2022年03月

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第4 現行刑法93条及び94条解説

 

1 現行刑法93条:私戦予備及び陰謀の罪

 刑法93条の解釈論は,現在世間を悩ませているようです。これはそもそも,司法省の刑法草案取調掛の多数意見は不要としたいわくつきの条項だったのでした。それを少数派が頑張って,刑法草案審査局段階で逆転復活させたのはよいが,その際本来は内乱罪的に詳細なものであるべきであった構成要件が単純化されてしまったことが祟ったというべきでしょうか。

 

(1)国内犯

 現行刑法によっては,国外で行われるものであるところの私戦自体は罰しないということにした結果(同法2条から4条まで参照。勝てば日本国の生んだ英雄万歳になるし,負ければ当該外国の正義及び武勇を寿ぐばかりである,ということだったのでしょうか。),国内で犯され得る予備及び陰謀のみが同法93条に残ることになったのではないかと思われますところ(前記第322)ウ参照),1902214日の貴族院刑法改正案特別委員会において古賀廉造政府委員はその旨次のような答弁をしています。

 

  現行法デハ外患罪ノ中ニ「外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開キタル者ハ」ト云フ規則ガ掲ゲテアルヤウデゴザイマス,然ルニ外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開クト云フ事実ハ想像ニ浮ンデ来ナイノデゴザイマス,皆外国ヘ行ッテ向フノ土地デ戦争ヲスルト云フコトデアリアスレバ寧ロ向フノ国ノ犯罪ニナリハシナイカト云フ考ヲ持ッタノデアリマス,日本内地ニ居ッテ此行為ヲ為スコトハ殆ド出来得ル場合ガ無イモノデハアルマイカト云フ考デゴザイマス,ソコデ原案デハ日本内地ニ於テナサレルダケノ行為ヲ禁ジタ方ガ穏当デアラウ,加之是ハ外患罪ト云フ性質デハアルマイ,寧ロ交信ヲ破ル性質ノ犯罪デアラウト云フノデ茲ニ規定シタ次第デアリマス

  (第16回帝国議会貴族院刑法改正案特別委員会議事速記録第9132頁)


 更に同年36日の衆議院刑法改正案委員中調査委員会においては,外国に対して私に戦闘をなしたことを我が国で罰する方針は無い旨の政府答弁がありました。

 まず,倉富勇三郎政府委員(司法省民刑局長)。

  

  私カニ戦端ヲ開クト云フ事柄ガ,ムヅカシイコトデアリマスガ,兎角外国ニ往ッテ既ニ外国デ戦ヲ始メタコトデアレバ,向フハ向フデ勝手ニ処分モ出来ル,又場合ニ依ッテハ本統ノ戦争ニナルカモ知レヌ,サウ云フコトマデ本国ノ刑法デ罰スルコトガ,兎モ角モ不必要デアル,併ナガラ内国デ取締ノ附クダケハ,取締リヲ附ケナケレバナラヌタメニ,111条〔現行刑法93条に対応〕ヲ置イタノデ,予備陰謀デアレバ,之ヲ其儘ニスルコトハ出来ヌ,有形ノ戦ヲ始メタコトニナレバ,向フデドウトモスルコトモアリマスシ,場合ニハ引続イテ本統ノ戦ニナルカモ知レマセヌ

  (第16回帝国議会衆議院刑法改正案委員中調査委員会会議録第229頁)

 

 これを石渡敏一政府委員が敷衍しました。

 

  現刑法〔旧刑法〕ノ133条並ニ,草案ノ111条〔現行刑法93条に対応〕,実ニ斯ウ云フ考ヘ――外国カラ見レバ一ノ国事犯デアル,其国ノ政府ヲ倒ストカ,其国ヲ乗取ルトカ云フ場合ナラ,国事犯ト見テ外国デ処分ヲスルカラ,内地デ罰スル必要ハナイ,又一面カラ見レバ,外国ニ於ケル政治犯ナラバ,外国人ガ罪ヲ犯シテモ,内地ニ於テ罰セザルノミナラズ,場合ニ依ッテハ保護ト云フコトモオカシイガ,マア保護ヲスルト云フ位ニナッテ居ル,内国人デアルト云ッテ,罰スルノモオカシイ,ソレ故ニ外国トノ交際上,内国ヲ以テ外国ニ対スル政治犯ノ根拠地トシテハ,外国ニ対シ今日ノ如ク締盟国トシテ,親睦シテ居ル間柄デハ宜シクナカラウ,唯内国ダケデ取締ヲ付ケル,外国ニ於テ戦端ヲ開イタラ,一ノ政治犯トナルカラ,内地ニ於テ罰スル必要ハナイノミナラズ,場合ニ依ッテハ保護スル位ナモノニナッテ居リマスカラ,之ヲ変ヘタ方ガ宜カラウト云フノデ,此ノ如ク変ヘタノデアリマス

  (第16回帝国議会衆議院刑法改正案委員中調査委員会会議録第229頁)

 

ア 脱線1:樺太国境越しの対露私戦の問題

ただし,現行刑法が制定された明治40年(1907年)には樺太に国境線があったので,理屈だけならば,国境線越しに我が国内からロシア帝国と私戦を行うことは可能ではあったのでしょう。しかし,元ロシア領の樺太に刑法が直接施行されることはなかったので,現行刑法制定に当たって樺太の日露国境のことを考える必要はなかったのでしょう。明治40年法律第25号が「法律ノ全部又ハ一部ヲ樺太ニ施行スルヲ要スルモノハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム〔ただし書略〕」と規定しており,刑法の樺太施行には明治41年勅令第192号が必要だったのでした。

 

イ 脱線2:在日米軍に対する私戦の問題

今日的問題としては,在日米軍相手に(すなわち国内において外国たる米国に対し)私に戦闘をなした場合はどうなるか,があります。既遂であっても刑法93条の予備又は陰謀の範囲でしか罰せられないというのも変ですね。日米安保体制は「憲法の定める統治の基本秩序」(日本国憲法がその前提とする統治の基本秩序)であるということで,内乱罪で処断すべきでしょうか。

 

(2)日本国憲法9条

ここで,日本人らが(国外で)外国相手に私戦をすることは現行刑法によって処罰されないとしても,法律レヴェルならざる日本国憲法9条との関係ではどうなのか,ということが疑問となります(大塚536頁は同条違反とするようです。)。しかしこれについては,極端な反対解釈をした上での屁理屈としては,「日本国民といえども,日本国憲法91項で放棄しているのは日本国の戦争,日本国の武力による威嚇及び日本国の武力の行使に限られ,同条2項後段で認めないのは国の交戦権のみである。したがって,日本国憲法によっては,私の戦闘,私の武力による威嚇及び私の武力の行使は放棄されておらず,かつ,私の交戦権も否認されていないのである。」ともいい得るようです(なお,人民の武装権を保障する米国憲法修正第2条参照)。

また,「国の交戦権」を認めないからといって,外国の軍隊がなす戦闘の正当業務性(刑法35条)までを否定するものではないでしょう。

 

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(3)第155条(私戦の罪に係る外国人の刑の減軽規定)解説

18778月案の第155条により,日本国在住の外国人について,同案154条の2の重罪の犯人又は共謀者となったときには,1等の減軽がされるものとしています。「日本国はそうではないが彼らの国が交戦中である他の外国に対する遠征を日本国内で組織しようとする外国人は,確かに,日本国にとって危険な行為をするものである。しかしながら,道徳的観点からすると,彼らの行為はしかく罪深いものではない。したがって,日本国家に対して直接なされた企てに係る場合と同様の刑1等の減軽を与えることは自然であるように思われる」からということでした(Boissonade, p.523)。

なお,1878227日に伊藤博文から刑法草案審査局に口達された政府の予決により,旧刑法から「外国人関係ハ一切之ヲ削除スルコト」となったところです(浅古弘「刑法草案審査局小考」早稲田法学573号(1982年)386頁。当該予決4項目のうち,他の3項目は「皇室ニ対スル罪ヲ設クルコト」,「国事犯ノ巨魁ヲ死刑ニ処シ刑名ヲ区別シテ設クルコト」及び「附加刑ハ之ヲ設クルモ政権ハ削除スルコト」でした。)。

 

(4)第156条(中立命令違反の罪の前身規定)解説

中立違反の罪に係る18778月案156条は,犯罪の主体に係る日本臣民との限定が外され,軽禁錮の上限が2年から3年に引き上げられ,「局外中立に反する行為をした者」が「其布告〔局外中立の布告〕ニ違背シタル者」に改められて旧刑法134条となっています。

 

ア 趣旨

ボワソナアドによれば,「局外中立を保っている国家は,その国民が交戦国に武器弾薬を供給すること(これは,利潤の追求が彼らをして大きな良心の痛みなしになさせしめ得るところであるが)をせずに彼ら自身当該局外中立を守ることに多大の利益を有している。そうでない場合には,当該投機者が属する国は,交戦国の一方を優遇するものとの疑いにさらされ,否応なしに戦争に巻き込まれ得るし,また少なくとも,復仇représailles),すなわち復讐の行為を受け得るところなのである。/そのために,局外中立を保ちたい諸国は正式かつ公の局外中立宣言をする慣習である。それと同時に,局外中立に反したその国民に対する刑を定めるが,当該刑が基本的な形で当該国の既存の法律において定められているときには,局外中立宣言において市民にその刑を知らせるのである。」(Boissonade, p.524)ということが中立違反の罪を設ける趣旨となります。しかし,対応する条項がフランス刑法にあるものとして紹介されてはいません(cf. Boissonade, p.506)。

 

イ 局外中立宣言の必要性

「我々のこの条項によって科される罰の適用のためには,当該宣言が必要である。この点が,違反の重大性自体からしてこの事前の宣言を必要としない〔私戦の罪に係る〕条項の適用との大きな違いである。」(Boissonade, p.525

 「局外中立に反することに係る刑は刑法に書かれていることが明らかにされなければならないので,局外中立宣言をするときには,必須ではないが,それを知らせるのがよいであろう。」(Boissonade, p.525

 

ウ 構成要件

 ところでボワソナアドは,局外中立に反するものである犯罪行為に係る構成要件を別途設ける必要はないものと考えていたようです。「我々は,違反者に対する罰の原則を定めるにとどめた。事件が生じたときには,最も安定した国際慣行を特に参酌し,事柄の原則に従って裁判することになる。疑いがあるときは,被告人を無罪にすることになる。」と述べるとともに(Boissonade, p.526),何が「局外中立に反すること(violation de la neutralité)」に当たるかについての解説を展開しています。一般的には戦時禁制品(contrebande de guerre)の交戦国中の一方に対する供給が当たるとされ(武器,爆発物,武装した又は武装し得る船舶及び兵員輸送用に整備された船舶は戦時禁制品であることについて意見の一致があるものの,偵察に用いることのできる小型船舶,石炭並びに食糧及び装備の補給には疑いがあるとされています。),中立国の船舶による封鎖の突破もそうであるとされている一方(なお,交戦国の一に対する陸上部隊又は海上部隊の遠征の組織は,私戦処罰の問題とされています。),「日本臣民が交戦国の軍隊に個人的に加入する行為は,局外中立に反するものとみなしてはならないであろう。それは,復仇をもたらし得ないことから法が制約する必要のない,個人の自由の発現である。」と述べられています(Boissonade, pp.525-526)。

 

エ 刑の重さについて

 局外中立に反する罪に対する刑の重さに係る考え方については,「我々の本条が適用される多様な事案に対し,罰はかなり軽いものとなっている。それに対して当該行為がされた交戦当事国が有し,かつ,もしものときに当たって当該国が行使することを怠ることはないであろう没収権を考慮に入れたからである。」とされています(Boissonade, p.526)。

 

3 旧刑法133条及び134条解説

 

(1)旧刑法133条:私に外国に戦端を開く罪

 旧刑法133条の解釈としては,戦端を開く行為が客観的にどのようなもので,その主体がだれかということが問題になるようです。当該主体は,未遂及び予備の主体とも同一たるべきものでしょう。

 

ア 「戦端ヲ開」くことについて

 「外国」について,高木豊三は「敵国ト否ト同盟国ト否ト和親国ト否トヲ別タサルナリ」といっています(高木豊三『校訂 刑法義解』(時習社=博聞社・1882年)403頁)。「敵国」も含む点は,18778月案154条の21項にあった「日本国が宣戦している交戦相手国ではない」との限定句がなくなったことによる反対解釈でしょうか。(なお,高木は,18759月からボワソナアドの下で法を学び,18767月に卒業した,司法省法学校正則科第1期生です(大久保53頁)。)

「戦端ヲ開」くとは,18778月案154条の2に鑑みるに組織的な遠征(expédition)の部隊についていわれるのですから,正に「組織的な武力攻撃」(前掲前田・各論584-585頁。下線は筆者によるもの)を開始することでしょう。

陸軍刑法(明治41年法律第46号)は,擅権の罪に係るその第2編第2章の第35条において「司令官外国ニ対シテ故ナク戦闘ヲ開始シタルトキハ死刑ニ処ス」と,海軍刑法(明治41年法律第48号)はこれも擅権の罪に係る第2編第2章の第30条において「指揮官外国ニ対シテ故ナク戦闘ヲ開始シタルトキハ死刑ニ処ス」と規定しています。「司令官」とは「軍隊ノ司令ニ任スル陸軍軍人」であり(陸軍刑法17条),「指揮官」は「艦船,軍隊ヲ指揮スル海軍軍人」です(海軍刑法13条)。部下が呆れてついてこないまま司令官又は指揮官一人が武器を使って外国を攻撃した場合は陸軍刑法35条及び海軍刑法30条の「戦闘ヲ開始シタルトキ」にはならないでしょうから,両条での「戦闘」は,軍隊・軍艦レヴェルでの組織的なものでなければならないのでしょう。高木は,「陸海軍ノ兵ヲ率ヒ若クハ暴徒ヲ集嘯シテ」といっています(高木403頁)。

(なお,陸軍刑法38条及び海軍刑法33条は「命令ヲ待タス故ナク戦闘ヲ為シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ7年以上ノ禁錮ニ処ス」と規定しており戦闘の主体が司令官又は指揮官に限定されていませんが,「現に,戦時状態に在る敵国に対して,勝手に戦闘を為す場合」についてのものであるとされ(田家秀樹『改正陸軍刑法註解 附陸軍刑法施行法』(高橋慶蔵・1908年)93頁。また,軍事警察雑誌社『改正陸軍刑法正解 附同施行法釈義』(軍事警察雑誌社・1909年)68頁),「主眼トスル所ハ例ヘバ戦闘ノ開始後ニ在リテ戦ノ機未ダ熟セズ命令ナクンバ戦争行為ヲ為ス可ラズト云フガ如キ場合ニ於テ其命令ヲ待タズシテ擅ニ戦争行為ヲ為シタル場合ヲ処罰スルノ規定ナリ」といわれています(引地虎治郎『改正陸軍刑法講義』(川流堂・1909年)76頁)。戦闘を「開始」することと,戦闘を「為」すこととは異なるようです。組織がいったん起動した後は動きやすくなるが,組織をまず起動させることはそもそもそのための権限がある者しかできない,ということでしょうか。)

 

イ 犯行の主体について

司法省刑法草案取調掛の多数意見は広く参加者を罰する18778月案154条の2の私戦の罪全体を不要としていたこと及び残された法定刑の重さが既遂で有期流刑であることからすると,旧刑法133条の「外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開」く者は,当該私戦(expédition)の首魁級が想定されていたように思われます。

「私戦にはまた,国家に対する裏切りの性格は全く無い。むしろ,過大な,しかし時宜を得ずかつ違法な情熱があるところである。」といわれていますから(Boissonade, p.521),内乱罪と刑が同等以上ではおかしいところです。内乱罪において有期流刑以上の刑罰があったのは,死刑を科される首魁及び教唆者(旧刑法1211号)並びに無期流刑又は有期流刑を科される群衆の指揮をなしその他枢要の職務をなしたる者(同条2号(有期は「其情軽キ者」))についてのみでした。したがって,私戦の罪については,内乱罪にいう,兵器金穀を資給し,若しくは諸般の職務をなしたる者(旧刑法1213号)又は教唆に乗じて付和随行し,若しくは指揮を受けて雑役に供したる者(同条4号),すなわち,現場の兵隊レヴェルの者(18778月案154条の23項(2年から5年の軽禁錮)該当者)は,旧刑法133条の「戦端ヲ開」く者ではない,ということになります。また,そうだとすると,共犯処罰についても,戦端を開く行為におけるその手段としての兵隊の存在は当然予想されるところですから(必要的共犯),処罰規定がない以上は,兵隊は不可罰ということになりましょう(前田雅英『刑法総論講義 第4版』(東京大学出版会・2006年)404-405頁。内乱罪及び騒乱罪が必要的共犯の例として挙げられています。)。

また,内乱罪については,「首謀者は必ず存在しなければならない点が騒乱罪との相違点である」とされています(前田・各論504頁)。換言すると,群衆の指揮をなし,その他枢要の職務をなす者が欠ける内乱もあるわけです。私戦においても同様でしょう。首魁が旧刑法133条の有期流刑の対象となることに疑いはありません。(ただし,群衆の指揮をなし,その他枢要の職務をなした者は対象とならないとまでは確言できません。征服王となるかもしれぬ首魁と,その場合その臣下となる者らとの間で刑に差を設けないことは不適当ではないかといえば,そうなのではありますが。なお,内乱罪について,「首謀者は必ずしも1人とは限らない」とされています(前田・各論504頁)。)「凡ソ日本ノ兵権ヲ有スル者若クハ其他ノ者陸海軍ノ兵ヲ率ヒ若クハ暴徒ヲ集嘯シテ以テ私ニ外国ト戦争ノ端緒ヲ開」く者が「外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開キタル者」であるといわれていますところ(高木403頁),これはやはり首魁でしょう。ただし,「日本ノ兵権ヲ有スル者」が「陸海軍ノ兵」を率いる場合については,陸軍刑法海軍刑法が適用されるものでしょう。

 

ウ 予備

 予備行為の意味については,18778月案154条の25項の規定するところでよいのでしょう(前記22)エ参照)。予備の法定刑は,有期流刑が1等又は2等減ぜられるのですから,重禁獄又は軽禁獄になったわけです(旧刑法68条)。重禁獄は9年以上11年以下,軽禁獄は6年以上8年以下でした(旧刑法23条)。

 前記22)イの丸山作楽は,88月ほど獄に繋がれていました。

 

エ 未遂

旧刑法133条の未遂処罰については,前記22)ウを参照。法定刑は上記の予備と同じです(旧刑法1131項,112条)。

 

(2)旧刑法134条:局外中立の布告に違背する罪

 

ア 白地刑罰法規化

 ボワソナアドは,18778月案156条は構成要件としても十分であって,局外中立宣言が発せられれば(当該宣言は,天皇の外交大権(大日本帝国憲法13条)の施行に関する勅旨の宣誥として詔書でされたわけです(公式令11項)。),それのみで中立違反の罪に係る罰条が起動するものと考えていたようです(前記24)ウ)。しかしながら,国際法頼みの「局外中立に反する行為」なる構成要件は――あるいは,罪刑法定主義の建前からもいかがなものか,ということにでも刑法草案審査局でなったのでしょうか――旧刑法134条の構成要件においては,局外中立の「布告ニ違背」することとなっています。(ただし,高木豊三は旧刑法134条について「蓋シ日本其戦争ニ就テ自国ノ利害栄辱ニ関スルモノナキ時ハ局外中立ノ法ヲ守リ且ツ其旨ヲ布告ス是時ニ当リ若シ其布告ニ違背シ一方ノ敵国ニ兵器弾薬船舶ノ類ヲ売与シ若クハ兵馬糧食ヲ資給シ其他中立ノ布告ヲ破ル可キ所為アル者」は同条に照らして罰せられると述べており(高木405頁),白地刑罰法規であるとの認識を明示してはおらず,むしろボワソナアド風の解釈を維持していました。)しかしてその布告(公文式(明治19年勅令第1号)の制定前は,法規の形式でもありました。)の形式は,詔書ではなく,天皇の発する命令である勅令(公文式1条から3条まで参照)でした。

 

イ 米西戦争時の前例:交戦国の軍隊への応募従事等禁止勅令等

 1898年の米西戦争(同年425日に米国が同月21日からスペインとの戦争状態が存在することを宣言,同年1210日のパリ条約調印で終結。この戦争の結果,米国はフィリピン,グアム及びプエルト・リコを獲得しました。)の際の対応が前例となります。

 明治天皇は1898430日付けで次の詔勅(公式令の施行前でした。)を発します(同年52日付けの官報で公布)。

 

  朕ハ此ノ次北米合衆国ト西班牙国トノ間ニ不幸ニシテ釁端ヲ啓クニ方リ帝国ト此ノ両国トノ間ニ現存スル平和交親ヲ維持セムコトヲ欲シ茲ニ局外中立ニ関スル条規ヲ公布セシム帝国臣民並ニ帝国ノ版図内ニ在ル者ハ戦局ノ終ハルマテ国際法ノ原則ト此ノ条規トニ依リ厳正中立ノ義務ヲ完フスヘシ背ク者ハ独リ交戦国ノ処分ニ対シ帝国ノ保護ヲ享クル能ハサルノミナラス亦帝国裁判所ニ於テ成条ニ照シ処分セシムヘシ

 

 最後の「帝国裁判所ニ於テ成条ニ照シ処分」の「成条」が,旧刑法134条ですね。

詔勅中の「局外中立ニ関スル条規」が,旧刑法134条の「布告」ということになります。しかしてそれらは,いずれも1898430日に裁可されて同年52日付けの官報で公布された,明治31年勅令第86号(北米合衆国及西班牙国交戦中帝国臣民及帝国の版図内に在る外国人の行為に関する件)及び同年勅令第87号(北米合衆国及西班牙国交戦中其の交戦に関係ある艦船にして帝国領海内に在るものの取締に関する件)でした(なお,大塚仁『刑法概説(各論)(増補二版)』(有斐閣・1980年)537頁註(2)には「米西戦争の際の明治31430日の中立詔勅86号・87号」とありますが,「中立詔勅及び勅令86号・87号」といわんとして「勅令」を脱したものか,それとも「中立勅令86号・87号」といわんとして「詔勅」と混同したものか,悩ましい。)

これらの勅令は,旧刑法134条による委任に基づくものというよりは,大日本帝国憲法9条の「公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令ヲ発シ又ハ発セシム」る天皇の大権に基づくものでしょう。となると,旧刑法134条は,有名な明治23年法律第84号(「命令ノ条項ニ違犯スル者ハ各其命令ニ規定スル所ニ従ヒ200円以内ノ罰金若ハ1年以下ノ禁錮ニ処ス」)の特則ということになるようです。

明治31年勅令第86号の内容は,次のとおり。

 

 帝国臣民及帝国ノ版図内ニ在ル外国人ハ現ニ北米合衆国及西班牙国間ノ交戦ニ関シ左ニ掲クル行為ヲナスコトヲ得ス

  第一 私船ヲ以テ商船捕獲ヲ行フノ免許若ハ委任ヲ交戦国ヨリ受クルコト

  第二 交戦国ノ陸軍海軍ノ募集ニ応シ若ハ其ノ軍務ニ従事シ又ハ軍用ニ供スル船舶,捕獲私船ノ船員ト為リ若ハ其ノ募集ニ応スルコト

  第三 交戦国ノ陸軍海軍ノ軍務ニ従事セシムルノ目的ヲ以テ又ハ軍用ニ供スル船舶,捕獲私船ノ船員タラシメ若ハ其ノ募集ニ応セシムルノ目的ヲ以テ他人ト契約ヲ為シ又ハ他人ヲ帝国版図外ニ送遣スルコト

  第四 交戦国ノ一方ノ戦争又ハ捕獲ノ用ニ供スル目的ヲ以テ艦船ノ売買貸借ヲ為シ又ハ武装若クハ艤装ヲ為シ又ハ其ノ幇助ヲ為スコト

  第五 交戦国ノ一方ノ軍艦,軍用ニ供スル船舶又ハ捕獲私船ニ兵器弾薬其ノ他直接ニ戦争ノ用ニ供スル物品ヲ供給スルコト

 本令ハ発布ノ日ヨリ施行ス

 

 ボワソナアドからすると,第2号などは個人の自由に対する余計な制約でしょう(前記24)ウ参照)。ただし,同号の行為は,旧刑法133条では不可罰であったということになります。



私戦予備及び陰謀の罪(刑法93条)並びに中立命令違反の罪(同条94条)に関して

 (起):現行解釈 http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505630.html

 (承):旧刑法の条文及び18778月案154条の2(私戦の罪)

     http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505646.html

 (結):まとめ http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505660.html

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第3 旧刑法及びボワソナアドに遡る。

 

1 旧刑法の条文(133条及び134条)及びボワソナアドの関与

 私戦予備及び陰謀の罪は旧刑法(明治13年太政官布告第36号)133条を,中立命令違反の罪は同法134条をそれぞれ前身規定としています。

 

  第133条 外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開キタル者ハ有期流刑ニ処ス其予備ニ止ル者ハ1等又ハ2等ヲ減ス(未遂は1等又は2等を減ずる(旧刑法112条,1131項)。)

  第134条 外国交戦ノ際本国ニ於テ局外中立ヲ布告シタル時其布告ニ違背シタル者ハ6月以上3年以下ノ軽禁錮ニ処シ10円以上100円以下ノ罰金ヲ附加ス

 

旧刑法の条文に関しては,ボワソナアド(Gustave Boissonade)のProjet Révisé1886年)が国立国会図書館のウェブサイトで見ることができ,同書は,その理解の大きな助けになっています。条文のみを睨んだ上での「法的な推論」にすぎざる各論者の私見よりは,よりもっともらしい解釈論を引き出すことができるでしょう。

旧刑法の制定に当たっては「司法省では〔略〕まずボワソナアドに草案を起草させ,それを翻訳して討論を重ね,さらにボワソナアドに仏文草案を起草させる,という手続を何回かくりかえした後,最終案を作成する,という手順にした。このやり方にしたがって,「日本刑法草案・第一稿」(4524条)ができ上がり,〔明治〕9年〔1876年〕12月末,正院に上申された。〔略〕/翌〔明治〕10年〔1877年〕に入って,前年の草案は論議し直され修正されて「日本刑法草案・第二稿」(3473条)となり,さらに第4編違警罪の編纂も終了した。ボワソナアドによると,それは同年の7月のことである。その後草案は整理校正され,1128日,司法省から太政官に「日本刑法草案」(4478条)として上呈された。以上で草案は司法省の手をはなれ,またこの段階まででボワソナアドの関与も終了するのである。」という作業が司法省でされていました(大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』(岩波新書・1977年(追補1998年))114-115頁)。

 

2 18778月案(フランス語)154条の2から156条まで

 

(1)条文及びその背景

司法省における作業の最終段階である18778月に司法卿から元老院に提出された刑法草案のフランス語版(Projet de Code Pénal pour l’Empire du Japon; Imprimerie Kokubunsha, août 1879。これも国立国会図書館のウェブサイトで見ることができます。日本語訳は,中村義孝立命館大学名誉教授による「日本帝国刑法典草案(1)」立命館法学329号(2010年)260頁以下があります。)には,私戦及び中立命令違反の処罰に関して次のようにありました(pp.51-52. 同書には乱丁があるので注意)。

 

  154 bis  () Sera puni de la détention majeure, tout sujet japonais qui aura entrepris et commandé une expédition militaire ou maritime contre un pays étranger avec lequel le Japon n’était pas en guerre déclarée.

La peine sera la détention mineure contre ceux qui auront exercé dans ladite expédition une fonction ou emploi emportant autorité.

     Tous autres co-auteurs seront punis d’un emprisonnement simple 2 à 5 ans.

La peine sera diminuée d’un à deux degrés, pour tous les coupables, s’il y a eu seulement commencement d’exécution résultant d’une tentative de départ.

  Elle sera diminuée de deux à trois degrés, s’il n’y a eu que des actes préparatoires, consistant en levées ou enrôlements de troupes, en approvisionnements ou équipements militaires ou maritimes.

  Le bénéfice des articles 139 à 141 [sic] sera applicable à ceux des coupables qui se trouveront dans les cas prévus auxdits articles.

  Les articles 144 et 145 seront applicables à tous ceux qui se rendront coupables de crimes ou délits communs, à l’occasion de ladite expédition.

  S’il y a eu des actes de piraterie, les dispositions du Chapitre III bis, Sect. 1ère seront applicables.

 

   () Article proposé par la minorité de la Commission.

 

   155.  Les étrangers qui, résidant au Japon, seraient auteurs ou complices des crimes prévus aux articles 149 et suivants seront punis des peines qui y sont portées avec diminution d’un degré.

 

   156.  Sera puni d’un emprisonnement simple de 6 mois à 2 ans et d’une amende de 10 à 100 yens tout sujet japonais qui, en cas de guerre entre deux ou plusieurs nations étrangères à l’égard desquelles le Japon s’est déclaré neutre, aura commis un acte constituant une violation de la neutralité.

 

外国との私戦に係る18778月案の第154条の2154 bis)は,その註()によれば,司法省の刑法草案取調掛(Commission)中の少数意見によるものです。当該取調掛は1875915日に設けられ,掛員は鶴田皓,平賀義質,藤田高之,名村泰蔵,昌谷千里ほか合計11名,更に司法卿大木喬任が総裁,司法大輔山田顕義が委員長となり,鶴田皓が纂集長に任じられていたそうです(大久保113頁)。

ボワソナアドによれば,当該私戦処罰条項は取調掛によって当初採択されたものの,後に司法省の決定稿作成の際に削られることとなり,その後政府と元老院とによる刑法草案審査局に非公式に提出されるについては困難が伴ったものであろうとのことです(Boissonade, p.514)。刑法草案審査局は,18771225日に太政官によって設けられたもので,「総裁に参議伊藤博文(後に柳原前光にかわる),委員として幹事陸奥宗光(後に議官中島信行にかわる),議官細川潤次郎,同津田出,同柳原前光(以上元老院),大書記官井上毅(太政官法制局,途中で辞任),司法大書記官鶴田皓,(太政官)少書記官村田保および同山崎直胤が委員に任命され,そのほか,御用掛として,司法少書記官名村泰蔵と判事昌谷千里が命ぜられた。(なお後に〔明治〕11年〔1878年〕2月,司法大輔山田顕義が委員に加えられた。)」というような陣容だったそうです(大久保115頁)。

 

(2)第154条の2(私戦予備及び陰謀の罪の前身規定)解説

私戦の処罰に係る18778月案154条の2は大幅に単純化されて旧刑法133条となっています。

 

ア 第1項から第3項まで:三つの行為者類型

18778月案154条の2の構成要件及びそれに対応する刑は,既遂段階のものについて,①「日本国が宣戦している交戦相手国ではない外国に対して陸上又は海上の遠征(expédition militaire ou maritime)を企て,かつ,指揮した(aura entrepris et commandé)日本臣民」に重禁獄(同条1項),②「前項の遠征において権限ある役割又は職務(fonction ou emploi emportant autorité)を果たした者」に軽禁獄(同条2項)及び③その他の共犯には2年から5年までの軽禁錮(同条3項)というように3分されていましたが,旧刑法133条においては「外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開キタル者」に対して有期流刑と科するものと一本化されています。18778月案での重禁獄は11年から15年まで内地の獄に入れられて定役に服さないもの(同案29条),軽禁獄は6年から10年まで内地の獄に入れられて定役に服さないもの(同条),軽禁錮は特別の禁錮場に留置されて定役に服さないもの(同案31条,旧刑法24条)ですが,旧刑法での有期流刑は,12年以上15年以下島地の獄に幽閉されて定役に服さないものです(同法20条)。

(「愛の「徒」刑地?」:http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079020156.html

 

イ 征韓論及び西南戦争との関係並びにフランス1810年刑法84条及び85

私戦の罪に係る旧刑法133条は,幕末の薩英戦争や馬関戦争を念頭に置いて設けられたものというよりは,西郷隆盛のごとき者を警戒して,内乱罪とパラレルのものとして設けられたもののようです。

 

  日本国においては,〔私戦の処罰に関する〕このような規定に特段の有用性があったもののように観察される。王政復古以来何度となく,国内において――特に士族の精神に対して――巨大な影響力を有する人物群が,日本国からする朝鮮国遠征の主唱者となっていた。彼らは,政府の朝鮮国人に対する宥和的かつ平和的な対応を非難し,重大な不満があるとしても日本国としては平和的かつ友好的な関係を維持したい当該隣国に対する遠征を,彼ら自身の手で(pour leur propre compte)行う姿勢を放棄してはいなかった。

  そのような企ては,確かに,不平家らがそこに身を投じた内戦ほどは不幸なものではなかったであろう。しかし,刑法に係る最初の作業の際人々には二つの企てのいずれも可能性のあるものと思われたし,内戦と同じくらい人々を懸念させていた当該企てに対する刑罰を規定することは賢明なことであった。

  政府の許可のないまま,そのようにして日本臣民によって企てられた遠征が,攻撃された国,更にはその同盟国からする重大な復仇に政府をさらすこととなるとともに,日本国を対外戦争に引き込み得るということには疑いのないところである。

 (Boissonade, pp.520-521

 

旧刑法の18778月案154条の21810年フランス刑法84条及び85条の流れを汲むものとされていますところ(Boissonade, pp.505 et 520),当該両条よりも内乱罪風に具体的かつ厳しい構成要件となっているのは,当時なお戦われていた西南戦争の影のゆえでしょうか(鹿児島城山における西郷の自刃は1877924日)。

1810年フランス刑法84条は「政府によって承認されていない敵対行為によって国家を宣戦にさらした者は,国外追放に処する。そこから戦争が生じたときは,流刑に処する。(Quiconque aura, par des actions hostiles non approuvées par le gouvernement, exposé l'état à une déclaration de guerre, sera puni du bannissement; et, si la guerre s'en est suivie, de la déportation.)」と,同法85条は「政府によって承認されていない行為によって復仇を受けることにフランス人をさらした者は,国外追放に処する。(Quiconque aura, par des actes non approuvés par le gouvernement, exposé des Français à éprouver des représailles, sera puni du bannissement.)」と規定していました。いささか抽象的です。

なお,大物ではありませんが,外務権大丞丸山作楽という者がおり,1871511日,征韓陰謀の嫌疑で拘禁されています。

 

  庶民はなお徳川体制ふうの愚民でありつづけているが,「志士」を気どる連中のあいだでは,政府の態度決定をうながすために有志で韓国に上陸し私戦を開始しようと考えている暴発計画者の一団があった。その中心人物は政府のなかにいた。外務大丞(ママ)の丸山作楽という幕末の志士あがりの男である。丸山は旧島原藩士で,幕末,狂信的攘夷主義者の多かった平田篤胤の神国思想の学派に属し,維新後,官途についたが,新政府の欧化主義が気に入らず,この征韓論をさいわい,政府を戦争にひきずりこみ,そのどさくさに乗じて一挙に政府を転覆しようと考えた。この神国思想家は単に夢想家ではなく現実的な活動能力ももっており,いちはやく横浜のドイツ商人に計画をうちあけ,その商人から軍資金20万円を借りうけ,汽船の手あてなどをする一方,過激攘夷主義の生き残りや旧佐幕派の不平士族を(かたら)って同志の数をふやした。もっとも事(あらわ)れて丸山は捕縛され,終身刑に処せられた。

 (司馬遼太郎『歳月』(講談社・1969年)173頁)

 

 ただし,丸山は,1880年に恩赦で出獄しています。

 

ウ 第4項:未遂処罰に関する規定

18778月案154条の24項は未遂に係る規定です。「進発(départ)の試みから生ずる実行の着手(commencement d’exécution)のみがあるときは,全ての犯人につき刑を1等又は2等を減ずる。」ものとされています。これに関して,ボワソナアドはいわく。

 

   失敗した犯行(crime manqué)についても規定されていない。しかしながら,特に当該場合について,法は最も重い刑で罰するものであることを考慮しなければならない。というのは,法は,出発がなされた遠征(expédition partie)の企て及び指揮を処罰するのである。日本国の港を離れた時に,出発がなされ,遠征は始まり(entreprise),犯罪がなされ(commis),完了する(consommé)。遠征が成功したか,それともあるいは外国の港に到着しただけであるかなどということを調べる必要はない。

   それとは反対に,遠征が港において制止arrêtée)されたのであれば,それは未遂tentée)にとどまったのであり,失敗したmanquée)のではない。

   (Boissonade, p.522

 

これに対して旧刑法133条は,既遂時期を外国ニ対シ戦端ヲ開キタル時まで遅らせています。同条の罪については未遂を罰するのですが(旧刑法1131項,112条(刑を1等又は2等減ずる。)),戦端を開くことに係る実行の着手の時期はどこに求められたものか。現行刑法93条が予備及び陰謀のみを罰しているところから逆算すると,日本国を遠く離れて,遠征の目的たる外国に相当近付いた時点と観念されていたのかもしれません。しかして現行刑法93条は,国内犯のみを対象としているところです(同法2条から4条まで参照)。

 

エ 第5項:予備処罰(及び陰謀処罰の不在)

18778月案154条の25項は,予備について規定しています。「兵士の徴募又は陸上部隊若しくは海上部隊に係る補給若しくは装備による予備(actes préparatoires)のみがされたときは,刑を2等又は3等減ずる。」とされています。旧刑法133条ただし書では1等又は2等減ずるのみですので,未遂と重なってしまっています。

18778月案において重禁獄を2等又は3等減ずる場合,まず1等減じて軽禁獄(6年から10年),2等減じて2年から5年の軽禁錮及び20円から50円の罰金の併科(同案82条),3等減じて1年6月から39月までの軽禁錮及び15円から3750銭までの罰金の併科(同案83条)になったようです。

18778月案154条の2及び旧刑法133条では私戦の陰謀は処罰されないことになっていました。「共謀又は陰謀については規定されていない。それを抑止することが必要であるものとするほど,社会的害悪がまだ十分はっきりしているものとは考えられなかったからである。」ということでした(Boissonade, pp.521-522)。

 

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第1 余りなじみのない刑法93条及び94

 天下太平の平和国家である日本国の司法試験では,その短答式による筆記試験の刑法科目(司法試験法(昭和24年法律第140号)313号)及び論文式による筆記試験の刑事系科目(同条23号)において,

 

刑法(明治40年法律第45号)93条(私戦予備及び陰謀) 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で,その予備又は陰謀をした者は,3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし,自首した者は,その刑を免除する。

又は

同法94条(中立命令違反) 外国が交戦している際に,局外中立に関する命令に違反した者は,3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

 

に関する出題がされることはないでしょう(ただし,司法試験法33項の法務省令の定めである司法試験法施行規則(平成17年法務省令第84号)21項によって,両条が出題範囲から除外されているということはありませんので,念のため。)。したがって,弁護士であるからといって,刑法93条又は94条について十分な学識があるとは限りません(これは,我が国の裁判官,検察官又は弁護士になろうとする者に必要な学識(司法試験法11項)は,刑法93条及び94条については,我らの平和の現実に鑑みるに,理想的に十分なものまでである必要は必ずしもないだろうといううがった見方,ということになるでしょうか。)。また,司法試験では「学識及びその応用能力」(司法試験法11項),「専門的な法律知識及び法的な推論の能力」(同法31項),「専門的な学識並びに法的な分析,構成及び論述の能力」(同条2項)及び「法律に関する理論的かつ実践的な理解力,思考力,判断力等」(同条4項)の有無の判定はされるようですが,そこにおいて前提となる専門的な法律知識ないしは学識は,法科大学院又は予備校で素直に学ばれることが想定されており,更にその奥ないしは背後に貫穿する尖った調査研究能力までは特に求められてはいないのでしょう。

 

第2 いわゆる基本書における解説

 いわゆる基本書においても,刑法93条及び94条の解説は薄くなっているところです。

 

1 私戦予備及び陰謀の罪

 刑法93条の私戦予備及び陰謀の罪については,

 

  目的犯 外国に対し私的に戦闘を為す目的でその予備又は陰謀をする罪である。外国とは外国の一地方や特定の外国人の集団ではなく,国家としての外国である。私的に戦闘行為をするとは国の命令を経ずに組織的な武力攻撃を行うことである。ただ,日本国憲法は国権の発動としての戦争を禁じている。予備とは,兵器の調達や兵士の訓練等,外国との戦闘の準備行為一般を指す。陰謀とは,私戦の実行を目指して複数の者が犯罪意思をもって謀議することである。

   自首した者に刑の必要的免除を定める。通常の自首(42条Ⅰ項)の特別規定である。

   (前田雅英『刑法各論講義 第4版』(東京大学出版会・2007年)584-585頁)

 

とあるばかりです。なお,「組織的な武力攻撃」とありますから,さいとう・たかを(2021年歿)のゴルゴ13がするようなone-man armyによる単独戦闘行為は,私戦には含まれないようです。

 刑法学の泰斗の著書には,刑法93条が「私戦そのものについては規定を欠く」ことについて,「私戦が実際に開始されるということはほとんど想像ができないから規定を省いたのであろう。殺人罪その他の規定の適用にゆだねられることになる。」との記載があります(団藤重光『刑法各論』(有斐閣・1961年)102頁三註(1))。刑法の「各論」は「論理的よりも事実的・歴史的な考察が重視されなければならないことがすくなくない」とされておりますところ(団藤1頁),この点に関しては,後に,現行刑法案の帝国議会審議の場に遡って,法案提出者の意思に係る資料を御提供します(第411))。

  

2 中立命令違反の罪

刑法94条の中立命令違反の罪については,

 

 白地刑罰法規 外国交戦の際,すなわち複数の国家間で現に戦争が行われている場合に,局外中立に関する命令に違反する罪である。局外中立に関する命令とは,わが国が中立の立場にある場合に,国際法上の義務に従い交戦当(ママ)国のいずれにも加担しない旨指示する命令で,具体的内容は,個々の中立命令により異なる2。本罪の構成要件は,個別の局外中立命令の内容に左右されるので,典型的な白地刑罰法規とされる。

  2)具体的には,普仏戦争や米西戦争の際に太政官布告や詔勅の形で中立命令が出された。現行刑法下では,伊土戦争の際の明治44103日の詔(ママ)がある。

  (前田・各論585頁)

 

ということで,これも「構成要件は,個別の局外中立命令の内容に左右される」ということではっきりせず,肩透かしです。

 そこで,1911年(明治44年)103日付け(同日の官報号外で公布)の明治天皇の詔書(公式令(明治40年勅令第6号)1条,12条参照)を見ると,これまた,

 

 朕ハ此ノ次伊太利国ト土耳其国トノ間不幸ニシテ釁端ヲ啓クニ方リ帝国ト此ノ両国トノ間ニ現存スル平和ノ関係ヲ維持セムコトヲ欲シ茲ニ局外中立ヲ宣言ス帝国臣民並ニ帝国ノ管轄内ニ在ル者ハ戦局ノ終ハルニ至ルマテ厳正中立ト相容レサル一切ノ行動ヲ避ケムコトヲ期セヨ

 

とあるばかりです。「個別の局外中立命令の内容」なるものは,「厳正中立ト相容レサル一切ノ行動ヲ避ムコトヲ期セヨ」というものにすぎないようでもあって,甚だ漠としています。(なお,中立命令違反の罪については,国外犯の処罰はありません(刑法2条から4条まで)。)「具体的内容は,個々の中立命令によ」るものとして片付けて安心してはならなかったもので,結局,刑法94条自体についての具体的な説明が求められるもののようです(ちなみに,団藤102頁四註(2)においては,伊土戦争に係る明治44103日の詔書は,中立命令の前例として掲げられていません。)

 なお,1911年の伊土戦争は,イタリア王国がオスマン=トルコ帝国にトリポリを要求する同年928日の最後通牒を同帝国が拒絶し,同月29日に開始せられたもので,19121018日調印のローザンヌ条約によりリビアがイタリアの支配下に入る結果となっています。



私戦予備及び陰謀の罪(刑法93条)並びに中立命令違反の罪(同条94条)に関して

 (承):旧刑法の条文及び18778月案154条の2(私戦の罪)

     http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505646.html

(転):18778月案155条(外国人の刑の減軽)及び156条(中立違反の罪)並びに旧刑法133条及び134

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505655.html

 (結):まとめ http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505660.html

 

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 本稿は,「準消費貸借(民法588)の藪を漕ぐ(下)」ブログ記事中「9 準消費貸借山域の鳥瞰図」の「(3)要物性緩和論の由来」(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079396090.html)に関しての追記となります。

 

1 純消費貸借における要物性の緩和

「要物性の緩和」は,準消費貸借(民法(明治29年法律第89号)588条「金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなす。」)についてのみならず,本来の消費貸借(同法587条「消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。」)についても観念され得るところです。

すなわち,本来の消費貸借についても「要するに,一定量の経済的価値が,貸主の負担において,適法に,借主に帰属することを要するだけである。」(我妻榮『債権各論中巻一(民法講義Ⅴ₂)』(岩波書店・1957年(補注1973年))358頁),「例えば,契約額の一部を借主に渡し,残部を借主及び保証人の旧債務と差し引きにしたとき(大判大正756890頁),借主が貸主に対する第三者の債務を弁済することにしてその金額を消費貸借にしたとき(大判明治4468379頁)などにも,要物性を充たす。けだし,これらの場合にも,貸主の負担において借主にそれだけの経済的価値が帰属するからである。」(同358-359頁),「判例は,消費貸借の要物性をゆるやかに解釈し,現実に目的物の授受がなくても借主に現実の授受があったと同一の経済上の利益を得しむれば足りるとしている。」(来栖三郎『契約法』(有斐閣・1974年)253頁註(3))等と説かれています。

 

2 準消費貸借=消費貸借

こうなると,消費貸借と準消費貸借との区別は曖昧になってきます。その結果が赴くところは,両者の同一視です。いわく。「消費貸借の要物性を厳格に解する立場に対して,次第に強調されてきた要物性緩和の傾向は,本条〔民法588条〕の解釈にも当然影響し,今日では本条は,民法自身消費貸借の要物性を緩和している場合と解されている(松坂123,我妻365366,山主123,柚木・民法下129,宗宮164,石田穣187,星野171)。すなわち,消費貸借における物的要件は,既存債務の存在をもって足るというところまでゆるめられているのだと考えられるのである(我妻366)。そして,このように本条が要物性緩和の規定であり,本条の契約は結局消費貸借にほかならぬと解する場合には,準消費貸借という名称は,前述(イ)の説〔「本条はドイツ民法と異なって,消費貸借が成立したものと「看做ス」というのみであるから,本条の契約は,純粋の消費貸借ではなくして,単に消費貸借と同じ法律効果を生ずる契約というにすぎないのであって,したがって,そのような準消費貸借においては,純消費貸借におけると同じ物的要件〔厳格な要物性〕の具備を説明する必要はないとする理論」〕のような積極的な意味〔「この立場からすれば,本条の契約に準消費貸借という名称を与えることは,まさに妥当である」〕を含んでいないのであって,したがって,本条の契約を特別にそう呼ばねばならないかどうかは疑わしいとの説もとなえられている」と(幾代通=広中俊雄編『新版注釈民法(15)債権(6)』(有斐閣・1989年)21頁(平田春二)。下線は筆者によるもの)。

ただし,平成16年法律第147号による改正においては,民法588条に「(準消費貸借)」との見出しがわざわざ付けられてしまっています。民法587条の前に「消費貸借」との共通見出しを一つ付けて済ますことはされていません。同一の条において規定されているドイツ民法旧6071項(「金銭又はその他の代替物を消費貸借の目的として受領した者は,貸主に対して,同じ種類,品質及び数量の物をもって受領物を返還する義務を負う。」)と同条2項(「他の原因により金銭又はその他の代替物に係る債務を負う者は,当該金銭又は物について,消費貸借の目的としての債務を負うものとする旨の合意を債権者とすることができる。」)との関係には倣わなかったわけです。

 

3 裁判例

(1)消費貸借から準消費貸借へ

判例も「当事者が金銭消費貸借に基づき金員支払を求める場合において,その貸借が現金の授受によるものでなく,既存債務を目的として成立したものと認めても,当事者の主張に係る範囲内においてなした認定でないとはいい得ない」としています(最判昭和41106日集民84543頁・判時47331頁)。(昭和38年(1963年)2月末か3月初めに3万円の敷金返還債権の譲渡があった場合における譲渡人(原告)から譲受人(被告)に対する「原告は被告に対し昭和3831日金3万円を弁済期(ママ)同年6月末日利息の定なく貸与した」ことを請求原因とする3万円の支払を求める訴えについて,事実審は「右事実によれば,昭和382月末か3月始め,現金の授受はないが,これと同視すべき金3万円の経済的利益の授受が原告より被告にあり,被告は同年6月末までにこの返還を約したのであるから,消費貸借の成立があつたというべきであり,被告は原告に対し右借受金3万円を支払う義務がある」との判決を下したところ,「X〔原告・被上告人〕は3万円の貸金債権に付単純なる貸金債権を主張して居るに過ぎず準消費貸借の成立を主張して居らない,〔略〕Xの主張を認容したことは明らかにXの主張して居らない事実を判決したか審理不尽又は理由不備の違法があるものと謂わざるを得ない。」との理由による上告があり,それに対して最高裁判所第一小法廷が「原審の事実認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。」とした上で,「本件金3万円の債権につき原審は所論のごとき認定をしたのであるが,当事者が金銭消費貸借に基づき金員支払を求める場合において,その貸借が現金の授受によるものでなく,既存債務を目的として成立したものと認めても,当事者の主張に係る範囲内においてなした認定でないとはいい得ないから,畢竟,原判決には何等所論の違法はなく,論旨は採用に値しない。」と判示したものです(鈴木重勝「金銭消費貸借に基づく金員支払請求に対し,準消費貸借に基づく金員支払請求として認容することの可否」ジュリ増刊『昭和4142年度重要判例解説』(1973年)84頁)。)

つとに福岡高判昭和32910日判決高裁民集102435頁が「もつとも,消費貸借に基いて,貸与した金銭の返還を請求する訴訟においては,当事者が準消費貸借によつては請求しない旨特に表明しないかぎり,金銭の現実の消費貸借(狭義の消費貸借をいう)が認められない場合でも,裁判所はいわゆる準消費貸借の成否を判断し,その成立を認めて請求認容の判決をなしても,民事訴訟法第186条〔現246条「裁判所は,当事者が申し立てていない事項について,判決をすることができない。」〕に違背することはない」と判示していたところです。これについて将来の法務大臣は,「本件を眺めれば,準消費貸借と認めて認容しても申立の範囲内であるとすることは,実は消費貸借・準消費貸借という法律構成は原告に定立することを要求されている訴訟物の概念の中には要素としては入ってはいないのだ,という認識を表明するとみねばならない。」と述べています(三ケ月章「訴訟物をめぐる戦後の判例の動向とその問題点」『民事訴訟法研究 第一巻』(有斐閣・1962年)188頁)。

つまり,「消費貸借契約に基づく貸金返還請求につき,消費貸借の主張を準消費貸借の主張に変更しても,訴訟物は同一である」ということになります(岡口基一『要件事実マニュアル 第2版 上』(ぎょうせい・2007年)531頁)。

大判昭和18520日法学13167頁は「仮令該〔消費貸借〕契約成立に至るまでの来歴たる事実関係及該契約が現金の授受に基く消費貸借なるや或は現存の債務を目的としたる所謂準消費貸借なるや否の点等に於て被上告人〔貸主〕の主張するところを否定し却て上告人〔借主〕主張の一部を容れたる結果となるも右判定が〔消費貸借契約を表示する〕右甲第2号証の表示する契約其のものの成立と其の内容以外に亙るものにあらざる以上は之を以て被上告人の主張せざる事項を被上告人に帰せしめたるものと謂ふことを得ざるや勿論」と判示しています。

なお,民法666条が「受寄者カ契約ニ依リ受寄物ヲ消費スルコトヲ得ル場合ニ於テハ消費貸借ニ関スル規定ヲ準用ス但契約ニ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ寄託者ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得」と規定していた時代の大判昭和269日民集68341頁は「消費寄託ヲ原因トスル訴訟ニ於テ初ニ現金ノ交付ニ因リ消費寄託成立シタリト主張シ後ノ弁論ニ於テ他ノ原因ニ因リ給付スヘキ債務アル金銭ヲ以テ消費寄託ノ目的ト為シタリト主張シタルトキハ単ニ民事訴訟法第196条〔「原告カ訴ノ原因ヲ変更セスシテ左ノ諸件ヲ為ストキハ被告ハ異議ヲ述フルコトヲ得ス」との柱書〕第1号ニ依リ事実上ノ申述ヲ更正シタルニ過キスシテ消費寄託タル訴ノ原因ヲ変更シタルモノト云フヲ得サルヲ以テ訴ノ変更アリタルモノニ非ス」と判示していました。

 

(2)準消費貸借から消費貸借へ

準消費貸借成立の主張に対して消費貸借の成立を認めたのは大判昭和9630日民集13151197頁で,「然レトモ当事者間ニ準消費貸借成立シタリト云フハ帰スルトコロ消費貸借ニ因ル債務ノ成立シタル事実ヲ主張スルニ外ナラサルヲ以テ当事者カ前者ノ事実ヲ主張シタル場合ニ裁判所カ簡易ノ引渡ニ因リ現金ノ授受ヲ了シ之ニ因リテ消費貸借ニ因ル債務ノ成立シタル旨ヲ判示シタレハトテ該認定カ訴訟資料ニ基クモノナル以上当事者ノ主張ニ係ル範囲内ニ於テ為シタル事実上ノ判断ニ非スト為スヲ得ス〔略〕所論ノ如ク当事者ノ主張セサル事実ニ基キ判決ヲ為シタリト言フヘカラサルヲ以テ論旨ハ理由ナシ」と判示しています。


(3)少数説

 以上の諸判例に抗して,小倉簡判昭和40112日判タ172222頁は,「消費貸借に基づいて貸与した金銭の返還を請求する訴訟においては,当事者が準消費貸借によつては請求しない旨を特に表明しない限り,金銭の現実の消費貸借が認められない場合でも裁判所は,準消費貸借の成否を判断し,その成立を認めて請求認容の判決をしても民事訴訟法186条〔現246条〕に違背しない旨の見解(福岡高等裁判所昭和32910日判決)があるけれども,当裁判所は,消費貸借に基づく返還請求権と準消費貸借に基づく返還請求権とは,その発生原因たる構成要件を異にするものであつて,全く異つた訴訟物であると解するので,訴の変更のない限りは,消費貸借に基づく金銭の返還請求訴訟において準消費貸借の成立の有無を判断することは違法であると考える(本件において原告は,準消費貸借に基く返還請求を主張しない旨明言しているので,右判例の見解にたつても同じ結論となる)。」と判示しています。最後の括弧書きを見るとあらずもがなということになるのですが,あえて上級裁判所である福岡高等裁判所の見解に公然異を立てています。しかし,前記最判昭和41106日の出現後も頑張り続け得たものかどうか。

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