2022年12月

 

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(起)「1年以上延滞」と「1年分以上延滞」との間

http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258052.html

(承)旧民法財産編3941

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258062.html

(転)フランス民法旧1154

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258084.html


 

5 民法405条に関し更に若干

 

(1)起草者意思

なお,我が現行民法起草者は,旧民法財産編394条は債務者保護のためには所詮役には立たぬものと冷淡に判断していました。「併し是は,矢張り始めからして元本の高を書換へさへ致しますれば何時でも高利貸の目的を達することが出来るのでありまして,幾らでも払ひましたものを元本に入れて実際一旦弁済して組入れることも出来まするし,又は唯(ママ)元本の数丈けを殖やして新たに書換へることも出来るのでありますからして,394条の規定と云ふものは利息制限法の精神を以て特別に債務者を保護すると云ふことの目的を達するには充分な力はあるまいと思ふのでございます。」と(民法議事速記録第17233丁表(穂積))。「貸主が借主のもとにいって今月分の利息を支払えと請求し,支払えないといったときに,元本に組み入れるなら我慢してやるといって承諾を得ることはきわめて容易であ」るわけです(我妻榮著・水本浩=川井健補訂『民法案内7 債権総論上』(勁草書房・2008年)150頁)。この間における準消費貸借の活用については,「既存の消費貸借上の債務を基礎として――多くの場合,延滞利息を元本に加え〔略〕――消費貸借を締結することもさしつかえない(通説,判例も古くからこれを認める〔略〕)。」と説かれています(我妻榮『債権各論 中巻一(民法講義Ⅴ₂)』(岩波書店・1957年(1973年補訂))366頁)。

むしろ民法405条は,債務者保護の旧民法財産編394条を換骨奪胎して反転せしめた,債権者保護のための規定とされています。「若し特約なきときは,濫に重利を附することを許さず。是れ他なし,当事者の意思の之に反すること多かるべければなり。然りと雖も,債務者が利息の支払を怠るも債権者は決して之に重利を附すること能はざるものとせば,債権者は尠からざる損害を被むり頗る不公平と謂はざるべからず。〔略〕故に本条に於ては」云々というわけです(梅三26-27頁)。第56回法典調査会で穂積は,「本案に於きましては,却て之を当然債務者が1个年分以上延滞致しました場合に,始め催告をしましても尚ほ之を払ひませぬときには,之を元本に組入れること(ママ)出来る,斯う云ふことに致しましたのでございます。〔略〕是は1个年分毎でなくても宜い。1个年又は1个年3个月でも何んでも一緒にやることが出来る。夫れから,特別の合意又は裁判所に請求すると云ふこともなくて,債権者が直ぐに之(ママ)出来る。即ち此手続が簡便になりまする。夫れから,本案に於きましては,決して高利貸に対して債務者を保護するとか云ふやうな精神(ママ)此処に這入つて居るのではないのでありまして,是は,当然斯の如く永い間払ふべき利息を払はずしてうつちやつて置きましたり何かする場合には,債権者は相当の保護を受けなければならぬから,1年分以上も延滞して催促しても尚ほ払はぬと云ふやうな場合に於ける債権者を保護する規則に致しましたのでございます。夫れで,此規則の上から見ましても,手続等のことに及ばぬのみならず,其精神に於ても既成法典とは違つております。」と述べています(民法議事速記録第17233丁表裏)。

上記穂積発言中「是は1个年分毎でなくても宜い。1个年又は1个年3个月でも何んでも一緒にやることが出来る」の部分は,ボワソナアドの前記解説(32)オ)においても旧民法財産編3941項について同旨が説かれていたところですが,「1个年分」を「1年分以上」として法文上も明らかにしたということでしょう。

「決して高利貸に対して債務者を保護するとか云ふやうな精神が此処に這入つて居るのではない」とは無慈悲なようですが,梅も,「新民法に於ては概して契約の自由を認むるが故に,利息制限法の廃止を予期せると同時に,重利の如きも敢て之を禁遏するものに非ず。故に,当事者の自由の契約に依れば,月月利に利を附するも可なり。」ということで,厳しい姿勢を示しています(梅三26頁)。金利の利率制限を不要とするのみならず,約定重利の場合における利息の元本への組入れ頻度に係る制限も不要であるとされているところです。

 

(2)最終組入れから1年未経過時点において最終弁済期が到来する場合に係る問題

何か余計な物が残ってしまうという感覚はいやなものです。

民法405条に基づく元本組入れが最後に行われた分の利息の後から発生する利息について,それに対応する元本存続期間の長さ(元本の弁済期限までの期間の長さ)が1年未満であるときにおける,当該利息の元本組入れの可否に係る問題があります。元本の弁済期限の経過によって利息は発生を止め,元本からは代わって遅延損害金たる遅延利息が発生することになります。したがって,利息が「1年分以上延滞」することにはもうなり得ません。当該残存利息について,そのままでは民法405条の適用はないことになります。

そこで遅延利息との通算を考えたいところです。大審院昭和1724日判決・民集21107頁は「民法405条ニ所謂利息ナル文字ニ付之ヲ観ルニ若シ之ヲ以テ約定利息ノミヲ指称シ遅延利息ヲ包含セサルモノトセハ債務者カ元本債務ニ付未タ履行遅滞ナク単ニ約定利息ヲ1年分以上延滞シタルトキハ債権者ハ催告シタル後之ヲ元本ニ組入ルルコトヲ得ルモ債務者カ元本債務ノ履行ヲ遅滞シ且遅延利息ヲ1年分以上延滞シタルニ拘ラス債権者ハ之ヲ元本債務ニ組入ルルコトヲ得サルコトトナリ従テ債務者トシテ情状重キ後ノ場合ニ却テ前ノ場合ニ於ケルカ如キ複利ノ責ヲ負担セサルコトトナリ正義衡平ニ合セサルヲ以テ同条ニ所謂利息中ニハ遅延利息ヲモ包含スルモノト解スルヲ相当トス」と判示し(下線は筆者によるもの),また,旧民法財産編3941項は「元本ノ利息ハ填補タルト遅延タルトヲ問ハス」と規定していたのであるから,利息と遅延損害金たる遅延利息とは民法405条において同一である,といえないでしょうか。

しかし,利息契約に基づく利息請求権と履行遅滞に基づく損害賠償請求権とはそもそも法的性質を異にし,それぞれ別個の訴訟物です。大判昭和1724日も,「民法ノ規定中ニ於テモ利息ナル文字ヲ以テ約定利息ノミナラス遅延利息ヲモ包含スル趣旨ニ用ヒタルノ例乏シカラス」との字義論の下,遅延利息は「経済上元本使用ノ対価トシテ」約定利息と「何等其ノ取扱ヲ異ニスルノ要ヲ見ス」とする経済上の同一性論及び上記の正義衡平論をもって理由付けとした上で,民法405条における「利息」なる同一の文字の下には,本来の利息に加えて遅延損害金たる遅延利息も「包含」されているとするものでしょう。同一名称下に2種のものがあるというわけです。名前が同じであっても,同一人物であるとは限りません。

「原審の確定するところによれば,本件においては,弁済期到来後に生ずべき遅延損害金については特別に重利の約束がなされた事実は認められないというのであり,その事実認定は本件記録中の証拠関係に照らして是認するに足りるし,また,利息の支払期を定めてこれについてなされた重利の約束が,当然に遅延損害金についても及ぶとする根拠がない旨の原審の判断もまた正当であるから,遅延損害金については単利計算によるべきものとした原判決に所論の違法はない。論旨引用の大審院判決(昭和1724日言渡,民集21107頁)は,無利息の貸金債権について生じた遅延損害金に対しても民法405条の適用があることを判示したものにすぎず,本件に適切でない。」と述べて利息と遅延損害金とを同一視しない最高裁判所昭和45421日判決・民集244298頁(上告代理人は上告理由において,「民法第405条に所謂利息なる文字には遅延利息を包含するものであり,利息に関する重利の特約は遅延利息にも及ぶ」と主張していました。)にも鑑みるに,利息と遅延損害金たる遅延利息とは異なるものと見るべきであって,したがって,利息と遅延利息とを当然のように通算して法定重利の規定の適用を考えることはできないのでしょう。

民法3752項(「前項の規定は,抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし,利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない。」)が利息と遅延損害金(損害の賠償)との通算を認めているではないかといっても,同項は同条1項の「利息」には遅延損害金は含まれないとの大審院の厳たる解釈ゆえに,それを前提として,明治34年法律第36号によって特に追加されたものです(梅謙次郎『訂正増補民法要義巻之二 物権編(第31版)』(私立法政大学=有斐閣書房・1911年)522頁参照。なお,大審院とは異なり,政府委員(文部総務長官)として当該法改正に関与した梅は,民法3751項の「利息」には遅延利息も含まれるものと解していました。)。ちなみに,大審院の当該解釈の根拠は,民法3751項には「利息その他の定期金」とあるので,同項の「利息」は定期金たる利息でなければならないということだったそうです(第15回帝国議会衆議院民法中改正法律案委員会会議録(筆記)第11頁(花井卓蔵委員))。利息と遅延損害金との通算規定は,関直彦,平岡萬次郎及び望月長夫の3衆議院議員による原提出案(「抵当権者カ債務ノ不履行ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スル権利ヲ有スルトキハ満期日ヨリ2年分ニ付亦抵当権ヲ行フコトヲ得」(第15回帝国議会衆議院議事速記録第10116頁))に対する平岡議員の最終修正提案によるものですが,同議員の認識では,その間の「〔梅〕政府委員ノ修正〔「抵当権者カ債務ノ不履行ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スル権利ヲ有スルトキハ最後ノ2年分ニ付亦抵当権ヲ行フコトヲ得」〕ニ依レハ約定利息ニ付テ2年遅延利息ニ付テ2年通シテ4ヶ年ノ利息ヲ請求シ得ルコトヽナルナリ」なので,「左ナクシテ只最後ノ2ヶ年分ノミニ抵当権ヲ行フモノナリ」ということを明らかにするためにされた提案なのでした(第15回帝国議会衆議院民法中改正法律案委員会会議録(筆記)第12頁。花井卓蔵が4箇年分について抵当権の行使が可能であるようにしたいと主張しましたが,梅政府委員は,4年間では「長キニ失スル」と反対していたところです(同頁)。)。そうであれば,起草者・平岡萬次郎の意思は,約定利息と遅延利息とは同じ利息だから当然通算されるのだが確認的に通算規定を入れるのだというものではなく,やはり,本来別のものを通算するために必要な規定を提案したのであったということになります。

以上のようなことであれば,1年分に達しない額のまま残された延滞利息は,新たな利息も遅延損害金もそこから生ずることのない全くの不毛の存在である🎴,ということになるのでしょう。

しかしこの点に関しては,旧民法財産編3941項に関するボワソナアドの次の見解が,注目すべきものであるように思われます。

 

 しかし,法はそれについて述べていないが,最終的な形で(d’une manière finale)利息が元本と共に履行期が到来したもの(exigibles)となったときには,当該利息は1年分未満であっても,総合計額(la somme totale)について,請求又は特別の合意の日から利息が生ずる,ということが認められなければならない。返還期限又は支払期限が1年内である(remboursable ou payable avant une année)貸金又は売買代金に関する場合と同様である。これらの場合においては,債務者は,この禁制がそこに根拠付けられているところの累増の危険にさらされるものではないからである。

 (Boissonade (1891), p.382

 

 旧民法について,ボワソナアドも利息(填補ノ利息)と遅延損害金たる遅延利息(遅延ノ利息)とを通算しての重利を認めないものの,元本弁済期限経過後の残存延滞利息については1年分未満であっても元本組入れを認めることによって,当該延滞利息を不毛状態から救い出そうとするものでしょう。財産編3941項により「1个年分ノ延滞セル毎」にしか利息の元本への組入れを認めなかった旧民法において斯くの如し,いわんや重利契約を原則自由とする現行民法においてをや,とはならないでしょうか。

 

6 連続複利法及び自然対数の底に関して

我が現行民法の起草者は重利に対して鷹揚だったわけですが,実は確かに,ある一定期間(例えば1年)につき一定利率(例えば元本の100パーセント)の借入れにおいて,その間における利息の組入れの頻度をどんどん増加していっても(組入れ間隔が当初の当該一定期間の1/nとなると,その間隔の期間に係る利率も当初の当該一定利率の1/nとなります(設例の事案について見ると,半年(1/2年)で利息組入れをすることとした場合,その半年の期間に係る利率は――100パーセントの1/2である――元本の50パーセントとなるわけです。四半期ごとに組入れの場合は,当該各3箇月間に係る利率は元本の25パーセントです。)。このように組入れの頻度が増えるとnの増加),組入れの間隔とその間隔期間に係る利率とが共に小さくなっていきます。),それにより返還額は確かに当初増えるものの(設例の場合,半年で組み入れると,1年で,返還額は元本の2倍ならぬ2.25倍となります。),組入れ数増加に伴う返還額の増加幅は減少を続け,最終的には発散することなく一定額に収束するのです。

利率年100パーセントでもってあらゆる瞬間に利息の元本組入れを行うこと(連続複利法(ヤコプ・ベルヌーイ(1654-1795)という数学者が命名しました(遠山啓『数学入門(下)』(岩波新書・1960年)105頁)。))とした場合,1年後に支払うべき額(利息は各瞬間に生ずると同時に元本に組み入れられていますので,利息の支払はないことになり,返還すべき最終元本額ということになります。)は,最初の元本額のe2.7183)倍となるのであって,それを超えることはありません。このeは,高等学校の数学で出て来た,自然対数の底という代物です。利率をr(年3パーセントならばr=0.03という形で示す。),期間をt(単位は年)とすれば,連続複利法でt年後に返還すべき額は,最初の元本額のe^rtert乗)倍ということになります(証明は――筆者が高等学校で習った数学は,「歌う〽数学」🐘でしかありませんでしたから――省略します。)。

利息制限法11号にいう年2割は,単利ですので,1年後の元利合計額は元本額の1.2倍です。しかし連続複利法であれば,1年後の最終元本額は,最初の元本額の約1.2214倍(=e^0.2)となります。同様に,年18分(同条2号)ならば,連続複利法による1年後の元本額は最初の元本額の約1.1972倍(=e^0.18)となり,年15分(同条3号)ならば,約1.1618倍(=e^0.15)となります。こうして見ると,重利の組入れ頻度を増加させていくと「負債の累増は厖大かつ真に恐るべきもの(énorme et vraiment effrayante)」となるとまでいうべきものかどうか。何はともあれ,たとえ1年ごと(年1度)の組入れであっても重利を認めてしまう(民法405条の法定重利)という決定的な一歩を踏み出してしまうのであれば――組入れ頻度が無限大の連続複利法であっても債務者の負担の増加には限界があるのですから――それ以上組入れ頻度について神経質になる必要は,あるいはなかったかもしれません(年15パーセントの利率での借金が連続複利法で増える場合,t年後には最初の元本の約1.1618^t倍になるのに対して,組入れ頻度を法定重利並みの1年ごとに1回に制限した重利の場合であってもt年後には1.15^t倍となります。)。すなわち,連続複利法による場合の増加幅までも吞み込んで割り切ってしまえばそれまでのことである,とはいえないでしょうか。

なお,我妻榮は,利息制限法による重利の制限に関して説明し,「〔元本額9万円の1年間貸付債権につき〕もし約定利率が年18分であるときには,右と同一額まで〔利息制限法による最高利率である年20パーセントで計算した18000円に達するまで〕は,〔1年以内に組み入れる〕重利の特約も効力をもつことになる。」と述べていますが(我妻47-48頁),上記の1.1972倍(e^0.18)の数字と対照してみると,例として適切なものではないことが分かります。当該我妻設例の場合においては,1年以内に組入れを行う重利の特約の結果が利息制限法違反になること(組入れ総額(元本増加額)が18000円を超えること)は,組入れ回数をどんなに増やしても――連続複利法であっても――そもそもあり得ないことなのでした。

 

7 蛇足

 最後に,現行民法405条の富井政章及び本野一郎によるフランス語訳を見てみましょう。 1年分以上」のところが,pour une année au moins”であってpendant une année au moins”ではないことに注意してください。

 

Art. 405 – Lorsque le débiteur omet de payer, pour une année au moins, les intérêts arriérés, malgré la sommation du créancier, celui-ci peut les ajouter au capital.

(債権者の催告にもかかわらず,債務者が少なくとも1年分の延滞利息の支払を怠ったときは,債権者は当該利息を元本に組み入れることができる。)

 

 また,ここまで我慢して読み通された読者であれば,「法定重利について,利息が1年以上滞納されるときに,債権者は,催告を経て,その間に発生する延滞利息を元本に組み入れることができる(405条)。」というような晦渋な表現(磯村編165頁(北居))についても,その意図せられているところを行間から読み取ることができるでしょう。

 なお,不図気が付くと,来年(2023年)は,我妻榮の歿後50周年(1021日)及び初洋行(米国ウィスコンシン州)100周年,磯部四郎🎴の歿後100周年(91日)並びにボワソナアドの来日150周年(1115日)に当たるのでした。民法学の当り年になるものかどうか。いずれにせよ,民法は弁護士の重要な飯の種の一つですので,学界とは無縁ながら,筆者は筆者なりに研究を進め,工夫を重ねねばなりません。

 と書きつつ実は,本稿関連で,民法405条と利息制限法1条との関係,具体的には最判昭和45421日の研究が残っています。「最高裁は,年数回利息の元本組入れの約定がある場合につき,組入れ利息とこれに対する利息との合計額が本来の元本に対して〔利息制限〕法の制限利率を超えない範囲においてのみ有効とした(最判昭和45421日民集298頁(年6回組入れをする))。」(星野英一『民法概論Ⅲ(債権総論)』(良書普及会・1978年(1981年補訂))19-20頁)と簡単に紹介されるだけでは済まない難しい問題が,筆者にとって,当該判決及びその対象となった事案にはあったのでした。その点について,どうしたものかと思うところを書いてみれば,稿を継ぐほどに論点も論旨も拡大発散してしまい,連続複利法の場合のようにある一定の結論にきれいに収束してはくれそうもない状態にあるのでした。

 

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(起)「1年以上延滞」と「1年分以上延滞」との間

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(承)旧民法財産編3941

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4 フランス民法旧1154

旧民法財産編3941項がそれに由来するフランス民法旧1154条は,次のように規定していました。(他方,同法旧1155条は,我が旧民法財産編3942項及び3項に対応する条項です。)

 

  Art. 1154  Les intérêts échus des capitaux peuvent produire des intérêts, ou par une demande judiciaire, ou par une convention spéciale, pourvu que, soit dans la demande, soit dans la convention, il s’agisse d’intérêts dus au moins pour une année entière.

  (元本の利息であって発生したものは,裁判上の請求又は特別の合意により,利息を生ずることができる。ただし,請求又は合意のいずれも,支払を要すべき(未払)利息であって少なくとも丸1年間分のものに係るものでなければならない。)(翻訳上難しかったのが“intérêts dus au moins pour une année entière”の部分です。ここでは“pour”が用いられていて“pendant”ではありませんから,「支払を要すべき利息であって少なくとも丸1年間分のもの」であって,「少なくとも丸1間延滞した利息」ではないものと判断しています。)

 

なお,フランス民法旧1154条の文言が,フランス語で読むと(むしろフランス語で読むのが本当なのですが。),重利許容の高らかな宣言から始まる形となっているのは,「複利(anatocismus)の契約は前51年の元老院議決より禁止せられている。」(原田157頁)とのローマ法以来の旧習を打破するのだとの意気込みを示すものでしょうか。

実は,共和暦12(ブリュ)(メール)11日(1803113日)の国務院(コンセイユ・デタ)の審議に付されたフランス民法旧1154条対応条文案(「第511項」)は,“Il n’est point dû d’intérêts d’intérêts.(「利息の利息によって支払が義務付けられることはない。」)と規定するものだったのでした(Procès-Verbaux du Conseil d’État, contenant la discussion du Projet de Code Civil, An XII. [Tome III], Paris, 1803; p.213)。これが,共和暦12霜月(フリメール)16日(1803128日)にビゴ=プレアムヌ(Bigot-Préameneu)から提出された修正案(「第55条」)においては,既にフランス民法旧1154条の条文となっています(Conseil d’État, p.322)。その間,霧月11日の国務院での審議(Conseil d’État, pp.256-261)においては,どのような議論がされていたものか。以下御紹介します。

 

ずルニョ(Regnaud)が,実際には終身年金権の年金については利息が認められていると言い出し,当該例外が認められます(我が旧民法財産編3942項参照)。

次にペレ(Pelet)が案文について,利息を締めて(liquider)元本に組み入れるという現に存在している慣行を廃止しようとしているのか,債権者が利息を元本に組み入れることによって強制執行による困難から債務者を免れさせてやるということもあるのだ,それに,利息が農地や建物の賃料よりも不利に扱われるのはなぜなのだ,と疑義を呈します。

ここでカンバセレス(Cambacérès)第二統領(第一統領は,あのボナパルトです。)が,原案511項の意味に係る考察を述べます。いわく,「当該規定は,専ら,裁判官が利息の利息の支払(une condamnation d’intérêts des intérêts)を命ずることを妨げようとするものですね。例えば,何年も延滞している金額及びその支払遅滞を理由とする利息の支払を債権者が求める場合,裁判所は,その双方を彼に認めます。しかし,裁判所は,元本から生じたものの支払の遅滞に係る利息〔利息の利息〕を同様に彼に認めることはできません。とはいえ,例えば新たな合意によって両当事者が共に取り決め,かつ,例えば元の元本に,既発生の利息を加え――当該新たな信用の対価たる利息に係る約定と共に――その全てについて債権者が債務者に対して新たな信用を供与した場合においては,当該約定がその効力を有すべきことについての疑問は全くありません。」と。

いい男(長谷川哲也『ナポレオン~覇道進撃~第4巻』(少年画報社・2013年)60-61頁参照の当該発言に対し,ビゴ=プレアムヌ及びトレイラアル(Treilhard)が,起草委員会(la section)はその意思をもって起草したのです,と直ちに協賛の意を表します。

マルヴィル(Maleville)は,当事者の合意によるものをも対象に含む重利全面禁遏原則の歴史を説きつつ,「タキトゥスいわく,Vetus urbi faenore malum(この都市に,利息による害悪は,古くからのものである)と。家庭,更には国家を滅ぼすためにこれより確かな手段はないのであります。ささやかな負債であっても,絶え間なく(sans cesse)新たな利息を他の利息について生じさせることにより,そのようにして当該負債を増大させしむることを貪欲な債権者に許したならば,その累増の厖大及び迅速(l’énorme et rapide progression)は,ほとんど観念しがたいものとなるのであります。」と獅子吼します。しかし,結論としては,重利は結局根絶できぬものではある,しかし法律で正面から認めることはやめてくれ,ということになります。いわく,「もちろん,監獄に入っている(dans les fers)債務者に請求する債権者が,彼に対し,既に生じた利息を,彼に貸し付けられた新たな元本として認めさせることを妨げることはできません。しかし,法が,彼にこの方法を示してやる必要はありません。また,何よりも,法は,利息の利息を正式かつ直截に肯認してはならないのであります。」と。

カンバセレスの発言にウホッと思ったのか,ペレは,自分の発言は,当事者による組入れについてではなく,裁判によって精算された(liquidés judiciairement)利息についてされたものである,と述べます。

ルニョは,示談によるものであっても裁判によるものであっても,全ての清算(liquidation)について,負債となる金額の総体について利息を生ぜしめるという同様の効果があるようにすべきだ,と求めます。裁判でも認めろというわけですから,すなわちこれは,原案に対する修正要求です。

これに対してレアル(Réal)は,利息が利息を生むようにするために債権者が3箇月ごとに債務者を出頭させるというような極めて大きな濫用がされるだろう,と後ろ向きかつ原案維持的な予言をします。

ここでガリ(Gally)が,債権譲渡の結果,譲渡された利息には利息が生ずるようになるのではないかと言い出し,マルヴィル,ジョリヴェ(Jollivet)及びトロンシェ(Tronchet)の間でひとしきり議論があります。

当該脱線的議論の終わったところで,ビゴ=プレアムヌが,清算された利息についての利息は支払が義務付けられるべきものかどうか国務院の見解が示されるべきだと発言したところ,ベルリエ(Berlier)は当事者の合意によるものと裁判によるものとを分けて議論すべきだとの原案維持的な分類学説を表明し,これに対してルニョは,両者間に違いはなかろうと言います。ベルリエは,合意による場合においては債務者がいったん弁済すると同時に同額の新たな利息約定付き貸付けがされたものと擬制されて新たな信用の供与がされたことになるが,裁判においては専ら既発生の利息債権に係る執行力が認められるのであって債務者にその支払が猶予されるわけではない,それに加えて裁判の通達と同時に更に利息に利息が当然発生するものとされるならば債務者に酷に過ぎると反論します。

トロンシェは,古法ではそのような(当事者の合意によるものと裁判によるものとの)区別はなかった,専ら高利(usure)対策であった,利息の混合された金額についての利息の支払を求めることはパリでは認められていなかったことは争われない,風俗が改善されていないのに立法者が(重利に対して)より甘い顔を見せるべきではない,と述べます。トロンシェは重利反対派です。

ペレは,自分の発言は高利に関するものではなかったと言います。

重利容認派のルニョは,(いわゆる高利に対する)過酷な政策は風俗を矯正するよりは悪化させ,悪意の債務者に支払を怠ることに利益を見出さしめ,債権者及びその家族に害を及ぼすであろうと述べるとともに,更に,しかし利息の利息は当然に発生すべきものではないので,利息を元本に組み入れる請求(筆者註:この請求は,裁判外のものでよいのでしょう。)の日から生ずるものとするのがよい,と提案します。

ここでカンバセレスが,高利について,「金銭の利息が法律で一定されない以上,大多数の約定が高利的であるものと判断することは難しいでしょう。商業界の動きは,利息の評価について,不確か,かつ,しばしば幻想的なものにすぎない基準しか与えてくれないものですから。」と述べます。ルニョの提案に対しては,利息が当然のものとして債務者の同意なしに生ずるようになるという点において不正義を生ずることになってしまう,というのが第二統領の判断でした。

「しかし,両当事者が歩み寄り,既発生の利息を元本に組み入れると共にその全体について合理的かつ穏当な利息を約束することによって支払を猶予することに合意したときは,これは債権者が債務者に供与した新たな元本となります。ですから,元本に本来は利息として支払われるべきであったものが混合されているからといって,債務者の誓言がこのような取決めを駄目にできるということは不正義ということになります。」というカンバセレス発言に続く,ビゴ=プレアムヌの次の言明が注目されるべきものです。

 

少なくとも丸1年間分の未払利息(intérêts dus au moins pour une année entière)に係るものでなければ,利息の利息は支払を求められ,又は合意される(être exigés ou convenus)ことができない,という手当てを少なくともする必要がありますね。

 

トロンシェ及びレアル並びにマルヴィルへの譲歩でしょうか。フランス民法旧1154条並びに我が旧民法財産編3941項及び現行民法405条の起源は,実にここにあったのでした。

なおもトロンシェが,「この,発生した利息と元本との自発的併合というやつが,一家の息子をすってんてんにするために高利貸しが用いた手段なんですがね。」と否定的な発言をしますが,いい男・カンバセレスは,「しかしここでは,成熟し,かつ,彼らの権利を行使している人々が問題となっているのですよ。」と述べ,トロンシェ発言を未成年者保護的な対策に係るものとして片付けてしまいます。第二統領は更に「高利を禁遏しようとするならば,何よりも利率を一定し,それを超過する者に対する刑罰を再導入しなければなりません。そこまでしなければ,全ての対策は幻想です。」と述べます。ウホッ,利息の元本組入れ頻度の制限は,高利禁遏策として,いい男からは高く評価されてはいないもののようです。あるいは「いい男」は,後記6で御紹介するeにちなんで,重利問題の場面においては「e男」と呼んでもよいものでしょうか。

ラクエ(Lacuée)が,債務者に甘すぎると債権者が借金をしなければならないことになって彼自身が債務者になってしまう,と述べて,重利容認の方向に背を押します。

最後にトレイラアルの発言(利息の支払請求の裁判においては当該利息の利息が認められていたこと及び利息付き貸付けが認められるようになった以上は当該貸付けに係る利息についても従来からのものと同様の規整がされるべきことについて)があって当日の審議は終了し,原案は起草委員会の再考に付されたのでした。


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(起)「1年以上延滞」と「1年分以上延滞」との間

http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258052.html

 

3 旧民法財産編3941

 

(1)法文

 民法405条は,「〔旧民法〕財産編第394条を修正致したものであります」とされています(第56回法典調査会における穂積陳重説明。民法議事速記録17232丁裏)。旧民法財産編394条は,次のとおりです。

 

  第394条 要求スルヲ得ヘキ元本ノ利息ハ填補タルト遅延タルトヲ問ハス其1个年分ノ延滞セル毎ニ特別ニ合意シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル為メ元本ニ組入ルルコトヲ得ス

   然レトモ建物又ハ土地ノ貸賃,無期又ハ終身ノ年金権ノ年金,返還ヲ受ク可キ果実又ハ産出物ノ如キ満期ト為リタル入額ハ1个年未満ノ延滞タルトキト雖モ請求又ハ合意ノ時ヨリ其利息ヲ生スルコトヲ得

   債務者ノ免責ノ為メ第三者ノ払ヒタル元本ノ利息ニ付テモ亦同シ

 

 フランス語文は,次のとおり。

 

394  Les intérêts, tant compensatoires que moratoires, des capitaux exigibles, ne peuvent être capitalisés, pour porter eux-mêmes intérêts, qu’en vertu et à partir d’une convention spéciale ou d’une demande en justice faites seulement après une année échue, et ainsi d’année en année.〔なお,山田顕義委員長(司法大臣)に率いられた法律取調委員会が審議の対象としたボワソナアドの原案は,“Les intérêts des capitaux exigibles, tant compensatoires que moratoires, ne peuvent être capitalisés, pour porter eux-mêmes intérêts, qu’en vertu et à partir d’une convention spéciale ou d’une demande en justice faites seulement après une année échue et ainsi d’année en année.”であって(Boissonade, Projet du Code Civil pour l’Empire du Japon, accompagné d’un commentaire, t.2, 2ème éd., Tokio, 1883; pp.313-314),一部の語順及びカンマの有無の違いを除いて同文です。〕

Mais les revenus échus, tels que le prix des baux à loyer ou à ferme, les arrérages des rentes perpétuelles ou viagères, les restitutions à faire de fruits ou produits, peuvent porter intérêts à partir d’une demande ou d’une convention, lors même qu’ils seraient dus pour moins d’une année.

Il en est de même des intérêts de capitaux payés par un tier en l’acquit du débiteur.

 

 現行民法405条に対応するのは,旧民法財産編3941項ということになります。(旧民法財産編3942項は「土地建物の貸賃とか云ふやうなものは直接に利息とは云へぬ。無期又は終身の年金権の年金は,或場合に於ては利息でありませうが,又其利息でない場合もある。返還を受く可き果実又は産出物,こんなものは利息ではありませぬから例外として掲(ママ)なくても宜しい。ということで削られ,同条3項は「債務者の免責の為め第三者の払ひたる元本の利息,是は成程始めから見れば利息でありまするが,払つたものから見れば払(ママ)た金高が元本になりますから例外とはならない。」ということで削られています(民法議事速記録第17234丁表(穂積))。)

 

(2)解義

 しかし,旧民法財産編3941項もなかなか難しい。

 

ア 「要求スルヲ得ヘキ元本」:流動資本と固定資本との区別等

まず,旧民法財産編3941項にいう「要求スルヲ得ヘキ元本」とは何ぞやといえば,“les capitaux exigibles”ということですので,“exigible”を「支払期限の来た」の意味に解せば,同項で問題となっている利息(intérêts)は,実は,支払期限の経過した元本に係る遅延損害金のことであるのだなということになってしまいます(民法4121項)。確かに,旧民法財産編394条は,「人権及ヒ義務」(これは,「債権及び債務」の意味です。)の部における「義務ノ効力」の章中「損害賠償ノ訴権」の節における一箇条です。(ちなみに,「遅延利息債務も,一般の遅延賠償債務と同じく〔略〕,催告によって遅滞となり,その時から,それについての遅延利息を支払う〔のではなく〕,第405条を適用して,元本に組み入れることができるだけ」とされていますが(我妻139),旧民法以来の沿革からしてもそうなるということでしょう。ただし,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないものとされています(最判令和4118日)。)

 しかし,旧民法財産編3941項の“exigible”は,特別の意味で使われているのでした。ボワソナアドの解説にいわく,「法文は,ここではexigibleの語を,フランス民法がところどころで(第529条及び第584条参照)それを用いている意味で用いている。すなわち,支払期限(l’échéance)が到来していて元本の請求がされ(être demandé)得るもの,ということをいわんとするものではない。むしろ,「債権者が支払を受けることを自ら禁じている」ものである年金権の元本(第1909条)とは異なるものであって,今後のある期日等において支払期限が到来するものである,ということをいわんとするものである。」と(Boissonade (1883), p.342 (i))。年金権については旧民法財産編3942項において規定されていますところ,“exigible”の語は,同条1項の元本と同条2項に係る「元本」との違いを表現するために用いられたもののようです。利息を生ずべき「元本債権は,特定物の返還を目的とするもの(固定資本)ではなく,同一種類の物を返還させるもの(流動資本)でなければならない」のです(我妻42)。(なお,ボワソナアドは1891年のProjet du Code Civil pour l’Empire du Japon, accompagné d’un commentaire, t.2, nouvelle éd, Tokio, 1891においては,従来の“capitaux exigibles”“capitaux dus, même exigibles”に改めるべきものとしています(p.350)。フランス語のdûは,支払を要するものであっても,履行期にまで至っている(exigible)必要は必ずしもないもののようです。)

 

イ 「損害賠償ノ訴権」の節にある理由:「債権の目的」の節の未存在

 遅延損害金に限られないものとしての,利息に係る重利に関する規定が「損害賠償ノ訴権」の節に設けられていることの問題性は残ります。しかしこれは,単に,母法であるフランス民法においても,我が旧民法財産編394条に対応するその旧1154条(後記4参照)及び旧1155条が「債権の効力について(De l’effet des obligations)」の節中「債務不履行により生ずる損害賠償について(Des dommages et intérêts résultant de l’inexécution de l’obligation)」の款に規定されていたことによるものでしょう。

我が現行民法第3編第1章第2節たる「債権の効力」の節には「債務不履行の責任等」,「債権者代位権」及び「詐害行為取消権」の3款しかないところ,405条は,フランス民法流にこれらの款のどこか(「債務不履行の責任等」の款でしょう。)に押し込まれてしまうよりは,同章第1節たる「債権の目的」の節にある方が,確かに落ち着くようです。しかして,「債権の目的」の節を設けることは,我が現行民法における発明であったところです。

1895111日の法典調査会(第55回)において穂積陳重は,「前に一旦議定になりました目録には債権の効力丈けが挙げてあつたので御座います(ママ)本案に於きましては,どうも効力丈けでは債権に通(ママ)ます規則を挙(ママ)るのに狭ま過ぎてどうも不都合なることを認めました。夫故更に其目を増して債権の目的を其前に加へましたので御座います。」と紹介しています(民法議事速記録第17110丁裏)。続けてその「債権の目的」の節についていわく,「是は前に申しました通り新たに挿入しました(ママ)であります(ママ)既成法典には此債権の目的に関する(ママ)は格別なかつたのでありますが,其目的に関しまする規定は,多くは弁済の部に這入つて居つたの(ママ)あります。併ながら,債権の目的と云ふものは,弁済に関する規則(ママ)はありませぬで,初め債権の成立ちます時より一部分を為して居つたもので,初めより存して居るものでありますから,夫故に,債権自身の目的として初めより存するものに関する規定は此所に掲(ママ)た方が宜いと思ふ。又,既成法典には合意の効力の中に其目的に関する規定が掲げてありますこともありますが,是れは合意丈けに関しませずして,孰れの債権の目的に関することも矢張り此処に挙(ママ)ましたの(ママ)あります。諸外国の例に依りましても,契約の部分には,少なくとも債権の目的と云ふものをば別々の条に置いて居ります。而て其契約の目的と云ふ中にあります規定は,外の債権の目的の中にも通じます所が随分多くあるので,夫故に此処は債権の総則を置きました以上は,初めより債権の目的を為します実体を一つの(ママ)として置いたので御座います。」と(民法議事速記録第17111丁裏-112丁表)。第56回会合においても,法定利率に係る現行民法404条を「債権の目的」ではなく「債権の効力」の節に置いたらどうかという土方寧の意見に対して,穂積は駄目押し的に「場所は,是は何うしても目的物の所でなければ往かぬと考へます。債権の効力の方に規定すれば,書き方を替えて,如何なる場合に於いては此金銭債務の目的物に付き5分の利率を以て払ふことを要す,斯う云ふ工合に書けば効力の所に入れられぬこともありませぬ。併し,此処では然う云ふ利が生ずべき債権の目的になるのでありますから,夫故に此場所を撰んだのであります。」と述べています(民法議事速記録第17231丁表裏)。確かに,ある債権にはその効力として利息が生ずるものであるところですが,他方,遅延損害金はともかくも,目的のいかんを問わず全ての債権の効力として利息が生ずるわけではありません。

現行民法404条に対応する規定は,旧民法においては――財産編ですらなく――その財産取得編1862項に,「消費貸借」の節の一部として「借主ヨリ利息ヲ弁済ス可キノ合意アリテ其額ノ定ナキトキハ其割合ハ法律上ノ利息ニ従フ」と規定されていたものです(また,当該規定は,同編190条により「〔前略〕金銭又ハ定量物ノ義務及ヒ合意上,法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス」るものとされていました。なお,法定利息の利率を定める規定は実は旧民法中にはなく,旧利息制限法(明治10年太政官布告第66号)3条が「法律上ノ利息トハ人民相互ノ契約ヲ以テ利息ノ高ヲ定メサルトキ(トキ)裁判所ヨリ言渡ス所ノ者ニシテ元金ノ多少ニ拘ラス100分ノ6六分トス」と規定していました。同条において更に精確を期すれば「1ヶ年ニ付」との文言があるべきだったのですが,これは先行の同法2条に当該文言があるので省略されたものでしょう。ちなみに,旧利息制限法3条は,「明治10年第66号布告利息制限法第3条ハ之ヲ削除ス」と規定する民法施行法(明治31年法律第11号)52条によって削除されています(更に旧利息制限法は,現行利息制限法(昭和29年法律第100号)附則2項によって,同法施行の1954615日(同法附則1項)から廃止されています。)。)。金銭債権に関する現行民法402条及び403条の規定も「債権の目的」の節にありますが,当該両条に対応する旧民法財産編463条から466条までの規定は,「弁済」の節にありました。

 

ウ 填補の利息と遅延の利息と

「利息ハ填補タルト遅延タルトヲ問ハス」といわれれば,填補の(compensatoire)利息と遅延の(moratoire)利息とがあることになりますが,両者はそれぞれいかなるものか。そこでボワソナアドを尋ねれば,填補の利息は「貸し付けられた金銭に係る受益に対応するもの(représentant la jouissance d’argent prêté)」であり(Boissonade (1883), p.339; aussi, p.340),遅延の利息は「支払の遅れに対する補償(indemnité de son retard à payer)」ということのようです(Boissonade (1883), p.340)。利息が元本に組み入れられた後にそこから新たに生ずる利息(利息の利息)については組入れの事由によって填補の利息か遅延の利息かが分かれ,組入れが合意によるものならば「その場合一種の貸付けがされるのであるから」填補の利息であり,組入れが裁判によるものであれば遅延の利息である,とされています(Boissonade (1883), pp.341-342)。1888222日の法律取調委員会において鶴田皓委員が,填補のものとは「遅延ノ反対ヲ云フノデシヨ(ママ)ウ」と発言していますが(日本学術振興会『法律取調委員会民法草案財産編人権ノ部議事筆記自第29回至第34562丁裏),これは,おとぼけでしょう。

 いずれにせよ,旧民法財産編3941項は利息一般に関するものであって,同条についてボワソナアドは,「さてこれが,法によって債務者に与えられた,時の迅速及び利息の累進的蓄によって彼に対してもたらされる不意打ちに対する最終的防禦である。」と高唱しています(Boissonade (1883), p.339)。

 

エ 重利の制限

旧民法財産編394条が債務者のための最終的防禦(une dernière protection)といわれるのは,旧利息制限法には,最高利率に係る規制(同法2条:元金100以下(ママ)は年20パーセント以下,元金100円以上1000以下(ママ)は年15パーセント以下及び元金1000円以上は年12パーセント以下(大正8年法律第59号による改正前))はあっても(旧民法財産取得編187条の「法律ヲ以テ特ニ定メタル合意上ノ利息ノ制限」(同条1項)ないしは「法律ノ制限」(同条2項)です。),重利に関する規定はなかったからでしょう。

 (なお,旧利息制限法2条によって元本1000円以上の場合の上限とされた年12パーセントの利率は,ボワソナアドのいう古代ローマにおける通常の最高利率である月1パーセント(centesima usura)と同率ということになります(cf. Boissonade (1883), p.339)。すなわち,利率について「十二表法は利率の最高を月(新説)12分の1とする。〔略〕前346年以来は年2分の1となる。〔略〕共和政末より県に於て最高月100分の1usurae centesimae)とする規定現れ,ローマ帝政の通則となる。」とされていますところの(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)156頁),「ローマ帝政の通則」です。)

 旧民法財産編394条の目的は,ボワソナアドによれば,「anatocisme〔重利〕又は利息の組入れと呼ばれるところの利息自体による利息の産出を禁止するのではなく,制限し,妨げること」です(Boissonade (1883), p.340)。また,利息から債務者を守るに当たっては――母法であるフランス民法旧1154条及び旧1155条並びにイタリア民法を見ると――立法者は「常に彼〔債務者〕に対する警告の機会を増やすこと」に拠っていたものとされています(ibid.)。しかして,「利息ハ〔略〕其1个年分ノ延滞セル毎ニ特別ニ合意シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル為メ元本ニ組入ルルコトヲ得ス」との規定は,重利の制限においてどのように働くものか。

 ボワソナアドによれば,制限は3重です。

 

   ここに本案が提示する第1の制限は,前記の諸法典〔フランス民法及びイタリア民法〕と同様,組入れは1箇年ごと(d’année en année)にしか行われ得ないということである。

   第2に,それ〔組入れ〕は,当事者間の特別の合意又は債権者による裁判上の請求の効果としてしか生じ得ないということである。すなわち,一度の催告では十分ではないのである。

   第3に,当該合意は,請求と同様に,利息に係る1年の期限の前(avant l’échéance d’un an d’intérêt)にはなされ得ないということである。フランスにおいては,文言が不明確であるため,合意について議論されたところである。本案は,ここで,このことについて正式に明らかにしている。最初の1箇の合意によって年ごとの期日に利息が組み入れられることを認めてしまうと,彼の懈怠の予防手段として彼のための特段の防禦であるものと法が考えるところの反復的警告を債務者は受けないことになってしまうのである。〔筆者註:なお,現在のフランス民法1343条の2では“si le contrat l'a prévu”ということですから,事前の契約がむしろ本則のようです。〕

  (Boissonade (1883), p.341

 

オ 「其1个年分ノ延滞セル毎ニ」

前記3重の制限中第1のものに関する議論に戻れば,まず,当該制限を設ける原因となったボワソナアドの懸念は,「もし組入れが,1年ごとではなく,半年ごと,3箇月ごと又は1箇月ごとにされることになったならば,負債の累増は厖大かつ真に恐るべきものとなるだろう。」というものでした(Boissonade (1883), p.341)。後記4のマルヴィル的な懸念です。利率は利息制限法で上限が定められているとはいえ,同じ利率でも,利息の元本への組入れの頻度が増加するとその分更に債務者の負債が増大するから,当該頻度を制限しようというわけです。

したがって,「組入れは1年ごと」といわれる場合の「1年」は,組入れと組入れとの間の期間のことであって,「期限が到来して1年後に」(磯村保編『新注釈民法(8)債権(1)』(有斐閣・2022年)164頁(北居功))というような,利息に係る支払期限と当該利息の元本組入れがされる時との間に置かれるべき期間のことではないわけです。組入れが始まるまでは利息支払の最初の遅滞から1年間あるが,その後は次々続々と――1箇年の間を置かずに――月々,日々,更に極端な場合は連続的に利息の元本組入れがされ得るということでは,台無しです。ボワソナアドは,更に,「法文は,1箇年に,現在進行中の1箇年中の一部を加えた期間分の利息が既に支払を要すべきものとなっているときは(si les intérêts sont déjà dus pour une année et une fraction de l’année courante),当該発生分全てについて(pour tout ce qui est échu)組入れをすることができる,と表現する配慮を更にしているところである。しかし,更に1箇年が完全に経過した後でなければ,組入れをまた新たに行い得ないのである。」と説明しています(Boissonade (1883), p.341)。

ただし,日本語で利息の「1个年分」と表現すると,「1年分というのは合計して1年分ということで,必ずしも継続して1年分以上延滞することを要しない」(前掲奥田編362頁(山下=安井))ということになるのですが,旧民法財産編3941項のフランス語文における“après une année échue”の部分は,端的に,「1箇年の満了後」に組入れのための特別の合意又は裁判上の請求をするのだという意味ですので(なお,当該「1箇年」の起点は,そこから利息の生ずることとなる元本の交付・受領時でしょう。当該フランス語文についてボワソナアドは,1891年に,“après une année échue desdits intérêts”と修正するよう提案しています(Boissonade (1891), p.351)。これは,「当該利息(複数形です。)に係る(元本債権の存続期間たる(= de))1箇年の満了後」という趣旨と解すべきなのでしょう。ちなみに,旧民法債権担保編240条では,“pour les deux dernières années échuesが「経過シタル最後ノ2个年分」となっています(イタリック体及び下線は筆者によるもの)。),その「1箇年」の間に利息の一部が弁済されていて,未払利息額が1に満たない場合であっても,当該残余の未払利息の元本組入れはなお可能であるもののように解されます。この辺は,仏文和訳の微妙さ,ということになるのでしょうか。

 

(3)法律取調委員会における「仏学事始」

と以上,筆者は難解なフランス語文の読解に苦しめられ,かつ,なおも頭をひねりつつあるのですが,事情は旧民法のボアソナアド原案の審議に当たった法律取調委員会においても同様でした。「蘭学事始」ならぬ「仏学事始」的情況です。1888222日の同委員会会合に提出された,後の旧民法財産編3941項の日本語文案は,次のようなものでした。

 

 要求スルコトヲ得ヘキ元金ノ利息ハ填補ノモノナルト遅延ノモノナルトヲ問ハス満期ト為リタル1个年ノ後ニノミ為シ且此ノ如ク年毎ニ為シタル特別ノ合意又ハ裁判所ニ於ケル請求ニ憑リ及ヒ其時ヨリ後ニアラサレハ利息其モノニ利息ヲ生セシムル為メ之ヲ元金ト為スコトヲ得ス

 (前掲財産編人権ノ部議事筆記562丁表)

 

ボワソナアド原案の“après une année échue et ainsi d’ année en année”の部分が,「満期ト為リタル1个年ノ後ニ〔略〕且此ノ如ク年毎ニ」となっています。「満期」とは,由々しい。

本稿冒頭21)において申し述べた筆者の「素人風の考え」的な解釈が,法律取調委員間でも生じてしまっています。松岡康毅委員は「一口ニ云フト満期ニナツタヨリモ1年経タ後(ママ)ナケレ(ママ)〔組入れは〕出来ヌト云フコト」と解したようであり(前掲財産編人権ノ部議事筆記563丁裏),鶴田委員の「去年2月貸シテ今年1月迄利息ヲ払ハヌ,(ママ)ウスレ(ママ)元金ヘ入レルト云フノ(ママ)シヨ(ママ)ウ」との正解,栗塚省吾報告委員(なお,報告委員とは,「ボワソナアド案を基礎として,委員会に提出すべき草案の翻訳・調査・整理の任にあた」り,「委員会に列して草案の報告と説明をするが,議決権はもたなかった」役職でした(大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』(岩波新書・1977年(1998年追補))151頁)。)のそれに対する是認(「左様デス満1年ニナレ(ママ)元金ニ繰込デ宜イト云フノデス」,「私ハ去年ノ11日カラ去年ノ大晦日マテ滞レ(ママ),今年ノ1月ハ元金ニ見積リ100円借リテ1割ノ利息ナレ(ママ)110円ニスルノテアリマス」)等に対して,「左様(ママ)ハアリマスマイ」,「ソレハ行クマイ」,「3月ヨリ3月トナケレ(ママ)ナラン」,「〔「満期」とは〕払ヒ期限ノコトデシヨ(ママ)ウ」,「間ヲ1年置カヌ(ママ)ハ徃カヌノデアリマス」,「払フ(ママ)キ期限(ママ)アル,1年経タ後デナケレ(ママ)元金ニ繰込マヌト云フノダ(ママ)ウ」と,南部甕男委員と共に異議を表明しています(同564丁表-65丁表)。これはやはり,栗塚報告委員による案文の日本語が(現在の一部民法教科書の日本語と同様)まずいのであって(「満期ト為リタル,1个年ノ後」と読むのが普通で,「満期ト為リタル1个年,ノ後」と読むのは難しいでしょう。),同報告委員は「私ハ昨年1月ニ1年中貸シテ居ルト,今年ノ1月カラ元金トシテ11円トスルノ(ママ)アリマス」などと一本調子に繰り返すものの,山田顕義委員長閣下は当該法文案につき「我輩モ左様思(ママ)テ居ツタガ,能ク見ルト1年アル様ニ思フ,来年1年ヲ置カナケレ(ママ)ナラン様原文ニ見(ママ)ルガ1年経過ノ後ト云ヘ(ママ),矢張リ間ハ1年置カナケレ(ママ)ナランノデシヨ(ママ)ウ」と,松岡委員の読み方に軍配を上げます(同565丁裏)。しかして更に同委員長は,「契約ノトキヨリ1ヶ年ヲ経過シタルトキハ」トスレ(ママ)皆サンノ云フ様ニナリマス」,「「但シ1ヶ年ノ後ニ為シ且其契約数年ニ渉ルモノハ年毎ニ為シタル特別ノ合意又ハ」トスルカ」と,案文修正の方向までを自ら示してくれていたのでありました(同566丁裏-67丁表,68丁裏)。


DSCF0598
 山田顕義委員長(東京都千代田区日本大学法学部前)


同日の審議の結果,案文は,次のように修正されました。

 

 要求スルコトヲ得ヘキ元金ノ利息ハ填補ノモノナルト遅延ノモノナルトヲ問ハス毎1ヶ年ノ後ニ為シタル特別ノ合意又ハ裁判所ニ於ケル請求ニ憑リ且其時ヨリ後ニアラサレハ利息其モノニ利息ヲ生セシムル為メ之ヲ元金ト為スコトヲ得ス

 (同572丁表)

 

これを最終的に制定された旧民法財産編3941項の法文と比較すると,「毎1ヶ年ノ後ニ」が,法文では「其1个年分ノ延滞セル毎ニ」となっていて,1箇年分相当の時間の経過のみならず,利息支払債務の履行遅滞(延滞)が元本への組入れの要件として書き加えられています。1888222日の法律取調委員会の審議の場で,「遅延ノ満期ハ入レテ宜シイト思フ」と栗塚報告委員が発言し,「満期ト為リタルハ欲シイ」と鶴田委員が和したことにようるものでしょう(前掲財産編人権ノ部議事筆記570丁裏)。栗塚としては,“après une année échue”を「満期ト為リタル1个年ノ後ニ」と訳したことについて深い思い入れがあったわけです(なお,現行民法3751項にも「〔利息その他の定期金〕の満期となった最後の2年分」という表現(富井政章=本野一郎のフランス語訳では“pour les deux dernières années échues”)がありますが,梅謙次郎によれば,ここでの「満期」は「支払期日ノ到来ヲ意味」するものであって,「仏語の「イッシュー〔échu〕」ヲ訳シタルモノ」です(第15回帝国議会衆議院民法中改正法律案委員会会議録(筆記)第11頁)。)。しかし,支分権たる利息債権については,そもそも「この〔基本的な〕債権の効果として,一定期において一定額を支払(ママ)べき支分権が生ずる」ものと考えられるべきものとされ(なお,精確には「一定額の支払を受けるべき支分権」でしょう。),それは「弁済期に達した各期の利息を目的とするもの」なのですから(前掲我妻43頁。下線は筆者によるもの),発生したことに加えて(既に弁済期です。),更に延滞要件を付することはあるいは蛇足ではないでしょうか。なお,「利息の弁済期が到来しても債権者に受領の義務はなく,当然その利息を元本に組み入れ,弁済期において元利を支払うというような特約」があった場合においては,これは延滞があるものとはいえないでしょうが,そのような場合については,「各期の計算上の額は利息と呼ばれただけで――最初の元本に対して弁済期に支払われるべき余分額が真の意味の利息」であって,「この数額について〔単利計算の〕利息制限法を適用すべき」ものとされていますから(我妻46-47),そもそも重利の場合とはいわないのでしょう。

ただし,民法892項の規定(「法定果実は,これを収取する権利の存続期間に応じて,日割計算によりこれを取得する。」)があるため,利息は弁済期において生ずるものではなく,日々生ずるものとも解され得るところから,弁済期限以後のものであることを明らかにするため「延滞」の語が用いられたのかもしれません。しかし,民法892項は,「果実権利者の変更する場合に於て,果実が前権利者に属すべきや後権利者に属すべきやを定めたるもの」であって(梅謙次郎『訂正増補民法要義巻之一 総則編(第33版)』(私立法政大学=有斐閣書房・1911年)196頁),本来そのような場合においてのみ働くべきものです。また,「権利の帰属を定めたものではなく,帰属権利者間の内部関係を定めたものと解」されており,「例えば,小作地の所有権が譲渡された場合にも,毎年末に支払うべき小作料は,その支払期の所有者に帰属し,日割計算は譲渡人と譲受人との内部関係として清算されるべきである。」とされています(我妻榮『新訂民法総則(民法講義)』(岩波書店・1965年)228頁)。

(なお,「延滞」の語は,後に民法405条を債権者保護の規定と位置付け直すに当たって,あるいはその一つの手掛かりとなったものかもしれません。「延滞金」といえば「地方税及び各種の公課がその納期限までに納付されない場合に,その納付遅延に対する行政制裁として納付義務が課される公法上の徴収金」ですし(吉国一郎等編『法令用語辞典〈第八次改訂版〉』(学陽書房・2001年)36頁),「延滞税」といえば「国税をその法定納期限までに完納しない場合に,その未納の税額の納付遅延に対する行政制裁として納付が義務付けられる税」です(同37頁)。「延滞」するとお仕置きが待っています。)

ちなみに,旧民法財産編3941項の「1个年」とは苦心の文字でしたが,同条2項においては,フランス語文のpour moins d’une année”の部分と対応する部分の日本語が,「1个年未満ノ」となっておらず,「1个年未満ノ」となっていて,不整合な形となってしまっています(4及び7参照)。

 

(4)強行規定性

ところで,旧民法財産編394条の規定は「前記の諸法典と同様」であるとボワソナアドにいわれた場合,フランス民法旧1154条は同国の判例(破毀院民事部1920621日,同院第1民事部196061日等)によって公の秩序(ordre public)に関するものとされていますので,我が旧民法財産編394条も強行規定(現行民法91条参照)と解され得たわけです。年2回以上の組入れを約する重利と利息制限法1条との関係で,民法405条の性格が問題となります(我妻Ⅳ・47頁参照)。



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 ille autem dixit eis

    nisi videro in manibus ejus figuram clavorum

    et mittam digitum meum in locum clavorum

    et mittam manum meam in latus ejus

    non credam

    (Io 20,25)

 

    beati qui non viderunt et crediderunt

    (Io 20,29)

 

1 はじめに

 民法(明治29年法律第89号)405条の文言は,当初の「利息カ1年分以上延滞シタル場合ニ於テ債権者ヨリ催告ヲ為スモ債務者カ其利息ヲ払ハサルトキハ債権者ハ之ヲ元本ニ組入ルルコトヲ得」から,平成16年法律第147号が施行された200541日以来(同法附則1条,平成17年政令第36号),次のように,「の支払」が挿入される形で改められています。延滞するのは――精確には――利息それ自身ではなくその支払であるからでしょう。

 

   (利息の元本への組入れ)

  第405条 利息の支払が1年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。

 

 本稿は,これに対して,小賢しく,

 

   (利息の元本への組入れ)

  第405条 支払の延滞した利息が1年分以上となった場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。

 

というような文言の方がよかったのではないか,との感慨を主に述べようとするものです。ただし,筆者においてはいつものことながら,本来は従たるべき3以下の脱線の部分が厖大なものとなってしまいました。

 

2 躓きの石とその回避と

 

(1)躓きの石:「1年以上延滞」と表現する諸書

あえて筆者が前記法文案の提示のような僭越な真似をしようとするのは,平成29年法律第44号による民法(債権関係)大改正を主導せられた内田貴・元法務省参与の著書その他における民法405条に係る次のような記載に,躓く者が多かろうと思うからです。

 

 利息が1年以上延滞して,債権者が催告しても支払がない場合には,特約がなくても,元本に組み入れて複利とすることができるとの規定(405条)

  (内田貴『民法Ⅲ 第4版 債権総論・担保物権』(東京大学出版会・2020年)68頁)

 

1年以上延滞した利息を支払わないとき,これを元本に組み入れることを認める(405条)。

(遠藤浩等編『民法(4)債権総論(第3版)』(有斐閣双書・1987年)21頁(新田孝二))

 

  民法は当事者間の合意がないかぎり,単利によるものとし,例外的に利息の支払いが1年以上遅延し,かつ債権者が催促してもなお支払いがない場合に限って,利息の元本への組入れを認めている(法定重利。405条)。

  (野村豊弘等『民法Ⅲ 債権総論(第3版補訂)』(有斐閣Sシリーズ・2012年)19頁(栗田哲男))

 

 上記のような説明を受けて素人風に考えると,次のようになります。

120万円を借りて,年に10%の利率で毎月末に利息を支払う合意」をした場合「(ママ)月末の到来とともに1万円の利息の支払を求める債権が発生」するが(内田68頁の設例。当該合意に基づく基本権たる利息債権の効果として,「一定期において一定額を支払うべき支分権が生ずる」のであり,その「支分権としての利息債権は,弁済期に達した各期の利息を目的とするもの」です(我妻榮『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』(岩波書店・1964年(1972年補訂))43頁)。なお,「当事者の意思表示,元本債権の性質,取引上の慣習などから,利息債権の弁済期を明らかにすることができないときは,利息債権の弁済期は元本債権の弁済期と同一であると解すべきであろう(勝本〔正晃〕・上248,小池隆一「利息債権」民法法学辞典(下)(昭352085)。」とされています(奥田昌道編『新版注釈民法(10債権(1)債権の目的・効力(1)』(有斐閣・2003年)344頁(山下末人=安井宏))。),当該金銭消費貸借の成立が2022年の年初であるとすると,同年1月末分の第1回の利息支払に係る1万円が弁済されないままであるときにその1万円の元本組入れが可能となるのは20231月末(この時点で当該「利息が1年以上延滞」したことになるはずです。)以後に催告をしてからのことであり,20222月末の第2回分1万円についても同様に20232月末以後に催告をしてから,そして202212月末分の第12回の利息支払に係る1万円については202312月末以後に催告をしてからの2024年になってからのこととなる,ということになるのであるな,また,1年分の利息12万円をまとめて2022年末に支払うべきものと約定された場合は,当該12万円の元本組入れができるのは,その全額につき,これも2023年の丸1年間が経過して以後催告を経ての2024年になってからであるな,と。

 

(2)躓きの石回避の道:「1年以上延滞」の意味

 

ア 梅謙次郎

 しかしながら不図,旧民法(明治23年法律第28号・第98号)の明治29年法律第89号及び明治31年法律第9号による全面改正に際しての法案起草者の一人たりし梅謙次郎・元法制局長官(在任期間:18971028日から,その月16日から現行民法が施行された1898727日まで(同年630日に第3次伊藤内閣に代わって第1次大隈内閣が発足しています。)の著作に当たってみると,次のように説かれているのでした。(なお,現行民法の施行日が1898716日(土)であったのは,民法第1編第2編第3編(明治29年法律第89号)2項,民法第4編第5編(明治31年法律第9号)2項等に基づく明治31年勅令第123号(1898621日裁可,同月22日公布)の規定によります。いわく,「明治29年法律第89号民法第1編第2編第3編明治31年法律第9号民法第4編第5編同年法律第10号法例同年法律第12号戸籍法及同年法律第15号競売法ハ明治31716日ヨリ之ヲ施行ス」と。外国人のいわゆる内地雑居の実施が,その1年後(1899717日以降(1894716日に記名調印された日英通商航海条約211項参照))に迫っていました。)

 

  本条〔405条〕に於ては,延滞せる利息1年分以上に達するまでは敢て重利を附することを許さずと雖も,若し其利息1年分以上に及ぶときは,債権者は一応催告を為すの後債務者が其延滞利息を支払はざるときは之を元本に組入れ,以て之をして更に利息を生ぜしむることを得るものとせり。例へば,年年利息を払ふべき場合に於ては,其利息を支払ふべき時期に至り債権者より一応の催告を為すも尚ほ債務者之を支払はざるときは直ちに之に重利を附することを得べく,又月月之を支払ふべきときは,12个月間は仮令債務者之を支払はざるも敢て重利を附することを得ず(12个月前と雖も月月の支払時期の到来する毎に其督促を為すことを得るは勿論,或は利息のみに付き強制執行を為すも亦可なることは固より言ふを竢たず。),然れども既に延滞利息12个月分に及ぶときは,債権者は一応催告を為したる後尚ほ債務者之を支払はざるときは,直ちに之を元本に組入れ更に之に利息を附することを得べし。

  (梅謙次郎『民法要義巻之三 債権編(第33版)』(私立法政大学=有斐閣書房・1912年)27頁。原文は片仮名書き,濁点・句読点なし。)

 

 これによれば,2022年初めに年10パーセントの利率で120万円を借り受けて利息を毎月末に支払う約束であるのに横着な債務者は月々の利息をちっとも払わない,という前記の例において債権者が延滞利息について催告後元本組入れをすることができることになる時期は,2022年中の12箇月分の利息12万円全額について2023年の初めから,ということになります(202212月末支払分については,1年以上延滞どころではなく,当該期限の経過後すぐに(民法4121項参照)ということになります。)。2023年の2月に入ってから以降毎月1万円ずつ五月雨式に催告をした上で元本への組入れを行う,という辛気臭いことにはならないようです。すなわち,民法405条は「1以上延滞」といっているのであって「1年以上延滞」といっているのではない,ここでの「1年分以上」は延滞している利息の額又は量の大きさにかかっているのであって(利息は,元本債権の「額と存続期間に比例して支払われる金銭その他の代替物」です(我妻Ⅳ・42頁。下線は筆者によるもの)。),利息の延滞期間の長さにかかっているのではない,いやしくも延滞していればその期間の長短は問われないのだ,というのが梅謙次郎による同条の読み方であるということになります。

 

イ 司法研修所

 御当局は,梅式の解釈を採用しています。

 

  例えば,利息を毎月末支払うことを約して消費貸借が成立したが,継続して1年間利息の支払を延滞した場合,延滞した利息を元本に組み入れる権利(組入権)を行使する債権者は,利息の発生要件事実〔略〕に加えて,

1 消費貸借契約成立の日から起算して1年経過したこと

     2 債権者が債務者に対し1で発生した利息の支払を求める旨の催告をしたこと

     3 右催告後相当期間が経過したこと

     4 債権者が債務者に対し右期間の経過後1で発生した利息を元本に組み入れる旨の意思表示をしたこと

      〔略〕

  を主張立証しなければならない。1は,利息が1以上延滞したことを示す事実である。

  (司法研修所民事裁判教官室編『民法の要件事実について(10)』(司法研修所・1992年)23-24頁。下線は筆者によるもの。)

(なお,上記要件事実論は「継続して1年間利息の支払を延滞した場合」に係るものですが,民法405条の「1年分というのは合計して1年分ということで,必ずしも継続して1年分以上延滞することを要しない(勝本・上274)」とされています(奥田編362頁(山本=安井))。)

 

ウ 法典調査会

 この点については既に,1895125日の法典調査会(第56回)の場で議論がされ,解答が与えられていたところでありました。

 

  土方 寧君 本条の「1年分以上延滞シタル場合」と云ふことは,例へば月に幾らと云ふ割合で利息を払ふべきのを12个月も払はぬで居つたとか,或は又1年幾らと云ふ割合(ママ)何年間年々払ふべきのを払はぬで居つたのは大変不都合である,1年分の利息を12个月の末に払(ママ)と云ふ約束である,夫れ(ママ)払はなかつたら1()()1年又は12月〕の末に払はなかつたならば直(ママ)に元本に組入れても宜いと云ふことに此文章では見えますが,其御旨意でありますか。

  穂積陳重君 明かに「1年分以上」と斯うある以上は,然うなる。能く私は知りませぬが,通常は6ケ月分とか,或は月々〔利息を〕払(ママ)のではありませぬか。

  梅謙次郎君 私共の考へでは,夫れで宜い積りであります。若し,1年の終に払(ママ)べきものを払はなかつたと云ふ場合であれば,元々1年の間債権者の方では利息なしに使はせて居るですから夫れに〔その利息に〕復た利が付ても一向構はぬ。唯,月々〔利に〕利が付くとか(ママ)或は6个月目に必(ママ)利が付くとか云ふやうなことになつては困る。併し,今日銀行抔では6个月毎に利が付く。然う云ふ契約は許す。契約のないときには1年分以上延滞した場合に利を付ける。夫れは,月々払(ママ)と云ふ約束でも,1年の終に払ふべき約束でも宜からうと私は考へて居る。

  議長(西園寺侯) 別段御発議がなくば確定致しまして次に移ります。

  (日本学術振興会『法典調査会民法議事速記録第17巻』237丁裏-238丁表。原文は片仮名書き,句読点なし。)



(承)旧民法財産編3941

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258062.html

(転)フランス民法旧1154

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258084.html

(結)起草者意思等並びに連続複利法及び自然対数の底

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258087.html

 

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