2022年07月

(上):民法265条及び旧民法財産編171条(他人の土地の使用権vs.地上物の所有権及び権利の内容)

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(中):旧民法財産編172条から176条まで及び民法266条から268条まで(「山ノ芋カ鰻ニナル」,地代,1筆中一部の地上権,相隣関係等及び存続期間)

     http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079836168.html



9 旧民法財産編177条と現行民法269条と:工作物等の収去等

 

(1)条文

 旧民法財産編177条は次のとおりです。

 

  第177条 建物又ハ樹木ノ契約前ヨリ存スルト否トヲ問ハス地上権者之ヲ売ラントスルトキハ土地ノ所有者ニ先買権ヲ行フヤ否ヤヲ述フ可キノ催告ヲ1个月前ニ為スコトヲ要ス

   右先買権ニ付テハ此他尚ホ第70条ノ規定ニ従フ

 

Art. 177.  Soit que les constructions et plantations existent antérieurement ou non au contrat, le superficiaire qui veut les vendre doit sommer le propriétaire du fonds, un mois à l’avance, d’avoir à declarer s’il entend user du droit de préemption.

   L’article 70 s’applique audit cas, pour le surplus de ses dispositions.

 

 同編70条は次のとおり。

 

  第70条 用益権消滅ノ時用益者又ハ其相続人カ前条ニ従ヒテ収去スルコトヲ得ヘキ建物及ヒ樹木等ヲ売ラントスルトキハ虚有者ハ鑑定人ノ評価シタル現時ノ代価ヲ以テ先買スルコトヲ得

   用益者ハ虚有者ニ右先買権ヲ行フヤ否ヤヲ述フ可キノ催告ヲ為シ其後10日内ニ虚有者カ先買ノ陳述ヲ為サス又ハ之ヲ拒絶シタルトキニ非サレハ其収去ニ著手スルコトヲ得ス

   虚有者カ先買ノ陳述ヲ為シタリト雖モ鑑定ノ後裁判所ノ処決ノ確定シタル時ヨリ1个月内ニ其代金ヲ弁済セサルトキハ先買権ヲ失フ但損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス

   用益者又ハ其相続人ハ代金ノ弁済ヲ受クルマテ建物ヲ占有スルコトヲ得

 

 虚有権者とは,フランス語のnu-propriétaire(文字どおりには「裸の所有者」)です。

 現行民法269条は次のとおりです。

 

  第269条 地上権者は,その権利が消滅した時に,土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし,土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは,地上権者は,正当な理由がなければ,これを拒むことができない。

  2 前項の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。

 

(2)諸外国の例

 ボワソナアドによれば,当時の諸国における,「地上権」が消滅したときの地上物の取扱いの例は,次のようなものでした。

 

   常に地上権があらかじめ定められた期限と共に設定されるヨーロッパの一部の国,特にフランスにおいては,建物及び樹木は,期限の経過と共に,補償なしに土地の所有者によって取得される。地上権者はあらかじめ,法律又は合意に含まれるこの厳しい条件を承諾しているのであるから,これを不正義だということはできない。

   オランダ及びベルギーにおいては,代価支払の負担なしに,地上権者によって当初取得され,又は彼によって築造された建物を土地の所有者が再取得することはない。これは法定先買権(un droit légal de préemption)である。

  (Boissonade I, p.351

 

 ベルギー国1824110日法を見ると,次のようにあります。

 

  Art.6  À l’expiration du droit de superficie, la propriété des bâtiments, ouvrages ou plantations, passe au propriétaire du fonds, à charge par lui de rembourser la valeur actuelle de ces objets au propriétaire du droit de superficie, qui, jusqu’au remboursement, aura le droit de rétention.

  (地上権が消滅した時には,建物その他の工作物又は植物の所有権は,当該目的物の時価を地上権者に補償する負担とともに土地の所有者に移転する。地上権者は,償金の支払まで留置権を有する。)

 

Art.7  Si le droit de superficie a été établi sur un fonds sur lequel se trouvaient déjà des bâtiments, ouvrages ou plantations dont la valeur n’a pas été payée par l’acquéreur, le propriétaire du fonds reprendra le tout à l’expiration du droit, sans être tenu à aucune indemnité pour ces bâtiments, ouvrages ou plantations.

  (既に建物その他の工作物又は植物が存在していた土地の上に地上権が設定された場合であって,その価額が取得者によって支払われなかったときは,権利の消滅に伴い土地の所有者は,当該建物その他の工作物又は植物の補償をする負担なしに全てを再取得する。)

 

この「法定先買権」は,オプションというよりも,所有権移転の効果がまず当然生ずるもののようです。梅が「外国ニハ随分地上権ノ消滅シタル場合ハ建物樹木等ハ当然土地ノ所有者ノ所有物トナツテ其代リ夫レニ対スル償金ヲ払ハナケレハナラヌト云フ規定カアリマス」(日本学術振興会『法典調査会民法議事速記録第11巻』3丁表)と言う「外国」は,ベルギー国等でしょうか。

 

(3)日本民法

 

ア 旧民法財産編177条から現行民法269条へ

 我が旧民法財産編177条の規定に対して,ボワソナアド自身は,土地所有者の先買権は当事者に特約がある場合にのみ認められるべきであって,「日本国においては,経済的に見てよく,かつ,所有権の規則に調和したものである同国の慣習を保持することが好ましいと筆者は考える。すなわち,地上権者は建物の所有権を有し,したがって,例外的な事情によって権利が当該建物の朽廃前に消滅したときには,それを収去することができるのである。」と述べていました(Boissonade I, pp.351-352)。日本国における地上物収去の容易性は,ボワソナアドに強い印象を与えていたようです。いわく,「筆者は既に,日本国においては建物(少なくとも木造のもの)が収去され,移築されることが非常に容易にできることに注意を喚起する機会〔略〕があった。喬木を含む樹木についても,移植を見越して根が幹から遠くまで伸びないようにするよう配慮された場合,又はそのような想定がなかった場合であっても,1ないし2年間,新しい根が生える間当該樹木を動かすことなく,順次太い根を切除していったときは,同様である。」と(Boissonade I, p.350 (c))。ただし,このボワソナアドの認識と梅謙次郎の認識とは異なっており,地上権者の地上物収去権のみ認めて土地所有者の買取権を認めない主義について梅は「是レハ経済上余リ面白クナイ,建物ヲ壊ハシテ持ツテ往ク樹木ヲ引キ抜イテ持ツテ往クト云フコトハ多クノ場合ニ於テハ其物ノ価ヲ減ズルモノデアリマスカラ一般ノ経済上カラ考ヘテモ面白クアリマセヌ」と述べていました(民法議事速記録第113丁裏)。

 現行民法269条の案文は,他の地上権規定が1894928日の第32回法典調査会で審議されていたのに対し,積み残されて,同年102日の第33回法典調査会で審議されています。梅謙次郎によれば,現行民法269条は旧民法「財産編第177条ト粗ホ精神ヲ同(ママ)シテ居」るものですが(民法議事速記録第112丁表),旧民法財産編177条では「地上権者カ土地ノ所有者ニ売リ度クナイノデ一旦ハ売ラナイ自分ノ方ニ都合カアツテ売ラナイト言ツテ取リ去ツテ又後日夫レヲ外ノ人ニ売ツテモ夫レハ仕方ガナイ」ということで「先買権ナ(ママ)ト云フ大層ナ名ヲ附ケルヨリモ実際双方ノ為メニ都合ノ宜イ様ニ規定シタ方ガ宜カラウ夫レデ本条ノ如ク書キマシタ」ということでした(同丁裏)。

ところで,現行2691項本文を設けた趣旨は,梅によれば「外国ノ例カ区々ニナツテ居ルシ又地上権ノ場合ニ於テハ権利ノ存在シテ居ル間ハ工作物及ヒ竹木ノ所有者テアルガ権利カ消滅スルト同時ニ添付ノ一般ノ規定カ当嵌マルト云フ様ナ学説カ立タヌコトモナイト思ヒマス又権利消滅ノ時ニ土地ヲ原状ニ復サナケレバナラヌト云フコトカアルカラ普通ノ原則ト少シ違ヒハシマセヌカ」ということです(民法議事速記録第117丁裏-8丁表)。

 

イ 土地を原状に復しつつする地上権者の地上物収去の権利に関して

 

(ア)原状回復義務のボワソナアド案における不在

 「権利消滅ノ時ニ土地ヲ原状ニ復サナケレバナラヌト云フコトカアルカラ普通ノ原則ト少シ違ヒハシマセヌカ」とは語尾がはっきりしませんが,確かに,旧民法財産編177条成立後のボワソナアドによる同条に係る理想案においては“Les constructions et plantations, tant celles établies antérieurement au contrat que celles faites par le superficiaire, peuvent être enlevées par celui-ci, à moins que le propriétaire du sol ne se soit réservé le droit de préemption.(土地の所有者が先買権を留保していない限り,建築及び植物は,契約の前から存していたものも地上権者によって設けられたものも,地上権者が収去することができる。)と規定されていて,地上物収去の際の原状回復義務については言及されていません(Boissonade I, p.342)。また,そもそも旧民法には「地上権」者による地上物収去の権利義務に関する規定がありません。

 

(イ)永借人,賃借人及び用益人による収去の際の旧状回復義務

 この点旧民法の永借権(「永貸借トハ期間30年ヲ超ユル不動産ノ賃貸借」です(同法財産編1551項)。最長期は50年でした(同条2項)。)及び賃借権並びに用益権(「用益権トハ所有権ノ他人ニ属スル物ニ付キ其用方ニ従ヒ其元質本体ヲ変スルコトナク有期ニテ使用及ヒ収益ヲ為ノ権利」です(同編44条)。)と比較すると,永借権においては「永借人カ永借地ニ加ヘタル改良及ヒ栽植シタル樹木ハ永貸借ノ満期又ハ其解除ニ当リ賠償ナクシテ之ヲ残置クモノトス」(同法財産編1701項),「建物ニ付テハ通常賃貸借ニ関スル第144条ノ規定ヲ適用ス」(同条2項)とされ,賃借権については同法財産編144条が「賃貸人ハ賃貸借ノ終ニ於テ第133条ニ依リテ賃借人ノ収去スルヲ得ヘキ建物及ヒ樹木ヲ先買スルコトヲ得此場合ニ於テハ第70条ノ規定ヲ適用ス」と規定しているところ,同編1332項は「賃借人ハ旧状ニ復スルコトヲ得ヘキトキハ其築造シタル建物又ハ栽植シタル樹木ヲ賃貸借ノ終ニ収去スルコトヲ得但第144条ヲ以テ賃貸人ニ与ヘタル権能ヲ妨ケス」(À la fin du bail, il peut enlever les constructions et plantations qu’il a faites, si les choses peuvent être rétablies dans leur état antérieur; sauf la faculté accordée au bailleur par l’article 144.)としており(下線は筆者によるもの),③用益権については「用益者ハ自己ノ設ケタル建物,樹木,粧飾物其他ノ附加物ヲ収去スルコトヲ得但其用益物ヲ旧状ニ復スルコトヲ要ス」(Il peut enlever les constructions, plantations, ornaments et autres additions par lui faites, en rétablissant les choses dans leur état primitif.)とされています(同編693項。下線は筆者によるもの。なお,同条1項は「用益者ハ用益権消滅ノ時猶ホ土地ニ附著シテ其収取セサリシ果実及ヒ産出物ノ為メ償金ヲ求ムル権利ヲ有セス」と,同条2項は「又用益物ニ改良ヲ加ヘテ価格ヲ増シタルトキト雖モ其改良ノ為メ虚有者ニ対シテ償金ヲ求ムルコトヲ得ス」と規定しています。)。こうしてみると,ボワソナアドがその「地上権」について,地上物収去に当たっての原状(旧状)回復を求めていないのは意図的なものだったと考えるべきなのでしょう。

 

(ウ)附加物収去権の由来

 賃借人の収去権(旧民法財産編1332項)に関するボワソナアドの解説を見ると,用益者のそれ(同編693項)を参照せよということになっています(Boissonade I, p.275)。そこで用益者の収去権に関するボワソナアドの解説を見ると,当該収去権は、母法であるフランス民法599条及び555条(同条は不動産に対する添付に係る旧民法財産取得編11条に対応)との関係に係る問題に遡る大層な由来を背負っているものなのでした。

 

   同様の状況〔他人の設けた地上物に係る土地の所有者からの除去請求の可否並びに除去されない場合における同人による償金支払の要否及び額が問題となる状況〕が用益地上に築造又は栽植をした用益者に生じた場合に当たっては,フランスでは,二つの主要な考え方(systèmes)が存在している。

   その一においては,用益者を,悪意で地上物を設けた者と同視するものとする〔フランス民法555条により,土地の所有者が除去を求めれば,悪意で地上物を設けた者は,その費用で,かつ,補償なしに地上物を除去しなければならず,更に土地の所有者に損害があった場合には,その賠償もしなければならないことになります(同条1項・2項)。なお,土地の所有者は,償金を払って地上物を保持することもできます(同条1項・3項)。〕。なぜかというと,彼は自分に所有権が帰属しないことを明白に知っているからである。しかして論者は,法は用益者がした改良(améliorations)に係る何らの補償も同人に認めないこととしてはいるが〔フランス民法5992項は,用益者の行った改良に対する償金を,用益物の価格が増加していても,用益権が終了した時に同人に与えることを否定しています。〕建築(constructionsは改良であるとはしていないと説きつつ,少なくともそれらの収去は同人に認め,更に,所有者がその保持を望むときは,第555条の第1の場合について規定されるところに対応する償金〔費用額又は価格の増加額〕を支払うべきだと説く。

   第2の考え方においては,論者は,第599条を,補償の否認において絶対的であるものとみなし,かつ,同条においては「粧飾物」のみが挙げられている物の収去権について〔同条3項は,原状回復を条件として,用益者又はその相続人は,用益者の設置した鏡,絵画その他粧飾物を収去することができるものとしています。〕限定的であるものとみなしている。

   この解決方法によっては,法は,論理的なものとも衡平なものとも受け取られないものとなる。〔筆者註:1885114日のフランス破毀院審理部決定は,土地に加わってその価格を高める新たな建築も,起工された建物を完成させ,又は既存のものを拡張する建築もフランス民法599条の改良とみなされねばならないものとし,かつ,用益者は用益権の消滅時において,何らの関係においても,追奪された第三占有者と同視され得ないので,その際,同法555条の適用を受け得ないものとしています。すなわち,用益者のした建築は,たとえ用益物の価格が増加されていても,フランス民法5992項の改良であるものとして,同項の規定により,用益権が消滅した時に何らの補償も受け得ないわけです。〕

  106. 日本国の〔法〕はこれらの考え方と全く異なるものである。

   〔旧民法財産編693項〕は,用益者に対して,その建築及び植物を収去することを正式に認めている。確かに彼は,彼のものではない土地に築造又は栽植をしているということを必然的に知っているわけではあるが,虚有者に対して贈与をするつもりではないということも明らかなのである。また,彼を悪意の占有者のように取り扱うことも正当ではない〔善意であれば,地上物の除去を強制されないことになります(フランス民法555条旧3項後段)。〕。なぜなら,用益物は他人のものだと知ってはいても,彼はそれを占有する正当な権原を有しているのである。

  (Boissonade, pp.159-160

 

単純に,用益者が附加物の所有者なのだ,とア・プリオリに言うことはできなかったようです。

梅謙次郎は民法旧598条(「借主は,借用物を原状に復して,これに附属させた物を収去することができる。」)について「蓋シ借主ハ物ノ使用ニ便スルタメ往往之ニ他物ヲ附属セシメテ之ヲ使用スルコトアリ此場合ニ於テハ其附属セシメタル物ハ貸主ノ所有物ニ非サルヲ以テ之ヲ収去スルコトヲ得ルハ殆ト疑ヲ容レサル所ナリ或ハ添附ノ原則ニ依リ之ヲ収去スルコトヲ得サルカヲ疑フ者ナシトセサレトモ第242条ニ依レハ権原ニ依リテ不動産ニ物ヲ附属セシメタル場合ニ於テハ敢テ添附ノ規定ヲ適用スヘカラサルモノトセリ而シテ借主ハ物ノ使用,収益ヲ為ス権利ノ結果トシテ其使用,収益ノ為メニ他ノ物ヲ附属セシムルコトヲ得ルカ故ニ之ニ添附ノ規定ヲ適用スヘカラサルヤ明カナリ」云々と述べていますが(梅謙次郎『民法要義巻之三債権編』(私立法政大学=有斐閣書房・1912年(第33版))620-621頁),用益者の収去権に関する上記の煩瑣な議論に鑑みるに,使用貸借が民法242条ただし書の権原であることが既に認められていることを前提に同法旧598条の規定が設けられたというよりは,同条があることによって,使用貸借が同法242条ただし書の「権原」であることになったというべきもののようにも思われます。

地上権の場合は,地上物が地上権者の所有物であることは定義上明らかであって(民法265条の「工作物又は竹木を所有するため」),地上権が消滅しても当該所有権の所在に変動がないこととするのならば,そのことを明らかにする条文さえあれば,地上権者の所有権に基づく地上物収去が可能であることを特に基礎付ける条文は不要であったはずです。

 

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(上):民法265条及び旧民法財産編171条(他人の土地の使用権vs.地上物の所有権及び権利の内容)

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3 旧民法財産編172条:「山ノ芋カ鰻ニナル」

旧民法財産編172条は「地上権設定ノ時土地ニ建物又ハ樹木ノ既ニ存スルト否トヲ問ハス設定行為ノ基本,方式及ヒ公示ハ不動産譲渡ノ一般ノ規則ニ従フ」(Soit qu’il existe déjà ou non des constructions ou plantations sur le sol, au moment de l’établissement du droit de superficie, l’acte constitutif en est soumis, tant pour le fond et la forme que pour la publicité, aux règles générales des aliénations d’immeubles.)と規定していましたが,現行民法からは落とされています。梅謙次郎の説明によれば「本案ニ於テハ既ニ第177条〔第176条〕及ヒ第178条〔第177条〕ヲ以テ物権ノ総則ト致シテモ設定ニ関スル規定カ掲ケテアリマスノテ茲ニ又地上権ニ付テ言フ必要カナイト考ヘマシタカラ取リマシタ訳テアリマス」ということでした(民法議事速記録第10170丁表裏)。しかしながら,当該条項について,ボワソナアドには当然思い入れがあったところです。

 

 241. 〔旧民法財産編117条及び156条〕と対応するものである本条〔旧民法財産編172条〕の目的は,地上権と,通常のもの及び永借権を含む賃借権との間に存在する大きな相違に注意を喚起することにある。この2種類の賃貸借は各々それと同じ名称を与えられた特別の契約によってのみ設定され得るのに対して,地上権は,制約されているとはいえ何よりもまず不動産所有権であることから,土地と建物又は植物とを結び付けつつ,通常の所有権と同一の設定の方式によるのである。

  地上権の移転の形式もまた同じである。特に相続であって,この点で,賃借権に似ているが,用益権とは異なるものとなっている。

 242. 以上に加えて,法は本条において,別異に規整されるべき二つの仮設例を分明にしている。

  第1 地上権設定の時に工作物及び植物が既に存在している場合。この場合は,これらの物の譲渡が主たるものとしてあり,土地を借りること(le bail du sol)は従たるものにすぎない。

  第2 土地が特に「築造又は栽植のために」貸与された(loué)場合。この場合は,当事者間での新たな行為は不要であるが,築造自体又は栽植と共にでなければ地上権は発生しない。長期賃貸借に係る条件の成就の結果として地上権が生ずるものといってよいだろう。

  第1の場合においては,売買若しくは交換又は贈与によって,地上権者が不動産の取得者となることは明らかである。したがって,地上権の設定について,処分の権能についても,契約書の書式及び本編第2部(〔旧民法財産編348条〕以下)に規定される第三者の利益のために満たされるべき公示の条件についても,不動産の譲渡に係る規整が適用される。

  第2の場合においては,賃借権は長期のものか永借権であり,単なる管理者の権限を越えるので,処分の権能がまた必要である。しかしながら,賃借人によってされる築造については,そもそも土地の所有者によって当該土地上に築造がされる場合と同様,取得の公示を目的とする手続を履むことは必要ではない。

 (Boissonade I, pp.345-346

 

上記242の第2の場合については,「先ツ賃借権カ生シテモ家カ建チ樹木カ植(ママ)ルト同時ニ山ノ芋カ鰻ニナル様ニ賃借権カ化ケテ地上権トナルト云フ様ナ主義テアリマス」と梅謙次郎は説明しています(民法議事速記録第10198丁表)。山の芋が鰻になるとは,土用丑の日の折柄めでたいようではありますが,「夫レニシテモ権利カ途中カラ性質ヲ変スルト云フノハ可笑シイカ拠ロナク然ウテモ言ハヌト説明カ出来マセヌ〔のだろう〕」と,梅は辛辣です(民法議事速記録第10198丁表)。

なお,「地上権」設定の公示方法としてボワソナアドが想定していたものは,契約書等の謄記でしょう。ベルギー国1824110日法3条は「地上権の設定証書は,当該公簿に謄記されなければならない。」(Le titre constitutif du droit de superficie devra être transcrit dans les registres publics à ce destinés.)と規定していました。(謄記については:http://donttreadonme.blog.jp/archives/1068990781.html


4 旧民法財産編173条と現行民法266条と:地代

旧民法財産編173条は「地上権者カ譲受ケタル建物又ハ樹木ノ存スル土地ノ面積ニ応シテ土地ノ所有者ニ定期ノ納額ヲ払フ可キトキハ其権利及ヒ義務ハ其払フ可キ納額ニ付テハ通常賃貸借ニ関スル規則ニ従ヒ其継続スル期間ニ付テハ第176条ノ規定ニ従フ/右納額ニ付テハ新ニ建物ヲ築造シ又ハ樹木ヲ栽植スル為メ土地ヲ賃借シタルトキモ亦同シ」(Si le titre constitutif soumet le superficiaire au payment d’une redevance périodique envers le propriétaire du sol, à raison de l’espace occupé par les constructions ou plantations cédées, ses droits et obligations sont régis, à cet égard, par les dispositions établies pour le bail ordinaire, sauf en ce qui concerne leur durée, telle qu’elle est réglée par l’article 176 ci-après.Il en est de même, sous le rapport de ladite redevance, si le terrain a été loué pour bâtir ou pour établir des plantations.)と規定していましたが,整理されて,現行民法266条の規定は「第274条から第276条までの規定は,地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。/地代については,前項に規定するもののほか,その性質に反しない限り,賃貸借に関する規定を準用する。」となっています。

 地上権設定時における地上物の有無で旧民法財産編1731項及び2項のように場合分けをするのをやめたのは,梅謙次郎によれば,「初メカラ地上権ハアルノテ工作物又ハ竹木カ既ニ存スルト後ニ設ケルト其間ニ権利ノ差異カナイトチラモ地上権テアルト云フコトニナツタカラ自ラ其区別カナクナツタ」がゆえです(民法議事速記録第10198丁裏)。地上権は飽くまでも土地の使用権であって,その成立について当該土地上の地上物の有無は関係がないわけです。

「土地ノ面積ニ応シテ」が削られたのは,梅によれば,「是ハ地上権許リテナイ普通ノ賃貸借又ハ永貸借テモ借賃ハ土地ノ面積ニ応スルト云フコトテナク此家賃幾ラト云フコトニ極メルコトカ却テ多イト思ヒマス旁々以テ「土地ノ面積ニ応シテ」ト云フコトヲ取ツタ」ものです(民法議事速記録第10198丁裏)。「土地ノ面積ニ応シテ」の文言の意味するところについて,ボワソナアドは特に言及していません(cf. Boissonade I, pp.346-347)。

旧民法財産編1731項の「通常賃貸借ニ関スル規則ニ従ヒ」が,現行民法266条においてはまず第1項による永小作権の規定の準用,続いて第2項による賃貸借の規定の準用という形になったのは,旧民法成立後になってから,「地上権」の地代について「通常賃貸借ニ関スル規則ニ従」わしめることの間違いに気付かれたからでもありましょう。「旧法文においては,「通常」賃借権に関する規定を地代に適用せしめていた。しかし,筆者は,永借権に関する規定を適用する方がよいものと信ずる。なぜならば,ここではなお長期の賃貸借が問題となっているからである。」とはボワソナアドの反省の弁でありました(Boissonade I, p.347 (2)。また,民法議事速記録第10199丁裏)。また,地上権者と土地の所有者との関係は,土地の賃借人と賃貸人との関係よりは不人情なものであるべきなのでした。梅謙次郎いわく,「私ノ考ヘテハ賃貸借ニ於テハ賃借人カ或ル条件ヲ以テ例ヘハ不可抗力ノ原因ニ依テ其借賃ヲ減少シテ貰(ママ)コトカアル或ル場合ハ丸テ負ケテ貰(ママ)コトカアル是レハ地上権ニ対スル借地人ハ地主ト密着ノ関係ヲ持ツテ居ルカラトウモ然ウテナケレハナラヌ所カ夫レハ地上権ニハ当嵌ラス然ルニ若シ274275条ノ準用ト云フコトナシニ直チニ賃貸借ノ規定ヲ準用スルト云フコトニナルト夫レカ嵌ル夫レカ不都合テアラウト思フノテ夫レテ之〔274条及び275条の準用規定〕ヲ置キマシタ」と(民法議事速記録第10201丁裏-202丁表)。なお,民法2661項による永小作権に係る同法274条及び275条の準用について,梅は,同法277条も準用されるものと考えていたようです(民法議事速記録第10201丁表-202丁表)。

 

5 旧民法財産編174条と旧不動産登記法111条と:1筆中一部の地上権の原則性

旧民法財産編174条は次のような規定でしたが,削られました。梅謙次郎によれば「是レハ元来地上権ヲ以テ建物ノ所有権竹木ノ所有権ト云フ見方テアリマスト云フト幾分カ斯ウ云フ規定モ必要ニナツテ来様カト思ヒマスカ本案ニ於テハ土地ヲ使用スル方カ趣意テ其土地ヲ使用スルニハ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ必要ナル範囲ニ於テモ土地ヲ使用スルト云フコトニナツテ居リマス然ウ致シマスレハ只家カ建ツタ丈ケテハ実際イカヌト云フコトハ自ラ分リマス適当ノ地面ヲ夫レニ加ヘルト云フコトハ実際ニ於テ無論出テ来様ト思ヒマスカ其広サニ付テ斯様ニ杓子定規ニ極メルノハ如何テアリマセウカ従来ノ慣習ニモナイ様テアリマスシトウモ杓子定規ニナツテ可笑シイト思ヒマス夫レハ契約其他地上権ノ設定行為ニ一任シマシテ只其設定行為ノ解釈ニ一任シタ方カ宜シイトンナ場合ニモ建物ヲ所有スルニ必要ナ空地ハ日本テハ予算シテ残ツテ居ルカラ然ウ云フコトヲ別ニ掲ケヌテモ困ルコトハ実際ナカラウト考ヘテ居リマス夫レテ取リマシタ」ということでした(民法議事速記録第10170丁裏-171丁表)。

 

 第174条 既ニ存セル建物又ハ樹木ニ於ケル地上権ノ設定ニ際シ従トシテ之ニ属ス可キ周辺ノ地面ヲ明示セサルトキハ左ニ掲タル規定ニ従フ

  建物ニ付テハ地上権者ハ其建坪ノ全面積ニ同シキ地面ヲ得ルノ権利ヲ有ス此配置ハ鑑定人ヲシテ土地及ヒ建物ノ周囲ノ形状ト建物ノ各部ノ用法トヲ斟酌セシメテ之ヲ為ス

  樹木ニ付テハ地上権者ハ其最長大ナル外部ノ枝ノ蔭蔽ス可キ地面ヲ得ル権利ヲ有ス

 

 Art. 174.  Si, lors de l’établissement du droit de superficie sur des constructions et plantations déjà faites, il n’a pas été fait mention de la portion du sol environnant qui en dépendrait comme accessoire, il sera procédé ainsi qu’il suit:

     Le superficiaire a droit, s’il s’agit de constructions, à une portion de sol égale à la superficie totale du sol des bâtiments; la répartition de cet espace sera faite par experts, en tenant compte tant de la configuration respective du sol et des bâtiments que de la destination de chaque portion de ceux-ci;

     S’il s’agit de plantations, la superficiaire a droit à l’espace que pourraient couvrir les branches extérieures arrivées à leurs plus grand développement.

 

旧民法財産編174条は,「地上権」の設定時において既に建物又は樹木がある場合についての規定です。地上物がない土地を地上物所有のために借りる場合については,ボワソナアドもいわく,「土地が「築造のために」借りられた場合には,地上権者は彼の工作物の便益(service)のために必要な土地の大きさを考慮に入れていたものと推定され,かつ,後になってから追加を要求することはできない。」と(Boissonade I, p.348)。

なお,梅は「杓子定規」云々といっていますが,旧民法財産編174条は,飽くまでも当事者間の合意がない場合のための補充規定です。「疑いもなく,大多数の場合において当事者は,地上権者に譲渡された建物に附随する土地の広さを決めるだろう。しかし,法は常に,当事者の不用意を,彼らのそうであろうところの意思に沿いつつ補わなければならない。ところで,地上物の買主は,周囲の土地無しに建物のみを取得したものとは思っていないことは明白である。そうでなければ,彼にとってその使用はほとんど不可能になってしまうのだ。」とはボワソナアドの言です(Boissonade I, p.347)。

しかし,旧民法財産編174条の規定によれば,地上権の範囲は,その対象となる土地の筆とは必ずしも一致しないもののようです。確かに,地役権については,「承役地の利用者は,承役地が要役地の便益に供せられる範囲において義務を負う」ものであって(我妻=有泉411頁,舟橋426頁),地役権は「承役地の占有を排他的に取得するものではない。地役権は共同(●●)便益(●●)()開かれて(●●●●)おり,承役地の所有者の利用も排斥されない」と説かれており(内田168頁),1筆の土地の一部分の上に地役権を設定することも可能であるところです(不動産登記法(平成16年法律第123号)8012号の「範囲」,不動産登記令(平成16年政令第379号)311号,716号,別表35項(添付情報欄のロに「地役権設定の範囲が承役地の一部であるときは,地役権図面」))。しかして地上権についても実は,かつては1筆の土地の一部をその範囲とする地上権の設定の登記が認められていました。すなわち,旧不動産登記法(明治32年法律第24号)111条は「地上権ノ設定又ハ移転ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テハ申請書ニ地上権設定ノ目的及ヒ範囲ヲ記載シ若シ登記原因ニ存続期間,地代又ハ其支払時期ノ定アルトキハ之ヲ記載スルコトヲ要ス」と規定していたところです(下線は筆者によるもの)。地上権の地上物役権的把握の余響というべきでしょうか。

ところが,地上権設定の範囲は,昭和35年法律第14号による旧不動産登記法の改正によって,196041日から(昭和35年法律第14号附則1条),登記事項から削られてしまっています。「地上権の設定の範囲を明確にしますため,1筆の土地の一部についての地上権の設定登記を認めないこととし」たものだそうです(1960216日の衆議院法務委員会における平賀健太政府委員(法務省民事局長)の説明(第34回国会衆議院法務委員会議録第36頁)。同年310日の参議院法務委員会における同政府委員の説明も同様(第34回国会参議院法務委員会会議録第58頁)。)。「土地に関する権利のうちで地上権の比重が大きくなったこともあって,権利の範囲を明確に登記面に表示する趣旨に出たものと思われる。」との忖度的敷衍説明がされています(我妻=有泉344頁)。あるいは,その範囲を登記事項とすることが観念されていなかった土地の賃借権の登記(旧不動産登記法127条)との横並びが考えられたのかもしれません。

無論,1筆の土地の一部に地上権を設定することは,「1筆の土地の一部について所有権の取引が可能であるのと同様に〔略〕,実体法上否定すべき理由はない」ところです(我妻=有泉344頁)。ただし,「1筆の土地の一部について地上権を設定することは可能であるが,これに対抗力を与えるためには,分筆した上で登記するほかはな」いわけです(我妻=有泉344頁)。

なお,「地上権は一筆の土地の全部に及ぶのが普通であり,具体的なある地上権が一筆の土地の一部にしか及ばないというのは,地上権の効力の例外的な制限と見ることができる。このことを前提とすると,かかる制限を受ける地上権が(この制限は登記する方法がないから)制限のないものとして登記されている以上,この地上権が第三者に譲渡されると,土地所有者は上述の制限をもって地上権譲受人に対抗しえなくなり,したがって,譲受人は制限のない地上権つまり一筆の土地全部に及ぶ地上権を取得することになる,と解すべきであろう。」と説かれているところの問題があります(川島=川井編873頁(鈴木禄弥))。これについては,旧民法財産編174条に鑑みれば「地上権は一筆の土地の全部に及ぶのが普通」とはいえないところ,更に“Nemo plus juris ad alium transferre potest, quam ipse habet.”(何人も自己が有するより多くの権利を他人に移転できない。)でもあるのですから,民法942項が類推適用されるべきものでしょう(善意の第三者のみ1筆全体に及ぶ地上権を取得する。)。

 

6 旧民法財産編175条と現行民法267条と:相隣関係の規定の準用及び地役権との関係

 旧民法財産編175条は次のとおりですが,これが現在の民法267条では,「前章第1節第2款(相隣関係)の規定は,地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし,第229条の規定は,境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り,地上権者について準用する。」となっています。

 

 第175条 地上権設定後ニ築造シタル建物又ハ栽植シタル樹木ニ付テハ地上権者ハ此種ノ作業ノ為メ法律ヲ以テ相隣者ノ為メニ規定シタル距離及ヒ条件ヲ遵守ス可シ縦令其隣人カ地上権ノ設定者ナルモ亦同シ

  又地上権者ハ働方又ハ受方ニテ其他ノ地役ノ規則ニ従フ

 

  Art. 175  À l’égard des constructions et plantations faites après la constitution du droit du superficie, le superficiaire doit observer les distances et conditions prescrites par la loi aux voisins pour les mêmes travaux, lors même que le voisin est le constituant.  

          Le superficiaire est également soumis aux autres règles concernant les servitudes actives et passives.

 

 旧民法財産編1751項の重点は,ボワソナアドによれば,その後段にあったようです。いわく,「たとえ彼が栽植し,又は築造することが,その隣人となる者から彼に付与された権利に基づく場合であっても,地上権者は,築造及び栽植について規定された距離(観望に関する〔旧民法財産編258条〕以下及び栽植に関する〔同編262条〕を参照)を遵守しなければならないということを表明し置くことはよいことである。当該地上権者の立場は,売主の隣人となる土地の買主のそれと異なるものではない。」と(Boissonade I, pp.348-349)。

同条2項は,ボワソナアドの草案では“Le superficiaire est également soumis aux autres servitudes légales ou du fait de l’homme et peut les invoquer.”(地上権者は,同様に,他の法定又は人為の地役に服し,及び援用することができる。)となっていますから(Boissonade I, p.341),そういう意味なのでしょう。

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1 他人の土地を使用する権利たる地上権と地上物の所有権たる「地上権」と

民法(明治29年法律第89号)265条以下に,地上権に関する規定があります。同条は,「地上権者は,他人の土地において工作物又は竹木を所有するため,その土地を使用する権利を有する。」と規定しています。

 

   地上権は,家屋を築造し,トンネル・溝渠・架橋などを建設し,植林をするなどの目的で,他人の土地を使用する物権である。現行法の体系では,土地所有権を一時的に制限する権利であり,その制限は,原則として,所有者の意思に基づいて成立する〔略〕。〔略〕物権法定主義〔略〕の結果,地上権を設定する以上,所有者の留保ないし獲得しうる有利な地位にもおのずから限度がある。そこで,所有者は,自分の土地を他人に使用させるという地上権と同様の目的を,賃貸借によって達成しようとする。賃貸借においては,賃借人の使用権は,土地に対する直接の支配権としてではなく,賃貸人に対する債権(土地を使用させるように請求する権利)を介して,間接に生ずる権能として,構成されている。したがって,賃借人の使用権は,地上権に比して,あたかも,債権がその効力において物権に劣る点だけ,弱いものとなる〔略〕。〔後略〕

  (我妻榮著=有泉亨補訂『新訂物権法(民法講義)』(岩波書店・1983年(1984年補正))338頁。下線は筆者によるもの)

 

  地上権(〇〇〇)jus superficies, superficie, Erbbaurecht)ハ土地ニ関スル物権ニシテ所有権ニ次イテ強力ナルモノナリ其定義ハ第265条ニ於テ之ヲ掲クヘシト雖モ従来我邦ニ行ハルル借地権ノ一種ナリ新法典ニ拠レハ借地権ハ之ヲ4種ニ分ツコトヲ得(第1地上権(〇〇〇),(第2()小作権(〇〇〇),(第3賃借権(〇〇〇),(第4使用(〇〇)借権(〇〇)是ナリ

  (梅謙次郎『訂正増補民法要義巻之二物権編』(私立法政大学=有斐閣書房・1911年(第31版))224-225頁)

 

  借地借家法(平成3年法律第90号)21号 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。

 

以上のような説明及び法文を読むと,地上権とは,土地の賃借権の物権版であって,当該土地の使用(ちなみに,富井政章=本野一郎のフランス語訳では,所有権に係る民法206条の「使用,収益」は“d’user, d’jouir”と,賃貸借に係る同法601条の「物の使用及び収益」は“l’usage et la jouissance d’une chose”となります(Code Civil de l’Empire du Japon, Livres I, II & III(新青出版・1997年))。の目的が工作物又は竹木を所有するためであるもの,というふうに早分かりすることになります。これで大過はないところです。

しかし,中小の興味深い事実を見逃してしまうかもしれません。

 

 本条〔民法265条〕ハ地上権ノ定義ヲ下シタルモノナリ地上権ノ性質ハ古来大ニ議論アル所ニシテ各国ノ法律亦一様ナラサル所ナリ旧民法ニ於テハ仏国ノ一部ノ学者ノ説ヲ採リテ地上権ヲ以テ建物又ハ竹木ノ所有権トセルカ如シ是レ必スシモ誤謬ナリト謂フコトヲ得スト雖モ若シ此説ノ如クンハ地上権ヲ以テ所有権ニ異ナレル一ノ物権トシテ視ルコトヲ得サルヘシ苟モ之ヲ所有権ノ支分権トシ所有権ニ異ナリタル一ノ物権トスル以上ハ建物,竹木ノ所有権以外ニ一種ノ権利ヲ認メサルヘカラス然ルニ他人ノ土地ノ上ニ建物若クハ竹木ヲ所有セント欲セハ勢ヒ其土地ヲ使用セサルコトヲ得ス此土地ノ使用権即チ之ヲ地上権ト謂フヘキカ如シ故ニ本条ニ於テハ地上権ヲ以テ他人ノ土地ノ上ニ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ其土地ヲ使用スル権利トセシナリ〔後略〕

 (梅二225-226頁。下線は筆者によるもの)

 

 「地上権ヲ以テ建物又ハ竹木ノ所有権トセル」とは,確かに奇妙ですね。所有権は所有権なので,それがどうして「地上権」なる別の物権になるものか。旧民法における「地上権」は一体いかなる権利だったのか興味が湧いてきます。また,旧民法においては,賃貸借はせっかく物権として規定されていたところ(旧民法財産編(明治23年法律第28号)115条以下),それとは別にわざわざ「地上権」の規定を設けていたのも(同編171条以下),現在の土地の賃借権と地上権との関係を考えると不思議ではあります。かくして筆者による旧民法的「地上権」に関する探訪が始まるのでした。

 

2 旧民法財産編171条と現行民法265条と:権利の内容

 

(1)旧民法財産編171条の条文及びそれに対する梅謙次郎の批判

 

  旧民法財産編171条 地上権トハ他人ノ所有ニ属スル土地ノ上ニ於テ建物又ハ竹木ヲ完全ノ所有権ヲ以テ占有スル権利ヲ謂フ

 

ここでの「地上権」は,単純な「建物,竹木ノ所有権」自体ではなく,「他人ノ所有ニ属スル土地ノ上」で自己所有の建物又は竹木を「占有スル権利」ではあります。土地所有者から旧民法財産編361項本文(「所有者其物ノ占有ヲ妨ケラレ又ハ奪ハレタルトキハ所持者ニ対シ本権訴訟ヲ行フコトヲ得」)の本権訴権の行使を受けないという附加的効能があるわけでしょう。

しかしながら,現行民法の地上権規定の審議を行った1894928(ちなみに,この月の15-16日には平壌攻略戦があり,17日には黄海海戦があって,日清戦争たけなわの時期です。明治天皇は広島に行在していました。)の第32回法典調査会において,梅謙次郎は旧民法財産編171条を酷評します。いわく,「苟モ建物及ヒ竹木ノ所有者テアレハ夫レヲ占有スルコトハ言フヲ俟タヌコトテアツテ若シ占有スルコトカ出来ナイ場合ハ所有者テナイノテ所有者ト言ヘハコソ占有スルコトカ出来ルト言ツテ宜イ位テ若シ是レカ建物又ハ竹木ノ完全ノ所有権ノ為メニ他人ノ土地ヲ()()スル権利ト言ツタラ稍々本案〔「地上権者ハ他人ノ土地ニ於テ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ其土地ヲ使用スル権利ヲ有ス」〕ト同シ様ニナリマスカ既成法典ハ然ウナツテ居ラヌと(日本学術振興会『法典調査会民法議事速記録第10巻』175丁裏。下線は筆者によるもの)。

当該会合においては磯部四郎🎴が,旧民法流の「地上権者ハ他人ノ地上ニ於テ工作物又ハ竹木其他ノ物ヲ所有スル権利ヲ有ス」という保守的修正案を提出していますが,否決されています(民法議事速記録第10197丁表,184丁表-185丁裏)。

 

(2)現行民法265条とベルギー国1824110日法1条と

梅によれば,日本民法265条は,オランダ民法及びベルギー法に倣ったものです。

すなわち,「和蘭民法並ニ白耳義現行法ニ於キマシテハ地上権ハ他人ノ土地ノ上ニ建物工作物又ハ樹木ヲ有スル権利テアルト書イテアリマスカ是レカ一番日本ノ慣習ニ近クテ理窟モ一ト通リ分ツテ居ルト思ヒマス日本テハ土地ノ上ニアル建物及ヒ竹木ヲ土地ノ所有者テナイ者テモ得ラレルト云フコトニナツテ居リマスカラ夫レヲ採リマシタカ只必要ナル範囲ノ上ニ於テ他人ノ土地ヲ使用スルコトカ出来ル夫レカ(ママ)即チ地上権テアルト云フコトヲ一層明カニスル為メニ本案ノ如ク書キマシタ訳テアリマス」(民法議事速記録第10177丁裏-178丁表)ということでした。ここでの「白耳義現行法」は,同国の1824110日法で,今同法1条を見るに“Le droit de superficie est un droit réel, qui consiste à avoir des bâtiments, ouvrages ou plantations sur un fonds appartenant à autrui.”と規定しています。ちなみに,1824年にはベルギー国はまだ独立しておらずオランダの一部であり,実は梅のいう「和蘭民法並ニ白耳義現行法」の規定は同一のものであって,オランダでは当該規定が後に民法典に編入されたものです(cf. Gve Boissonade; Projet de Code Civil pour l’Empire du Japon accompagné d’un commentaire, Nouvelle Édition, Tome Premier, Des Droits Réels (Tokio, 1890). p.315 (a))。

 

(3)旧民法財産編171条に関するボワソナアドの説明

旧民法財産編171条は,フランス語文では次のとおり。

 

 Art. 171.  La Superficie est le droit de posséder en pleine propriété des constructions ou des plantations d’arbres ou de bambous, sur un sol appartenant à un autre propriétaire.

 

 梅に酷評されつつも,旧民法財産編171条は,梅推奨のベルギー国1824110日法1条と余り変わりないようです(旧民法財産編171条では地上権が物権(un droit réel)であることを特に規定していませんが,そのことは,規定の位置からして当然明らかであったところです。)。(ただし,ベルギー国1824110日法には「土地が返還される(…que le fonds soit remis…)」という表現がありますところ(同法5条),これによって地上権者による土地の占有が間接的ながらも示され得ることが,あるいは梅が同法を気に入った理由だったのでしょうか。)

 旧民法財産編171条については,単刀直入にボワソナアドの解説を見てみましょう。

 

  240. 地価が比較的高い諸国においては,その主要な性格を本条が示しているところの所有権の変容(modification)が行われている。土地自体,すなわち底地tréfonds)はある人に属し,かつ,構築物édifices)又は地上物superfices)は他の人に属する,というように。

   地上権(le droit de superficie)は,ローマ法において見出すことができる。フランス古法ではほとんど使われていなかったものである。フランス民法においても言及されておらず,イタリア法典においても同様である。しかしながら,フランスにおいて導入され始めており,また,オランダ,ベルギー及びその他の欧州諸国において見出すことができる。〔筆者註:こういわれてみると我が旧民法の「地上権」規定は,フランス法系法域における当時の最先端のものとして立案されたようではあります。〕

   日本国においては,所有権に係るこの変容は他国より広く普及しているようである。家賃が高いことによるものであるが,当該高値自体は火災が頻繁であることに由来し,次いで当該頻繫性は,一般に木材で作られているという工作物の性質によるものであり,しかして当該工作の方法自体は,石材が少ないということによってではなく,地震が多いことによって余儀なくされているものである。

   住民らは,毎月非常に高い家賃を払うよりは,火災のリスクを冒しても,投下資本に係る利息及び地代が毎年かかるだけの自宅に住むことの方を選好しているのである。

  (Boissonade I, p.314

 

(4)ローマ法

 ローマ法における地上権については,「地上権(superficies)は地代(solarium)を支払つて他人の土地に建物を建設し,「地上物は土地に従う」(superficies solo cedit)との原則〔略〕により,土地の所有者の所有となつた該建物をあたかも所有者の如くに使用する権利である。〔略〕少くともユ〔スティニアヌス〕帝法では所有物取戻訴権類似の対物地上権訴権(actio de superficie in rem)を認められ,物権となっている〔略〕。」と説明されています(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)133頁)。

 “Superficies solo cedit.”の原則の意味するところは,かねてから筆者には悩ましいところです(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1073804586.html)。

 ボワソナアドのいう「所有権の変容」との意味は,「大陸法の地上権は,「地上物は土地に従う」の原則は適用あるが,その適用の結果土地所有者の有となつた建物をあたかも自己の所有物であるかの如く使用する物権というローマ法の廻りくどい表現法を変更し,さきの原則の適用を排除する物権と構成されている」(原田133頁)ことになった,ということでしょう。地上物を己れに従わしめるところの土地の所有権を変容せしめて,土地の所有者以外の者による地上物の所有を可能ならしめる制度である,ということでしょうか。「完全ノ所有権(en pleine propriété)」という表現が採用された理由は,ローマ法式の廻りくどい使用権ではないよとの感慨がそうしからしめたところであるようにも思われます。

 

(5)フランス法

 

ア Droit de Superficie

 フランスにおける地上権に関しては,「然し,フランスでは,地上物は土地に附属する(superficies solo cedit)という原則は,右の両民法〔ドイツ民法及びスイス民法〕ほど徹底していない(同法553条は建物だけが時効取得されることを認めている)。その結果,宅地または農地の借主が建物を建設する承諾を得ているときは,その建設した建物は賃借人の所有に属するものとみられ,学者は,かような場合の賃借人の権利を「地上の権利」(droit de superficie)と呼んでいる。然し,住宅難の解決のために特にこの権利を強化する必要も感じられていないようである。」と紹介されています(我妻榮『債権各論中巻一(民法講義Ⅴ₂)』(岩波書店・1957年(1973年補訂))395-396頁)。

更に敷衍すれば,「フランス民法においては,地上権は法律の条文によって規定された権利ではなく,土地所有権はその上下に及ぶという5521項の原則に対する例外を構成するものと解されている。この意味での地上権は,わが民法における地上権と異なり,一つの真正なる有体不動産所有権(propriété corporelle, immobilière)を構成し,30年の不行使によっても消滅することなく,また所有権と同様,永久権である。地上権は契約または法律の規定によって設定されるほか,時効によって取得することもありうる。地上権が存在する場合にも,土地所有者(propriétaire de tréfonds)は,土地所有権に属するすべての権能を行使しうるが,定着物および地表に損害を与えない義務を負担する。農地の賃貸借および建物の賃貸借については特別法が存在するが,地上権について,この権利を強化する特別法は存在しない。」とのことです(川島武宜=川井健編『新版注釈民法(7)物権(2)』(有斐閣・2007年)859頁(渡辺洋三))。梅は,この,地上権=「一つの真正なる有体不動産所有権」論が旧民法の「地上権」の前提になっているものと考えていたのでしょう。

なお,我が国の地上権の時効消滅(民法1662項)については,梅は「土地ヲ使用スル権利テアルカラ使用シマセヌケレハ夫レハナクナルケレトモ工作物竹木カアレハ夫レカアル以上ハ使用シテ居ルノテアルカラ使用ノ権利カナクナル気使ヒハナイ又工作物又ハ竹木夫レ自身ヲ使用シタト云フコトテナクモ夫レヲ所有シテ居ル以上ハ固ヨリ地上権ハ消滅シナイ是レハ彼ノ時効ノ所ニ規定シタ如ク所有権ノ取得時効ト云フモノカナケレハ所有権ハ消滅シナイ〔ところである〕」と述べています(民法議事速記録第10180丁表)。(ちなみに,ベルギー国1824110日法の地上権にも,30年の消滅時効の適用がありました(同法93号)。)

 

イ フランス民法553条と旧民法財産取得編8条と

 フランス民法553条は次のとおり。

 

  Art. 553  Toutes constructions, plantations et ouvrages sur un terrain ou dans l’intérieur, sont présumés faits par le propriétaire à ses frais et lui appartenir, si le contraire n’est prouvé; sans prejudice de la propriété qu’un tiers pourrait avoir acquise ou pourrait acquérir par prescription, soit d’un souterrain sous le bâtiment d’autruit, soit de toute autre partie du bâtiment.

  (地上又は地中の全ての建築その他の工作物及び植物は,その土地の所有者が自費によりこれを築造又は栽植したものと推定されるとともに,それに対する反証のない限り同人に帰属する。ただし,他人の建物の地下又は建物の他の全ての部分について,第三者が時効により取得した,又は取得する所有権を妨げるものではない。)

 

 同条は,我が旧民法財産取得編(明治23年法律第28号)8条に継受されています。

 

  第8条 建築其他ノ工作(ママ)及ヒ植物ハ総テ其附著セル土地又ハ建物ノ所有者カ自費ニテ之ヲ築造シ又ハ栽植シタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス

   右建築其他ノ工作物ノ所有権ハ土地又ハ建物ノ所有者ニ属ス但権原又ハ時効ニ因リテ第三者ノ得タル権利ヲ妨ケス

   植物ニ関スル場合ハ第10条ノ規定ニ従フ

 

 フランス語文は,次のとおり。

 

Art. 8  Toutes constructions, plantations et ouvrages quelconques, faits au-dessus et au-dessous du sol ou des bâtiments, sont présumés faits par le propriétaire desdits sol et bâtiments et à ses frais, si le contraire n’est prouvé.

La propriété desdits ouvrages et constructions lui appartient, s’il n’y a titre ou prescription au profit d’un tiers.

En ce qui concerne les plantations, le cas est réglé à l’article 10 du présent Livre.

 

 旧民法財産取得編8条の趣旨を,更にフランス民法553条のそれと併せつつ知るには,ボワソナアドの説くところに当たるのが捷径でしょう。

 

  24. 本条〔旧民法財産取得編8条〕は,2箇の別個,かつ,かなり異なった性質の規定を包含している 。

   フランス民法は,これらを単一の規定(第553条)にまとめたことにより,それらのうち一方の射程を弱めてしまっている。しかしながら,理論的及び法学的解釈が,その価値の回復をもたらしているところである。

   フランス民法によれば,ここには2箇の推定があり,かつ,そのいずれも反証によって否定され得る。第1の推定は,建築その他の工作物の築造及び植物の栽植は,土地の所有者がその自費をもってしたものとするものである。第2の推定は,それらの物は同人に帰属するとするものである。ところで,フランス民法は,ここで第2の推定を第1のものの上に据えて,第1の推定が否定されればその結果,第2の推定が倒れるものとしたように観察される。しかしながらこのようなことを,法は,その根底において考えていたものではない。建築その他の工作物の築造が,土地又は建物の所有者以外の者の意思に基づき,かつ,その費用によってされたことが立証された場合であっても,それゆえに,場合に応じて不当利得に係る償金を支払うべきこと又は取壊し及び材料の収去を求める権利があることは別として,当該建築その他の工作物が土地所有者に帰属しないものとなるものではない。

   これら二つの規定に法律上の推定の性格を与えるとしても,第1の推定は単純又は全ての反証を許すものである一方,第2の推定は,絶対的ではないとしても,少なくとも覆すことがより難しいものであるということが認識されるべきである。当該工作物を第三者に譲渡せしめる権原に基づく反証又は第三者による長期の占有の結果としてのもう一つの推定であるところの取得時効に基づく反証以外の反証は認められないのである。

   要するに,ここにおいては,ローマ法に遡る法原則のしかるべき再確認(consécration)がされているのである。すなわち,「土地の上に建造された全ての物は,当該土地に添付するものである(tout ce qui est construit sur le sol accède au sol)。Omne quod inædificatur solo cedit.

   この趣旨において,本案の本条は草されたものである。

   法文は,土地の所有者と建物のそれとを分けて規定する配慮をしている。この両者は,日本国においては,他国の大部分においてよりもより多くの場合において別人格である。ところで,建物の所有者は,地上権者(superficiaire),永借人(emphytéote),用益者(usufruitier),小作人(fermier)であり得る。しかして,これらのうちいずれかの者によって建物が建築され,増築され,又は修築された場合においては,工事及び出費は同人によってされたものと推定され,並びに他人に属する材料が使用されたことが立証されたときには,次条において規定される償金の支払は別として,同人がその材料を取得する。

   また,フランス民法とは異なり,本条においては建築又はその他の工作物と植物とが別異に取り扱われていることにも気が付かれるであろう。植物についても確かに,建築と同様,その栽植は土地の所有者が自費をもってしたものと推定される。しかしながら,栽植が他人の(木,灌木,草本)をもってされたことが立証された場合においては,〔旧民法財産取得編10条〕において規定されるように当該苗の所有者が1年以内に返還請求をしないときに初めて所有権が取得される。この例外の理由付けは,当該条項の解説において示されるであろう。

  (Gve Boissonade; Projet de Code Civil pour l’Empire du Japon accompagné d’un commentaire, Nouvelle Édition, Tome Troisième, Des Moyens d’Acquérir les Biens (Tokio, 1891). pp.35-36

 

(6)日本的特性

 「日本では土地と建物とは別々の不動産だから,建物所有を目的とする借地(地上権であることも賃借権であることもある)が存在するが,欧米では「地上物は土地に従う」という原則があって,建物は土地の一部と観念される(建物が土地に附合する)。このため,日本のような借地は例外的に存在するに過ぎない。しかも,〔例外的に存在する彼の地の「借地」は〕日本のような地表を借りる借地とは考え方が違い,他人の土地所有権と一体とならずに(附合せずに)一定期間建物を所有する権利と考えられている。」との説明(内田貴『民法 債権各論』(東京大学出版会・1997年)167頁)は,この文脈の中において合点がいきます。我が国においては,「地上権を規定するにあたっては,地上物の権利関係はほとんどこれを問題とする必要なく,ただ土地の使用権たる方面だけを見ればいいわけである。民法が,地上権を,「土地ヲ使用(●●)スル権利」だとしたのは,このゆえである(ただし,永小作権の場合(270条)と異なって,工作物または竹木を「所有」するためとしているのは,ローマ法およびこれを承継した各国民法典の影響によるものと認められる。〔後略〕)」ということだったようです(舟橋諄一『物権法』(有斐閣・1960年)396-397頁)。

しかし,土地の使用権として徹底されずに「他人の土地において工作物又は竹木を所有するため」というローマ法由来の尾骶骨があえて残されている点において,地上権の特殊性がなお見出されるということは果たしてないのでしょうか。

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