Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊)

2015年02月04日

(前編からの続き)


5 NTTグループにおける多重代表訴訟制度:NTTコミュニケーションズの非対象性

 独禁法9条(龍太郎の父の龍伍が立案に携わった立法当初の同法同条では「持株会社は,これを設立してはならない。/前項において持株会社とは,株式(社員の持分を含む。以下同じ。)を所有することにより,他の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社をいう。」と規定)を改正して持株会社を解禁するに当たっては,国会議員においても,持株会社を中心とした企業グループの例としては,同時期に国会審議がされていた平成9年法律第98号に基づき再編成されるNTTグループがまず念頭に置かれていたことでしょう。

 そこで,多重代表訴訟制度が現在のNTTグループにはどう当てはまるのかを見てみると,実は,NTTコミュニケーションズの発起人等に対しては,多重代表訴訟は提起され得ないように思われます。(ただし,「思われます」というのは横着ですね。本来ならば,最新の有価証券報告書類を見て裏をとらねばならず,「持株NTTはグループ運営にかかわる契約を締結し,グループ運営の推進にかかわる包括的な役務提供に対する報酬を得ているはずである。」という類の憶測で片付ける横着な記述をしてはならないのですが(この点『コンメンタールNTT法』24頁は,当該NTTグループ運営に関わる契約の存在及び報酬総額について,きっちり裏をとった記述をしています(同書ⅱ頁参照)。),まあ,改正会社法の説明のための例示ということでお許しください。)

 多重代表訴訟における訴えは,「特定責任に係る責任追及等の訴え」であるところ(改正会社法847条の31項),ここでいう「特定責任」が,「当該株式会社の発起人等の責任の原因となった事実が生じた日において最終完全親会社等及びその完全子会社等(前項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。・・・)における当該株式会社の株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)を超える場合における当該発起人等の責任をいう」(改正会社法847条の34項)と定義されていることが問題です。2010年3月末のNTTの総資産額は,有価証券報告書上,7兆4,7778,900万円であるところ,帳簿上のNTTコミュニケーションズの株式価額は7,3597,400万円でしかなく(『コンメンタールNTT法』21頁),総資産額に対して9.8パーセントにしかならないからです。

 「特定責任」は,要するに「一定の重要な完全子会社の発起人等の責任」(坂本170頁)であって,多重代表訴訟の対象となる責任を特定責任に限定した理由は,どうやら,重要でない完全子会社の発起人等は「例えば,取締役であっても,実質的には,当該最終完全親会社等の事業部門の長である従業員にとどまる者」であろうから,ということのようです(坂本170頁)。現行の株主代表訴訟制度は,「株式会社の取締役同士の馴れ合いによりその責任の追及が懈怠されるおそれがあることに着目し,取締役その他のいわゆる役員クラスの者の責任をその対象とするもの」であって「従業員の責任は,その対象としてい」ないということにかんがみれば,完全子会社の取締役といってもその完全親会社においては実は本来従業員クラスにすぎない者については,多重代表訴訟制度においても見逃してやるよ,ということのようです(坂本170頁参照)

 そうであれば,NTTコミュニケーションズの役員の方々は,「改正会社法下にあっても,NTTの株主から多重代表訴訟で刺されることはないぞ,万歳!」と喜ばれるよりは,「NTT持株会社の従業員並みだって!?馬鹿にするな。わたくしは持株会社でも役員クラスなのだっ。」と憤慨された方がよいかもしれません。

 特定責任のしきいについて,「総資産額の5分の1を要件としたのは,事業譲渡や会社分割において,株主総会の決議が不要とされる要件(第468条第2項,現行の第784条第3項等参照)を参考とした」とされています(坂本170頁)。しかし,総資産額の5分の1以上を要するということであれば持株会社の株主が多重代表訴訟を提起できる完全子会社は計算上5社が最大限ということですね。同じ株式価額の完全子会社が6社あれば,その全社の発起人等について多重代表訴訟は提起され得ないということにもなるようです。また,持株会社の総資産に含まれるのは,完全子会社の株式ばかりではありません。改正会社法で多重代表訴訟制度が導入されるといっても,定款(完全親会社等の定款なのか,訴えられる発起人等の株式会社の定款なのか,ちょっと分かりづらいですね。)の変更を伴わないデフォルトの特定責任が対象ということであれば,なかなか新たに株主による訴訟の対象となる完全子会社の発起人等の方は多くはないでしょう。(ところで,発起人等の特定責任を追及する場合,会社の成立前には株式もないので,会社の成立前の行為に係る多重代表訴訟はあり得ないということでよいのでしょうか。)


6 「親」と「子」との絆の強化:改正会社法46712号の2

 持株会社解禁前の独禁法では,持株会社の設立や持株会社になることは禁じられていたのですが,解禁後は掌が返されたようになって,商法の世界では,むしろ持株会社制度はよいものだ,ということになったようです。わざわざ「親会社が子会社の発行済み株式の総数を有する完全親子会社関係を円滑に創設するため」に「株式交換及び株式移転の制度を設けることとし」たわけですから(陣内孝雄法務大臣・第145回国会衆議院法務委員会議録22号)

わたくしに対してあいさつもしないで何だ,追い出せ,と偉い経済法の大学者の方は憤慨されるのかもしれませんが・・・事業支配力の過度の集中って何だといっても,学説云々よりも結局お役所たる公正取引委員会のガイドライン次第ですし,「公正な競争」に対する明確な意義付けの欠如は多方面に弊害をもたらすとはいえ,具体的な当該意義の御提案なきままその旨詠嘆されているだけでは何のことやら・・・実務及び立法は日々進んで行きます。

 改正会社法の下では会社間での「親」と「子」との絆が更に強化されています。

 改正会社法467条(事業譲渡等の承認等)1項2号の2は,「その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)」には,「株式会社は,・・・当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに,株主総会の決議によって,当該行為に係る契約の承認を受けなければならない」ものとしています。「次のいずれにも該当する場合」の「次」は,「イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)を超えるとき」及び「ロ 当該株式会社が,効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき」です。当該株主総会の決議は,「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない」ものとされています(会社法309条2項11号)

 いったん「親」と「子」とになった以上,「親」たる会社が「子」たる会社の株式を安易に売ることは許さず,ということですね。「子」を安易に売り飛ばして,恣意的に「親子」関係を解消することは許さず,というアナロジーであるようです。

 「株式会社が,その子会社の株式等を譲渡することにより,株式等の保有を通じた当該子会社の事業に対する直接の支配を失う場合(例えば,子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないこととなる場合)には,事業譲渡と実質的に異ならない影響が当該株式会社に及ぶと考えられます。したがって,このような子会社の株式等の譲渡については,事業譲渡と同様,株主総会の決議による承認を要することとするのが相当です。」ということです(坂本221頁)。しかし,「迅速な意思決定という企業集団における経営のメリットが損なわれるおそれ」があって,迷惑そうですね(坂本221頁参照)。となると,「株式会社が譲り渡す子会社の株式等の帳簿価額が小さい場合には,当該譲渡により当該株式会社がその子会社の事業に対する直接の支配を失ったとしても,当該株式会社に及ぶ影響は小さいものにとどまる」といえるので「このような場合にまで,株主総会の決議による承認を経る必要はないと考えられ」ること(坂本221頁)からして設けられた改正会社法467条1項2号の2イがフルに活用されて,結局業績不振等の子会社の株式を売り飛ばすときには,株主総会の招集を回避するため,小分けにして少しずつ株式を売ることになるのではないでしょうか。そうだとすると,随分簡単に規制の潜脱(?)ができそうです。会社法467条1項1号ないし4号ではいわゆるgoing concernたる「事業」又は「事業の重要な一部」が譲渡等の単位になっているのですが(同項5号は事後設立の規制),2号の2に入る株式の譲渡は,一株単位でできますからねぇ・・・。


弁護士 齊藤雅俊

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1 多重代表訴訟制度等

 平成26年法律第90号による会社法(平成17年法律第86号)の今次改正2015年5月1日施行予定)における主要改正項目の一つに「株式会社の完全親会社の株主による代表訴訟の創設」があります2014年1月15日の弊ブログ記事「会社法改正の年に当たって(又は「こっそり」改正の話)」参照http://donttreadonme.blog.jp/archives/2471090.html

 「株式会社の完全親会社の株主による代表訴訟」といえば,平成26年法律第90号による改正後の会社法(「改正会社法」)の①第847条の3の「最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え」がまず思い浮かぶのですが,実は、同法の②第847条の2の「旧株主による責任追及等の訴え」とセットです。坂本三郎法務省大臣官房参事官編著の『一問一答 平成26年改正会社法』(商事法務・2014年)の目次を見ると,次のようになっています。


 第3編 親子会社に関する規律の整備

第1章 親会社株主の保護等

第1 多重代表訴訟制度等

     1 多重代表訴訟制度(特定責任追及の訴えの制度)

     2 旧株主による責任追及等の訴えの制度

     3 旧株主による責任追及等の訴えおよび特定責任追及の訴えに係る訴訟手続等 

     4 利益供与に係る規律等の見直し

     5 経過措置


上記「目次」によれば,多重代表訴訟制度(特定責任追及の訴えの制度)と旧株主による責任追及等の訴えの制度とでひとまとまりで「多重代表訴訟制度等」ということになるようです。

「目次を活用せよ。」とは,かつて教わった記憶があります。


2 多重代表訴訟制度(特定責任追及の訴えの制度)



(1)概要

 「いわゆる多重代表訴訟制度とは,企業グループの頂点に位置する株式会社(最終完全親会社等)の株主が,その子会社(孫会社も含みます。)の取締役等(注)の責任について代表訴訟を提起することができる制度をいいます(第847条の3)。」とされています(坂本158頁)。「最終完全親会社等」等の定義については,当ブログでも紹介したことがありました2015112日「改正会社法と子会社等及び親会社等(前編)」http://donttreadonme.blog.jp/archives/1017451062.html


(2)「発起人等」と「取締役等」

なお,「取締役等(注)」における「(注)」とはどういうことかということで当該「(注)」を見ると,


条文上は,「発起人等」としています(第847条の3第4項)。「発起人等」とは,具体的には,発起人,設立時取締役,設立時監査役,役員等(取締役,会計参与,監査役,執行役または会計監査人。第423条第1項)または清算人をいいます(第847条第1項)。


と説明されています(坂本159頁)。主に取締役が訴えられるのならば「取締役等」にしておけばよいのに,なぜ「発起人等」などという概念を作ったのでしょうか(平成26年法律第90号による改正前の会社法(「現行会社法」)8471項には当該概念はありません。「発起人等」は改正会社法における新設概念です。)

「発起人等の損害賠償責任」(現行会社法53条の見出し)といえば,「発起人,設立時取締役又は設立時監査役」の責任がまず念頭に浮かぶわけで(同条),取締役や執行役の責任にはなかなか思いは及ばないように思われるのですが,どうでしょうか。それとも「取締役等」という呼称は,現行会社法の第213(〔募集株式の引受人から〕出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任)及び第286(〔新株予約権の行使に当たっての〕出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任)で既に2度使われているので,いくら何でも3回も使い回すのはいけないだろうということでしょうか(なお,現行会社法213条及び286条の「取締役等」には,取締役及び執行役以外の者は含まれません(会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)44条から46条まで及び60条から62条まで)。)


3 旧株主による責任追及等の訴えの制度



(1)概要

「旧株主による責任追及等の訴えの制度とは,株式会社の株式交換もしくは株式移転または株式会社が吸収合併消滅会社となる吸収合併の効力が生じた日において当該株式会社の株主であった者(旧株主)は,当該株式会社の株主でなくなった場合であっても,①当該株式交換もしくは株式移転によって当該株式会社の完全親会社の株式を取得したときまたは②当該吸収合併により吸収合併存続株式会社の完全親会社の株式を取得したときは,当該株式会社または吸収合併存続会社(これらを併せて,「株式交換等完全子会社」と定義しています。)に対し,責任追及等の訴えの提起を請求することができることとし,株式交換等完全子会社が当該訴えを提起しないときは,当該旧株主自らが当該訴えを提起することができることとするものです(第847条の2)。」とされています(坂本181頁)

いわゆる株主「代表訴訟を提起した株主は,その訴訟の係属中,株式を保有し続ける必要」があり,「そのため,訴えの提起後,原告が・・・株式を保有しなくなった場合には,原告となる資格(原告適格)を失い,その株主が提起した代表訴訟は,不適法なものとして却下される」との「原則」(坂本183頁)に対する調整規定です。

原告である株主が自分で当該株式を譲渡したのならば,いわば自分で原告適格を放棄したようなものなので問題はないのですが,株主代表訴訟を提起された取締役等の会社が,えいやっと株式交換や株式移転の制度を利用して,当該原告の手中にあった自社の株式を,自社の完全親会社の株式に変換してしまうという手妻を使ったときが問題となりました。(キツネに渡されたお札で品物を買おうとしていたら,木の葉に換えられてしまったようなものか。)


なお,株式交換とは「株式会社がその発行済株式(株式会社が発行している株式をいう。以下同じ。)の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう。」と定義されています(会社法231号)。ここでの「他の株式会社又は合同会社」は既存の会社ですね。これら「他の株式会社又は合同会社」によって,株式交換をする株式会社の株式はすべて取得されてしまうことになります(当該他の株式会社(「株式交換完全親株式会社」(会社法76811号))の「完全子会社」になるわけです(会社法施行規則改正案(20141125日に意見募集手続がされた法務省案)218条の3第1項)。しかし,合同会社の株式交換完全子会社にはなりますが(会社法76811号),完全子会社には定義上なりません(完全子会社の「親」は株式会社に限られる。)。他方,合同会社は完全親会社(改正会社法847条の2第1項)にはなりませんが(完全親会社は,株式会社限定),「株式交換完全親会社」にはなります(会社法767条)。この辺で,会社法にうんざりしない人は,立派です。)。株式交換をする株式会社の株主は,当該株式会社の株式を失うことになるわけですが,代わりに株式交換完全親会社からの金銭等を受けることができます(会社法76812号,77012号(株式交換完全親合同会社の社員となる場合)・3号)。当該金銭等(「金銭その他の財産をいう。」と会社法151条においてていねいに定義されています。)が株式交換完全親株式会社の株式であれば(会社法76812号イ),確かに,株式交換をする株式交換完全子会社の株主は,当該株式交換完全子会社の株式を株式交換完全親株式会社の株式に交換した形になります(同法7691項・31号)。ただし,「株式交換」といいつつも,株式交換完全子会社の株主が株式交換完全親株式会社の株式の交付を受けない場合があり得ます(会社法76812号ロからホまで)

「株式移転」は,「一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。」と定義されています(会社法232号)。株式交換との違いは,株式交換では既存の会社間で養子縁組をして「親」と「子」とになるのに対して,株式移転の場合は,「子」又は「子ら」が先にあって,「親」を後から作るということでしょうか。鉄腕アトムのパパは,アトムの後から作られたのでした。株式会社鉄腕アトムが株式移転によって株式会社アトムのパパを設立する場合,株式会社鉄腕アトムの株主には,同社の株式に代わるものとして株式会社アトムのパパの株式が交付されます(会社法77315号,7741項・2項)


(2)株式交換等に対する会社法制定時の調整及びその不十分性

会社法の制定に当たっては第851条が設けられ,「訴えの提起後に会社(A)が株式交換・株式移転(会社231号・32号)により他の株式会社(B)の完全子会社となったため,原告株主がAの株主資格を喪失しても,当該株主がその手続によりB(またはBの完全親会社)の株主となった場合には,原告適格を喪失することなくその訴訟を追行することができる」ようにされていました(江頭憲治郎『株式会社法』(有斐閣・2006年)444頁)。「完全子会社となる会社(A)に代表訴訟が係属していた場合に,株式交換(株式移転)により原告がAの株主でなくなったことを原告適格の喪失として訴訟を却下した裁判例があったことから(東京地判平成13329判時1748171頁,名古屋地判平成1488判時1800150頁,東京高判平成15724判時1858154頁等),これを変更する趣旨で・・・新設された」規定であるとされています(江頭447頁)。とはいえ,胸を張るような話ではなく,「そのような結果をもたらす立法〔株式交換・株式移転制度の導入〕には,欠陥があったというほかない。これを是正するのは,当然であった。」というだけのことです(稲葉威雄『会社法の解明』(中央経済社・2010年)478頁)

しかしながら,会社法851条だけでは不十分であったそうです。

同条においては,株主代表訴訟提起に株式交換等がされた場合についてのみ手当てがされているわけですが,「株式交換等の効力が代表訴訟の提起前に生じたか,提起後に生じたかによって,代表訴訟による責任追及の可否を区別するのは相当でないと考えられ」るからです(坂本183頁)


(3)後始末

「そこで,〔平成26年〕改正法では,ある株式会社の株主が,株式交換等により当該株式会社の株主でなくなった場合であっても,その株式交換等によって,当該株式会社等の完全親会社の株式を取得したときは,当該株主(旧株主)は,元々株式を保有していた株式会社の発起人等その他一定の者に対し,当該株式交換等の効力が生ずる前に発生していた責任を追及する訴えを提起することができることとしています(第847条の2)。」ということになったわけです(坂本183184頁)

「完全親子会社関係がある場合,その親会社株主につき完全子会社の業務執行の適正を図るためのいかなる権利を認めるべきかについては,容易に完全親子会社関係が形成できる組織再編法制(会社分割・株式交換・株式移転)の整備をした以上,当然それに伴う検討をし,手当てをすべき事項であった」にもかかわらず,「その立法の際積み残され」(株式交換及び株式移転は平成11年法律第125号による改正によって,会社分割は平成12年法律第90号による改正で導入)2005(平成17年)の「会社法の立法に際しても,総合的な検討はされなかった」もの(稲葉478頁)と苦言が呈されていたものの後始末です。


4 多重代表訴訟制度と平成9年独禁法改正(持株会社解禁)等


(1)多重代表訴訟制度創設の理由

いわゆる多重代表訴訟制度に戻りましょう。

いわゆる多重代表訴訟制度の創設の理由は,「平成9年の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の改正により持株会社が解禁され,また,平成11年の商法改正により株式交換・株式移転の制度が創設されたことにより,持株会社形態や完全親子会社関係にある企業グループが多数作成されるようにな」ったところ,「株式会社の発起人等が株式会社に対して責任を負っている場合であっても,当該発起人等と当該株式会社の完全親会社の取締役との間の人的関係や仲間意識から,当該完全親会社が当該株式会社の株主として代表訴訟を提起する等して当該発起人等の責任を追及することを懈怠するおそれが類型的かつ構造的に存在」するからだとされています(坂本160頁)

もともとは,平成9年法律第87号による昭和22年法律第54(独禁法)の改正19971217日から施行)が事の始まりのようです。


(2)平成9年独禁法改正と平成9年NTT法改正

実は,平成9年法律第87号による独禁法9条の改正(持株会社の解禁)に向けた動きは,平成9年法律第第98号による日本電信電話株式会社法(昭和59年法律第85号。NTT法)の改正(NTTの再編)につながる作業と並行して進んでいました。なおも20世紀であった村山内閣から橋本内閣にかけての時代の話になります。

時系列的には,まず,1995年3月31日の閣議決定である「規制緩和計画」で当時の持株会社規制を見直すという姿勢が示されています。これを受けて行われた公正取引委員会の「独占禁止法第4章改正問題研究会」の研究に係る199512月の中間報告書では,事業支配力の過度の集中の防止という独禁法1条の目的に反しない範囲で持株会社規制を見直すことが妥当であるということになったとされています。以上は,村山富市内閣時代の話です。

ところで,橋本龍太郎内閣時代になって199612月6日,郵政省が「NTT再編成についての方針」を公表します。そこでは,「日本電信電話株式会社を純粋持株会社の下に,長距離通信会社と二の地域通信会社に再編する」ものとされるとともに,「郵政省は,再編成の実施のために,独占禁止法,商法等の関連法令,及び譲渡益課税,連結納税等の税制上の特例措置について,政府内の調整を進める。」とされていました(下線は筆者)。すなわち,NTTの再編のために,時代遅れとなった独禁法の持株会社禁止規制を打破しようとする流れに掉さす動きがあったわけです。1997年2月25日には当時の与党3党(自由民主党,社会民主党及び新党さきがけ)の「独禁法改正に関する三党合意」で「独占禁止法の目的に反しない範囲で持株会社を解禁する」ものとされ,同年3月11日に持株会社解禁のための独禁法改正法案が国会に提出されました。また,同月14日に,持株会社の下にNTTを再編するためのNTT法改正法案が国会に提出されています。


(3)橋本龍太郎内閣総理大臣とNTT再編問題

橋本龍太郎内閣総理大臣は,1984年に成立したNTT法の法案作成準備作業の出発点となった,1983年9月13日の政府・自由民主党行政改革推進本部常任幹事会に報告された「日本電信電話公社の改革について」11項目(第11項では,「新会社〔NTT〕の在り方については,電気通信技術の発展の動向等を踏まえ,10年以内に見直しを行うものとする。」とされていました。)を若き自由民主党行財政調査会長としてまとめた人物でしたから,13年たった当時も,当然NTT再編問題にも深い関心を有していました。


1996年〕7月31日,当時の橋本龍太郎内閣総理大臣が,通商産業・郵政両事務次官に対し,基盤技術研究促進センターの運営改善を指示した際,郵政事務次官にはNTTの国際通信事業への進出を認める等の規制緩和の断行を求めており(日経1996812〔ママ〕,郵政省とNTTは連絡会議を設けNTTの海外事業の促進について検討を開始していたところであった。そんな折もおり,英国の通信会社であるBT社が米国の通信会社であるMCIコミュニケーションズ社と合併交渉に入ったという報道が同年11月になってもたらされ,「国際通信に進出する会社を純粋民間会社とし,これをグループとしてサポートするという持株会社構想」が浮上したといわれている(NTT社史376)。(『コンメンタールNTT法』(三省堂・2011年)13頁)


 なお,1996年8月1日の朝刊で「橋本首相は31日,郵政省の五十嵐三津雄事務次官に対し,日本電信電話(NTT)の国際通信事業への進出を認めるなど,大胆な規制緩和の断行を求めた。」と報道したのは読売新聞です。日本経済新聞は,「橋本竜太郎首相は31日,首相官邸に堤通産,五十嵐郵政両次官を呼び,情報通信基盤整備で「両省の縦割り対応を直せ」と強く指示した。/首相は通産省の組織を改廃,日本電信電話(NTT)株売却益〔ママ〕を活用して設立した「基盤技術研究センター〔ママ〕」が両省の争いで,縦割り体制で機能していない,などと指摘。「そういう所を直せ」と厳命した。」と報じただけです。基礎的な資料を収集したのか,事実については裏をとったのか,仕事が甘いですね。

 「風が吹けば桶屋がもうかる」式に考えると,


基盤技術研究促進センターの運営問題→ 橋本内閣総理大臣による通産・郵政両事務次官呼び付け→ その際ついでに橋本内閣総理大臣から郵政事務次官へのNTT国際進出促進の指示→ NTT・郵政間におけるNTT国際進出のための検討→ BT・MCI合併問題をきっかけにNTTにおける持株会社利用の着想→ 持株会社制度下でのNTT再編構想→ NTT再編の動きに伴っての独禁法改正・持株会社解禁の早期実現→ 1999年の株式交換・株式移転制度の導入→ 2001年の会社分割制度の導入→ 完全親子会社関係の叢生に伴う会社法に係る諸種の問題の発生→ 今次会社法改正での多重代表訴訟制度等の導入,


ということになりそうです。

 基盤技術研究促進センターの運営問題なるものを橋本内閣総理大臣の耳に入れるきっかけを作った人物の責任は重大ですね。


(4)基盤技術研究促進センターと通商産業省等

 なお,基盤技術研究促進センターについては,「NTT株式に係る配当金の活用策」として「基盤技術研究円滑化法(昭6065)に基づく特別認可法人として基盤技術研究促進センターが198510月から2003年3月まで存在し,産業投資特別会計所属のNTT株式に係る配当金を原資にして基盤技術に関する試験研究に必要な資金の出資及び貸付け等を行っていた。」と紹介しているものがあります(『コンメンタールNTT法』169頁)。「同センターの「解散時の資本金3,1484,425万円から,出資事業により取得した株式の取得に要した費用総額2,8567,015万円とこれを処分したことにより得られた収入総額913,048万余円との差引額である2,7653,966万余円」が「出資がなかったものとして償却」されている(会計検査院「平成19年度決算検査報告」116)。」という記述(『コンメンタールNTT法』169頁)の意味は分かるでしょうか。編集上の事由のゆえか晦渋ですが,要は基盤技術研究促進センターは,営利性を有し,かつ,黒字経営が期待されていた法人であったにもかかわらず(毎年度の損益計算書において利益を生じた場合において,繰り越された損失を埋めてなお残余があるときは,そこから積立金を積み立てた後の残余を出資者に分配できるものとされていました。),その出資事業において,17年半の間で2,7653,966万余円をすってしまったものであるところです。

 基盤技術研究促進センターは,通商産業省及び郵政省の共管であったわけですから,同センター関係の問題は,通商産業省出身の内閣総理大臣秘書官を通じて橋本内閣総理大臣に伝えられたものでしょうか(そういえば,維新の党の江田憲司代表が橋本内閣総理大臣の政務秘書官をしていましたね。)。まさか,1996年7月当時の基盤技術研究促進センターの職員中に,内閣総理大臣秘書官と何やら特別なパイプを持っていた者がいたということは・・・どうでしょうか。確かに,通商産業省,郵政省等からの出向者で構成されていた組織ではあったところです。

 閑話休題。


(後編に続く)


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筆者は,かつて基盤技術研究促進センターの所管官庁である通商産業省で仕事をしたことがありますが,当時の上司や仲間は,今でも懐かしいです。


 


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