2014年09月

1 1999年の児ポ法制定時にさかのぼる

 我が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。「児ポ法」)が,その第2条3項3号においていわゆる三号ポルノを「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義して,当該三号ポルノをも児童ポルノとして規制するに至った理由については,やはり,1999年の第145回国会における児ポ法法案の審議模様にまでさかのぼって調べる必要があるように思いました。以下は当該審議模様に係る議事録を調べた結果のあらましです。無論,先行研究もあるのですが,やはり自分で原典に当たらないままでは,たとい詰まらないことであっても,もっともらしい顔をして語ってはいけないものでしょう。また,これは人によるのでしょうが,抽象化された命題を抽象的に取り扱うよりも,その根の部分における,必ずしもきれいに割り切れてはいない人間的なやり取りを再確認する方が,法学方法論としても興味深く感じられるところです。

(なお,以下の議事録の略称は,参8・○は第145回国会参議院法務委員会会議録第8号(1999427日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,衆10・○は同国会衆議院法務委員会議録第10号(同年511日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,衆11・○は同会議録第11号(同月12日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,及び衆12・○は同会議録第12号(同月14日の同委員会の議事を記録)○頁の意味です。)

 児ポ法成立当初の同法2条3項3号は,次のとおり。

 

 3 この法律において「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

   〔第1号及び第2号省略〕

  三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 

 児ポ法は,議員立法でした。(ちなみに,議事録の登場人物には弁護士議員が多かったです。)

 1999年4月27日の参議院法務委員会において,児ポ法法案の発議者の一人である林芳正参議院議員(法務委員ではない。)が同法案の趣旨説明を行いましたが,その中には次のような部分があります。

 

 平成6年に批准されました児童の権利に関する条約では,児童はあらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から保護されることが定められております。(参81。衆101の清水嘉与子参議院議員説明。また,参88の林議員,参82の円より子委員答弁)

 

 ・・・児童の性的な姿態を描写した写真等であって諸外国において児童ポルノとして取り締まられているものすべてが刑法上のわいせつ図画に該当するものではないのが現状であります。(参81。衆101の清水(嘉)参議院議員説明)

 

 児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号)の第34条の英文は,次のとおりです。

 

  Article 34

States Parties undertake to protect the child from all forms of sexual exploitation and sexual abuse. For these purposes, States Parties shall in particular take all appropriate national, bilateral and multilateral measures to prevent:

  (a) The inducement or coercion of a child to engage in any unlawful sexual activity;

  (b) The exploitative use of children in prostitution or other unlawful sexual practices;

  (c) The exploitative use of children in pornographic performances and materials.

 

  児童の権利に関する条約34(c)は「わいせつな演技及び物」と訳されていますが,ここの「わいせつ」は,実は“pornographic”でしたね。(また,exploitativeという修飾語がついています。)

「わいせつ図画の規制は,性的な秩序,道徳,風俗の維持をその目的としておりまして,児童の権利の擁護に資することを目的とするものではありませんので,わいせつ図画に当たらない児童ポルノもあると考えられます。そこで処罰の対象となる範囲も異なります。」(参82円委員答弁。また,参86の大森礼子議員(法務委員でない。)答弁,衆1227林(芳)参議院議員答弁)ということですから,児童ポルノの方がわいせつ図画よりも範囲が広いようです。かつ,「処罰対象となる行為をより具体的に表現すべく,淫行,わいせつ概念を使用せず,最大限の努力をいたしました。」とされています(参82円委員答弁)。

 

2 「児童を性欲の対象としてとらえる風潮」の矯正

 しかし,児童ポルノに係る行為を処罰の対象とする理由は,必ずしも専ら児童の権利の擁護ばかりではないようです。悪しき風潮の矯正も意図されているようです。

 

 ・・・性交または性交類似行為に係る児童の姿態等を描写したもの,これが児童ポルノでございますが,その児童ポルノを製造,頒布する行為は,その児童ポルノに描写された児童の心身に長期にわたって有害な影響を与え続けます。また,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にこれもまた重要な影響を与えるものと思われます。(参83円委員答弁。また,衆127-8,衆1211,衆1213,衆1216同議員答弁,参85,衆1227林議員答弁,参86,衆125の大森議員答弁)

 

 ただし,刑罰法規の部分については,1999年5月12日の衆議院法務委員会において,「こういう理解でよろしいでしょうか。つまり,刑罰法規の部分については,まさに内心の問題ではなくて,実際の侵害の行動を処罰するものだ。これは間違いない。ただ,そういったことの結果として,刑罰法規とは違った意味の部分のところで,そうした風潮を抑止するという効果もある。それも目的に入っている。ただ,あくまでも刑罰法規は行動についてのものである,こういう理解でよろしいですね。」との「理解」が枝野幸男委員から提示され,これについて発議者(円参議院議員)が「はい,枝野先生の御指摘のとおりでございます。」と答弁しています(衆112)。

いずれにせよ,18歳未満の者に対する性欲自体を望ましからぬものとして法は評価しているということになるようです。

この点に関しては,衆議院の日野市朗法務委員が,同月14日,いわゆる援助交際の児童買春性に関してですが,次のような感想を述べています。

 

  よくわからないのですが,そうすると,性行為そのもの,これは悪なんですかな。いや,金を払えば悪になる,こういうわけでしょう。ただし,児童全体が,18歳以下であれば,当然それは被害者であるという前提に立っているわけですね,この法律は。(衆1218

 

 これに対して,発議者は,児童の未熟性に対するpaternalismないしはmaternalismというより高次の理念に立っていたようでした。また,男性優位的な発想での性欲の誇示は無用のものとされています。

 

  援助交際についてはさまざまな意見があることは承知しております。ただ,いわゆる援助交際について悪とか善とかの発想に立っているわけではなくて,性的な虐待や性的搾取が子供たちの人権侵害になるということを,その子供たち自身も今の世の中でわかっていない部分もあると思います。

  ・・・本当に日本のカップルは性的な話し合いもできなければ,豊かな性的関係を持てない方々が多くて,その中から,自分よりも劣った,おとなしい,何も自己主張をしない子供たちをお金で買うというようなケースが多々ございました。そうした,今回の児童に対する性的搾取や性的虐待,それを対償をもってするという中には,どうも性差別的な発想や,また人種差別的な発想,そして性欲を誇示することが男らしいというような社会通念等まであるような感じもいたします。

  ・・・子供たちの人権というものを考えるときに,性的な人権,自己主張,そういったものがしっかりできるようになるには,ただ体の肉体的な発達があってもできない子供たちも大変多いところから,今回の法案はそうした大人の側こそ範を示すべきであるということもありまして,18歳未満の子供たちに対してはこういった法案をつくったわけでございまして,いわゆる援助交際もその中に,法に関する限りは入るものと考えております。(衆1218の円参議院議員答弁)

 

3 三号ポルノと発議者・大森参議院議員の答弁

 

(1)三号ポルノの概要

 三号ポルノについては,大森参議院議員が発議者として答弁しています。

 

  3号に当たります児童ポルノ,いわゆる三号ポルノという言い方をしますが,これは「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した」「写真,ビデオテープその他の物」をいいます。

  具体的な例としましては,全裸または半裸の児童に扇情的なポーズをとらせた姿態を描写した写真等が考えられ,これが性欲を興奮させまたは刺激する姿態であることが視覚により認識することができるものであれば,児童の性器等が描写されておらず,またはその部分にぼかしが施されているものであったとしてもこの児童ポルノに当たることになります。(参84

 

(2)児童の実在性要件と合成写真問題

なお,児童ポルノであるためには,そこにおける児童は実在しているものでなければならないという要件が更にあって,これについていろいろ議論がありました。顔と身体とが別の児童の合成写真はどうなるのだ,というようなことが質疑者と大森参議院議員との間で問題とされたものです。

合成写真問題に関する松尾邦弘政府委員(法務省刑事局長)の岡目八目的な認識は次のとおり。

 

 ・・・発議者の方〔大森参議院議員〕は,顔はある有名な少女にいたしましょうか,その写真である,下がその少女のものとは違う写真がつけられている,あるいはこれに,写真に非常に酷似した,写真と見まがうような模写でもいいかと思いますが,そういったものであれば,体の方もやはりその児童の姿態というふうに大部分が見られるならば,発議者の方もこれは〔顔写真が使われた実在の児童に係る児童ポルノに〕当たると言っているわけでございます。

 ですから,顔がありまして,下が全く児童の姿態と見られないような,そういうものがくっついているような場合にはそれは難しいかと思いますが,全体として発議者のおっしゃっているのは,下半身についても児童の姿態というふうに見られるのであれば,それは〔下半身の写真が使われた児童に係る児童ポルノに〕当たり得るというふうに先ほどお答えになったように思いますので,木島〔日出夫〕先生のお尋ねと,結論の部分においては,余り差がないものというふうに私は理解しています。(衆1229

 

(3)「衣服の全部又は一部を着けない」要件

衣服の全部又は一部を着けない」というのは,状態をいうものであって行為をいうものではないとされています(衆115の大森参議院議員答弁)。また,前記の大森参議院議員答弁にいう「全裸または半裸」については,「この用語につきましては,今枝野先生がおっしゃったように,いわゆる風営法の第2条第6項第3号「衣服を脱いだ人の姿態」という言葉について,警察庁の解釈基準で「全裸又は半裸等社会通念上」「人が着用しているべき衣服を脱いだ人の姿態をいう。」とされていることもありまして,これを念頭に置いて答弁したものでございます。」と説明されています(衆116の大森参議院議員答弁)。

 

(4)要件としての「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の広汎性

二号及び三号ポルノの「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との規定と刑法のわいせつ物頒布罪等におけるわいせつ概念との関係について,大森議員は端的かつ断乎たる答弁をしています。刑法のわいせつ概念における余計な限定は取り払われています。

 

  いわゆる二号ポルノ,三号ポルノには「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という文言がございます。この文言と刑法上のわいせつとはどう異なるかという御質問ですが,刑法175条のわいせつ物頒布等の罪に書かれてありますわいせつの意義につきましては,最高裁の判例がございまして,いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するものをいうとする判断が出ております。

  これに対しまして,この法案におきましては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされていることから,児童ポルノについては刑法のわいせつに該当しないものも含み得ることになります。もう少し詳しく言いますと,最高裁の判例,昭和26年5月10日,「いたずらに」それから「普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」,これをこちらの法案では要求しておりません。

  これにつきましては,児童ポルノの性質上,まず「いたずらに」については,これは過度にという意味ですけれども,これを要しないとしております。それから,「普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」であるかどうかについて論ずるまでもなく規制すべきである,こういう趣旨であります。(参85。また,衆129

 

「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」であって少しでも性欲を刺激するものでさえあれば,たとい普通人の正常な性的羞恥心を害さず,かつ,善良な性的道義観念に反するものでなくとも,三号ポルノとして取り締まられるのだということのようです。ただし,ここで興奮させられ又は刺激される性欲は誰のものかといえば,「通常,構成要件に規定してありますことは,一般通常人というものを基準としております。」とされてはいるところです(衆116の大森参議院議員答弁)。

 

(5)具体的事例への当てはめ

 

ア 確答回避と捜査機関等への信頼

と一応の説明はされたとはいえ,具体的事例に係る判断に当たっては,発議者の一員たる大森議員もなかなか慎重で,警察及び検察,最終的には裁判所に下駄を預けたような答弁がされています。

 

 まず,一般論としてでありますが,あるものが児童ポルノに当たるか否か,これは個別具体的な事例ごとにこの法案の要件に該当するか否かを総合的に判断することになりますので,こういう一般的な事例について確定的に答えることは困難でありますし,するべきことでもないだろうと思っております。

 今,中村〔敦夫〕委員から御指摘がありました,川辺などで児童が裸で楽しそうに遊んでいる,この場面を聞いたときに,お互い頭の中で想像している場面というのが違うかもしれません。例えば,川辺で2歳か3歳ぐらいの男の子が裸で遊んでいるそばでお母さんが楽しそうに見守っているとか,こういういわゆる和やかな川遊びの場面もあると思いますし,あるいは川辺で,児童といいましても18歳未満を児童といいますから,では17歳の女性だったらどうかとか,こういう問題が起きます。

 それで,どのように判断するかということにつきましてはいわゆる構成要件の問題になるわけですけれども,児童の姿態がどのようなものであるかによって判断されることになります。今おっしゃったのは,少なくとも一号ポルノ以外の事例だと思いますので,その場合には,一般人から見まして「性欲を興奮させ又は刺激する」と言えるかどうかという,この基準によって判断するとしかちょっとお答えのしようがございません。(参89

 

 今,中村委員がおっしゃったことは,確かに芸術的表現の自由との関係の問題だと思います。

 それから,構図等も大事である,こういうお話がございましたけれども,これは2号,3号につきましては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とありますので,確かに構図とか場面とか周囲の状況とか姿態とか,こういうことを総合的に判断して,この要件に該当するかどうかということを判断することになると思います。

 ・・・やはり犯罪ありと思料して捜査する場合には,その構成要件該当性については私どもは警察とか検察庁が十分吟味して慎重に取り扱うものと思っておりまして,本来ポルノに当たらないものを警察及び検察が当たると判断するということは考えていないところでございますが,そこのところで争いがあった場合,最終的にだれがその犯罪構成要件に当たるかどうかを決めるのかというと,最終的判断は裁判所という言い方になると思います。(参89

 

イ としまえん水着の安全性

それでも,水着については,「いわゆる通常の,普通の,としまえんのプールあたりでみんなが着ているような水着」の姿態が児童ポルノには「一般的には当たらない」かどうかが衆議院法務委員会の枝野委員によってなおも追及されています。わざわざ「としまえんのプールあたり」との限定が付いていますから,刺激的ではない,むしろ野暮ったい水着なのでしょう。さすがにこれに対しては,大森参議院議員も次のように答弁せざるを得ませんでした。

 

としまえんのプールの水着ですか。(枝野委員「などで着ているような」と呼ぶ)〔児童ポルノに〕ならないと思います。(衆115

 

ウ 下着,入浴,3歳児

しかし,下着姿や入浴の場面となると難しくなります。

大森参議院議員は,下着姿については「あくまで個別具体的な事例に基づきまして,この法案の要件に該当するか否か総合的に判断されるべきもの」として確答を避けています(衆115)。

入浴の場面については,「子供がおふろに入っている姿を見て通常,一般人は性欲を興奮させ,刺激するというところまで至らないと思いますので,そういうところから〔児童ポルノに〕当たらない場合が多いのではないかというふうにお答えできると思います。」と答弁しています(衆115)。

とはいえ,その少し後に大森参議院議員は,次のように付け足します。

 

 ただ,低年齢,3歳とかとおっしゃったのでしょうか,その裸であれば絶対該当しないかということは必ずしも言えません。性的に未熟な女の子,女児の陰部等を描写したものと認める写真についても刑法上のわいせつ図画に当たるとした判例がございます。

 そういったことから,常に否定されるわけではないと考えます・・・(衆116

 

一般通常人の性欲といえども,なかなか油断はできないようです。(児童ポルノの場合は,わいせつ物の場合とは異なって,性欲の興奮又は刺激が過度にまで及ぶ必要はありません。)

 

エ 男子児童ポルノ

この一般通常人には当然女性も含まれるので,女性の性欲を興奮させ又は刺激する男子児童の児童ポルノの存在も,大森参議院議員は否定しません。

 

・・・ジャニーズJrのようなアイドルの男の子の姿態についてはどうかということですが,これも,同じ答弁になりますが,その姿態が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であるかどうかというこの判断基準によることになります。ある程度セクシーとかそれを売り物にする場合もあるかもしれませんし,それによってファンの子が多少性的興奮といいますか,することは否定できないかもしれません。(衆115

 

オ 「芸術性」との関係

芸術作品については,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であっても芸術作品であれば児童ポルノには当たらないという考え方は採用されず,飽くまでも児ポ法2条3項の要件(「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否か)に該当するか否か一本で決すべきものという考え方が示されています(衆115,衆1111-12,衆1210,衆1222の大森参議院議員答弁)。

 

4 余話

 

 当ブログの悪癖ですが,話が飛びます。

 

(1)2014年の日弁連公告

 日本弁護士連合会の『自由と正義』2014年3月号に,岡山弁護士会が同弁護士会の○弁護士にした懲戒処分について,次のような公告が出ていました(122頁)。

 

1処分を受けた弁護士

   〔略〕

2 処分の内容 戒 告

3 処分の理由の要旨

   被懲戒者〔○弁護士〕は,Aから破産手続開始申立事件を受任し,2006年7月6日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。また,被懲戒者は,Bから破産手続開始申立事件を受任し,同月25日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。さらに,被懲戒者は,Cから破産手続開始申立事件を受任し,2007年5月1日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。

   被懲戒者は,上記各事件の処理を事務員に担当させ,201211月に上記事務員の任務懈怠が判明するまでその処理状況の確認を怠った。その結果,被懲戒者は,Cの事件につき2013年2月13日まで破産手続開始申立てを行わず,Bの事件につき同月27日まで破産手続開始申立てを行わず,Aの事件についてはAとの連絡が困難となって,同年3月8日に辞任した。

   被懲戒者の上記行為は,弁護士職務基本規程第19条及び第35条に違反し,弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

4 処分が効力を生じた年月日

    20131224

 

 2006年7月ころ及び2007年5月ころ受任した破産手続開始申立事件計3件について,○弁護士は債権者に受任通知を出しっぱなしにして後は事務員任せにし,事務員は事務員で横着をして事件を放置し,201211月に発覚(恐らく「懲戒請求者」の債権者が業を煮やしたのでしょうか。)するまで約6年4月ないしは5年6月の長期間,事件処理を怠っていたという気の長い話でした。

 この弁護士の○先生は,いろいろお疲れだったのでしょう。

 なお,弁護士職務基本規程19条及び35条は,次のとおり。

 

   (事務職員等の指導監督)

 第19条 弁護士は,事務職員,司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が,その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に及び,又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし,若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければならない。

 

   (事件の処理)

 第35条 弁護士は,事件を受任したときは,速やかに着手し,遅滞なく処理しなければならない。

 

(2)クレサラ問題における弁護士等の受任通知書の効能:取立て停止

ところで,弁護士のする受任通知の効果としては,貸金業法21条1項に次のような規定があります。

 

   (取立て行為の規制)

 第21条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は,貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて,人を威迫し,又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。

     〔第1号から第8号まで略〕

  九 債務者等〔債務者又は保証人〕が,貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し,・・・弁護士等・・・から書面によりその旨の通知があつた場合において,正当な理由がないのに,債務者等に対し,電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は訪問する方法により,当該債務を弁済することを要求し,これに対し債務者等から直接要求しないように求められたにもかかわらず,更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。

  十 債務者等に対し,前各号(第6号を除く。)のいずれかに掲げる言動をすることを告げること。

 

同法47条の3第1項3号により,同法21条1項の規定に違反した者は,2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され,又はこれを併科されるものとされています。

債務者が弁護士等に債務処理を委託して,当該弁護士等が貸金業を営む者に受任通知書を送付すると,通知を受けた業者からの取立てが止まるわけです。いわゆるクレサラ問題における弁護士等の効能の大きな一つがここにあります。

 

 

弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所(過払金返還請求問題等も御相談ください。) www.taishi-wakaba.jp

東京都渋谷区代々木一丁目57番2号ドルミ代々木1203(新宿駅南口からも近いです。)

電話:0368683194

電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 我が国において児童ポルノとされるものの範囲は,我が国より先に児童ポルノの単純所持を処罰することとしていたいわゆる主要国のそれよりも広い,ともいわれています。インターネット上で読めるものとしては,例えば,2013年2月11日の髙山佳奈子教授による「京都府児童ポルノの規制等に関する条例」に係る「論点解説」に,次のようにあります。

 

日本の児童買春・児童ポルノ処罰法は児童ポルノの定義中に「〔衣服の全部又は〕一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」〔平成26年法律第79号による改正前の三号ポルノ〕を含めており,これはかなり広い定義だといえる。諸外国の所持規制は,やはりそれ自体として児童虐待を構成するような行為に限定されている。児童の裸の写真を見たり所持したりしているだけで処罰されるわけではない。

 

なるほど。少なくとも,三号ポルノの分は,我が国が他国に先んじているわけですね。それでは少し具体的に,児童ポルノの定義について,比較法的に眺めてみましょう。

 これまたインターネット上で読むことができる財団法人社会安全研究財団が出した「G8諸国における児童ポルノ対策に関する調査」の「報告書」(2013年3月。調査実施・編集は,株式会社三菱総合研究所の海外事業センター情報通信政策研究本部)において,米国(連邦),英国,フランス,ドイツ,イタリア及びカナダにおける児童ポルノの定義規定が紹介されていましたので,当該報告書等を参考に,英和辞典や仏和辞典や独和辞典を引いてみました。

 

1 米国

米国連邦法典第182256条(社安研2頁参照)

(8)「児童ポルノ」(child pornography)とは,電子的,機械的又はその他の方法により作成され,又は制作された,写真,フィルム,ビデオ,絵画(picture)又はコンピュータの若しくはコンピュータ処理された画像(image)若しくは絵画を含む,次のいずれかに該当する性的に露骨な行為(sexually explicit conduct)の視覚的描写(any visual depiction)をいう。

A)そのような視覚的描写の制作が,性的に露骨な行為に従事している(engaging in)未成年者の利用を伴うもの

B)そのような視覚的描写が,デジタル画像,コンピュータ画像又はコンピュータ処理された画像であって,性的に露骨な行為に従事している未成年者のものであるか,又はそれと見分けがつかない形態であるもの

C)そのような視覚的描写が,身元を特定し得る未成年者が性的に露骨な行為に従事しているように見えるように創作され(created),翻案され(adapted)又は修正され(modified)ているもの

 

 ここでの定義の中心となる鍵概念は,「性的に露骨な行為」(sexually explicit conduct)です。

「未成年者とは同法第2256条(1)において,「18歳未満の者」と定義されている。また,「性的に露骨な行為」ということについては,基本的にあらゆる形態の性行為,又は性器あるいは陰部のみだらな(lascivious)露出を指すとされている。性的な行為に従事している必要はなく,裸体であっても性的に十分挑発的であれば,違法な児童ポルノに該当しうる。」とされています(社安研2頁)。

 しかし,「性的な行為に従事している必要はなく,裸体であっても性的に十分挑発的であれば,違法な児童ポルノに該当しうる。」といわれてしまうと,米国連邦法における「児童ポルノ」の定義の要素である「性的に露骨な行為」の限界がはっきりしなくなるようにも思われて心配になります。当該部分は,米国連邦司法省のウェッブ・サイトにある次の一説を訳して記載したもののようです。

 

 Notably the legal definition of sexually explicit conduct does not require that an image depict a child engaging in sexual activity. A picture of a naked child may constitute illegal child pornography if it is sufficiently sexually suggestive.

 

 こうなると,「性的に露骨な行為」の定義に直接当たってみるしかないのですが,結論としては,性的な行為(sexual activity)以外のものについては,「性器あるいは陰部のみだらな露出」以外のものは「性的に十分挑発的」ではあり得ないもののようです。

 米国連邦法典第182256条2項における「性的に露骨な行為」の定義は,次のとおりです。

 

 (2)

  (A) Except as provided in subparagraph (B), “sexually explicit conduct” means actual or simulated ---

    (i) sexual intercourse, including genital-genital, oral-genital, anal-genital, or oral-anal, whether between persons of the same or opposite sex;

    (ii) bestiality;

    (iii) masturbation;

    (iv) sadistic or masochistic abuse; or

    (v) lascivious exhibition of the genitals or public area of any person;

  (B) For purposes of subsection 8(B) of this section, “sexually explicit conduct” means ---

    (i) graphic sexual intercourse, including genital-genital, oral-genital, anal-genital, or oral-anal, whether between persons of the same or opposite sex, or lascivious simulated sexual intercourse where the genitals, breast, or public area of any person is exhibited;

    (ii) graphic or lascivious simulated;

(I) bestiality;

(II) masturbation; or

(III) sadistic or masochistic abuse; or

     (iii) graphic or simulated lascivious exhibition of the genitals or public area of any person;

 

 ちょっと,日本語訳を付することは,正に性的に露骨な表現であって,はばかられるところです。当該部分の訳文については,これもインターネット上で読むことのできる間柴泰治「日米英における児童ポルノの定義規定」『調査と研究』681号(201068日)4頁を御覧ください。

 なお,「性的に露骨な行為」の描写における“graphic”の意味は,“a viewer can observe any part of the genitals or public area of any depicted person or animal during any part of the time that the sexually explicit conduct is being depicted”ということで(米国連邦法典第18225610項),性器又は陰部が見えることということのようです。

 しかし確かに,「性器あるいは陰部のみだらな露出」に比べて,我が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。「児ポ法」)2条3項3号のいわゆる三号ポルノに係る「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」との定義は,より広いもののようです。「性器あるいは陰部」のみならず,「臀部又は胸部」までもが含まれ,しかも,「露出」までを必要とせず,「強調」でよいとするのですから。

 なお,20031222日の欧州委員会枠組み決定(Council Framework Decision2004/68/JHA「児童の性的搾取及び児童ポルノに対する戦いについて」(on combating the sexual exploitation of children and child pornography)の第1条の(b)においては,「「児童ポルノ」とは,ポルノグラフィックな物件(pornographic material)であって,次のものを視覚的に描写し,又は表現(visually depicts or represents)するもの」とされ,その(i)では「性的に露骨な行為(児童の性器又は陰部のみだらな露出を含む。)に関与し,又はそれを行う実在の児童」が対象として挙げられています。

 

(i) a real child involved or engaged in sexually explicit conduct, including lascivious exhibition of the genitals or the public area of a child;

 

 ここでいう「性的に露骨な行為」も,米国連邦法典第182256条2項における「性的に露骨な行為」に似たものであるように思われます。

 

2 英国

英国2009年検死官及び刑事司法改革法62条(社安研15-16頁参照)

(1)禁止された児童(child)の画像(image)を所持することは犯罪である。

(2)禁止された画像とは,次のような画像である。

(a)ポルノグラフィックなもの(is pornographic

(b)第(6)項に該当するもの,及び

(c)わいせつな性格のものであって,過度に不快で,嫌悪を催す等のもの(is grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character

(3)性的興奮(sexual arousal)の目的のためだけに,又は主に(principally)そのために制作されたと合理的に推定されるべき性質である場合には,画像は「ポルノグラフィック」である。

(4)(個人の所持において発見された)画像が一連の画像の一部を形成している場合,第(3)項で言及した性質の画像であるかどうかは,次の事項を考慮して決定される。

(a)画像自体,及び

(b)(一連の画像が,画像の文脈をもたらすことができる場合)一連の画像中で当該画像が現れる文脈

(5)したがって,例えば,

(a)画像が一連の画像により構成される物語の不可欠の一部を形成し,及び

(b)当該一連の画像全体について,性的興奮の目的のためだけに,又は主にそのために制作されたと合理的に推定されるべき性質のものではない場合,

画像は,当該物語の一部であることにより,それ自体を取り出した場合にはポルノグラフィックであると認められ得るとしても,ポルノグラフィックではないものと認められ得る。

(6)画像は,次の場合,本項に該当する。

   (a)児童の性器又は肛門部(genitals or anal region)にのみ,又は専らそれらに注目する画像である場合,又は

   (b)第7項に掲げられた行為のいずれかを描いている場合

〔第(7)項及び第(8)項略。児童の関与する性交及び性交類似行為の類を具体的に規定。ちょっと書くのに抵抗がありました。〕

 

 「児童」は,2003年法によって16歳未満から18歳未満に引き上げられたそうです(社安研16頁)。

 さらに,英国では,1988年刑事司法法160条1項において,「児童のいかがわしい(indecent)写真(photograph)又は擬似写真を所持する者は,罪を犯したものとする。ただし,第160A〔児童が16歳以上である場合の配偶者等に係る免責規定〕の適用を妨げない。」と規定されています(間柴8頁。なお,社安研87頁参照)。

「いかがわしい」は漠然としていて厄介です。「たとえ性行為を伴わない描写でも,「いかがわしい」とされることがある。例えば,性器等が露出していないものの,上半身は大き目のブラウスと一連のビーズを,下半身は下着のみを着けた,胸を誇示するような14歳の女児の写真,また,裸体主義者のみが集まる水泳プールで撮影された,性欲を喚起するようなポーズを取っていない7歳の男児の裸体の写真が,いずれも「いかがわしい」とされている。」と報告されています(間柴9頁)。

 英国法における定義には,我が三号ポルノの定義と同様の悩ましさがあるようです。

 

3 フランス

フランス刑法227条の23(社安研26頁参照)

頒布(diffusion)を目的として,未成年者(mineur)のポルノグラフィックな性質をもった画像又は表現物(l’image ou la representation)を定着(fixer),録画(enregistrer)又は伝達(transmettre)する行為には,5年の禁錮及び75,000ユーロの罰金が科される。画像又は表現物が15歳以下の者に係る場合は,当該画像又は表現物の頒布を目的としてされなかったときであっても,当該行為は処罰される。

同様の画像又は表現物を,いかなる方法であれ,提供し,利用可能にし,若しくは頒布し,輸入若しくは輸出し,又は輸入させ,若しくは輸出させる行為にも,同様の刑が科される。

未成年者の画像又は表現物を,不特定の公衆に向けて頒布するために,電子コミュニケーション網を使用した場合,7年の禁錮及び100,000ユーロの罰金が科される。

同様の映像又は表現物を利用可能にする公衆向け通信サービスを常習的に(habituellement)又は有償で利用し(consulter),いかなる方法であれ,同様の画像又は表現物を取得(acquérir)又は所持(détenir)する行為には,2年の禁錮及び30,000ユーロの罰金が科される。

本条に規定する違法行為が,組織的に行われた場合,10年の禁錮及び500,000ユーロの罰金が科される。

本条に規定する罪の未遂には,同様の刑が科される。

本条の規定は,外観(aspect physique)が未成年者のものである者のポルノグラフィックな画像にも同様に適用される。ただし,その者が,画像を定着又は録画した日に18歳である場合には適用されない。

 

 「児童ポルノの被写体となる年齢は18歳未満,若しくは18歳未満に見えるものが対象である。そして,当初は実在の児童を対象にしていたが,法改正によって未成年者を表現するあらゆる表現物に対象が拡大されており,架空の未成年を表現した絵や画像等も含まれるとされている。」とのことです(社安研26頁)。

 前記20031222日の欧州委員会枠組み決定のフランス語版においては,「児童ポルノ」にpédopornographieとの語が用いられていましたが,フランス刑法227条の23では当該語は用いられていません。

 

4 ドイツ

ドイツ刑法184b及び184c(社安研37頁から引用)

184b

子供による性行為,子供に対する性行為若しくは子供の目前での性行為を目的とするポルノ文書〔は児童ポルノ〕

184c

14歳から18歳までの者による性行為,このような者に対する性行為若しくはこのような者の目前での性行為を目的とするポルノ文書〔は青少年ポルノ〕

 

 ドイツ語では,児童ポルノは,pornographische Schriften, die sexuelle Handlungen von, an oder vor Kindern zum Gegenstand haben (kinderpornographische Schriften)ということになり,青少年ポルノは,pornographische Schriften, die sexuelle Handlungen von, an oder vor Personen von vierzehn bis achtzehn Jahren zum Gegenstand haben (jugendpornographische Schriften)ということになります。

 「ドイツでもアニメーションやマンガ等は児童ポルノの対象に含まれている。またヒアリングによれば,ドイツの法律では表現行為全般が対象になっているため,小説等の文章表現も対象になるとのことである」そうです(社安研37頁)。

 とはいえ,sexuelle Handlungen(性(的)行為)が児童ポルノ性を認定するための要素になっているという形で,児童ポルノの範囲は限界付けられているということでしょう。

 

5 イタリア

イタリア刑法600条の3(社安研44頁から引用)

(前略)

本条において未成年ポルノとは,媒体を問わず,現実の若しくは疑似のあからさまな性的な行為を行う18才未満の者のあらゆる表現,又は性的な目的のための18才未満の者の性的な部位のあらゆる表現を指す。

 

 「イタリアでは2012年8月に法改正があり,児童ポルノの定義として以上の文章が追記されている。これが追加されたことによって,アニメーションやマンガ,文章等の表現についても児童ポルノの対象となることとなった。また,対象が実在の児童ではなく,児童に見える者であっても,対象になる。」とのことです(社安研44頁)。

 

6 カナダ

カナダ刑法163.1条1項(社安研53頁参照)

(1)本条において,「児童ポルノ」とは次のものを意味する。

(a)電子的若しくは機械的手段のいずれによって制作され,されなかったかにかかわらず,写真,フィルム,ビデオ若しくはその他の視覚的表現であって,

(i)18歳未満であるか,若しくは18歳未満として描かれた者であって,あからさまな性的行為を行い(engaged in explicit sexual activity),若しくは行っているものとして描かれる者を見せるもの,若しくは

(ii)その主たる性格が,18歳未満の者の性器若しくは肛門部(a sexual organ or the anal region)の性的目的による描写であるもの 

(b)本法に基づく犯罪となる18歳未満の者との性的行為を唱導し,若しくは助言する(advocates or counsels)文書,視覚的表現若しくは音声記録

(c)その主たる性格が,本法に基づく犯罪となる 18歳未満の者との性的行為の性的目的による描写である文書,又は

(d)その主たる性格が,本法に基づく犯罪となる18歳未満の者との性的行為の性的目的による描写,提示若しくは表現である音声記録

 

 「この法律では,「写真,フィルム,ビデオ,又はその他の視覚的表現」が対象とされている。カナダ警察によると,アニメーションやCGであっても,この表現にあたるものであれば,児童ポルノの対象となるとされる。/また,同様に「18歳未満として描かれた者」が対象となっているため,実際には18歳を超えている場合にも,表現方法によっては児童ポルノの対象となり得る。・・・18歳未満に扮している20歳の女性であるという認識での所有は,児童ポルノの所有に当たることになる。」とされています(社安研53頁)。

 

7 平成19G8司法・内務大臣会議(ミュンヘン会議)閣僚宣言

 我が法務省のウェッブ・サイトに,「児童ポルノとの国際的闘いの強化に関するG8司法・内務閣僚宣言」(2007524日)が掲載されています。当該宣言中,児童ポルノの定義に関する部分は次のとおり。

 

 ・・・我々は,以下の事項を確保することにより,これらの国際文書によって確立された手段を国内法的実施に移す我々のコミットメントを改めて確認する。

 

 1 児童ポルノを,「現実の若しくは擬似のあからさまな性的行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない)」又は「主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現」と明確に定義すること。

 ・・・

 

 We re-affirm our commitment to implement into domestic legislation the measures established through these international instruments, ensuring that our domestic legislation:

 

1. Clearly defines child pornography as any representation, by whatever means, of a child engaged in real or simulated explicit sexual activities or any representation of the sexual parts of a child for primarily sexual purposes;

  ….

 

 前記イタリア刑法600条の3の規定は,上記宣言を承けたもののようですね。

 再掲すると,我が児ポ法2条3項3号の三号ポルノの定義は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」となっていますが,当該定義と前記閣僚宣言における児童ポルノの定義との関係はどうなるでしょうか。

児ポ法2条3項3号の「性的な部位」(=性器,肛門及び乳首並びにその周辺部,臀部並びに胸部)と閣僚宣言にいう「性的な部位(sexual parts)」とでは範囲が異なるでしょう。Sexual partsは,性器及び陰部(genitals and public area. 米国・欧州委員会の事例参照)又は性器及び肛門部(genitals (sexual organ) and anal region. 英国・カナダの事例参照)に限定されているものと解すべきではないでしょうか。Sexual parts sexy partsとは異なります。

  また,「あからさまな性的行為(explicit sexual activities)」は飽くまでも行為であって,児ポ法2条3項3号が対象とする「姿態」は,いくら性欲を興奮させ又は刺激するものであっても,通常やはりそれだけではあからさまな性的行為とはいえないでしょう。

 

 

弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所 www.taishi-wakaba.jp

東京都渋谷区代々木一丁目57番2号ドルミ代々木1203(新宿駅南口からも近いです。)

電話:0368683194

電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ