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本稿は,「準消費貸借(民法588条)の藪を漕ぐ(下)」ブログ記事中「9 準消費貸借山域の鳥瞰図」の「(3)要物性緩和論の由来」(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079396090.html)に関しての追記となります。
1 純消費貸借における要物性の緩和
「要物性の緩和」は,準消費貸借(民法(明治29年法律第89号)588条「金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなす。」)についてのみならず,本来の消費貸借(同法587条「消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。」)についても観念され得るところです。
すなわち,本来の消費貸借についても「要するに,一定量の経済的価値が,貸主の負担において,適法に,借主に帰属することを要するだけである。」(我妻榮『債権各論中巻一(民法講義Ⅴ₂)』(岩波書店・1957年(補注1973年))358頁),「例えば,契約額の一部を借主に渡し,残部を借主及び保証人の旧債務と差し引きにしたとき(大判大正7・5・6民890頁),借主が貸主に対する第三者の債務を弁済することにしてその金額を消費貸借にしたとき(大判明治44・6・8民379頁)などにも,要物性を充たす。けだし,これらの場合にも,貸主の負担において借主にそれだけの経済的価値が帰属するからである。」(同358-359頁),「判例は,消費貸借の要物性をゆるやかに解釈し,現実に目的物の授受がなくても借主に現実の授受があったと同一の経済上の利益を得しむれば足りるとしている。」(来栖三郎『契約法』(有斐閣・1974年)253頁註(3))等と説かれています。
2 準消費貸借=消費貸借
こうなると,消費貸借と準消費貸借との区別は曖昧になってきます。その結果が赴くところは,両者の同一視です。いわく。「消費貸借の要物性を厳格に解する立場に対して,次第に強調されてきた要物性緩和の傾向は,本条〔民法588条〕の解釈にも当然影響し,今日では本条は,民法自身消費貸借の要物性を緩和している場合と解されている(松坂123,我妻365・366,山主123,柚木・民法下129,宗宮164,石田穣187,星野171)。すなわち,消費貸借における物的要件は,既存債務の存在をもって足るというところまでゆるめられているのだと考えられるのである(我妻366)。そして,このように本条が要物性緩和の規定であり,本条の契約は結局消費貸借にほかならぬと解する場合には,準消費貸借という名称は,前述(イ)の説〔「本条はドイツ民法と異なって,消費貸借が成立したものと「看做ス」というのみであるから,本条の契約は,純粋の消費貸借ではなくして,単に消費貸借と同じ法律効果を生ずる契約というにすぎないのであって,したがって,そのような準消費貸借においては,純消費貸借におけると同じ物的要件〔厳格な要物性〕の具備を説明する必要はないとする理論」〕のような積極的な意味〔「この立場からすれば,本条の契約に準消費貸借という名称を与えることは,まさに妥当である」〕を含んでいないのであって,したがって,本条の契約を特別にそう呼ばねばならないかどうかは疑わしいとの説もとなえられている」と(幾代通=広中俊雄編『新版注釈民法(15)債権(6)』(有斐閣・1989年)21頁(平田春二)。下線は筆者によるもの)。
ただし,平成16年法律第147号による改正においては,民法588条に「(準消費貸借)」との見出しがわざわざ付けられてしまっています。民法587条の前に「消費貸借」との共通見出しを一つ付けて済ますことはされていません。同一の条において規定されているドイツ民法旧607条1項(「金銭又はその他の代替物を消費貸借の目的として受領した者は,貸主に対して,同じ種類,品質及び数量の物をもって受領物を返還する義務を負う。」)と同条2項(「他の原因により金銭又はその他の代替物に係る債務を負う者は,当該金銭又は物について,消費貸借の目的としての債務を負うものとする旨の合意を債権者とすることができる。」)との関係には倣わなかったわけです。
3 裁判例
(1)消費貸借から準消費貸借へ
判例も「当事者が金銭消費貸借に基づき金員支払を求める場合において,その貸借が現金の授受によるものでなく,既存債務を目的として成立したものと認めても,当事者の主張に係る範囲内においてなした認定でないとはいい得ない」としています(最判昭和41年10月6日集民84号543頁・判時473号31頁)。(昭和38年(1963年)2月末か3月初めに3万円の敷金返還債権の譲渡があった場合における譲渡人(原告)から譲受人(被告)に対する「原告は被告に対し昭和38年3月1日金3万円を弁済期間同年6月末日利息の定なく貸与した」ことを請求原因とする3万円の支払を求める訴えについて,事実審は「右事実によれば,昭和38年2月末か3月始め,現金の授受はないが,これと同視すべき金3万円の経済的利益の授受が原告より被告にあり,被告は同年6月末までにこの返還を約したのであるから,消費貸借の成立があつたというべきであり,被告は原告に対し右借受金3万円を支払う義務がある」との判決を下したところ,「X〔原告・被上告人〕は3万円の貸金債権に付単純なる貸金債権を主張して居るに過ぎず準消費貸借の成立を主張して居らない,〔略〕Xの主張を認容したことは明らかにXの主張して居らない事実を判決したか審理不尽又は理由不備の違法があるものと謂わざるを得ない。」との理由による上告があり,それに対して最高裁判所第一小法廷が「原審の事実認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。」とした上で,「本件金3万円の債権につき原審は所論のごとき認定をしたのであるが,当事者が金銭消費貸借に基づき金員支払を求める場合において,その貸借が現金の授受によるものでなく,既存債務を目的として成立したものと認めても,当事者の主張に係る範囲内においてなした認定でないとはいい得ないから,畢竟,原判決には何等所論の違法はなく,論旨は採用に値しない。」と判示したものです(鈴木重勝「金銭消費貸借に基づく金員支払請求に対し,準消費貸借に基づく金員支払請求として認容することの可否」ジュリ増刊『昭和41・42年度重要判例解説』(1973年)84頁)。)
つとに福岡高判昭和32年9月10日判決高裁民集10巻2号435頁が「もつとも,消費貸借に基いて,貸与した金銭の返還を請求する訴訟においては,当事者が準消費貸借によつては請求しない旨特に表明しないかぎり,金銭の現実の消費貸借(狭義の消費貸借をいう)が認められない場合でも,裁判所はいわゆる準消費貸借の成否を判断し,その成立を認めて請求認容の判決をなしても,民事訴訟法第186条〔現246条「裁判所は,当事者が申し立てていない事項について,判決をすることができない。」〕に違背することはない」と判示していたところです。これについて将来の法務大臣は,「本件を眺めれば,準消費貸借と認めて認容しても申立の範囲内であるとすることは,実は消費貸借・準消費貸借という法律構成は原告に定立することを要求されている訴訟物の概念の中には要素としては入ってはいないのだ,という認識を表明するとみねばならない。」と述べています(三ケ月章「訴訟物をめぐる戦後の判例の動向とその問題点」『民事訴訟法研究 第一巻』(有斐閣・1962年)188頁)。
つまり,「消費貸借契約に基づく貸金返還請求につき,消費貸借の主張を準消費貸借の主張に変更しても,訴訟物は同一である」ということになります(岡口基一『要件事実マニュアル 第2版 上』(ぎょうせい・2007年)531頁)。
大判昭和18年5月20日法学13巻1号67頁は「仮令該〔消費貸借〕契約成立に至るまでの来歴たる事実関係及該契約が現金の授受に基く消費貸借なるや或は現存の債務を目的としたる所謂準消費貸借なるや否の点等に於て被上告人〔貸主〕の主張するところを否定し却て上告人〔借主〕主張の一部を容れたる結果となるも右判定が〔消費貸借契約を表示する〕右甲第2号証の表示する契約其のものの成立と其の内容以外に亙るものにあらざる以上は之を以て被上告人の主張せざる事項を被上告人に帰せしめたるものと謂ふことを得ざるや勿論」と判示しています。
なお,民法666条が「受寄者カ契約ニ依リ受寄物ヲ消費スルコトヲ得ル場合ニ於テハ消費貸借ニ関スル規定ヲ準用ス但契約ニ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ寄託者ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得」と規定していた時代の大判昭和2年6月9日民集6巻8号341頁は「消費寄託ヲ原因トスル訴訟ニ於テ初ニ現金ノ交付ニ因リ消費寄託成立シタリト主張シ後ノ弁論ニ於テ他ノ原因ニ因リ給付スヘキ債務アル金銭ヲ以テ消費寄託ノ目的ト為シタリト主張シタルトキハ単ニ民事訴訟法第196条〔「原告カ訴ノ原因ヲ変更セスシテ左ノ諸件ヲ為ストキハ被告ハ異議ヲ述フルコトヲ得ス」との柱書〕第1号ニ依リ事実上ノ申述ヲ更正シタルニ過キスシテ消費寄託タル訴ノ原因ヲ変更シタルモノト云フヲ得サルヲ以テ訴ノ変更アリタルモノニ非ス」と判示していました。
(2)準消費貸借から消費貸借へ
準消費貸借成立の主張に対して消費貸借の成立を認めたのは大判昭和9年6月30日民集13巻15号1197頁で,「然レトモ当事者間ニ準消費貸借成立シタリト云フハ帰スルトコロ消費貸借ニ因ル債務ノ成立シタル事実ヲ主張スルニ外ナラサルヲ以テ当事者カ前者ノ事実ヲ主張シタル場合ニ裁判所カ簡易ノ引渡ニ因リ現金ノ授受ヲ了シ之ニ因リテ消費貸借ニ因ル債務ノ成立シタル旨ヲ判示シタレハトテ該認定カ訴訟資料ニ基クモノナル以上当事者ノ主張ニ係ル範囲内ニ於テ為シタル事実上ノ判断ニ非スト為スヲ得ス〔略〕所論ノ如ク当事者ノ主張セサル事実ニ基キ判決ヲ為シタリト言フヘカラサルヲ以テ論旨ハ理由ナシ」と判示しています。
(3)少数説
以上の諸判例に抗して,小倉簡判昭和40年1月12日判タ172号222頁は,「消費貸借に基づいて貸与した金銭の返還を請求する訴訟においては,当事者が準消費貸借によつては請求しない旨を特に表明しない限り,金銭の現実の消費貸借が認められない場合でも裁判所は,準消費貸借の成否を判断し,その成立を認めて請求認容の判決をしても民事訴訟法186条〔現246条〕に違背しない旨の見解(福岡高等裁判所昭和32年9月10日判決)があるけれども,当裁判所は,消費貸借に基づく返還請求権と準消費貸借に基づく返還請求権とは,その発生原因たる構成要件を異にするものであつて,全く異つた訴訟物であると解するので,訴の変更のない限りは,消費貸借に基づく金銭の返還請求訴訟において準消費貸借の成立の有無を判断することは違法であると考える(本件において原告は,準消費貸借に基く返還請求を主張しない旨明言しているので,右判例の見解にたつても同じ結論となる)。」と判示しています。最後の括弧書きを見るとあらずもがなということになるのですが,あえて上級裁判所である福岡高等裁判所の見解に公然異を立てています。しかし,前記最判昭和41年10月6日の出現後も頑張り続け得たものかどうか。
この昭和40年小倉簡判の理論については,「消費貸借と準消費貸借とは,実体法上別個の規定に基づくので,これまでの伝統的な考え方によれば,ごく自然な判旨である。」と(梅本吉彦「準消費貸借における実体法と手続法の交錯」専修法学論集130号(2017年7月)343頁),好意的に見るものと解される評価があります。とはいえ当該評価者も「準消費貸借は消費貸借の一態様と捉えるとともに,訴訟法的意味で同一請求と判断している状況に直面」して,「確かに,実体法の定めがありながら,訴訟技術の稚拙さも相まって,筋の良くない訴訟案件になってしまうことを回避するには,釈明権行使に期待することは,自然な流れであるといえよう。しかし,当事者がそれに的確に対応してくれるとは限らない。これまで判例とりわけ先に紹介した最高裁判所の判例〔最判昭和41年10月6日〕はそうした背景を踏まえた落ち着きの良い着地点ということができよう。」と述べて,結局判例の大勢を是認しています(梅本343-344頁)。消費貸借の訴訟物と準消費貸借の訴訟物との同一論は,実体法の解釈に基づくものではなく,消費貸借と準消費貸借とを切り分けようとする裁判所の釈明権行使に的確に対応できない弁護士等の訴訟当事者の不甲斐なさを補うための実務の知恵に基づくものだ,ということでしょうか。当該実務の知恵は,「練達の裁判官」の「長年に渡る苦労がにじみ出ている」ものなのでしょう(梅本343頁参照)。しかし,苦労及び熱意は尊いとしても,理論的理由付けなしに,当局者の苦労の前には全ての反論は忖度自粛されるべきだ,というわけでもないでしょう。
4 更改型と債務変更型と
(準消費貸借の更改型と債務変更型とについては,「準消費貸借(民法588条)の藪を漕ぐ(上)」(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079396029.html)の3(1)イ「二分説:債務変更型と更改型と」を参照)
(1)更改型
最後にまとめとして,以上の点についてまず更改型の準消費貸借について考えると,消費貸借と準消費貸借とを結局同一のものと解することとなる解釈は,占有改定による弁済及び簡易の引渡しによる受取を観念するにせよ,免除合意による債務の消滅をもって物の交付とみなされる出捐と考えるにせよ,借主に一定量の経済的価値が帰属することになって,消費貸借の成立に必要なだけの緩和された要物性が充足されますから,納得できるところでしょう。問題となる債権債務関係は,消費貸借契約が直ちに成立するにせよ,成立したものとみなされるにせよ,当該新契約に基づく一の新たな関係です。
(2)債務変更型
他方,原債務が消費貸借に基づくものとは限らない,債務変更型の準消費貸借の場合は,どうでしょうか。
これについては,ドイツ民法第一草案の理由書(Motive)が端的に,消費貸借に基づくものとして返還請求をすることを可能とした上で,被告の抗弁があれば,当初の債権債務関係に遡った主張立証をすればよいものとして,ドイツ民法旧607条2項の制度を構想していたところです。(Motiveの当該部分は,「準消費貸借(民法588条)の藪を漕ぐ(中)」(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079396057.html)の冒頭にあります。)
原債権について請求がされた場合については,最判昭和33年6月24日集民32号437頁が「本件において,被上告人〔債権者〕は消費貸借上の債務の履行を求めるべき筋合であるが,これと〔原債務たる〕前渡金返還等の債務は同一性を有するものである以上,前渡金返還等の請求をなすも,結局同一の請求に帰着するというべきである。」として債権者を勝たせています(上告棄却)。なお,ここでは「消費貸借上の債務の履行を求めるべき筋合」との文言であって,「準消費貸借上の債務の履行を求めるべき筋合」とはされていません。
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