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(起)「1年以上延滞」と「1年分以上延滞」との間

http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258052.html

 

3 旧民法財産編3941

 

(1)法文

 民法405条は,「〔旧民法〕財産編第394条を修正致したものであります」とされています(第56回法典調査会における穂積陳重説明。民法議事速記録17232丁裏)。旧民法財産編394条は,次のとおりです。

 

  第394条 要求スルヲ得ヘキ元本ノ利息ハ填補タルト遅延タルトヲ問ハス其1个年分ノ延滞セル毎ニ特別ニ合意シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル為メ元本ニ組入ルルコトヲ得ス

   然レトモ建物又ハ土地ノ貸賃,無期又ハ終身ノ年金権ノ年金,返還ヲ受ク可キ果実又ハ産出物ノ如キ満期ト為リタル入額ハ1个年未満ノ延滞タルトキト雖モ請求又ハ合意ノ時ヨリ其利息ヲ生スルコトヲ得

   債務者ノ免責ノ為メ第三者ノ払ヒタル元本ノ利息ニ付テモ亦同シ

 

 フランス語文は,次のとおり。

 

394  Les intérêts, tant compensatoires que moratoires, des capitaux exigibles, ne peuvent être capitalisés, pour porter eux-mêmes intérêts, qu’en vertu et à partir d’une convention spéciale ou d’une demande en justice faites seulement après une année échue, et ainsi d’année en année.〔なお,山田顕義委員長(司法大臣)に率いられた法律取調委員会が審議の対象としたボワソナアドの原案は,“Les intérêts des capitaux exigibles, tant compensatoires que moratoires, ne peuvent être capitalisés, pour porter eux-mêmes intérêts, qu’en vertu et à partir d’une convention spéciale ou d’une demande en justice faites seulement après une année échue et ainsi d’année en année.”であって(Boissonade, Projet du Code Civil pour l’Empire du Japon, accompagné d’un commentaire, t.2, 2ème éd., Tokio, 1883; pp.313-314),一部の語順及びカンマの有無の違いを除いて同文です。〕

Mais les revenus échus, tels que le prix des baux à loyer ou à ferme, les arrérages des rentes perpétuelles ou viagères, les restitutions à faire de fruits ou produits, peuvent porter intérêts à partir d’une demande ou d’une convention, lors même qu’ils seraient dus pour moins d’une année.

Il en est de même des intérêts de capitaux payés par un tier en l’acquit du débiteur.

 

 現行民法405条に対応するのは,旧民法財産編3941項ということになります。(旧民法財産編3942項は「土地建物の貸賃とか云ふやうなものは直接に利息とは云へぬ。無期又は終身の年金権の年金は,或場合に於ては利息でありませうが,又其利息でない場合もある。返還を受く可き果実又は産出物,こんなものは利息ではありませぬから例外として掲(ママ)なくても宜しい。ということで削られ,同条3項は「債務者の免責の為め第三者の払ひたる元本の利息,是は成程始めから見れば利息でありまするが,払つたものから見れば払(ママ)た金高が元本になりますから例外とはならない。」ということで削られています(民法議事速記録第17234丁表(穂積))。)

 

(2)解義

 しかし,旧民法財産編3941項もなかなか難しい。

 

ア 「要求スルヲ得ヘキ元本」:流動資本と固定資本との区別等

まず,旧民法財産編3941項にいう「要求スルヲ得ヘキ元本」とは何ぞやといえば,“les capitaux exigibles”ということですので,“exigible”を「支払期限の来た」の意味に解せば,同項で問題となっている利息(intérêts)は,実は,支払期限の経過した元本に係る遅延損害金のことであるのだなということになってしまいます(民法4121項)。確かに,旧民法財産編394条は,「人権及ヒ義務」(これは,「債権及び債務」の意味です。)の部における「義務ノ効力」の章中「損害賠償ノ訴権」の節における一箇条です。(ちなみに,「遅延利息債務も,一般の遅延賠償債務と同じく〔略〕,催告によって遅滞となり,その時から,それについての遅延利息を支払う〔のではなく〕,第405条を適用して,元本に組み入れることができるだけ」とされていますが(我妻139),旧民法以来の沿革からしてもそうなるということでしょう。ただし,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできないものとされています(最判令和4118日)。)

 しかし,旧民法財産編3941項の“exigible”は,特別の意味で使われているのでした。ボワソナアドの解説にいわく,「法文は,ここではexigibleの語を,フランス民法がところどころで(第529条及び第584条参照)それを用いている意味で用いている。すなわち,支払期限(l’échéance)が到来していて元本の請求がされ(être demandé)得るもの,ということをいわんとするものではない。むしろ,「債権者が支払を受けることを自ら禁じている」ものである年金権の元本(第1909条)とは異なるものであって,今後のある期日等において支払期限が到来するものである,ということをいわんとするものである。」と(Boissonade (1883), p.342 (i))。年金権については旧民法財産編3942項において規定されていますところ,“exigible”の語は,同条1項の元本と同条2項に係る「元本」との違いを表現するために用いられたもののようです。利息を生ずべき「元本債権は,特定物の返還を目的とするもの(固定資本)ではなく,同一種類の物を返還させるもの(流動資本)でなければならない」のです(我妻42)。(なお,ボワソナアドは1891年のProjet du Code Civil pour l’Empire du Japon, accompagné d’un commentaire, t.2, nouvelle éd, Tokio, 1891においては,従来の“capitaux exigibles”“capitaux dus, même exigibles”に改めるべきものとしています(p.350)。フランス語のdûは,支払を要するものであっても,履行期にまで至っている(exigible)必要は必ずしもないもののようです。)

 

イ 「損害賠償ノ訴権」の節にある理由:「債権の目的」の節の未存在

 遅延損害金に限られないものとしての,利息に係る重利に関する規定が「損害賠償ノ訴権」の節に設けられていることの問題性は残ります。しかしこれは,単に,母法であるフランス民法においても,我が旧民法財産編394条に対応するその旧1154条(後記4参照)及び旧1155条が「債権の効力について(De l’effet des obligations)」の節中「債務不履行により生ずる損害賠償について(Des dommages et intérêts résultant de l’inexécution de l’obligation)」の款に規定されていたことによるものでしょう。

我が現行民法第3編第1章第2節たる「債権の効力」の節には「債務不履行の責任等」,「債権者代位権」及び「詐害行為取消権」の3款しかないところ,405条は,フランス民法流にこれらの款のどこか(「債務不履行の責任等」の款でしょう。)に押し込まれてしまうよりは,同章第1節たる「債権の目的」の節にある方が,確かに落ち着くようです。しかして,「債権の目的」の節を設けることは,我が現行民法における発明であったところです。

1895111日の法典調査会(第55回)において穂積陳重は,「前に一旦議定になりました目録には債権の効力丈けが挙げてあつたので御座います(ママ)本案に於きましては,どうも効力丈けでは債権に通(ママ)ます規則を挙(ママ)るのに狭ま過ぎてどうも不都合なることを認めました。夫故更に其目を増して債権の目的を其前に加へましたので御座います。」と紹介しています(民法議事速記録第17110丁裏)。続けてその「債権の目的」の節についていわく,「是は前に申しました通り新たに挿入しました(ママ)であります(ママ)既成法典には此債権の目的に関する(ママ)は格別なかつたのでありますが,其目的に関しまする規定は,多くは弁済の部に這入つて居つたの(ママ)あります。併ながら,債権の目的と云ふものは,弁済に関する規則(ママ)はありませぬで,初め債権の成立ちます時より一部分を為して居つたもので,初めより存して居るものでありますから,夫故に,債権自身の目的として初めより存するものに関する規定は此所に掲(ママ)た方が宜いと思ふ。又,既成法典には合意の効力の中に其目的に関する規定が掲げてありますこともありますが,是れは合意丈けに関しませずして,孰れの債権の目的に関することも矢張り此処に挙(ママ)ましたの(ママ)あります。諸外国の例に依りましても,契約の部分には,少なくとも債権の目的と云ふものをば別々の条に置いて居ります。而て其契約の目的と云ふ中にあります規定は,外の債権の目的の中にも通じます所が随分多くあるので,夫故に此処は債権の総則を置きました以上は,初めより債権の目的を為します実体を一つの(ママ)として置いたので御座います。」と(民法議事速記録第17111丁裏-112丁表)。第56回会合においても,法定利率に係る現行民法404条を「債権の目的」ではなく「債権の効力」の節に置いたらどうかという土方寧の意見に対して,穂積は駄目押し的に「場所は,是は何うしても目的物の所でなければ往かぬと考へます。債権の効力の方に規定すれば,書き方を替えて,如何なる場合に於いては此金銭債務の目的物に付き5分の利率を以て払ふことを要す,斯う云ふ工合に書けば効力の所に入れられぬこともありませぬ。併し,此処では然う云ふ利が生ずべき債権の目的になるのでありますから,夫故に此場所を撰んだのであります。」と述べています(民法議事速記録第17231丁表裏)。確かに,ある債権にはその効力として利息が生ずるものであるところですが,他方,遅延損害金はともかくも,目的のいかんを問わず全ての債権の効力として利息が生ずるわけではありません。

現行民法404条に対応する規定は,旧民法においては――財産編ですらなく――その財産取得編1862項に,「消費貸借」の節の一部として「借主ヨリ利息ヲ弁済ス可キノ合意アリテ其額ノ定ナキトキハ其割合ハ法律上ノ利息ニ従フ」と規定されていたものです(また,当該規定は,同編190条により「〔前略〕金銭又ハ定量物ノ義務及ヒ合意上,法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス」るものとされていました。なお,法定利息の利率を定める規定は実は旧民法中にはなく,旧利息制限法(明治10年太政官布告第66号)3条が「法律上ノ利息トハ人民相互ノ契約ヲ以テ利息ノ高ヲ定メサルトキ(トキ)裁判所ヨリ言渡ス所ノ者ニシテ元金ノ多少ニ拘ラス100分ノ6六分トス」と規定していました。同条において更に精確を期すれば「1ヶ年ニ付」との文言があるべきだったのですが,これは先行の同法2条に当該文言があるので省略されたものでしょう。ちなみに,旧利息制限法3条は,「明治10年第66号布告利息制限法第3条ハ之ヲ削除ス」と規定する民法施行法(明治31年法律第11号)52条によって削除されています(更に旧利息制限法は,現行利息制限法(昭和29年法律第100号)附則2項によって,同法施行の1954615日(同法附則1項)から廃止されています。)。)。金銭債権に関する現行民法402条及び403条の規定も「債権の目的」の節にありますが,当該両条に対応する旧民法財産編463条から466条までの規定は,「弁済」の節にありました。

 

ウ 填補の利息と遅延の利息と

「利息ハ填補タルト遅延タルトヲ問ハス」といわれれば,填補の(compensatoire)利息と遅延の(moratoire)利息とがあることになりますが,両者はそれぞれいかなるものか。そこでボワソナアドを尋ねれば,填補の利息は「貸し付けられた金銭に係る受益に対応するもの(représentant la jouissance d’argent prêté)」であり(Boissonade (1883), p.339; aussi, p.340),遅延の利息は「支払の遅れに対する補償(indemnité de son retard à payer)」ということのようです(Boissonade (1883), p.340)。利息が元本に組み入れられた後にそこから新たに生ずる利息(利息の利息)については組入れの事由によって填補の利息か遅延の利息かが分かれ,組入れが合意によるものならば「その場合一種の貸付けがされるのであるから」填補の利息であり,組入れが裁判によるものであれば遅延の利息である,とされています(Boissonade (1883), pp.341-342)。1888222日の法律取調委員会において鶴田皓委員が,填補のものとは「遅延ノ反対ヲ云フノデシヨ(ママ)ウ」と発言していますが(日本学術振興会『法律取調委員会民法草案財産編人権ノ部議事筆記自第29回至第34562丁裏),これは,おとぼけでしょう。

 いずれにせよ,旧民法財産編3941項は利息一般に関するものであって,同条についてボワソナアドは,「さてこれが,法によって債務者に与えられた,時の迅速及び利息の累進的蓄によって彼に対してもたらされる不意打ちに対する最終的防禦である。」と高唱しています(Boissonade (1883), p.339)。

 

エ 重利の制限

旧民法財産編394条が債務者のための最終的防禦(une dernière protection)といわれるのは,旧利息制限法には,最高利率に係る規制(同法2条:元金100以下(ママ)は年20パーセント以下,元金100円以上1000以下(ママ)は年15パーセント以下及び元金1000円以上は年12パーセント以下(大正8年法律第59号による改正前))はあっても(旧民法財産取得編187条の「法律ヲ以テ特ニ定メタル合意上ノ利息ノ制限」(同条1項)ないしは「法律ノ制限」(同条2項)です。),重利に関する規定はなかったからでしょう。

 (なお,旧利息制限法2条によって元本1000円以上の場合の上限とされた年12パーセントの利率は,ボワソナアドのいう古代ローマにおける通常の最高利率である月1パーセント(centesima usura)と同率ということになります(cf. Boissonade (1883), p.339)。すなわち,利率について「十二表法は利率の最高を月(新説)12分の1とする。〔略〕前346年以来は年2分の1となる。〔略〕共和政末より県に於て最高月100分の1usurae centesimae)とする規定現れ,ローマ帝政の通則となる。」とされていますところの(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)156頁),「ローマ帝政の通則」です。)

 旧民法財産編394条の目的は,ボワソナアドによれば,「anatocisme〔重利〕又は利息の組入れと呼ばれるところの利息自体による利息の産出を禁止するのではなく,制限し,妨げること」です(Boissonade (1883), p.340)。また,利息から債務者を守るに当たっては――母法であるフランス民法旧1154条及び旧1155条並びにイタリア民法を見ると――立法者は「常に彼〔債務者〕に対する警告の機会を増やすこと」に拠っていたものとされています(ibid.)。しかして,「利息ハ〔略〕其1个年分ノ延滞セル毎ニ特別ニ合意シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル為メ元本ニ組入ルルコトヲ得ス」との規定は,重利の制限においてどのように働くものか。

 ボワソナアドによれば,制限は3重です。

 

   ここに本案が提示する第1の制限は,前記の諸法典〔フランス民法及びイタリア民法〕と同様,組入れは1箇年ごと(d’année en année)にしか行われ得ないということである。

   第2に,それ〔組入れ〕は,当事者間の特別の合意又は債権者による裁判上の請求の効果としてしか生じ得ないということである。すなわち,一度の催告では十分ではないのである。

   第3に,当該合意は,請求と同様に,利息に係る1年の期限の前(avant l’échéance d’un an d’intérêt)にはなされ得ないということである。フランスにおいては,文言が不明確であるため,合意について議論されたところである。本案は,ここで,このことについて正式に明らかにしている。最初の1箇の合意によって年ごとの期日に利息が組み入れられることを認めてしまうと,彼の懈怠の予防手段として彼のための特段の防禦であるものと法が考えるところの反復的警告を債務者は受けないことになってしまうのである。〔筆者註:なお,現在のフランス民法1343条の2では“si le contrat l'a prévu”ということですから,事前の契約がむしろ本則のようです。〕

  (Boissonade (1883), p.341

 

オ 「其1个年分ノ延滞セル毎ニ」

前記3重の制限中第1のものに関する議論に戻れば,まず,当該制限を設ける原因となったボワソナアドの懸念は,「もし組入れが,1年ごとではなく,半年ごと,3箇月ごと又は1箇月ごとにされることになったならば,負債の累増は厖大かつ真に恐るべきものとなるだろう。」というものでした(Boissonade (1883), p.341)。後記4のマルヴィル的な懸念です。利率は利息制限法で上限が定められているとはいえ,同じ利率でも,利息の元本への組入れの頻度が増加するとその分更に債務者の負債が増大するから,当該頻度を制限しようというわけです。

したがって,「組入れは1年ごと」といわれる場合の「1年」は,組入れと組入れとの間の期間のことであって,「期限が到来して1年後に」(磯村保編『新注釈民法(8)債権(1)』(有斐閣・2022年)164頁(北居功))というような,利息に係る支払期限と当該利息の元本組入れがされる時との間に置かれるべき期間のことではないわけです。組入れが始まるまでは利息支払の最初の遅滞から1年間あるが,その後は次々続々と――1箇年の間を置かずに――月々,日々,更に極端な場合は連続的に利息の元本組入れがされ得るということでは,台無しです。ボワソナアドは,更に,「法文は,1箇年に,現在進行中の1箇年中の一部を加えた期間分の利息が既に支払を要すべきものとなっているときは(si les intérêts sont déjà dus pour une année et une fraction de l’année courante),当該発生分全てについて(pour tout ce qui est échu)組入れをすることができる,と表現する配慮を更にしているところである。しかし,更に1箇年が完全に経過した後でなければ,組入れをまた新たに行い得ないのである。」と説明しています(Boissonade (1883), p.341)。

ただし,日本語で利息の「1个年分」と表現すると,「1年分というのは合計して1年分ということで,必ずしも継続して1年分以上延滞することを要しない」(前掲奥田編362頁(山下=安井))ということになるのですが,旧民法財産編3941項のフランス語文における“après une année échue”の部分は,端的に,「1箇年の満了後」に組入れのための特別の合意又は裁判上の請求をするのだという意味ですので(なお,当該「1箇年」の起点は,そこから利息の生ずることとなる元本の交付・受領時でしょう。当該フランス語文についてボワソナアドは,1891年に,“après une année échue desdits intérêts”と修正するよう提案しています(Boissonade (1891), p.351)。これは,「当該利息(複数形です。)に係る(元本債権の存続期間たる(= de))1箇年の満了後」という趣旨と解すべきなのでしょう。ちなみに,旧民法債権担保編240条では,“pour les deux dernières années échuesが「経過シタル最後ノ2个年分」となっています(イタリック体及び下線は筆者によるもの)。),その「1箇年」の間に利息の一部が弁済されていて,未払利息額が1に満たない場合であっても,当該残余の未払利息の元本組入れはなお可能であるもののように解されます。この辺は,仏文和訳の微妙さ,ということになるのでしょうか。

 

(3)法律取調委員会における「仏学事始」

と以上,筆者は難解なフランス語文の読解に苦しめられ,かつ,なおも頭をひねりつつあるのですが,事情は旧民法のボアソナアド原案の審議に当たった法律取調委員会においても同様でした。「蘭学事始」ならぬ「仏学事始」的情況です。1888222日の同委員会会合に提出された,後の旧民法財産編3941項の日本語文案は,次のようなものでした。

 

 要求スルコトヲ得ヘキ元金ノ利息ハ填補ノモノナルト遅延ノモノナルトヲ問ハス満期ト為リタル1个年ノ後ニノミ為シ且此ノ如ク年毎ニ為シタル特別ノ合意又ハ裁判所ニ於ケル請求ニ憑リ及ヒ其時ヨリ後ニアラサレハ利息其モノニ利息ヲ生セシムル為メ之ヲ元金ト為スコトヲ得ス

 (前掲財産編人権ノ部議事筆記562丁表)

 

ボワソナアド原案の“après une année échue et ainsi d’ année en année”の部分が,「満期ト為リタル1个年ノ後ニ〔略〕且此ノ如ク年毎ニ」となっています。「満期」とは,由々しい。

本稿冒頭21)において申し述べた筆者の「素人風の考え」的な解釈が,法律取調委員間でも生じてしまっています。松岡康毅委員は「一口ニ云フト満期ニナツタヨリモ1年経タ後(ママ)ナケレ(ママ)〔組入れは〕出来ヌト云フコト」と解したようであり(前掲財産編人権ノ部議事筆記563丁裏),鶴田委員の「去年2月貸シテ今年1月迄利息ヲ払ハヌ,(ママ)ウスレ(ママ)元金ヘ入レルト云フノ(ママ)シヨ(ママ)ウ」との正解,栗塚省吾報告委員(なお,報告委員とは,「ボワソナアド案を基礎として,委員会に提出すべき草案の翻訳・調査・整理の任にあた」り,「委員会に列して草案の報告と説明をするが,議決権はもたなかった」役職でした(大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』(岩波新書・1977年(1998年追補))151頁)。)のそれに対する是認(「左様デス満1年ニナレ(ママ)元金ニ繰込デ宜イト云フノデス」,「私ハ去年ノ11日カラ去年ノ大晦日マテ滞レ(ママ),今年ノ1月ハ元金ニ見積リ100円借リテ1割ノ利息ナレ(ママ)110円ニスルノテアリマス」)等に対して,「左様(ママ)ハアリマスマイ」,「ソレハ行クマイ」,「3月ヨリ3月トナケレ(ママ)ナラン」,「〔「満期」とは〕払ヒ期限ノコトデシヨ(ママ)ウ」,「間ヲ1年置カヌ(ママ)ハ徃カヌノデアリマス」,「払フ(ママ)キ期限(ママ)アル,1年経タ後デナケレ(ママ)元金ニ繰込マヌト云フノダ(ママ)ウ」と,南部甕男委員と共に異議を表明しています(同564丁表-65丁表)。これはやはり,栗塚報告委員による案文の日本語が(現在の一部民法教科書の日本語と同様)まずいのであって(「満期ト為リタル,1个年ノ後」と読むのが普通で,「満期ト為リタル1个年,ノ後」と読むのは難しいでしょう。),同報告委員は「私ハ昨年1月ニ1年中貸シテ居ルト,今年ノ1月カラ元金トシテ11円トスルノ(ママ)アリマス」などと一本調子に繰り返すものの,山田顕義委員長閣下は当該法文案につき「我輩モ左様思(ママ)テ居ツタガ,能ク見ルト1年アル様ニ思フ,来年1年ヲ置カナケレ(ママ)ナラン様原文ニ見(ママ)ルガ1年経過ノ後ト云ヘ(ママ),矢張リ間ハ1年置カナケレ(ママ)ナランノデシヨ(ママ)ウ」と,松岡委員の読み方に軍配を上げます(同565丁裏)。しかして更に同委員長は,「契約ノトキヨリ1ヶ年ヲ経過シタルトキハ」トスレ(ママ)皆サンノ云フ様ニナリマス」,「「但シ1ヶ年ノ後ニ為シ且其契約数年ニ渉ルモノハ年毎ニ為シタル特別ノ合意又ハ」トスルカ」と,案文修正の方向までを自ら示してくれていたのでありました(同566丁裏-67丁表,68丁裏)。


DSCF0598
 山田顕義委員長(東京都千代田区日本大学法学部前)


同日の審議の結果,案文は,次のように修正されました。

 

 要求スルコトヲ得ヘキ元金ノ利息ハ填補ノモノナルト遅延ノモノナルトヲ問ハス毎1ヶ年ノ後ニ為シタル特別ノ合意又ハ裁判所ニ於ケル請求ニ憑リ且其時ヨリ後ニアラサレハ利息其モノニ利息ヲ生セシムル為メ之ヲ元金ト為スコトヲ得ス

 (同572丁表)

 

これを最終的に制定された旧民法財産編3941項の法文と比較すると,「毎1ヶ年ノ後ニ」が,法文では「其1个年分ノ延滞セル毎ニ」となっていて,1箇年分相当の時間の経過のみならず,利息支払債務の履行遅滞(延滞)が元本への組入れの要件として書き加えられています。1888222日の法律取調委員会の審議の場で,「遅延ノ満期ハ入レテ宜シイト思フ」と栗塚報告委員が発言し,「満期ト為リタルハ欲シイ」と鶴田委員が和したことにようるものでしょう(前掲財産編人権ノ部議事筆記570丁裏)。栗塚としては,“après une année échue”を「満期ト為リタル1个年ノ後ニ」と訳したことについて深い思い入れがあったわけです(なお,現行民法3751項にも「〔利息その他の定期金〕の満期となった最後の2年分」という表現(富井政章=本野一郎のフランス語訳では“pour les deux dernières années échues”)がありますが,梅謙次郎によれば,ここでの「満期」は「支払期日ノ到来ヲ意味」するものであって,「仏語の「イッシュー〔échu〕」ヲ訳シタルモノ」です(第15回帝国議会衆議院民法中改正法律案委員会会議録(筆記)第11頁)。)。しかし,支分権たる利息債権については,そもそも「この〔基本的な〕債権の効果として,一定期において一定額を支払(ママ)べき支分権が生ずる」ものと考えられるべきものとされ(なお,精確には「一定額の支払を受けるべき支分権」でしょう。),それは「弁済期に達した各期の利息を目的とするもの」なのですから(前掲我妻43頁。下線は筆者によるもの),発生したことに加えて(既に弁済期です。),更に延滞要件を付することはあるいは蛇足ではないでしょうか。なお,「利息の弁済期が到来しても債権者に受領の義務はなく,当然その利息を元本に組み入れ,弁済期において元利を支払うというような特約」があった場合においては,これは延滞があるものとはいえないでしょうが,そのような場合については,「各期の計算上の額は利息と呼ばれただけで――最初の元本に対して弁済期に支払われるべき余分額が真の意味の利息」であって,「この数額について〔単利計算の〕利息制限法を適用すべき」ものとされていますから(我妻46-47),そもそも重利の場合とはいわないのでしょう。

ただし,民法892項の規定(「法定果実は,これを収取する権利の存続期間に応じて,日割計算によりこれを取得する。」)があるため,利息は弁済期において生ずるものではなく,日々生ずるものとも解され得るところから,弁済期限以後のものであることを明らかにするため「延滞」の語が用いられたのかもしれません。しかし,民法892項は,「果実権利者の変更する場合に於て,果実が前権利者に属すべきや後権利者に属すべきやを定めたるもの」であって(梅謙次郎『訂正増補民法要義巻之一 総則編(第33版)』(私立法政大学=有斐閣書房・1911年)196頁),本来そのような場合においてのみ働くべきものです。また,「権利の帰属を定めたものではなく,帰属権利者間の内部関係を定めたものと解」されており,「例えば,小作地の所有権が譲渡された場合にも,毎年末に支払うべき小作料は,その支払期の所有者に帰属し,日割計算は譲渡人と譲受人との内部関係として清算されるべきである。」とされています(我妻榮『新訂民法総則(民法講義)』(岩波書店・1965年)228頁)。

(なお,「延滞」の語は,後に民法405条を債権者保護の規定と位置付け直すに当たって,あるいはその一つの手掛かりとなったものかもしれません。「延滞金」といえば「地方税及び各種の公課がその納期限までに納付されない場合に,その納付遅延に対する行政制裁として納付義務が課される公法上の徴収金」ですし(吉国一郎等編『法令用語辞典〈第八次改訂版〉』(学陽書房・2001年)36頁),「延滞税」といえば「国税をその法定納期限までに完納しない場合に,その未納の税額の納付遅延に対する行政制裁として納付が義務付けられる税」です(同37頁)。「延滞」するとお仕置きが待っています。)

ちなみに,旧民法財産編3941項の「1个年」とは苦心の文字でしたが,同条2項においては,フランス語文のpour moins d’une année”の部分と対応する部分の日本語が,「1个年未満ノ」となっておらず,「1个年未満ノ」となっていて,不整合な形となってしまっています(4及び7参照)。

 

(4)強行規定性

ところで,旧民法財産編394条の規定は「前記の諸法典と同様」であるとボワソナアドにいわれた場合,フランス民法旧1154条は同国の判例(破毀院民事部1920621日,同院第1民事部196061日等)によって公の秩序(ordre public)に関するものとされていますので,我が旧民法財産編394条も強行規定(現行民法91条参照)と解され得たわけです。年2回以上の組入れを約する重利と利息制限法1条との関係で,民法405条の性格が問題となります(我妻Ⅳ・47頁参照)。



(転)フランス民法旧1154

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258084.html

(結)起草者意思等並びに連続複利法及び自然対数の底

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258087.html