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1 『愛の流刑地』

 筆者の郷土・北海道の生んだ偉大な文豪にして愛の街・銀座の征服者たる渡辺淳一(1933年生-2014年歿)の名作に『愛の流刑地』があります(単行本上下2006年・文庫本上下2007年,いずれも幻冬舎)。200411月から20061月まで日本経済新聞朝刊に連載されていた恋愛等小説です。

現在の衰廃長寿大国日本の朝の通勤電車内においては,背中を丸めてスマート・フォンの小さな画面をのぞき込みつつ,せわしなく指を動かしてゲームをしたり電子メールを打ったり漫画を読んだり,ちまちまとしたことをしているマスク姿の人々ばかりを見るようになりましたが,かつての興隆経済大国日本の朝の通勤電車内においては,企業戦士らは満員の乗客に身を揉まれつよじりつ,その朝入手の日本経済新聞を器用かつコンパクトに折り畳んで眼前僅かに存在する空間中に巧緻に保持し,むさぼるようにその最終面に目を通しつつ,「私の履歴書」の自慢話には,よしこの金満ラッキーじいさんができたのならばこの優秀なオレ様も!と脂肪に覆われたぽっちゃりお(なか)の上の小さな胸をわくわくと高鳴らせ,渡辺作品の男女話には,よしこの艶福ダンディ大先生に続いてこの二枚目のボクちゃんもとマスクに覆われざる露わな鼻の下をでれでれと長く伸ばし,今日もこれから打ち続く勤務先組織内における生存のための気配り(こころ)配りの辛労(仕事が大変,とはあえていいません。)に雄々しく立ち向かうべく,新たな元気をもらっていたものでした。妖艶な美女の露わな肢体の写真が大胆に掲載された賑やかなスポーツ新聞の紙面を,女性乗客の厳しい視線もかまわずその鼻先に無邪気に露呈する豪の者もいましたが,さすがにそれは下品というもの(現在であれば,セクハラということで直ちに社会的に抹殺されるものでしょう。),渡辺作品(及び小松久子閨秀画伯描くところの挿絵)までにとどめておくところが紳士の嗜みというものでありました。

ところで「名作」とは申し上げましたが,実は『愛の流刑地』の後半は殺人被告事件の被告人となった村尾菊治をめぐる刑事訴訟関係のお話になっており,「刑事訴訟法のお勉強はもういいよ」と,筆者は途中で読むのをやめてしまっていたところです。小説家としては,ストーカー行為によって自らが警察に逮捕された経験もあり(と確か「私の履歴書」に書かれていたようです。),刑事法関係の知識を誇示したかったのでしょうが,せっかくリラックスして小説を読もうとして今更昔の法律勉強の復習をさせられそうになる筆者としては,辛いところでした。(無論現在においては,お金持ちの文豪から刑事弁護の依頼があれば,二つ返事で駆けつけて,一心不乱にその刑事法関係蘊蓄話を承り,まずいところは「うーん,それは検察官が・・・」,「裁判官も保守的ですからねえ・・・」とやんわり舵取りをさせていただくことになります,とは筆者の願望的空想です。なお,読者の皆さまにおかれましては,まさかの際には筆者への刑事弁護依頼をよろしく御考慮ください(大志わかば法律事務所。電話:03-6868-3194,電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp)。)

しかしながら最近,旧刑法(明治13年太政官第36号布告)を調べていて,同法下においては我が国においても流刑というものがあったことを再確認し(同法74号・5号,20条及び21条),つい『愛の流刑地』を思い出してしまったところです(なお,現行刑法(明治40年法律第45号)下においては,流刑はありません(同法9条)。)。しかして,当該想起と共に,次のような疑問が湧いてしまったところです。

旧刑法下において,「流刑地」ってどこであったのであろうか。

 

2 「島地」(une île du Japon déterminée par le Gouvernement

旧刑法においては,無期流刑及び有期流刑(12年以上15年以下)が重罪(同法においては,罪は,重罪,軽罪及び違警罪の3級に分かれていました(同法1条)。)の主刑のうちの二つとして掲げられており(同法74号・5号,202項),かつ,「流刑ハ無期有期ヲ分タス島地ノ獄ニ幽閉シ定役ニ服セス」とありました(同法201項)。この「島地」というのが「流刑地」ということになります。なんだか江戸幕府の遠島刑のようだから八丈島等であろうかとも一見思われます。しかし,旧刑法はフランス刑法を第一の基礎としたものであり,その叩き台となった草案はフランス人御傭外国人ボワソナアドによって起草されたものですから(大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』(岩波新書・1998年)113-115頁),「島地」がそれに対応するところのフランス語の原語をまず見てみるべきでしょう。

18778月に大木喬任司法卿から元老院に提出された旧刑法の司法省案のフランス語版中旧刑法201項に相当する部分は,次のとおりでした(Projet de Code Pénal pour l’Empire du Japon présenté au Sénat par le Ministre de la Justice le 8e mois de la 10e année de Meiji (Août 1877); Tokio, Imprimerie Kokubunsha, 1879: p.7)。

 

  25.  Les condamnés à la déportation, soit perpétuelle, soit temporaire, sont transportés, dans une île du Japon déterminée par le Gouvernement.

      Ils y sont détunus dans une prison spéciale, sans travail obligatoire.

 (第25条 無期又は有期の流刑に処せられた者は,政府によって定められた国内の一島(une île du Japon déterminée par le Gouvernement)に移送される。

  (流刑受刑者は,特別の刑事施設に拘置され,所定の作業に服さない。)

 

文字どおりには島流しですが,ある一島を政府が監獄島(「島地」)として指定することが想定されていたようです。その趣旨は,1886年に印刷されたボワソナアドによる改訂刑法草案及びその解説によれば,「流刑囚を人口の集中地から遠ざけること及び何らかの混乱に乗じて流刑囚が自ら,又はその徒党の助けによって脱出することがないようにすることであった。」とのことであり,「同時に,〔ボワソナアドの改訂刑法草案〕第27条〔旧刑法21条,旧刑法附則(明治14年太政官第67号布告)13条等に相当〕に基づき一定の期間の後に与えられ得る恩典を別として,家族との引き離しがより強調されることとなるものである。」とのことでもありました(Gve Boissonade, Projet Révisé de Code Pénal pour l’Empire du Japon accompagné d’un commentaire; Tokio, 1886: p.143)。

なお,旧刑法21条は「無期流刑ノ囚5年ヲ経過スレハ行政ノ処分ヲ以テ幽閉ヲ免シ島地ニ於テ地ヲ限リ居住セシムル(こと)ヲ得/有期流刑ノ囚3年ヲ経過スル者亦同シ」と,旧刑法附則13条は「徒刑ノ囚仮出獄ヲ許サレタル者又ハ流刑ノ囚幽閉ヲ免セラレタル者家属ヲ招キ同居スルヲ請フ時ハ之ヲ許スヿヲ得但其路費ハ自ラ之ヲ弁ス可シ」と規定していました。

政府による流刑の島地の選択については,「立法の問題というよりは行政の問題であるので,法律と同じ固定性を有するものではない。したがって,経験によって有用性が示されれば変更がされ得る。」とのことで(Boissonade: p.143),また,流刑同様重罪(crime)の主刑である無期及び有期(12年以上15年以下)の徒刑(旧刑法72号・3号,172項)が執行される「島地」(同法171項は「徒刑ハ無期有期ヲ分タス島地ニ発遣シ定役ニ服ス」と規定していました。)と同一である必要も,法的にはありませんでした。しかし,「単一の監視並びに単一の海軍及び陸軍の備えをもって兼ねようとする経済上の理由に基づきその旨決定され得るところであるが,徒刑囚が〔流刑囚と〕同一の島地に置かれるという場合」もあり得るものとされ,その場合には「刑の執行の場所について,実際上分離(une séparation de fait)がされる。法が流刑囚は特別の刑事施設において拘置される〔幽囚される〕ものと規定しているのはこのためである。」とのことでした(Boissonade: p.144)。徒刑囚は定役に服しますが,流刑囚は定役に服しません。

他方,徒刑囚のための島地の選択については,ボワソナアドいわく。「脱獄の機会をより少なくするために,男子徒刑囚は,島地に置かれる〔女子徒刑囚は島地に発遣されず内地の懲役場に拘置されました(旧刑法18条)。〕。島地の決定は後に行われる。経験が必要とするならば,当該決定は変更され得る。それは行政上の問題であって,もはや刑事立法の問題ではない。」と(Boissonade: p.141)。当該部分に係るボワソナアドの註は,更にいわく。

 

  (h) 治罪法草案628条について既に触れる機会があったところであるが(926b),日本は列島であるので,最も大きく,最も中央にあり,かつ,政府の所在地である本州(l’île de Nippon)をもって一種の大陸(continent)とみなす慣習がある。

  刑罰の一般規則(le Règlement général des peines)は,北海道(la grande île de Yéso)を徒刑の執行地と定めた。

 (Boissonade: p.141

 

 この「刑罰の一般規則」が何なのかはボワソナアドの文章からは直接分かりませんが,これは,188211日からの旧刑法の施行(明治14年太政官第36号布告)に向けて1881919日に発せられた監獄則(明治14年太政官第81号達)でしょうか。

 

3 監獄則等と監獄と

 

(1)1881年の監獄則に関して

1881年の監獄則1条は,次のとおり。

 

1条 監獄ヲ別テ左ノ6種ト為ス

   一 留置場 裁判所及ヒ警察署ニ属スルモノニシテ未決者ヲ一時留置スルノ所トス但時宜ニ由リ拘留ノ刑ニ処セラレタル者ヲ拘留スルコトヲ得

   二 監倉 未決者ヲ拘禁スルノ所トス

   三 懲治場 徴治人ヲ徴治スルノ所トス

   四 拘留場 拘留ノ刑ニ処セラレタル者ヲ拘留スルノ所トス

   五 懲役場 懲役ノ刑及ヒ禁錮ノ刑ニ処セラレタル者ヲ拘禁スル所トス

   六 集治監 徒刑流刑及ヒ禁獄ノ刑ニ処セラレタル者ヲ集治スルノ所トス

    北海道ニ在ル本監ハ徒刑流刑ニ処セラレタル者ヲ集治ス

 

特に北海道に言及されています。ただし,「北海道ニ在ル本監ハ徒刑流刑ニ処セラレタル者ヲ集治ス」の部分については,第12なのか第16後段なのかが細かいながら問題です。これについては,第12項ならば1字上がっていなければならないこと(「文語体・片仮名書きの法令では,行を変えるだけで項の区切りを付けていた」ところです(前田正道編『ワークブック法制執務〈全訂〉』(ぎょうせい・1983年)160頁)。)及び「本」といわれていて「監獄」ではないことからすると,第16号の一部たる同号後段なのでしょう。

禁獄囚は,「内地ノ獄ニ入レ定役ニ服セス」(旧刑法231項。下線は筆者によるもの)ということなので,そもそも,徒刑流刑に処せられた者を集治する北海道(すなわち北海道は徒刑流刑に共通の島地であるということになるようです。)で入獄することは――内地・島地の別を重んじて――ないものとされていたのでしょうか。旧刑法231項の「内地ノ」はフランス語文では “située dans l’intérieur du Japon”であるようであり(Projet (Août 1877): p.8; Boissonade: p.80),これに関してボワソナアドは,禁獄囚は「島地(une île)に押送されることはない。」と述べていたところです(Boissonade: p.149)。なお,重罪の主刑たる禁獄には重禁獄と軽禁獄とがありましたが(旧刑法78号・9号),「重禁獄ハ9年以上11年以下軽禁獄ハ6年以上8年以下」でした(同法232項)。無期流刑が二等又は有期流刑が一等を免ぜられると重禁獄,有期流刑が二等を免ぜられると軽禁獄になります(旧刑法68条)。定役に服するとなると,禁獄ではなく,懲役になります(旧刑法221項)。

しかし,監獄則16号本文によれば,集治監が北海道外にあれば,道外ながらも当該集治監に徒刑囚を入獄させ,流刑囚を幽閉することもできるわけであり,すっきりしないところが残っています(集治監が本州にあれば,徒刑流刑の執行地が島地たることを求める旧刑法との関係で疑問ですが,ボワソナアドももはや行政の問題だと言ってはいたところです。)。

ということで,旧刑法の施行当時どのような集治監があったのかを知るべく法務省の『犯罪白書 昭和43年版』第3編第22「刑務所」を見てみると,18794月に「徒刑,流刑,終身懲役などの罪囚を収容するため,内務省直轄の集治監が東京府葛飾郡小菅村および宮城県宮城郡小泉村におかれ」,「さらに,内務省は,〔1881〕年8月,開拓使管下(北海道)石狩国樺戸郡に既決監を設け,樺戸集治監としたほか,〔1882〕年6月,石狩国空知郡市来知村に空知集治監,翌〔1883〕年3月,福岡県三池郡下里村に三池集治監,〔1885〕年9月,釧路国川上郡熊牛村に釧路集治監を設置した。また,〔1884〕年7月,兵庫県下兵庫に仮留監を設置して,内務省の直轄とし,東京,宮城,三池の3集治監に仮留監を付設し,北海道集治監に発遣する囚徒を一時拘禁せしめた。〔1891〕年6月,北見国網走郡に釧路集治監網走分監を設置し,同年7月北海道集治監の組織を変更し,本監を樺戸に,分監を空知,釧路,網走に設置した。」ということでした。旧刑法施行開始の188211日の段階では,流刑囚が幽囚され得る監獄は,小菅集治監,宮城集治監及び樺戸集治監の3監であったようです。本州島にある東京府小菅村及び宮城県小泉村を「島地」とはなかなかいいにくいところですが,おフランス流の旧刑法との間のねじれではあったものでしょう。

ところで,さきに出て来た「内地」の語について更にいえば,重罪の主刑たる懲役(旧刑法76号・7号)については――島地で執行されるものとされる徒刑との関係なのでしょうが――「懲役ハ内地ノ懲役場ニ入レ定役ニ服ス」とあります(同法221項。下線は筆者によるもの)。また「内地」が出てきたぞということで,この懲役の「内地」は禁獄の「内地」と同じかと思ってフランス語の案文を見てみると,懲役の「内地」は“l’intérieur du pays”であって(Projet (Août 1877): p.8; Boissonade: p.80),禁獄の「内地」とは違った用語となっています。ボワソナアドの説明によれば,懲役の執行場所は「遠く離れた特別の島(une île, éloignée et spéciale)ではもはやなく,くにの中に置かれた刑事施設(une prison de l’intérieur du pays)においてである。一般的には,有罪判決が言い渡された地方(contrée)のものにおいてである。」となっています(Boissonade: p.148)。要は,「内地」というよりは「地元」ないしは「当地」と訳した方がよかったものでしょうか。確かに,こう解さないと,北海道内で判決を言い渡された懲役囚をその都度わざわざ道外に押送しなければならないことになります。

 

(2)1889年の監獄則及び明治16年太政官第4号達に関して

1881年の監獄則を全部改正した,1889712日裁可・同月13日布告の監獄則(明治22年勅令第93号)の第1条は次のようになっていました(なお,当該勅令には施行日の規定がありませんから,公文式(明治19年勅令第1号)10条から12条までの規定によったものでしょう。)。ちなみに,監獄則が法律ではなく勅令の法形式を採っているのは,監獄に収監中の者の監獄関係は特別権力関係だとする理論(塩野宏『行政法Ⅰ』(有斐閣・1991年)30頁参照)に基づくものでしょうか。

 

1条 監獄ヲ別テ左ノ6種ト為ス

 一 集治監 徒刑流刑及旧法懲役終身ニ処セラレタル者ヲ拘禁スル所トス

 二 仮留監 徒刑流刑ニ処セラレタル者ヲ集治監ニ発遣スル迄拘禁スル所トス

 三 地方監獄 拘留禁錮禁獄懲役ニ処セラレタル者及婦女ニシテ徒刑ニ処セラレタル者ヲ拘禁スル所トス

 四 拘置監 刑事被告人ヲ拘禁スル所トス

 五 留置場 刑事被告人ヲ一時留置スル所トス但警察署内ノ留置場ニ於テハ罰金ヲ禁錮ニ換フル者及拘留ニ処セラレタル者ヲ拘禁スルコトヲ得

 六 懲治場 不論罪ニ係ル幼者及瘖啞者ヲ懲治スル所トス

 

 1881年の監獄則16号後段のような,北海道に係る難しい規定は削られています。

 なお,「旧法懲役終身ニ処セラレタル者」というのは旧刑法の施行前の裁判に係るものでしょう。旧刑法の懲役は重懲役と軽懲役とですが(同法76号・7号),「重懲役ハ9年以上11年以下軽懲役ハ6年以上8年以下ト為ス」とされており(同法222項),すなわち旧刑法には,無期といえば無期徒刑及び無期流刑があるだけで(同法72号・4号),無期懲役という刑はなかったのでした。

ちなみに,旧刑法の禁錮は,罰金と並んで軽罪(délit)の主刑であって(同法8条),無期はなくて,刑期は11日以上5年以下(同法242項),軽禁錮であれば定役に服しませんでしたが,重禁錮は定役に服しました(同条1項)。無期があり,かつ,全て定役に服さない現行刑法の禁錮(同法13条)とは,「禁錮」との名称は同一ですが,異なります。

罰金を禁錮に換えることについては旧刑法27条に規定があります。

拘留は,科料と並んで違警罪(contravention)の主刑の一つであり,「拘留所ニ留置シ定役ニ服セス其刑期ハ1日以上10日以下」のものでした(旧刑法9条,28条)。

不論罪に係る幼者及び瘖啞者の懲治については旧刑法79条,80条及び82条に規定があります。

 懲役囚のみならず禁獄囚も地方監獄で拘禁することになったのは,旧刑法231項の「内地」の解釈が,同法221項の「内地」のそれ(l’intérieur du pays ou de la contrée où la condamnation a été prononcée”. 筆者流には「地元」ないしは「当地」)に揃えられたものでしょうか。

 ところで,高倉健等ゆかりの網走分監が設置された1891年の段階では,流刑囚が幽閉され得る監獄は小菅,宮城,三池,樺戸,空知,釧路及び網走の7監であったか,といえばそうとも言い切れないようです。

 旧刑法施行から1年少しが経過した1883125日付けで,次の明治16年太政官第4号達が発せられています。

 

  沖縄県人民ニ限リ徒刑流刑ニ処セラレタルモノハ同県下八重山島ニ発配スルヲ得ヘシ此旨相達候事

  但囚人取扱方ハ旧慣ニ因リ沖縄県令之ヲ管理スヘシ

 

流刑囚が沖縄県民であった場合は,その幽囚地は,三池,小菅,宮城又は遠い北海道ではなく,八重山諸島であり得たわけです(実際には石垣島でしょうか。)。明治16年太政官第4号達は,「旧刑法施行ノ為メ公布シタル法令」の一として刑法施行法(明治41年法律第29号)附則2項によって現行刑法施行の日である1908101日から廃止(刑法施行法附則1項,刑法上諭,明治41年勅令第163号)されるまで効力を有したものとされています。ただし,1903319日に裁可され,同月20日に公布された監獄官制(明治36年勅令第35号)を見ると沖縄県の監獄は島尻郡小禄間切に沖縄監獄があるだけで,同官制2条に基づく分監も沖縄県にはなかったようです(明治36323日司法省告示第18号)。すなわち,1903年当時(なお,監獄官制は同年41日から施行(同官制附則1項))には,八重山諸島には,警察署内の留置場はともかくそれ以外の監獄はなかったようなのですが,どうしていたものでしょうか。

 

(3)1903年の監獄官制に関して

1903年の監獄官制においては,前記『犯罪白書 昭和43年版』によれば,「集治監および府県監獄署は単に監獄と改称され,小菅監獄等57監獄の名称および位置が定められた」ところです。しかし,こうなると,57監獄中の某監獄が監獄則1条における監獄6分類中のどれに当たるのかが監獄官制上の名称だけでは不明となります。したがって,監獄官制122項は「各監獄ノ種類ハ司法大臣之ヲ指定ス」と規定し,同項に基づき明治36323日司法省告示第17号が出されています。

しかし,この明治36年司法省告示第17号が難しい。

まず,57監獄中,留置場として指定されたものは一つもありません。これは,留置場は全て警察署内に設けられていたものであって,かつ,警察署内の留置場は司法大臣の管理外であるということでしょう。すなわち,内務省所管の留置場と司法大臣の管理に属する監獄官制上の監獄(同官制1条は「監獄ハ司法大臣ノ管理ニ属ス」と規定しています。)とを共に「監獄」とする監獄則上の監獄概念と,監獄官制上の監獄概念は異なるということでしょう(前者の方が留置場を含むだけ広い。)。朕の勅令で同じ「監獄」の語を使っておいてこれは何だ,とて明治天皇に逆鱗の気味はなかったものかどうか。

次に,集治監として指定されているものは,樺戸,網走及び十勝(北海道河西郡下帯広村)の3監獄だけです(いずれも地方監獄及び拘置監を兼ねます。なお,空知及び釧路の施設は消滅していますが,北海道内には他に函館監獄及び札幌監獄が存在しており,いずれも地方監獄,拘置監及び懲治場として指定されています。函館監獄には更に根室分監が設けられています。)。小菅,宮城及び三池はどうしたのだといえば,いずれも仮留監及び地方監獄としてのみ指定されています(なお,仮留監については,当該3監獄以外の監獄で指定されたものはありません。)。これは,従来からの運用の実際において,小菅,宮城及び三池は「集治監」との看板を掲げつつも,既に徒刑囚流刑囚の終着地ではなく,通過地にすぎないものとなっていたということでしょう。

結局,旧刑法下の流刑地は,(八重山諸島問題を別とすれば)やはり原作者・渡辺淳一の出身地たる北海道であったということになるようです。

 

4 「愛の徒刑地」から「女=政治の罪の流刑地」へ

 

(1)政治犯→流刑地

さて,)の最後において,筆者が「流刑地」とのみ言ってあえて「愛の流刑地」と言わなかったことには理由があります。

旧刑法における流刑は,政治犯に科せられるものとされていたからです(同法682号・3号と672号・3号とを対照)。

1886年の自らの改訂刑法草案を説明しつつボワソナアドいわく。

 

  無期流刑は,政治犯に対する死刑を廃する本草案において,政治犯に対する最も重い刑である。

  これについては,本草案は,相当の注目に値する点でフランス法と異なっている。

  フランスにおいては,政治事件について死刑が廃止された際に,それは「要塞監獄(enceinte fortifiée」への流刑をもって代えられた。これは,脱走に対する厳重な警戒をするものであると同時に,自由の剥奪をより苦しいものとするものであった。より軽い政治犯罪については,島地におけるもの(dans une île)ではあるが,監視と両立するものたる相当程度の自由が認められる,「単純」と形容される流刑が維持された。

  日本においても確かに2種類の流刑が存在する。しかし,それらは期間において相違するのみであって,その処遇内容(régime)においては相違しない。一方は無期であり,他方は有期(16年以上20年以下)である。両者のイメージは,無期及び有期の徒刑の緩和版というものである。両流刑において,流刑囚は島地において受刑することに加えて,特別の刑事施設に拘置(幽閉)される。しかしながら,後者〔幽閉〕の苦しみは必ずしも刑期中続くものではない。〔略〕〔ボワソナアド改訂刑法草案〕第27条は,その緩和をもたらす規定である。

 (Boissonade: pp.142-143

 

 旧刑法の制定に向けて「政治犯については,ボワソナアドは,フランス第二共和制以来の考え方を踏襲して,死刑の廃止を実定法化しようと努力した。そして,〔18771128日に〕司法省が太政官に上申した「日本刑法草案」の段階では,内乱罪の首魁にも,死刑は廃止され,無期流刑が科されることになっていた。」ところです(大久保119頁)。しかしながら,司法省案は太政官の刑法草案審査局における審査の段階で,「明けて〔1878〕年1月,審査局では,内閣に重要問題の予決を求め,ここで,皇室に対する罪を置くこと,国事犯(政治犯)を死刑に処すること,など4点が決定された(伊藤博文-井上毅ラインによる)。皇室に対する罪は,新律綱領では不吉であるという理由で除かれたが,今回の刑法では加えられ,また国事犯に対する死刑は,ボワソナアドの廃止論が審査局でくつがえされたのである。」ということでした(大久保115頁)。

 なお,フランス法による政治犯の流刑地は,いずれも南太平洋のマルキーズ諸島やヌーヴェル・カレドニーにあったそうです。

 国事ニ関スル罪に係る我が旧刑法第2編第2章を見ると,次のような規定があります。

 

  第121条 政府ヲ顚覆シ又ハ邦土ヲ僭窃シ其他朝憲ヲ紊乱スルヿヲ目的ト為シ内乱ヲ起シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス

   二 群衆ノ指揮ヲ為シ其他枢要ノ職務ヲ為シタル者ハ無期流刑ニ処シ其情軽キ者ハ有期流刑ニ処ス

 

  第131条 本国及ヒ同盟国ノ軍情機密ヲ敵国ニ漏泄シ若クハ兵隊屯集ノ要地又道路ノ険夷ヲ敵国ニ通知シタル者ハ無期流刑ニ処ス

    敵国ノ間諜ヲ誘導シテ本国管内ニ入ラシメ若クハ之ヲ蔵匿シタル者亦同シ

 

  第132条 陸海軍ヨリ委任ヲ受ケ物品ヲ供給シ及ヒ工作ヲ為ス者交戦ノ際敵国ニ通謀シ又ハ其賄遺ヲ収受シテ命令ニ違背シ軍備ノ欠乏ヲ致シタル時ハ有期流刑ニ処ス

 

  第133条 外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開キタル者ハ有期流刑ニ処ス其予備ニ止ル者ハ一等又ハ二等ヲ免ス

 

(2)故殺犯→徒刑地

これに対して,性交中の快感増進のためについ相手方を絞殺する行為は,「予メ謀リテ人ヲ殺シタル者」ではないから死刑にはならないとしても(旧刑法292条参照),「故意ヲ以テ人ヲ殺シタル者ハ故殺ノ罪ト為シ無期徒刑ニ処ス」との規定の適用があるものでしょう(同法294条)。徒刑であって,流刑ではありません。また,無期徒刑ですから懲役8年などというやわなものではありません。期間が無期であるのみならず,旧刑法の条文では単なる「定役」なのですが,フランス語案文によると,徒刑男囚(les hommes condamnés aux travaux forcés)の服する定役は,最も苦しい作業(les ouvrages les plus pénibles)なのです(Projet (Août 1877): p.6; Boissonade: p.78)。travaux forcésに服さしめられるのですから,徒刑は,フランス語の文字どおりには強制労働の刑です。その作業は,鬼哭啾々白骨累々,北辺の地の鬱蒼たる原生林における「囚人道路」開鑿(かいさく)作業のようなものでしょうか。五十代後半の文弱の物書きだからとて容赦はされず,徒刑囚たるもの60歳になるまでは壮丁同様の重い苦役に日々服して(旧刑法19条反対解釈),過去の性愛の悦びを思い出しては自らを慰めるその妄念も妄執も全て(ほこり)と汗とにまみれた疲労によって奪われ果てなければなりません。雪女が出て来ても,反応する元気はもうピクとも残っていないでしょう。仮出獄も,無期徒刑の場合は15年間待たねばなりませんし(旧刑法532項),かつ,仮出獄後も当該島地に留まらなければなりません(同法54条)。

定役には服さずに北海道で過ごし,5年もたったら集治監の幽閉から解放してもらって家族を呼び寄せて暮らそうかという政治犯についてならば「(家族)愛の流刑地」ともいい得たのでしょう。しかし,故殺の刑は無期徒刑である以上「流刑地」とはいかがなものでしょうか。性愛に溺れて犯した故殺の結果発遣される「愛の徒刑地」,しかして重い苦役の毎日に,みだらな性愛の思い出も(つい)には無情に解け去ってしまう最果ての徒刑地,略して「愛トケ」では駄目であったのでしょうか。

 

(3)女(les femmes)=政治(la politique

さはさりながら,我が母法国・おフランスの悪魔的外交官の悪魔的外交術をもってすれば,女は政治だから女がらみの犯罪は政治犯罪だ,だから徒刑ではなくて流刑に処せられるべきだ,と言い張り得るかもしれません。

 

  その後,タレイランについてティエールは,ガンベッタに対して次のように語った。

  ――ド・タレイラン氏のもとに僕は足しげく通ったものさ。彼は僕に対して大いに好意を示してくれていた,けれども,やり切れなかったな。僕はいつも話題を,ヨーロッパ,時事問題,要は政治に持って行きたかったんだけれども,彼ときたら専ら女の話ばかりするのだからね。僕はいらいらしていた。で,ある日彼に言ったのさ。

  ――大公,あなたはいつも女性のお話をなさいますが,私としては,むしろ政治のお話ができれば嬉しいのですが,ってね。

  で,やっこさんが僕に向かって言うにはこうだ――しかし,女・・・しかしこれは政治ですぞ,だってさ。(--- Mais les femmes, me répondit-il, mais c’est la politique.

 (Jacques Dyssord, Les belles amies de Monsieur de Talleyrand; Nouvelles Édition Latines, Paris, 2001: p.273

 

 ウィーン等の華麗な宮廷ではかようなespritに富んだ外交術が功を奏したのでしょうが,しかし,日本の質朴な法廷においてこのような“de la merde dans un bas de soie”(ナポレオンによるタレイランの人物評🧦💩的弁論術を弄せんとすると,真面目な裁判官に,ふざけないでください!と厳しく叱責されそうです。


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1 福岡高等裁判所平成28年6月24日判決(判タ1439136頁):指定薬物

 福岡高等裁判所第1刑事部平成28年6月24日判決(平成28年(う)第181号薬事法違反被告事件)が『判例タイムズ』第1439号(201710月号)136頁以下で紹介されています。薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの。以下同様)2条14項の指定薬物を所持する罪の故意の有無が争われた事件です(故意が認められ,被告人の控訴棄却。懲役6月)。『判例タイムズ』で紹介された判決文中,下線が施されていた部分は次のとおりです。

 

   当該薬物の薬理作用を認識し,そのような薬理作用があるために当該薬物が指定薬物として指定されている薬物と同様に規制され得る同種の物であることを認識していれば,当該薬物を所持し,販売し,譲り受けることなどが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識,すなわち故意の存在を認めるに足りる事実の認識に欠けるところはないということができる。

 

本件の事実関係の下では,被告人が本件植物片には指定薬物として指定されている薬物が含有されていないと信じたことに合理的な理由があったことなど,被告人の故意を否定するに足りる特異な状況も認められないというべきである。

 

 なお,薬事法2条14項は,「この法律で「指定薬物」とは,中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。)を有する(がい)然性が高く,かつ,人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物(大麻取締法(昭和23年法律第124号)に規定する大麻,覚せい(﹅﹅)剤取締法(昭和26年法律第252号)に規定する覚せい剤,麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)に規定する麻薬及び向精神薬並びにあへん法(昭和29年法律第71号)に規定するあへん及びけしがらを除く。)として,厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。」と規定していました。

 薬事法8420号は,同法76条の4の規定に違反した者(同法83条の9に該当する者を除く。)は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処せられ,又はこれを併科されると規定していました。

 薬事法76条の4は,「指定薬物は,疾病の診断,治療又は予防の用途及び人の身体に対する危害の発生を伴うおそれがない用途として厚生労働省令で定めるもの(以下この条及び次条において「医療等の用途」という。)以外の用途に供するために製造し,輸入し,販売し,授与し,所持し,購入し,若しくは譲り受け,又は医療等の用途以外の用途に使用してはならない。」と規定しています。これは,平成25年法律第103号により2014年(平成26年)4月1日から改正されたものです。ちなみに,平成25年法律第84号の施行日は2014年(平成26年)1125日でしたので,あとで成立した第103号の方が先に成立した第84号より先に施行された形になります。Sic erunt novissimi primi et primi novissimi.”(マタイ20.16)ということの実例の一つですね。

 

 福岡高等裁判所平成28年6月24日判決の事案は,「平成26年〔2014年〕8月19日,被告人に対する脅迫の被疑事実による被告人方居室の捜索差押許可状が執行され,その際本件〔乾燥〕植物片が発見され,被告人は,自身で購入したことを自認して,それを任意提出し〔略〕,その後,本件植物片が鑑定され,本件薬物の成分が検出されたことが認められるから〔略〕,被告人が本件薬物を含有する本件植物片を所持していたことは明らかである。/また,本件薬物は,平成26年7月15日公布,同月25日施行の厚生労働省令第79号により,当時の薬事法(昭和25年法律第84号による改正前のもの,現在は法律名が「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」と改正されており,同法において同じ規制がされている)2条14項に規定する薬物に指定された(以下「指定薬物」という)ものである。」,「被告人は,本件植物片が,中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用や当該作用の維持又は強化の作用を有する蓋然性が高く,人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある薬物を含有していること,すなわち,当時の薬事法によって規制しようとしていた薬理作用やその薬理作用による危険性を十分認識するとともに,その薬理作用を期待して本件植物片を購入し所持していたということができる。そして,被告人は,本件植物片がいわゆる危険ドラッグであることを前提に,それを購入して所持していた上,危険ドラッグの危険性や取締りの強化は十分承知しており,そのため販売員に本件植物片の規制の有無を確認しているのであるから,本件植物片の含有する本件薬物が,他の指定薬物と同様に規制され得るそれらと同種の物であり,指定薬物として取締りの対象に入る可能性を認識していたものというべきである。」,「被告人は,販売員から合法だと告げられるなどしたから合法だと信じたというのであるが,販売員でしかない者が違法か合法かを適切に判断できる立場にないことも,その言葉が信頼に足りる状況にないことも,いずれも明らかであるし,取締りの対象となって閉店した店が,再度オープンしたからといって,販売店で取り扱う商品が合法なものと推認できないこともまた明らかである。」というものでした。

平成25年法律第103号によって2014年4月1日から改正する前の薬事法76条の4は「指定薬物は,疾病の診断,治療又は予防の用途及び人の身体に対する危害の発生を伴うおそれがない用途として厚生労働省令で定めるもの(次条において「医療等の用途」という。)以外の用途に供するために製造し,輸入し,販売し,授与し,又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し,若しくは陳列してはならない。」というものでしたから,2014年の3月中に当該植物片が押収されていたのならば販売又は授与の目的がない限り被告人は指定薬物所持罪に問擬されることはなかったのでした。

 

2 故意の成立に必要な事実の認識の範囲に係る判例の立場に関する説明

 ところで,『判例タイムズ』第1439号の匿名解説は「本判決は,このような判例の立場に関する説明と軌を一にするものといえよう。」と述べています。そこでいう「このような判例の立場に関する説明」は,どのようなものでしょうか。いわく。

 

判例は,故意の成立に必要な事実の認識の範囲は,当該構成要件の該当事実そのものを認識していることが必要であり,その一部である違法性の意識を喚起しうる範囲の事実を認識していることは故意の成立を認める証拠に止まるとしている。そして,さらに,構成要件に該当する自然的事実を認識しているだけでは足りず,構成要件に該当するとの判断を下しうる社会的意味の認識が必要であるとしている(香城敏麿・最高裁判所判例解説刑事篇平成元年度15事件)。

 

〔行政取締法規違反の罪については,〕違法性を喚起しうる一部の事実を認識していたことと行為当時の状況をあわせて考慮すると,少なくとも未必的,概括的には構成要件該当事実を認識していたと認定しうる場合には,その錯誤は法律の錯誤にとどまる。これに対し,自然的な意味での事実の認識は存在していたものの,それが構成要件事実に当たるという意味の認識を妨げる特異な事情が介在していたため,故意の成立に必要な程度に事実の認識があったとは判断できない場合には,事実の錯誤となる(香城・前掲261頁)

 

 この香城敏麿最高裁判所上席調査官は,後に福岡高等裁判所長官となっています。したがって,福岡高等裁判所の後輩裁判官としては,元長官閣下の見解を重視すべきことは当然,ということになったのでしょう。

 

3 同窓生たち

 香城敏麿長官は,刑事法のみならず,憲法分野でも名前の出て来る著名な裁判官です。筆者も不敏ながらも法律の勉強はしたわけなので,その際同長官の氏名を目にするたびに,香城敏麿とは変わった名前だなぁ,「まろ」といわれると京都の貴族みたいだなぁ,しかし,そういえば札幌での中学生時代に香城○麿さんという上級生がいたけど親戚なのかなぁ,などと漠然と考えることがあったところです。とはいえいつまでも漠然とした思いのままでは埒が開きません,インターネットでいろいろ便利になったのでふと香城長官の出身高等学校を調べたところ,何のことはない,長官は北海道立札幌南高等学校の御出身でした。香城一族は,男子は○麿と命名せられることとなっているらしい,札幌の名族であったのでした。

 で,堅い裁判官の香城敏麿長官が1935年生まれであると分かると,今度は柔らかい小説家の渡辺淳一先生と同じ時期に札幌南高校にいたのかしら,が気になるところです。後に男女の愛とその官能を綴ることで有名になる渡辺先生は1933年生まれでした。ということは,両者は2歳違いであって,同級生の加清純子嬢と付き合ってめろめろ中の将来の大作家が3年生になった時(1951年4月)に,その半世紀後の20011130日に電気通信事業紛争処理委員会(現在は電気通信紛争処理委員会(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)144条以下))の初代委員長(同法146条)となる香城少年が入学して来たという関係であったわけです。『阿寒に果つ』の加清純子事件は,後の電気通信事業紛争処理委員会委員長が高校1年生として迎えた新年(1952年1月)に起きたのでした。


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時計台(札幌市中央区)

 

4 東京地方裁判所立川支部平成27年9月4日判決等:医薬品及び製造たばこ代用品

 

(1)薬事法24条1項・84条5号

 ところで,福岡高等裁判所平成28年6月24日判決の事案は,指定薬物の所持者について指定薬物を所持する故意があったということで公訴提起がされ,当該故意の認定が問題となった事案でした。他方,指定薬物に係る故意の認定の困難を回避するためか,いわゆる危険ドラッグの販売業者について,業として医薬品を販売の目的で貯蔵又は陳列したもの(薬事法24条1項違反。刑は,同法84条5号により3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され,又はこれを併科される。)として起訴した事例もあります。東京地方裁判所立川支部平成26年(わ)第1563号・平成27年(わ)第385号薬事法違反被告事件平成27年9月4日判決の事案などがそうです。薬事法83条の9の規定は「第76条の4の規定に違反して,業として,指定薬物を製造し,輸入し,販売し若しくは授与した者又は指定薬物を所持した者(販売又は授与の目的で貯蔵し,又は陳列した者に限る。)は,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。」(平成25年法律第103号による2014年4月1日からの改正以降の条文)となっていましたが,これと比べれば同法84条5号では刑が軽くなっています。検察官としては,刑が軽くなってしまうとしても故意立証における安全性を優先したものでしょう。(福岡高等裁判所平成28年6月24日判決に係る『判例タイムズ』の匿名解説は,「本判決は,指定薬物として指定された事実についての認識をまったく不要としているものとはいえないであろう。」としつつ「指定の事実についての認識を故意に必要な認識の上でどのように位置付けるかは,今後の裁判例の集積にゆだねられているとみるべきであろう。」と述べています。「指定の事実の認識」の位置付けにくよくよしなければならない指定薬物ではなく,そのような苦労のなさそうな医薬品で行こうということだったのでしょうか。)

薬事法24条1項は,「薬局開設者又は医薬品の販売業の許可を受けた者でなければ,業として,医薬品を販売し,授与し,又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し,若しくは陳列(配置することを含む。以下同じ。)してはならない。ただし,医薬品の製造販売業者がその製造等をし,又は輸入した医薬品を薬局開設者又は医薬品の製造販売業者,製造業者若しくは販売業者に,医薬品の製造業者が,その製造した医薬品を医薬品の製造販売業者又は製造業者に,それぞれ販売し,授与し,又はその販売若しくは授与の目的で貯蔵し,若しくは陳列するときは,この限りでない。」と規定しています。

しかし,医薬品貯蔵・陳列罪に係る故意の認定も難しい。

 

(2)医薬品の概念

医薬品の定義は,薬事法2条1項において次のように規定されていました。

 

 一 日本薬局方に収められている物

 二 人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて,機械器具,歯科材料,医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」という。)でないもの(医薬部外品を除く。)

 三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて,機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)

 

指定薬物たるいわゆる危険ドラッグは薬事法2条1項3号の医薬品であるということで起訴がされたということになったのですが,「摂取して人の身体の機能に影響を及ぼすことが目的の医薬品である,いわゆる危険ドラッグ」というのみの簡単な言い方で,「摂取して人の身体の機能に影響を及ぼすこと」を「目的」としている物を皆医薬品にしてしまうということでよいものかどうか。

薬食同源といわれるところ,普通の飲食物も「人の身体の機能に影響を及ぼすこと」を「目的」として摂取されるものではないでしょうか。眠気覚ましのために砂糖をたっぷり入れたコーヒーを飲むことまでが,医薬品の摂取になるものかどうか。(なお,砂糖を入れたコーヒーが眠気覚ましになるのは,砂糖による胃もたれ感によるものというよりはやはり,カフェインの効果に加えて糖分が疲れた脳に速やかに栄養を補給するからでしょう。)「医薬品ノ中ニハ御承知ノ如ク薬トシテ売出シマス場合ニハ非常ニ難カシイ名前ガ附イテ居ルガ,八百屋ヘ行ケバ食物デアリ,薬屋デ売ルトキハ医薬品デアルト云フヤウナモノモ中ニハナイコトハナイ」と,つとに述べられています(第81回帝国議会衆議院薬事法案外2件委員会議録(速記)第6回106頁(灘尾弘吉政府委員(厚生省衛生局長)))。(ちなみに,81回帝国議会の協賛を得た昭和18年法律第48号の旧々薬事法には医薬品の定義がそもそもありませんでした。この点については灘尾政府委員から「出来ルコトナラバ,医薬品ニ関スル定義ヲ此ノ法律案ニ規定致シタイト考ヘマシタ次第デアリマスガ,色々勘考致シマシタケレドモ,中々此ノ点ハ政治的ニ非常ニ難カシイノデアリマス,形式ヲ申シマスレバ,日本薬局方ニ所載セラレテ居リマスモノハ薬品ト言フト云フヤウナコトハ簡単ニ行キマスガ,段々押詰メテ参リマスト,境目ニナツテ来マスト,曖昧ナモノガ出来テ来ルト云フ状況デアリマス,是等ヲ包括致シマシテ,総テニ妥当スルヤウナ定義ト云フモノヲ文字ニ表ハスコトハ中々困難デアリマスノデ,一応ソレ等ノ点ニ付キマシテハ,従来モ左様ニナツテ居ルノデアリマスルガ,薬ニ関スル吾々ノ通念ニ従ツテ処置シテ行キ,疑問ノモノニ付テハ行政的ニ然ルベク処理シテ行クト云フ風ナ考ヘ方ヲ致シテ居ル次第デアリマス」と説明されています(第81回帝国議会衆議院薬事法案外2件委員会議録(速記)第6回106頁)。)

 薬事法2条1項3号の前身は昭和23年法律第197号の旧薬事法2条4項3号の「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を与えることが目的とされているもの(食品を除く。)」との規定でしたが(旧薬事法に至って「医薬品」の定義規定が設けられたわけです。),同号の括弧書きに注意すべきです。食品も,医薬品同様「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を与えることが目的とされているもの」なのでした。(この括弧書きが昭和35年法律第145号の薬事法において取り去られたことについては,「なお,食品との関係につきましては,従来現行法には「(食品を除く)」という言葉が入っておりましたけれども,これは法制上検討いたしまして,食品衛生法の方に医薬品及び医薬部外品を除くという規定をおきまして,両方の調整をはかったわけでございますが,実態としては食品と医薬品,あるいは医薬部外品との関係は現在と変わらないというふうに考えております。」と説明されていますが(第34回国会参議院社会労働委員会会議録第28号3頁(高田浩運政府委員(厚生省薬務局長))),確かに医薬品が原則で食品が例外であるというよりは食品が原則で医薬品等が例外であるとする方が「法制上」落ち着きがよいでしょう。)すなわち,「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を与えることが目的とされているもの」との文言だけでは覚束なく,もう一つ縛りをかけなくては,食品と医薬品との分別ができません。(ちなみに,食品衛生法(昭和22年法律第233号)4条1項は現在「この法律で食品とは,全ての飲食物をいう。ただし,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)に規定する医薬品,医薬部外品及び再生医療等製品は,これを含まない。」と規定しています。)

ところで,いわゆる危険ドラッグの植物片は,喫煙用に供されています。そうだとすると,食品とはいいにくい。そうであれば,食品ではないところの「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」であるのだから直ちに医薬品なのだといえるかといえば,まだなかなかそうはいきません。

 

(3)製造たばこ代用品

たばこ事業法(昭和59年法律第68号)38条2項は,次のように規定しています。

 

製造たばこ代用品とは,製造たばこ以外の物であつて,喫煙用に供されるもの(大麻取締法(昭和23年法律第124号)第1条に規定する大麻,麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)第2条第1号に規定する麻薬,あへん法(昭和29年法律第71号)第3条第2号に規定するあへん並びに医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第2条第1項に規定する医薬品及び同条第2項に規定する医薬部外品を除く。)をいう。

 

 これを見ると,喫煙用に供される植物片は,それだけでは医薬品ということにならず,積極的に医薬品等であるものとされない限り,製造たばこ代用品にとどまることになります。

 製造たばこ代用品は,たばこ事業法38条1項によって,合法の嗜好品であるところの製造たばことみなされて同法の規定が適用されるものとなっています。

 なお,製造たばこ代用品とは「葉たばこ以外のものを原料として,製造たばこと同様の形態に製造されて喫煙用に供されるもの」であって,「代用品の例としては,〔略〕アメリカにはカカオビーンズの皮を主原料としたフリーとか,イギリスではタンポポを主原料とした,どんな味がするのかよくわかりませんけれど,ハニーローズとかいうのがあるそうでございます。」と紹介されています(第101回国会衆議院大蔵委員会議録第2935頁(小野博義政府委員(大蔵大臣官房日本専売公社監理官)))。


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 札幌のタンポポ
  

(4)たばこと医薬品との分別

 ところで,薬事法2条1項3号の医薬品に該当するものとしてたばこを厳しく規制すべきだとの主張は,確かに理論の上ではあり得るところではありました。しかしながら,禁煙主義の方々のそのような主張がすげなく退けられた裁判例として,東京高等裁判所平成22年(ネ)第2176号損害賠償請求控訴事件平成24年3月14日判決があります。いわく。

 

   しかし,たばこが,大人が自由な意思で吸う吸わないを判断する嗜好品として製造・販売されてきたことは,これまで認定・説示してきたとおりである。ニコチン依存症候群に陥った者が離脱状態を緩和するために喫煙するということはあり得るが,そのことから,たばこが離脱症状の緩和を目的としているとはいえない。そして,喫煙者が喫煙をする理由の中には,手の操作的満足〔手持ちぶさた〕や娯楽的満足〔雰囲気,楽しみ〕など精神作用以外のものも含まれており〔略〕,たばこは精神作用を得ることのみを目的としているものではない。

   もっとも,たばこは,気分転換,ストレス解消,落ち着くなどの精神作用を理由としても嗜好されているものではあるが,そのことは,カフェインを含むコーヒー・茶やアルコール類など社会的に許容されている他の嗜好品においても同様である(なお,ICD-10〔略〕やDSM-(4)〔略〕においても,アルコール依存,カフェイン関連障害は一つの診断分類とされている。)しかし,薬事法が医薬品の製造・販売等について各種の規制を設けているのは,医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためであり,そのため,医薬品は,治療上の効能,効果と副作用とを比較考量して,医薬品としての有用性を有しない限り,承認されることがないのである(最高裁平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照)。これに対して,嗜好品は,国民の生命及び健康を保持する上での必需品ではなく,一定の健康上のリスクがあっても,これを摂取することに個人が自由な意思で価値を認めて嗜好するものであって,その価値が客観的に認められる必要やその価値が客観的にリスクを上回っていることが要求されるものではない。そうすると,嗜好品として許容されている範囲内の精神作用は,薬事法2条1項3号の人の機能への影響には該当しないと解するのが相当である。

   そして,ニコチン依存に関する今日の知見の下でも,たばこが嗜好品として許容されていることは,被控訴人日本たばこらに対する請求について説示したとおりである〔略〕。控訴人らは,たばこが嗜好品であるから医薬品に当たらないという考え方は,ニコチンの依存性が明らかにされる以前の古い認識であると主張し,たばこが今後も許容された嗜好品であり続けるかどうかは,今後の喫煙者の状況と知見の状況等を踏まえた社会一般の意見とそれを反映した立法に委ねられる問題であるが,少なくとも現時点においては,たばこの精神作用は,薬事法2条1項3号の人の機能への影響には当たらず,たばこが医薬品に該当するとはいえない。(第5の1(2)イ)

 

東京高等裁判所の当該判示に拠って強弁すれば,製造たばこ代用品たり得る植物片は,嗜好品たる製造たばこ代用品として許容されている範囲内の精神作用を有するにとどまる限りにおいては当該精神作用を目的として用いられる場合であっても薬事法2条1項3号にいう人の機能への影響を有するものではなく,したがって医薬品ではない,と言い得そうです。当該許容される精神作用の範囲は「社会一般の意見とそれを反映した立法に委ねられる」ということになれば,結局,当該植物片に係る医薬品の無許可販売業目的貯蔵・陳列罪の成立のためには,指定薬物として厚生労働省令によって現に指定されるに足る精神作用がある事実(既に指定された指定薬物を含有しているのであればこちらの要件は充足されるでしょう。)及び当該事実に係る認識が必要であるということになりそうです。

 

(5)指定薬物指定省令の公布後施行前の取締りについて

2014年9月19日の政府薬物乱用対策推進会議において厚生労働省の神田裕二医薬食品局長は「今日,新しく14物質を,規制対象となる「指定薬物」に指定しましたので,無承認医薬品としての医薬品としての指定を受けまして,先ほど申し上げた店舗数の多い4都府県に対しましては,本日既に立入検査に入って,今度規制する薬物を売っていたら無承認医薬品として取り締まる,というのを,早速今,立ち入りにちょうど今日行っているところです。」と発言しています。ここでいう「指定」は平成26年厚生労働省令第106号の公布のことで,当該省令が施行されるのは同月29日からのことでした。指定薬物としての指定自体の効力はいまだ発動されてはいないが,「社会一般の意見とそれを反映した立法」(この場合は当該省令の公布)によって当該14物質についてはその精神作用が嗜好品として許容されている範囲を超えることは明らかになったので,医薬品に係る薬事法24条1項・55条2項違反で取り締まるのだ,ということなのでしょう。

 

(6)東京地方裁判所立川支部平成27年9月4日判決における医薬品性に係る故意の認定

「摂取して人の身体の機能に影響を及ぼすことが目的」であるかどうかの目的の有無についてのいわばディジタル的判断のみでは医薬品性は立証できず,更に許容範囲を超える(すなわち指定薬物指定相当の)精神作用の存在の認識が必要になるのでしょう。しかしそうであると,医薬品所持で起訴した場合であっても,指定薬物の所持に係る福岡高等裁判所平成28年6月24日判決にいう「当該薬物の薬理作用を認識し,そのような薬理作用があるために当該薬物が指定薬物として指定されている薬物と同様に規制され得る同種の物であることを認識していれば,当該薬物を所持し,販売し,譲り受けることなどが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識,すなわち故意の存在を認めるに足りる事実の認識に欠けるところはないということができる。」の判断基準と余り変わらない判断基準となるように思われます。

東京地方裁判所立川支部平成27年9月4日判決においては,薬事法84条5号・24条1項の無許可販売業目的医薬品陳列・貯蔵罪に係る被告人の故意の認定に,次のように多くの言葉が費やされています。

 

 〔前略〕本件植物片は,上記〔略〕のとおり,吸引等の方法による人体摂取を目的として販売,使用されていたものであるところ,被告人自身そのことを認識していた。そして,被告人が,上記〔略〕のとおり,ハーブ店経営者として自ら危険ドラッグの仕入れを行い,アッパー系,ダウン系,強い,弱いなどの効能を,仕入先業者から聞かされ,これを従業員に伝えるなどしていたことや,被告人自身も店内で扱われる商品のうち,リキッドやパウダーと呼ばれる危険ドラッグを使用してその使用感を確かめるなどしていたことからすれば(被告人の供述によっても,ハーブについても1回は使用している。),被告人が〔自店〕で扱っている危険ドラッグに人体への薬理作用があることを認識していたことはもちろん,その程度についてもそれなりに認識していたものと認められる。

  このことに加えて,〔中略〕などからすれば,被告人が,本件植物片が,指定薬物等を含む規制薬物を含有し,または,薬事法に基づく医薬品成分に該当する成分を含むおそれがあり,人の身体の機能や構造に影響を及ぼすことを目的とするものであることを十分認識していたこと,すなわち,本件植物片が医薬品に該当することの基礎となる事実を十分認識していたことは明らかである。そして,以上の経緯等からすれば,被告人が,本件植物片を販売目的で貯蔵又は陳列することが違法であるとの意識を有していたことも優に認められる。(第2の2(2))

 

 「指定薬物等を含む規制薬物を含有し,または,薬事法に基づく医薬品成分に該当する成分を含むおそれ」までの認識が必要ということで,「人の身体の機能や構造に影響を及ぼすことを目的とするもの」のみについてのあっさりとした認定では済まなかったところです。

 返す刀で弁護人の主張もばっさり。

 

 〔前略〕被告人が本件植物片を使用した経験がなかったとしても,本件植物片がそれなりに強い薬理作用を有していることを十分認識し得たといえる。これらのことに加え,上記〔略〕で認定した本件における事実経過等からすれば,被告人は,本件植物片が,嗜好品として許容されている範囲を超えた強い精神作用を有するものであり,指定薬物等の規制薬物を含有する可能性があり,購入客がその薬理作用を求めて身体に摂取する目的で本件植物片を使用しているということを十分認識していたと認められ,弁護人の主張〔「被告人は,①〔自店〕で販売されている植物片について,顧客が嗜好品として使用しているとの認識を有しており,②本件植物片を自身で使用したことはなく,仕入れ先業者からは本件植物片について大まかな定型的性質を聞いていただけである上,指定薬物を含有している商品については,そのことが発覚し次第,取扱を中止するなど,指定薬物を含有する商品を排除すべく努力をしていたものであるから,自身が,指定薬物を含有する医薬品を販売しているとの認識も抱いてはいなかった,などという」〕は採用することができない。(第2の2(3)ア)

 

 と,以上はいわゆる危険ドラッグ関係の剣呑な話でした。

 

(7)健康増進法改正に関して

 ちなみに,葉っぱに火をつけてプカプカすることについて論じてしまうとつい想起されるのは,受動喫煙対策が目玉の健康増進法(平成14年法律第103号)の今次改正案です。2018年3月に内閣から第196回国会に提出された健康増進法の一部改正法案が成立すると,製造たばこ代用品も健康増進法上の「たばこ」の一種とされます(改正後同法25条の4第1号)。「受動喫煙」は「人が他人の喫煙によりたばこから発生した煙にさらされることをいう。」と定義され(改正後健康増進法25条の4第3号),「喫煙」は「人が吸入するため,たばこを燃焼させ,又は加熱することにより煙(蒸気を含む。次号において同じ。)を発生させることをいう。」と定義されています(同条2号。ここでの「たばこ」には上記のとおり製造たばこ代用品が含まれます。)。葉たばこを原材料とする喫煙用製造たばこからの煙及び蒸気のみならず,カカオビーンズの皮やタンポポを原材料とする製造たばこ代用品からの煙及び蒸気も規制対象となるということは,要はニコチンの有無にかかわらずおよそ煙は健康に害があるので取り締まられねばならないということになるようです。PM2.5なども恐ろしいですからね。人前でわざわざ火をつけて煙を出すのはけしからんということなので,人のいるところでの焚火もしてはいけないのでしょう(関係する童謡も演奏・唱歌禁止ですね。)。焼肉焼鳥焼魚の煙はどうなるのでしょうか。今の時代,「(けぶ)(),国に満てり。百姓(おほみたから)(おの)づからに富めるか」などとのたまわれてしまうと困ってしまいます。

 

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 しかし,焼肉屋さんの焼肉は,煙が出ないのですね。
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