Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊)

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1 托鉢の聖(ひじり)

 前回(2014728日)の記事(「多摩地区の司法の中心である「聖」地・立川にちなんで」)においてお坊さんの托鉢に関し書くに当たり,一応の参考のためインターネットの記事をいろいろ見ていると,托鉢には免許証がいるのだ,という書き込みを散見しました。

 当該「免許証」の根拠規定は,国立国会図書館のウェッブ・サイトの「日本法令索引〔明治前期編〕」を調べれば分かるのですが,そうはいってもなかなかそれすらも面倒でしょうから,ここに書き写して紹介しておきます。「仏道各宗派管長」あての明治14年(1881年)8月15日内務省戊第2号達の「托鉢免許方并托鉢者心得」がそれです。内容は,次のとおり。

 


 一 托鉢ヲ免許セシトキハ左ノ雛形ニ照シ免許証ヲ交附シ其都度願者所在ノ地方庁ヘ通知シ東京ハ警視庁ヘモ通知スヘシ

 一 托鉢ヲ行フハ午前第7時ヨリ同第11時迄ヲ限リトス

   但遠路往返ノ為メ時間ヲ遷延スルハ非此限

 一 托鉢者ハ如法ノ行装ニテ免許証ヲ携帯シ行乞スルヲ常トス施者ノ請フアルニアラサレハ人家ニ接近シ濫リニ歩ヲ駐ムヘカラス且施物ハ施者ノ意ニ任セ敢テ余物ヲ乞ヲ許サス

 一 托鉢者ハ1列3人以上10人以下タルヘシ且公衆来往ノ便ヲ妨クヘカラス

 一 免許証ハ何時タリトモ警察官等ノ検閲ニ供スヘキモノトス

 


「雛形」を見ると,托鉢の免許証は,縦6寸横2寸の木製のもので,表面には,「托鉢免許之證」との記載と共に番号が記され,管長印が焼印されていました。

明治五年の教部省第25号達が托鉢を禁止したのは,托鉢僧が四六時中無統制に徘徊し,目をつけた人家の前に立ち止まっては喜捨せよと圧力をかけ,また,戸別訪問を試み,更に勝手に人家に上がり込み,施物についても「これでは足りぬ」などと図々しく強請することが目に余ったからでしょうか。

「托鉢者心得」が守られないときはどうなったかというと,同じ明治14年8月15日の府県あて内務省乙第38号達(「僧侶托鉢差許ニ依リ不都合ノ所業アルモノ処分方」)に次のようにありました。

 

・・・万一不都合之所業有之節ハ直ニ托鉢差止顛末詳細取調当省ヘ可申出此旨相達候事

 


「当省ヘ可申出」の部分は,明治19年(1886年)5月15日の内務省令第9号によって「該宗管長若クハ其地方取締ヘ通知スヘシ」に変更されています。

公衆の迷惑の除去・防止のために,不都合な托鉢の差止めはするものの,当該不都合之所業をした者のその後の処分は各宗派に任せるということでしょう。

当時における国家と仏教との関係については,次のとおり。

 


・・・明治の初年に一時神道及び仏教の宣布を以つて国家自身の事務と為し,宣教使又は教導職を置いて布教に当らしめたことは有つたが,明治17年(17811太政官布達19号)に神仏教導職を廃することとなつた後は,宗教の宣布は全く国家事務からは分離せらるるに至つたものである。〔しかし,〕大審院判例(大正7419,大正6125民)は右の太政官布達に寺院の住職を任免することは「各管長ニ委任シ」云々とあることを根拠として,住職の任免は国家から管長に委任せられたもので,現在に於いてもそれは国の行政事務の一部であるとする見解を取つて居る・・・(美濃部達吉『日本行政法 下巻』(有斐閣・1940年)564頁) 

 


なお,旧刑法(明治13年太政官布告第36号)の違警罪(同法13号。その主刑は拘留及び科料(同法9条))のカタログ(同法425条から429条まで)には,「こじきをし,又はこじきをさせた者」を罰する旨の規定(軽犯罪法122号参照)は見当たりません。

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2 悪魔の弁護人

 さて,徳高き,聖なる宗教家に対しては,刑事弁護は不要であるものかもしれません。(しかし,鑑定はともかく情状証人を頼もうにも,控訴しようにも,「わたくしは,知りません。」などと言って逃げたであろう石某という弟子(Pierre)には困ったものですね。)

 悪人にこそ,弁護人が必要なのでしょう。

 最近,部屋に取り散らされた古雑誌を片付けようとしていてふと読んでしまった記事Obituary: Jacques Vergès, The Economist, August 24th 2013, p.78によると,昨年の今月(20138月)15日に享年88ないしは89歳で死亡したフランスのジャック・ヴェルジェス先生(Maître)は,正に極悪人の刑事弁護で名高い弁護士でありました。

 


  彼のすべての依頼者も,拭いがたく彼の一部となっている,と彼は言った。ナチス親衛隊の大尉として341件の殺人又は人身移送の罪で起訴された「リヨンの虐殺者」クラウス・バルビー。フランス及びイスラエルに対する数多くのテロ行為に係る被告人,カルロス・ザ・ジャッカル。恐らく200万人の殺害を行ったカンボジアのクメール・ルージュ政権の名目上のトップであったキュー・サンファン。バーダー・マインホフ団〔西ドイツ赤軍〕のメンバー。だれでも依頼可能であった。彼は,セルビアの独裁者であったスロボダン・ミロシェヴィッチに弁護を申し出,サダム・フセイン弁護の準備をした。ヒトラー?もちろん。ジョージ・W・ブッシュの弁護もやぶさかではない,彼が有罪を認めるのならばね。乾いた微笑。

 


ヴェルジェス先生は,ヴェトナム人の母とフランス人の父との間に生まれました。不倫関係を隠すための父の工作により,生年月日は不明です(ただし,The Economistのこの訃報記事とは異なり,多くのウェッブ・ページはヴェルジェス先生の生年月日を,特段の留保なく192535日としています。)。「ろくでなし(salaud)」,「私生児(bastard)」と言われようと,銃弾を送り付けられようと,ヴェルジェス先生は一向に平気でした。

インド洋のレユニオンで育ち,若き弁護士として,1950年代にはフランス領のアルジェリアで,独立派のテロリストたちを弁護しました。1970年から1978年まで,ヴェルジェス先生は「鏡の向こう側に渡り」,その消息が途絶えます。カンボジアか,コンゴか,シリアか――ヴェルジェス先生はいずこの悪名高き政権の顧問弁護士をしていたものか?パリに戻って来たときには,戦いを経た相貌(battle-hardened),一文無し(penniless)。

Ruptureと呼ばれたヴェルジェス先生の法廷戦術は単純にして爆弾的でした。訴追者の糾弾。戦争です。

アルジェリアのフランス人たちは,アルジェリア人を差別し,不当な仕打ちをしているではないか。イスラエルによるパレスチナ人の抑圧に比べたら,カルロスの犯罪が何だ。我らのバルビーは善きクリスチャンだ,フランスのヴィシー政権こそいそいそとナチスに協力していたではないか。サダムが自国民を殺害したって?その武器は米国から供与されたものだ。

ヴェルジェス先生は過激な刑事弁護活動を展開しましたが,悪党たちを娑婆に戻すことはなかなかうまくはいきませんでした。しかし,ヴェルジェス先生は有名になりました。先生は,名声を大いに享受しました。2008年には自らを主人公とする戯曲を書き,パリのマデレーヌ劇場で自らその役を演じました。

憎むべきものどもを徹底して弁護したヴェルジェス先生は,いかにもヴェルジェス先生らしく,ヴォルテールの寝室で亡くなりました。(ヴォルテールは,1761年10月13日の晩に南仏トゥールーズの自宅兼店舗において死体で発見された息子に係る殺人の罪で1762年3月10日に同市で処刑された織物商ジャン・カラスの冤罪事件におけるカラス一家への支援が«Traité sur la tolérance» (1763) 等を通じて知られた有名人ですね。ただし,ジャン・カラスはユグノーではありましたが,憎むべき悪人ではありません。)

 


悪名は無名にまさる。

 


「実際のところ,彼の仕事の多くは地味なものであった。破産者,窃盗犯,小悪人どもの弁護。通常,弁護士報酬は受け取らなかった。」とThe Economistは伝えますが,無報酬で弁護活動ができるまでの資産を,ヴェルジェス先生はどうやって蓄財したのでしょうか。悪の黒光りするろくでなし(salaud lumineux)どもは,報酬もはずんでくれたものでしょうか。分厚い眼鏡をかけ, キューバ葉巻をくわえるヴェルジェス先生のオフィスには,かつて弁護したアフリカの独裁者たちからの贈り物がいっぱい飾ってあったそうです。

少なくともヴェルジェス先生には,次のような「弁護士の苦悩」は無縁だったことでしょう。

 


 最判昭36330刑集153688頁に現れた事例は,職務上の義務の締め木にかけられた弁護士の苦しみを推測させるケースである。この事件の被告人は,家庭不和のため養父母を殺害し,その後,犯人であることを隠すため別人になりすまそうとして,2回にわたり殺人を重ね,一審で死刑を言い渡された。控訴審の弁護人として国選された弁護士Aは,記録を閲覧しただけで控訴趣意書を執筆し,被告人の行為は「戦慄を覚ゆる」ものであり,死刑はやむをえないと述べ,控訴の理由はないと結論した。被告人は,右Aに対して,弁護人としての義務の懈怠を責め,損害賠償を求める民事訴訟を提起し,認められた(東京地判昭381128・・・)。被告人と面会してその言い分を聞いた上,控訴趣意書の作成について技術的な援助を与える必要があったと判示されている。(松尾浩也『刑事訴訟法(上)補正第三版』(弘文堂・1991年)220頁)

 


問題の損害賠償請求の民事訴訟事件に係る東京地方裁判所判決の約2年8箇月前に出された刑事訴訟事件に係る上記最高裁判所判決は「・・・記録を調べると,原審弁護人は,量刑の当不当,法令適用の正誤,事実誤認の有無,刑訴377条,383条関係等の各事項にわたり詳細に取り調べた上控訴の理由なしとしたものであり,また,被告人の控訴趣意は,量刑不当の主張のみであつて,原判決はこれにつき詳細に説示していることを認めることができるから,原審の訴訟手続には所論違法は認められない。その他記録を調べても,本件につき刑訴411条1号ないし3号を適用すべきものとは認められない。」と述べており,「詳細に取り調べ」ているねと,最高裁判所判事らはA弁護士を一見ほめているようでもあります。しかし,弁護士と裁判官とは違います。「Jのように書くな」とは,司法研修所における司法修習生の起案指導に際しての刑事弁護教官の定番評言ではなかったでしょうか。「記録の閲覧以外何らの調査もせず,また原告〔死刑判決を受けた被告人〕に接見することもなく,「原告の行為は戦慄をおぼえるもので控訴する理由はない」との控訴趣意書を提出し,公判期日でも,これに基づいて陳述しただけにとどまった。しかも,原告に右事実を知らせず,原告が控訴趣意書の書き方について教示を求めたにも拘らず,自分の方で処理する旨の返事をしただけであったため,原告は自己の控訴趣意書を提出しなかった。」(別冊ジュリ・刑事訴訟法判例百選(第六判)(1992年)236頁)というのは,確かにどうでしょう。「基本的に事後審たる控訴審においても,弁護人の調査範囲が訴訟記録外に及ぶべき場合があり,殊に訴訟記録上控訴理由が発見できなかった場合には,当然,法の認める例外的事実または事情の有無を考慮すべく,少なくとも被告人自身につき調査することが,弁護人の義務である。その結果,なお控訴理由が発見されない場合にも,控訴趣意書作成の技術的援助以上のことはできないことを告げて,被告人の善処を求めるべき義務がある。本件の場合,被告は,以上のような義務を尽くしていないから,損害賠償の責任を負う。」というのが,前記東京地方裁判所判決の概略です(上記別冊ジュリ・同頁)。

ヴェルジェス先生は,一般的には控訴理由等が発見できないであろう被告人ともまめに接見したようです。バルビーの獄房で「リリー・マルレーン」をmon capitaine(私の大尉)と一緒に歌ってやり,カルロス・ザ・ジャッカルとは余りにも接見回数が多かったため,カルロスのネットワークの一味ではないかとまで疑われたそうです(The Economist, ibid.)。

 


Ce mec, c’est moi. (こいつは,おれだ。)

 


 「弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努める。」(弁護士職務基本規程46条)

 


 


弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所

東京都渋谷区渋谷三丁目5‐16 渋谷三丁目スクエアビル2階

電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp


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1 多摩地区の司法の中心・立川

 裁判所の土地管轄上,東京都は東京地方裁判所及び東京家庭裁判所の管轄ですが,武蔵野市以西の多摩地区は,霞が関の本庁ではなく,各裁判所立川支部の管轄になります(なお,昔は,支部は八王子にありました。)。東京地方裁判所立川支部,東京家庭裁判所立川支部及び立川簡易裁判所の庁舎は,JR立川駅わきの立川北駅からモノレールで一駅の高松駅から歩いて少しのところにあります。JR立川駅から歩いていけない距離ではありませんが,夏の暑い盛りなどは,避けた方が賢明でしょう。汗で背広がクタクタになります。立川北・高松間のモノレール運賃は,片道100円です。なお,法テラス(日本司法支援センター)の多摩支部は,高松駅前ではなく,立川駅北口前にあります。

 弁護士として,立川を訪れる機会は少なくありません。


2 「聖」地・立川

 そんなある日,立川駅前で,車体に某人気ご当地漫画の主人公二人組が大きく描かれているバスを見かけました。

 「ああ,立川は,多摩地区の司法の中心であるばかりではなく,世界の宗教的にも,「聖」地の一つであるのであった。」

 とは,当該某漫画の読者としての感慨でしょう。

 他方,弁護士としては,当該某漫画の主人公二人を思うとき,次の二つの犯罪構成要件が気になりだしたところです。


 軽犯罪法1条 左の各号の一に該当する者は,これを拘留又は科料に処する。

  〔第1号から第21号まで略〕

  二十二 こじきをし,又はこじきをさせた者

  〔第23号から第34号まで略〕

 

 刑法234条 威力を用いて人の業務を妨害した者も,前条の例〔3年以下の懲役又は50万円以下の罰金〕による。


3 托鉢と軽犯罪法1条22

お坊さんの托鉢は,軽犯罪法1条22号にひっかからないのでしょうか。乞食(こつじき)自体が,そもそも仏教用語なのですよね。手元の『岩波国語辞典 第4版』(1986年)には,「こつじき(乞食)」とは,「〔仏〕僧が人家の門に立ち,鉢をささげ,食をこい歩くこと。托鉢。「乞食行脚」」とあります。

軽犯罪法の適用に当たっては,「国民の権利を不当に侵害しないように留意し,その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない。」との訓示規定が同法4条に定められています(下線は筆者)。しかし,托鉢者がインド人であって日本国民でない場合には,同条の適用はどうなるのでしょうか。殊更につらく当たられることはないのでしょうが。

無論,軽犯罪法違反の罪は拘留又は科料に当たる罪でしかありませんから,原則として,現行犯逮捕はされず(刑事訴訟法217条),逮捕状による逮捕もされないはずです(同法1991項ただし書)。しかし,「もしもし,お坊さん,お坊さんの住居はどこですか。」と托鉢行為を現認した警察官に問われて,「私は出家の身なので,定まった住居などありません。カピラヴァストゥは滅びました。」と答えられてしまうと,困りますね。定まった住居がないのならば,軽犯罪法違反でも身柄拘束あり得べしになってしまいます。立川市内にアパートを借りて住んでいるのなら,そう言ってくれなくては困ります。

軽犯罪法1条22号は,仏教を弾圧するための条項なのでしょうか。

乞食(こつじき)は,大日本帝国憲法28条にいうところの「安寧秩序ヲ妨ケ」又は「臣民タルノ義務ニ背」く行為であって,保護される信教ノ自由の範囲外にあったものでしょうか。大日本帝国憲法28条の「臣民タルノ義務」については,その最も著しいものとして,「国家及び皇室に忠順なる義務及び之に伴うて国家及び皇室の宗廟たる神宮,歴代の山陵,皇祖皇宗及び歴代の天皇の霊を祭る神社等に対し不敬の行為を為さる義務」が挙げられ,「その外兵役義務,国民教育を受くる義務等」があるとされていましたが(美濃部達吉『逐条憲法精義』(有斐閣・1927年)399-400頁),托鉢は,「此等の義務を否定し,之を排斥する」までのもの(同400頁参照)だったのでしょうか。なかなかそこまでは行かないように思われます。また,「安寧秩序」は,「社会的秩序」の意味であるとされています(美濃部400頁)。しかるにそもそも,「わが現時の国法に於いて,国家と特別の関係に在るものは・・・仏教各宗である。・・・多年わが国家及び皇室と密接の関係の有つた歴史に基いて,今日に於いても国家は之に特別の保護を与へ, 随つて又之に特別の監督を加へて居る。就中・・・仏教各宗の管長は,勅任待遇の特典を受けて居る」ところであったものです(美濃部403頁)。明治の初めに廃仏毀釈運動があったとはいえ(明治五年十一月九日の府県あて教部省第25号達は「自今僧侶托鉢之儀禁止候事」とした。),仏教弾圧は,かえって我が国の社会秩序を乱すことになりかねないものではないでしょうか(明治14年8月15日内務省甲第8号布達は上記明治五年教部省第25号達を廃止し, 托鉢者に管長の免許証の携帯を求めることとした。「不都合之所業」があれば托鉢差止め及び所属宗派に通知(明治14年内務省乙第38号達・明治19年内務省令第9号)。)。聖徳太子の憲法の第2条にいわく,「篤く三宝を敬へ。三法とは仏法僧なり。即ち四生之終帰,万国之極宗なり。・・・」なお,軽犯罪法の前身(同法附則2項参照)である警察犯処罰令(明治41年内務省令第16号)の第2条2号は,「乞丐ヲ為シ又ハ為サシメタル者」は30日未満の拘留又は20円未満の科料に処せられるものとしており,そこでは「乞食」ではなく「乞丐(きっかい)」の文字が用いられていました。「丐(かい)」も請い求めるとの意味であり,また,乞丐は仏教用語ではないようです。

乞食(こつじき)行為と乞丐又は「こじき」行為とは異なるものと解さなければなりません。

両者を分別するものは,いかなる要件でしょうか。

ここで,軽犯罪法に関する各種の解説書を見ると,「こじき」行為においては相手方が憐れみないしは同情から金品を与えるものである,という理解がされているようです。


 こじきとは,不特定の他人に憐れみを乞い,自己または自己が扶養する者の生活のために必要な金品を,無償またはほとんどこれに近い名目的な対価で得ようとする行為をいう。(安西溫『特別刑法〔7〕』(警察時報社・1988年)166頁。下線は筆者)


なるほど,いかにも修行を積んだ御様子のお坊さまが堂々と托鉢をしているのを見ると,そこに生ずる感情は憐れみや同情ではなく,むしろ徳の高さのありがたさに感極まって思わず喜捨をしてしまうわけです。このように高々とした托鉢行為は,「こじき」行為ではありません。(なお, 警察犯処罰令2条1号は「喜捨ヲ強請」することを処罰していました。喜捨を受けるお坊さんは威張っていたのですね。)ということはすなわち,「こじき」行為による法益侵害によって生ずる状態とは,憐れみや同情を感ずることであって,これは換言すると,自らの窮状を言い募り,あるいは顕示して不特定者に憐れみや同情を感じさせることは,違法な法益侵害行為であるというわけですね。

Bettler aber sollte man ganz abschaffen! Wahrlich, man ärgert sich ihnen zu geben und ärgert sich ihnen nicht zu geben. (乞丐は禁止せらるべきなりき!まことに彼らに施すも不快,施さざるも不快である。)

ところで,

「同情するなら金をくれ。」

という発言は,どのように理解すべきでしょうか。

同情した上で金をくれ,というのならば,「こじき」行為を指向するものでしょう。

同情なんかする必要はない,とにかく金をよこせ,というのならば,「こじき」行為ではないものでしょう。


4 威力業務妨害罪の被疑者及びその弁護



(1)威力業務妨害罪及び保護される業務

さて,神殿の境内でにぎやかにお供え物販売等の商売をしていたおじさんたちを泥棒呼ばわりしつつ追い払い,またおじさんたちの出店の設備をひっくり返す行為は,威力業務妨害罪(刑法234条)に該当するようです。

「神聖な境内で卑しい商売をすることは神殿の目的外利用であって,彼らの商売行為は違法だったのです。私は,彼らによってもたらされた違法状態を取り除いただけなのです。」

と主張することになるのでしょうが,我が司法当局を説得できるかどうか。


 〔業務妨害罪によって保護される〕業務とは,職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務または事業をいう(大判大正101024刑録27643頁)。・・・業務は,刑法的保護に値するものであれば足り,適法であることを要しない。たとえば,知事の許可を得ていない湯屋営業(東京高判昭和2773高刑571134頁),行政取締法規に違反したパチンコ景品買入営業(横浜地判昭和61218刑月181=2127頁)についても本罪が成立する。・・・当該業務の反社会性が本罪による保護の必要性を失わせる程度のものであるか否かを基準とすべきであろう。(西田典之『刑法各論〔第3版〕』(弘文堂・2005年)112頁)


境内でのおじさんたちの商売は,社会的に受け容れられていたものなのですから,よその国の律法ではともかく,我が日本刑法の保護を受けないものとはいい難いところです。


(2)逮捕に基づく留置及びアメリカ法との相違

威力業務妨害罪の法定刑には懲役があり,また,罰金の多額は30万円を超えていますから,急を聞いて駆け付けた警察官によって,なおも荒ぶる我らの主人公は,すんなり現行犯逮捕されることでしょう(刑事訴訟法217条参照)。

逮捕された我らの主人公は,司法警察員から犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができることを告げられた上,弁解を聴取されることになります(憲法34条前段,刑事訴訟法216条・2031項)。現行犯ですから犯罪の嫌疑は十分であり,今までしていた仕事を辞めて田舎から都までやってきた30代前半の独身男性であって逃亡のおそれもありそうですから留置の必要(「犯罪の嫌疑のほか,逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれ等(最判平838民集50-3-408)」(松本時夫=土本武司編著『条解刑事訴訟法〔第3版増補版〕』(弘文堂・2006年)346頁))があると思料され,直ちに釈放されること(刑事訴訟法2031項参照)はないでしょう。

逮捕による身柄拘束期間中においては(警察官に逮捕されたときは,逮捕時から72時間以内に検察官から裁判官に勾留の請求がされなければ釈放されることになっています(刑事訴訟法205124項)。当該請求があって,裁判官の被疑者に対する勾留質問(同法2071項,61条)を経て裁判官から勾留状が発せられ(同法2074項),当該勾留状が執行されると,被疑者の身柄拘束は,逮捕されている状態から「勾留」されている状態に移行します。),我らの主人公と接見交通できるのは,弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(同法391項)だけです(同法209条は同法80条を準用せず。)。家族・友人がどんなに心配しても,弁護士ならぬ身であれば,逮捕に基づき留置されている被疑者に会うことはできないわけです。勾留に移行すれば,「弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」以外の者も被疑者と接見できるのですが(刑事訴訟法80条),なかなか直ちには逮捕から勾留に移行しません。


・・・〔米国の〕統一逮捕法では,「なるべくすみやかに,おそくとも24時間以内に」裁判官に引致しなければならないのである。わが法は,「なるべく速やかに」の語がないため,72時間は当然に留置できるかのように解釈し,運用されている。なお,英米法では,逮捕は裁判官に引致するためのものであるが,わが法の勾留請求は,逮捕の結果当然になされる処置ではなく,新たな処分である。逮捕は,捜査機関のところに72時間以内留置されるために行われるのである。したがって,英米法の逮捕とわが法の逮捕とは,全く性質を異にするものとなっている。(平野龍一『刑事訴訟法』(有斐閣・1958年)99頁)


 この72時間の間,「被疑者の地位は著しく危うくなっている。」わけです(平野98頁)。

 なお,「アメリカでは逮捕後,裁判官のもとへ引致されると直ちに保釈されうる」ものとされていますが(田宮裕『刑事訴訟法〔新版〕』(有斐閣・1996年)260頁。また,松尾浩也『刑事訴訟法(上)補正第三版』(弘文堂・1991年)194頁),我が刑事訴訟法の場合,起訴前の被疑者(起訴後の被告人ではないことに注意)勾留の段階では,保釈金を積んで釈放してもらう保釈制度の適用はありません(同法2071項ただし書)。我が国で起訴前保釈が認められないのは「被疑者の勾留期間が短いためだとされるが(団藤・綱要321頁),10日ないし20日という期間・・・は,短いものではない」ことから,「保釈を許さないのは,捜査が糺問手続であり,勾留を被疑者取調のため,ないし被疑者と外界との遮断のために用いることを暗に認めたもので,供述の強要を禁止した憲法の趣旨にも合致しないといわなければならない。」と批判されています(平野102頁)。また,そもそも,英米法では,勾留の必要として認められているのは「逃亡のおそれだけ」であるそうですから(平野100頁),「保釈金を没取するという威嚇によって,被告人の出頭を確保しようとする」保釈の制度(同161頁)によってしかるべく身柄解放がされやすいようです。これに対して我が国では,大陸法式に罪証隠滅のおそれも勾留の必要として認めているところ,「保釈は・・・罪証隠滅の防止を目的とする勾留には代りえない」ことになるわけですから,保釈が制限されてしまうことになります(平野100頁,164頁)。

 逮捕された被疑者の裁判官のもとへの速やかな引致が米国連邦法で求められている結果,「アメリカ合衆国の連邦裁判所では,いわゆるマクナブ・ルールがあり,引致が遅滞すればその間の自白を証拠から排除する(McNabb v. U.S. (1943)に由来する)」ものとされています(松尾61頁)。マクナブ事件においては,テネシー山間部でウィスキーの密売などしていたマクナブ一族に対して,連邦内国歳入庁の捜査官が密売現場に手入れに入ったところ捜査官のうち一名が殺害され,これについて双子の兄弟フリーマン及びレイモンド並びにいとこのベンジャミンがそれぞれ捜査段階における自白に基づき下級審で有罪とされていました。米国連邦最高裁判所のフランクファーター判事執筆に係る多数意見におけるさわりの部分は,次のとおり。


 …Freeman and Raymond McNabb were arrested in the middle of the night at their home. Instead of being brought before a United States Commissioner or a judicial officer, as the law requires, in order to determine the sufficiency of the justification for their detention, they were put in a barren cell and kept there for fourteen hours. For two days, they were subjected to unremitting questioning by numerous officers. Benjamin’s confession was secured by detaining him unlawfully and questioning him continuously for five or six hours. The McNabbs had to subject to all this without the aid of friends or the benefit of counsel. The record leaves no room for doubt that the questioning of the petitioners took place while they were in the custody of the arresting officers and before any order of commitment was made. Plainly, a conviction resting on evidence secured through such a flagrant disregard of the procedure which Congress has commanded cannot be allowed to stand without making the courts themselves accomplices in willful disobedience of law. Congress has not explicitly forbidden the use of evidence so procured. But to permit such evidence to be made the basis of a conviction in the federal courts would stultify the policy which Congress has enacted into law…

 (・・・フリーマン・マクナブ及びレイモンド・マクナブは,真夜中,彼らの家において逮捕された。法律によって要求されているように,彼らの抑留に十分な理由があるかどうかを判断するために合衆国の理事官又は司法官憲のもとに引致される代わりに,彼らは粗末な獄房に投ぜられ,そこに14時間留め置かれた。二日間にわたって,彼らは多数の捜査官による間断のない取調べに服せしめられた。ベンジャミンの自白は,彼を違法に抑留し,5ないし6時間にわたって取り調べることによって得られたものである。マクナブ一族は,これらすべてに,友人からの支援及び法的助言の利益なしに服さしめられた。申立人らの取調べが,逮捕した捜査官のもとに留置されている時に,彼らを拘禁する何らの裁判もされない段階でされたことについては,記録上,何らの疑いもない。連邦議会が定めた手続に係るあからさまな無視によって獲得された証拠に基づく有罪判決が維持されるということは,裁判所自身を,法に対する意図的な不服従に係る共犯者とすることなしには不可能であることは明白である。連邦議会は,そのようにして獲得された証拠を用いることを明示的には禁じてはいない。しかしながら,そのような証拠を,連邦裁判所において有罪判決の基礎とすることを許すことは,連邦議会が法律化した政策を台無しにするものである・・・)


市民及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年条約第7号)9条3項は「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は,裁判官又は司法権を行使することが法律によつて認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし,妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する。裁判に付される者を抑留することが原則であつてはならず,釈放に当たつては,裁判その他の司法上の手続のすべての段階における出頭及び必要な場合における判決の執行のための出頭が保証されることを条件とすることができる。」と規定しています。

田宮裕教授の著書において,勾留に係る「逮捕前置主義」について,「私見によれば「拘束したら裁判官のところへつれていく」という近代法原理にそうべく,裁判官の審問たる勾留質問(61条)と逮捕を結びつけて,「裁判官への予備出頭のための引致」という形を整えたものだと思う。」と述べられていますが(田宮84頁),これは勾留のために逮捕前置主義が採られているのだというよりも,逮捕の近代法原理適合性を確保するために逮捕について「勾留質問後置主義」が採られているのだということでしょう。

閑話休題。


(3)被疑者に対する弁護人の援助の確保

逮捕段階ですから,弁護士ならざる家族・友人らは我らが主人公に接見してaid of friends(友人からの支援)を与えることはできないにしても,弁護士によるbenefit of counsel(法的助言の利益)は,どうしたら得ることができるでしょうか。

なお,接見交通の機能としては,次のようなことが挙げられています。


・・・①まず,身柄を拘束された被疑者は外界と遮断されているので,自由に交通できる弁護人が外界との窓口となりうる。・・・その結果,心理的安定により市民としての自己回復ができる。②つぎに,継続的な取調べによる不当なプレッシャーを回避させるという意義をもつ。つまり,黙秘権を中心とした適正手続の担保である。③さらに,弁護人と相談することにより,被疑者側の「訴訟準備」が可能になる。つまり,依頼人としての打合わせの確保である。(田宮142143頁)


ア 当番弁護士

弁護士の知り合いがいない場合であっても,「当番弁護士を呼んでください。」と被疑者から警察官,検察官若しくは裁判官に言うか,又は家族から地元の弁護士会に依頼することができます。要請があれば,弁護士会から当番弁護士が,1回無料で接見にやって来て,相談に応じてくれます。

しかし,当番弁護士が無料で接見して相談に応じてくれるのは1回限りなので,更に弁護人による援助を受けようとすれば,弁護士を弁護人として選任しなければなりません。


イ 被疑者国選弁護制度及びその範囲

「あの,国選弁護っていう制度があるそうですけれど,国選弁護人は頼めませんか。」

という質問もあるかと思われますが,実は,逮捕段階の被疑者に国選弁護人を付ける制度はいまだありません。

まず,憲法37条3項は「刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する。」と規定していますが,これは「被告人」の権利に関する規定であって,公訴を提起される前の「被疑者」には直接適用されません(被疑者の国選弁護制度を設けるか設けないか,設けるとした場合その範囲はどうするかは国会が裁量で決めることができるということです。)。

 とはいえ現在,刑事訴訟法は,被疑者のための国選弁護の制度を導入してはいます。


 37条の2 死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留状が発せられている場合において,被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは,裁判官は,その請求により,被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし,被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合又は被疑者が釈放された場合は,この限りでない。

   前項の請求は,同項に規定する事件について勾留を請求された被疑者も,これをすることができる。


 読みづらいですね。被疑者に国選弁護人を付する制度が存在することが分かるでしょうか。ただし,逮捕されて留置されている被疑者であっても,検察官が勾留請求をするまでは国選弁護人を付けるように請求をすることはできず,また,勾留請求がされ,勾留状が発せられても,一定以上の重い罪に係る事件の被疑者でなければ,これまた国選弁護人を付けるように請求することはできないというのが,現在の制度です。


ウ 弁護人の私選及び私選弁護人の報酬(の一応の)相場

 要は,逮捕段階で弁護人を付けるには,国選弁護制度がないので,私選しなければならないのです。

 選任権者は,被疑者のほか,被疑者の法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹です(刑事訴訟法30条)。「弟子」は選任権者になりません。内縁の妻でも駄目です(松本=土本43頁)。

いずれにせよ,刑事弁護を依頼するとなれば最も気になり,かつ,機微に触れるのが弁護士報酬の問題です。どれくらいかかるものでしょうか。これについては,


 刑事弁護は事案によってかかる時間や労力,大変さはさまざまであり,弁護料の相場を出すのは難しい。東京三弁護士会が当番弁護士のために示している標準を示すと,次のとおりである(依頼者の資力や事案の性質によって変動することはありうる)。

①被疑者段階の弁護活動の着手金として15万円

②公判請求されなかった場合(不起訴・略式命令)は報酬金として30万円

③公判請求された場合は,起訴後第一審判決までの弁護活動の着手金として30万円

④第一審判決による報酬金として30万円


と紹介するものがあります(『刑事弁護ビギナーズ(季刊刑事弁護増刊)』(現代人文社・2007年)43頁)。上記の額に消費税額が加算されます。無論,飽くまでも目安です。事件の難易度,弁護活動の内容,依頼者の資力等により,上記の額よりも安い額での契約も当然あり得ます。


エ 我らが主人公の窮状

 我らが主人公はお金が無いようなので,ちょっと私選による弁護人の依頼は無理でしょうか。

 しかし,勾留段階に至っても,我らの主人公は被疑者国選弁護制度を利用することができないようです。実は威力業務妨害罪の法定刑の上限が懲役3年であって3年を超えていないため,我らの主人公が「貧困」であっても刑事訴訟法37条の2第1項本文の場合に該当しないからです。



オ 刑事被疑者弁護援助制度

 この場合であっても,なお,弁護士と相談して,「刑事被疑者弁護援助制度」という制度を利用する方法が残されています。かつては(財)法律扶助協会が運営していましたが,現在は法テラスが委託を受けて運営している制度です(逮捕段階から利用可能)。ただし,審査の結果,被疑者に弁護費用償還義務があるものとされる場合があります。 (ちなみに,刑事訴訟法1811項は「刑の言渡をしたときは,被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。但し,被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは,この限りでない。」と規定し,刑事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第41号)23号は国選弁護人に支給すべき旅費,日当,宿泊料及び報酬を刑事の手続における訴訟費用に含めていますが,「現在の実際的運用では,特段の資産もなく,職をもっていてもさほど高い給料を得ていないような被告人であれば,弁護人が私選の場合には別として,貧困と認められ訴訟費用の負担を命じられないことになるのが通常といってよいようである。」とされています(松本=土本300頁)。)


(4)刑事弁護活動の一例:ある保釈請求成功例

 最近,我らが主人公同様に,弁護人を私選するだけの資力がないが,事件が被疑者国選弁護人を付してもらえるほど重いものではない(法定刑が,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)ものであった被告人の国選弁護人を務めましたが,保釈許可を得ることができ,かつ,執行猶予付き判決であったので,「これが起訴前の被疑者段階から弁護人がついていたのなら,そもそも起訴猶予ということで公訴を提起されずに済んだかもしれないし,公訴が提起されても,実際の保釈より2週間は早く保釈されていただろうな。」とかえって気の毒に思ったものです。

 起訴猶予(刑事訴訟法248条)の可能性についてはともかくも,保釈についてですが(保釈は,起訴されて被告人になってから可能になります。),実は,上記国選弁護人の選任は当該被告人の起訴の日から起算して13日目であって,ここで既に12日の遅れが生じていました。弁護人は,急ぎ同日警察署内の留置施設で被告人と第1回接見をし,翌14日目に検察庁で証拠の閲覧・謄写,事件の現場確認及び被告人の家族との面談を行い,15日目(金)には小菅の東京拘置所で第2回接見を行って公判対応の方針決定,翌週保釈請求をする運びとしたところです。(ちなみに,警察署の留置施設の方が近くて,接見をする側からすると便利なところもあるのですが,居住環境や特に食事は,遠いながらも小菅の方がよいそうです。)16日目(土)には,身元引受人となる被告人の奥さんに会って,身元引受書を作成してもらうとともに(ちなみに,旧刑事訴訟法118条は「裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ勾留セラレタル被告人ヲ親族其ノ他ノ者ニ責付・・・スルコトヲ得/責付ヲ為スニハ被告人ノ親族其ノ他ノ者ヨリ何時ニテモ召喚ニ応シ被告人ヲ出頭セシムヘキ旨ノ書面ヲ差出サシムヘシ」と規定していました。身元引受人及び身元引受書は,同条由来の伝統でしょうか。なお,責付とは,「勾留状の執行を停止すると同時に被告人を其の親族又は其の他適当の者に引渡すことを謂ふ。此の制度は徳川時代に於ける「お預け」(親類預け,五人組預け等)の制度に其の源を有する。」とされています(小野清一郎『刑事訴訟法講義 全訂第三版』(有斐閣・1933年)252頁)。),併せて裁判官に提出する奥さんの上申書の内容を一緒に考えました。17日目(日)には休日ながらも事務所で保釈請求書の起案,18日目(月)は早朝5時に起きて午前7時に奥さんと会って,手書きでしたためられた上申書を受け取り,更に保釈請求書に最後の推敲をして,午前1015分ころ東京地方裁判所刑事第14部に書類一式を提出しました。窓口の書記官の説明では,翌19日目が国民の祝日であるため,検察官の意見(刑事訴訟法921項)は20日目又は21日目に出,裁判官面接は検察官の意見が出た翌日になるだろうということであったため,「国民の祝日」を恨めしく思ったものですが(201454日付け記事参照),休日明けの20日目(水)の午後に裁判官から弁護人に「電話面接」があってそれから1時間もたたずして保釈許可決定が出,21日目(木)の午前に虎ノ門の銀行で大金をおろして11時過ぎに東京地方裁判所出納二課に保釈金納付,1133分に刑事第14部の窓口で手続を終了することができました。同日1233分に東京拘置所に電話をかけるともう釈放手続が始まっているということで,被告人の家族に「早く迎えにいかねば。」と連絡,14時ころめでたく釈放となりました。保釈請求書を提出してから実質3日目に釈放になったわけです。すなわち,当該被告人のそもそもの起訴があったのは金曜日だったのですが,起訴前から保釈請求の準備をしておいて遅くとも翌週月曜日(起訴日から4日目)の朝に保釈請求書を提出していれば,起訴から6日目の水曜日には釈放され得ていた計算になります。「弁護士がいるいない,弁護士が仕事をするしないで,随分違いがあるものだね。」と思ったものです。

 今月(20147月)151343分に日本経済新聞のウェッブ・サイトに掲載された記事(「連絡ミスで保釈3日遅れる 大阪地裁」)によると,「被告は5月に逮捕・起訴され,地裁が6月12日に保釈を認める決定を出した。被告は13日に保釈金を納付したが,地裁の担当書記官が担当の部に連絡せず,保釈金が納付されたことが地検に伝わらなかった。/保釈されないことを不審に思った弁護人が地裁に指摘し,手続きミスが発覚。3日後の6月16日に釈放され,地裁は被告に謝罪と経緯の説明をした。・・・」という事件が大阪地方裁判所であったそうですが,この被告人は,気にしてくれる人がよっぽど少なかった人物だったものでしょうか。(なお,保釈される「被告人は,その日のうちに釈放されるが,帰宅のための交通費さえ所持していないという場合や,家族のもとに帰ろうとしない場合もあるから,弁護人としては,拘置所に出迎えるなり,家族・友人に連絡するなど,きめ細かな配慮を要することもある」とされています(松尾261頁)。)それとも,「まだ釈放されていないんですか。」という執拗な問い合わせにもかかわらず,よっぽど巧妙な「蕎麦屋の出前」的な言い訳がされ続けたものでしょうか。ちょっと不思議です。


(5)再び我が主人公について

 ところで,われらが主人公の保釈の見込みですが,権利保釈の除外事由中,刑事訴訟法89条5号(「被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。」)に引っかかるのではないかと心配されるところです。我らが主人公は,何とわずか一人で境内の大勢の商売人のおじさんたちを追い出し,かつ,荒ぶっていたといいますし,以前は家業の建築関係の肉体労働に従事していたといいますから,たくましい筋骨の持ち主であって,必ずしもやさ男ではないようです。おじさんたちは,やはり怖くて逃げたのでしょう。

 さらに権利保釈の除外事由中問題になるのは,刑事訴訟法89条2号(「被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。」)です。確かに我らが主人公は,かつて,死刑の判決及びその執行まで受けています。しかし,刑の消滅(刑法34条の2)の場合は,同号の適用はないものとされています(松本=土本156頁)。


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弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所(渋谷区代々木一丁目572号ドルミ代々木1203

電話:0368683194

電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp

(読者の方が被疑者・被告人になられることはないでしょうが,念のため,弊事務所をお見知りおきください。)


 



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