Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊)

2019年11月

承前http://donttreadonme.blog.jp/archives/1076312319.html

 

9 東京地方裁判所昭和61年8月25日判決(北大塚三丁目事件)

東京地方裁判所昭和61825日判決(判タ622243頁)の事案は,無線機について「スイッチを入れればすぐ電波が出る,アンテナもつながっている」状態にまでは至っていないもののように思われるのですが,免許を受けずに無線局を開設する罪の成立がそのような段階において認められています。当該判決に係る罪となるべき事実は,「被告人両名は,共謀のうえ,郵政大臣の免許も法定の除外事由もなく,昭和601129日午前620分ころ,東京都豊島区北大塚三丁目12号付近路上において,両名が乗車して走行途次の普通乗用自動車内に,無線機2台,増幅機3台,安定化電源2台(以上は昭和61年押第656号の12の一部),電源2組(3個)(うち1組⦅2個⦆は同符合の一部,1組⦅1個⦆は同押号の2)及び空中線4本(同押号の671011)を積載し,被告人らにおいて接栓(コネクター)を差し込んで接続しさえすれば直ちに2組の無線通信設備として電波の発信が可能な状態にこれを支配管理し,もつて無線局を開設したものである。」というものでした(被告人両名はそれぞれ懲役10月)。

当該事案においては,「スイッチを入れればすぐ電波が出る」どころではなくて,もたもたとまず「接栓(コネクター)を差し込んで接続」しなければ送信設備になりません。また,「無線機」だけのみならずわざわざ電源や空中線が別途挙げられていますので,この「無線機」は,「送信設備」(送信装置と送信空中線系とから成る電波を送る設備(電波法施行規則2135号))に至らぬ「送信装置」(無線通信の送信のための高周波エネルギーを発生する装置及びこれに付加する装置(同項36号))にとどまっていたものでしょうか。ちなみに,「送信空中線系」とは,「送信装置の発生する高周波エネルギーを空間へ(ふく)する装置をいう」ものとされています(同項37号)。北大塚三丁目事件におけるこれら各機材の所在状況を見ると,「後部座席上の木の枝に装着したアンテナ2本(昭和61年押656号の67),その下のカメラボックス1個(同12)及び後部座席上のショルダーバック1個(同1)」が車内にあったところ,当該「カメラボックス内の無線機器一式⦅同12⦆並びにショルダーバッグ内のバッテリーと同軸ケーブル⦅同2及び3⦆」及び「紙筒(同9)と在中のホイップアンテナ2本(同1011)」が更に発見されたということになっています。電波法78条及びそれを承けた電波法施行規則42条の2を見ても,空中線が取り外され,電源も接続されていない送信装置をもって,無線局としての運用が可能な状態を構成するものといってよいものかどうか。「罰則の具体的な事実への適用解釈というものにつきましては慎重を期して,不当に個人の権利を侵すというようなことにならないように十分配意してまいりたいというふうに考えておる次第であります。」とは1981512日の参議院逓信委員会における田中眞三郎政府委員の答弁でしたが,司法当局はより大胆な解釈運用に踏み込んだ,と評価すべきものなのでしょう。安西溫元検事正は「例えば,空中線が展張されていない場合(擬似空中線が取設されている場合を含む),電力供給ができない場合(電源不接続等)や無線設備が包装されていてそのままでは操作できない場合は開設とはいえない。」としつつも,「しかし,空中線が展張されていなくても,それがすでに無線設備に接続されていて容易かつ即座に展張しうる状態にあるとか,電源に接続されていないコードが電源の直ぐ間近かにあって即刻接続できる状態にあるとかのように,直ちに無線局としての運用ができる客観的状況が存在し,そのことから無線局を運用しようとする意図が推定できるときはすでに開設したといえる。」とまで述べていましたが(安西311頁),実務はこの安西説よりも更に進んでいます。

被告人らの主観的情況については,量刑事情として,「本件において被告人両名が支配管理していた無線装置は同時的使用の可能な2組,しかもいずれも市販の機器に改造が施されていて,(1)専ら送信の機能のみ,それも正常な音声通信は不可能で雑音だけを発信できるという極めて特異な機構に変えられており,かつ,(2)警察無線と周波数を同じくする電波も発射できるような仕組みに改められているものである。/このことは,第1に,本件無線装置が他の無線通信の妨害かく乱を唯一直接の目的とするものであることを意味する。」との判示があります。「他の無線通信の妨害かく乱」のために接続後の本件無線設備を使用する目的が,被告人らについて認められたということでしょう。なお,東京地方裁判所は,被告人らの「背後に必ずや,ある目的のために特定の無線通信を積極的に妨害かく乱するのだという事前の企図があり,被告人両名の本件所為がその周到な企ての一環として行われたものであることを推知させるものである」との認定をも行っていますが,そうであっても当該被告人らは,当該企図者の支配管理のもとに送信設備の操作にかかわったにすぎない者とまではいえないとしたものでしょう。

 

10 東京高等裁判所平成元年3月27日判決及び東京地方裁判所平成29427日判決(故意及び違法性の意識ないしはその可能性)

 

(1)東京高等裁判所平成元年3月27日判決(山谷争議団事件)と制限故意説

東京高等裁判所平成元年327日判決(高等裁判所刑事裁判速報集平成167号)は,電波法41項ただし書の免許を要しない無線局との関係で,免許を受けないで無線局を開設する罪の主観的要件について説くところがあります。

故意について,いわく。「(3)免許を必要とする出力の無線機を運用していた事実について認識を欠いていたとの主張について検討するに,原判決が弁護人らのこの点の主張は違法性の意識の欠如をいうに過ぎないものであって,それ自体失当であるとしたことは,所論指摘のとおりである。この点,所論は,免許を受けないで無線局を運用する罪の故意として,操作する無線機についてその出力が免許を必要とする強さ以上のものであるという認識が必要であるというのであるが,電波法4条,1101号は,無線局の開設,運用には原則として郵政大臣の免許が必要であることを定めたもの,いいかえると,免許を受けない者が無線局を開設,運用することを禁止することを定めたものであり,4条但書は,右原則的禁止に対し,電波が著しく微弱な場合などを法定の除外事由として定めたものと考えられ,したがって,故意としては無線設備――本件においては無線機――を操作して送受信を行うという認識(認容)のほか免許を受けていないという認識があれば足り,操作する無線機の出力が免許を要する範囲に入っているかどうかについては認識を要しないと解される。そして,被告人らにおいては,前記(2)で述べたように電波法の関係規定を知っていたとは認められないので,本件で使用した無線機の出力が免許を要する範囲に入っているということの認識があったとは認められないが,これによって故意を欠くものとは認められない。」と。

違法性の意識の可能性の位置付けについて,当該東京高等裁判所判決は「故意に違法性の意識は不要だが,その可能性は必要である(ないしは違法性の意識のないことに過失があれば故意犯として処罰する)という制限故意説」(前田雅英『刑法総論講義第4版』(東京大学出版会・2006年)215頁)を採用しているようです。いわく,「(2)違法性の意識を有する可能性について検討すると,原判決は,「弁護人の主張に対する判断」の二(2)の項で,被告人らには本件無線機の使用について違法性の意識があったことは証拠上これを認めることができないが,違法性の意識の欠如は故意を阻却しないとしたうえ,本件無線機を無免許で使用することが違法であると認識しうる可能性は十分にあったと考えられ,被告人らがこれらを認識しなかったことに相当な理由があったということはできないと認定説示しているところ,これは結論的に正当として是認できる。この点,関係各証拠を検討すると,被告人らを含め山谷争議団らが無線機を使用するにあたり,法規関係について解説してある本を読んだり電気店の店員らから説明を受けるなどしていたことは一切窺われず,したがって,電波法の関係規定を知っていたかどうかも不明であり,更には違法性の意識についてもこれを欠いていたのでは(ママ)ないかという疑いが残ることになる。しかし,無線機を使用することについては,いわゆる子供の玩具以外の場合,一定の法的規制があるというのが一般社会において常識的になっており,また,山谷争議団の者らにおいては,池尾荘で発見された6個の無線機がいずれもその使用に関し免許を要する機種であったのであり,池尾荘に設置したスーパーディスコアンテナも無線機の使用に際し用いられる器具の一つであったのであるから,これらの物を購入などする際には電気店の店員らに対しその使用について法的規制があるかどうか確かめることにより,免許が必要なことを容易に知ることができたものと認められる(本件無線機と同種の無線機の取扱説明書には,免許を要することの直接的な記載はないが,間接的にそれを窺わせる記載がある)。したがって,被告人らは,違法性の意識を欠いたことについて相当な理由はなかったもの,いいかえると,違法性を意識することのできる可能性のあったことが十分認められるので,本件各所為について故意を欠くとは認めることができない。この点,被告人らに故意のあることを認めた原判決に誤りはない。」と(下線は筆者によるもの)。故意の有無を違法性の意識の可能性の有無にかからしめていますので,違法性の意識の可能性を故意とはまた別個の責任阻却事由とする責任説(前田215頁参照)を採るものではありません。

 

(2)東京地方裁判所平成29年4月27日判決

なお,東京地方裁判所平成29427日判決(判時2388114頁。この判決は「電波法109条に関する東京地方裁判所平成29年4月27日判決(判時2388114頁)に関して(附:有線電気通信法17条1号の謎)」記事において御紹介するところがあったものです。http://donttreadonme.blog.jp/archives/1075116026.html)に係る電波法1101号の免許又は登録を受けずに無線局を開設した罪の事案においては,「弁護人は,被告人が〔略〕パソコンに接続して使用していた無線LAN接続機器(3号物件)につき,被告人には,3号物件が日本で定められている出力制限値を超える出力が可能なものであったという認識がなかったから,無線局開設の故意がなく,無罪である旨主張し,被告人もそれに沿う供述をしている」ところ(これは,「違法性の意識がなければ故意がないとする厳格故意説」(前田215頁)的主張です。),当該主張及び供述に正面から応ずる形で丁寧に当該認識の有無を検討し(なお,違法性の意識を欠くことにつきやむを得ない事情があるときは,刑法383項ただし書による刑の減軽が問題ともなります。),「よって,被告人には,出力制限値を超える出力が可能な無線LAN接続機器を使用して無線局を開設したことの認識があったと認められる。」との結論に達しています。違法性の意識ないしはその可能性と故意との関係に係る刑法理論上の問題について抽象的に説き及ぶところはありません。

 

(3)判例における故意と違法性の意識ないしはその可能性との関係

いずれにせよ,判例は,厳格故意説,制限故意説等とは異なり,「「事実の認識が存すれば故意責任を問い得る」とし,違法性の意識が欠けても責任に影響しないとしてきた」とされているものの(前田219頁),そこでも「一般人ならば違法性の意識を持ち得るだけの事実の認識」は必要でしょう(同220頁)。

 

11 平成5年法律第71号による改正(an denen er einst die Kraft seiner Jugend geübt hatte

平成5年法律第71号により,199441日から(同法附則1項),電波法110条の罰金の額が「20万円以下」から「50万円以下」になっています。

 

12 東京地方裁判所八王子支部平成9年7月4日判決(原田判決)

原田國男裁判官による東京地方裁判所八王子支部平成974日判決(判タ969278頁)は,罪数論的に興味深い裁判例です。まず,当該判決中電波法違反に関する犯罪事実。

  

  被告人は〔中略〕

 第2 別紙一覧表記載のとおり,前記Bらと共謀の上,Bらによる三鷹電車区からの〕窃取に係り,携帯用に改造した防護無線通信装置から電波を発射して,東日本旅客鉄道株式会社(代表取締役松田昌士)の旅客鉄道業務を妨害しようと企て,郵政大臣の免許を受けず,かつ,法定の除外理由がないのに,平成848日午後519分ころから同年53日午後1038分ころまでの間,前後2回にわたり,千葉県船橋市海神町二丁目646番地付近から同県市川市平田四丁目113号付近に至るまでの道路上を走行する普通乗用自動車内等において,前記の携帯用に改造した防護無線通信装置を携帯して周波数373.2736メガヘルツの電波を多数回発射し,同県船橋市西船四丁目277号所在の右東日本旅客鉄道株式会社西船橋構内ほか13か所において,運行中の同社が運航管理する電車延べ21列車に各設置してある防護無線通信装置に同電波を受信させ,右21列車を緊急停止させ,又は,発車を見合わせるなどさせてその運行を遅延させ,もってそれぞれ偽計を用いて右東日本旅客鉄道株式会社の業務を妨害するとともに,無線局を開設して運用したものである。

 

 次に電波法違反に関する法令の適用。

 

  判示第2の別紙一覧表番号1199648日,共犯者Bと共に,前記千葉県内の道路上を走行中の普通乗用車内から,午後519分,午後520分及び午後521分の3回電波を発射〕及び同番号2199653日,共犯者A及びBと共に,東京都新宿区市谷田町二丁目5番付近から同都新宿区新宿三丁目381号付近を経て同都豊島区南池袋一丁目281号付近に至るまでの道路上に駐車し,又は,同道路上を走行する普通乗用自動車内から,午後1027分,午後1029分,午後1030分,午後1031分,午後1032分,午後1035分及び午後1038分の7回電波を発射〕の各行為のうち,電波法違反の点は,各無線局開設及び各運用につき包括してさらに各電波発射行為全体について包括して電波法1101号,4条,刑法60〔共同正犯〕に該当し,〔中略〕電波法違反の罪は,別紙一覧表番号1及び同番号2ごとに,全体として包括一罪となる

 

免許を受けずに無線局を開設した者が更に当該無線局を運用した場合の罪名については,河上説では運用罪のみが成立するとされ(伊藤等449頁),安西説では「開設罪と運用罪とを包括して1101号違反の1罪が成立する」とされていましたが(安西311頁),原田裁判官は安西説を採用したものです。

また,199648日及び同年53日のそれぞれにつき免許を受けずに無線局を開設した罪が成立したとされています。郵政大臣の免許を受けずに最初に無線局を開設した時に同罪は成立すると共に終了し,以後は法益侵害状態のみが残るという状態犯ではない,ということになりましょう。

 

13 平成15年法律第68号,平成16年法律第47号及び平成19年法律第136号による改正

平成15年法律第68号により,2004126日から(同法附則1条,平成15年政令第500号),電波法110条の柱書きが,「次の各号のいずれかに該当する者は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」に改められています。

平成16年法律第47号の第2条により,2005516日から(同法附則13号,平成17年政令第158号),電波法1101号が「第4条の規定による免許又は第27条の181項の規定による登録がないのに,無線局を開設し,又は運用した者」に改められています。

それまでの電波法1101号が,現在のような1号と2号とに分離されたのは,平成19年法律第136号の第2条による改正によって,200841日からです(同法附則1条,平成20年政令第49号)。

 電波法1101号と2号とに分離されてしまった以上,免許を受けずに無線局を開設し,更に運用した場合には,やはり1罪ではなく2罪が成立するものと解し,両罪の関係は牽連犯(刑法541項後段)ということになるのでしょう。この限りにおいて前記原田判決の前例性は失われるわけです。

14 仙台高等裁判所平成19126日判決(W無線クラブ事件)

 前記仙台高等裁判所平成19126日判決は,アマチュア局の免許を受けている社団(W無線クラブ)の構成員である被告人(同人は自己のアマチュア局の免許を19963月に失効させている。)が無線局の運用をしていたところ,当該無線局に係る無線設備は被告人が1993年ないしは1994年頃購入して同人の車両に取り付け,20045月頃に自己の軽四輪貨物自動車に付け替えて以後ほぼ毎日のように使用していたものであって他の社団構成員が共用したことはなかったこと,当該社団が無線局免許を受ける際に提出した書類には当該無線設備が社団局の無線設備として記載されておらず,かつ,当該無線設備の常置場所は当該社団の無線設備の設置場所・常置場所ではなかったこと並びに被告人及び当該社団の構成員は当該無線設備が社団のものであるという認識を有していなかったことから,当該無線設備は当該社団に属しないものであることを認め,免許を受けずに「被告人は本件無線設備を設置して無線局を開設した」罪を犯したものとした原審判決を維持したものです。

 しかし,被告人がアマチュア局の免許を有していた時期に購入した無線設備だというのですから,電波法78条及び11319号との関係はどうなるのでしょうか。「免許を取り消され或いは免許期間が経過した後も設備を維持し,人を配置していれば開設罪が理論上は成立するが,現実には,運用罪に問擬する方が証拠上の難点が少ないと思われる。空中線の撤去(78条)に要する合理的時間が考えられるからである。」と説かれていたところです(伊藤等448頁(河上))。

 

15 平成27年法律第26号による改正

 平成27年法律第26号の第2条によって,2017101日から(同法附則1条,平成29年政令第255号),電波法1101号中「第4条」が「第4条第1項」に改められ,同号は現在の形になっています。

  

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

1 関係条文

電波法(昭和25年法律第131号)の第110条には次のような規定があります。無線局の免許(電波法41項。これは,無線従事者の免許(同法411項,11316号)とは異なります。),無線局の登録(同法27条の181項),特定無線局に係る包括免許(同法27条の2(ただし,第一号包括免許人(同法27条の21号に掲げる無線局に係る特定無線局の包括免許人(同法27条の62項))の開設する特定無線局の数に係るものです。))及び高周波利用設備の許可(同法1001項)という電波法の柱となる各制度を支える礎石ともいうべき犯罪構成要件群ということになります。

 

110条 次の各号のいずれかに該当する者は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

 4条第1項の規定による免許又は第27条の181項の規定による登録がないのに,無線局を開設した者

 4条第1項の規定による免許又は第27条の181項の規定による登録がないのに,かつ,第70条の71項,第70条の81項又は第70条の91項の規定によらないで,無線局を運用した者

 27条の7の規定に違反して特定無線局を開設した者

 100条第1項の規定による許可がないのに,同条同項の設備を運用した者

   〔第5号から第12号まで略〕

 

 関連規定を以下に掲げておきます。

 

(無線局の開設)

4条 無線局を開設しようとする者は,総務大臣の免許を受けなければならない。ただし,次の各号に掲げる無線局については,この限りでない。

 発射する電波が著しく微弱な無線局で総務省令で定めるもの

 26.9メガヘルツから27.2メガヘルツまでの周波数の電波を使用し,かつ,空中線電力が0.5ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであつて, 38条の7 1項(第38条の314項において準用する場合を含む。),第38条の26(第38条の316項において準用する場合を含む。)若しくは第38条の35又は第38条の443項の規定により表示が付されている無線設備(第38条の231項(第38条の29,第38条の314項及び第6項並びに第38条の38において準用する場合を含む。)の規定により表示が付されていないものとみなされたものを除く。以下「適合表示無線設備」という。)のみを使用するもの

 空中線電力が1 ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであつて,次条の規定により指定された呼出符号又は呼出名称を自動的に送信し,又は受信する機能その他総務省令で定める機能を有することにより他の無線局にその運用を阻害するような混信その他の妨害を与えないように運用することができるもので,かつ,適合表示無線設備のみを使用するもの

 27条の181項の登録を受けて開設する無線局(以下「登録局」という。)

 本邦に入国する者が,自ら持ち込む無線設備(次章に定める技術基準に相当する技術基準として総務大臣が指定する技術基準に適合しているものに限る。)を使用して無線局(前項第3号の総務省令で定める無線局のうち,用途及び周波数を勘案して総務省令で定めるものに限る。)を開設しようとするときは,当該無線設備は,適合表示無線設備でない場合であつても,同号の規定の適用については,当該者の入国の日から同日以後90日を超えない範囲内で総務省令で定める期間を経過する日までの間に限り,適合表示無線設備とみなす。この場合において,当該無線設備については,同章の規定は,適用しない。

 前項の規定による技術基準の指定は,告示をもつて行わなければならない。

 

(登録)

27条の18 電波を発射しようとする場合において当該電波と周波数を同じくする電波を受信することにより一定の時間自己の電波を発射しないことを確保する機能を有する無線局その他無線設備の規格(総務省令で定めるものに限る。以下同じ。)を同じくする他の無線局の運用を阻害するような混信その他の妨害を与えないように運用することのできる無線局のうち総務省令で定めるものであつて,適合表示無線設備のみを使用するものを総務省令で定める区域内に開設しようとする者は,総務大臣の登録を受けなければならない。

  〔第2項及び第3項略〕

 

(指定無線局数を超える数の特定無線局の開設の禁止)

27条の7 第一号包括免許人は,免許状に記載された指定無線局数を超えて特定無線局を開設してはならない。

 

(特定無線局の免許の特例)

27条の2 次の各号のいずれかに掲げる無線局であつて,適合表示無線設備のみを使用するもの(以下「特定無線局」という。)を2以上開設しようとする者は,その特定無線局が目的,通信の相手方,電波の型式及び周波数並びに無線設備の規格(総務省令で定めるものに限る。)を同じくするものである限りにおいて,次条から第27条の11までに規定するところにより,これらの特定無線局を包括して対象とする免許を申請することができる。

 移動する無線局であつて,通信の相手方である無線局からの電波を受けることによつて自動的に選択される周波数の電波のみを発射するもののうち,総務省令で定める無線局

 電気通信業務を行うことを目的として陸上に開設する移動しない無線局であつて,移動する無線局を通信の相手方とするもののうち,無線設備の設置場所,空中線電力等を勘案して総務省令で定める無線局

 

(非常時運用人による無線局の運用)

70条の7 無線局(その運用が,専ら第39条第1項本文の総務省令で定める簡易な操作(次条第1項において単に「簡易な操作」という。)によるものに限る。)の免許人等は,地震,台風,洪水,津波,雪害,火災,暴動その他非常の事態が発生し,又は発生するおそれがある場合において,人命の救助,災害の救援,交通通信の確保又は秩序の維持のために必要な通信を行うときは,当該無線局の免許等が効力を有する間,当該無線局を自己以外の者に運用させることができる。

  〔第2項から第4項まで略〕

2007524日付けの総務省「放送法等の一部を改正する法律案について」5頁及び6頁によれば,免許人等たる被災地地方公共団体から非常時の通信のための無線設備を応援部隊等に対して貸し出す場合が想定されています。)

 

(免許人以外の者による特定の無線局の簡易な操作による運用)

70条の8 電気通信業務を行うことを目的として開設する無線局(無線設備の設置場所,空中線電力等を勘案して,簡易な操作で運用することにより他の無線局の運用を阻害するような混信その他の妨害を与えないように運用することができるものとして総務省令で定めるものに限る。)の免許人は,当該無線局の免許人以外の者による運用(簡易な操作によるものに限る。以下この条において同じ。)が電波の能率的な利用に資するものである場合には,当該無線局の免許が効力を有する間,自己以外の者に当該無線局の運用を行わせることができる。ただし,免許人以外の者が第5条第3項各号のいずれかに該当するときは,この限りでない。

  〔第2項から第4項まで略〕

 (20172月付けの総務省総合通信基盤局「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」4頁注1及び41-42頁によると,Mobile Virtual Network Operatorのサービスに関して利用される制度です。)

 

(登録人以外の者による登録局の運用)

70条の9 登録局の登録人は,当該登録局の登録人以外の者による運用が電波の能率的な利用に資するものであり,かつ,他の無線局の運用に混信その他の妨害を与えるおそれがないと認める場合には,当該登録局の登録が効力を有する間,当該登録局を自己以外の者に運用させることができる。ただし,登録人以外の者が第27条の202項各号(第2号を除く。)のいずれかに該当するときは,この限りでない。

  〔第2項から第4項まで略〕

   (前記2007524日付け総務省文書5頁及び6頁によれば,高出力のトランシーバのイベント会場,建設現場,選挙活動,スキー場等における貸出し等を可能にするための条項とされています。)

 

(高周波利用設備)

100条 左に掲げる設備を設置しようとする者は、当該設備につき、総務大臣の許可を受けなければならない。

 電線路に10キロヘルツ以上の高周波電流を通ずる電信,電話その他の通信設備(ケーブル搬送設備,平衡二線式裸線搬送設備その他総務省令で定める通信設備を除く。)

 無線設備及び前号の設備以外の設備であつて10キロヘルツ以上の高周波電流を利用するもののうち,総務省令で定めるもの

  〔第2項から第5項まで略〕

 

(電波の発射の防止)

78条 無線局の免許等がその効力を失つたときは,免許人等であつた者は,遅滞なく空中線の撤去その他の総務省令〔電波法施行規則(昭和25年電波監理委員会規則第14号)42条の2で定める電波の発射を防止するために必要な措置を講じなければならない。

 

113条 次の各号のいずれかに該当する者は,30万円以下の罰金に処する。

〔第1号から第18号まで略〕

十九 78条の規定に違反した者

 〔第20号から第28号まで略〕

 

 まあ賑やかなことです。論点満載なのですが,うっかり難しい論点に迷い込むと,行き着く果ては電波法全体を論じなければならないことになります。人生は短い。今回は禁欲して,無線局の開設及び運用に係る電波法1101号(及び2号)関係に絞って立法経緯及び裁判例を見ていきましょう。

 まずは筆者お得意の過去への遡りです。

 

2 電信法準用時代

 

(1)電信法44

 1900年に制定された電信法(明治33年法律第59号)の第44条は「電信又ハ電話ニ非スト雖通報信号ヲ為スモノニ関シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ノ規定ヲ準用スルコトヲ得」と規定していました。これについては,「無線電信の如きは電信と称するも本法〔電信法〕の認むる所に非ず此の如きものも尚通信を為し信号を為し又は電話として通話しうべし之を取締らざれば本法の精神を没却すること多かるべきなり故に特に本法を準用すとせり」と説明されています(田中次郎『通信法釈義』(博文館・1901年)443頁)。あるいは,「将来学術技芸の進歩につれ電信電話でなくしてしかも相似たる作用を為すものを生ずるから,本条を設けて電信法準用の余地を残したのである。」とも説かれています(奥村喜和男『電信電話法論』(克明堂書店・1928年)295-296頁)。1928年当時,電信法44条の準用があったものとして「電鈴による信号,正午時通報,火災その他の公衆用信号等」が挙げられています(奥村296頁)。)

 

(2)明治33年逓信省令第77号及び大正3年逓信省令第13号による準用

電信法44条に基づき,明治33年逓信省令第77号(19001010日公布)は「電信法ハ第2条第3条第28条及第43条ヲ除クノ外之ヲ無線電信ニ準用ス」と規定し,大正3年逓信省令第13号(1914512日公布)は「電信法ハ第2条第3条第28条及第43条ヲ除クノ外之ヲ無線電話ニ準用ス/本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス」と規定していました。(後者の施行日の定めは,公式令(明治40年勅令第6号)11条の「別段ノ施行時期」の定めになります。施行日の定めのない前者については,公文式(明治19年勅令第1号)の第10条から第12条までの規定により,「官報各府県到達日数後ノ後7日ヲ以テ施行」され(10条),ただし「天災時変ニ依リ官報到達日数内ニ到達セサルトキハ其到達ノ翌日ヨリ起算」され(11条),なお,北海道,沖縄及び島地には道庁,県庁又は所轄郡役所に現に官報が到達の翌日から起算する(12条)という仕組みで施行されたものです。)電信法44条に基づく同法の準用の結果「無線電信の施設通報信号を為す目的あれば必ず願出許可等の手続を要するに至るべし」と予想されていましたが(田中444頁),現実には,明治33年逓信省令第77号及び大正3年逓信省令第13号はいずれも電信又は電話の私設が認められる範囲に係る電信法2条を無線電信又は無線電話に係る準用から外していましたので,同法1条の原則(「電信及電話ハ政府之ヲ管掌ス」)どおり,無線電信及び無線電話を施設することは政府以外の者には認められないこととなっていました。無線電信及び無線電話の私設が可能となるには,無線電信法(大正4年法律第26号)の制定・施行をまたなければなりませんでした。

 電信法には,次のような条項がありました。

 

  27 権利ナクシテ電信若ハ電話ヲ私設シタル者又ハ権利ヲ失ヒタル後主務官署ノ指定シタル期間内ニ私設ノ電話若ハ電信ヲ撤去セサル者ハ5円以上100円以下ノ罰金ニ処シ其ノ電話線又ハ電信線及電信又ハ電話ノ機器ヲ没収ス

   前項ノ場合ニ於テ其ノ電信又ハ電話ヲ他人ノ用ニ供シ因テ金銭物品ヲ収得シタルトキハ之ヲ没収ス既ニ消費又ハ譲渡シタルトキハ其ノ金額又ハ代価ヲ追徴ス

   第1項ノ電信又ハ電話ヲ使用シタル者ハ50円以下ノ罰金ニ処ス

 

  41 第32条ヲ除クノ外前数条ニ記載シタル軽罪ヲ犯サントシテ未タ遂ケサルモノハ刑法未遂犯ノ例ニ照シテ処断ス

 

 電信法273項の「使用シタル者」については,「権利なきもの及権利を失ひたるものを罰すると同時に不法なる電信電話を使用したるものを罰す此使用者は大に専掌権妨害者の一人なれは罰せんとす使用者は其不法なることを知ると知らざるとを問はず即ち知情の如何を顧ず使用したる事実あれば直ちに処罰することをうべし」と説かれていました(田中390頁)。この「使用シタル者」は,電信又は電話の施設者ではなくて,その顧客ということになります。

 なお,電信法41条に「軽罪」とありますが,旧刑法(明治13年太政官告示第36号)8条によれば,軽罪の主刑は重禁錮,軽禁錮又は罰金ということになっています。

 

(3)電信の営造物性

 ちなみに,「電信」とは何かといえば,「元来電信と云ひ電話と云ふは其原電気的作用に原し遠隔者間の意思伝達の設備にして或場合には其作用のみを云ひ或場合には其施設全躰を指すことあり本法〔電信法〕に於ては施設全躰を総称せるなり法律上の観念として此2者を見れば正しく郵便と同しく公の営造物なりと信す」とされていました(田中276頁)。

 営造物に関しては,「法学漫歩2:電波的無から知的財産権の尊重を経て偶像に関する法まで」記事(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1073804586.html)において御紹介したことがあります。

 

3 無線電信法時代

 

(1)関係条文

 1915619日に大正天皇が裁可し,同月21日の官報で公布された無線電信法には次のようにあります。

 

  16 許可ナクシテ無線電信,無線電話ヲ施設シ若ハ許可ナクシテ施設シタル無線電信,無線電話ヲ使用シタル者又ハ許可ヲ取消サレタル後私設ノ無線電信,無線電話ヲ使用シタル者ハ1年以下ノ懲役又ハ1000円以下ノ罰金ニ処ス

   前項ノ場合ニ於テ無線電信又は無線電話ヲ他人ノ用ニ供シ因テ金銭物品ヲ収得シタルトキハ之ヲ没収ス既ニ消費又ハ譲渡シタルトキハ其ノ金額又ハ代価ヲ追徴ス

 

  26 前10条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

 

  13 主務大臣ハ不法ニ無線電信又ハ無線電話ヲ施設スル者アリト認メタルトキハ当該官吏ヲシテ其ノ施設ノ場所ニ立入リ機器工作物ノ検査,機器附属具ノ除却其ノ他相当ノ措置ヲ為サシムルコトヲ得

 

  10 私設ノ無線電信又ハ無線電話ノ施設者其ノ無線電信又ハ無線電話ノ許可ヲ取消サレタルトキハ主務大臣ノ命スル所ニ依リ其ノ機器工作物ヲ撤去スルコトヲ要ス私設ノ無線電信又ハ無線電話ヲ廃止シタルトキ亦同シ

 

  18 第5条ノ規定ニ違反シタル者又ハ本法ニ依ル無線電信,無線電話ノ使用ノ制限停止,設備変更若ハ除却撤去ノ命令ニ従ハサル者ハ1000円以下ノ罰金ニ処ス無線電信,無線電話ノ事務ニ従事スル者使用ノ制限又ハ停止ニ違反シテ使用シタルトキハ其ノ従事者ニ付亦同シ

 

無線電信法は,同法附則に基づく大正4年勅令第185号(19151025日裁可,同月26日公布)により1915111日から施行されています。

 

(2)第36回帝国議会における政府委員の説明

 

ア 無線電信法13

無線電信法13条の「不法ニ」は,「許可ヲ受ケナイ場合,条件等ノ外レタ場合モ含ミマス,許可ヲ受ケヌ場合ヨリモ少シ広イ」ものであるとされています(田中次郎政府委員(逓信省通信局長)(第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会議事速記録第18頁))。「条件等ノ外レタ場合」は「第3条ニ違反」した場合です(田辺治通政府委員(逓信書記官)(同頁))。無線電信法3条は「私設ノ無線電信又ハ無線電話ノ機器,其ノ装置及運用ニ関スル制限並私設ノ無線電信ノ通信ニ従事スル者ノ資格ハ命令ノ定ムル所ニ依ル」と規定していました。「第3条ノ所謂制限ニ違反シテ,例ヘバ1「キロワット」ノ動力デ設備シタ,斯ウ云フモノガ若シ2「キロワット」ヲ用ヰテ設備シマスレバソレモ矢張リ〔第13条の不法に〕這入リマス」という例が挙げられていました(田辺治通政府委員(第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会議事速記録第212頁))。電波長(電波の周波数)もこちらに含まれます。この「許可ナクシテニアラザル,詰リ条件ニ違反シタモノ,サウ云フモノハ司法上ノ処分ハアリマセヌ」ということでした(同政府委員(同速記録同頁。また,13頁))。

 

イ 無線電信法16条の構成要件

無線電信法16条の構成要件については,「16条ノ中,許可ヲ得ズシテ施設シタ者,是ハ詰リ許可ヲ得ズシテ施設ト云ヒマスルモノハ,使用ノ目的ヲ以テ無線電信,電話ノ器械ヲ設置スルト云フ意味デ施設ト書キマシタノデスガ,其モノガ更ニ一歩進ンデ使用シタト云フ場合ニハ,使用スル目的マデ其行為ガ進ンダモノデアル,所謂数行為ガ一緒ニ含マレタト云フ,アノ刑法ノ精神ヲ持ッテ来マシテ,素ト使用スル意志デ造ッタモノガ,更ニ一歩ヲ進ンデ使用セザリシ場合ハ矢張リ16条ノ前段デ処分シヤウ,斯ウ云フ立前ニナッテ居リマス」(田辺治通政府委員(第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会議事速記録第212頁)),「16条ノ許可ガナクシテ施設シタモノト云フ意味ハ,使ヒマセヌデモ使用ノ意思ヲ以テ無線電信電話ノ機械ヲ設置シタモノハ直ニ矢張リ本条ニ這入リマシテ,尚一歩進ンデ其モノヲ同ジ人間ガ使ヒマシテモ,先程磯部〔四郎委員〕サンノ質問ノヤウニ一歩進ンデ使ヒマシテモ,矢張リソレハ使用ノ意思ヲ以テ造ッタモノガ目的ヲ達シタト云フノニ過ギマセヌノデ,等シク本条ニ依ッテ処罰スルト云フ定メニナッテ居リマス」(同政府委員(同速記録13頁)),「此16条ハ許可ナクシテ施設シタモノデモ罰セラレル,況ンヤ施設シテソレヲ使用スルモノハ尚ホ罰セナケレバナラヌ,斯ウ云フ訳デアリマス」(田中次郎政府委員(同頁)),「実ハ此施設シテ尚ホ使用シタ場合ハモウ丁度1年以下ノ懲役,又ハ1000円以下ノ罰金ニ当テテ宜カラウ,本件ハ刑法ノ関係カラ考ヘマシタノデ,寧ロ其施設シタダケノモノハ此範囲内ニ這入ル積リデ居リマシタ」(同政府委員(同頁))と説明されています。

無線電信法16条の「使用」は,電信又は電話の利用の顧客に係る電信法273項の「使用」とは異なるようです。無線電信法においては別途その第173項において「私設ノ無線電信又ハ無線電話ニ依頼シ通信ヲ為サシメタル者ハ100円以下ノ罰金ニ処ス」と規定されていたところです。(しかしながら,第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会の磯部四郎委員(1892年の大審院検事時代に同僚と雑談中,司法高官らによる日本橋浜町の待合茶屋初音屋等における芸妓を交えての花札博奕(ばくち)遊戯についてしゃべってしまって「弄花事件」を惹起するに至り,自らも同年53日に辞表を提出した花札好きの人物(大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』(岩波新書・1998年)177-178頁))は無線電信法16条の「使用」を電信法273項の「使用」と同義であると解していたようで,かつ,田辺治通及び田中次郎両政府委員は正面からその誤解を指摘せず,ないしは磯部委員にむしろ迎合してしまったところもあって,191561日の議事は一部混乱しています(第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会議事速記録第212-13頁)。)

無線電信法16条の無線電信,無線電話の施設者は,「使用ノ目的ヲ以テ無線電信,電話ノ器械ヲ設置」した者ですから,当該無線電信,無線電話の使用者と同一ということになりそうなのですが,実は施設者と使用者との間には微妙な齟齬があります。「施設者ハ重モニ船長或ハ船主,所謂船ノ持主ノ方ガ主眼」で,工事をした技師は入らない一方(田中次郎政府委員(第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会議事速記録第215頁)),「使用者ハ主トシテ技術者ガ使用イタシマス訳デスガ,船長ガ這入ル場合モアラウト思ヒマス,船長ノ命ニ依ッテヤル,船長ハ殆ド船舶内ノ最上権ヲ有ッテ居リマスカラ,船長ガ使用センナラヌ場合モアラウカト思ヒマス」と説かれています(同政府委員(同頁))。


ウ 無線電信法16条の刑量

無線電信法16条の罰の重さについては,「有線電信法ニハ罰ノ割合ハ5円以上100円以下ト云フ罰金丈ケニナッテ居リマス,是ハ矢張リ無線電信ノ性能トシテ随分濫用ノ結果,非常ナル弊害ガ伴ナウ,斯ウ云フコトカラ許可ヲ得ズシテヤル者ハ是非体刑ヲ加ヘテ,最高限ヲ重クシテ置カウ,勿論各犯罪ノ各種ノ場合ニ於キマシテハ各種ノ状況モアリマスノデ罰金刑ダケデハ足ラヌ,随分情ノ重イ者ハ体刑迄イカヌト通信ヲ濫用シタ者ノ取締ガ附カヌ,斯ウ云フ考カラ体刑モ加ヘマシタ」と(田辺治通政府委員(第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会議事速記録第19頁)),あるいは「有線電信ヨリモ無線電信ハ割合ニ取締上先刻申上ゲタヤウニ困難ヲ感ズルヤウナ次第デアリマシテ,又其害モ有線電信ハ両間ダケノ間ニ止マルガ,無線電信ハ四方八面カラ来ル通信ヲ受ケ得ル装置ニナッテ居ル,又四方八面ヨリ出シ得ル機械デアリマスカラ,随分之ヲ不法ニ設備スルト云フコトハ,其害毒ヲ及ボスコトハ夥シイダラウト思ヒマスカラ,有線電信ヨリハ刑ヲ重クスルコトハ至当デアラウト,斯ウ云フヤウナ考デアリマス」と(田中次郎政府委員(第36回帝国議会衆議院無線電信法案委員会議録(筆記速記)第13頁))説明されています。

電信法271項の「電話線又ハ電信線及電信又ハ電話ノ機器ヲ没収ス」規定に対応する規定が無線電信法16条にはない理由は,「刑法ノ一般ノ規定ニ基キマシテ所謂犯罪ヲ構成スルヤウナモノハ,自ラ没収セラルヽ規定ガアリマスカラ,其方ニ拠ルコトニナルノデアリマス」ということでした(田中次郎政府委員(第36回帝国議会衆議院無線電信法案委員会議録(筆記速記)第14頁)。電信法制定時の旧刑法43条においては法律ニ於テ禁制シタル物件(同条1号),犯罪ノ用ニ供シタル物件(同条2号)及び犯罪ニ因リテ得タル物件(同条3号)は没収すべきものとして掲げられていましたが,電信法271項の罪における電話線又ハ電信線及電信又ハ電話ノ機器は,旧刑法432号の犯罪ノ用ニ供シタル物件にすぎないものではなくむしろ「罪躰を為すべき物件」であるということで,同条にいう「法律規則ニ於テ別ニ没収ノ例ヲ定メタル者」として電信法271項後段の規定が設けられていたものです(田中388-389頁)。刑法(明治40年法律第45号)1911号は,犯罪行為を組成した物は没収することができるものと規定しています。

 

エ 田辺治通

なお,第36回帝国議会で政府委員を務めた田辺治通は,無線電信法案の起草を担当した通信局業務課長でした。当時の同課の状況に関しては,「法起草に着手した田辺治通業務課長は広江恭三氏を係長として電信主任舛本茂一氏を配し,外国制度を翻訳調査させるために井手義知,山本直太郎2法学士を加えた。舛本氏の談によれば法理,刑量,軍事保護などでの審議がはかどらないときは課長から「今日はうんと喧嘩して来い」と再三督促に出されたそうである。」との証言があります(小松三郎「無線電信法制定前後」逓信外史刊行会『逓信史話上』(電気通信協会・1961年)303-304頁)。田辺は山梨県の現在の甲州市出身,平沼騏一郎系列,後に逓信省通信局長,大阪府知事,満洲国参議府副議長,内閣書記官長,逓信大臣,貴族院議員,内務大臣等を歴任します。無線電信法廃止の年(1950年)の130日に,同法よりも4箇月ほど早く死亡します。

 

(3)昭和4年法律第45号による改正

192941日に昭和天皇が裁可し,同月2日の官報で公布された昭和4年法律第45号によって,無線電信法に高周波利用設備に関する規定が加えられています(同法は,同法附則に基づく昭和4年勅令第345号によって193011日から施行)。

 

 第28条ノ2 無線電信又ハ無線電話ニ非スト雖高周波電流ヲ使用シ通報信号ヲ為スモノニ関シテハ命令ノ定ル所ニ依リ本法ノ規定ヲ準用ス

 

 第28条ノ3 主務大臣ハ無線電信又ハ無線電話ニ依ル公衆通信又ハ軍事上必要ナル通信ニ及ホス障碍ヲ防止スル為必要ト認ムルトキハ高周波電流ヲ発生スル設備ニシテ無線電信,無線電話又ハ前条ノ通報信号施設ニ非サルモノニ関シ其ノ施設者ニ対シ設備ノ変更又ハ特殊ノ設備ヲ命スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ設備ノ変更又ハ特殊ノ設備ニ要シタル費用ハ命令ノ定ル所ニ依リ政府之ヲ補償ス

  前項ノ規定ニ依ル補償ニ関スル決定ニ対シ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ3月内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得

 

4 電波法の制定

電波法は,その公布の日である195052日から起算して30日を経過した日である同年61日から施行され(同法附則1項),同日から無線電信法は廃止されています(電波法附則2項)。制定当時の電波法110条の第1号から第3号までは次のとおりでした。

 

  110 左の各号の一に該当する者は,1年以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。

   一 第4条第1項の規定による免許がないのに,無線局を運用した者

   二 第100条第1項の規定に依る許可がないのに,同条同項の設備を運用した者

   三 第52条,第53条又は第55条の規定に違反して無線局を運用した者

    〔第4号から第6号まで略〕

 

なお,電波法52条本文は「無線局は,免許状に記載された目的又は通信の相手方若しくは通信事項(放送をする無線局については,放送事項)の範囲をこえて運用してはならない。」と規定していました。

電波法110条について,電波監理委員会電波監理総局の文書課長,放送課長及び法規課長を著者とする解説書は,次のように解説します。

 

  本条は,免許又は許可のないのに無線局若しくは高周波利用設備を運用したり,法律又は之に基く命令に違反して無線局又は無線設備を運用した者及び非常通信を拒否した者を処罰する規定である。

  従来の無線電信法16条では,許可なくして無線局を設置すれば処罰されるのであるが,本条では無線局又は高周波利用設備を免許又は許可を受けないで設置しても処罰されず,ただ免許又は許可を受けないで運用した場合に初めて処罰されるのである。単に設置するだけならば電波監理上格別の支障がないからである。

  「免許がない」又は「許可がない」とは,初めから「免許又は許可」を受けないで運用する場合のみならず,免許の有効期間が経過し再免許を受けないで運用する場合,及び「免許又は許可」を取消された後,運用する場合を含むのである。

  本条の処罰の対象は免許(許可を含む。)の主体即ち免許人である。併し無線従事者その他の使用人も,当該無線局又は高周波利用設備が免許又は許可がないと知りながらその設備を操作した場合は罪に問はれるであらう,又芸能人も当該無線局が免許がないと知りながらその無線局で放送に出演した場合は罪に問はれるであらう。(荘宏=松田英一=村井修一『電波法放送法電波監理委員会設置法詳解』(日信出版・1950年)262頁)

 

2段落で「単に設置するだけならば電波監理上格別の支障がないからである。」といっていますが,これは実は日本側の発案ではなくGHQの指示によるものであったようで,194928日から数回にわたって逓信省の起草担当者がGHQ民間通信局の関係者と共同審議した結果同年315日にGHQ側から得られた了解事項の一つに「無線設備を建設許可なしに設置しても処罰する要はなく,ましてその未遂罪を処罰する必要はないこと。」があったのでした(荘等21-22頁)。無線電信法案が審議された191561日の貴族院無線電信法案特別委員会でも藤田四郎委員が「尚ホ私ハ磯部君ノ御尋ネノコトニ付テモウ少シ確メテ置キタイト思ヒマスガ,16条ノ場合ノヤウナ工合ニ,是ハ必ズ施設シテ使用シタモノデナケレバ罰セヌ,唯施設デハ罰セヌト云うフ趣意デハナイカト思ヒマスガ,ソレデ宜イノデスカ」と質問していたものの(第36回帝国議会貴族院無線電信法案特別委員会議事速記録第213頁),いやもう施設の段階で既に罰するのですよとの政府委員の答弁を受けてあっさり引き下がっていましたが,さすが戦勝国民は執拗であったようです。

3段落で「本条の処罰の対象は免許(許可を含む。)の主体即ち免許人である。」とありますから,免許を受けていない無線局の運用に係る電波法1101号の罪の構成要件に該当し得る者は当該無線局の開設者(同法41項)のみであるように思われます。しかしながら,続いて「併し無線従事者その他の使用人も,当該無線局又は高周波利用設備が免許又は許可がないと知りながらその設備を操作した場合は罪に問はれるであらう」云々といわれると混沌としてきます。確かに無線電信法16条においても,前記のとおり,無線電信,無線電話の施設者(「施設者ハ重モニ船長或ハ船主,所謂船ノ持主ノ方」)と使用者(「使用者ハ主トシテ技術者ガ使用イタシマス訳デスガ,船長ガ這入ル場合モアラウト思ヒマス」)との間には齟齬があったのでした。

  

5 最決昭和34年7月2日(八幡浜漁業用海岸無線局=第一稲荷丸無線局事件)

電波法110条の処罰の対象となる者についての重要判例は,最高裁判所第一小法廷昭和3472日(刑集1371031頁)決定です。同決定は,弁護人の上告理由は単なる法令違反の主張であって刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないと一蹴した上で,括弧書きで「なお,原判決の判示は正当である。」とお墨付きを与えるものですが,原審の高松高等裁判所第三部昭和331129日判決が控訴棄却をもって維持した第一審の松山地方裁判所昭和3365日判決(刑集1371036頁)を見ると次のような電波法の適用が行われています。

 

ア 日本西海漁業協同組合が免許人である八幡浜漁業用海岸無線局(免許状に記載された通信事項は,漁業通信のみ)の通信士Oに対して,漁業通信ではない通信事項の通信(密漁関係で海上保安庁の巡視艇の動静を知らせる通信)を暗号で発信することを電話で依頼し,情を知らない当該通信士をして同局無線通信施設によって当該内容の電信を発信せしめた被告人A(同局の免許人ではない。)は,免許状に記載された通信事項の範囲を超えて,当該八幡浜漁業用海岸無線局を運用したことになる(Aに電波法52条,1103号が適用される。)。

イ 被告人Aは自己が船主である漁船第一稲荷丸に免許を受けて無線局を設置しているところ,その無線局の免許状には通信事項として漁業通信及び船舶の航行に関する事項のみが記載されているのにもかかわらず,第一稲荷丸無線局通信士Kは,同無線局において,Aの業務に関して前記巡視船の動静に係る電報を受信し,以て免許状に記載された通信事項の範囲を超えて当該第一稲荷丸無線局を運用した(Aに電波法52条,1103号,114条を適用)。

 

 アでは八幡浜漁業用海岸無線局の運用を行った者は,その免許人である日本西海漁業協同組合ではなく,被告人Aとなっています。Aは,故意を欠く通信士Oを利用して免許状に記載された通信事項の範囲を超えて無線局を運用させた間接正犯である,ということでしょう。最高裁判所の高橋幹男調査官は,「要するに間接正犯の理を認めたもののようであるが,免許人以外の者にその無線局の運用を認めることが出来るとするには電波法全体の精神からみていわゆる自手犯の問題が相当疑問を提起することであろう。」と評しています(最高裁判所調査官室編『最高裁判所判例解説刑事篇昭和34年度』(法曹会・1960年)243頁)。しかし,八幡浜漁業用海岸無線局についてその運用を観念できる主体は免許人である日本西海漁業協同組合又は当該法人の機関(理事)のみであるのならば,本件においては同協同組合の理事は全く情を知らなかったのですから電波法52条違反に係る1103号の罰則の発動はあり得なかった,ということになるようです。

 イでは通信士Kが第一稲荷丸無線局を運用したものとされ,Aは当該無線局の免許人ではあるものの運用者とはされず,両罰規定で罰せられています(電波法114条は「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従事者が,その法人又は人の業務に関し,第110条から前条までの違反行為をしたときは,行為者を罰する外,その法人又は人に対しても各本条の罰金刑を科する。」と規定していました。)。また,電波法25号は無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体であっても受信のみを目的とするものは無線局ではないと定義していますが,無線局である以上,受信もその運用に当たるものとされています。

 イに関して前記高橋調査官は「本件においてはむしろ通信士〔K〕との共謀に基く免許人たる被告人の船舶局違法運用として解決出来るのではなかろうか。」と述べていますが(最高裁判所調査官室243頁),これは被告人Aを正犯とせよということでしょう。しかし,電波法52条違反に係る1103号の罪が自手犯ならば,自手犯は「自らの直接的行為によって構成要件を実現しなければ正犯とならない犯罪。したがって,間接正犯及び構成要件の一部実現による共同正犯は成立しない。」と定義されていますから(金子宏=新堂幸司=平井宜雄編集代表『法律学小辞典(第4版補訂版)』(有斐閣・2008年)503頁),Aに「自らの直接的行為」がないとAは正犯とはならないことになります。しかして,イにおける「構成要件を実現」するAの「自らの直接的行為」とは,何でしょうか。

 

6 免許を受けずに無線局を開設する罪の導入(昭和56年法律第49号)

 

(1)条文

電波法1101号は,昭和56年法律第49号によって,198311日から(同法附則1項)次のようになりました。無線電信法16条同様,無線局の開設段階で犯罪が成立することになりました(ただし,未遂までは罰せられず。)。

 

 110 次の各号の一に該当する者は,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

  一 第4条第1項の規定による免許がないのに,無線局を開設し,又は運用した者

 

(2)第94回国会における政府の説明

 「従来は郵政大臣が免許しなければ無線局は開設できない,こういう点は明確に相なっていたわけでございますけれども,その免許を受けないで開設している無線局が実際に運用といいますか活動しているときじゃないとつかまえることができなかったということで,郵政省としても懸命にそれをつかまえるべく努力をしてまいったのでございますけれども,今度はトラックのように無線機が移動しているものがたくさんできてきたのですね。どこか一定の個所に置いてあればまだつかみやすいのでございますけれども,そういう点を特に注意して今回の改正をしたのでございまして,今度は無断の免許のない無線局があればすぐこれをつかまえることができるという点で,こういう点を十分改正をしていただければ,取り締まりを厳重にやってまいりたい,こういうふうに考えております。」(山内一郎郵政大臣(第94回国会衆議院逓信委員会議録第106頁))という楽観的な見込みをもってされた改正です。「不法無線局として捕捉しますためには,現在のところ郵政大臣の免許を受ける必要があるわけですけれども,開設だけでは,あるいは車に積んで運んでいるだけでは規制できない。運用の実態をつかまえ,記録をとり,何月何日に運用しておった,そういう事実を突きつけない限り規制することができない,そういうような観点からいたしまして,ただいま御審議いただいております法の中で,郵政大臣の免許を得ないで開設しておる,電波が発射し得る状態になるという時点をつかまえまして規制に持ち込みたい,こういうことで御提案申し上げておる次第でございます。」というわけです(田中眞三郎政府委員(郵政省電波監理局長)(第94回国会衆議院逓信委員会議録第1022頁))。具体的には,「ハイパワー市民ラジオ」なるものが問題となっていました。いわく,「現行の電波法では,御存じのように無線局を運用したという立証と申しますか,証拠が得られないと摘発できない。また,それに加えまして,現在の規定が決まりました当時には,固定局と申しますか,動かない無線局がほとんどだったわけですけれども,近来は御存じのように移動するものに載っける。特にハイパワー市民ラジオのほとんどが,率直に申しまして,長距離トラックあるいはダンプカー等の車両に取りつけられまして,走行中に,雑談あたりはまだいいといたしましても,交通取り締まりの状況を流すというような実態があるようでございます。そういうわけですけれども,現在のところでは運用の実態が確認でき,そうした証拠の確保ができないと摘発はむずかしい,そういうようなことで御提案を申し上げておるというようなことでございます。」と(同政府委員(第94回国会参議院逓信委員会会議録第97頁))。

なお,我が国版の市民ラジオの無線局の無線設備の技術基準については無線設備規則(昭和25年電波監理委員会規則第18号)54条の2等に規定されていますが,その使用する電波の周波数及び空中線電力については電波法422号に規定があります(昭和57年郵政省令第65条附則2項参照)。我が国版の市民ラジオの無線局は,無線局の免許を受けなくとも開設・運用することができる無線局ということになります。

 犯罪構成要件としての無線局の開設とは何か。田中眞三郎政府委員によると「運用という場合には無線設備を用いて電波を空間に実際に発射するということかと思います。それに対しまして無線局の開設とは何か。無線局を運用する意思を持ちまして無線設備を設置して電波を発射し得る状態にする,その上,かつこれを操作する者を配置して無線局としての運用が可能な状態におくこと,こういうふうに解釈いたしております。/したがいまして,たとえば無線設備が店頭等にあるというようなことでは開設になるというふうに考えていないわけでございます。実態として,たとえばトラック等自動車の運転席に無線設備がついておる,そしてアンテナもついておる,スイッチを入れれば電波が容易に出るというような状態で車両等を運行する人がいるというような場合にはこれは開設だ,運用にはもちろんならない状態でありましても開設だ」(第94回国会参議院逓信委員会会議録第914頁),「開設につきましては,無線局を運用しようという意思を持って設備をする,そうして電波を発射し得る状態にしておる,スイッチを入れればすぐ電波が出る,アンテナもつながっている,かつ,それを操作しようとする者が配置されておる。たとえば無線設備がありましても,店頭にあるようなものにつきましてはこれは操作者がいないというようなことで開設の要件にはならないと思いますけれども,そういうようなことで,無線局としての運用が可能な状態に置いてあるものというふうな解釈で,繰り返しますけれども,罰則の具体的な事実への適用解釈というものにつきましては慎重を期して,不当に個人の権利を侵すというようなことにならないように十分配意してまいりたいというふうに考えておる次第であります。」(同会議録24頁)とされています。

すなわち,①無線局を運用する意思の存在並びに②無線局としての運用が可能な状態の存在(②₁無線設備を設置してスイッチを入れれば電波を発射し得る状態にすること(アンテナ(空中線)に特に言及されるのは電波法78条(当時は「無線局の免許がその効力を失つたときは,免許人であつた者は,遅滞なく空中線を撤去しなければならない。」と規定)との関係でしょう。電波法制定時から「未だ免許を受けることとはなつていない無線設備には少くとも空中線を附属させてはならないものと解する。」とされていました(荘等223頁)。)。)及び②₂当該無線設備を操作する者の配備)が要件ということになるようです。

 

(3)無線局の運用と受信

無線局の運用の前段階というような位置付けですが,まず,「運用という場合には無線設備を用いて電波を空間に実際に発射するということかと思います」として無線局の運用は送信に限るものとする解釈はいかがなものでしょうか。無線局の運用には受信をも含むものとする前記最高裁判所昭和3472日決定を,当時の郵政省電波監理局は勉強していなかったものか,あるいは知っていながらあえて「最高裁判所だって間違えることがあるんですぅ。」と言い張って自論に固執したものか。他方,河上和雄元特捜検事は,「無線局を運用するとは,無線設備を操作して無線通信を行うことを意味し,発信設備のある限り,現実には受信しかしていなくても運用に当たる。」とあっさり解しています(伊藤榮樹=小野慶二=荘子邦雄編『注釈特別刑法第六巻Ⅱ交通法・通信法編(新版)』(立花書房・1994年)448頁。また,安西溫『特別刑法7』(警察時報社・1988年)311頁)。電波法25号ただし書の「受信のみを目的とするもの」を無線局から除く旨の規定については,「この受信のみを目的とするものというのは,受信設備の全てではなく受信設備であつても或ものは無線局を構成することがあるのであつて,それは送信設備の機能を果すためにはこれと一体をなしていると考えられる受信設備即ち具体的にいへば中央集中式又は二重通信方式により設置する受信設備等である。これらの受信設備は客観的に送信設備と一体をなしているものであるから,これらの受信設備を有している者の主観のいかんに拘らず必ず無線局を構成するものとして法の適用を受けるのである。」と説明されており(荘等83-84頁。下線は筆者によるもの),開設者ないしは運用者の主観的目的ではなく,無線設備の機能に係る客観的評価の問題とされていたところです(電波法施行規則5条,無線局免許手続規則(昭和25年電波監理委員会規則第15号)24項参照)。仙台高等裁判所平成19126日判決(高等裁判所刑事裁判速報集平成19497頁)においても,電波法25号ただし書の「「受信のみを目的とするもの」とは,受信専用設備をいうものが相当であるところ,本件無線設備は,電波を発射し送信することが可能なものであるから(空中線電力は,14メガヘルツ帯で10.4ないし10.8ワット,430メガヘルツ帯で10.6ないし11.4ワット,鑑定書⦅原審甲12⦆),これには該当しない。」と判示しています。

 

(4)無線局の運用の主体と開設の主体と

また,昭和34年最高裁判所決定の事案においても明らかになったとおり,無線局の運用の主体(通信士)と無線局の開設の主体(漁業協同組合又は船主)とは,必ずしも一致していなかったところです。運用者と開設者とのこの相違にどこまでこだわるべきか。(あるいは,前記高橋幹男調査官の言う「免許人以外の者にその無線局の運用を認めることが出来るとするには電波法全体の精神からみていわゆる自手犯の問題が相当疑問を提起することであろう。」との「電波法全体の精神」からする疑問をどう解消するか。)この辺は,実は,電波法施行規則5条の2が「免許人等〔免許人又は登録人〕の事業又は業務の遂行上必要な事項についてその免許人等以外の者が行う無線局の運用であつて,総務大臣が告示するものの場合は,当該免許人等がする無線局の運用とする。」と規定し,同条の告示によってacrobaticな辻褄合わせがされています。

当該告示である,電波法施行規則第5条の2の規定に基づく免許人以外の者が行う無線局の運用を,当該免許人がする無線局の運用とする場合(平成7年郵政省告示第183号)は,次のように規定しています。

 

免許人又は登録人〔略〕から無線局(放送をする無線局を除く。以下同じ。)の運用を行う免許人又は登録人以外の者(以下「運用者」という。)に対して,電波法及びこれに基づく命令の定めるところによる無線局の適正な運用の確保について適切な監督が行われているものであつて,次に掲げるものとする。

一 その無線局がスポーツ,レクリエーション,教養文化活動等の施設を利用者に提供する業務を遂行するために開設する無線局であるもの

二 アマチュア局であって,次の各号に掲げる運用方法によるもの

1 運用者は,アマチュア局の無線設備を操作することができる資格を有し,かつ,当該資格で操作できる範囲内で運用するものであること。

2 運用者は,運用しようとするアマチュア局の免許人の立ち会いの下で,かつ,当該アマチュア局の免許の範囲内で運用するものであること。ただし,運用しようとする社団であるアマチュア局の免許人の承諾を得て,地震,台風,洪水,津波,雪害,火災,暴動その他非常の事態が発生し,又は発生するおそれがある場合において,人命の救助,災害の救援,交通通信の確保又は秩序の維持のために必要な通信を行うときは,当該免許人の立ち会いを要しない。

3 呼出し又は応答を行う際は,運用しようとするアマチュア局の呼出符号又は呼出名称を使用するものであること。

三 免許人又は登録人と運用者との間において,その無線局を開設する目的に係る免許人又は登録人の事業又は業務を運用者が行うことについての契約関係があるもの(その無線局が移動局(ラジオマイクの局を除く。)の場合は,免許人又は登録人が当該無線局の無線設備を実際に操作する者に対して,別表に定める証明書〔無線局運用証明書〕を携帯させているものに限る。)

 

 平成7年郵政省告示第183号の第1号は,電波法70条の9とどのような関係になるのでしょうか。

平成7年郵政省告示第183号の第2号は,「アマチユア局の無線設備の操作を行う者は,免許人(免許人が社団である場合は,その構成員)以外の者であつてはならない。」と規定する無線局運用規則(昭和25年電波監理委員会規則第17号)260条の規定と矛盾するようでありますが,後法が先法を破ったもの歟。

前記仙台高等裁判所平成19126日判決は「一定の条件に適合すれば免許人等以外の者であっても他人の無線局を運用することができるが(電波法施行規則5条の2参照)」と判示していますが,「一定の条件に適合すれば免許人等以外の者の無線局の運用であっても当該免許人等による無線局の運用である」とまでは言ってはいません。

また電波法施行規則5条の2の見出しは「無線局の運用の限界」となっていますが,これは法律たる電波法で免許人等に認められた無線局の運用の範囲を省令でもって「限界」付け,制限するということでしょうか。しかし,下位法令が上位法令を破ってはならないでしょう。したがって,電波法施行規則5条の2及び平成7年郵政省告示第183号は注意的な電波法の解釈規定であるということになるようなのですが,無線局運用証明書の携帯義務までをそのような解釈規定をもって創出してよいものかどうか(同告示の第3号)。ちなみに,自動車運転免許証の携帯義務は,法律をもって定められています(道路交通法(昭和35年法律第105号)951項)。

 

7 昭和59年法律第87号による改正

日本電信電話株式会社法及び電気通信事業法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(昭和59年法律第87号)第47条により,198541日から(同法附則1条),電波法1101号は「第4条の規定による免許がないのに,無線局を開設し,又は運用した者」と改められています。

 

8 東京高等裁判所昭和60年9月13日判決(小金井食堂駐車場事件)

電波法1101号の無線局開設罪に係るリーディング・ケースは,東京高等裁判所昭和60913日判決(判タ56892頁)です。

第一審の宇都宮地方裁判所昭和591126日判決(判タ56894頁)は,罪となるべき事実として「被告人は,郵政大臣の免許を受けず,かつ,法定の除外事由がないのに,昭和581012日午前1時ころ,栃木県小山市大字羽川517番地小金井食堂西側駐車場において,同所に駐車中普通乗用自動車内に電源が接続された携帯無線送受信機を置き,自らその付近に位置して電波の送受信が可能な状態を保ち,もつて無線局を開設したものである。」との事実を認め,被告人を懲役4月に処しています。前記①の無線局を運用する意思の存在は,罪となるべき事実において記載されていませんが,争点に対する判断中において宇都宮地方裁判所は「被告人において,本件無線機を用いて警察無線等を傍受し,ないしは傍受しようとしていたことが強く推認されるものといわざるを得ない。」及び「被告人は,本件車両に戻つてきた後はもちろん,それ以前からも,本件無線機を自己の意思に基づき,基本的に自由に使用しうる地位にあつたものと推認することができる。」と判示しています。結論部分においては,同裁判所は「被告人が,他の者と共用してであったか否かはともかく,公訴事実記載の日時・場所において,本件無線機を自己の計算において操作・使用する意図を有し,かつ,そのように操作・使用することが可能な状態にあったことは,これを優に認定することができるというべきである(なお,以上検討したところなどからして,被告人が本件無線機を操作する能力を有していたことも明らかというべきである。)。そして,かかる事実が存すれば,共同使用者の有無及びその者の無線局開設の免許を有するか否かにかかわらず,無線局開設罪は成立するものと解するのが相当であるから,被告人は,本件の罪責を免れないものというべきである」と判示しています。

これに対して控訴がされたのですが,東京高等裁判所の判決文によれば,控訴趣意書において弁護人は「電波法41項に規定する「無線局の開設」とはアンテナ,送受信機,電源等無線設備を設置して電波を発射しうる状態に置き,かつこれを操作し得る者を配置し,いつでも無線局として運用可能な状態に置くことを要し,無線局の開設者とは,その無線局を支配・管理している者と解すべきところ,原判決は,本件無線局の支配管理者が誰であるかを決定することなく,単に被告人が本件無線機と関連性があるか,あるいは関連性が強いということを認定しただけで無線局開設罪の罪責を問うているのであつて,右は電波法の解釈適用を誤つたものである。」と主張しています。ここでも国会答弁で出てきた①無線局を運用する意思はそれとして出て来ないのですが,「無線局の開設者とは,その無線局を支配・管理している者」であるとの定式が提示されています。

東京高等裁判所は,当該定式を「所論のとおり」であるとしつつ,「その無線局を支配・管理している者」の内容については,「原判決はその意義についての一般的な解釈を明示しているわけではなく,原判決の判文,特に「被告人が本件無線機を自己の計算において操作・使用する意図を有し,かつそのように操作・使用することが可能な状態にあったことは,これを優に認定することができるというべきである(なお,・・・被告人が本件無線機を操作する能力を有していたことも明らかというべきである。)。そして,かかる事実が存すれば,共同使用者の有無及びその者の無線局開設の免許を有するか否かにかかわらず,無線局開設罪は成立するものと解するのが相当である・・・」と判示し,被告人が単に,他人が開設した無線局を運用したにすぎない者ではない趣旨の判示(ママ)ていることに徴すると,原判決は「無線局を開設した者」とはその無線局を支配管理している者と解しうえで被告人が本件無線局の支配管理者に当るとの判断の過程を明らかにしたものと理解することができるのであつて,所論の非難は当らない。」と一蹴しています。

なお,東京高等裁判所は「本件無線設備に関し他に無線(ママ)開設の免許を受けた者があり被告人がその免許を受けた者の支配管理のもとにその送受信機の操作にかかわつたにすぎないと認められる特段の事情が存しないこと」をも確認した上で原審判決を維持しています。「無線機を自己の計算において操作・使用する意図を有」していることが無線局の開設者たる要件であって,「無線機を自己の計算において操作・使用する意図を有」している者(無線局の開設者)の「支配管理のもとにその送受信機の操作にかかわったにすぎない」者は,無線局の運用者ではあるがその開設者とまではいえない,ということになるのでしょう。宇都宮地方裁判所の判決文(「共同使用者の有無及びその者の無線局開設の免許を有するか否かにかかわらず,無線局開設罪は成立する」)によれば,同一の無線設備について複数の者による複数の無線局の開設が可能であるということになりますが,この点は電波法令も実は認めているところであって,例えば電波法関係手数料令(昭和33年政令第307号)31項には「基本送信機が2以上の無線局によつて共用されている場合」という表現が出て来ます。河上元検事は「免許を受けた他人の無線局を勝手に利用して無線通信を行う場合も無線局の無許可運用といえよう。」と述べていますが(伊藤等448頁。また,安西311頁),ここでいう「勝手に利用」ということは「自己の計算において操作・使用する」ことをいうものと解され,かつ,当該「意図」をもって無線局としての運用が可能な状態を作出すれば,免許を受けずに無線局を開設する罪も成立するというわけでしょう。

 
 後編に続く(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1076312387.html


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ