Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊)

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1 ただ今校正中

 この秋(2014年秋)に,『東海法科大学院論集』第5号が発行される予定です。東海大学法科大学院の当該紀要に掲載すべき鈴木宏昌弁護士との共同論文「携帯電話サービス契約の中途解約金条項と消費者契約法――消費者契約法9条1号を中心として――」の最終校正を現在行っています。

 A5判で28頁にわたる分量で,当該紀要中一番長い論説になってしまったもののようです。自分たちで書いた文章であるにもかかわらず,校正のために根を詰めて読み返すと結構疲れます。

 読みやすくするためには,もしかしたらもっと紙数を図々しく頂戴すべきであったのでは,とは,さかしらな発想です。



 Abt Terrasson sagt zwar: wenn man die Größe eines Buchs nicht nach der Zahl der Blätter, sondern nach der Zeit mißt, die man nöthig hat, es zu verstehen, so könne man von manchem Buche sagen: daß es viel kürzer sein würde, wenn es nicht so kurz wäre.

 (確かにテラッソン院長は述べています。もし,本の大小を,頁数ではなく,理解するために必要になる時間でもって計るならば,多くの本について,こんなに短くなければもっと短かっただろうに,と言えるだろうと。)



 しかし,読み返すのに疲れる原因の真相は,一つの論文に,多くの論点に係る事例と説明とを,手際悪く,ごてごて詰め込み過ぎてしまったもののようです。



 …manches Buch wäre viel deutlicher geworden, wenn es nicht so gar deutlich hätte werden sollen. Denn die Hülfsmittel der Deutlichkeit helfen zwar in Theilen, zerstreuen aber öfters im Ganzen…

  (・・・多くの本はもっと分かりよくなっていただろう,もし,そんなに分かりやすくしようとされなければ。というのは,分かりやすさの補助手段(例及び註釈:Beispiele und Erläuterungen)は,確かに部分において役立つが,しかし全体についてはしばしば間延びしたものにしてしまうのである・・・)



 ごてごてと事例の紹介があり,かつ,細かな概念の説明があると,読者にとって,その特定部分に係る理解はともかく,全体の概観及び体系の構造の把握が難しくなってしまうということのようです。しかし,我々の論文は,カントがその第1版の序文で上記のように弁明している『純粋理性批判』のように原理的・思弁的な大著ではないのですが・・・。

 などと校正に疲れて物思いにふけっている時,ふと更に思い出したのが,かつて『法学教室』79号で読んだ米倉明教授の講演録の次のくだりです。当該講演録は1986年6月16日に法政大学法学部でされた講演に加筆されたもので,「民法の学び方――ひとつの実践的方法」と題されたものです。「主としてペーパーテスト,学部の試験を思ってください。それを念頭においてお話をいたします。」との前置き(20頁)に続く「表現方法について」の話において,「むだなく,正面から答える」及び「平易に,取捨選択して書く」という学生に対する有益なアドヴァイス(確かに,試験答案の作成に当たって,出題意図を取り違えていると悲惨です。)が述べられた後,講演がちょっと脱線したところの,「世界の名著は別格」との小見出しの部分です。



  もっとも,もし諸君がグレート・ブック(Great Book)を書く,世界の名著,古典をものするというのなら,混乱,整理不十分,あいまい,重複,退屈でもいいでしょう。グレート・ブックなるものは,まずそういうしろものですから。・・・バートランド・ラッセル・・・いわく,グレート・ブック,世界のベストセラーなどというのは決しておもしろいものではない。旧約聖書をみてもわかるように,いきなり何の断わりもなしに,どこの馬の骨だかわからぬ人間が山と並べられて出てきてみたり,また,論語にしたって,マルクスの資本論にしたって,退屈きわまりない部分がいっぱいあるのだ。All great books contain boring portions.・・・ラッセルにいわせると,たとえば北斗真拳みたいに――ラッセルがこれを知る由もないのですが――はじめから終りまで活気にあふれた小説(?)は決してグレート・ブックではないのです。英語でいうと,こうです。A novel which sparkles from the first page to the last is pretty sure not to be a great book. そういわれてみると,デカルトにしても,カントにしても,マックス・ヴェーバーにしても,またデュルケムにしたって,おもしろいとは決していえません。しかし,世界の名著,古典であることは否定できません。

  しかしながら,レポートや答案で世界の名著をめざすのは無理ですし,めざしてはいけない。これらの場合には論点を十分にしぼって,よけいなことを捨て去って――捨て去るのが惜しければ,本文ではなくて注にまわすなどして――ここぞいいたいというところだけを書くべきであります。・・・(22頁)



不幸中の幸いか。我々の論文は,少なくとも,Great Bookの一部となる可能性が全く無いものではないようです。

Great Bookはすべて,混乱し,整理不十分であり,あいまいであり,重複し,又は退屈である部分を有する。」という命題が真であるのですから,「混乱し,整理不十分であり,あいまいであり,重複し,又は退屈である部分を有する論文はすべて,Great Bookとなるものである。」という命題も真であるとはいえないものでしょうか。それともやはり,逆は真ならずでしょうか。



2 「携帯電話サービス契約の中途解約金条項と消費者契約法」予告編

 閑話休題。我々の論文の概要を御紹介しましょう。

 我々の「携帯電話サービス契約の中途解約金条項と消費者契約法」論文は,株式会社NTTドコモ,KDDI株式会社及びソフトバンクモバイル株式会社のいわゆる「2年縛り契約」に係る契約約款の有効性が問題になった2012年から2013年にかけての京都地方裁判所及び大阪高等裁判所の各判決(京都地判平24328判時215060から大阪高判平25711(平24(ネ)3741)までの6件)を取り上げ,分析を加えたものです。
 上記諸判決に係る事件の原告は,携帯電話事業者に対して消費者との「2年縛り契約」締結に係る意思表示の差止めを請求する適格消費者団体(消費者契約法123項,24項)及び当該事業者に対して支払った解約金(又は解除料)を不当利得であるとしてその返還を求める元契約者でした。控訴審である大阪高等裁判所の判決が出そろった段階では,原告らは返り討ちに遭っていて,いずれも携帯電話事業者側の全面勝訴となっています(現在上告中)。

 これらの訴訟の結末がどうなるかは,携帯電話が生活の不可欠の一部となってしまっている今日において,消費者及び事業者の双方が大いに注目するところでしょう。

 「携帯電話サービス契約の中途解約金条項と消費者契約法」論文の目次は,次のとおりになります。



 第1 はじめに

 第2 判決の紹介

  1 前提事案(D事件の事案を以て代表させる。)

  2 本稿の論点に関する判断

(1)中途解約金条項の解除違約金等条項該当性

ア 被告ドコモ及びSBMの主張(対価条項説)

イ 裁判所の判断(解除違約金等条項)

(2)中途解約金が前提とする携帯電話事業者に生ずる損害の性質

ア D事件各判決(基本使用料金事後清算説)

イ S判決(債務不履行損害賠償説)

ウ K事件各判決(債務不履行損害賠償否定説)

(3)消費者契約法9条1号にいう「平均的な損害の額」の算定方法

    ア D事件各判決

    イ K事件各判決

    ウ S事件各判決

第3 裁判例の考察

  1 中途解約金条項の解除違約金等条項該当性

  2 中途解約金の性格

  (1)基本使用料金事後清算説(D事件各判決)

  (2)債務不履行損害賠償説(S₁判決

  (3)債務不履行損害賠償否定説(K事件各判決)

    ア 債務不履行損害賠償否定説及び約定解除説

    イ 債務不履行によらない法定解除説

(ア)民法651条2項の損害賠償

(イ)民法641条の損害賠償

(ウ)委任における不解除特約と損害賠償

    ウ K事件各判決の理論の帰結

  3 「平均的な損害の額」算定の二つの方法

  (1)最高裁の判例との相違

  (2)消費者契約法所管官庁の解説書の方法

  (3)最高裁の判例

  (4)二つの方法についての小括

  4 まとめ



 「本稿の論点」とは,①中途解約金条項が消費者契約法9条1号の解除違約金等条項(「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」)に該当するか否か,②中途解約金が前提とする携帯電話事業者に生ずる損害の性質及び③同号にいう「平均的な損害の額」の算定方法です。

各控訴審判決は,「2年縛り契約」における中途解約金支払条項が消費者契約法9条1号の解除違約金等条項であるという判断, 並びに消費者との「2年縛り契約」に係る意思表示の差止請求を認めず,及び解約金の返還を全く認めないという結論においては一致しています。

しかしながら,前記諸判決において,解約金の性格については,①中途解約の際における使用料金の事後清算金としているものと解されるものあり,②債務不履行である中途解約に対する損害賠償金としているものと解されるものあり,③中途解約は約定解除権の行使であるから債務不履行ではないとしつつ当該中途解約に対する損害賠償の範囲は債務不履行の場合と同様民法416条であるとするものありで,混沌としています。

また,消費者契約法9条1号の「平均的な損害の額」の算定方法については,以前の最高裁判所平成181127日判決(民集6093437,学納金事件)における方法とは違った方法(「消費者契約法所管官庁の解説書の方法」)が採られています。これには,不当利得金返還請求だけではなく適格消費者団体による契約締結の意思表示の差止請求も一緒にされていることが影響しているのかもしれません。消費者である原告らと適格消費者団体である原告との間における訴訟物の相違に応じた「平均的な損害」概念の相違があるものと考えることもできそうです。

携帯電話役務に係る「2年縛り契約」をめぐっては,下級審裁判例が理由づけにおいて一致していない中,法政大学法学部の大澤彩准教授による「携帯電話利用契約における解約金条項の有効性に関する一考察」(NBL100417頁)を始めとする数多くの論攷があります。我々の論文もそこに何らかの寄与を付け加え得るものとひそかに自負しつつ,『東海法科大学院論集』第5号の発刊前に,「2年縛り契約」に係る裁判例の混沌を統一する最高裁判所の判決があっさり出てしまわないよう願っているところです。

紀要の本体が出る前にその内容を喋々し過ぎるのも何ですから,今回は,この辺で


(追記)携帯電話解約金事件の控訴審判決については,敗訴した適格消費者団体が最高裁判所に上告受理の申立てをしていましたが,2014年12月11日付けで不受理決定が下されたようです。「原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては,大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」ではなかったということでしょう(民事訴訟法318条1項参照)。不受理決定が下された「ようです」とちょっとあいまいなのは,毎日新聞のインターネット記事が「上告棄却」と報じているからです。報道業界も混沌としています。( 上告人のウェッブサイトに掲載された決定書によれば, やはり上告不受理決定でした。)

(追記の2)我々の論文が,インターネット上で読み得るようになっています。https://opac.time.u-tokai.ac.jp/webopac/bdyview.do?bodyid=TC10000253&elmid=Body&fname=a18812791-00-000050069.pdf 


弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所

東京都渋谷区渋谷三丁目5‐16 渋谷三丁目スクエアビル2階

電話:0368683194

電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp



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1 七代目樽金王と『吾輩は猫である』

 前回の記事(「アメリカ建国期における君主制論走り書き」)において御紹介したパトリック・ヘンリーの1765年印紙税反対演説に,王政ローマ最後の王(7人目)であるタルクィニウスが出てきました。タルクィニウスとは,一般になじみのない名前ですね。

 しかし,夏目漱石の愛読者であれば,あるいは思い出されるかもしれません。『吾輩は猫である』の苦沙弥先生が書物のありがたさの例として威張って持ち出した故事として,苦沙弥先生の奥さんが迷亭君に話して聞かせた逸話です。その中に出てくる昔のローマの王様,「七代目樽金」がタルクィニウスなのです(迷亭君=漱石は英学者なので,英語で,Tarquin the Proud(傲慢王)ですね,と言い添えます。)。樽金王のところに,ある時,ある女が,9冊組の予言書を持ってやって来て買えと言うが,法外に高い値段をふっかけるので樽金王が躊躇すると,その女は9冊のうち3冊を燃やしてしまい,残りの6を買えという,冊数が減ったので値段も下がるかと思ったが,相変わらず9冊分の値段が要求されるので樽金王がなおも躊躇すると,女は更に3冊を燃やしてしまい,残る本は3冊だけになってしまう,そこでさすがに樽金王も慌てて,9冊分の金額を払って,残った3冊の予言書を買ったというお話です(Dionysius of Halicarnassus, Roman Antiquities, IV 62.1-4参照)。

 傲慢王樽金のローマ追放は,紀元前510年のことと伝えられています。同王の息子が人妻ルクレーティアに対して日本刑法では第177条に規定される罪を犯し,被害者が自殺したのがきっかけです(Livy 1.58)。かつて樽金王の命令で兄弟が処刑されたため,それまで愚鈍を装って身の安全を図り,Brutus(愚鈍)という名がついてしまっていた同王の甥(姉妹の子)のルーキウス・ユーニウス・ブルートゥスが首謀者となって叛乱を起こし,それが成功したものです(Livy 1.56, 1.59-60)。しかしながら,その後も樽金は王位回復をうかがいます。そのため,王党派の陰謀に加わったブルートゥスの二人の息子は共和制ローマの初代執政官(の一人)である父親が毅然として見守る中残酷に処刑され(むち打ちの上,斬首),ブルートゥス自身も王党派との戦闘において,樽金の息子(ルクレーティア事件の犯人ではない者)と戦い,相撃ちになって死んでしまいました(Livy 2.5-6)

なお,ルーキウス・ブルートゥスの二人の息子は上記のように処刑されてしまったので,果たして紀元前44年にカエサルを暗殺したマルクス・ブル-トゥスはルーキウスの子孫であり得るのか,疑問を呈する向きもあったようです(cf. Plutarch, Life of Brutus)

なんだか,古代ローマのなじみのない話ばかりですね。

しかし,『吾輩は猫である』の冒頭部分は,皆さんもうおなじみでしょう。


 吾輩は猫である。名前はまだ無い。

 
 何の変哲もない文章のようです。いやいや,しかし,ここには突っ込みたくなるところがあるのです。この二つの文を見てムズムズするあなた,あなたは法制執務にはまり過ぎです。

 あ,あなたの右手が赤ペンに伸びる。

 赤ペンを握った。

 迷いなく,力強く夏目漱石の名文に直しを入れる。

 何だ何だ,出来上がりは。


 吾輩は猫である。名前はまだ無い。


 おお,点(読点)が二つ入りましたね。やっぱり。今回はこの,読点のお話です。(なお,点が読点といわれるのに対して,丸(。)は句点といいます。)

DSCF0679
 I am a cat. 
(京都市北区船岡山の建勲神社で撮影)


2 法令文における読点

 日本語の文章を書くに当たって頭を大いにひねる事項の一つに,点(読点)の打ち方があります。「読点の付け方は,句点の付け方に比べて複雑である。読点が原則として慣用に従って付けられるべきことは当然であるが・・・この慣用によらないことも認められるので,その付け方には,細心の注意を払う必要がある。」(前田正道編『ワークブック法制執務〈全訂〉』(ぎょうせい・1983年)569頁)とは,法令について,法制執務担当者向けの参考書に書かれている言葉です。

 当該参考書には,法令文における読点の付け方について10項目の注意事項が示されていますので(前田569573頁),以下ざっと御紹介しましょう。

 


(1)主語の後

 上記法令文読点注意事項10項目のうち,第1項目の本文にいわく。

 


1 主語の後には,読点を付ける。・・・(前田569頁)

 


 だから,「吾輩は猫である。」,「名前はまだ無い。」と,法制執務中毒者は主語の後には読点を入れたくなってしまうのです。

 


   行政権は,内閣に属する。(憲法65条)

 


 と,ここでも主語である「行政権は」の後に読点が入っていますね。

 しかし,法令関係の仕事のいやらしさは,原則があればそこにはまた例外があることです。読点注意事項第1項目の後段には,次のような注意書きが付されています。

 


1 ・・・しかしながら,条件句や条件文章の中に出てくる主語の後には,次の例に示すように,通常,読点を付けない。

  例 

労働安全衛生法

  26 労働者は,事業者が第20条から第25条まで及び前条〔第25条の2〕第1項の規定に基づき講ずる措置に応じて,必要な事項を守らなければならない。

(前田569頁)

 


労働安全衛生法26条においては,条件句中の主語である「事業者が」の後に読点を付ける「労働者は,事業者が20条から・・・」というような表記にはしなかったわけです。

しかし,こうなると次に掲げる憲法67条2項の「参議院が,」の読点はどういうことになるのでしょうか。

 


衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に,法律の定めるところにより,両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき,又は衆議院が指名の議決をした後,国会休会中の期間を除いて10日以内に,参議院が指名の議決をしないときは,衆議院の議決を国会の議決とする。

 


これは問題ですね。自由民主党の日本国憲法改正草案(2012年4月27日)の第67条3項では,次に掲げるように,「指名の議決」が「指名」に変えられつつ,問題の部分は,「参議院が,指名をしないときは」ではなく「参議院が指名をしないときは」になっており,条件句の中であるので,主語である「参議院が」の後の読点(,)が削られています。憲法を改正してまで読点の付け方の間違いを正すというのは,何とも真面目かつ大変なことです。法制執務の作法は,憲法よりも重いのです。

 


3 衆議院と参議院とが異なった指名をした場合において,法律の定めるところにより,両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき,又は衆議院が指名した後,国会休会中の期間を除いて10日以内に,参議院が指名をしないときは,衆議院の指名を国会の指名とする。

 


(2)並列表記

 読点の付け方に係る注意事項10項目のうち第2項目から第5項目までは,中学校ないしは高等学校の英語の授業で習った,ものをたくさん並べたときの最後の2項目の間はand又はorでつなぐという話,及びそこでのand又はorの前にカンマを打つか打たないかは米国式と英国式とで違いがあるという話を想起させます。

 米国式だと,前カンマ有りで,

 


 A, B, C,…Y, and (or) Z

 


 英国式だと,前カンマ無しで,

 


 A, B, C,…Y and (or) Z

 


 でしたね。

 日本の法令文では,名詞を並べるときは英国式です。(前田569頁参照)

 


  一 憲法改正,法律,政令及び条約を公布すること。(憲法71号)

 


 名詞ではない,動詞,形容詞又は副詞を並べるときには,これは原則として米国式となります。(前田570頁参照)

 


   悪意の占有者は,果実を返還し,かつ,既に消費し,過失によって損傷し,又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。(民法1901項)

 


米国式より徹底しているのは,並べるものが二つのときでも,読点を打つことです。(前田570頁参照)

 


   占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し,又は損傷したときは,・・・(民法191条)

 


 「その他」でくくる場合,名詞を並べた後の「その他」の前には読点が打たれませんが,名詞ではない,動詞,形容詞又は副詞を並べた後の「その他」の前には読点が打たれます。(前田571頁参照)

 


株式会社は,代表取締役以外の取締役に社長,副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には,当該取締役がした行為について,善意の第三者に対してその責任を負う。(会社法354条)

 


差押状,記録命令付差押状又は捜索状の執行については,錠をはずし,封を開き,その他必要な処分をすることができる。(刑事訴訟法1111項前段)

 


(3)条件句の前後

 読点注意事項中第6項目は,条件句を他の部分から分けて示すために読点を使えと述べています。

 


6 条件句の前後には,・・・読点を付ける。(前田571頁)

 


 前記のとおり,条件句内では主語の後にも読点を打たないこととされており,前後は読点で隔てられ,内部は読点を省いて緊密に,条件句は他の部分とは別部分である一塊のものとして表記せよということのようです。

 


   連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合においてその連帯債務者が相殺を援用したときは債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅する。(民法4361項)

 


(4)対句

 対句というものもあります。

 


10 ・・・2以上の文章が対句になっているときには,次の例に示すように,対句の接続にのみ読点が付けられ,主語の後などに付けられるべき読点は省略され,また,対句を受ける述語の前にも読点を付けないのが,普通である。しかしながら,対句が長いなどの理由から,読点を省略していない例も多い。

 


  

     労働安全衛生法

   (安全衛生改善計画の作成の指示等)

  78 (略)

  2 事業者は,安全衛生改善計画を作成しようとする場合には,当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者の意見をきかなければならない。

(前田572573頁)

 


次に掲げる破産法5条1項の場合,各対句の共通主語である「債務者が」の後に読点が付されています。これは,当該読点が無い場合には「債権者は」が最初の対句のみの主語ととられてしまう可能性があるため,当該可能性を避けるためでしょう。なかなか難しい。

 


破産事件は,債務者が,営業者であるときはその主たる営業所の所在地,営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地,営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。

 


(5)「お約束」等:「,かつ,」,「ただし,」,「この場合において,」等

 次の2項目は,「お約束」及び「お約束」に近いもののようです。

 


7 句と句とをつなぐ「かつ」の前後,ただし書における「ただし」の後,後段における「この場合において」の後には,・・・必ず読点を付ける。(前田572頁)

 


8 名詞を説明するために「で」又は「であつて」を用いる場合に,その後に続く説明の字句が相当に長いときには,・・・「で」又は「であつて」の後に読点を付けるのが,原則である。(前田572頁)

 


第7項目は「必ず」なので,分かりやすいといえば分かりやすいのですが,「かつ」の前後に必ず読点を打つこととされているのは「句と句とをつなぐ場合」と限定が付されていることに注意が必要です。「かつ」の前後に読点の無い次のような例があります。

 


   会社及び地域会社は,・・・常に経営が適正かつ効率的に行われるように配意し,国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切,公平かつ安定的な提供の確保に寄与するとともに,・・・。(日本電信電話株式会社等に関する法律3条)

 


 「,かつ,」の例はこちらですね。

 


   前項の合意〔管轄の合意〕は,一定の法律関係に基づく訴えに関し,かつ,書面でしなければ,その効力を生じない。(民事訴訟法112項)

 


 第8項の「で,」及び「であって,」については,飽くまでも「原則」であり,かつ,「相当に長いとき」という評価を要する限定がついているので,絶対の「お約束」というのは言い過ぎで,やはり,例外を伴う,「お約束」に近いもの,にとどまるのでしょう。

「で」の次に読点を打つか否かについては,同じ行政不服審査法内において次のような例が見られます。

 まずは,「で」の後に読点有りの例。

 


   前3項の規定〔不服申立てに関する教示に関する規定〕は,地方公共団体その他の公共団体に対する処分で,当該公共団体がその固有の資格において処分の相手方となるものについては,適用しない。(行政不服審査法574項)

 

 次の例では,「で」の後に読点無しとなっています。

 


   法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは,その名で不服申立てをすることができる。(行政不服審査法10条)

 


 「であって」の後に続く説明の字句が相当に長いものか否かの判断基準については,会社法2条を見ると,少なくとも「法務省令で定めるもの」云々の字句の場合は,「相当に長い」ものではない,とされているようです。

 


  二 外国会社 外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって,会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう。(会社法22号)

 


  三十四 電子公告 公告方法のうち,電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により不特定多数の者が公告すべき内容である情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって法務省令で定めるものをとる方法をいう。(会社法234号)

 


(6)目的語と動詞との間の読点不要性

 主語の後には読点を打つのが原則でしたが,目的語の後には,読点を付さないのが通常であるそうです。

 


9 目的語と動詞とを続ける場合,通常その間には読点を付けないが,その間に条件句又は条件文章が入るときには,その条件句又は条件文章の前後に読点を付けるのが,普通である。(前田572頁)

 


 条件句の前後に読点を打つべきことは,前記の注意事項第6項目に出ていましたね。

第9項目によれば,夏目漱石と朝日新聞社との間で作成される契約書における条項の書き方は,次のように目的語の後に読点を付するものであっては不可であることになるわけです。

 


 一 夏目金之助は朝日新聞社のために,連載小説を,書くものとする。

 


 次のような表記ならば,よいのでしょう。

 


 一 夏目金之助は,朝日新聞社のために,連載小説を書くものとする。

 


 いずれにせよ,読点の打ち方は難しく,かつ,法令においては文字どおり一点一画もゆるがせにはできない以上,法令案起草担当者の苦心のほどが思いやられます。法制執務担当者向けの市販の参考書に書いてあることだけでは,まだまだよく分かりませんね。残りはそもそもの日本語表記の問題として考えよ,ということでしょうか。

 


3 電波法116条の謎

 法令における読点は,法令案起草担当者が一点一点心を込めて打ったものである以上,その有無がそれぞれ意味するところを深く,かつ,重く考えて法令は解釈されねばならない,とは,よくいわれるところです。

 


(1)過料に係る同種規定における読点有り規定と読点無し規定との混在

 しかしながら,次の例の場合はどう考えるべきでしょうか。

 


    電波法(昭和25年法律第131号)

116 次の各号のいずれかに該当する者は,30万円以下の過料に処する。

  一 第20条第9項(同条10項及び第27条の16において準用する場合を含む。)の規定に違反して,届出をしない者

  二 第22条(第100条第5項において準用する場合を含む。)の規定に違反して届出をしない者

  三 第24条(第100条第5項において準用する場合を含む。)の規定に違反して,免許状を返納しない者

  〔第4号から第23号まで略〕

 


第1号及び第3号並びに第4号以下(第18号を除く。)では,「・・・の規定に違反して,○○しない者(した者)」と表記されていて,「規定に違反して」の後に読点(,)が打たれているのですが,第2号では読点無しののっぺらぼうに「・・・の規定に違反して届出をしない者」と表記されています。この相違をどう解釈すべきか。なお,当該読点の有無の相違は,1950年5月2日の電波法公布の官報の紙面において既にそうなっていたものであって(ちなみに,当時の同法116条には,第4号以下はまだありませんでした。),64年間にわたって官報正誤で直されていませんから,今更,印刷局の印刷ミスだったということになるわけではないでしょう。

 


(2)読点の有無によって文の意味を異ならせる解釈の可能性

電波法116条1号は,無線局の免許に係る免許人の地位の承継があったことの届出をしないことが同法の規定違反になり(「届出をしない」=「・・・の規定に違反・・・」),過料の制裁を受けることになる旨を規定し,同条3号は,無線局の免許が失効したのに当該免許に係る免許状(なお,同法1005項は,無線局についての規定を高周波利用設備について準用するものです。)を総務省に返納しないことが同法の規定違反になり(「免許状を返納しない」=「・・・の規定に違反・・・」),過料の制裁を受けることになる旨を規定する条項でしょう。

これらに対して,読点の有無に意味を持たせて(すなわち,読点の有無によって読み方が異なるように)解釈するとなると,電波法116条2号は,上記の二つの号(同条1号及び3号)のようには解釈せずに,「第22条(第100条第5項において準用する場合を含む。)の規定に違反して届出をしない者」と解すべきでしょうか。

すなわち,電波法22条は「免許人は,その無線局を廃止するときは,その旨を総務大臣に届け出なければならない。」と規定していますが,同条の規定に違反した届出(「・・・の規定に違反して届出」)をしないと(すなわち,規定どおりに真面目に無線局廃止の届出をすると),過料の制裁を受けるものと解さなければならないということになるのでしょうか。無線局の廃止に関して総務大臣に届出があることを前提に,電波法22条違反の届出(=無効の届出)をしない(=有効な届出をする)ことを過料の対象とするものと考えてみるわけです。

「くびに,はなわをかけた。」(保護司法16条参照)と「くびには,なわをかけた。」(刑事訴訟法4751項,刑法111項参照)とが全く違った意味になるように,ここでも同様のことが起きているのでしょうか。

しかし,いかにも変な解釈ですね。

が,よく考えるとそうでもない,有益であり得る解釈かもしれません(①)。とはいえそもそも,電波法116条2号は,「「,」はたかが点だよ。」とノンシャランに,法制執務担当者の深刻ぶりを冷やかすネタにすればよいだけのものではないでしょうか(②)。

 


(3)法制執務担当者冷やかしネタ説

まずは後者の②の立場について見てみましょう。

端的にいって,これが,妥当な態度です。電波法116条2号は,法令の解釈に当たってはお役所の無謬性を前提にして妙に精緻に細かいところにまでこだわり過ぎてはいけないよ,という戒めとして活用されるべきものにすぎません。

 電波法案を起草した当時の電気通信省電波庁の人たちは,単純に,同法案116条2号において点を打ち忘れたことに気が付かなかったようです。

 1950年の電波法制定時に起草関係者によって著されたlegendaryな解説書(古い本の方が役に立つものです。)における同法116条の解説は,次のようになっています。

 


   左の各号の一に該当する者は,3000円以下の過料に処せられるのである。

(一)免許人の地位を承継した者は,遅滞なくその事実を証する書面を添えて,その旨を電波監理委員会に届け出なければならないのにこれに違反した者

(二)免許人は,その無線局(高周波利用設備を含む。)を廃止したり,又その無線局の運用を1箇月以上休止するとき〔制定当時の電波法22条はこの場合にも届出を要する旨規定していた。〕は,その旨を電波監理委員会に届け出なければならないのにこれに違反した者

(三)免許(高周波利用設備であるときは許可。)がその効力を失つたときは,免許人(高周波利用設備であるときは許可を受けた者。)であつた者は,1箇月以内にその免許状を返納しなければならないのにこれに違反した者(荘宏=松田英一=村井修一『電波法放送法電波監理委員会設置法詳解』(日信出版・1950年)266頁)

 


三つの号はどれも同じように読んで理解されるべきもの,という前提で書かれていることが歴然としています。

なお,電波法22条に規定されている無線局廃止の届出がされるべき時期は,必ずしも事前でなくてもよいものであるようです。「廃止しようとするときに即ち事前に届出をすることは望ましいことではあるが必ずしもこれに限らない。廃止の事情には種々のものがあるからである。」と電波庁=電波監理総局関係者によって説かれていました(荘ら182頁)。

また,「免許人が無線局を廃止したときは,免許は,その効力を失う。」(電波法23条)わけですが,それではそもそも無線局の「廃止」とは何かといえば,それは免許人の意思表示であるとされています。すなわち,「無線局を廃止するとは,単に無線局の物理的な滅失をいうのではなく,免許人が無線局によつてその局の業務を行うことを廃棄する意思を表示することをいう。内部意思の決定だけでは足らず,この内部意思が客観的に表示されていることを要する。必ずしも届出でによつて表示されていることを要しない」と説明されていました(荘ら183頁)。事実上は,電波監理委員会(その後郵政大臣,総務大臣)に対する無線局廃止の届出がなければ無線局廃止の意思表示の存在が明らかではなく,したがって,当該届出以外の方法で無線局廃止の意思表示があったとして電波法116条2号による過料の制裁が発動されるということは考えにくいところです。あるいは,電波法22条の届出は,無線局廃止の報告ではなく,むしろ無線局廃止の効力要件のように取り扱われているのではないでしょうか。

 


(4)過料=解約金類似効果説

 前記①の説は,電波法116条2号を,免許人が同法22条の規定どおりに真面目に無線局廃止の届出をすると過料の制裁を受けるもの,と解してみることを前提とするものです。すなわち,無線局廃止の届出があった場合,それが真実のものかどうかを総務省のお役人が確認し,無線局廃止の意思に基づかない虚偽のものであれば(実際は,御当局の指導に基づき無線局廃止の意思表示の撤回をするということになりましょうか。),無線局の免許は失効せず,「規定に違反して届出」をしない者ではない(二重否定で「規定に違反して届出」をしたいたずら者になる)から電波法116条2号の場合には当たらず免許人には過料が課されず,届出に表示されている無線局廃止の意思が真実のものであれば(無線局廃止の意思表示を撤回しなければ),無線局の免許は失効し,「規定に違反して届出」(虚偽の届出をするいたずら)をしない者になるので同号の場合に当たり免許人に最大30万円の過料が課されるというわけです。

 何ともばかげた解釈であるように思われるのではありますが,無線局の免許の効力としては免許人の電波利用料支払義務というものがあるということ(電波法103条の2。電波利用料は,電波利用共益費用に係る総務省の特定財源になります(同条4項)。)を想起し,かつ,電波つながりで携帯電話を連想して,期間(2年)の定めのある携帯電話役務提供契約(いわゆる「2年縛り契約」)の中途解約の場合には少なくない額の解約金が消費者から徴収されている現在の携帯電話業界の実務との比較で考えると,「電波利用料=携帯電話利用料」及び「過料=解約金」というアナロジーが成立し得るところです。電波利用料収入の継続的な確保を一途に考える人々にとっては実は魅力的な制度設計ということになるかもしれません。無論,同じ電波=電気通信関係者とはいえ,我が国のお役人は高潔・高邁な方々ばかりです。

 なお,株式会社NTTドコモ,KDDI株式会社及びソフトバンクモバイル株式会社の「2年縛り契約」に係る契約約款の有効性は,すべて,大阪高等裁判所によって是認されています(それぞれ,平成24127日判決(判時217633頁①),平成25329日判決(平成24年(ネ)第2488号)及び平成25711日判決(平成24年(ネ)第3741号))。ただし,理由づけがそれぞれ異なるため,なお最高裁判所の判断が待たれています。

 


4 「、」と「,」

 最後に読点の形自体が問題になります。

 縦書きのときの読点が「、」であることについては,議論はありません。

 問題は横書きの場合です。

 ワードプロセッシング・ソフトウェアの日本語横書きデフォルト設定は「、」になっています。しかし,果たしてこれでよいのでしょうか。

 基準が無いわけではないのです。

 実は,公用文については,昭和27年4月4日内閣閣甲第16号内閣官房長官発各省庁次官あて依命通知「公用文改善の趣旨徹底について」によって各部内において周知されるべきものとされた「公用文作成の要領」(昭和2610月に国語審議会が審議決定)の「第3 書き方について」の「注2」において,

 


句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。

 


とされているのです(内閣総理大臣官房総務課監修『新公用文用字用語例集』(ぎょうせい・1986年)368頁)。

 「感じのよ」い公用文の作成のためには,「、」よりも「,」の方を用いるべきだ,と国語審議会が「公用文作成の要領」で決めてしまっていたわけです。

 この点,司法部においては,司法修習等における起案指導の場などを通じて「,」の使用が徹底しているようです。しかし,国の行政部では一般に,そこまでの研修の機会がないのか,ワードプロセッシング・ソフトウェアのデフォルト設定(「、」)にそのまま乗ってしまっているようです。慙愧に堪えません。(各種ウェッブ・サイトなどを注意して御覧ください。)

 とはいえ,国語の教科書は縦書きで,作文も縦書きで書かされて,点は「、」の形で打つべしという教育を我々は小学校以来受けていますから,三つ子の魂百までで,あるいは仕方のないことなのかもしれません。

 なお,地方自治体等で,横書きの場合でも読点は「、」であって「,」は用いないと決めているところもあります。

 


130812_051625
 


 北アルプス・槍ヶ岳を望む(三俣山荘から)

 


長い記事をお読みいただき毎度ありがとうございます。

さて,本業についてここで少々営業申し上げますと,裁判関係の訴訟代理人業務等のほか,法律相談,法務関係の講師等も広くうけたまわっております。(本ブログのようなおしゃべりばかりをしているわけではありません。)

 


連絡先:大志わかば法律事務所(電話:03-6868-3194, 電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp

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法律相談は,初回30分まで無料ですので,よろしく御活用ください。

 


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