ地上ニ於テ工作物又ハ竹木其他ノ物ヲ所有スル権利ヲ有ス」という保守的修正案を提出していますが,否決されています(民法議事速記録第10巻197丁表,184丁表-185丁裏)。
(2)現行民法265条とベルギー国1824年1月10日法1条と
梅によれば,日本民法265条は,オランダ民法及びベルギー法に倣ったものです。
すなわち,「和蘭民法並ニ白耳義現行法ニ於キマシテハ地上権ハ他人ノ土地ノ上ニ建物工作物又ハ樹木ヲ有スル権利テアルト書イテアリマスカ是レカ一番日本ノ慣習ニ近クテ理窟モ一ト通リ分ツテ居ルト思ヒマス日本テハ土地ノ上ニアル建物及ヒ竹木ヲ土地ノ所有者テナイ者テモ得ラレルト云フコトニナツテ居リマスカラ夫レヲ採リマシタカ只必要ナル範囲ノ上ニ於テ他人ノ土地ヲ使用スルコトカ出来ル夫レカラ即チ地上権テアルト云フコトヲ一層明カニスル為メニ本案ノ如ク書キマシタ訳テアリマス」(民法議事速記録第10巻177丁裏-178丁表)ということでした。ここでの「白耳義現行法」は,同国の1824年1月10日法で,今同法1条を見るに“Le droit de superficie est un droit réel, qui consiste à avoir des bâtiments, ouvrages ou plantations sur un fonds appartenant à autrui.”と規定しています。ちなみに,1824年にはベルギー国はまだ独立しておらずオランダの一部であり,実は梅のいう「和蘭民法並ニ白耳義現行法」の規定は同一のものであって,オランダでは当該規定が後に民法典に編入されたものです(cf. Gve Boissonade; Projet de Code Civil pour l’Empire du Japon accompagné d’un commentaire, Nouvelle Édition, Tome Premier, Des Droits Réels (Tokio, 1890). p.315 (a))。
(3)旧民法財産編171条に関するボワソナアドの説明
旧民法財産編171条は,フランス語文では次のとおり。
Art. 171. La Superficie est le droit de posséder en pleine propriété des constructions ou des plantations d’arbres ou de bambous, sur un sol appartenant à un autre propriétaire.
梅に酷評されつつも,旧民法財産編171条は,梅推奨のベルギー国1824年1月10日法1条と余り変わりないようです(旧民法財産編171条では地上権が物権(un droit réel)であることを特に規定していませんが,そのことは,規定の位置からして当然明らかであったところです。)。(ただし,ベルギー国1824年1月10日法には「土地が返還される(…que le fonds soit remis…)」という表現がありますところ(同法5条),これによって地上権者による土地の占有が間接的ながらも示され得ることが,あるいは梅が同法を気に入った理由だったのでしょうか。)
旧民法財産編171条については,単刀直入にボワソナアドの解説を見てみましょう。
240. 地価が比較的高い諸国においては,その主要な性格を本条が示しているところの所有権の変容(modification)が行われている。土地自体,すなわち底地(tréfonds)はある人に属し,かつ,構築物(édifices)又は地上物(superfices)は他の人に属する,というように。
地上権(le droit de superficie)は,ローマ法において見出すことができる。フランス古法ではほとんど使われていなかったものである。フランス民法においても言及されておらず,イタリア法典においても同様である。しかしながら,フランスにおいて導入され始めており,また,オランダ,ベルギー及びその他の欧州諸国において見出すことができる。〔筆者註:こういわれてみると我が旧民法の「地上権」規定は,フランス法系法域における当時の最先端のものとして立案されたようではあります。〕
日本国においては,所有権に係るこの変容は他国より広く普及しているようである。家賃が高いことによるものであるが,当該高値自体は火災が頻繁であることに由来し,次いで当該頻繫性は,一般に木材で作られているという工作物の性質によるものであり,しかして当該工作の方法自体は,石材が少ないということによってではなく,地震が多いことによって余儀なくされているものである。
住民らは,毎月非常に高い家賃を払うよりは,火災のリスクを冒しても,投下資本に係る利息及び地代が毎年かかるだけの自宅に住むことの方を選好しているのである。
(Boissonade I, p.314)
(4)ローマ法
ローマ法における地上権については,「地上権(superficies)は地代(solarium)を支払つて他人の土地に建物を建設し,「地上物は土地に従う」(superficies solo cedit)との原則〔略〕により,土地の所有者の所有となつた該建物をあたかも所有者の如くに使用する権利である。〔略〕少くともユ〔スティニアヌス〕帝法では所有物取戻訴権類似の対物地上権訴権(actio de superficie in rem)を認められ,物権となっている〔略〕。」と説明されています(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)133頁)。
“Superficies solo cedit.”の原則の意味するところは,かねてから筆者には悩ましいところです(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1073804586.html)。
ボワソナアドのいう「所有権の変容」との意味は,「大陸法の地上権は,「地上物は土地に従う」の原則は適用あるが,その適用の結果土地所有者の有となつた建物をあたかも自己の所有物であるかの如く使用する物権というローマ法の廻りくどい表現法を変更し,さきの原則の適用を排除する物権と構成されている」(原田133頁)ことになった,ということでしょう。地上物を己れに従わしめるところの土地の所有権を変容せしめて,土地の所有者以外の者による地上物の所有を可能ならしめる制度である,ということでしょうか。「完全ノ所有権(en pleine propriété)」という表現が採用された理由は,ローマ法式の廻りくどい使用権ではないよとの感慨がそうしからしめたところであるようにも思われます。
(5)フランス法
ア Droit de Superficie
フランスにおける地上権に関しては,「然し,フランスでは,地上物は土地に附属する(superficies solo cedit)という原則は,右の両民法〔ドイツ民法及びスイス民法〕ほど徹底していない(同法553条は建物だけが時効取得されることを認めている)。その結果,宅地または農地の借主が建物を建設する承諾を得ているときは,その建設した建物は賃借人の所有に属するものとみられ,学者は,かような場合の賃借人の権利を「地上の権利」(droit de superficie)と呼んでいる。然し,住宅難の解決のために特にこの権利を強化する必要も感じられていないようである。」と紹介されています(我妻榮『債権各論中巻一(民法講義Ⅴ₂)』(岩波書店・1957年(1973年補訂))395-396頁)。
更に敷衍すれば,「フランス民法においては,地上権は法律の条文によって規定された権利ではなく,土地所有権はその上下に及ぶという552条1項の原則に対する例外を構成するものと解されている。この意味での地上権は,わが民法における地上権と異なり,一つの真正なる有体不動産所有権(propriété corporelle, immobilière)を構成し,30年の不行使によっても消滅することなく,また所有権と同様,永久権である。地上権は契約または法律の規定によって設定されるほか,時効によって取得することもありうる。地上権が存在する場合にも,土地所有者(propriétaire de tréfonds)は,土地所有権に属するすべての権能を行使しうるが,定着物および地表に損害を与えない義務を負担する。農地の賃貸借および建物の賃貸借については特別法が存在するが,地上権について,この権利を強化する特別法は存在しない。」とのことです(川島武宜=川井健編『新版注釈民法(7)物権(2)』(有斐閣・2007年)859頁(渡辺洋三))。梅は,この,地上権=「一つの真正なる有体不動産所有権」論が旧民法の「地上権」の前提になっているものと考えていたのでしょう。
なお,我が国の地上権の時効消滅(民法166条2項)については,梅は「土地ヲ使用スル権利テアルカラ使用シマセヌケレハ夫レハナクナルケレトモ工作物竹木カアレハ夫レカアル以上ハ使用シテ居ルノテアルカラ使用ノ権利カナクナル気使ヒハナイ又工作物又ハ竹木夫レ自身ヲ使用シタト云フコトテナクモ夫レヲ所有シテ居ル以上ハ固ヨリ地上権ハ消滅シナイ是レハ彼ノ時効ノ所ニ規定シタ如ク所有権ノ取得時効ト云フモノカナケレハ所有権ハ消滅シナイ〔ところである〕」と述べています(民法議事速記録第10巻180丁表)。(ちなみに,ベルギー国1824年1月10日法の地上権にも,30年の消滅時効の適用がありました(同法9条3号)。)
イ フランス民法553条と旧民法財産取得編8条と
フランス民法553条は次のとおり。
Art. 553 Toutes constructions, plantations et ouvrages sur un terrain ou dans l’intérieur, sont présumés faits par le propriétaire à ses frais et lui appartenir, si le contraire n’est prouvé; sans prejudice de la propriété qu’un tiers pourrait avoir acquise ou pourrait acquérir par prescription, soit d’un souterrain sous le bâtiment d’autruit, soit de toute autre partie du bâtiment.
(地上又は地中の全ての建築その他の工作物及び植物は,その土地の所有者が自費によりこれを築造又は栽植したものと推定されるとともに,それに対する反証のない限り同人に帰属する。ただし,他人の建物の地下又は建物の他の全ての部分について,第三者が時効により取得した,又は取得する所有権を妨げるものではない。)
同条は,我が旧民法財産取得編(明治23年法律第28号)8条に継受されています。
第8条 建築其他ノ工作及ヒ植物ハ総テ其附著セル土地又ハ建物ノ所有者カ自費ニテ之ヲ築造シ又ハ栽植シタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
右建築其他ノ工作物ノ所有権ハ土地又ハ建物ノ所有者ニ属ス但権原又ハ時効ニ因リテ第三者ノ得タル権利ヲ妨ケス
植物ニ関スル場合ハ第10条ノ規定ニ従フ
フランス語文は,次のとおり。
Art. 8 Toutes constructions, plantations et ouvrages quelconques, faits au-dessus et au-dessous du sol ou des bâtiments, sont présumés faits par le propriétaire desdits sol et bâtiments et à ses frais, si le contraire n’est prouvé.
La propriété desdits ouvrages et constructions lui appartient, s’il n’y a titre ou prescription au profit d’un tiers.
En ce qui concerne les plantations, le cas est réglé à l’article 10 du présent Livre.
旧民法財産取得編8条の趣旨を,更にフランス民法553条のそれと併せつつ知るには,ボワソナアドの説くところに当たるのが捷径でしょう。
24. 本条〔旧民法財産取得編8条〕は,2箇の別個,かつ,かなり異なった性質の規定を包含している 。
フランス民法は,これらを単一の規定(第553条)にまとめたことにより,それらのうち一方の射程を弱めてしまっている。しかしながら,理論的及び法学的解釈が,その価値の回復をもたらしているところである。
フランス民法によれば,ここには2箇の推定があり,かつ,そのいずれも反証によって否定され得る。第1の推定は,建築その他の工作物の築造及び植物の栽植は,土地の所有者がその自費をもってしたものとするものである。第2の推定は,それらの物は同人に帰属するとするものである。ところで,フランス民法は,ここで第2の推定を第1のものの上に据えて,第1の推定が否定されればその結果,第2の推定が倒れるものとしたように観察される。しかしながらこのようなことを,法は,その根底において考えていたものではない。建築その他の工作物の築造が,土地又は建物の所有者以外の者の意思に基づき,かつ,その費用によってされたことが立証された場合であっても,それゆえに,場合に応じて不当利得に係る償金を支払うべきこと又は取壊し及び材料の収去を求める権利があることは別として,当該建築その他の工作物が土地所有者に帰属しないものとなるものではない。
これら二つの規定に法律上の推定の性格を与えるとしても,第1の推定は単純又は全ての反証を許すものである一方,第2の推定は,絶対的ではないとしても,少なくとも覆すことがより難しいものであるということが認識されるべきである。当該工作物を第三者に譲渡せしめる権原に基づく反証又は第三者による長期の占有の結果としてのもう一つの推定であるところの取得時効に基づく反証以外の反証は認められないのである。
要するに,ここにおいては,ローマ法に遡る法原則のしかるべき再確認(consécration)がされているのである。すなわち,「土地の上に建造された全ての物は,当該土地に添付するものである(tout ce qui est construit sur le sol accède au sol)。Omne quod inædificatur solo cedit.」
この趣旨において,本案の本条は草されたものである。
法文は,土地の所有者と建物のそれとを分けて規定する配慮をしている。この両者は,日本国においては,他国の大部分においてよりもより多くの場合において別人格である。ところで,建物の所有者は,地上権者(superficiaire),永借人(emphytéote),用益者(usufruitier),小作人(fermier)であり得る。しかして,これらのうちいずれかの者によって建物が建築され,増築され,又は修築された場合においては,工事及び出費は同人によってされたものと推定され,並びに他人に属する材料が使用されたことが立証されたときには,次条において規定される償金の支払は別として,同人がその材料を取得する。
また,フランス民法とは異なり,本条においては建築又はその他の工作物と植物とが別異に取り扱われていることにも気が付かれるであろう。植物についても確かに,建築と同様,その栽植は土地の所有者が自費をもってしたものと推定される。しかしながら,栽植が他人の苗(木,灌木,草本)をもってされたことが立証された場合においては,〔旧民法財産取得編10条〕において規定されるように当該苗の所有者が1年以内に返還請求をしないときに初めて所有権が取得される。この例外の理由付けは,当該条項の解説において示されるであろう。
(Gve Boissonade; Projet de Code Civil pour l’Empire du Japon accompagné d’un commentaire, Nouvelle Édition, Tome Troisième, Des Moyens d’Acquérir les Biens (Tokio, 1891). pp.35-36)
(6)日本的特性
「日本では土地と建物とは別々の不動産だから,建物所有を目的とする借地(地上権であることも賃借権であることもある)が存在するが,欧米では「地上物は土地に従う」という原則があって,建物は土地の一部と観念される(建物が土地に附合する)。このため,日本のような借地は例外的に存在するに過ぎない。しかも,〔例外的に存在する彼の地の「借地」は〕日本のような地表を借りる借地とは考え方が違い,他人の土地所有権と一体とならずに(附合せずに)一定期間建物を所有する権利と考えられている。」との説明(内田貴『民法Ⅱ 債権各論』(東京大学出版会・1997年)167頁)は,この文脈の中において合点がいきます。我が国においては,「地上権を規定するにあたっては,地上物の権利関係はほとんどこれを問題とする必要なく,ただ土地の使用権たる方面だけを見ればいいわけである。民法が,地上権を,「土地ヲ使用スル権利」だとしたのは,このゆえである(ただし,永小作権の場合(270条)と異なって,工作物または竹木を「所有」するためとしているのは,ローマ法およびこれを承継した各国民法典の影響によるものと認められる。〔後略〕)」ということだったようです(舟橋諄一『物権法』(有斐閣・1960年)396-397頁)。
しかし,土地の使用権として徹底されずに「他人の土地において工作物又は竹木を所有するため」というローマ法由来の尾骶骨があえて残されている点において,地上権の特殊性がなお見出されるということは果たしてないのでしょうか。
(7)地役権的把握の可能性及びその限界
ア ボワソナアドによる「地上権」位置付け論
「地上権」が所有権の特別の権利(un droit particulier de propriété)であることはボワソナアドの認めているところですが(Boissonade I, pp.314-315),所有権の章で扱われない理由としては,「地上権者は底地(tréfonds)の所有権を有していないこと。彼は,その工作物又は竹木がその上に存する土地の表面(surface du sol)の所有権も有していないこと。最後に,彼の土地使用(jouissance du sol)は30年を超え,又は50年を超え得ることから,彼は賃借人,更には永借人のように毎年の地代を支払うこと。したがって,更に当該二つの権利を認める諸国で例となっているように,永借権と地上権とを一緒にすることが自然であること。」が挙げられています(Boissonade I, p.315)。「地上権」は「土地ノ使用権」だから所有権の章では扱わないのだ,と端的にはいわれていません。ここで「地上権」が所有権の特別の権利であるということは,土地ならぬ地上物の所有権が,「地上権」の中核にあるということなのでしょう。
イ 穂積陳重及び梅による地上権の地役権的把握
地上物に係る所有権の特別の権利であって当該所有権それ自体ではないのならば,一体「地上権」は何なのかということになりますが,第32回法典調査会において,穂積陳重が興味深い認識を開陳しています。そもそも地上権を賃借権と分けて設ける必要があるのかという土方寧の質問に対する回答です。
吾々ノ間テ此地上権ヲ罷メルコトノ出来マセヌ理由ハ尚ホ一ツアリマスノテ吾々ハ地上権ト云フモノハ地役権ト同シ性質ノモノト考ヘル地役権ハ横ニ二ツノ土地カ接スル場合ニ甲ノ便益ノ為メニ乙ノ土地ヲ使用スルコトカ出来ル地上権モ同シコトテ上下ニ不動産ノ使用権カアルト見タ即チ家ノ所有権竹木ノ所有権カ上ニ載ツテ居ル地役権ナラハ並ンテ居ルト云フ丈ケノ違ヒテアツテ其家ヲ所有スルニ必要ナル丈ケノ使用権ト云フモノハ当然出テ来ル夫レテアリマスカラ其使用ノ部分ニ対シテ賃銀抔ヲ払ハナケレハナラヌ様ナコトカアリ得ルト思ヒマスカラ夫故ニ言ハハ縦横ノ地役権之ヲ縦ニシテ上下ノ地役権ノ様ニ見タノテ既成法典ハ地上権ト云フモノハ其工作物カ又ハ竹木ノ所有権ト云フ様ニ見タノハ間違ヒテアツテ夫レヨリ生スル利益ヲ得ル為メニ他人ノ土地ヲ使用スル権利ト云フモノカ地上権ト云フ様ナ考ヘカラシテ矢張リ之ヲ罷メルコトハ出来ヌト云フコトモ一ツノ理由テアツタ
(民法議事速記録第10巻173丁裏-174丁表)
梅も地上権と地役権との類似性を指摘します。
是レハ穂積君ノ言ハレル如ク地役ニ近イモノテ現ニ孛漏西ノ方テハ地役ニシテアル学理上夫レハ正シイト思フカ通常夫レヲ地役トシテ居リマセヌ日本テモ地上権ト云フノハ地役タト云ツタラ了解ニ苦シムタラウト思フ且ツ横ニスルト縦ニスルトノ違ヒカアリマスカラ別ノ名ヲ附ケテ別ノ物権トシタカ宜イト云フノテ斯ウシマシタカ性質ハ粗ホ地役ト同シ様ナモノテアラウト思ヒマス
(民法議事速記録第10巻184丁表)
地役権といえば,ドイツ語ではDienstbarkeitですか。「スイス民法の法律関係も,ドイツと全く同じ〔建物は土地の構成部分とされ,敷地所有権の内容をなす。〕である。のみならず,〔スイス〕民法制定当時にも,他人の土地の上に建物を所有する慣行が一部の地方に行われた。然し,民法は,この制度を重要と考えなかつたので,役権(Dienstbarkeit)の一種として,僅かに1箇条を設け,他人の土地の地上または地下に建物を建築しまたは保有することを内容として設定することができる旨を定め,これを「建築権」(Baurecht)と呼んでいるだけである。その内容も,反対の特約がなければ譲渡性・相続性があること,独立かつ継続的なものは登記することができる,というだけである(同法779条,なお675条は,登記ある建築権があるときは建物は土地所有権から分離する旨を定める)。」との説明(我妻Ⅴ₂・395頁)が想起されます。そうであれば,地上権という名称よりも,地上物役権という呼称の方がよかったかもしれません。
富井=本野による民法265条のフランス語訳は次のとおり。確かに,ここでの「使用する」は“se servir”であって,“user”ではありません。地役権は,フランス語でservitudeです。
Le superficiaire a le droit de se servir du sol d’autrui pour y exercer le droit de propriété sur ses constructions ou plantations d’arbres et bambous.
なお,梅は,旧民法財産編171条において「建物」とあったのを現行民法265条では「工作物」と改めてその範囲を拡大したと述べていますが(梅二228-229頁),フランス語文ではどちらも“constructions”です。
ウ その限界
地役権の消滅原因の一つとして,要役地の消滅が挙げられています(我妻=有泉425頁,舟橋434頁)。地上権と地役権との性質が「粗ホ同シ様ナモノ」であるならば,地上物が消滅すれば地上権も消滅するということになってよさそうです。しかし,地上物の消滅は地上権の消滅をもたらすのではないかと磯部四郎🎴が問い質したところ,梅の回答は,案外なものでした。梅にとっては,地上権は飽くまでも土地の使用権であって,地上物はむしろそれに附随するものだったのです。
是レハ所有スル為メトアリマスカラ必スシモ工作物竹木カ現在シテ居ラヌテモ宜イ〔略〕或ハ既ニ建テアル建物植ヘテアル竹木ヲ崩シ引抜キシテ後日又必要カアツタラ竹木ヲ植ヘ様家ヲ建テ様ト云フコトテ持ツテ居ツテモ構ハヌ兎ニ角権利ノアルノハ工作物ヲ設ケ又ハ設ケタルモノヲ使用スル或ハ竹木ヲ植ヘ又ハ植ヘタノヲ使用スル土地ノ権利ヲ持ツテ居ル其権利カアレハ建物ハ今現在ナクテモ現在ノ竹木カ枯レテモ夫レテ権利カナクナルト云フ訳テハアリマセヌ
(民法議事速記録第10巻183丁裏)
また,土方寧の地上権の性質に関する問いに対していわく。
先刻申シタ如ク地上権ハ建物樹木ノ所有権ナリト云フ主義ハ取ラナカツタノテアリマス夫レテアリマスカラ工作物又ハ竹木ハ賃借権ノ部分テハナイ〔略〕工作物竹木ノ所有権ト云フモノハ是レハ別ナモノテアル地上権ト云フモノハ其所有ヲ為シテ居ルカ為メニ其土地ヲ使用スル権利テ広イ意味カラ言ヘハ使用権テアル
(民法議事速記録第10巻203丁表)
現在においても,地上権の消滅原因として,土地の滅失は挙げられていても,地上物のそれは挙げられていないところです(我妻=有泉380頁,舟橋407-408頁。また,ベルギー国1824年1月10日法9条も,土地の破壊(destruction)を地上権の消滅原因として掲げているばかりです(同条2号。他は混同(同条1号)及び消滅時効(同条3号))。)。「工作物または竹木が滅失しても地上権は消滅しない。「地上物は土地に属す」(Superficies solo cedit.)というローマ法の理論を承継した法制(ドイツ・オーストリア・スイス・フランスなど)では,地上権は,他人の土地において土地とは別個に工作物を所有することを本体とする。しかし,わが国では,建物および山林は,土地と独立の存在を有するものと考えられてきたので,民法は,地上権の本体を土地の使用に置いた。この点に,わが民法の地上権の一特質が存在する」と説明されています(我妻=有泉346頁)。「地上権は,〔略〕土地を使用しうる権利であるから,工作物または竹木がまだ存在していない土地に,地上権を設定しうるとともに,それが滅失しても,これがため当然に地上権が消滅することはない」というわけです(舟橋398-399頁)。なお,この点に関して,借地権存続期間満了前の建物の朽廃をもって借地権の消滅原因とする借地法(大正10年法律第49号)2条1項ただし書及び5条1項後段・4条3項・6条1項後段は,旧民法的です。
(中):旧民法財産編172条から176条まで及び民法266条から268条まで(「山ノ芋カ鰻ニナル」,地代,1筆中一部の地上権,相隣関係等及び存続期間)
http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079836168.html
(下):旧民法財産編177条及び178条並びに民法269条及び民法施行法44条(工作物等の収去等及び経過規定)
http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079836184.html
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