Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊)

2019年09月

1 『帆綱』から

 

  Gripus: Dominus huic [vidulo] nemo natus est nisi ego, qui hunc in piscatu meo cepi. Quos pisces capio, siquidem cepi, mei sunt. Habeo pro meis et in foro palam omnes vendo pro meis venalibus. Mare quidem certo omnibus commune est.Plautus “Rudens”(『帆綱』)から(小林標編著『ラテン語文選』(大学書林・2001年)44頁))

                                                                                                                     

これは,無主物先占による所有権取得の主張ですね。無主物先占については,かつて,当ブログの「『猫大先生』の法律学」記事(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1019732415.html)において御紹介申し上げたことがあります。今回は,古代ローマ共和政期の劇作家であるプラウトゥス(前254年頃~前184年)の喜劇の登場人物であるグリープスの上記台詞から着想して,それからそれへと思い付くまま書き綴ってみましょう。

 

2 無主物先占

日本民法239条は「所有者のない動産は,所有の意思をもって占有することによって,その所有権を取得する。/所有者のない不動産は,国庫に帰属する。」と規定しています。旧民法(明治23年法律第28号)財産取得編2条には「先占ハ無主ノ動産物ヲ己レノ所有ト為ス意思ヲ以テ最先ノ占有ヲ為スニ因リテ其所有権ヲ取得スル方法ナリ」と,同法財産編24条には「無主物トハ何人ニモ属セスト雖モ所有権ノ目的ト為ルコトヲ得ルモノヲ謂フ即チ遺棄ノ物品,山野ノ鳥獣,河海ノ魚介ノ如シ」と,及び同編232項には「所有者ナキ不動産及ヒ相続人ナクシテ死亡シタル者ノ遺産ハ当然国ニ属ス」と規定されていました。

ドイツ民法958条は„(1) Wer eine herrenlose bewegliche Sache in Eigenbesitz nimmt, erwirbt das Eigentum an der Sache. / (2) Das Eigentum wird nicht erworben, wenn die Aneignung gesetzlich verboten ist oder wenn durch die Besitzergreifung das Aneignungsrecht eines anderen verletzt wird.“(無主の動産の自主占有を得た者は,その物の所有権を取得する。/先占が法令によって禁止されているとき又は占有の獲得によって他者の先占権が侵害されるときは,所有権は取得されない。)と,同法9282項は„Das Recht zur Aneignung des aufgegebenen Grundstücks steht dem Fiskus des Landes zu, in dem das Grundstück liegt. Der Fiskus erwirbt das Eigentum dadurch, dass er sich als Eigentümer in das Grundbuch eintragen lässt.“放棄された土地の先占の権利は当該土地の所在する州の州庫に帰属する。州庫は,不動産登記簿に自らを所有者として登記させることによって当該所有権を取得する。)と規定しています。

ローマ法における「無主物先占(occupatio)」については,あるいは「古典期前〔紀元前3世紀中葉から前82年まで〕の自然法理論によれば,〔略〕(野生の動物や海の魚のように)自然法によって全ての人々に一様に帰属しつつ,そこに厳格な所有権を基礎づけられるような状態(例えば捕獲)で発見された物について考えられた。〔略〕ローマ法の「先占」は,動産・不動産を問わない。〔略〕古典期〔前82年~前27年/後250年〕の理論では,〔略〕未だ他者の権利によって把握されていない(無主の)物に関して認められた。例えば,猟獣(Inst. 2,1,11-17),海辺の魚介類(Inst. 2,1,18(海辺で発見された真珠・宝石・その他の物は,自然法上,直ちに発見者の所有物となる)),敵から奪い取ってきた戦利品(Inst. 2,1,17)などは,先占の対象となる。ここで先占を理由とする「事実上の占有」は,「所有権」として承認された。」と(オッコー・ベーレンツ=河上正二『歴史の中の民法――ローマ法との対話』(日本評論社・2001年)197-198頁),あるいは「ローマ法では動産不動産にも適用がある(反対民239条)。ローマ法には近世法の意の狩猟権はない。他人の土地で所有者の意思に反して狩猟をなすときは,否認訴権〔略〕,不動産占有保持の特示命令〔略〕,人格権侵害訴権〔略〕の責任を負うことあるも,捕獲した鳥獣は狩猟者の所有に属する。」と(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)107頁)説明されています。

6世紀のユスティーニアーヌスの『法学提要』(Institutiones)第2編第1章の12は,次のようにいわく。“Ferae igitur bestiae et volucres et pisces, id est omnia animalia quae in terra mari caelo nascuntur, simulatque ab aliquo capta fuerint, jure gentium statim illius esse incipiunt: quod enim ante nullius est id naturali ratione occupanti conceditur. Nec interest, feras bestias et volucres utrum in suo fundo quisque capiat, an in alieno: plane qui in alienum fundum ingreditur venandi aut aucupandi gratia, potest a domino, si is providerit, prohiberi, ne ingrediatur. Quidquid autem eorum ceperis, eo usque tuum esse intellegitur, donec tua custodia coercetur: cum vero evaserit custodiam tuam et in naturalem libertatem se receperit, tuum esse desinet et rursus occupantis fit. Naturalem autem libertatem recipere intellegitur, cum vel oculos tuos effugerit vel ita sit in conspectu tuo, ut difficilis sit ejus persecutio.”と。訳してみると,「ところで(igitur),野生の(ferus)獣ら(bestiae),更に鳥ら(volucres)及び魚ら(pisces),すなわち(id est)陸,海,空において(in terra mari caelo)生まれる(nasci)全ての動物ら(omnia animalia)は,何者かによって(ab aliquo)捕獲されたときは(capta fuerint)直ちに(simulatque)万民法により(jure gentium)当然に(statim)その者のものであること(illius esse)を開始(incipere)する。というのは,従前無主のもの(ante nullius est)である物は,自然の理性によれば(naturali ratione),占有者に(occupanti)引き渡される(concedi)ものであるからである。これは,野生の獣や鳥を捕獲するのが自分の地所(fundus)においてであるかあるいは他人のそれにおいてであるか(utrum...an)にはかかわらない(nec interest)。もちろん(plane),狩猟又は捕獲のために(venandi aut aucupandi gratia)他人の地所に入る(ingredi)者は,それを予見した(providerit)主人によって(a domono),侵入を禁止されること(prohiberi)があり得る。さて(autem),汝が何を捕獲したとしても,それが汝の管理によって(tua custodia)拘束されている間は(donec…coercetur),汝のものである(tuum esse)とみなされる(intellegitur)。他方(vero),それが汝の管理から脱出(evadere)して自然の自由(naturalis libertas)に自己を回復(recipere)させたときは,汝のものであることを終止(desinere)し,再び(rursus)占有する者のものとなるものとなる。なお,それが汝の視界を(oculos tuos)去ったとき(effugerit)又は汝の見るところ(in conspectu tuo)その追跡(persecutio)が難しいときは,自然の自由を回復したものとみなされる。」となります。

なお,『法学提要』第2編第1章の18“Item lapilli gemmae et cetera quae in litore inveniuntur, jure naturali statim inventoris fiunt.”(同様に,海岸で発見される小石,宝石その他は,自然法によって当然に発見者のものとなる。)というものです。「小石,宝石その他」をもって直ちに「魚介類」と解することは難しいでしょう。Lapillusは小石ではあっても真珠(margarita)ではないでしょう。

ここでいう万民法(jus gentiumや自然法jus naturale)について「蓋シ無主ノ動産ハ先ツ之ヲ占有シタル者其所有権ヲ取得スヘキコトハ如何ニ幼稚ナル法律ニ於テモ皆認ムル所ニシテ所有権取得ノ最モ天然ナル方法ト云フモ可ナリ古ハ一切ノ財産大抵皆先占ニ因リテ其所有権ヲ取得スルコトヲ得タリ」と説かれるところ(梅謙次郎『民法要義巻之二(訂正増補第21版)』(法政大学=明法堂・1904年)147頁)が,妥当するのでしょう。

ドイツ民法9601項前段は„Wilde Tiere sind herrenlos, solange sie sich in der Freiheit befinden.“(野生動物は,自由である限り無主である。)と,同条2項はErlangt ein gefangenes wildes Tier die Freiheit wieder, so wird es herrenlos, wenn nicht der Eigentümer das Tier unverzüglich verfolgt oder wenn er die Verfolgung aufgibt.(捕獲された野生動物は,当該動物の所有者が遅滞なく追跡しなかったとき又は追跡を放棄したときは,自由を回復し,無主となる。)と,同条3項はEin gezähmtes Tier wird herrenlos, wenn es die Gewohnheit ablegt, an den ihm bestimmten Ort zurückzukehren.(飼いならされた動物は,戻るべき場所としてならされた場所に戻る習性を失ったときには,無主となる。)と規定しています(ローマ法でも「野生動物が馴養せられた場合には帰還の意思(animus revertendi)をも失つたとき初めて所有権は消滅する。」とされていました(原田117頁)。)。日本人の目からは細か過ぎるようではありますが,『法学提要』等のローマ法の伝統からは違和感のないところなのでしょう。

なお,ナポレオンの民法典の第713条は“Les biens qui n’ont pas de maître appartiennent à l’État.”(無主物は,国に帰属する。)と規定し,同じく第715条は“La faculté de chasser ou de pêcher est également réglée par des lois particulières.” (狩猟又は漁撈の可能性については,特別法をもって同様に定める。)と規定していて,フランスの民法典においては無主物先占活躍の場が一見分かりにくくなっています。これにはあるいは「近世法の意の狩猟権」が関係を有するのでしょうか。

無主物先占による所有権取得の法理によって,漁師のグリープス(Gripus)の言うとおり,“Quos pisces capio, siquidem cepi, mei sunt. Habeo pro meis et in foro palam omnes vendo pro meis venalibus.” (俺が獲る魚は,実際に獲ったならば,俺のものなのだ。俺は,俺のものとして確保し,かつ,広場で公然俺の売り物として全て売るのだ。)ということになります。しかし,“siquidem cepi” (実際に獲ったならば)と念が押されているのはなぜでしょうか。これには,『法学提要』第2編第1章の13にある次のような議論が影響しているようです。いわく。

 

 Illud quaesitum est, an, si fera bestia ita vulnerata sit ut capi possit, statim tua esse intellegatur. Quibusdam placuit, statim tuam esse et eo usque tuam videri, donec eam persequaris; quodsi desieris persequi, desinere tuam esse et rursus fieri occupantis. Alii non aliter putaverunt tuam esse, quam si ceperis. Sed posteriorem sententiam nos confirmanus, quia multa accidere solent, ut eam non capias.

 野生の獣がしかく傷つけられて捕獲され得るほどまでになったときは,当然に汝のものである(tua esse(これは,tua animalia esseの意味でしょうか。))とみなされるべきか否かという件が検討(quaerere)されている。当然汝のものであり,かつ,汝がそれを追跡し続ける限り汝のものとして観察される,しかし,追跡を中断したときには,汝のものであることを終止して,再び占有する者のものとなるものとなるのである(fieri),という説を好む者らがあった。他の者ら(alii)は,汝のものであることを,汝が捕獲したとき(ceperis)以外には認めなかった。しかしながら,我々は後者の見解をもって是とする。汝がそれを捕獲し損ねることになる(ut eam non capias)多くの出来事が(multa)起こるもの(accidere solere)だからである(quia)。

 

 仕事は最後まで,とどめを刺すまでやらねば報酬をもらい損ねるよ,というわけです。

 グリープスが“Mare quidem certo omnibus commune est.” (海は全く確かに万人の共有であるのだ。)とまで吠え立てることは,無主物先占の効果は「野生の獣や鳥を捕獲するのが自分の地所においてであるかあるいは他人のそれにおいてであるかにはかかわらない。」ということからは不要であったかもしれません。なお,我妻榮は,「漁業法や狩猟法は魚・鳥・獣の捕獲等に種々の制限や禁止を加えているが,それに違反した先占も私法上の効果は妨げられないと解される。」と述べています(我妻榮著=有泉亨補訂『新訂物権法(民法講義Ⅱ)』(岩波書店・1983年)300頁)。とはいえ,グリープスの咆哮は,ドイツ民法9601項後段の規定„Wilde Tiere in Tiergärten und Fische in Teichen oder anderen geschlossenen Privatgewässern sind nicht herrenlos.“ (動物園の中の野生動物及び池又は他の閉ざされた私的水域の中の魚は,無主ではない。)との関係では意味があるのでしょう。海は,広く大きい万人の共有物であって,閉ざされた私的水域(geschlossenes Privatgewässer)ではありません。したがって,その中の魚は,無主ではないものと直ちにされるものではありません。

 万人の共有物については『法学提要』第2編第1章の1の冒頭に“Et quidem naturali jure communia sunt omnium haec: aer, et aqua profluens et mare et per hoc litora maris.”しかして確かに次の諸物haecは万人の共有communis omniumである。すなわち,空気,流水,海及びそれに沿って海岸。)と示されています。旧民法財産編25条には「公共物トハ何人ノ所有ニモ属スルコトヲ得スシテ総テノ人ノ使用スルコトヲ得ルモノヲ謂フ即チ空気,光線,流水,大洋ノ如シ」と規定されていました。

 

3 旅行鞄は魚たり得るか?

 問題は,グリープスの“Dominus huic [vidulo] nemo natus est nisi ego, qui hunc in piscatu meo cepi.”(これ(この旅行鞄)の持主として生まれた者は,これを俺様の漁業操業時に採捕した俺様以外のだれもないのだ。)発言です。海で漁をしていて網に旅行鞄がかかったのですが,旅行鞄(vidulus)ならば,無主物であるとは通常いえず,無主物先占の対象とは直ちにはならないでしょう。しかしながら,グリープスは,旅行鞄は魚だと言い張ります。

 

  Quid, tu numquam audivisti antehac esse vidulum piscem? Est; ego qui sum piscator scio.(小林44頁)

  なぜかね,お前さんはこれまで一度たりとも旅行鞄っていう魚(vidulus piscis)が存在するっていうことを聞かなかったのかね。存在するんだよ。漁師である俺様は知っているんだよ。

 

無論,旅行鞄が魚になるのならば,グリープスも旅行鞄魚に変身できるではないかということになります。“Tu, nisi caves, te in vidulum piscem vertes. Fiet tibi puniceum corium, postea atrum.”小林44)(あんたね気をつけないとねあんた旅行鞄魚になっちまうぜ。あんたの革は緋色になってさ,それから黒ずむのさ。)と,グリープスと口論になったギリシア系のトラカーリオー(Trachalio)はさすがに口が悪い。

 

4 所有権の放棄

ということで,旅行鞄魚の実在の有無論という脱線から戻って考えると,大嵐の翌日の海でグリープスの網にかかった旅行鞄(当該大嵐で遭難した船の乗客の持ち物ですね。)は無主物かどうかがまず問題になります。「一度所有されたものも所有者が放棄すれば無主の動産となる」のですが(我妻=有泉299頁),くだんの旅行鞄について前所有者による所有権の放棄はあったものかどうか。

日本民法では,「物権の放棄も公序良俗に反してはならない(例えば危険な土地の工作物の放棄。717条参照)が,さらに,これによって他人の利益を害さない場合にだけ認められる」とされつつ(我妻=有泉249頁),「所有権および占有権(203条)の放棄は,特定の人に対する意思表示を必要としない(承役地の所有権を地役権者に対して委棄する場合は例外である。287条〔略〕)。占有の放棄その他によって,放棄の意思が表示されればよい。ただし,不動産所有権の放棄は,登記官に申請して登記の抹消をしなければ第三者に対抗しえないといわねばならない」と説かれています(我妻=有泉248頁)。とはいえ不動産については,「不動産所有者が所有権を放棄できるか否かについては,わが民法には規定がなく,はっきりしない」ともいわれています(川島武宜=川井健編『新版注釈民法(7)物権(2)』(有斐閣・2007年)379頁(五十嵐清=瀬川信久))。ドイツ民法959条には„Eine bewegliche Sache wird herrenlos, wenn der Eigentümer in der Absicht, auf das Eigentum zu verzichten, den Besitz der Sache aufgibt.“(動産は,その所有者がその所有権を放棄する意図をもってその物の占有を廃止したときに無主となる。)と規定されています。

ローマ法では,所有権の消滅に係る「放棄(derelictio)については,S派〔サビニアナ〕は占有の廃止と同時に所有権を失い,物は無主物となるとしたのに反し,P派〔プロクリアナ〕は他人が占有するまでは放棄者は所有権を失わない不確定人に対する引渡と解した如くである。ユ〔スティーニアーヌス〕帝は前説に従つている。遺失海難に於ける投荷も放棄ではない。ミッシリア(missilia)(政務官が就任祝などのときに国民に投げ与えるもの。普通は穀物の引換切符である。)の投下(iactus missilium)」は「不確定人に対する引渡」である。」ということだったそうです(原田117頁)。サビニアナとプロクリアナについては,「両派諸種の問題につき見解を異にしたが,一定の主義原則に拠つたものではないとするのを通説とする。」ということだったそうですが(原田18頁),その後には「サビニアナと呼ばれる学派は,〔略〕本質的に自然法の考え方に依拠した。とりわけ「実質的正義」や「衡平」,「信義」を重んじ,元首自身の非常大権を自然法によって基礎づけるなど,超実定法的思考にも自由であった。」とされる一方,「プロクリアナと呼ばれる学派は,〔略〕サビニアナに対する対抗学派として創設されたと言われる。彼らは,「制度としての法」における形式と論理を重んじ,厳格な法の適用と解釈こそが,人々の秩序と権利を守るものと考えた。」と説かれるに至っています(ベーレンツ=河上111頁)。『法学提要』第2編第1章の46及び47“Hoc amplius interdum et in incertam personam collocata voluntas domini transfert rei proprietatem: ut ecce praetores vel consules qui missilia jactant in vulgus ignorant quid eorum quisque excepturus sit, et tamen, quia volunt quod quisque exceperit ejus esse, statim eum dominium efficiunt. Qua ratione verius esse videtur et si rem pro derelicto a domino habitam occupaverit quis, statim eum dominium effici. Pro derelicto autem habetur quod dominus ea mente abjecerit ut id rerum suaram esse nollet, ideoque statim dominus esse desinit.”(このほか(hoc amplius, しばしば(interdum), 不特定者に対して(in incertam personam)向けられたものである持主の意思(collocata voluntas domini)であっても(et)物の所有権(rei proprietas)を移転させる(transferre)ことがある。群衆に対して(in vulgus)おひねりを投げるかの法務官ら(praetores)あるいは(vel)執政官ら(consules)はそのうちどれを(quid eorum)だれが(quisque)受け取ることになる(excepturum esse)かは知らないが,他方(tamen),各自が受け取ることになった物(quod quisque exceperit)が各自のものであること(ejus esse)を望んでいるので(quia volunt…),当然に彼を(eum)所有者にするがごときである。こう考えると(quia ratione),所有者によって放棄されたもの(derelictum a domino)とされている物(res habita)を占有する者があったときも,当然に彼が所有者とされる(effici)ということがより説得力あるもの(verius esse)として映ずる(videri)のである。また,彼の持ち物の一部のものであること(id rerum suaram [suarum?] esse)を望まないという意思をもって(ea mente)所有者が投げ捨てた物も放棄されたものとされ,及びそれにより(ideoque),所有権者であること(dominus [dominum?] esse)は当然に終止する。)と説いています。

 

5 取得時効

いずれにせよ,「遺失海難に於ける投荷も放棄ではない」以上,海中から引き揚げた旅行鞄についての無主物先占は無理でしょう。

グリープスは取得時効の制度に期待をかけるべきか。

しかし,北アフリカはキュレーネー近在の浜辺に住むグリープスはローマ人でもラテン人でもないようなので使用取得(usucapio)の適用はなく(原田110頁),取得時効制度といえば長期間の前書き(praescriptio longi temporis)でいかざるを得ないのですが,時効期間は現在者間(inter praesentes)のときは10年,不在者間(inter absentes)のときは20年であってなかなか長い(原田112頁)。正権原及び善意も必要とされていますが(原田112頁),「正権原とは占有取得を適法ならしめる取得原因である。この要件の結果,我が民法などとは異つて,例えば風にあふられて自分の家に落ちて来たような物には取得時効は成立しない」そうですから(原田111頁),どうにもなりませんね。

なお,長期間の前書きに関しては,「一般に,長期の取得時効制度は大変に怪しい。ローマでも諸制度が崩れ始めた時期に〔使用取得とは〕全く別系統の長期の取得時効が現れる(praescriptio(プラェスクリプティオー) longi(ロンギー) temporis(テンポリス))。しかしこれはあらゆる社会に見られる,弱体化した権力が実力の応酬を調停することに疲れてモラトリアム立法をした結果である。」との評言があります(木庭顕『新版ローマ法案内――現代の法律家のために』(勁草書房・2017年)67頁)。

 

6 遺失物関係法

グリープスが海から引き揚げた旅行鞄は漂流物又は沈没品ということになりますから,我が国では水難救護法(明治32年法律第95号)の第24条から第30条までが適用になります。

一般法である遺失物法(平成18年法律第73号)では遺失物の提出先又は交付先は警察署長(同法41項)又は施設占有者(同条2項)ですが,水難救護法241項(及び附則39条)では,漂流物又は沈没品の引渡先は市町村長(又は東京,大阪市若しくは京都市の区長)になっています。民法240条では「遺失物法(平成18年法律第73号)の定めるところに従い公告をした後3箇月以内にその所有者が判明しないときは,これを拾得した者がその所有権を取得する。」となっていますが,水難救護法では,公告後6箇月内に所有者が物件の引渡しを請求せず,又は引渡しを請求しないという意思表示をしたときは,市町村長は拾得者に通知し,拾得者は,公告,保管,公売又は評価に要した費用を納付して物件の引渡しを受けてその所有権を取得することになっています(同法281項・2項。ただし,沈没したままの船舶及びその船内の物品については,当該期間は1年です(同法271項,水難救護法施行令(昭和28年政令第237))。)。ちと長い。

ところで肝腎のローマ法ですが,「遺失物(verlorene Sache, chose perdue, évape)の拾得については,ローマ法には特別の制度はなく,事務管理の一環とされていた。」とされています(『新版注釈民法(7))』381頁(五十嵐=瀬川))。

 

7 泥棒グリープス

 ところで,共和政期ローマのプラウトゥスの“Rudens”を読むのに後6世紀の皇帝ユスティーニアーヌスのInstitutionesまでを参考にするということをやってきましたが,鶏を割くのに牛刀をもってするがごとくです。しかしながら,有益であることは事実です。例えば,前記トラカーリオーの「あんたの革は緋色になってさ,それから黒ずむのさ。」との罵言(これは「鞭打ちの刑になるぞ,という警告である。」とのことです(小林44頁註81)。)の背景としては,『法学提要』第2編第1章の48があったのでした。

 

  Alia causa est earum rerum quae in tempestate maris levandae navis causa eiciuntur. Hae enim dominorum permanent, quia palam est, eas non eo amino eici quo quis eas habere non vult, sed quo magis cum ipsa navi periculum maris effugiat: qua de causa si quis eas fluctibus expulsas vel etiam in ipso mari nactus lucrandi animo abstulerit, furtum committit. Nec longe discedere videntur ab his quae de rheda currente, non intellegentibus dominis, cadunt.

  他の問題は,海の嵐において,船舶を軽くするために投棄された諸物件にかかわる。もちろん,それらの所有者は変わらないのである。すなわち,それらが,それらの所有を欲しないとの意思によってではなく,むしろ当該船舶と共に海難を逃れたいとの意思によって投棄されたことは明白だからである。であるからして,それらの物を,波によって運ばれた所で,あるいはさらには当該遭難海域に至って(nactus),利得する意思をもって持ち去る者があれば,それは窃盗(furtum)を犯すものである。これらの物と,走行中の四輪馬車から所有者の知らないうちに落下する物との間に大きな懸隔があるものとは認められない。

 

窃盗というよりは,日本刑法では,「遺失物,漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。」という同法254条の遺失物等横領の罪のようではあります。

しかしながら,ローマ法上のfurtumについては,「窃盗と横領の区別はない」ものとされ(原田224頁),また,「ローマでは窃盗は最後まで犯罪ではなく,刑事法の対象ではない。独自の懲罰的民事訴権(actio(アークティオー) poenalis(ポエナーリス))の対象である(actio(アークティオー) furti(フルティー))。」とされています(木庭67頁)。

とはいえ,窃盗現行犯(furtum manifestum)の扱いは厳しかったところです。前5世紀のローマの十二表法によれば「現行犯のときは,夜間の場合及び昼間兇器携帯の場合は殺しても差支えない。昼間無兇器のときは,自由人ならば政務官が鞭打ちして被害者に付与する。被害者はこれを外国に売却することができる。奴隷ならばTarpeia巌より突き落として殺す。」ということであったそうです(原田224頁)。しかしながら,我が国も負けてはおらず,我が昭和5年法律第9号(盗犯等の防止及び処分に関する法律(これは,題名のない法律です。))111号及び同条2項を併せ読めば,我が国では,昼間無兇器の場合であっても,盗犯を防止し,又は盗贓を取還せんとするときに恐怖,驚愕,興奮又は狼狽によって現場で犯人を殺しても「之ヲ罰セズ」ということになっています。

 

8 奴隷問題

 さて,最後に一大問題が控えています。

 実はグリープスは自由人ではなく,ダエモネース(Daemones)老人の奴隷だったのでした。

 「奴隷は物であり,手中物〔略〕,有体物〔略〕の代表物にあげられている。財産権の主体とはなれない。その婚姻(contubernium)もただ「食卓を共にする」という事実関係である。ただ,債務は自然債務として,或る程度の法律性を認められている〔略〕。神法上は大概ね自由人と同一に取り扱われている。例えば埋葬社団〔略〕,墓〔略〕に於けるが如し。」ということで(原田49頁。なお,手中物(res mancipi)とは,イタリアの土地,地役権,奴隷並びに背及び頸で馴養し得べき四足動物(牛,驢馬,騾馬等)のような重要な財産のことです(原田74頁)。),「財産権の主体とはなれない」のですから,財産権の主体めかしく「俺が獲る魚は,実際に獲ったならば,俺のものなのだ。俺は,俺のものとして確保し,かつ,広場で公然俺の売り物として全て売るのだ。」と奴隷のくせにグリープスがうそぶくのは片腹痛い,ということになります。

 しかしながら,木庭顕教授は次のように述べます。

 

  奴隷は権利能力を有しないから使者nuntiusだったとするのは早計であり,現に既にかつてbona fides圏内で「奴隷」はほとんどマネージャーを意味した(プラウトゥスの喜劇において何故ビジネスの主役は奴隷か,というのは興味の尽きない問題であり,ビジネスは市民が行うに相応しくなかったという旧式の陳腐な解釈はテクストを前にして全く成り立たない)。(木庭194頁註11

 

奴隷は,財産権の主体とはなり得なくとも,主人の財産の管理・運用を行う「マネージャー」にはなれたし,実際盛んになっていた,ということのようです。

 

  その〔農場の〕うち一つないしいくつかについてdominus(ドミヌス)固有の操縦席にマネージャーを坐らせてみればどうか。彼が所有権者であるかのごとくに振る舞う。こうした文脈で解放奴隷や奴隷が主人のために領域上の物,土地や家畜を売買したならばpeculiumが現れる。土地を売ったり買ったりしてpeculiumを増やしてくれれば主人としてもほくほくである。(木庭194頁)

 

Peculium(特有財産)とは,ローマの「家長の有する権力の財産的効果として,権力服従者は当初は全部財産無能力者であり,彼等が取得した財産は取得方法,財産の如何を問わず全部家長個人の有」となっていたところ,「ただ法律上家長唯一財産主体主義というも,事実上権力服従者の財産として,その管理収益を許す特有財産(peculium)の制を古くより発達せしめ」ていたというものです(原田282頁)。「奴隷に,独立の営農のために与えられた「特有財産(peculium)」は,あらゆる果実とともに主人の財産の一部にとどまっていた。」とはいえども(ベーレンツ=河上134頁),それはやはり名目上のことで,特定財産は「事実上」は奴隷の「財産として,その管理収益」が当該奴隷によりされていたことが重要なのでしょう。特有財産は,「外見上分離して独立に管理され」ていたものです(ベーレンツ=河上151頁)。「農場,手工業,銀行,商業取引,その他多くのものが,この特有財産となり得た」そうですから(ベーレンツ=河上151-152頁),グリープスは,漁業についての特有財産の設定を主人のダエモネースから受けていたのではないでしょうか。

特有財産に係る奴隷の管理収益行為の結果が主人に帰属する仕組みは,奴隷が主人の代理人になるのかといえば,「ローマ法には直接代理は公法上は厳存したが,私法上は原則として存しない。」ということだったそうで,ただし,「間接代理(委任,後見皆然り),権力服従者の取得行為〔略〕(法律の当然の効果である。本人のためにすることを表示するとしないとを問わない),附加的性質の訴権〔略〕(代理人と本人と両方の責任が平行する)等直接代理に類する行為はあつた」とのことです(原田86頁)。

また,占有の取得については,「権力服従者はその権力者の指図命令により,権力者のために取得する。但し特有財産〔略〕については家長主人の知るを要しない。家長権に服しない自由人による占有取得が古典法で認められたのは,恐らく執事についてだけである。」ということでした(原田140頁)。グリープスによる先占は,その特有財産に係るものであらば,直ちに権利能力を有する主人のダエモネースの先占になったということでしょう。

奴隷の取得行為の結果は権力服従者の取得行為ということで権利能力者たる主人に帰属しつつも,「市民法に於ては権力服従者の〔略〕債務負担行為によつては家長主人はその責を負うことはなかつた」ところ(原田216頁)奴隷相手に取引を行う者にとってはその分不便でかえって取引の発展を妨げたのでしょうから,そのような不便対策として,「家長主人が家子奴隷に特有財産〔略〕を与えたときは,家長主人は家子奴隷の相手方に対し,特有財産の範囲に於て直接責任を負う。」という(原田216頁),附加的性質の訴権の一たる特有財産訴権(actio de peculio)が生まれたものでしょう。「このような,特有財産を承認する法律上の目的は,かかる特有財産に関する債務に対して,家父の負うべき責任を,その価値に限定するところにあった。」という見方もありますが(ベーレンツ=河上152頁),むしろ当初は,一定の財産の範囲内ながらも家長主人に直接責任を負わせるために設けられたのが特有財産の制度だったのだ,ということでしょうか。

特有財産運用等の結果お金を貯めた奴隷は,自分の自由を主人から買い戻すことができました。

 

  奴隷が,主人から自分を買い取ってくれる「仲介者」を見つけて,しかも,自ら稼ぎ出した金を第三者に託し,その金で自分を買い取ってもらえるような場合には,その奴隷は〔後2世紀後半の〕マルクス・アウレリウス帝の規則により,解放のための特別な法的手続を通じて,この仲介者を訴えることで権利を実現することができた。この規則の存在は,奴隷が,事実上,いかに独立した経済活動をなしえていたかを示すものである。(ベーレンツ=河上137頁)

 

 グリープスも,旅行鞄魚を発見したときには,その中にたんまりあるであろう金銀でもって自分の自由を買い戻そう,自由になったらあれをやろう,これもやろうとの楽しい夢想にふけったのでした。

 

   Aurum hic ego inesse reor, nec mihi est ullus homo conscious. Nunc haec occasio tibi, Gripe, contigit ut te liberes. Nunc ad erum veniam docte atque astute; paulatim pollicebor argentum pro capite, ut liber sim. Jam ubi liber ero, instruam agrum atque aedes; navibus magnis mercaturam faciam; apud reges rex vocabor; oppidum magnum condam et ei urbi Gripum nomen indam. Sed hic rex cum aceto et sale, sine bono pulmento, pransurus est.(小林42-43頁)

   黄金がここに入っていると俺はにらんでいる。このことを知っているやつはだれもいない。今や,この好機が,お前に,おいグリープス,お前を自由にするために訪れたのだ。さて,抜け目なく,かつ,狡猾に主人のところへ出かけよう。少しずつ,俺が自由になるための身代銀の分量を決めるのだ。やがて自由になったときには,農場と屋敷とをあつらえよう。何隻ものでっかい船で商売をやろう。王たちのもとで,俺は王と呼ばれるのだ。大きな都市を建設しよう,そしてその町にはグリープスという名前を与えよう。けれどもこの王様は,美食料理ではなくて,酢と塩とで昼食を摂ることになるのだな。

 

喜劇の結末において,グリープスはめでたく自由の身になれたそうですが,王にまでなったとは報告されていません(小林45頁)。 

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1 情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第28号)の成立・公布を承けて

2019531日に成立し,同年67日に公布された情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第28号)については,法案段階において,その第1条に関して平成最後の日に当ブログで御紹介したことがありました(「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案(第198回国会閣法第49号)の第1条に関して」http://donttreadonme.blog.jp/archives/1074600258.html)。今回は,同法の第2条,すなわち同法による金融商品取引法(昭和23年法律第25号。以下「金商法」といいます。)の改正について見てみましょう。

なお,金商法は,「〔金融商品取引法という〕法令の名称からみれば,「金融商品」の取引に関する法律であるかのようにイメージされるが,法の規定においては「金融商品」という用語は,〔略〕デリバティブ取引の原資産というきわめて限られた意味を有するにすぎない」ものです(山下友信=神田秀樹編『金融商品取引法概説 第2版』(有斐閣・2017年)57頁(山下友信))。すなわち,金商法の元となる金融審議会の答申は「投資サービス法」という仮称を用いていたところ,金商法は「金融商品」の取引に関する法律ではなく,「金融商品取引」に関する法律と理解すべきものです(同頁)。そうであれば,金融商品取引法の略称は金商法ではなく「金取法」の方がよかったようにも思われますが,金取法では,「かねとりほう」と読んでも「きんとりほう」読んでも物騒ですね。

以下の金商法及び資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」といいます。)の条文は,特に断らない限り,令和元年法律第28号の施行日以後のものです(同法は,201967日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されます(同法附則1条本文)。)。民法の条文は,同様,平成29年法律第44号による改正後のものです(同法は,同法附則1条及び同条に基づく平成29年政令第309号により202041日から施行されます。)。

 

2 電子記録移転権利に関して

 

(1)電子記録移転権利概念の登場及びその内容

 

ア 電子記録移転権利概念の登場

 金商法23項は「取得勧誘」(新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘のことをいいます。)を「有価証券の募集」に該当するもの及び「有価証券の私募」に該当するものの二つに分かった上でその両者を定義する規定ですが(有価証券の私募は,取得勧誘のうち有価証券の募集に該当しないものとして消極的に定義されています。),同項において,「電子記録移転権利」という概念が登場しています。

 電子記録移転権利は,金商法22項各号に掲げる権利が「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)」におけるその権利をいいます(同条3項第2括弧書き)。

 ここで金商法22項各号の権利を御紹介すると,大雑把にいって,受益証券に表示されるべきもの以外の信託の受益権(同項1号参照),合名会社若しくは合資会社(これらについては全社員又は全無限責任社員が株式会社又は合同会社である場合に限られます(金融商品取引法施行令(昭和40年政令第321号。以下「金商法施行令」といいます。)1条の2)。)若しくは合同会社の社員権(金商法223号)又は組合契約,匿名組合契約,投資事業有限責任組合契約若しくは有限責任事業組合契約に基づく権利,社団法人の社員権その他の権利のうち出資者が出資若しくは拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当若しくは当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利(同項5号参照)といったようなものになります。

 

イ 有価証券の私募ではなく募集となる電子記録移転権利の取得勧誘

金商法23項の改正による電子記録移転権利概念導入の同項における効果は,従来同条2項各号に掲げる権利(これは有価証券として取り扱われます。すなわち,同項によって,これらの権利は証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利であっても有価証券とみなされています。)の取得勧誘が有価証券の募集に該当するのは「その取得勧誘に応じることにより相当程度多数の者が当該取得勧誘に係る有価証券を所有することとなる場合として政令で定める場合」(同条33号。金商法施行令1条の72により「相当程度多数の者」は500名以上ということになります。)に限られていたところ(したがって,それ以外の場合は有価証券の私募であったわけです。),これからは金商法22項各号の権利のうち電子記録移転権利とされるものの取得勧誘は,同条1項の本来的有価証券と同様に,要は多数の者に所有されるおそれが少ないものとして政令で定める場合(同条32号ハ)以外の場合には,有価証券の募集に該当するとされるものです(同項。電子記録移転権利は「第一項有価証券」とされます。)。

 

ウ 金商法と資金決済法との二重適用の回避及び電子記録移転権利(権利)と暗号資産(財産的価値)との関係

再言すると,電子記録移転権利は,金商法22項各号に掲げる権利が「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)」におけるその権利をいうものでした(同条3項第2括弧書き)。よく読むと,金商法22項各号の権利とはまた別に財産的価値があって,当該財産的価値に当該権利が表示されると当該権利が電子記録移転権利となるとの規定です(有価証券とのアナロジーでいうと,有価証券における紙が電子記録移転権利における財産的価値に対応するようです。)。これに対して,資金決済法25項は,同項1号又は2号によって暗号資産となるものであっても電子記録移転権利を表示するものは同法の暗号資産には含まれないものとする旨規定しています(「この法律において「暗号資産」とは,次に掲げるものをいう。ただし,金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第3号に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。」)。暗号資産は,一定の(いわば通貨的)性格を帯びた「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)」です(資金決済法25項各号)。資金決済法25項ただし書のいわんとすることは,金商法22項各号に掲げる権利が仮想通貨(令和元年法律第28号による改正前の資金決済法25項)をいわば乗り物とする場合(当該「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値」たる仮想通貨に「表示」される場合)が想定されているとともに,そのような場合に係る乗り物の「カラード・コイン(Colored Coin)」は暗号資産にあらずということになる,ということでしょうか。

 

   カラード・コインとは,ビットコインに資産(アセット)に関する情報を付加することによって,さまざまなアセット(株式,債券,貴金属など)を少量のビットコインと共に移動させるという手法です。ビットコインに「色」(情報)をつけることで,あらゆるアセットを表現し,その移転を行うことができることから,「色のついたコイン」と呼ばれています。

   ビットコインには,その取引に必要なデータ(送(ママ)額や送信先など)を書き込むスペース(レイヤー)以外に,付加情報を書き込めるレイヤーが用意されており,カラード・コインでは,ここに資産のデータを載せて相手に送ることによって,アセットを移動させます。基本的にはビットコインの送(ママ)の仕組みを利用していますので,アセットを移動させるためには,少額のビットコイン(0.000001BTCなど)を実際に送ることが必要になります(中島真史『アフター・ビットコイン 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』(新潮社・2017年)254-255頁)

 

 第198回国会の衆議院財務金融委員会(2019517日)において三井秀範政府参考人(金融庁企画市場局長)は「金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するセキュリティートークンにつきましては,規制の重複排除の観点から,今回の改正によりまして,資金決済法上の暗号資産の定義から場外するということにしておりまして,〔略〕二つの法律が重畳適用することはございません。」と説明し(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第143頁),更に同政府参考人は,同国会の参議院財政金融委員会(同月30日)において,「ICO〔イニシャル・コイン・オファリング〕,その発行主体がいて,その発行主体が仮に投資的なことを行うと,こういったものですとキャッシュフローが見込めるものでございますが,この法律ではそういったものは暗号資産の定義から外していまして」と,あるいは「金融商品取引法,今回の法案の中では,そのうち収益分配を受ける権利が付与されたいわゆる投資性ICOトークン,これ法律上では電子記録移転権利というふうに称させていただいております」とも表現しています(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第128頁)。

 

(2)電子記録移転権利の「流通性」

 

ア 電子記録移転権利から除かれる場合を定める内閣府令と「流通性」

 なお,金商法23項第2括弧書き中の更に第2括弧書きにおいて規定される電子記録移転権利から除かれる場合たる「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合」については,「電子記録移転権利につきましては流通の蓋然性が高いか低いかという観点で,今までは,集団投資スキーム,流通する蓋然性が低いものとして開示規制がかかっておらなかったわけでございますけれども〔令和元年法律第28号による改正前の金商法33号参照〕,それが,今回の暗号()資産()につきましては流通性が高いということで,一項有価証券として扱わせていただくという案になってございます。/ただし,それは,ブロックチェーン技術を使ったさまざまなトークン,いろいろなものが今後あり得るということで,恐らく,御指摘のとおり,多くの投資家に流通する蓋然性がないという場合もあり得るだろうというふうに思っております。したがいまして,第一項有価証券に分類する必要がないと思われるようなものとしまして,トークンが多くの投資家に流通する蓋然性がない場合というのが一つあり得ると思います。/今後,よく実態を把握しながら,関係者の意見を聞きながら,こうしたことについて検討してまいりたいと思っております。との三井政府参考人答弁がありました198回国会衆議院財務金融委員会議録第144頁)。

 

イ 法律面から見た流通性:組合の場合

 しかしながら,「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される」こと(金商法23項第2括弧書き)によって確かに技術的には当該権利の流動性は高まり得るのでしょうが,技術的には可能であっても法律的には不能ということはあり得ます。

そこでここでは,金商法225号の権利(同号は,「集団投資スキーム持分についての包括条項としての意義を有する」ものとされています(山下=神田39頁・40頁(山下))。)中,代表的なものとして,組合契約(民法667条)に基づく権利のうち出資者が出資をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利について,法的にその流通可能性はどのようになっているかを確認してみましょう。

 まず,事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利のみを取り出して,債権譲渡ができるものでしょうか。(債権譲渡について民法4662項は,「当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示〔略〕をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられない。」と規定しているところです。)組合契約に基づく収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利が,支分権たる現実の請求権として発生した後には,当該請求権について譲渡その他の処分をすることは認められています(我妻榮『債権各論中巻二(民法講義Ⅴ₃)』(岩波書店・1962年)817頁)。しかし,「配当・払戻・残余財産などに対する請求の基本権も組合員たる地位と切り離して処分することはできないといわねばならない。けだし,この権利も,組合員として共同に事業を運営することを前提とするものであって,組合員でありながら,何等の配当を請求する権利もなく,脱退・解散の場合にも払戻請求や残余財産の分配を請求する権利のないものが存在することは,許されないからである。」とされています(我妻819頁)。

 そこで組合員たる地位の譲渡の可否が問題になりますが,民法には契約上の地位の移転に係る一般規定として第539条の2(「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において,その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは,契約上の地位は,その第三者に移転する。」)があるものの,組合の節(同法667条以下)にはなお条文がありません。しかし,組合員全員の同意があれば組合員たる地位の譲渡を認めるスイス民法の規定及び組合契約で許容するときは組合員の地位の譲渡は可能であるとするドイツの学説を参考に「組合契約でこれを許容するときは可能だと解して妨げあるまい。」とされ,その場合「他の組合員の同意とは,譲受人を特定して他の組合員全員が同意することを必要とする意味ではなく,組合契約で概括的に譲渡の可能性を認めることも妨げないと解すべきである」と説かれています(我妻841-842頁)。更に,「組合員たる地位の譲渡は,譲渡契約によって効力を生ずる。但し,譲渡したことと譲受人の氏名とを組合に通知しなければ,譲渡をもつて他の組合員に対抗しえないと解すべきであろう。」と論じられています(我妻842頁)。結局,組合契約次第ということのようです。

 

ウ 有価証券的効果の有無の問題

なお,組合員たる地位が電子記録移転権利である場合には,当該地位の譲渡は当該電子記録移転権利が表示されている財産的価値が譲受人に帰属したときに効力を生じ(民法520条の2又は520条の13及び会社法(平成17年法律第86号)1281項各類推(ここで「類推」というのは,電子記録移転権利は金商法22項によって同法においては有価証券とみなすものとされていますが,本来紙(Papier)を前提とする民商法上の有価証券(Wertpapier)であるものとまでは直ちにいえないでしょうからです。)),譲渡人からの組合に対する通知は,電子記録移転権利が表示されている財産的価値が譲受人に帰属していることを譲受人が組合に対して立証することをもって代える(民法520条の4又は520条の14及び会社法1311項並びに同法1332項及び会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)2221号各類推)ということになるのでしょうか。逆からいえば,このような効果がなければ,電子記録移転権利化は流通性を向上させるものであるとは直ちにいえないところではあります。

なお,金融庁の仮想通貨交換業等に関する研究会(座長・神田秀樹教授)は,「トークン表示権利は,トークンとともに電子的に移転するものと考えられており,事実上の流通性が高い。」と述べています(「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(20181221日)22頁)。「考えられてお」るだけであって,流動性が高いのも「事実上」のことである,ということです。前記の有価証券的効果が私法上あるとまでは断言されていないわけです。

 

エ PTS及びその認可の必要性

また,金融商品取引業者(金商法29項)が私的取引システム(同条810号。PTS (proprietary trading system)。コンピュータ・ネットワーク上で電子記録移転権利をマッチングさせるための仕組み)を有価証券(電子記録移転権利が含まれます。)について運営する場合には,金商法301項の内閣総理大臣の認可が必要になるということもあるようです(罰則は同法2011号(1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれを併科)及び両罰規定として同法20715号(法人には1億円以下の罰金刑))。

例えば,「電子情報処理組織を使用して,同時に多数の者を一方の当事者又は各当事者として」(金商法2810号),「顧客の提示した指値が,取引の相手方となる他の顧客の提示した指値と一致する場合に,当該顧客の提示した指値を用いる方法」たる売買価格の決定方法により行う電子記録移転権利の売買の媒介(同号ホ,金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(平成5年大蔵省令第14号)171号)や,「金融商品取引業者が,同一の銘柄に対し自己又は他の金融商品取引業者等の複数の売付け及び買付けの気配を提示し,当該複数の売付け及び買付けの気配に基づく価格を用いる方法」たる売買価格の決定方法により行う電子記録移転権利の売買(金商法2810号ホ,金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令172号)などについては,前記内閣総理大臣の認可が必要となりそうです。

なお,PTSにおいて取り扱う有価証券の種類,銘柄及び取引の最低単位は,金商法301項の認可に係る認可申請書の記載事項ですが(同法30条の32項,金融商品取引業等に関する内閣府令174号),その変更には内閣総理大臣の認可は不要であるものと解されます(同法316項,同令19条)。

 

(3)電子記録移転権利とICO及びSTO

 ちなみに,「ICO」の語義ですが,仮想通貨交換業等に関する研究会は,「ICOInitial Coin Offering)について,明確な定義はないが,一般に,企業等がトークンと呼ばれるものを電子的に発行して,公衆から法定通貨や仮想通貨の調達を行う行為を総称するものとされている。」(「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」19頁),「ICOについては,明確な定義がないため,例えば,投資性を有するものについてはSTOSecurity Token Offering)等の他の呼び方が一般的となる可能性も含め,今後の展開は必ずしも見通し難い面があるが,本研究会で検討された内容は,呼び方の如何を問わず,電子的に発行されたトークンを用いて資金調達を行う行為全般に妥当するものと考えられる。」としています(同頁註35)。

 したがって,電子記録移転権利の取得勧誘はまた,STOに係るもの,とも表現されることにもなるようです。

「このSTOと金商法の関係でございますけれども,基本的には同様の機能,リスクを有するものには同様の規制を適用するという基本的な考え方で,この電子記録移転権利につきましては,流通性が高いということで,株式や社債権などを規定しています第一項有価証券と言われているものと同様の取扱いでこの法案を構成してございます。/具体的な開示ルールの適用につきましては,私募もこの金商法の中にあるわけでございますが,関係者がこの新しいルールの下で健全かつ適正にビジネスに取り組んでいくことができるように,よく関係者の意見をしっかり聞きながら,また実態をよく把握しながら必要な対応について努めてまいりたいと存じます。」と三井政府参考人は答弁しています(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第122頁)。電子記録移転権利の括り出しは,開示ルール等との関係で行われたということになるようです。電子記録移転権利の「発行者に対しましては事業や財務の状況についての開示規制を掛けてございます。それから,このトークンを販売するという者に対しましては金融商品取引業の登録を求めまして,広告規制,虚偽説明の禁止などの販売,勧誘規制を課すこととしてございます。」ということです(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第128頁(三井政府参考人))。

企業内容等の開示に係る金商法の第3章の適用除外は,電子記録移転権利についてはありません(同法3条3号ロ)。金商法22項各号の権利に係る従来からの有価証券投資事業権利等(同法33号イ)と同様です(同号,同法241項・5項)。

電子記録移転権利は金商法22項各号によって従来から有価証券とみなされているものですから,その販売又は媒介,取次ぎ若しくは代理を業として行うことは,金融商品取引業に含まれ(同条81号・2号),かつ,それらは令和元年法律第28号による金商法改正後は金融商品取引業のうち第一種金融商品取引業に含まれるものであって(同法2811号括弧書き。第二種金融商品取引業には含まれないことになります(同括弧書き及び同条22号)。),当該金融商品取引業を行う者として内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができません(同法29条。違反に対する罰則は同法197条の210号の45年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれの併科)及び両罰規定として20712号(法人には5億円以下の罰金刑))。

STOについては,参議院財政金融委員会の藤末健三委員は「STOは何かと申しますと,ICO〔イニシャル・コイン・オファリング〕の一部という定義もありますけれども,セキュリティ・トークン・オファリングといいまして,例えば証券,あとは債(ママ),あとは例えば特許権とか,あとは絵画などの権利を後ろ盾として,それをトークン,仮想通貨的なものにして販売し,その配当をもらったり値上がり益を期待するというものでございます。説いています198回国会参議院財政金融委員会会議録第122頁)。ただし,藤末委員がそこで挙げている証券等の権利は,金商法22項各号の権利そのものとは一見すると異なるもののようにも思われます。

また,STOには次のような利点があると,藤末委員は熱弁をふるっています。

 

   ちなみに,STOのメリットを申し上げますと,やはり利便性の向上,今の証券取引所は朝の9時から昼の15時,昼休み1時間あります。ところが,このトークンを用いたシステムを使いますと,ブロックチェーン技術を使いますんで,技術的には24時間が可能となると,取引が。

   そしてまた,証券の業務,いろんな管理業務がございます。お金の出し入れとか,あとは証券を保管し管理してキャッシュフローを見るとか,あと,精算を受領する,精算を見るというような細かいサプライチェーンがございますけれど,そのサプライチェーンが恐らく大きく簡素化するんではないかということ。

   あともう一つございますのは,コンプライアンスの自動化ということで,このトークンという機能には,例えばスマートコントラクトという,トークン自体に例えばこれは誰に売買しては駄目ですよとかいろんな条件を付す機能がございまして,トークンを用いますと細かく,例えば帳簿でこの人はどうですかというようなコンプライアンスの管理を簡素化できるのではないかと。(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第122頁)

 

(4)地方自治体の関心

 暗号資産又は電子記録移転権利を資金調達の手段として考えている地方公共団体もあるようです。暗号資産についてですが(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第145頁参照),2019530日の参議院財政金融委員会において,佐々木浩政府参考人(総務大臣官房地域力創造審議官)から次のような紹介があったところでした。

 

   総務省で把握している限りということでございますが,長崎県平戸市や岡山県西粟倉村では,持続可能な地域社会を実現していくため,税収以外の新たな財源を確保する手段としてICOの活用を検討されているものと伺っております。

   ICOを活用して調達された資金を用いて,長崎県平戸市では世界遺産の保護や観光の資源化など観光を中心にした持続可能な地域づくりを,また岡山県西粟倉村では村で事業を立ち上げようとするローカルベンチャー事業の支援をそれぞれ検討されていると伺っております。

   なお,どちらの自治体も,自治体がICOトークンを発行せず,発行は自治体と連携する協議会が,そして利用者への販売は暗号資産交換業者が行う仕組みを公表し,検討を進めているとのことであります。(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第127頁)

 

 また,「今回,そこから電子記録移転権利,いわゆるセキュリティートークンの方も法律上も明確にしましたけれども,事業収益を上げることでその利益が分配されるというような投資も,今後,自治体ICOの中では期待されているところなんです。」とは,2019517日の衆議院財務金融委員会における緑川貴士委員の主張でした(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第145頁)。

 2019530日,情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案の可決に際し参議院財政金融委員会は附帯決議を行っていますが,その第9項は「地方公共団体が暗号資産及び電子記録移転権利を資金調達の手段として適切に利用することができるようにするための方策について検討を加え,その結果に基づき,必要な措置を講ずること」について十分配慮するよう政府に求めるものでした(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第1219頁。なお,同月17日の衆議院財務金融委員会の附帯決議第9項も同文でした(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第1420頁)。)。既に金商法31号により地方債証券(同法212号)については企業内容等の開示に係る同法第3章の規定の適用が免除されていること及び地方公共団体は同法28項各号の行為を行っても金融商品取引業を行うことにはならないこと(同項,金商法施行令1条の8611号ロ)などを承けての求めでしょう(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第145-6頁の三井政府参考人の答弁参照)。むしろ地方自治法制の問題ではあります。

 ただし,地方公共団体とその関係団体とは峻別されるべきもので,そもそも「地方公共団体自身ではなくて,この外郭団体が発行するということのセキュリティートークン」については,「その外郭団体の支払い能力あるいは業務の行い方というのが恐らくまちまちでございまして,こういったものにつきましては,現状,地方公共団体と同程度に債務不履行の懸念がないとは言えない状況かと思います。/したがいまして,これを地方公共団体による発行行為と全く同視するというわけにはいかないと思いまして,現在の段階で,これを地方公共団体が直接発行するもの並みに開示規制や業規制を例えば免除するといったことは難しいのではないかというふうに考えている次第でございます。」ということになります(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第146頁(三井政府参考人))。

(5)電子記録移転権利の保護預り

 金商法2816号では,金融商品取引業を構成する行為の一つである保護預りの対象に,電子記録移転権利が追加されています。「その行う第1号から第10号までに掲げる行為に関して,顧客から〔略〕電子記録移転権利の預託を受けること」を業として行えば金融商品取引業を行っているということになるのですから(金商法28項),「他人の行う電子記録移転権利の売買又はその媒介,取次ぎ若しくは代理(同項1号・2号)に関して」ならば,顧客から電子記録移転権利の預託を受けることを業として行っても金融商品取引業を行うことにはならず,金融商品取引業を行うための内閣総理大臣の登録を受ける必要はないのでしょう(同法29条反対解釈)。

 電子記録移転権利についても「預託」を受けるものとの文言が用いられていますが,この「預託」関係は寄託契約関係になるということでしょうか。電子記録移転権利は物にではなく電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されますところ(金商法23項),同様の財産的価値たる暗号資産については,「管理」の語が用いられているところです(資金決済法274号)。寄託に係る民法657条は「寄託は,当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって,その効力を生ずる。」と規定して,物を対象としています。

 金融商品取引業者は,「預託」を受けた電子記録移転権利を自己の固有財産と分別して管理しなければならないのですが(金商法43条の212号),その方法を定める金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)136条を見ると,その第15号ロによることになるようです(同条11号から4号まで及び5号イは書類の存在を,1号から3号までは保管場所の存在を前提としています。同条2項は金融商品取引業者と顧客との共有の場合です。)。すなわち,「第三者をして当該権利を顧客有価証券として明確に管理させ,かつ,その管理の状況が自己の帳簿により直ちに把握できる状態で管理する方法」によるべきものとなるものと解されます。

 

3 暗号資産関係

 

(1)金融商品化

 金商法2243号の2は,暗号資産を新たに金融商品に加えています。デリバティブ取引は「原資産の類型により,有価証券に係るもの,金利や通貨などの金融に係るもの,商品に係るものの三つに大別される」ところ,金商「法が有価証券および金融に係るデリバティブ取引のみを対象とすることから,法では,原資産を金融商品,参照指標を金融指標とよび」それぞれ第224項及び25項で定義しているものです(山下=神田50頁・51頁(山下))。金商法2243号の2は,暗号資産を原資産とする,又は暗号資産に係る金融指標(同条251号は「金融商品」の価格又は利率等を金融指標とします。)を参照指標とするデリバティブ取引を規制するための前提整備規定です。

 ただし,暗号資産について他の金融商品と異なる取扱いをする点として,「暗号資産のリスクに関する説明をしていただくとか,あるいは原資産となる暗号資産の事前届出をしていただくと,こういった暗号資産の特性を踏まえたものがそれに付け加わっている」ということが説明されています(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第123頁(三井政府参考人))。

前者については,金融商品取引業者等(金融商品取引業者又は登録金融機関(金商法34条))が暗号資産のリスクに関する説明をすることを求める規定として,金商法43条の6が設けられています。そのうち同条2項は罰則付きであって,同項は「金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は,その行う暗号資産関連業務〔「暗号資産関連業務」は,暗号資産に関する内閣府令で定める金融商品取引行為(「暗号資産関連行為」)を業として行うことです(同条1項)。なお,金融商品取引行為は,同法28項各号に掲げる行為です(同法34条)。〕に関して,顧客を相手方とし,又は顧客のために暗号資産関連行為を行うことを内容とする契約の締結又はその勧誘をするに際し,暗号資産の性質その他内閣府令で定める事項についてその顧客を誤認させるような表示をしてはならない。」と規定していますが,違反した者は1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され,又はこれを併科されるものとされています(同法198条の62号の2。両罰規定たる同法20714号で法人には2億円以下の罰金。なお,適格機関投資家等特例業務を行う特例業務届出者及び金融商品仲介業者にも準用(同法6311項,66条の15)。安易に„Tauschen ist Täuschen.“などといって口八丁商売をしてはなりません。金商法43条の61項は「金融商品取引業者等は,暗号資産関連業務〔略〕を行うときは,内閣府令で定めるところにより,暗号資産の性質に関する説明をしなければならない。」と規定しています。

後者については,原資産となる暗号資産の事前届出をするように義務付けるために,金商法313項の「特定業務内容等」に,デリバティブ取引の原資産たる暗号資産又はデリバティブ取引の参照指標の算出がそれに基づくものたる暗号資産が含まれるように同項の当該内閣府令の定めが設けられることになるのでしょう。金融商品取引業者は,特定業務内容等について変更しようとするときはあらかじめ内閣総理大臣に届け出なければならないものとされます(金商法313項。違反の場合同法205条の231号で30万円以下の罰金)。その前提として,金商法29条の222号に掲げる書類(登録申請書に添付される「業務の内容及び方法として内閣府令で定めるものを記載した書類その他内閣府令で定める書類」)の記載事項にも,デリバティブ取引の原資産たる暗号資産又はデリバティブ取引の参照指標の算出がそれに基づくものたる暗号資産に係るものが含まれるよう当該内閣府令の改正がされるものでしょう。

 

(2)金銭みなし

 金商法2条の2は「暗号資産は,前条第2項第5号の金銭,同条第8項第1号の売買に係る金銭その他政令で定める規定の金銭又は当該規定の取引に係る金銭とみなして,この法律(これに基づく命令を含む。)の規定を適用する。」と規定しています。

このうち,金商法225号の金銭については,「集団投資スキーム持分に対しまして出資された暗号資産を金銭とみなすという規定を設けさせていただいていまして,これによりまして,暗号資産で出資された部分も規制対象となることを明確としております。」(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第143頁(三井政府参考人))ということであるとされています(また,「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」23頁)。ちなみにこれは,2018年末のSENER事件における詐取された出資のうちビットコイン分が金商法違反の無登録営業の罪では立件できなかったからゆえの法改正であるね,という趣旨の松平浩一委員の問いに対する答弁です。当該事件における被疑者らは,金商法22項の規定により有価証券とみなされる同項5号の権利たる有価証券の募集又は私募に係る金融商品取引業(同条87号ヘ)を同法29条の登録を受けずに行ったものでしょう。なお,金商法225号の金銭には,従来から政令の定めによってそれに類するものを含めることができましたが(同号),当該政令の定めたる金商法施行令1条の3には暗号資産は含まれていません。

金商法281号の売買は有価証券の売買ですが,「代」(民法555条)ならぬ代暗号資産であっても,有価証券と暗号資産との交換(同法586条)というような正確ながらも面倒な表現は用いないことにしたということでしょう。

 

(3)証拠金倍率の規制

「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」においては,「仮想通貨の証拠金取引における証拠金倍率については,現状,最大で25倍を採用している業者も存在するところ,仮想通貨の価格変動は法定通貨よりも大きいことを踏まえ,実態を踏まえた適切な上限を設定することが適当と考えられる。」と説かれています(17頁)。政府が「適切な上限を設定」するのでしょうが,その権限の法的根拠条文は何でしょうか。

「いわゆる外国為替証拠金取引,いわゆるフォーリンエクスチェンジ,FX取引ですか,あれと同様に内閣府令で定めることに予定をしておりますけれども。」との麻生太郎国務大臣の答弁(第198回国会衆議院財務金融委員会議録1416頁)によれば,FX取引規制と同様の内閣府令の定めでする,ということになります。

であれば,金融商品取引業等に関する内閣府令117条に,暗号資産の証拠金取引における証拠金倍率規制に係る規定を追加することになるのでしょう。同条の根拠条項は金商法389号で,「投資家の保護に欠け,若しくは取引の公正を害し,又は金融取引業の信用を失墜させるものとして内閣府令で定める行為」を金融商品取引業者若しくは登録金融機関又はその役員若しくは使用人はしてはならないものと規定しています。金融商品取引業者が金商法399号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令117条の規定に違反すると,法令違反ということになりますから,登録取消し又は業務停止の処分を覚悟せねばなりません(金商法5217号)。

 

(4)第6章の3「暗号資産の取引等に関する規制」(185条の22から185条の24まで)の追加

「暗号資産の取引等に関する規制」ということで,金商法に第6章の3185条の22から185条の24まで)が追加されています。第185条の22の見出しは「不正行為の禁止」,第185条の23のそれは「風説の流布,偽計,暴行又は脅迫の禁止」,第183条の24のそれは「相場操縦行為等の禁止」です。同章の各条は,「有価証券の取引等に関する規制」に係る同法第6章の第157条から第159条(第3項を除く。)とパラレルな規定です。また,罰則についても横並びです(金商法19716号及び5号(10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれを併科。両罰規定の同法20711号で法人は7億円以下の罰金)。また,同法1972項)。

暗号資産は,金商法上の有価証券(同法21項)ではなく,有価証券とみなされるもの(同条2項)でもないので,暗号資産の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。)その他の取引については,有価証券の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く(同法281号)。)その他の取引及びデリバティブ取引等(同法333項,284号)に関する同法157条から159条までで対応できないということで,新たな条項が設けられたものでしょう。暗号資産関連デリバティブ取引等(金商法185条の2211号),暗号資産等(同法185条の231項),暗号資産関連市場デリバティブ取引(同法185条の241項)及び暗号資産関連店頭デリバティブ取引(同項)については,同法157条から159条までの規定の適用があり得るところでしたが,同法157条から159条までの規定の適用はあえて排除されています(同法185条の222項,185条の232項,185条の243項)。

金商法157条から159条までの規定の適用の排除の結果,同法第6章の3の規定に対する違反については,罰則はあるものの(同法197条),同法173条の課徴金は課されず(同法185条の23違反の場合),同法174条又は174条の2の課徴金も課されず(同法185条の24違反の場合),同法160条の賠償責任も負わない(同法185条の24違反の場合),ということになっています。また,金商法158条において定義される「有価証券等」には一見暗号資産が含まれるようであり(「デリバティブ取引に係る金融商品(有価証券を除く。)」には暗号資産は含まれるでしょう(同法2243号の2)。),そうであれば,暗号資産の相場を偽って公示し,又は公示し若しくは頒布する目的をもって暗号資産の相場を偽って記載した文書を作成し,若しくは頒布した者は,1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処され,又はこれを併科されそうにも思われるのですが(同法1681項,20020号。両罰規定の20715号により法人は1億円以下の罰金),そもそも同法158条の規定は暗号資産については適用されないものとされているのでした(同法185条の232項(暗号資産は同条1項の「暗号資産等」に含まれています。))。

 

(5)厳しい経過規定

 現在仮想通貨を原資産とする店頭デリバティブ取引を行っている仮想通貨交換業者については,令和元年法律第28号の施行日から起算して6箇月間は,第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者の登録を受けていなくても引き続き当該デリバティブ取引に係る金融商品取引業を行うことができるという6箇月の猶予期間があります(同法附則101項)。しかし,行うことができる取引は,既存の顧客を相手方とし,又は当該顧客のためにするものに限られます(同項)。

 また,上記6箇月の猶予期間中に金商法29条の登録の申請をすれば,その申請について登録又は登録の拒否の処分があるまでの間は当該猶予期間が更に延長されるのですが(令和元年法律第28号附則102項本文),何と,この猶予期間の延長は,令和元年法律第28号の施行日から起算して最大限16箇月までと制限されています(同項ただし書)。せっかく登録申請をしても,金融庁御当局の担当者が書類の山(又は電子データの巨大な混沌)に圧迫されてうんうんうなってばかりで何らの処分もしていないうちに令和元年法律第28号の施行日から起算して16箇月の期間が経過してしまうと,その時からは前記のデリバティブ取引は行ってはならない(行うと金商法違反の犯罪),ということになるわけです(その後めでたく登録がされれば,その時からは再開が可能なのでしょうが。)。

 仮想通貨交換業に対する規制を新規に導入した2016年の情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年法律第62号)の附則81項とは大いに異なります。同項の規定によれば,既存の仮想通貨交換業者は,同法の施行日(201741日)から起算して6箇月の猶予期間中に仮想通貨交換業者の登録の申請をしておけば,当該申請に対する許否の処分がされるまでは引き続き仮想通貨交換業を行うことが可能であり(施行日から16箇月間に限るというような制限はありません。),かつ,新規顧客開拓も当然認められていたのでした。御参考までに同項の規定は,「この法律の施行の際現に仮想通貨交換業(第11条の規定による改正後の資金決済に関する法律(以下この条において「新資金決済法」という。)第2条第7項に規定する仮想通貨交換業をいう。以下この条において同じ。)を行っている者は,施行日から起算して6月間(当該期間内に新資金決済法第63条の51項の規定による登録の拒否の処分があったとき,又は次項の規定により読み替えて適用される新資金決済法第63条の171項の規定により仮想通貨交換業の全部の廃止を命じられたときは,当該処分のあった日又は当該廃止を命じられた日までの間)は、新資金決済法第63条の2の規定にかかわらず,当該仮想通貨交換業を行うことができる。その者がその期間内に同条の登録の申請をした場合において,その期間を経過したときは,その申請について登録又は登録の拒否の処分があるまでの間も,同様とする。」というものでした。

 令和元年法律第28号附則10条の厳しい規定の背景には,平成28年法律第62号附則81項の下における仮想通貨交換業のいわゆるみなし業者らの行状等に対する反省があったものです。

 

   こうした〔平成28年法律第62号の〕経過措置については,その適用を受けている期間中に,みなし業者が積極的な広告を行って事業を急拡大させた,との指摘や,多くの顧客が,取引の相手がみなし業者であることやその意味を認識していなかった,との指摘がある。(「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」30頁)

 

 暗号資産デリバティブ取引等について業規制を導入する際の経過措置において,既存業者に「業務内容や取り扱う仮想通貨等の追加を行わないこと。」,「新規顧客の獲得を行わないこと(少なくとも,新規顧客の獲得を目的とした広告・勧誘を行わないこと)。」等を求めるべきであるとの見解は,「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」において記載されていたところです(30頁)。また,「みなし業者としての期間の長期化を回避するとともに,予見可能性を高める観点から,みなし業者として業務を行うことができる期間について,一定の制限を設けることも考えられる。」との提案もされていました(同頁)。

 「仮想通貨デリバティブ取引については,原資産である仮想通貨の有用性についての評価が定まっておらず,また,現時点では専ら投機を助長している,との指摘もある中で,その積極的な社会的意義を見出し難い。」(「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」16頁)という暗号資産に係るデリバティブ取引に対する否定的な評価があるところ,金融庁御当局の担当者においても当該登録申請に対する前向きな審査には「積極的な社会的意義を見出し難い」ということでなかなか能率が上がらないかもしれません。申請者の側における早期かつ十分な準備が必要でしょう。

  

4 第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者の業務の範囲と暗号資産交換業者

第一種金融商品取引業を行う証券会社が仮想通貨交換業(令和元年法律第28号による改正前の資金決済法27項)を行うためには金商法354項の内閣総理大臣の承認が必要であるということは,仮想通貨交換業に関する規定を資金決済法に設けるための法案審議の際に政府が既に前提としていたところと解されます(第190回国会参議院財政金融委員会会議録第145頁(池田唯一政府参考人(金融庁総務企画局長)答弁))。

この前提には変化がないということで,デリバティブ取引の原資産に暗号資産が加わっても(金商法2243号の2),第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う金融商品取引業者が行うことができる業務に係る金商法351項(同項の業務を行うについては内閣総理大臣への届出も不要(同条3項参照))の第13号には「通貨その他デリバティブ取引(有価証券関連デリバティブ取引を除く。)に関連する資産(暗号資産を除く。第15号及び次項第6号において同じ。)として政令で定めるものの売買又はその媒介,取次ぎ若しくは代理」と,しっかり下線部分が挿入されています。(なお関連して,金商法29条の219号の文言はこの点読みづらいのですが,「暗号資産〔略〕に係るデリバティブ取引についての次に掲げる行為」と読むべきものであって,「暗号資産〔略〕についての次に掲げる行為」と読んではならないものでしょう。令和元年法律第28号による金商法改正によっては,暗号資産は有価証券とはされていません。)

さて,店頭デリバティブ取引(金商法284号)を行うことは第一種金融商品取引業であって(同法2812号),第二種金融商品取引業(同条2項),投資助言・代理業(同条3項)及び投資運用業(同条4項)のいずれにも属しませんが,暗号資産交換業者が令和元年法律第28号附則102項に基づき第一種金融商品取引業を行う者として金商法29条の登録の申請をした場合(同法29条の2111号は「他に事業を行つているときは,その事業の種類」を登録申請書に記載することを求めています。),同法354項との関係はどうなるのでしょうか。この場合は,金商法354項ではなく,登録の拒否事由に係る同法29条の415号ハ(の反対解釈)が優先するのでしょう。すなわち,同号ハによれば,「他に行つている事業が第35条第1項に規定する業務及び同条第2項各号に掲げる業務のいずれにも該当せず,かつ,当該事業に係る損失の危険の管理が困難であるために投資家保護に支障を生ずると認められる者」に対しては,内閣総理大臣は登録を拒否しなければならないものとされています。換言すると,「当該事業に係る損失の危険の管理が困難であるために投資家保護に支障を生ずると認められ」なければ登録を受けられるわけです。(ということはつまり,金商法354項の承認の許否の基準は,「当該事業に係る損失の危険の管理が困難であるために投資家保護に支障を生ずると認められる」か否かということになるようです。このことは,同項の承認を受けようとする金融商品取引業者が提出すべき承認申請書が当該業務に関する損失の危険の管理方法に関する事項の記載を特に求めていることからも窺知されるところです(金融商品取引業等に関する内閣府令7022号参照)。

 

5 顧客に関する情報の第三者提供

第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う金融商品取引業者が行うことができる業務に係る金商法351項に第16号が加えられています。いわく,「顧客から取得した当該顧客に関する情報を当該顧客の同意を得て第三者に提供することその他当該金融商品取引業者の保有する情報を第三者に提供することであつて,当該金融商品取引業者の行う金融商品取引業の高度化又は当該金融商品取引業者の利用者の利便の向上に資するもの(第8号に掲げる行為〔有価証券に関連する情報の提供又は助言〕に該当するものを除く。)」

当該規定と個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)との関係については,「この法律〔令和元年法律第28号〕は,オーバーライドする,あるいはひっくり返すという意図はございません。あくまで個人情報保護法の法律の適用にのっとって行うという趣旨でございます。」とされています(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第148-9頁(三井政府参考人))。情報の提供を受ける第三者については,「この法律の中で,画一的あるいは形式的に特定の業態あるいは形態を個別列挙する形で,これがいいとか,これがいけない,こういうふうな個別列挙の規定の仕方はしてございません」が,「金融機関が,例えば社会的な要請が明らかに認められないような,そういう情報関連業務を行うということがあれば,これは,今回の法律改正が銀行業の高度化,利用者の利便性の向上に資する情報の提供ということですので,今回の改正の規定の趣旨に反するのではないかというふうに考える次第でございます。」との一般論が述べられています(第198回国会衆議院財務金融委員会議録第149頁(三井政府参考人)頁)。なお,令和元年法律第28号の第10条により,銀行の業務の範囲に係る銀行法(昭和56年法律第59号)10条の第2項に第20号として「顧客から取得した当該顧客に関する情報を当該顧客の同意を得て第三者に提供する業務その他当該銀行の保有する情報を第三者に提供する業務であつて,当該銀行の営む銀行業の高度化又は当該銀行の利用者の利便の向上に資するもの」が追加されます。

そもそもの大義名分は,「近年,情報通信技術の飛躍的な発展などが背景となりまして,データの利活用が社会全体の中で大きく進展していると。金融と非金融の垣根を越えたデータ活用が進みまして,従来存在しなかったような利便性の高いサービスを提供しようといった動きが,これは既存の金融機関もそうですし,フィンテック等々の既存の金融機関でない方々の取組もあろうかと思います。/こうした中で,銀行や保険会社につきましては業務範囲規制というものがございまして,実際にできる業務が列挙されてございます。こうした業務範囲規制があります金融機関につきまして,今,情報通信技術の革新が進む中で,利用者利便に資するような,そして金融機関自身の業務の新たな展開に資していくような,こういった保有情報の利活用といったものについて,真正面から銀行法上,保険業法上のこの位置付けというものを明確にするというものでございます。」ということ,更には「利用者情報であるとかこういったものを蓄積して利活用するというのが金融機関の競争力の源泉に変わりつつあるのではないか,既存ですと,ATMとか対面の顧客基盤とか,こういった物理的なものがアセットとして,資産として競争力の源泉であったものが,これがむしろレガシーになって,データというものがいかに活用できるかということが今後の金融サービスの質や競争力を変えていくのではないか。」ということのようです(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第129頁(三井政府参考人))。ただし,「金融機関のいわゆるデータの集中とか金融機関によるデータの独占というものに関して,それを加速させよう」とするものではありません(第198回国会参議院財政金融委員会会議録第1218頁(麻生国務大臣))。令和元年法律第28号の第11条により,保険会社の業務の範囲に係る保険業法(平成7年法律第105号)98条の第1項に第14号として「顧客から取得した当該顧客に関する情報を当該顧客の同意を得て第三者に提供する業務その他当該保険会社の保有する情報を第三者に提供する業務であって,当該保険会社の行う保険業の高度化又は当該保険会社の利用者の利便の向上に資するもの」が追加されます。

 

6 刑事訴訟法パラレル改正

 犯則事件の調査等に係る金商法第9章(同法210条以下)においては,刑事訴訟法等に倣った制度の整備がされています。

 

7 ごめんなさい改正等

 金商法51項柱書の第1括弧書き中「特定有価証券」の定義が適用される条項として挙げられているものに同法24条の71項が追加されていますが,これは今まで抜けていたところを補正するごめんなさい改正です。

 金商法29条の登録の拒否事由を定める同法29条の411号ハに資金決済法違反に違反して罰金の刑に処せられた者を追加したことも,既に当然入っているべきであったのにもかかわらず抜けていたところを補正するものでしょうか。なお,当該ハは,政令の定めで法律を追加できる旨規定していますが,当該政令の定めである金商法施行令15条の6には,資金決済法は含まれていませんでした。(金融機関の登録の拒否事由を定める金商法33条の512号及び同号の政令の定めである金商法施行令15条の6についても同様)

金商法29条の414号の柱書から「個人である場合を除く。」を削ったのは,同号ニを個人にも適用して,個人であっても認可金融商品取引業協会又は認定金融商品取引業協会への加入を必須としようとするものでしょうか。

金商法1591項の表現が,「取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて,次に掲げる行為をしてはならない。」から,「取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる目的その他のこれらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて,次に掲げる行為をしてはならない。」に変更されています。これはどういうことでしょうか。当該規定は犯罪構成要件でもあるところ(金商法19715号,197条の213号),令和元年法律第28号による改正前の表現について,「これじゃ結局「誤解させる等」の次で文が切れるから,それとの並びでその次の「誤解を生じさせる目的をもつて」についても,誤解させられたという結果までが立証されなければ「誤解を生じさせる目的」があったことにならないことになってしまうんじゃないの。」というような苦情が,検察庁又は法務省筋から金融庁に対してあったものでしょうか,それとも金商法185条の25の法案審査中に内閣法制局参事官殿に当該疑惑の表現が発見せられてひとしきり苦吟の後に新たな表現が与えられたものでしょうか。

金商法2101項の「,又は犯則嫌疑者が任意に提出し若しくは置き去つた物件を領置することができる。」を「,又は犯則嫌疑者が任意に提出し,若しくは置き去つた物件を領置することができる。」と改めた改正は,読点の打ち方に対する厳格な姿勢が窺われる,渋い改正です。

 「すべて」との平仮名表記が,「全て」に改められています。  


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