Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊)

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1 象徴的役割にふさわしい待遇を求める憲法的規範とそれに対する横着者の発言

 

 憲法は,「天皇は,日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて,この地位は,主権の存する日本国民の総意に基く」(1条)と規定する。「象徴」とは,無形の抽象的な何ものかを,ある物象を通じて感得せしめるとされる場合に,その物象を前者との関係においていうものである。鳩が「平和」の,ペンが「文」の象徴とされるがごときがその例である。したがって,この「象徴」は元来社会心理的なものであって,それ自体としては法と関係を有しうる性質のものではない。にもかかわらず,「象徴」関係が法的に規定されることがあるのは,基本的には,右の社会心理の醸成・維持を願望してのことである。・・・

  日本国憲法が天皇をもって「日本国」「日本国民統合」の「象徴」とするのも,基本的には右のような意味において理解される(ここに「日本国の象徴」と「日本国民統合の象徴」とある点については諸説があるが,前者は一定の空間において時間的永続性をもって存在する抽象的な国家それ自体に関係し,後者はかかる国家を成り立たしめる多数の日本国民の統合という実体面に関係していわれているものと解される)。・・・ただ,ここで「象徴」とされるものは,国旗などと違って人格であるため,その地位にあるものに対して象徴的役割にふさわしい行動をとることの要請を随伴するものとみなければならず,また,そのような役割にふさわしい待遇がなされなければならないという規範的意味が存することも否定できないであろう。・・・(佐藤幸治『憲法〔第三版〕』(青林書院・1995年)238239頁。なお,下線は筆者によるもの)

 

憲法的規範として,①象徴たる天皇の側においては「象徴的役割にふさわしい行動」をとるよう自制せられることが要請されており,②他方,国民の側においては「そのような役割」すなわち象徴的役割に「ふさわしい待遇」を 天皇に対してなすことが当然求められているということでしょう。しかしながら,あさましいことには,象徴的役割にふさわしい待遇をなし申し上げるのを面倒臭がる横着者もいるもののようです。

 

「都に,王と云ふ人のましまして,若干(そこばく)の所領をふさげ〔多くの所領を占有し〕内裏(だいり),院の御所と云ふ所のありて,馬より()るるむつかしさよ〔うっとうしさよ〕。もし王なくて(かな)ふまじき道理あらば,木を以て作るか,(かね)を以て()るかして,生きたる院,国王をば,いづくへも皆流し捨てばや」(兵藤裕己校注『太平記(四)』(岩波文庫・2015年)280頁・第二十七巻7(なお,この岩波文庫版は西源院本を底本とする。))

 

2 皇室費,皇室用財産等

 「若干(そこばく)の所領をふさげ,内裏(だいり),院の御所と云ふ所のありて」についての不平は,毎年度の国の予算に皇室の費用が計上され憲法88条後段。皇室経済法(昭和22年法律第4号)3条は「予算に計上する皇室の費用は,これを内廷費,宮廷費及び皇族費とする。」と規定),その額が約62億円となること(宮内庁のウェッブ・サイトによると,皇室費の平成29年度歳出概算要求額は合計6238百万円です。内訳は,内廷費が3億24百万円,宮廷費が5684百万円,皇族費が2億30百万円です。そのほか平成28年度末の予算定員が1009人である宮内庁の宮内庁費が11157百万円要求されていますが,これは大部分人件費です。),国有財産中に「国において皇室の用に供し,又は供するものと決定したもの」である行政財産たる皇室用財産(国有財産法(昭和23年法律第73号)3条2項3号)が存在することなどについてのものでしょうか。

 

(1)内廷費

 皇室経済法4条1項は「内廷費は,天皇並びに皇后,太皇太后,皇太后,皇太子,皇太子妃,皇太孫,皇太孫妃及び内廷にあるその他の皇族の日常の費用その他内廷諸費に充てるものとし,別に法律で定める定額を毎年支出するものとする。」と規定し,当該定額について皇室経済法施行法(昭和22年法律第113号)7条は,「法第4条第1項の定額は,3億2400万円とする。」と規定しています(平成8年法律第8号による改正後)。「内廷費として支出されたものは,御手元金となるものとし,宮内庁の経理に属する公金としない」ものとされています(皇室経済法4条2項)。また,内廷費及び皇族費として受ける給付には所得税が課されない旨丁寧に規定されています(所得税法(昭和40年法律第33号)9条1項12号)。
 ちなみに,宮中祭祀は「純然たる皇室御一家の祭祀であつて,皇室の家長たる御地位に於いて天皇の行はせらるる所であり,国家とは何等の直接の関係の無いもの」となっているところ(美濃部達吉『改訂憲法撮要』(有斐閣・1946年)555頁),天皇の祭祀に関与する「内廷職員とよばれる25名の掌典,内掌典は,天皇の私的使用人にすぎない」のですから(村上重良『天皇の祭祀』(岩波新書・1977年)214頁),その報酬は内廷費から出るわけです。なお,今上天皇即位の際の大嘗祭(1990年)の費用は内廷費からではなく後に説明する公金たる宮廷費から出ていますが,大嘗祭は「皇室の宗教上の儀式」ということですから理由付けは難しく,「その際,皇位世襲制を採用する憲法のもとで皇位継承にあたっておこなわれる大嘗祭には,公的性格がある,と説明された(即位の礼準備委員会答申に基づく政府見解)。ここでは,政教分離違反の問題が生じないというための大嘗祭の私事性と,それへの公金支出を説明するための「公的性格」とを,皇位世襲制を援用することによって同時に説明しようと試みられている。」と指摘されています(樋口陽一『憲法Ⅰ』(青林書院・1998年)124頁)。
 内廷費の定額は1947年当初は800万円でしたが,その内訳については,「御内帑金,これは御服装とかお身の回りの経費でございますが,その御内帑金が約50%,皇子の御養育費が約5%,供御供膳の費用,これはお食事とか御会食の経費でございますが,その供御供膳の経費が約10%,公でない御旅行の費用が約17%,お祭りの費用,用度の費用が残りというような説明がなされていた」とされています(第136回国会衆議院内閣委員会議録第3号3頁(角田素文政府委員(皇室経済主管)))。 

 

(2)皇族費

 内廷費の対象となる皇族以外の皇族に係る皇族費は,皇室経済法6条1項の定額が皇室経済法施行法8条において3050万円となっていますので(平成8年法律第8号による改正後),独立の生計を営む親王については年額3050万円(皇室経済法6条3項1号),その親王妃については年額1525万円(同項2号本文),独立の生計を営まない未成年の親王又は内親王には年額305万円(同項4号本文),独立の生計を営まない成年の親王又は内親王には年額915万円(同号ただし書),王,王妃及び女王に対してはそれぞれ親王,親王妃及び内親王に準じて算出した額の10分の7に相当する額の金額(同項5号)ということになります(なお,親王,内親王,王及び女王について皇室典範(昭和22年法律第3号)6条は,「嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は,男を親王,女を内親王とし,3世以下の嫡男系嫡出の子孫は,男を王,女を女王とする。」と規定)。部屋住みの成年の王又は女王には,年額640万5千円という計算です。皇族費も,御手元金となり,宮内庁の経理に属する公金とはされません(皇室経済法6条8項)。
 1996年当時の国会答弁によると,各宮家には平均5人程度の宮家職員が雇用されており,給与は国家公務員の給与に準じた取扱いがされ,一般企業の従業員と同様に社会保険・労働保険に加入して事業主負担分については皇族費から支弁がされています(第136回国会衆議院内閣委員会議録第3号5頁(森幸男政府委員(宮内庁次長)))。
 なお,内廷費及び皇族費の定額改定は,1968年12月に開催された皇室経済に関する懇談会(皇室経済会議の構成員に総理府総務長官を加えた懇談会)において,物価の上昇(物件費対応)及び公務員給与の改善(人件費対応)に基づいて算出される増加見込額が定額の1割を超える場合に実施するという基本方針(「原則として,物価のすう勢,職員給与の改善その他の理由に基づいて算出される増加見込額が,定額の1割をこえる場合に,実施すること」)が了承されています(第136回国会衆議院内閣委員会議録第3号4頁・同国会参議院内閣委員会会議録第3号2頁(
角田政府委員))。 

 

(3)宮廷費及び会計検査院の検査

 宮廷費は,「内廷諸費以外の宮廷諸費に充てるものとし,宮内庁で,これを経理」します(皇室経済法5条)。宮廷費は宮内庁の経理に属する公金であるので,会計検査院の検査を受けることになるわけです。会計検査院法(昭和22年法律第73号)12条3項に基づく会計検査院事務総局事務分掌及び分課規則(昭和22年会計検査院規則第3号)の別表によると,宮内庁の検査に関する事務は会計検査院事務総局第一局財務検査第二課が分掌しているところです。平成21年度決算検査報告において,宮廷費について,「花園院宸記コロタイプ複製製造契約において,関係者との間の費用の負担割合を誤ったなどのため,予定価格が過大となり契約額が割高となっていたもの」8百万円分が指摘されています。

 これは,花園天皇に関する狼藉というべきか。しかし,才なく,徳なく,勢いがなくなれば,万世一系といえどもあるいは絶ゆることもあらんかと元徳二年(1330年)二月の『誡太子書』において甥の量仁親王(光厳天皇)に訓戒していた花園天皇としては,宮廷費に一つ不始末があるぞと臣下が騒いでもさして動揺せらるることはなかったものではないでしょうか。「余聞,天生蒸民樹之君司牧所以利人物也,下民之暗愚導之以仁義,凡俗之無知馭之以政術,苟無其才則不可処其位,人臣之一官失之猶謂之乱天事,鬼瞰無遁,何況君子之大宝乎」。また更に「而諂諛之愚人以為吾朝皇胤一統不同彼外国以徳遷鼎依勢逐鹿・・・纔受先代之余風,無大悪之失国,則守文之良主於是可足・・・士女之無知聞此語皆以為然」,「愚人不達時変,以昔年之泰平計今日之衰乱,謬哉・・・」云々。唐土の皇帝らとは異なっているので何もせずとも代々終身大位に当たってさえおれば我が国の万世一系は安泰だと奏上するのは諂諛(てんゆ)之愚人で,そうか安泰なのかと思わされるのは士女之無知だ,必要な才がないのであればその位におるべからず,時変・衰乱の今日にあっていつまでも昔のやり方でよいというのは愚人のあやまであるというようなこととされているのでしょう。

なお,大日本帝国憲法下では,「皇室経費に付いては,国家は唯定額を支出する義務が有るだけで,その支出した金額が如何に費消せらるゝかは,全然皇室内部の事に属し,政府も議会も会計検査院も之に関与する権能は無い。皇室の会計は凡て皇室の機関に依つて処理せられるのである。」ということにされていました(美濃部達吉『逐条憲法精義』(有斐閣・1927年)686頁)。明治皇室典範48条は「皇室経費ノ予算決算検査及其ノ他ノ規則ハ皇室会計法ノ定ムル所ニ依ル」と規定していましたが,この「皇室会計法」は「法」といっても帝国議会の協賛を経た法律ではありませんでした。1912年には,皇室令たる皇室会計令(明治45年皇室令第2号)が制定されています。皇室令は,1907年の公式令(明治40年勅令第6号)によって設けられた法形式で,「皇室典範ニ基ツク諸規則,宮内官制其ノ他皇室ノ事務ニ関シ勅定ヲ経タル規程ニシテ発表ヲ要スルモノ」です(同令5条1項)。

 

(4)ちょっとした比較

 天皇制維持のための毎年の皇室の費用約62億円及び宮内庁費約112億円は高いか安いか。ちなみに,「議会制民主政治における政党の機能の重要性にかんがみ・・・政党の政治活動の健全な発達の促進及びその公明と公正の確保を図り,もって民主政治の健全な発展に寄与することを目的」として(政党助成法(平成6年法律第5号)1条),国民一人当たり250円という計算で毎年交付される政党交付金の総額(同法7条1項)は,2016年につき31892884千円で,そのうち自由民主党分が1722079万円,民進党分が974388万円,公明党分が297209万8千円となっています(2016年4月1日総務省報道資料「平成28年分政党交付金の交付決定」)。

 

(5)国有財産及び旧御料

 GHQの意図に基づき「憲法施行当時の天皇の財産(御料)および皇族の財産を,憲法施行とともにすべて国有財産に編入するという意味」で日本国憲法88条前段は「すべて皇室財産は,国に属する。」と規定していますので(佐藤260頁),現在の「所領をふさげ」等の主体は,「王と云ふ人」ではなく,国ということになります(行政財産を管理するのは,当該行政財産を所管する各省各庁の長(衆議院議長,参議院議長,内閣総理大臣,各省大臣,最高裁判所長官及び会計検査院長)です(国有財産法5条,4条2項)。)。(なお,「皇室の御料」の沿革は,「明治維新の後は唯皇室敷地,伊勢神宮及び各山陵に属する土地及び皇族賜邸があつたのみで,その他には一般官有地の外に特別なる御料地は全く存しなかつたのであつたが,〔大日本帝国〕憲法の制定に先ち,将来憲政の施行せらるに当つては皇室の独立の財源を作る必要あることを認め,一般官有地の内から,御料地として宮内省の管轄に移されたものが頗る多く,皇室典範の制定せらるに及んでは,新に世伝御料の制をも設けられた〔明治皇室典範45条は「土地物件ノ世伝御料ト定メタルモノハ分割譲与スルコトヲ得ス」と規定〕。」というもので,「此等の御料から生ずる収入は,皇室に属する収入の重なる部分を為すもので,国庫より支出する皇室経費は其の以外に皇室の別途の収入となるもの」であったそうです(美濃部・精義685頁)。)「院の御所」は,太上天皇の住まいですから,天皇の生前退位を排除する皇室典範4条(「天皇が崩じたときは,皇嗣が,直ちに即位する。」)の現在の解釈を前提とすると,問題にはなりません。

 (ちなみに,世伝御料は「皇室ノ世襲財産」で(皇室の家長が天皇),「世伝御料タル土地物件ハ法律上ノ不融通物タルモノニシテ,売買贈与等法律行為ノ目的物タルコトヲ得ズ,又公用徴収若クハ強制執行ノ目的物トナルコトナシ」とされていますが(美濃部・撮要229230頁),これにはなかなかの慮り(おもんぱかり)があったようです。すなわち,『皇室典範義解』は「(つつしみ)て按ずるに,世伝御料は皇室に係属す。天皇は之を後嗣に伝へ,皇統の遺物とし,随意に分割し又は譲与せらることを得ず。故に,〔父の〕後嵯峨天皇,〔その兄息子であって持明院統の祖である〕後深草天皇をして〔弟息子であって大覚寺統の祖である〕亀山天皇に位を伝へしめ,遺命を以て長講堂領二百八十所を後深草天皇の子孫に譲与ありたるが如きは,一時の変例にして将来に依るべきの典憲に非ざるなり。」と述べていますが(宮沢俊義校註『憲法義解』(岩波文庫・1940年)166頁),これは,南北朝期における皇統間の争いは,皇位のみならず御料の継承をもめぐるものとの側面もあったという認識を示唆するものでしょう。また,長講堂領については正に,「若干そこばくの所領をふさげ」ということになります。ただし,現在においては,御料は前記のとおり国有財産に編入されてしまっていて皇室の所有権から離れていますから,そういう点では南北朝期的事態の発生原因の一つは消えているというべきでしょうか。)

 

3 太上天皇襲撃の罪と罰

 「馬より()るるむつかしさ」といっても,さすがに「からからと笑うて,「なに院と云ふか。犬ならば射て置け」と云ふままに,三十余騎ありける郎等(ろうどう)ども,院の御車を真中(まんなか)()()め,索涯(なわぎわ)(まわ)して追物(おうもの)()にこそ射たりけれ。御牛飼(おんうしかい)(ながえ)を廻して御車を(つかまつ)らんとすれば,胸懸(むながい)を切られて(くびき)も折れたり。供奉(ぐぶ)雲客(うんかく),身を以て御車に()たる矢を防かんとするに,皆馬より射落とされて()()ず。(あまっさ)へ,これにもなほ飽き足らず,御車の下簾(したすだれ)かなぐり落とし,三十輻(みそのや)少々踏み折つて,(おの)が宿所へぞ帰りける。」(『太平記(四)』60頁・第二十三巻8)ということが許されないことはもちろんです。しかし,この場合,院(太上天皇)の身体に対する行為に係る刑罰はどうなるか。

 

(1)暴力行為等処罰に関する法律及び刑法

傷害の結果が生じていれば,「銃砲又ハ刀剣類」を用いたものとして暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)1条ノ2第1項に基づき1年以上15年以下の懲役に処し得るものとなるかといえば,「銃砲」にも「刀剣類」にも弓矢は含まれないようなので(銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号)2条),やはり刑法(明治40年法律第45号)204条の傷害罪ということで15年以下の懲役又は50万円以下の罰金ということになるようです。ただし,常習としてしたものならば1年以上15年以下の懲役です(暴力行為等処罰に関する法律1条ノ3)。

なお,暴力行為等処罰に関する法律1条ノ3にいう常習性については「反復して犯罪行為を行なう習癖をいい(常習賭博についての,大審院昭和2・6・29集6・238参照),それは行為の特性ではなく,行為者の属性であると解せられており,かような性癖・習癖を有する者を常習者または常習犯人とよぶ」と説明されています(安西搵『特別刑法〔7〕』(警察時報社・1988年)54頁)。(ついでながら更に述べれば,常習性は,必要的保釈に係る刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)89条3号においても同様に解すべきでしょう。この場合,業として行うことは,習癖の発現として行うこと(安西55頁参照)には当たらないでしょう。筆者は,「業として」長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯した被告人について,保釈許可決定を得たことがあります。)

傷害の結果が生ぜず暴行にとどまれば(刑法208条参照),「団体若ハ多衆ノ威力ヲ示シ・・・又ハ兇器ヲ示シ若ハ数人共同シテ」行っていますから,暴力行為等処罰に関する法律1条により3年以下の懲役又は30万円以下の罰金ということになります。暴行を常習として行ったのならば3月以上5年以下の懲役です(暴力行為等処罰に関する法律1条ノ3)。

院に傷害が生じたかどうかが明らかではないこと,また,「猛将として知られ,青野原合戦で活躍」した「元来(もとより)酔狂(すいきょう)の者」であって「この(ころ)特に世を世ともせざ」るものであっても(『太平記(四)』59頁),それだけで直ちに暴力行為を累行する習癖が同人にあるものと断定してよいものかどうか躊躇されることといった点に鑑みて保守的に判断すると,刑罰は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金ということになりましょうが,少々軽いようにも思われます(しかし,平安時代の花山院襲撃事件の下手人である藤原伊周・隆家兄弟は「むつかし」いこともなく大宰府及び出雲国にそれぞれ左遷で済んでいますから,むしろ重過ぎるというべきか。)。

 

(2)皇室ニ対スル罪

この点,昭和22年法律第124号によって19471115日から削除される前の刑法73条又は75条によれば,太上天皇襲撃事件の犯人は院に「危害ヲ加ヘタル者」としてすっぱりと死刑とされたことでしょう。皇室ニ対スル罪に係る両条における「危害(・・)とは生命・身体に対する侵害又は其の危険を謂ふ。」とされています(小野清一郎『刑法講義各論』(有斐閣・1928年)7頁)。現実にも康永元年(1342年)の光厳院襲撃犯である土岐頼遠は,「六条河原にて首を刎ね」られています(『太平記(四)』62頁)。ただし,太上天皇は「天皇,太皇太后,皇太后,皇后,皇太子又ハ皇太孫」に含まれるものとして刑法旧73条を適用するか,その他の皇族として同法旧75条を適用するかの問題が残っています。

 

4 象徴の必要性

ところで,前記横着者は,「王なくて(かな)ふまじき道理あらば」と認容的な言葉も発していますから,我が国体においては「日本国及び日本国民統合の象徴」(2012年4月27日決定の自由民主党日本国憲法改正草案1条の文言)の存在が不可欠であるということを完全に否認するものではないのでしょう。「日本国は,長い歴史と固有の文化を持ち,国民統合の象徴である天皇を戴く国家」なのであります(自由民主党日本国憲法改正草案前文)。

 

5 国王遺棄及び「金を以て鋳」た象徴の例

 「木を以て作るか,(かね)を以て()るかして,生きたる院,国王をば,いづくへも皆流し捨てばや」という発言は,王を移棄するぞということなのでしょうが,神聖王家の王を遺棄去って代わりに木造又は金で鋳造した御神体(象徴)を奉戴するという方法も含まれるのでしょう。後者については次のような前例がありますが,余り快適な結果にはならなかったようです。

 

 かくてイスラエル(みな)〔レハベアム。同王は,ソロモンの子,すなわちダビデの孫〕(おのれ)(きか)ざるを見たり(ここ)において(たみ)王に答へて(いひ)けるは我儕(われら)ダビデの(うち)(なに)(ぶん)あらんやヱサイ〔ダビデの父〕の子の(うち)に産業なしイスラエルよ(なんぢ)()天幕(てんまく)に帰れダビデよ(いま)(なんぢ)の家を視よと(しか)してイスラエルは(その)天幕に去りゆけり

 然れどもユダの諸邑(まちまち)(すめ)るイスラエルの子孫(ひとびと)の上にはレハベアム(その)王となれり

 レハベアム王徴募頭(ちやうぼがしら)なるアドラムを遣はしけるにイスラエル(みな)石にて彼を(うち)(しな)しめたればレハベアム王急ぎて(その)車に登りエルサレムに逃れたり

 (かく)イスラエル,ダビデの家に背きて今日にいたる 

(列王紀略上第121619

 

古代イスラエルでも王は臣民から推戴されるものだったようです。紀元前10世紀のソロモン王の死後その息子レハベアムを国王に推戴するためシケムで集会があった際,臣民の側からソロモン王時代の重い負担を軽減してくれとの請願があったところ,舐められてはならぬと思ったものか,偉大な親父の貫目に負けじとレハベアムは,お前らの負担をむしろもっと重くしてやると答えてしまったのでした。そこで,ソロモンの王国は,ダビデ王朝に反発して離反した北の十部族のイスラエル王国と,引き続きダビデ王朝の下に留まった南のユダ王国(ユダはダビデの出身部族)との二つに分裂したというわけです。イスラエル王国の初代国王としては,王位を窺う者としてソロモン王の生前エジプトに逃れていたヤラベアムが推戴されました(列王紀略上第1220)。ところが,

 

(ここ)にヤラベアム(その)心に(いひ)けるは国は今ダビデの家に帰らん

(もし)此民(このたみ)エルサレムにあるヱホバの家に礼物(そなへもの)(ささ)げんとて上らば(この)(たみ)の心ユダの王なる(その)(しゅ)レハベアムに帰りて我を殺しユダの王レハベアムに帰らんと

(ここ)に於て王計議(はかり)(ふたつ)の金の(こうし)を造り人々に(いひ)けるは(なんぢ)らのエルサレムに上ること既に(たれ)りイスラエルよ(なんぢ)をエジトの地より導き上りし汝の神を視よと

(しか)して(かれ)(ひとつ)をベテルに()(ひとつ)をダンに(おけ)

此事(このこと)罪となれりそ(たみ)ダンに(まで)(ゆき)(その)(ひとつ)の前に(まうで)たればなり

(列王紀略上第122630

 

「時代の隔たりや権力の規模とかかわりなく,およそ王権は,宗教的基盤を離れては存在しえない」ところです(村上4頁)。新たに独立したイスラエル王国の初代王ヤラベアムとしては,ダビデの神聖王家が擁する宗教的権威に対抗するために,「(かね)を以て()」った(こうし)2体必要とたのでした。

けれども,「(かね)を以て()」った(こうし)では,「生前退位」云々といった面倒はないものの生きて務めを果たしてくれるものではなく,やはり霊験が不足するのか,ヤラベアムの王朝は2代目で断絶してしまいました。

 

ユダの王アサの第二年にヤラベアムの子ナダブ,イスラエスの王と()り二年イスラエルを治めたり

彼ヱホバの目のまへに悪を(なし)(その)父の道に歩行(あゆ)(その)イスラエルに犯させたる罪を行へり

(ここ)にイツサカルの家のアヒヤの子バアシヤ彼に敵して党を結びペリシテ人に属するギベトンにて彼を(うて)()はナダブとイスラエル(みな)ギベトンを囲み()たればなり

ユダの王アサの第三年にバアシヤ彼を殺し彼に代りて王となれり

バアシヤ王となれる時ヤラベアムの全家を撃ち気息(いき)ある者は一人もヤラベアムに残さずして尽く之を(ほろぼ)せり

(列王紀略上第152529

 

ヤラベアム王朝を滅ぼしたバアシヤの王朝も,2代目が暗殺され,全家が滅ぼされて断絶します(列王紀略上第161012)。イスラエル王国ではその後最後まで頻繁に王朝交代が生ずることになりました(同王国は前721年頃にアッシリアに滅ぼされ, その構成部族は離散して「失われた十支族」となる。)。これに対してダビデ神聖王家のユダ王国は,同一王朝の下に前587年頃まで存続しました(バビロン捕囚となったものの, 後に帰還。)。神聖王家を戴く方が,「(かね)を以て()」った(こうし)を戴くよりも安定するのだと言うのは即断でしょうか。

6 妙吉侍者対高師直・師泰兄弟及び不敬罪

さて,本稿における前記横着者は,一般に高武蔵(こうのむさし)(のかみ)師直(もろなお)であるとされています。しかしながら発言主体を明示せずに書かれた『太平記』の当該部分の文からは,その兄弟である越後守(もろ)(やす)の発言であるという読み方も排除できないようです。「天皇・・・ニ対シ不敬ノ行為アリタル者」として3月以上5年以下の懲役に処せられるべき不敬罪(刑法旧74条1項)を犯したということになるようですが,このことは,高師直にとっての濡れ衣である可能性はないでしょうか。

そもそも,高師直・師泰兄弟に帰せられる当該発言は,(みょう)(きつ)侍者(じしゃ)とい,高僧・夢窓疎石の同門であることがわずかな取り柄といえども道行(どうぎょう)ともに足らずして,われ程の(がく)()の者なしと思」っている慢心の仏僧(『太平記(四)』170頁・第二十六巻2)が,足利直義に告げ口をしたものです。妙吉の人となり及び学問は,兄弟弟子の夢窓疎石の成功を「見て,羨ましきことに思ひければ,仁和寺に()一房(いちぼう)とて外法(げほう)成就の人のありけるに,(だぎ)尼天(にてん)の法を習ひて,三七日(さんしちにち)行ひけるに,頓法(とんぽう)立ちどころに成就して,心に願ふ事(いささ)かも(かな)はずと云ふ事なし。」なったというものですが(『太平記(四)』267268頁・第二十七巻5),有名人(夢窓疎石)の出るような大学に入ったものの,学者としての見栄えばかりを求める人柄で(「羨ましきことに思ひ」),そのくせ腰を入れ年月をかけて学問を成就する根気及び能力がないものか,優秀な学者・実務家が集まって伝統的仏法に係る主要経典の解釈に携わる正統的な解釈学等の学問分野からは脱落して「外法」に踏み入り,速習可能で(「三七日」すなわち21日学ぶだけ),かつ,すぐ目先の願望確保に役立つであろう浮華な流行的分野(「頓法」は,「速やかに願望を成就する修法」)に飛びついて専攻し,咜祇(だぎ)尼天(にてん)が云々と一見難解・結局意味不明禅語的言辞をもって衆人をくらまし自己を大きく見せようとばかりする,一種さもしい似非学者といったような人物だったのでしょう。夢窓疎石が妙吉を,自分に代わる禅の教師として「語録なんどをかひがひしく沙汰し,祖師〔達磨大師〕の心印をも(じき)に承当し候はんずる事,恐らくは恥づべき人〔うわまわる人〕も候は」ずと足利直義に推薦し,「直義朝臣,一度(ひとたび)この僧を見奉りしより,信心肝に銘じ,渇仰類なかりけ」りということになったのですが『太平記(四)』268頁),夢窓疎石には,同一門下の兄弟弟子らが身を立てることができるように世話を焼いてついつい法螺まで吹いてしまうという俗なところがあり(頼まれれば前記土岐頼遠の助命嘆願運動もしています(『太平記(四)』62頁)。),他方,足利直義が後に観応の擾乱の渦中においてよい死に方をしなかったのは,そもそも同人には人を見る目がなかったからだということになるのでしょうか。(また,妙吉坊主なんぞの告げ口を真に受けたということは,「権貴幷びに女性禅律僧の口入を止めらるべき事」との建武式目8条違反でもあったわけです。)

しかし,高師直・師泰兄弟のような実務の実力者からすると,似非学者の中身の無さはお見通しであり,それを夢窓疎石に対する配慮か何か知らぬが妙にありがたがっている足利直義の様子は片腹痛く,妙吉は,軽蔑・無視・嘲弄の対象にしかならなかったところです。

 

 かやうに〔妙吉侍者に対する〕万人崇敬(そうきょう)類ひなかりけれども,師直,師泰兄弟は,何条〔どうして〕その僧の智恵才学,さぞあるらんと(あざむ)いて〔たいしたことあるまいと侮って〕,一度(ひとたび)も更に相看せず。(あまっさ)へ門前を乗り打ちにして,路次(ろし)に行き合ふ時も,大衣(だいえ)を沓の鼻に蹴さする(てい)にぞ振る舞ひける。(『太平記(四)』269頁)

 

しかし,似非学者たりとはいえ(あるいは似非学者であるからこそ),妙吉のプライドは極めて高い。

 

・・・(きつ)侍者,これを見て,安からぬ事に思ひければ,物語りの端,事の(つい)でに,ただ執事兄弟の振る舞ひ(穏)便ならぬ物かなと,云沙汰せられ・・・

 吉侍者も,元来(もとより)(にく)しと思ふ高家の者どもの振る舞ひなれば,事に触れて,かれらが所行の(あり)(さま),国を乱し(まつりごと)を破る最長たりと,〔足利直義に〕讒し申さるる事多かりけり。・・・

(『太平記(四)』269270頁)

 

すなわち,前記「皆流し捨てばや」発言の出どころは似非学者の讒言であって,かつ,伝聞に基づくものであったのでした(師直・師泰兄弟とは「一度(ひとたび)も更に相看せず」ですから,妙吉が直接聞いたものではないでしょう。)。軽々に高師直を不敬罪で断罪するわけにはいかないようです。

正面から自己の智恵才学を高々と示して高兄弟を納得改心させ,その尊敬を獲得しようとはせず,妙吉侍者のわずかばかりの「智恵才学」は,権力者に媚び,告げ口によって高兄弟の失脚を狙おうとする御殿○中的かつ陰湿なものでありました。福沢諭吉ならば,妙吉とその取り巻きに対して,次のようにでも説諭したものでしょうか。いわく,「独立自尊の人たるを期するには,男女共に,成人の後にも,自ら学問を勉め,知識を開発し,徳性を修養するの心掛を怠る可らず。」であって,「怨みを構へ仇を報ずるは,野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱を雪ぎ名誉を全うするには,須らく公明の手段を択むべし。」だよ(「修身要領」『福沢諭吉選集第3巻』(岩波書店・1980年)294頁),文明開化期に示された「識者の所見は,蓋し今の日本国中をして古の御殿の如くならしめず,今の人民をして古の御殿女中の如くならしめず,怨望に(かう)るに活動を以てし,嫉妬の念を絶て相競ふの勇気を励まし,禍福誉悉く皆自力を以て之を取り,満天下の人をして自業自得ならしめんとするの趣意」なのだろうけど(「学問のすゝめ 十三編」『福沢諭吉選集第3巻』144頁),おれもそう思うよ自分の学問で勝負せずに陰険な告げ口ばかりするのは見苦しいからやめろよ恥ずかしいよお前らからは腐臭がするよと。

(なお,本文とは関係がありませんがついでながら,刑法旧74条1項の不敬罪の成立については判例(大審院明治44年3月3日判決・刑録17輯4巻258頁)があるので紹介します。「不敬罪ハ不敬ノ意思表示ヲ為スコトニ因リテ完成シ他人ノ之ヲ知覚スルト否トハ問フ所ニ非ス左レハ被告カ至尊ニ対スル不敬ノ事項ヲ自己ノ日誌ニ記載シ以テ不敬ノ意思ヲ表示シタルコト判示ノ如クナル以上ハ其行為タルヤ直ニ刑法第74条第1項の罪を構成シ被告以外ノ者ニ於テ右不敬ノ意思表示ヲ知覚セサリシ事実アリトスルモ同罪ノ成立ニ何等ノ影響ヲ及ホササル」ものとされているものです。どういうわけか児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)7条1項の構成要件が想起されるところです。)

 
 しかし,似非学者はなかなかしぶとく生き残るものです。

 貞和(じょうわ)五年(1349年),足利直義と高師直・師泰兄弟との最初の対決が,直義の逃げ込んだ足利尊氏邸を取り囲んだ高兄弟の勝利に終わり,直義は政務から引退することになった翌朝,

 

 ・・・やがて人を遣はして,(きつ)侍者らん先立堂舎(こぼ)取り散浮雲(ふうん)富貴(ふっき)(たちま)り。

 (『太平記(四)』299頁・第二十七巻11

 

その後の妙吉侍者はもと住所すみかって太平記(314頁・第二十七巻13閑居して,残された数少ない献身的かつ熱意ある信奉者と有益な議論などをし,更に農事などに手を染めつつ,我は夢窓疎石の同門なるぞとの誇りとともに,つつがなく余生を過ごしたものでしょうか。

1 1999年の児ポ法制定時にさかのぼる

 我が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。「児ポ法」)が,その第2条3項3号においていわゆる三号ポルノを「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義して,当該三号ポルノをも児童ポルノとして規制するに至った理由については,やはり,1999年の第145回国会における児ポ法法案の審議模様にまでさかのぼって調べる必要があるように思いました。以下は当該審議模様に係る議事録を調べた結果のあらましです。無論,先行研究もあるのですが,やはり自分で原典に当たらないままでは,たとい詰まらないことであっても,もっともらしい顔をして語ってはいけないものでしょう。また,これは人によるのでしょうが,抽象化された命題を抽象的に取り扱うよりも,その根の部分における,必ずしもきれいに割り切れてはいない人間的なやり取りを再確認する方が,法学方法論としても興味深く感じられるところです。

(なお,以下の議事録の略称は,参8・○は第145回国会参議院法務委員会会議録第8号(1999427日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,衆10・○は同国会衆議院法務委員会議録第10号(同年511日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,衆11・○は同会議録第11号(同月12日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,及び衆12・○は同会議録第12号(同月14日の同委員会の議事を記録)○頁の意味です。)

 児ポ法成立当初の同法2条3項3号は,次のとおり。

 

 3 この法律において「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

   〔第1号及び第2号省略〕

  三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 

 児ポ法は,議員立法でした。(ちなみに,議事録の登場人物には弁護士議員が多かったです。)

 1999年4月27日の参議院法務委員会において,児ポ法法案の発議者の一人である林芳正参議院議員(法務委員ではない。)が同法案の趣旨説明を行いましたが,その中には次のような部分があります。

 

 平成6年に批准されました児童の権利に関する条約では,児童はあらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から保護されることが定められております。(参81。衆101の清水嘉与子参議院議員説明。また,参88の林議員,参82の円より子委員答弁)

 

 ・・・児童の性的な姿態を描写した写真等であって諸外国において児童ポルノとして取り締まられているものすべてが刑法上のわいせつ図画に該当するものではないのが現状であります。(参81。衆101の清水(嘉)参議院議員説明)

 

 児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号)の第34条の英文は,次のとおりです。

 

  Article 34

States Parties undertake to protect the child from all forms of sexual exploitation and sexual abuse. For these purposes, States Parties shall in particular take all appropriate national, bilateral and multilateral measures to prevent:

  (a) The inducement or coercion of a child to engage in any unlawful sexual activity;

  (b) The exploitative use of children in prostitution or other unlawful sexual practices;

  (c) The exploitative use of children in pornographic performances and materials.

 

  児童の権利に関する条約34(c)は「わいせつな演技及び物」と訳されていますが,ここの「わいせつ」は,実は“pornographic”でしたね。(また,exploitativeという修飾語がついています。)

「わいせつ図画の規制は,性的な秩序,道徳,風俗の維持をその目的としておりまして,児童の権利の擁護に資することを目的とするものではありませんので,わいせつ図画に当たらない児童ポルノもあると考えられます。そこで処罰の対象となる範囲も異なります。」(参82円委員答弁。また,参86の大森礼子議員(法務委員でない。)答弁,衆1227林(芳)参議院議員答弁)ということですから,児童ポルノの方がわいせつ図画よりも範囲が広いようです。かつ,「処罰対象となる行為をより具体的に表現すべく,淫行,わいせつ概念を使用せず,最大限の努力をいたしました。」とされています(参82円委員答弁)。

 

2 「児童を性欲の対象としてとらえる風潮」の矯正

 しかし,児童ポルノに係る行為を処罰の対象とする理由は,必ずしも専ら児童の権利の擁護ばかりではないようです。悪しき風潮の矯正も意図されているようです。

 

 ・・・性交または性交類似行為に係る児童の姿態等を描写したもの,これが児童ポルノでございますが,その児童ポルノを製造,頒布する行為は,その児童ポルノに描写された児童の心身に長期にわたって有害な影響を与え続けます。また,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にこれもまた重要な影響を与えるものと思われます。(参83円委員答弁。また,衆127-8,衆1211,衆1213,衆1216同議員答弁,参85,衆1227林議員答弁,参86,衆125の大森議員答弁)

 

 ただし,刑罰法規の部分については,1999年5月12日の衆議院法務委員会において,「こういう理解でよろしいでしょうか。つまり,刑罰法規の部分については,まさに内心の問題ではなくて,実際の侵害の行動を処罰するものだ。これは間違いない。ただ,そういったことの結果として,刑罰法規とは違った意味の部分のところで,そうした風潮を抑止するという効果もある。それも目的に入っている。ただ,あくまでも刑罰法規は行動についてのものである,こういう理解でよろしいですね。」との「理解」が枝野幸男委員から提示され,これについて発議者(円参議院議員)が「はい,枝野先生の御指摘のとおりでございます。」と答弁しています(衆112)。

いずれにせよ,18歳未満の者に対する性欲自体を望ましからぬものとして法は評価しているということになるようです。

この点に関しては,衆議院の日野市朗法務委員が,同月14日,いわゆる援助交際の児童買春性に関してですが,次のような感想を述べています。

 

  よくわからないのですが,そうすると,性行為そのもの,これは悪なんですかな。いや,金を払えば悪になる,こういうわけでしょう。ただし,児童全体が,18歳以下であれば,当然それは被害者であるという前提に立っているわけですね,この法律は。(衆1218

 

 これに対して,発議者は,児童の未熟性に対するpaternalismないしはmaternalismというより高次の理念に立っていたようでした。また,男性優位的な発想での性欲の誇示は無用のものとされています。

 

  援助交際についてはさまざまな意見があることは承知しております。ただ,いわゆる援助交際について悪とか善とかの発想に立っているわけではなくて,性的な虐待や性的搾取が子供たちの人権侵害になるということを,その子供たち自身も今の世の中でわかっていない部分もあると思います。

  ・・・本当に日本のカップルは性的な話し合いもできなければ,豊かな性的関係を持てない方々が多くて,その中から,自分よりも劣った,おとなしい,何も自己主張をしない子供たちをお金で買うというようなケースが多々ございました。そうした,今回の児童に対する性的搾取や性的虐待,それを対償をもってするという中には,どうも性差別的な発想や,また人種差別的な発想,そして性欲を誇示することが男らしいというような社会通念等まであるような感じもいたします。

  ・・・子供たちの人権というものを考えるときに,性的な人権,自己主張,そういったものがしっかりできるようになるには,ただ体の肉体的な発達があってもできない子供たちも大変多いところから,今回の法案はそうした大人の側こそ範を示すべきであるということもありまして,18歳未満の子供たちに対してはこういった法案をつくったわけでございまして,いわゆる援助交際もその中に,法に関する限りは入るものと考えております。(衆1218の円参議院議員答弁)

 

3 三号ポルノと発議者・大森参議院議員の答弁

 

(1)三号ポルノの概要

 三号ポルノについては,大森参議院議員が発議者として答弁しています。

 

  3号に当たります児童ポルノ,いわゆる三号ポルノという言い方をしますが,これは「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した」「写真,ビデオテープその他の物」をいいます。

  具体的な例としましては,全裸または半裸の児童に扇情的なポーズをとらせた姿態を描写した写真等が考えられ,これが性欲を興奮させまたは刺激する姿態であることが視覚により認識することができるものであれば,児童の性器等が描写されておらず,またはその部分にぼかしが施されているものであったとしてもこの児童ポルノに当たることになります。(参84

 

(2)児童の実在性要件と合成写真問題

なお,児童ポルノであるためには,そこにおける児童は実在しているものでなければならないという要件が更にあって,これについていろいろ議論がありました。顔と身体とが別の児童の合成写真はどうなるのだ,というようなことが質疑者と大森参議院議員との間で問題とされたものです。

合成写真問題に関する松尾邦弘政府委員(法務省刑事局長)の岡目八目的な認識は次のとおり。

 

 ・・・発議者の方〔大森参議院議員〕は,顔はある有名な少女にいたしましょうか,その写真である,下がその少女のものとは違う写真がつけられている,あるいはこれに,写真に非常に酷似した,写真と見まがうような模写でもいいかと思いますが,そういったものであれば,体の方もやはりその児童の姿態というふうに大部分が見られるならば,発議者の方もこれは〔顔写真が使われた実在の児童に係る児童ポルノに〕当たると言っているわけでございます。

 ですから,顔がありまして,下が全く児童の姿態と見られないような,そういうものがくっついているような場合にはそれは難しいかと思いますが,全体として発議者のおっしゃっているのは,下半身についても児童の姿態というふうに見られるのであれば,それは〔下半身の写真が使われた児童に係る児童ポルノに〕当たり得るというふうに先ほどお答えになったように思いますので,木島〔日出夫〕先生のお尋ねと,結論の部分においては,余り差がないものというふうに私は理解しています。(衆1229

 

(3)「衣服の全部又は一部を着けない」要件

衣服の全部又は一部を着けない」というのは,状態をいうものであって行為をいうものではないとされています(衆115の大森参議院議員答弁)。また,前記の大森参議院議員答弁にいう「全裸または半裸」については,「この用語につきましては,今枝野先生がおっしゃったように,いわゆる風営法の第2条第6項第3号「衣服を脱いだ人の姿態」という言葉について,警察庁の解釈基準で「全裸又は半裸等社会通念上」「人が着用しているべき衣服を脱いだ人の姿態をいう。」とされていることもありまして,これを念頭に置いて答弁したものでございます。」と説明されています(衆116の大森参議院議員答弁)。

 

(4)要件としての「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の広汎性

二号及び三号ポルノの「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との規定と刑法のわいせつ物頒布罪等におけるわいせつ概念との関係について,大森議員は端的かつ断乎たる答弁をしています。刑法のわいせつ概念における余計な限定は取り払われています。

 

  いわゆる二号ポルノ,三号ポルノには「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という文言がございます。この文言と刑法上のわいせつとはどう異なるかという御質問ですが,刑法175条のわいせつ物頒布等の罪に書かれてありますわいせつの意義につきましては,最高裁の判例がございまして,いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するものをいうとする判断が出ております。

  これに対しまして,この法案におきましては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされていることから,児童ポルノについては刑法のわいせつに該当しないものも含み得ることになります。もう少し詳しく言いますと,最高裁の判例,昭和26年5月10日,「いたずらに」それから「普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」,これをこちらの法案では要求しておりません。

  これにつきましては,児童ポルノの性質上,まず「いたずらに」については,これは過度にという意味ですけれども,これを要しないとしております。それから,「普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」であるかどうかについて論ずるまでもなく規制すべきである,こういう趣旨であります。(参85。また,衆129

 

「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」であって少しでも性欲を刺激するものでさえあれば,たとい普通人の正常な性的羞恥心を害さず,かつ,善良な性的道義観念に反するものでなくとも,三号ポルノとして取り締まられるのだということのようです。ただし,ここで興奮させられ又は刺激される性欲は誰のものかといえば,「通常,構成要件に規定してありますことは,一般通常人というものを基準としております。」とされてはいるところです(衆116の大森参議院議員答弁)。

 

(5)具体的事例への当てはめ

 

ア 確答回避と捜査機関等への信頼

と一応の説明はされたとはいえ,具体的事例に係る判断に当たっては,発議者の一員たる大森議員もなかなか慎重で,警察及び検察,最終的には裁判所に下駄を預けたような答弁がされています。

 

 まず,一般論としてでありますが,あるものが児童ポルノに当たるか否か,これは個別具体的な事例ごとにこの法案の要件に該当するか否かを総合的に判断することになりますので,こういう一般的な事例について確定的に答えることは困難でありますし,するべきことでもないだろうと思っております。

 今,中村〔敦夫〕委員から御指摘がありました,川辺などで児童が裸で楽しそうに遊んでいる,この場面を聞いたときに,お互い頭の中で想像している場面というのが違うかもしれません。例えば,川辺で2歳か3歳ぐらいの男の子が裸で遊んでいるそばでお母さんが楽しそうに見守っているとか,こういういわゆる和やかな川遊びの場面もあると思いますし,あるいは川辺で,児童といいましても18歳未満を児童といいますから,では17歳の女性だったらどうかとか,こういう問題が起きます。

 それで,どのように判断するかということにつきましてはいわゆる構成要件の問題になるわけですけれども,児童の姿態がどのようなものであるかによって判断されることになります。今おっしゃったのは,少なくとも一号ポルノ以外の事例だと思いますので,その場合には,一般人から見まして「性欲を興奮させ又は刺激する」と言えるかどうかという,この基準によって判断するとしかちょっとお答えのしようがございません。(参89

 

 今,中村委員がおっしゃったことは,確かに芸術的表現の自由との関係の問題だと思います。

 それから,構図等も大事である,こういうお話がございましたけれども,これは2号,3号につきましては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とありますので,確かに構図とか場面とか周囲の状況とか姿態とか,こういうことを総合的に判断して,この要件に該当するかどうかということを判断することになると思います。

 ・・・やはり犯罪ありと思料して捜査する場合には,その構成要件該当性については私どもは警察とか検察庁が十分吟味して慎重に取り扱うものと思っておりまして,本来ポルノに当たらないものを警察及び検察が当たると判断するということは考えていないところでございますが,そこのところで争いがあった場合,最終的にだれがその犯罪構成要件に当たるかどうかを決めるのかというと,最終的判断は裁判所という言い方になると思います。(参89

 

イ としまえん水着の安全性

それでも,水着については,「いわゆる通常の,普通の,としまえんのプールあたりでみんなが着ているような水着」の姿態が児童ポルノには「一般的には当たらない」かどうかが衆議院法務委員会の枝野委員によってなおも追及されています。わざわざ「としまえんのプールあたり」との限定が付いていますから,刺激的ではない,むしろ野暮ったい水着なのでしょう。さすがにこれに対しては,大森参議院議員も次のように答弁せざるを得ませんでした。

 

としまえんのプールの水着ですか。(枝野委員「などで着ているような」と呼ぶ)〔児童ポルノに〕ならないと思います。(衆115

 

ウ 下着,入浴,3歳児

しかし,下着姿や入浴の場面となると難しくなります。

大森参議院議員は,下着姿については「あくまで個別具体的な事例に基づきまして,この法案の要件に該当するか否か総合的に判断されるべきもの」として確答を避けています(衆115)。

入浴の場面については,「子供がおふろに入っている姿を見て通常,一般人は性欲を興奮させ,刺激するというところまで至らないと思いますので,そういうところから〔児童ポルノに〕当たらない場合が多いのではないかというふうにお答えできると思います。」と答弁しています(衆115)。

とはいえ,その少し後に大森参議院議員は,次のように付け足します。

 

 ただ,低年齢,3歳とかとおっしゃったのでしょうか,その裸であれば絶対該当しないかということは必ずしも言えません。性的に未熟な女の子,女児の陰部等を描写したものと認める写真についても刑法上のわいせつ図画に当たるとした判例がございます。

 そういったことから,常に否定されるわけではないと考えます・・・(衆116

 

一般通常人の性欲といえども,なかなか油断はできないようです。(児童ポルノの場合は,わいせつ物の場合とは異なって,性欲の興奮又は刺激が過度にまで及ぶ必要はありません。)

 

エ 男子児童ポルノ

この一般通常人には当然女性も含まれるので,女性の性欲を興奮させ又は刺激する男子児童の児童ポルノの存在も,大森参議院議員は否定しません。

 

・・・ジャニーズJrのようなアイドルの男の子の姿態についてはどうかということですが,これも,同じ答弁になりますが,その姿態が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であるかどうかというこの判断基準によることになります。ある程度セクシーとかそれを売り物にする場合もあるかもしれませんし,それによってファンの子が多少性的興奮といいますか,することは否定できないかもしれません。(衆115

 

オ 「芸術性」との関係

芸術作品については,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であっても芸術作品であれば児童ポルノには当たらないという考え方は採用されず,飽くまでも児ポ法2条3項の要件(「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否か)に該当するか否か一本で決すべきものという考え方が示されています(衆115,衆1111-12,衆1210,衆1222の大森参議院議員答弁)。

 

4 余話

 

 当ブログの悪癖ですが,話が飛びます。

 

(1)2014年の日弁連公告

 日本弁護士連合会の『自由と正義』2014年3月号に,岡山弁護士会が同弁護士会の○弁護士にした懲戒処分について,次のような公告が出ていました(122頁)。

 

1処分を受けた弁護士

   〔略〕

2 処分の内容 戒 告

3 処分の理由の要旨

   被懲戒者〔○弁護士〕は,Aから破産手続開始申立事件を受任し,2006年7月6日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。また,被懲戒者は,Bから破産手続開始申立事件を受任し,同月25日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。さらに,被懲戒者は,Cから破産手続開始申立事件を受任し,2007年5月1日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。

   被懲戒者は,上記各事件の処理を事務員に担当させ,201211月に上記事務員の任務懈怠が判明するまでその処理状況の確認を怠った。その結果,被懲戒者は,Cの事件につき2013年2月13日まで破産手続開始申立てを行わず,Bの事件につき同月27日まで破産手続開始申立てを行わず,Aの事件についてはAとの連絡が困難となって,同年3月8日に辞任した。

   被懲戒者の上記行為は,弁護士職務基本規程第19条及び第35条に違反し,弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

4 処分が効力を生じた年月日

    20131224

 

 2006年7月ころ及び2007年5月ころ受任した破産手続開始申立事件計3件について,○弁護士は債権者に受任通知を出しっぱなしにして後は事務員任せにし,事務員は事務員で横着をして事件を放置し,201211月に発覚(恐らく「懲戒請求者」の債権者が業を煮やしたのでしょうか。)するまで約6年4月ないしは5年6月の長期間,事件処理を怠っていたという気の長い話でした。

 この弁護士の○先生は,いろいろお疲れだったのでしょう。

 なお,弁護士職務基本規程19条及び35条は,次のとおり。

 

   (事務職員等の指導監督)

 第19条 弁護士は,事務職員,司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が,その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に及び,又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし,若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければならない。

 

   (事件の処理)

 第35条 弁護士は,事件を受任したときは,速やかに着手し,遅滞なく処理しなければならない。

 

(2)クレサラ問題における弁護士等の受任通知書の効能:取立て停止

ところで,弁護士のする受任通知の効果としては,貸金業法21条1項に次のような規定があります。

 

   (取立て行為の規制)

 第21条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は,貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて,人を威迫し,又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。

     〔第1号から第8号まで略〕

  九 債務者等〔債務者又は保証人〕が,貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し,・・・弁護士等・・・から書面によりその旨の通知があつた場合において,正当な理由がないのに,債務者等に対し,電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は訪問する方法により,当該債務を弁済することを要求し,これに対し債務者等から直接要求しないように求められたにもかかわらず,更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。

  十 債務者等に対し,前各号(第6号を除く。)のいずれかに掲げる言動をすることを告げること。

 

同法47条の3第1項3号により,同法21条1項の規定に違反した者は,2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され,又はこれを併科されるものとされています。

債務者が弁護士等に債務処理を委託して,当該弁護士等が貸金業を営む者に受任通知書を送付すると,通知を受けた業者からの取立てが止まるわけです。いわゆるクレサラ問題における弁護士等の効能の大きな一つがここにあります。

 

 

弁護士 齊藤雅俊

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 我が国において児童ポルノとされるものの範囲は,我が国より先に児童ポルノの単純所持を処罰することとしていたいわゆる主要国のそれよりも広い,ともいわれています。インターネット上で読めるものとしては,例えば,2013年2月11日の髙山佳奈子教授による「京都府児童ポルノの規制等に関する条例」に係る「論点解説」に,次のようにあります。

 

日本の児童買春・児童ポルノ処罰法は児童ポルノの定義中に「〔衣服の全部又は〕一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」〔平成26年法律第79号による改正前の三号ポルノ〕を含めており,これはかなり広い定義だといえる。諸外国の所持規制は,やはりそれ自体として児童虐待を構成するような行為に限定されている。児童の裸の写真を見たり所持したりしているだけで処罰されるわけではない。

 

なるほど。少なくとも,三号ポルノの分は,我が国が他国に先んじているわけですね。それでは少し具体的に,児童ポルノの定義について,比較法的に眺めてみましょう。

 これまたインターネット上で読むことができる財団法人社会安全研究財団が出した「G8諸国における児童ポルノ対策に関する調査」の「報告書」(2013年3月。調査実施・編集は,株式会社三菱総合研究所の海外事業センター情報通信政策研究本部)において,米国(連邦),英国,フランス,ドイツ,イタリア及びカナダにおける児童ポルノの定義規定が紹介されていましたので,当該報告書等を参考に,英和辞典や仏和辞典や独和辞典を引いてみました。

 

1 米国

米国連邦法典第182256条(社安研2頁参照)

(8)「児童ポルノ」(child pornography)とは,電子的,機械的又はその他の方法により作成され,又は制作された,写真,フィルム,ビデオ,絵画(picture)又はコンピュータの若しくはコンピュータ処理された画像(image)若しくは絵画を含む,次のいずれかに該当する性的に露骨な行為(sexually explicit conduct)の視覚的描写(any visual depiction)をいう。

A)そのような視覚的描写の制作が,性的に露骨な行為に従事している(engaging in)未成年者の利用を伴うもの

B)そのような視覚的描写が,デジタル画像,コンピュータ画像又はコンピュータ処理された画像であって,性的に露骨な行為に従事している未成年者のものであるか,又はそれと見分けがつかない形態であるもの

C)そのような視覚的描写が,身元を特定し得る未成年者が性的に露骨な行為に従事しているように見えるように創作され(created),翻案され(adapted)又は修正され(modified)ているもの

 

 ここでの定義の中心となる鍵概念は,「性的に露骨な行為」(sexually explicit conduct)です。

「未成年者とは同法第2256条(1)において,「18歳未満の者」と定義されている。また,「性的に露骨な行為」ということについては,基本的にあらゆる形態の性行為,又は性器あるいは陰部のみだらな(lascivious)露出を指すとされている。性的な行為に従事している必要はなく,裸体であっても性的に十分挑発的であれば,違法な児童ポルノに該当しうる。」とされています(社安研2頁)。

 しかし,「性的な行為に従事している必要はなく,裸体であっても性的に十分挑発的であれば,違法な児童ポルノに該当しうる。」といわれてしまうと,米国連邦法における「児童ポルノ」の定義の要素である「性的に露骨な行為」の限界がはっきりしなくなるようにも思われて心配になります。当該部分は,米国連邦司法省のウェッブ・サイトにある次の一説を訳して記載したもののようです。

 

 Notably the legal definition of sexually explicit conduct does not require that an image depict a child engaging in sexual activity. A picture of a naked child may constitute illegal child pornography if it is sufficiently sexually suggestive.

 

 こうなると,「性的に露骨な行為」の定義に直接当たってみるしかないのですが,結論としては,性的な行為(sexual activity)以外のものについては,「性器あるいは陰部のみだらな露出」以外のものは「性的に十分挑発的」ではあり得ないもののようです。

 米国連邦法典第182256条2項における「性的に露骨な行為」の定義は,次のとおりです。

 

 (2)

  (A) Except as provided in subparagraph (B), “sexually explicit conduct” means actual or simulated ---

    (i) sexual intercourse, including genital-genital, oral-genital, anal-genital, or oral-anal, whether between persons of the same or opposite sex;

    (ii) bestiality;

    (iii) masturbation;

    (iv) sadistic or masochistic abuse; or

    (v) lascivious exhibition of the genitals or public area of any person;

  (B) For purposes of subsection 8(B) of this section, “sexually explicit conduct” means ---

    (i) graphic sexual intercourse, including genital-genital, oral-genital, anal-genital, or oral-anal, whether between persons of the same or opposite sex, or lascivious simulated sexual intercourse where the genitals, breast, or public area of any person is exhibited;

    (ii) graphic or lascivious simulated;

(I) bestiality;

(II) masturbation; or

(III) sadistic or masochistic abuse; or

     (iii) graphic or simulated lascivious exhibition of the genitals or public area of any person;

 

 ちょっと,日本語訳を付することは,正に性的に露骨な表現であって,はばかられるところです。当該部分の訳文については,これもインターネット上で読むことのできる間柴泰治「日米英における児童ポルノの定義規定」『調査と研究』681号(201068日)4頁を御覧ください。

 なお,「性的に露骨な行為」の描写における“graphic”の意味は,“a viewer can observe any part of the genitals or public area of any depicted person or animal during any part of the time that the sexually explicit conduct is being depicted”ということで(米国連邦法典第18225610項),性器又は陰部が見えることということのようです。

 しかし確かに,「性器あるいは陰部のみだらな露出」に比べて,我が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。「児ポ法」)2条3項3号のいわゆる三号ポルノに係る「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」との定義は,より広いもののようです。「性器あるいは陰部」のみならず,「臀部又は胸部」までもが含まれ,しかも,「露出」までを必要とせず,「強調」でよいとするのですから。

 なお,20031222日の欧州委員会枠組み決定(Council Framework Decision2004/68/JHA「児童の性的搾取及び児童ポルノに対する戦いについて」(on combating the sexual exploitation of children and child pornography)の第1条の(b)においては,「「児童ポルノ」とは,ポルノグラフィックな物件(pornographic material)であって,次のものを視覚的に描写し,又は表現(visually depicts or represents)するもの」とされ,その(i)では「性的に露骨な行為(児童の性器又は陰部のみだらな露出を含む。)に関与し,又はそれを行う実在の児童」が対象として挙げられています。

 

(i) a real child involved or engaged in sexually explicit conduct, including lascivious exhibition of the genitals or the public area of a child;

 

 ここでいう「性的に露骨な行為」も,米国連邦法典第182256条2項における「性的に露骨な行為」に似たものであるように思われます。

 

2 英国

英国2009年検死官及び刑事司法改革法62条(社安研15-16頁参照)

(1)禁止された児童(child)の画像(image)を所持することは犯罪である。

(2)禁止された画像とは,次のような画像である。

(a)ポルノグラフィックなもの(is pornographic

(b)第(6)項に該当するもの,及び

(c)わいせつな性格のものであって,過度に不快で,嫌悪を催す等のもの(is grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character

(3)性的興奮(sexual arousal)の目的のためだけに,又は主に(principally)そのために制作されたと合理的に推定されるべき性質である場合には,画像は「ポルノグラフィック」である。

(4)(個人の所持において発見された)画像が一連の画像の一部を形成している場合,第(3)項で言及した性質の画像であるかどうかは,次の事項を考慮して決定される。

(a)画像自体,及び

(b)(一連の画像が,画像の文脈をもたらすことができる場合)一連の画像中で当該画像が現れる文脈

(5)したがって,例えば,

(a)画像が一連の画像により構成される物語の不可欠の一部を形成し,及び

(b)当該一連の画像全体について,性的興奮の目的のためだけに,又は主にそのために制作されたと合理的に推定されるべき性質のものではない場合,

画像は,当該物語の一部であることにより,それ自体を取り出した場合にはポルノグラフィックであると認められ得るとしても,ポルノグラフィックではないものと認められ得る。

(6)画像は,次の場合,本項に該当する。

   (a)児童の性器又は肛門部(genitals or anal region)にのみ,又は専らそれらに注目する画像である場合,又は

   (b)第7項に掲げられた行為のいずれかを描いている場合

〔第(7)項及び第(8)項略。児童の関与する性交及び性交類似行為の類を具体的に規定。ちょっと書くのに抵抗がありました。〕

 

 「児童」は,2003年法によって16歳未満から18歳未満に引き上げられたそうです(社安研16頁)。

 さらに,英国では,1988年刑事司法法160条1項において,「児童のいかがわしい(indecent)写真(photograph)又は擬似写真を所持する者は,罪を犯したものとする。ただし,第160A〔児童が16歳以上である場合の配偶者等に係る免責規定〕の適用を妨げない。」と規定されています(間柴8頁。なお,社安研87頁参照)。

「いかがわしい」は漠然としていて厄介です。「たとえ性行為を伴わない描写でも,「いかがわしい」とされることがある。例えば,性器等が露出していないものの,上半身は大き目のブラウスと一連のビーズを,下半身は下着のみを着けた,胸を誇示するような14歳の女児の写真,また,裸体主義者のみが集まる水泳プールで撮影された,性欲を喚起するようなポーズを取っていない7歳の男児の裸体の写真が,いずれも「いかがわしい」とされている。」と報告されています(間柴9頁)。

 英国法における定義には,我が三号ポルノの定義と同様の悩ましさがあるようです。

 

3 フランス

フランス刑法227条の23(社安研26頁参照)

頒布(diffusion)を目的として,未成年者(mineur)のポルノグラフィックな性質をもった画像又は表現物(l’image ou la representation)を定着(fixer),録画(enregistrer)又は伝達(transmettre)する行為には,5年の禁錮及び75,000ユーロの罰金が科される。画像又は表現物が15歳以下の者に係る場合は,当該画像又は表現物の頒布を目的としてされなかったときであっても,当該行為は処罰される。

同様の画像又は表現物を,いかなる方法であれ,提供し,利用可能にし,若しくは頒布し,輸入若しくは輸出し,又は輸入させ,若しくは輸出させる行為にも,同様の刑が科される。

未成年者の画像又は表現物を,不特定の公衆に向けて頒布するために,電子コミュニケーション網を使用した場合,7年の禁錮及び100,000ユーロの罰金が科される。

同様の映像又は表現物を利用可能にする公衆向け通信サービスを常習的に(habituellement)又は有償で利用し(consulter),いかなる方法であれ,同様の画像又は表現物を取得(acquérir)又は所持(détenir)する行為には,2年の禁錮及び30,000ユーロの罰金が科される。

本条に規定する違法行為が,組織的に行われた場合,10年の禁錮及び500,000ユーロの罰金が科される。

本条に規定する罪の未遂には,同様の刑が科される。

本条の規定は,外観(aspect physique)が未成年者のものである者のポルノグラフィックな画像にも同様に適用される。ただし,その者が,画像を定着又は録画した日に18歳である場合には適用されない。

 

 「児童ポルノの被写体となる年齢は18歳未満,若しくは18歳未満に見えるものが対象である。そして,当初は実在の児童を対象にしていたが,法改正によって未成年者を表現するあらゆる表現物に対象が拡大されており,架空の未成年を表現した絵や画像等も含まれるとされている。」とのことです(社安研26頁)。

 前記20031222日の欧州委員会枠組み決定のフランス語版においては,「児童ポルノ」にpédopornographieとの語が用いられていましたが,フランス刑法227条の23では当該語は用いられていません。

 

4 ドイツ

ドイツ刑法184b及び184c(社安研37頁から引用)

184b

子供による性行為,子供に対する性行為若しくは子供の目前での性行為を目的とするポルノ文書〔は児童ポルノ〕

184c

14歳から18歳までの者による性行為,このような者に対する性行為若しくはこのような者の目前での性行為を目的とするポルノ文書〔は青少年ポルノ〕

 

 ドイツ語では,児童ポルノは,pornographische Schriften, die sexuelle Handlungen von, an oder vor Kindern zum Gegenstand haben (kinderpornographische Schriften)ということになり,青少年ポルノは,pornographische Schriften, die sexuelle Handlungen von, an oder vor Personen von vierzehn bis achtzehn Jahren zum Gegenstand haben (jugendpornographische Schriften)ということになります。

 「ドイツでもアニメーションやマンガ等は児童ポルノの対象に含まれている。またヒアリングによれば,ドイツの法律では表現行為全般が対象になっているため,小説等の文章表現も対象になるとのことである」そうです(社安研37頁)。

 とはいえ,sexuelle Handlungen(性(的)行為)が児童ポルノ性を認定するための要素になっているという形で,児童ポルノの範囲は限界付けられているということでしょう。

 

5 イタリア

イタリア刑法600条の3(社安研44頁から引用)

(前略)

本条において未成年ポルノとは,媒体を問わず,現実の若しくは疑似のあからさまな性的な行為を行う18才未満の者のあらゆる表現,又は性的な目的のための18才未満の者の性的な部位のあらゆる表現を指す。

 

 「イタリアでは2012年8月に法改正があり,児童ポルノの定義として以上の文章が追記されている。これが追加されたことによって,アニメーションやマンガ,文章等の表現についても児童ポルノの対象となることとなった。また,対象が実在の児童ではなく,児童に見える者であっても,対象になる。」とのことです(社安研44頁)。

 

6 カナダ

カナダ刑法163.1条1項(社安研53頁参照)

(1)本条において,「児童ポルノ」とは次のものを意味する。

(a)電子的若しくは機械的手段のいずれによって制作され,されなかったかにかかわらず,写真,フィルム,ビデオ若しくはその他の視覚的表現であって,

(i)18歳未満であるか,若しくは18歳未満として描かれた者であって,あからさまな性的行為を行い(engaged in explicit sexual activity),若しくは行っているものとして描かれる者を見せるもの,若しくは

(ii)その主たる性格が,18歳未満の者の性器若しくは肛門部(a sexual organ or the anal region)の性的目的による描写であるもの 

(b)本法に基づく犯罪となる18歳未満の者との性的行為を唱導し,若しくは助言する(advocates or counsels)文書,視覚的表現若しくは音声記録

(c)その主たる性格が,本法に基づく犯罪となる 18歳未満の者との性的行為の性的目的による描写である文書,又は

(d)その主たる性格が,本法に基づく犯罪となる18歳未満の者との性的行為の性的目的による描写,提示若しくは表現である音声記録

 

 「この法律では,「写真,フィルム,ビデオ,又はその他の視覚的表現」が対象とされている。カナダ警察によると,アニメーションやCGであっても,この表現にあたるものであれば,児童ポルノの対象となるとされる。/また,同様に「18歳未満として描かれた者」が対象となっているため,実際には18歳を超えている場合にも,表現方法によっては児童ポルノの対象となり得る。・・・18歳未満に扮している20歳の女性であるという認識での所有は,児童ポルノの所有に当たることになる。」とされています(社安研53頁)。

 

7 平成19G8司法・内務大臣会議(ミュンヘン会議)閣僚宣言

 我が法務省のウェッブ・サイトに,「児童ポルノとの国際的闘いの強化に関するG8司法・内務閣僚宣言」(2007524日)が掲載されています。当該宣言中,児童ポルノの定義に関する部分は次のとおり。

 

 ・・・我々は,以下の事項を確保することにより,これらの国際文書によって確立された手段を国内法的実施に移す我々のコミットメントを改めて確認する。

 

 1 児童ポルノを,「現実の若しくは擬似のあからさまな性的行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない)」又は「主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現」と明確に定義すること。

 ・・・

 

 We re-affirm our commitment to implement into domestic legislation the measures established through these international instruments, ensuring that our domestic legislation:

 

1. Clearly defines child pornography as any representation, by whatever means, of a child engaged in real or simulated explicit sexual activities or any representation of the sexual parts of a child for primarily sexual purposes;

  ….

 

 前記イタリア刑法600条の3の規定は,上記宣言を承けたもののようですね。

 再掲すると,我が児ポ法2条3項3号の三号ポルノの定義は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」となっていますが,当該定義と前記閣僚宣言における児童ポルノの定義との関係はどうなるでしょうか。

児ポ法2条3項3号の「性的な部位」(=性器,肛門及び乳首並びにその周辺部,臀部並びに胸部)と閣僚宣言にいう「性的な部位(sexual parts)」とでは範囲が異なるでしょう。Sexual partsは,性器及び陰部(genitals and public area. 米国・欧州委員会の事例参照)又は性器及び肛門部(genitals (sexual organ) and anal region. 英国・カナダの事例参照)に限定されているものと解すべきではないでしょうか。Sexual parts sexy partsとは異なります。

  また,「あからさまな性的行為(explicit sexual activities)」は飽くまでも行為であって,児ポ法2条3項3号が対象とする「姿態」は,いくら性欲を興奮させ又は刺激するものであっても,通常やはりそれだけではあからさまな性的行為とはいえないでしょう。

 

 

弁護士 齊藤雅俊

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(前の記事からの続き)

 

2 児童ポルノ単純所持罪に係る立法者の意図探求の必要性

 しかしながら,「本法案による単純所持の処罰化条項が,規制目的を達するために必要最小限のものと言えるか,その妥当性には疑問を持たざるを得ません。〔児ポ法2条3項3号の〕いわゆる3号ポルノの規定は,本法案で一定の明確化を試みられたものの,依然として不明確さを残しています。その単純所持を処罰することは恣意的な捜査を拡大するおそれが大きく,処罰する必要のないものにまで広範に捜査の網を掛けることが否定できないものです。個人の私的領域にまで捜査機関が踏み込み,冤罪を生むことも懸念される」(2014617日の参議院法務委員会における仁比聡平委員(日本共産党)の法案に対する反対討論(第186回国会参議院法務委員会会議録2421頁))と批判されている児童ポルノ単純所持罪の前記関係条文については,どのような解釈が立法者においてされているのか,気になるところです。

法律の解釈に当たっては,民事法についてですが,「まず,文理解釈・論理解釈を試み,ついで立法者ないし起草者の意図を探求することが基礎的作業として必要」です(星野英一『民法概論Ⅰ(序論・総則)』(良書普及会・1993年)49頁)。いくら鋭い頭脳を誇る秀才であっても,文理解釈・論理解釈を云々しているだけではなお不十分であって,立法者ないし起草者の意図の探求までを広く行い得る強靭な知的基礎体力を有していなければなりません。我が国の民法学の伝統的解釈態度においては「立法者・起草者の意図を全くといってよいほど考慮しない」まま「適当にある「理論」を作ってしまって,各規定はその表現である,従ってそう解釈せよと論ずる」ことが多かったと批判されていますが(星野61頁),無論,現段階の法解釈においては,「基礎的作業」をないがしろにしたまま,「視点」やら「体系」やら,自らの「理論」に酔った決めつけ解釈は許されません。上記「基礎的作業」の結果,「それで特に今日でも差支えなければ,それによることとし,それでは今日妥当でなさそうなときに,規定の今日におけるあるべき解釈を求め」て,目的論的解釈がされるのが順序であるとされています(星野49頁)。

 ということで,児童ポルノ単純所持罪導入に係る立法者の意図,より具体的には,第186回国会における衆議院及び参議院の各法務委員会における議論(それぞれ2014年6月4日及び同月17日)をここに整理してまとめてみることにしました。とはいえ,これは飽くまでも一応のものであり,かつ,法的な作法云々には必ずしも厳密に従うものではないことを御了承ください。運よく来年(2015年)の春ころに,大勢の方に読んでいただけることを期待しています。

 なお,以下の記述での「衆法○」は,「第186回国会衆議院法務委員会議録第21号」の○頁という意味であり,「参法○」は,「第186回国会参議院法務委員会会議録第24号」の○頁という意味です。(ここで議事録の表題が,参議院側は「委員会会議録」なのに,衆議院側は「委員会議録」となっていますが,これは別にタイプ・ミスというわけではありません。国会において委員会が今のように重視されるようになったのは,やはり米国の影響を受けた現行憲法下であって(現行の国会法第5章の章名は「委員会及び委員」),現行憲法下設けられた参議院は「委員会会議録」と「委員会」をはっきり出しているのに対して,帝国議会以来の伝統を誇る衆議院はなお「委員会議録」という形を維持しているということのようです(議院法(明治22年法律第2号)第4章の章名は単に「委員」)。したがって,「第28回国会衆議院逓信委員会議録第27号」をもっともらしく「第28回国会衆議院逓信委員会会議録第27号」に変形させるような「校正」は,間違いであり,さかしげであるにもかかわらず(又はそうであるからこそ)対象の現物(この場合は議事録)に当たらなかった横着ゆえの残念な結果ということになります。)

 

3 児童ポルノ単純所持罪に関する国会審議のまとめ(コンメンタール風)

 

(1)児童の実在性要件

  ・・・児童ポルノの禁止法は実在の児童の保護を目的としたもの・・・(ふくだ峰之委員・衆法3;また61623,参法2。同旨,階猛委員・衆法13

  ・・・実在の子供の権利を守る,つまり,社会的法益を守るという立法ではなくて個人的法益を守る罪として考えて,この〔児ポ法〕立法をつくったわけでございます。(谷垣禎一法務大臣・衆法3

  ・・・客体となる児童については生存していることを要する・・・だからといって,死体はもう無制限にはびこらせていいということを我々も認めるわけではありませんので,こうした行為についてもちゃんと適切に規制していくようなことは立法府としてこれから取り組むべきことではないかと思っております。・・・(階衆議院議員・参法3

  CG等の創作物であったとしても,実在の児童の姿態を描写したと認められるものであれば,これはもう児童ポルノとして規制の対象になり得ると考えられます。(西田譲衆議院議員・参法8

  基本的には,被写体の児童が身元が特定されていることが要件ではない・・・(遠山清彦衆議院議員・参法12

  〔18歳未満の例えばアイドルの顔を使ったCGも児童ポルノに当たり得るのかとの質疑に対して〕・・・あくまで実在の児童を描写したものであるかどうかということでやはり判断をしなければなりませんので,たとえCGであったとしても,仮にそうであるのであれば児童ポルノに当たる場合があり得るということでございます。(西田衆議院議員・参法15

  

 

(2)児童の上限年齢を18歳未満から下げなかった理由

  ・・・既存の児童にかかわる条約,法律との整合性をとらなきゃいけないという立場からいいますと,まず,児童の権利に関する条約が,その対象となる児童を18歳に満たない者とすることを原則としております。また,日本の児童福祉法も,児童の定義というのは18歳に満たない者とされているわけでございまして,これらの基本的な条約,法律と今回の当該法改正案の目的から考えて,18歳未満の者をこの法律でも児童と捉えるということにいたしました。

  また,現実に,児童の年齢を18歳よりも引き下げた場合に,今度は処罰される対象が過度に限定されるおそれも出てくるというふうに思います。(遠山委員・衆法18

  平成25年でございますが,〔児童ポルノ事犯の年齢別被害児童は〕小学生以下が92人,中学生が272人,高校生が256人,その他が26人ということで,最近は中学生が中心になってきているというふうに考えることができるかなと思います。(宮城直樹政府参考人(警察庁長官官房審議官)・参法6-7

 

(3)年齢の錯誤

  ・・・16歳の女性が写っている写真集を20の写真集だと言って売って,購入した方が20だと思って買った場合は,児童ポルノを買ったという認識が本人にないんですね。ですから,故意でないので,処罰の対象にはなりません。・・・16歳なのに20のものだと売りながらも,買った人全員が,実は18歳以下の写真集を買ったと認識をしているような売り方をした場合は,買った人も処罰の対象になるんです。(遠山委員・衆法18

 

(4)児童ポルノ該当性判断の例

  まず,性的虐待が実際に行われているが,顔のみを写した動画ということでございますが,顔のみが描写をされていて性的部位が描写されていない場合には,本法に基づく児童ポルノには該当しないということになります。二つ目の,衣服を着けた児童に精子が掛けられているということでございますが,これもこの一事だけをもって児童ポルノに該当するとは判断ができません。三番目,動物の性器を触っているという例でございますが,これは,法律の中には「他人の性器等を触る」という表現がございますが,これににわかに該当するということはありませんので,この一事をもってだけで児童ポルノに該当するとはなかなか判断しにくいということでございます。それから,服の上からロープで縛られているということで,性器等の強調がないということでございますけれども,これも同じように,この一事だけをもって児童ポルノに該当するとは判断がしにくいと。最後の,性的虐待中の音声ですけれども,これも,「視覚により認識することができる方法により描写したもの」というのが児童ポルノの定義に入っておりますので,これもこのことだけをもって該当しないものと考えます。(遠山衆議院議員・参法9

 

(5)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の判断基準

  現行法の2条3項2号及び3号にいいます「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といいますのは,これは一般人を基準に判断すべきものと解されていると承知しております。(林眞琴政府参考人(法務省刑事局長)・衆法7;また,参法14

  ・・・一般人から見て性欲を興奮させ又は刺激すると言えるか否かの基準によってやっぱり判断される・・・1歳未満の乳児ということでございますけれども,その画像の内容が性欲の興奮又は刺激に向けられていると評価すべき特段の事情がない限りは児童ポルノに当たらない場合が多いのではないかと考えられます。(西田衆議院議員・参法8

  〔3歳児の場合〕・・・総合的に検討して判断すべきものであります。3歳だからという児童の年齢のみをもって判断すべきものではないということであります。(階衆議院議員・参法10

  〔Tバックを着けた女子高校生,まわし姿の男の子については〕・・・やはり,どうしてもこれは個別具体的な事由になってきますので,一概的にこの場で当たります,当たりませんということを判断するのは非常に困難でございますし,総合的にやはり判断しなければいけないところでございます。・・・(西田衆議院議員・参法8

 一般人というのはどういう人を指すのかということを問題にされるのかもしれませんけれども,そこはなかなかこういう人が一般人だということは言えないわけでありまして,外形で見ていくしかないと。つまり,その問題となっている児童ポルノとされるものの外形で見ていくしかない・・・(階衆議院議員・参法10

 

 

(6)「殊更に」

  「殊更に」とは,一般的には,合理的な理由なく,わざわざとか,わざととかいう意味と解されるところでございますが,これは,当該画像の内容が性欲の興奮または刺激に向けられていると評価されるものかどうか判断するために加えさせていただきました。

  その判断は,性的な部位が描写されているのか,あるいは児童の性的な部位の描写が画像全体に占める割合,例えば時間だったり枚数だったりですね,そうしたものの客観的要素に基づいてなされるというものと考えております。(ふくだ委員・衆法5

  ・・・モザイクに関してでございますけれども,これも一概にどの程度であればというのは個別の事案になってきますので非常にお答えづらいんでございますが,やはりそのモザイクのきめの細かさや粗さがどうかとか範囲がどうかと,そういったことを含めて判断していかなければならないものでございます。(西田衆議院議員・参法8

 

(7)「性的な部位」

  具体的には,まず,衣服の全部または一部を着けない児童の姿態のうち,児童の性器等,例えば性器あるいは肛門または乳首が露出をしているというものを真に可罰的なコアの要素と捉えつつ,性器等のみでは処罰範囲が狭過ぎて,例えば裸の児童を後方から撮影して性器等が写っていない場合まで対象外となってしまうことから,性器の周辺,例えば臀部だとか胸部などを含む児童の性的な部位にまで対象を今回広げさせていただいたということで御理解いただきたいと思います。(ふくだ委員・衆法5

 

(8)「強調」

  露出のみでは,性的な部位が隠れてはいるけれども強調,誇張されている場合などが含まれないということになってしまいますので,性的な部位の強調も対象とすることにさせていただきました。

  具体的にどのような場合が強調に当たるかについては,描写の方法を含めた写真及び映像等の全体からこれは判断されるものであると思っております。例えば、着衣の上から撮影した場合や,ぼかしが入っている場合や,児童が意識的に股や胸を強調するポーズをとっていない場合であっても,性器等やその周辺部を大きく描写したり長時間描写しているかどうか,着衣の一部をめくって該当する部分を描写しているかどうかなどの諸要素を総合的に勘案しまして,性的な部位を強調していると判断されることはあり得るというふうに考えております。(ふくだ委員・衆法5

 

(9)「,殊更に・・・強調されているものであり,かつ,」部分挿入の趣旨

  ・・・いわゆる3号ポルノについて,その定義をより明確にするため・・・(遠山委員・衆法2

  今回の2条3項3号の改正は,当該画像の内容が性欲の興奮または刺激に向けられているかを,性的な部位が描写されているか,児童の性的な部位の描写が画像全体に占める割合の客観的要素に基づいて判断をするために加えさせていただいたものでございます。このような判断は,従前,性欲を興奮させまたは刺激するものの該当性判断の一要素として行われてきたところでございますけれども,今回の改正は,このような判断を行うことを明記することにおきまして,3号ポルノの定義の明確化を図るという趣旨でございました。

  これによりまして,例えば,水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のために撮影をしたようなケースとか,あるいは,その画像の客観的な状況から内容が性欲の興奮または刺激に向けられていると評価されるものではない限り,殊さらに露出されまたは強調されているものとは言えずに,処罰の対象外になるということでございます。

  このように,「殊更に」との文言を追加することにより,画像の客観的な状況から3号ポルノの該当性判断を行うとの趣旨が明確になり,処罰の範囲をより明確にすることができるというふうに考えておるところでございます。(ふくだ委員・衆法5;また,参法2。同旨,遠山委員・衆法16

  ・・・児童の性的な部位の描写がずっと延々と続いているのか,静止画であればそこが強調されているのか,あるいは,PCのケースでいえば,発見された写真のうちどれぐらいの割合の枚数がそういう裸の写真であるか等々から,客観的な要素に基づいて判断をされなければいけないことだと考えております。(遠山委員・衆法19

  ・・・私どもの意識としては,結論から言うと,処罰範囲を狭めるという趣旨ではないというふうに考えております。(遠山委員・衆法16;また,19

 

10)文化芸術活動と児童ポルノとの区別

  具体的に,この第2条3項の第3号,いわゆる3号ポルノでございますけれども,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件,この判断についてでありますけれども,児童が実際に描写された画像等の全体から見て芸術性があるかどうか,もしくは芸術的表現の上で児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかどうかといったことを一つの考慮の要素として判断することになると考えられます。(西田委員・衆法16

 

11)「みだりに」

  ・・・児童ポルノを所持する場合であっても,例えば,・・・警察が捜査の過程で持っている場合とか,あるいは警察から依頼を受けて専門家の方々が鑑定をする場合であったりとか,・・・報道記者等が取材のために取得をするに至った場合であったりとか,・・・ホットラインセンターの業務であったりとか,・・・フィルタリングソフトの開発であったり,そういったことの過程で取得した場合,これは正当な理由があるものとして,この「みだりに」という規定には当たらないというものと解されると考えます。(西田委員・衆法17

  ・・・被害者の立場に立って被害告発のために弁護士が児童ポルノを所持する場合などは,正当な理由がある・・・(遠山衆議院議員・参法5

 

12)児ポ法3条の2の趣旨

  ・・・この条文は,性的搾取または性的虐待に係る行為が許されるものではないことを理念として宣言する規定であります。

  したがって,廃棄,削除等の具体的義務を課すものではありません。(階猛委員・衆法11。同旨,遠山衆議院議員・参法45

 

13)児童ポルノ単純所持罪導入の理由

  ・・・インターネットの発達により児童ポルノ被害に遭う児童の数がふえ続けていること,児童ポルノ単純所持罪を設けるべきとの国際社会の強い要請があること等に鑑み・・・(遠山委員・衆法2

  ・・・スウェーデンの女王陛下から,直接,日本はこのようなことを取り締まれないのかという御要請を受けたことが私ございます。(谷垣大臣・衆法3

  ・・・私からも,本日傍聴をされておりますアグネス・チャン日本ユニセフ協会大使初め関係者の皆様〔に〕・・・心から敬意を表したいと思います。(遠山委員・衆法7

  ・・・供給側を中心とした処罰対象とするだけでは児童ポルノを根絶するということはなかなか厳しい・・・需要の側の行為をも処罰対象とすることが必要・・・国際的な動向・・・(ふくだ衆議院議員・参法1。また,遠山衆議院議員・参法18

  〔G8での児童ポルノ単純所持禁止国は〕現時点で掌握している限りにおきましては,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア,イギリス,アメリカでございます。(ふくだ衆議院議員・参法2。また,遠山衆議院議員・参法18

  ・・・平成22年の6月11日には,国連の児童の権利委員会による報告書が出されまして,・・・この中で,日本において児童ポルノの所持が依然として合法であることに懸念が表明をされて,児童ポルノの所持を犯罪化すべきであるということが指摘をされておりました。(遠山衆議院議員・参法18) 

 

14)捜査機関の決意

  ・・・捜査の端緒としてはもちろん様々なものが考えられるわけでございますが,児童ポルノの例えば所持罪についていえば,例えば一般論として申し上げますと,児童ポルノを販売している者に対する捜査の際にその者が児童ポルノを販売した客のリストなどが発見されて,それが端緒となって児童ポルノを所持している者が判明すると,こういったことも考えられると思います。(林政府参考人(法務省刑事局長)・参法2

  〔18歳未満の少女が非常に露出度の高い水着を着用して,着たままでわいせつ性が高いポーズを取っている画像,映像などのいわゆる着エロは3号ポルノに当たるのかとの佐々木さやか委員の質疑に対して〕一般論として申し上げますと,今御指摘の着エロというもの,いわゆる着エロであるか否かにかかわらず,法の2条2項3号の要件を満たせば児童ポルノに該当するものと考えられます。そして,実際,捜査当局においても,この着エロであるか否かにかかわらず,児童ポルノ事犯についてその取締りに努めて適切に対応しているものと認識しております。(林政府参考人(法務省刑事局長)・参法6

  〔児童ポルノを所持していることが明らかであっても,性的目的があるかどうか,合理的な理由があるかないか分からない段階で,児ポ法に違反するかの捜査を実際行うケースというのはあるのかどうかとの質疑に対して〕・・・御指摘のような場合には,そのような目的があるのかどうかということにつきましてまさに捜査をしていくということになると承知をいたしているところでございます。(辻義之政府参考人(警察庁生活安全局長)・参法11

  我々の摘発する側といたしましては,仮に児童で,その児童の人定といいますか,どこの誰かさんだということが分からなくても,要するにその画像がまさに児童に係るものであると,もう児童ポルノであるということが分かればそれは摘発するものでございます。(宮城政府参考人(警察庁長官官房審議官)・参法15

 

15)「自己の性的好奇心を満たす目的」要件の趣旨

  ・・・例えば,嫌がらせなどによりメールでそういったものを送りつけられた場合,あるいは,本人がネットサーフィンをしている間に,意図しないアクセスで児童ポルノが自分のコンピューターに入ってしまう場合,あるいは,パソコンがウィルスに感染をして勝手に児童ポルノをダウンロードした場合,また,インターネット上の掲示板に児童ポルノが掲載された場合における,掲示板の管理者やサーバーの管理者が,自分がつくったサイトにそれが投稿されてしまうことによって事実上持ってしまうという場合がございます。

  そういった場合,それらを処罰するというのは合理的ではないということでございますので,処罰範囲を合理的に限定するために,「自己の性的好奇心を満たす目的で,」というものをつけて,所持の対象を明確化したわけでございます。(遠山委員・衆法7

  自己の性的好奇心を満たす目的を持たずに児童ポルノを所持するケースはあるかということですが,端的に答えれば,これはあり得ると思います。

  例えば,大学の研究者が研究目的で児童ポルノを,・・・所持するに至った場合。あるいは,マスコミの報道記者さんが取材の過程で,取材上の必要性から児童ポルノを所持するに至ったような場合ということもあり得るかと思いますので,それらは,自己の性的好奇心を満たす目的での所持ではないと認められた場合には,第7条1項の処罰規定は適用されないということでございます。(遠山委員・衆法8;また,参法6

  〔図書館,アーカイブス,報道機関,あるいは出版社が自分たちの出したものを歴史的にとっておくとかの形での所持〕のケースでは,そもそも,自己の性的好奇心を満たす目的という要件は満たさないことが想定されますので,第7条1項の適用の前提を欠くと考えております。(階委員・衆法11

  ・・・学術研究の目的で集めていても,実際には,客観的証拠から自己の性的好奇心を満たす目的を持って自己の意思に基づいて所持するに至ったと立証された場合は処罰の対象になり得るという理解・・・もし正当な業務行為であるとすれば,刑法35条上,違法性が阻却されるという解釈も私ども理解・・・(遠山衆議院議員・参法16

  ・・・所持の目的につきましては,所持の態様あるいは分量,それから所持している対象の内容等の客観的事情からの推認によって立証される必要がある,こういうことになっております。(遠山委員・衆法7;また,参法5-6

  ・・・先ほど来申し上げておりますとおり,客観的事情からの推認によって立証されないと,性的好奇心を満たす目的を持っているとは判ぜられないわけでございます。よって,捜査当局による自白の強要を誘発することはあってはならないということでございます。(遠山委員・衆法8

  ・・・自己の性的好奇心を満たす目的とは,当該事件において立件対象となる所持の時点においてその有無を判断すべきものであります。そしてその有無は,所持者の内心についての供述だけでなく,児童ポルノの所持の態様,分量,所持している対象の内容等の客観的事情からの推認により認定されるべきものであります。(階委員・衆法12;また,参法3

  ・・・単に婚姻関係にある男女が私的に記録で撮ったビデオを所持していることだけをもって,即この児童ポルノの禁止法の処罰対象になるとは考えにくいかと思っております。(遠山衆議院議員・参法16

 

16)「所持」

・・・自己の事実上の支配下に置くことをいう・・・自己の事実上の支配下に置いているかどうかという観点から,証拠関係で認定できるかどうかについて判断いたします。(椎名毅衆議院議員・参法12

 

17)「自己の意思に基づいて所持〔保管〕するに至った者」

  これは,所持あるいは保管開始の時点において,自己の意思に基づいて所持,保管するに至ったことが必要である,よって,この点を証拠により立証することを要するという趣旨でございます。(遠山委員・衆法8

  ・・・送りつけられた時点では自己の意思に基づくというものでなかったとしても,その後,メールに添付された児童ポルノ画像を開き,当該ファイルが児童ポルノであることを認識した上で,性的好奇心を満たす目的を持って,これを積極的な利用の意思に基づいて自己のパソコンの個人用フォルダに保存し直すなどしたときは,その時点で新たに自己の意思に基づいて所持するに至ったということが認められると考えております。(階委員・衆法11

  適用開始前から持っていて,仮に適用開始後,引っ越しなどで見つかったケース・・・その場合であっても,積極的な利用の意思に基づいて新たな所持,保管が開始されたと認められるかどうかということも重要なわけでございまして,そのような積極的な利用の意思に基づいて新たな所持,保管が開始されたと認められなければ,自己の性的好奇心を満たす目的という部分において否定されるということはあり得ると考えております。(階委員・衆法13

  ・・・自己の利用に向けた積極的な行為の有無というところが基準になるかと考えられます。・・・

  まず,当該行為のみをもって自己の利用に向けたと評価し得る事例でございますけれども,例えば,送りつけられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルをプリントアウトしたものをファイリングして書庫に置いていた場合,あるいは,送りつけられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルを受信フォルダに入れたままにしておいたが,当該添付ファイルを繰り返し閲覧していた場合,あるいは,送りつけられた児童ポルノ本を貸し倉庫を借りて預けていたような場合が考えられるかと思います。

  他方,当該行為のみをもって自己の利用に向けたと評価し得るかどうか微妙な事例としましては,まず,送りつけられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルをパソコンのフォルダ,USBメモリーなどに入れて保存した場合,こうした場合は,他のポルノ画像が入ったフォルダ,USBに入れた場合は,自己の利用に向けた行為と言えるであろうし,削除の趣旨でごみ箱フォルダに入れた場合には,それのみでは自己の利用に向けた行為とは言えないという意味において微妙だということです。

  あるいは,別な事例としましては,送りつけられた児童ポルノ本を開封して自宅に保管したような事例,こうした事例においては,他のポルノ本と並べてよく使う書棚に保管した場合には自己の利用に向けた行為と言えるであろうし,いずれ廃棄予定の不要な雑誌等を平積みしている場所に一緒に保管した場合などは,それのみでは自己の利用に向けた行為とは言えないということで,微妙なケースであります。

  さらに,三つ目の事例としましては,当該行為のみでは自己の利用に向けたと評価し得ない事例でございます。

  こうした事例は,まずは,送りつけられたメールの児童ポルノ画像の添付ファイルを開いたけれども,その後,削除せずにパソコン内にデータとして残っていた場合,あるいは送りつけられたメールがメールソフトの自動ソート機能でパソコン内に保存されていた場合,あるいは送りつけられた封筒を開封して児童ポルノ本と確認したがそのまま自宅内で放置していた場合,こうしたことのみでは自己の利用に向けたと評価し得ないと思います。(階委員・衆法20頁)

  ・・・ごみ箱から削除した上でファイル復元ソフト等を入れている場合・・・復元できるような特殊ソフトを保有した上で,これによって復元する意思を明確にしているというような事情があれば〔当該ファイルを自己の事実上の支配下に置いていると認めるべき〕特段の事情に該当する可能性があるものと考えます。(椎名衆議院議員・参法12

 

18)「自己の性的好奇心を満たす目的」と「自己の意思に基づいて所持〔保管〕するに至った」との関係

  ・・・この規定は,・・・自己の性的好奇心を満たす目的での所持罪との骨格を維持しつつ,その所持について,自己の意思に基づいて所持,保管するに至ったという文言を追加することとされたものです。

  「自己の性的好奇心を満たす目的」は,立件対象となる所持の時点での目的についての要件でありますが,「自己の意思に基づいて所持するに至った」とは,当該所持を開始した経緯及びその時点での認識についての要件であります。

  そして,両者の関係につきましては,自己の性的好奇心を満たす目的というものが,いわゆる目的犯としての構成要件を意味するものであるのに対しまして,自己の意思に基づいて所持,保管するに至ったということは,処罰範囲に限定をかけるもので,自己の意思に基づいて所持するに至った時期やそのような所持に至った経緯などを証拠により立証することを要請する趣旨であることを明らかにするものであります。(階委員・衆法11

 

19)「当該者であることが明らかに認められる」

  ・・・これは,取得の時期などを含めて,自己の意思に基づいて所持するに至った時期とか経緯などについて,できる限り客観的,外形的な証拠によって確定するべきであるという趣旨を明確にするために加えたものでございます。

・・・しっかりとした捜査に基づいて客観的な証拠が集められ,それに基づいて立証されなければいけない,こういう趣旨でございます。(遠山委員・衆法8。また,ふくだ衆議院議員・参法2

 

20)括弧書きの法的性質

  ・・・この括弧書きの法的性質については,その前半部分,すなわち,所持の開始のときに自己の意思に基づいているということを前半が規定しておりますけれども,それは客観的なことを定めているわけですが,後半部分では立証の程度について規定しているということであります。

  これを処罰条件と見るか,構成要件と見るかということについて・・・議論になりましたけれども,いずれでもないだろう,また,こういったことについて同様の立法例もないということで,結論としましては,この括弧書きの法的性質が必ずしも明らかではありませんねということになったわけです。(階委員・衆法21

・・・実質的にも,この規定の趣旨は性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持した行為についてその処罰範囲を括弧書きの条件を満たす者に限定するものである・・・(階委員・衆法21。また,ふくだ衆議院議員・参法2

 

21)共犯

  ・・・自己の性的好奇心を満たす目的を持たない者が,当該目的を持つ者,これが正犯でございますが,この正犯の行為を容易にして,これを加功したような場合に,当該目的を有しない者がその共犯者として処罰されることはあり得るものと考えております。(林政府参考人(法務省刑事局長)・衆法21

 

22)罪数

  ・・・児童ポルノの撮影,それから所持の各行為は,別個独立の行為としてそれぞれ1罪として処罰され,そして両罪は併合罪とされると考えております。

  ・・・強制わいせつ罪と児童ポルノ所持も,それぞれ1罪として処罰をされ,両罪は併合罪とされると考えます。(遠山委員・衆法18

 

23)1年間の適用延期の趣旨

  ・・・所持罪の新設に当たり,施行前から所持している児童ポルノについて罰則の適用前に適切に廃棄等の措置を講じていただけるよう・・・(遠山委員・衆法2;また,8-9,参法520

  〔取得当時は自己の性的好奇心を満たす目的があっても,〕立件対象となる1年経過後に性的好奇心を満たす目的がなければ,処罰対象にはならないということであります。(階委員・衆法12;また,参法3。同旨,遠山衆議院議員・参法5

  ・・・かつては自己の性的好奇心を満たす目的を持って児童ポルノを収集していて,現在も家のどこかに児童ポルノが保管されていると認識している場合であっても,罰則適用開始後の所持の時点において自己の性的好奇心を満たす目的がないときは処罰されず,そのような場合に,家捜しまでして見つけ出して廃棄することは求められないと解しております。(階委員・衆法12;また,参法3

 

国会における議論について,それぞれコメントを付けることも考えましたが,大部になることもあり,今回は素材として,皆さまにそのまま提供します。

しかし,一応これだけの作業をしたのですから,「児童ポルノ単純所持罪にくわしい弁護士」と今後自称してもバチは当たらないのでしょう。

 

 

弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所

東京都渋谷区代々木一丁目57番2号ドルミ代々木1203

電話:03-6868-3194

電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp

 「姦淫するなかれ」と云へることあるを汝等きけり。されど我は汝らに告ぐ,すべて色情を懐きて女を見るものは,既に心のうち姦淫したるなり。もし右の目なんぢを躓かせば,抉り出して棄てよ,五体の一つ亡びて,全身ゲヘナに投げ入れられぬは益なり。もし右の手なんぢを躓かせば,切り棄てよ,五体の一つ亡びて,全身ゲヘナに往かぬは益なり。(マタイ伝福音書527-530


1 児童ポルノ単純所持罪の導入

 今年(2014年)6月18日に児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律が第186回国会の参議院本会議で可決され成立し,同月25日に平成26年法律第79号として公布され,翌7月15日から施行されました(同法附則11項)。同法によって,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下「児ポ法」)の一部が改正され,いわゆる児童ポルノ単純所持罪が導入されたわけです。改正後児ポ法(題名が「児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」に改められています。)及び平成26年法律第79号における児童ポルノ単純所持罪に関する条項は,次のとおりです(なお,小括弧の数字は,後出の国会審議概要の整理に係る番号に対応します。)。


   (定義)

児ポ法2条 この法律において「児童」1とは,18歳に満たない者2)(3をいう。

 2 ・・・性交等(性交若しくは性交類似行為をし,又は自己の性的好奇心を満たす目的で,児童の性器等(性器,肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り,若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)・・・

 3 この法律において「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。4

  一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

  二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの5

  三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に6児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)7が露出され又は強調8されているものであり,かつ,9性欲を興奮させ又は刺激するもの5)(10


   (児童買春,児童ポルノの所持その他児童に対する性的搾取及び性的虐待に係る行為の禁止)

 児ポ法3条の2 何人も,児童買春をし,又はみだりに11児童ポルノを所持し,若しくは第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない。12


   (児童ポルノ所持,提供等)13)(14

児ポ法7条 自己の性的好奇心を満たす目的で15,児童ポルノを所持16した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者17)(18であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる19者に限る。)20は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で15,第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識できる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者17)(18であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる19者に限る。)20も,同様とする。21)(22

 〔第2項以下略〕


  (国民の国外犯)

児ポ法10条 ・・・第7条第1項・・・の罪は,刑法(明治40年法律第45号)第3条の例〔日本国外において罪を犯した日本国民に適用〕に従う。


  (両罰規定) 

児ポ法11条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関し,第5条,第6条又は第7条第2項から第8項までの罪を犯したときは,行為者を罰するほか,その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。


  (施行期日等)

平成26年法律第79号附則1条2項 この法律による改正後の第7条第1項の規定は,この法律の施行の日から1年間は,適用しない。23



上記児ポ法の改正に関しては,インターネット上の世論等で盛り上がりがあるものかと思いましたが,意外と反応は激しくはないようです。法改正が終わってしまえばもうすべてが終わった気分になってあとは淡々と適応していくということなのか,それとも児童ポルノ単純所持罪に係る規定の適用は来年(2015年)7月15日からなので(平成26年法律第79号附則12項),まだピンと来ず,その時が近づいてからにわかに慌てて騒ぎ出すつもりなのか。

(ちなみに,議員立法(議案提出者は衆議院法務委員長)である平成26年法律第79号の附則1条2項では,いきなり「この法律による改正後の第7条第1項」という表現が出て来ます。これに対して,これが内閣提出に係るものであったならば,「この法律による改正後の児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第7条第1項」とされていたでしょう(下線は筆者)。平成26年法律第79号附則4条以下を見ると分かるところですが,同法によって改正された法律は児ポ法に限られていません。なお,平成26年法律第79号と児ポ法とは別個の法律であって,前者の溶け込み残りの附則が後者の条文に続いて出てくるのは,六法編集者がそのように編集してくれるからにすぎません。)


(なお,この記事はブログ記事としては長くなり過ぎて1回でアップロードできなくなったので,2回に分けて掲載します。次の記事にお進みください。)

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