1 戸籍等の謄本等の交付請求と定額小為替証書

 弁護士業務の一環として,戸籍等の謄本等を取得することが必要になることが多々あります(戸籍法(昭和22年法律第224号)10条の2第3項から5項まで及び12条の2参照)。この場合,戸籍の謄本を取ると1通につき手数料450円,除籍の謄本を取ると1通につき手数料750円が必要になり,郵送で手続を行う場合(戸籍法10条の2第6項,10条3項,12条の2),その手数料は郵便局の定額小為替証書で納付することが求められます。

 

(1)手数料徴収及び手数料額

 市町村による当該手数料徴収の根拠規定は,現在は,戸籍法にではなく,「普通地方公共団体は,当該普通地方公共団体の事務で特定の者のためにするものにつき,手数料を徴収することができる。」と規定する地方自治法(昭和22年法律第67号)227条にあります。戸籍等の謄本交付の手数料が450円又は750円であるのは,「分担金,使用料,加入金及び手数料に関する事項については,条例でこれを定めなければならない。この場合において,手数料について全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務(以下本項において「標準事務」という。)について手数料を徴収する場合においては,当該標準事務に係る事務のうち政令で定めるものにつき,政令で定める金額の手数料を徴収することを標準として条例を定めなければならない。」と規定する地方自治法228条1項に基づく地方公共団体の手数料の標準に関する政令(平成12年政令第16号)の表の第8号において,当該各金額が定められているからです。

 (なお,特別区については,地方自治法283条1項が「この法律又は政令で特別の定めをするものを除くほか,第2編〔普通地方公共団体〕及び第4編〔補則〕中市に関する規定は,特別区にこれを適用する。」と規定しています。)

 

(2)地方自治法231条の2第3項の証券たる定額小為替証書

郵便局の定額小為替証書は,「証紙による収入の方法によるものを除くほか,普通地方公共団体の歳入は,第235条の規定〔同条2項は「市町村は,政令の定めるところにより,金融機関を指定して,市町村の公金の収納又は支払の事務を取り扱わせることができる。」と規定〕により金融機関が指定されている場合においては,政令の定めるところにより,口座振替の方法により,又は証券をもつて納付することができる。」と規定する地方自治法231条の2第3項の証券であることになります。

 地方自治法231条の2第3項の証券については更に,地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)156条1項が,次のように規定しています。

 

  地方自治法第231条の2第3項の規定により普通地方公共団体の歳入の納付に使用することができる証券は,次に掲げる証券で納付金額を超えないものに限る。

 一 持参人払式の小切手等(小切手その他金銭の支払を目的とする有価証券であつて小切手と同程度の支払の確実性があるものとして総務大臣が指定するものをいう。以下この号において同じ。)又は会計管理者若しくは指定金融機関,指定代理金融機関,収納代理金融機関若しくは収納事務取扱金融機関(以下この条において「会計管理者等」という。)を受取人とする小切手等で,手形交換所に加入している金融機関又は当該金融機関に手形交換を委託している金融機関を支払人とし,支払地が当該普通地方公共団体の長が定める区域内であつて,その権利の行使のため定められた期間内に支払のための提示又は支払の請求をすることができるもの

 二 無記名式の国債若しくは地方債又は無記名式の国債若しくは地方債の利札で,支払期日の到来したもの

 

地方自治法施行令156条1項1号の総務大臣が指定するものは,平成19年9月28日総務省告示第544号によって,現在,ゆうちょ銀行が発行する振替払出証書及び為替証書とされています。郵便局の定額小為替証書は,ここでいうゆうちょ銀行が発行する為替証書に含まれます。定額小為替証書は,小切手ではないが,「金銭の支払を目的とする有価証券であつて小切手と同程度の支払の確実性があるもの」ということになるわけです。

なお,上記平成19年総務省告示第544号は,次のとおりです。

 

 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第156条第1項第1号の規定に基づき,総務大臣が指定する有価証券を次のように定め,平成1910月1日から施行する。

一 郵政民営化法(平成17年法律第97号)第94条に規定する郵便貯金銀行が発行する振替払出証書

二 郵政民営化法第94条に規定する郵便貯金銀行が発行する為替証書

 

「為替証書」(及び「振替払出証書」。本稿では,こちらまでは論じません。)は,銀行法(昭和56年法律第59号)には出て来ない概念です。ただし,郵政民営化法の施行日である200710月1日(同法附則1条柱書き)から郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律によって廃止(同法2条2号,附則1条)されるまでは,郵便為替法(昭和23年法律第59号)が存在しました。しかしながら,現在,ゆうちょ銀行が発行する為替証書には特別の根拠法が無いことになっています。

 

(3)定額小為替証書と普通為替証書と

ところで,ゆうちょ銀行の為替証書には普通為替証書と定額小為替証書とがありますが,これは,為替金の払渡しを受ける者からすると,為替金額があらかじめ定額で定まっているか(定額小為替証書),定まっていないか(普通為替証書)の違いにすぎません。

ゆうちょ銀行の為替規定の第1条は,次のように規定しています(下線は筆者によるもの)。

 

1 適用範囲

  次に掲げる送金の取扱い(以下「為替」といいます。)については,この規定により取り扱います。

① 受け入れた為替金の額を表示する普通為替証書を発行してこれを差出人に交付し,差出人が指定する受取人に普通為替証書と引換えに為替金を払い渡す取扱い(以下「普通為替」といいます。)

② 受け入れた当行所定の定額の為替金の額を表示する定額小為替証書を発行してこれを差出人に交付し,差出人が指定する受取人に定額小為替証書と引換えに為替金を払い渡す取扱い(第9条第2項及び第10条第2項において「定額小為替」といいます。)

 

廃止前の郵便為替法8条及び10条は,それぞれ次のような規定でした(下線は筆者によるもの)。

 

第8条(普通為替)普通為替においては,〔日本郵政〕公社は,受け入れた為替金の額を表示する普通為替証書を発行してこれを差出人に交付し,差出人が指定する受取人(その指定がないときは,普通為替証書の持参人)に普通為替証書と引換えに為替金を払い渡す。

 

10条(定額小為替)定額小為替においては,公社は,受け入れた定額の為替金の額を表示する定額小為替証書を発行してこれを差出人に交付し,差出人が指定する受取人(その指定がないときは,定額小為替証書の持参人)に定額小為替証書と引換えに為替金を払い渡す。

  前項の定額の為替金額は,1万円を超えない範囲内で公社が定める。

 

 ゆうちょ銀行のウェッブ・ページにおいては,普通為替については「お近くのゆうちょ銀行または郵便局の貯金窓口で,送金額の現金に所定の料金を添えてお申込みください。為替金の額を表示した普通為替証書を発行いたしますので,所定の受取人欄に受取人のお名前をご記入いただき,それを受取人にお送りください。」及び「お近くのゆうちょ銀行または郵便局の貯金窓口に普通為替証書をお持ちください。その証書と引換えに表示された金額の現金をお受け取りいただけます。※ご本人であることを確認できる公的書類のご提示をお願いする場合があります。」と,定額小為替については「お近くのゆうちょ銀行または郵便局の貯金窓口で,送金額の現金に所定の料金を添えてお申込みください。送金額に応じて,50円,100円,150円,200円,250円,300円,350円,400円,450円,500円,750円,1000円の12種類の定額小為替証書を発行いたしますので,所定の受取人欄に受取人のお名前をご記入いただき,それを受取人にお送りください。」及び「受け取った定額小為替証書をお近くのゆうちょ銀行または郵便局の貯金窓口にお持ちください。その証書と引換えに表示された金額の現金をお受け取りいただけます。※ご本人であることを確認できる公的書類のご提示をお願いする場合があります。」と説明しています。一見,郵便為替法時代とは異なり,差出人による受取人の指定が必須になったように思われますが,これは単なるお節介な注意書きのようです。ゆうちょ銀行の為替証書の裏面にはそれぞれ,「この証書をお受取人に送る際は,表面の指定受取人おなまえ欄にお受取人のおなまえをご記入ください。なお,お受取人の指定がない証書については,証書の持参人に為替金をお支払いすることとし,これにより生じた損害については,当行および日本郵便株式会社(日本郵便株式会社が委託した者を含みます。)は責任を負いません。」と,受取人の指定は必須ではないことを前提とした記載がされています(同行の為替規定の9条4項には「差出人が受取人を指定していない為替については持参人に為替金を払い渡すこととし,これにより生じた損害については,当行等〔当行及び日本郵便株式会社(同社が当行に係る銀行代理業を委託した者を含みます。)〕は責任を負いません。」とあります。なお,平成29年法律第44号による改正後の民法510条の10は「指図証券の債務者は,その証券の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが,その義務を負わない。ただし,債務者に悪意又は重大な過失があるときは,その弁済は,無効とする。」と規定し,当該規定は記名式所持人払証券(同法520条の18)及び無記名証券(同法520条の20)に準用されています。はて,ゆうちょ銀行は,悪意又は重大な過失があっても責任は無いと頑張るのでしょうか。)。

 定額小為替と普通為替との相違点としては,普通為替の場合には,差出人は所定の料金を支払って,為替金が受取人に払渡済みであるかどうかを調査してもらってその結果の通知を受ける取扱いを受けることができます(ゆうちょ銀行の為替規定8条)。また,差出人は為替証書を失った場合においては為替証書の再交付の請求をすることができますが(同規定11条1項),定額小為替証書を失ったときにはその有効期間内(その発行の日から6箇月間(同規定9条3項))は為替証書の再交付はされないもの(同規定11条3項ただし書)とされています。

定額小為替の料金は定額小為替証書の全種類を通じて一律に証書1枚につき100円である一方,普通為替の料金は送金額5万円未満で430円,同5万円以上で650円ですので(いずれも消費税額及び地方消費税額を含む。),定額小為替証書が5枚以上必要な送金であれば,むしろまとめて普通為替証書を発行してもらう方がよいようです。戸籍担当窓口によってはいつも見慣れた定額小為替証書ならぬ普通為替証書が来るとなるとぎょっとして防衛的姿勢となられるところもあるようですが,筆者は現に,戸籍等の謄本交付の手数料を普通為替証書でもって納付したことがあります。

 

2 普通為替証書と印紙

ところで,普通為替証書には,収入印紙貼付欄があって「課税相当額以上で営業に関するものに限り収入印紙を貼付」と記載されています。(以前は,「3万円以上で営業に関するものに限り収入印紙(200円)を貼付」と記載されていました。)これは,当該証書表面の「下記の金額を受け取りました。」との記載と受取人(住所も記入)の記名押印又は署名(ゆうちょ銀行為替規定9条1項)とをもって印紙税法(昭和42年法律第23号)別表第1の第17号の金銭の受取書が作成されるものであるものとゆうちょ銀行は解しているということでしょう。しかしながら,地方公共団体が作成した文書(印紙税法5条2号)及び地方公共団体の公金の取扱いに関する文書(同条3号,別表第3)には印紙税は課されないはずですから(また,戸籍等の謄本の交付が営業に該当するというわけでもありません(同法別表第1の第17号非課税物件欄2)。),戸籍等の謄本の交付数及び手数料額が非常に大きくなって為替金額が5万円以上(同号非課税物件欄1参照)の普通為替証書となっても(なお,定額小為替証券の額面は最高でも1000円ですから,こちらについては金額が低いことからして印紙税の心配はないわけです。),当該地方自治体のために当該手数料としてゆうちょ銀行の当該普通為替証書と引換えに為替金の払渡しを受ける方々は心配されるには及ばないわけです。

ところが,国税庁のウェッブ・ページによると,印紙税法別表第1の第17号にいう有価証券には「郵便為替」が含まれるものとされています。となると,そもそもゆうちょ銀行の為替証書に為替金の受取人が「下記〔定額小為替証書の場合は「上記」〕の金額を受け取りました。」として記名押印又は署名をしたとしても,同号非課税物件欄3の「有価証券〔略〕に追記した受取書」ということになるにすぎず,同号の課税物件たる金銭の受取書とはならないのではないでしょうか。そうだとすると,「印紙貼付欄」については,難しい記載をゆうちょ銀行はあるいはしてしまっているということにもなるのかもしれません。郵便為替法5条の「郵便為替に関する書類には,印紙税を課さない。」との規定が同法の廃止により無くなったことに伴う手当てが行われた結果である,ということになるようですが,どうでしょうか。

 

郵便局の為替証書に関しては,いろいろ興味深い法律論ができそうです。

 

弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所

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