1 会社法の一部を改正する法律案の第185回国会への提出

 200651日から施行された会社法(平成17726日法律第86号)は施行後7年半余を経たところですが,その初めての本格的改正(ただし,他の法律の制定・改正に伴う会社法の部分改正は,既にいろいろ行われています。)に係る法案である「会社法の一部を改正する法律案」が,「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」と共に,20131129日,内閣から国会に提出されました(衆議院先議)。

 当該両法案は衆議院法務委員会に付託されています(同年125日)。

 上記両法案が提出された第185回国会の会期は2013128日をもって終了しましたが,当該両法案は閉会中審査に付されており(国会法472項参照),次の常会である20141月召集の第186回国会に継続され(同法68条ただし書参照),当該国会における審議を経ての法律の成立が予想されます(常会の会期は150日間(同法10条))。当該「会社法の一部を改正する法律案」の附則1条は「この法律は,公布の日から起算して16月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」と規定していますが,同文の附則規定を有していた会社法の前例においては,法律の公布から9箇月余で施行となっています。

 いずれにせよ,会社法の改正法が成立したときは,それに伴い,改正内容の研究及びそれに対する対応が必要になります。参考書籍も多々出版されることでしょう。企業法務担当者には,なかなか寧日はありません。


 会社法の一部を改正する法律案の提出理由

 今回の会社法の一部改正法案はどのようなものか,手っ取り早く大づかみに知りたいときは,法案に付されている「理由」を見るのが便宜でしょう(法務大臣による国会における法案の趣旨説明(「お経読み」)は第185回国会ではされていません。)。会社法の一部を改正する法律案に付された「理由」は,次のとおりです。



   理 由

 株式会社をめぐる最近の社会経済情勢に鑑み,社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等の強化並びに株式会社及びその属する企業集団の運営の一層の適正化等を図るため,監査等委員会設置会社制度を創設するとともに,社外取締役等の要件等を改めるほか,株式会社の完全親会社の株主による代表訴訟の制度の創設,株主による組織再編等の差止請求制度の拡充等の措置を講ずる必要がある。これが,この法律案を提出する理由である。


 法案の作成を担当した法務省としては,①監査等委員会設置会社制度の創設,②社外取締役の要件改正,③株式会社の完全親会社の株主による代表訴訟の制度の創設及び④株主による組織再編の差止請求制度の拡充の4点が今次会社法改正の目玉だと考えているようです。

 なお,上記①から④までのほか,前記「理由」の文章中の諸所にちりばめられている「等」には実は多様な改正内容が含まれていることに注意が必要です。学校の古文の授業では,朧化表現の「など」などには具体的な内容は無く,専ら表現をおぼろにするものと習ったわけですが,霞が関の官庁文の「等」には具体的な,そして時には非常に重要な内容が詰まっています。(監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)のうち株式について有価証券報告書提出義務のある株式会社であるいわゆる一流企業で最も問題になっているであろう,改正後会社法327条の2の「社外取締役を置いていない場合には,取締役は,・・・定時株主総会において,社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない」義務の導入は,「等」で読まれていることになります。) 


3 法律の改正に伴う「こっそり」改正

 一つの法律が改正されると,関係法令にも変動が及びます。そして,その際される各種法令における「関係条項」の改正は,専ら当該法律の改正に対応するために必要となる改正ばかりであるというわけではありません。実は,従来の立法ミスを改めるための,「こっそり」改正も含まれています。


(1)豚の密飼養一斉検挙とへい獣処理場等に関する法律の昭和42年改正

 例えば,伊藤栄樹元検事総長のエッセイ「つづいて,あれこれ」では,へい獣処理場等に関する法律(昭和23年法律第140号。現在の題名は,化製場等に関する法律)における「こっそり」改正の事例が紹介されています。

 へい獣処理場等に関する法律103号が「前条第1項の規定に違反した者」に対する罰則(1年以下の懲役又は3万円以下の罰金)を定め,同法91項(都道府県知事が指定する区域内で牛,馬,豚,めん羊,山羊,犬,鶏又はあひるを一定数以上飼養又は収容しようとする者は知事の許可を受けなければならないものとする。)の違反に備えていたところ(昭和34年法律第143号による改正後の規定),その後1962101日に第9条と第10条との間に第9条の2を挿入したときに,第103号の「前条第1項」を「第91項」に改正することを失念してしまっていたというケースの後始末です(第10条から見た「前条」は,「第9条」ではなく,「第9条の2」になってしまっていました。)。山口県下で豚の密飼養ケースを一斉検挙した際に,いざへい獣処理場等に関する法律103号に基づき起訴しようとした山口地方検察庁が同法の当該規定の上記不整合を発見し,法務省刑事局刑事課に照会があったものです。

 伊藤栄樹刑事課長は,罪刑法定主義の立場から,「「前条第1項の規定に違反した者」と規定している第10条第3号の規定は,遺憾ながら第9条第1項の許可を受けないで豚を飼養した者を処罰するのに有効と解釈することに疑問がある,したがって,今回のいっせい検挙にかかる無許可の豚飼養業者は,すべて不起訴処分にするほかはない」と回答する一方,同法を所管する厚生省に改正方を申し入れたのですが,「なかなか適当な改正のチャンスがなく,昭和42年になって,やっと同省所管の全く別の法律が改正される際,その附則で,こっそりと改正することになった。したがって,牛,馬,豚などの無許可飼養については,5年ばかりの間,罰則が死んだ状態になっていたわけである。」という次第であったものです(以上,伊藤栄樹=河上和雄=古田佑紀『罰則のはなし(二版)』(大蔵省印刷局・1995年)23-25)。過ちては則ち改むるに憚ること勿れ,とは現実には行われ難いことであったわけです(厚生大臣が正直に告白した場合,国会は大紛糾したでしょう。)。

 なお,伊藤元検事総長の「昭和42年になって,やっと同省所管の全く別の法律が改正される際,その附則で」との記述は実は不正確で,実際には,「許可,認可等の整理に関する法律」(昭和42120号)という省庁横断的な法律の本則の第16条で改正されたものです。多くの法律についてバラバラと改正されるものをまとめた法律の中に,こっそり紛れ込ませたということでしょう。

 また,1962101日のへい獣処理場等に関する法律の改正は,「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律」の施行(同法附則1項参照)によるものですが,同法86条により挿入されたへい獣処理場等に関する法律9条の2は,「政令で定める市の長が行なう処分についての審査請求の裁決に不服がある者は,厚生大臣に対して再審査請求をすることができる」旨の規定でした(行政不服審査法811号参照)。へい獣処理場等に関する法律9条の2は「許可申請の取扱いについて不服がある者は,厚生大臣に対して審査請求することができる旨」を規定していたという伊藤元検事総長の記述(伊藤=河上=古田・前掲24頁)は,ここでも若干不正確でありました。


(2)特殊会社に係る某法律24条の平成26年改正(予定)

 さて,今回の会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の第60条後段は,特殊会社に係る某法律について,次のように規定しています。



24条中「名義書換代理人」を「株主名簿管理人」に改める。


 これも,本来は「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成17726日法律第87号)で改正して手当てしておくべきであったところ,改正をし忘れた分を9年たってからつじつまを合わせる「こっそり」改正です。

 当該某法律の第24条は,現在,なおも次のようになっています(下線は筆者)。



24 第6条第1項又は第2項の規定に違反した場合においては,その違反行為をした会社の職員又は名義書換代理人名義書換代理人が法人である場合は,その従業者)は,50万円以下の罰金に処する。


 某法律の第61項及び2項は,外国人等議決権割合が3分の1以上になるような株式取得者の株主名簿への記載又は記録を禁止するものです。

 株主名簿管理人は,株式会社から委託を受けて「株式会社に代わって株主名簿の作成及び備置きその他の株主名簿に関する事務を行う者」です(会社法123条)。株式会社が新株予約権を発行しているときは,株主名簿管理人は「株式会社に代わって株主名簿及び新株予約権原簿の作成及び備置きその他の株主名簿及び新株予約権原簿に関する事務を行う者」になります(同法251条)。

 名義書換代理人の制度は,会社法の施行前の商法の旧規定によるものであって(株式についての名義書換代理人,新株予約権についての名義書換代理人及び社債についての名義書換代理人がありました。),会社法の施行に伴い,株式についての名義書換代理人及び新株予約権についての名義書換代理人の制度は,株式名簿管理人の制度に置き換えられています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律80条参照)。すなわち,会社法の施行された200651日以後には,株式についての「名義書換代理人」というものはなくなっていたわけです。

 某法律の第24条は罰則ですから,罪刑法定主義からすると,その有効性に疑義が生じないように,2005年の会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律においてしっかり手当てがされているべきものでした。しかし,某法律を所管する某省のお忙しい秀才官僚たちは,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案における関係条項の作成の際,会社法案の膨大さに唖然呆然うんざりして,「名義書換代理人」の「株主名簿管理人」への変化を見落としてしまったものでしょう。Menschliches, Allzumenschliches!(人間的な,余りに人間的な!)


(3)某法律施行規則の「こっそり」改正予備軍:「会社法第763条第1号に規定する新規分割設立株式会社が新設分割により新規分割する会社となる場合」(10条1項2号ハ)

 ところで,今回の会社法の改正に伴う,前記某法律を所管する某省のエリート官僚諸氏の大変かつ大切なお仕事は,会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案60条の作成で終わったわけではありません。当該某法律に係る省令(「某法律施行規則」)にも「こっそり」改正が必要な条項が存在しています。これらの条項も,会社法の改正に伴う省令改正に紛れて,きれいにする必要があります。

 例えば,某法律施行規則101項は,某法律に係る特殊会社が合併,分割又は解散の決議の認可を当該某省の大臣から受けようとするときは,同項各号に規定する事項を記載した申請書を当該大臣に提出すべきものと定めていますが,当該記載事項に係る同項2号に次のような規定が存在しています。



二 次のイからハまでに掲げる場合に応じ,当該イからハまでに定める反対株主の氏名又は名称及び住所並びにその者の所有する株式の数

 イ 

 ロ 

 ハ 会社が,新設合併により消滅する会社又は会社法第763条第1号に規定する新規分割設立株式会社が新設分割により新規分割する会社となる場合  同法第806条第2項に規定する反対株主


 「会社法第763条第1号に規定する新分割設立株式会社が新設分割により新分割する会社」とは何でしょう。意味不明です。また,会社法7631号にあるのは「新分割設立株式会社」であって「新分割設立株式会社」ではありません。会社法には「新設分割」はあっても(同法230号),「新分割」はありません。某省のエリート官僚たちの言語能力は,通常の日本語話者のそれとは次元の違うところにあるのでしょうか。

 実は,「会社法第763条第1号に規定する新分割設立株式会社が新設分割により新分割する会社」とは,会社法763条の第5号で定義されている新設分割会社のことであるものと解されます。某法律施行規則1012号ハの定めにある会社法806条は,消滅株式会社等における反対株主の株式買取請求について定めており,そこにいう消滅株式会社等とは,新設合併消滅株式会社,新設分割株式会社及び株式移転完全子会社であるところです(同法8031項)。

 会社法763条(同条は,株式会社を設立する新設分割計画において定めるべき事項を規定する。)5号の規定は次のとおり。



五 新設分割設立株式会社が新設分割により新設分割をする会社(以下この編において「新設分割会社」という。)から承継する資産,債務,雇用契約その他の権利義務(株式会社である新設分割会社(以下この編において「新設分割株式会社」という。)の株式及び新株予約権に係る義務を除く。)に関する事項


 読みづらく,分かりにくい規定です。

 最初の括弧書きが文を肝腎のところで分断しているので,「新設分割設立株式会社が新設分割により・・・承継する」という係り結びが見えにくくなっています。その結果,当該括弧書きの「新設分割会社」に係る定義の部分は「新設分割をする会社」にとどまるものではなく,「新設分割設立株式会社が新設分割により新設分割をする会社」が大きく一かたまりの定義部分となっている,との誤読を誘ったものと思われます(惜しむらくは,「新設分割をする会社(以下この編において「新設分割会社」という。)から新設分割設立株式会社が新設分割により承継する資産,債務,雇用契約その他の権利義務・・・」と書かれていれば,すっきりと読めたものでしょうか。)。

 会社法の施行に伴う某法律施行規則の改正のための省令案を起草することをノンシャランな上司から仰せつかった某省の若者官僚が,連日連夜大量,難解かつマニアックな会社法の条文に取り組まされて朦朧となった頭でもって同法における新設分割会社の定義について上記誤読をしてしまった挙句,某法律施行規則1012号ハにおいては「単に「新設分割会社」と書くよりも,そのそもそもの定義に噛み砕いて書き下した方が親切だろう」などと余計なことを考えてしまい,「新設分割設立株式会社」の定義は「会社法第763条第1号に規定」されている旨書き足した上,「新設分割」が何度も繰り返されるくどくどしさに魔がさして,適宜その単調さを破るべく「新分割」などという会社法にない概念を省令レベルにおいて創造しつつ,天使のように単純な「新設分割をする会社」ではなく悪魔のように難解な「会社法第763条第1号に規定する新規分割設立株式会社が新設分割により新規分割する会社」と起案して,当該某省におけるエリートぞろいの上司連に伺ったものと想像されます。えい,と目をつぶって手を放したところ,あら不思議,だれも当該条項について読み込まず,又は読んでもそのおかしさに気が付かないまま,当該伺い文書は課を出て,部を通り,局を出て,大臣官房を通って大臣決裁まで受けちゃった,ということでしょうか。大勢の机の上(あるいはパーソナル・コンピュータの中)を通ったはずなのですが,どうしたことでしょう。霞が関エリート官僚集団のこのような失態を図らずも明るみに出すとは,会社法恐るべし。

 なお,会社法の読みにくさ,分かりにくさ等に対する詳細な批判として,つとに,稲葉威雄元広島高等裁判所長官の『会社法の解明』(中央経済社・2010年)という分厚い本が出版されています。


4 おわりに

 某法律施行規則は,今回取り上げた部分のほかにも,会社法について深く考えさせる契機となる興味深い規定を多々有しています(某法律については,伝統的な当該方向等からの実定法学的アプローチの方が,「経済法」や「競争法」などという方面からの理念的アプローチよりも,法学的にはなお生産的であるようです。)。しかしながら,それらについていちいち書くと,また長過ぎるブログ記事になるように思われます。後日紹介する機会もあるでしょうから,今回はこの辺で切り上げましょう。

 会社法が改正されるとなると,法曹界・実業界のみならず,法務省以外のお役所もいろいろ忙しくしなければならなくなるというわけです。

画像 001
霞が関官庁街

 弁護士 齊藤雅俊
  大志わかば法律事務所
  東京都渋谷区代々木一丁目57番2号ドルミ代々木1203
  電話: 03-6868-3194 (法律問題に関して,何でも,お気軽に御相談ください。)
  電子メール: saitoh@taishi-wakaba.jp
 (関連:『コンメンタールNTT法』(三省堂・2011年)285頁・185頁)