【広告】法律問題の御検討に当たっては😩まず,当職にお気軽に御相談ください

電子メール:saitoh@taishi-wakaba.jp📶

大志わかば法律事務所 (初回30分は相談無料

 

 ille autem dixit eis

    nisi videro in manibus ejus figuram clavorum

    et mittam digitum meum in locum clavorum

    et mittam manum meam in latus ejus

    non credam

    (Io 20,25)

 

    beati qui non viderunt et crediderunt

    (Io 20,29)

 

1 はじめに

 民法(明治29年法律第89号)405条の文言は,当初の「利息カ1年分以上延滞シタル場合ニ於テ債権者ヨリ催告ヲ為スモ債務者カ其利息ヲ払ハサルトキハ債権者ハ之ヲ元本ニ組入ルルコトヲ得」から,平成16年法律第147号が施行された200541日以来(同法附則1条,平成17年政令第36号),次のように,「の支払」が挿入される形で改められています。延滞するのは――精確には――利息それ自身ではなくその支払であるからでしょう。

 

   (利息の元本への組入れ)

  第405条 利息の支払が1年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。

 

 本稿は,これに対して,小賢しく,

 

   (利息の元本への組入れ)

  第405条 支払の延滞した利息が1年分以上となった場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。

 

というような文言の方がよかったのではないか,との感慨を主に述べようとするものです。ただし,筆者においてはいつものことながら,本来は従たるべき3以下の脱線の部分が厖大なものとなってしまいました。

 

2 躓きの石とその回避と

 

(1)躓きの石:「1年以上延滞」と表現する諸書

あえて筆者が前記法文案の提示のような僭越な真似をしようとするのは,平成29年法律第44号による民法(債権関係)大改正を主導せられた内田貴・元法務省参与の著書その他における民法405条に係る次のような記載に,躓く者が多かろうと思うからです。

 

 利息が1年以上延滞して,債権者が催告しても支払がない場合には,特約がなくても,元本に組み入れて複利とすることができるとの規定(405条)

  (内田貴『民法Ⅲ 第4版 債権総論・担保物権』(東京大学出版会・2020年)68頁)

 

1年以上延滞した利息を支払わないとき,これを元本に組み入れることを認める(405条)。

(遠藤浩等編『民法(4)債権総論(第3版)』(有斐閣双書・1987年)21頁(新田孝二))

 

  民法は当事者間の合意がないかぎり,単利によるものとし,例外的に利息の支払いが1年以上遅延し,かつ債権者が催促してもなお支払いがない場合に限って,利息の元本への組入れを認めている(法定重利。405条)。

  (野村豊弘等『民法Ⅲ 債権総論(第3版補訂)』(有斐閣Sシリーズ・2012年)19頁(栗田哲男))

 

 上記のような説明を受けて素人風に考えると,次のようになります。

120万円を借りて,年に10%の利率で毎月末に利息を支払う合意」をした場合「(ママ)月末の到来とともに1万円の利息の支払を求める債権が発生」するが(内田68頁の設例。当該合意に基づく基本権たる利息債権の効果として,「一定期において一定額を支払うべき支分権が生ずる」のであり,その「支分権としての利息債権は,弁済期に達した各期の利息を目的とするもの」です(我妻榮『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』(岩波書店・1964年(1972年補訂))43頁)。なお,「当事者の意思表示,元本債権の性質,取引上の慣習などから,利息債権の弁済期を明らかにすることができないときは,利息債権の弁済期は元本債権の弁済期と同一であると解すべきであろう(勝本〔正晃〕・上248,小池隆一「利息債権」民法法学辞典(下)(昭352085)。」とされています(奥田昌道編『新版注釈民法(10債権(1)債権の目的・効力(1)』(有斐閣・2003年)344頁(山下末人=安井宏))。),当該金銭消費貸借の成立が2022年の年初であるとすると,同年1月末分の第1回の利息支払に係る1万円が弁済されないままであるときにその1万円の元本組入れが可能となるのは20231月末(この時点で当該「利息が1年以上延滞」したことになるはずです。)以後に催告をしてからのことであり,20222月末の第2回分1万円についても同様に20232月末以後に催告をしてから,そして202212月末分の第12回の利息支払に係る1万円については202312月末以後に催告をしてからの2024年になってからのこととなる,ということになるのであるな,また,1年分の利息12万円をまとめて2022年末に支払うべきものと約定された場合は,当該12万円の元本組入れができるのは,その全額につき,これも2023年の丸1年間が経過して以後催告を経ての2024年になってからであるな,と。

 

(2)躓きの石回避の道:「1年以上延滞」の意味

 

ア 梅謙次郎

 しかしながら不図,旧民法(明治23年法律第28号・第98号)の明治29年法律第89号及び明治31年法律第9号による全面改正に際しての法案起草者の一人たりし梅謙次郎・元法制局長官(在任期間:18971028日から,その月16日から現行民法が施行された1898727日まで(同年630日に第3次伊藤内閣に代わって第1次大隈内閣が発足しています。)の著作に当たってみると,次のように説かれているのでした。(なお,現行民法の施行日が1898716日(土)であったのは,民法第1編第2編第3編(明治29年法律第89号)2項,民法第4編第5編(明治31年法律第9号)2項等に基づく明治31年勅令第123号(1898621日裁可,同月22日公布)の規定によります。いわく,「明治29年法律第89号民法第1編第2編第3編明治31年法律第9号民法第4編第5編同年法律第10号法例同年法律第12号戸籍法及同年法律第15号競売法ハ明治31716日ヨリ之ヲ施行ス」と。外国人のいわゆる内地雑居の実施が,その1年後(1899717日以降(1894716日に記名調印された日英通商航海条約211項参照))に迫っていました。)

 

  本条〔405条〕に於ては,延滞せる利息1年分以上に達するまでは敢て重利を附することを許さずと雖も,若し其利息1年分以上に及ぶときは,債権者は一応催告を為すの後債務者が其延滞利息を支払はざるときは之を元本に組入れ,以て之をして更に利息を生ぜしむることを得るものとせり。例へば,年年利息を払ふべき場合に於ては,其利息を支払ふべき時期に至り債権者より一応の催告を為すも尚ほ債務者之を支払はざるときは直ちに之に重利を附することを得べく,又月月之を支払ふべきときは,12个月間は仮令債務者之を支払はざるも敢て重利を附することを得ず(12个月前と雖も月月の支払時期の到来する毎に其督促を為すことを得るは勿論,或は利息のみに付き強制執行を為すも亦可なることは固より言ふを竢たず。),然れども既に延滞利息12个月分に及ぶときは,債権者は一応催告を為したる後尚ほ債務者之を支払はざるときは,直ちに之を元本に組入れ更に之に利息を附することを得べし。

  (梅謙次郎『民法要義巻之三 債権編(第33版)』(私立法政大学=有斐閣書房・1912年)27頁。原文は片仮名書き,濁点・句読点なし。)

 

 これによれば,2022年初めに年10パーセントの利率で120万円を借り受けて利息を毎月末に支払う約束であるのに横着な債務者は月々の利息をちっとも払わない,という前記の例において債権者が延滞利息について催告後元本組入れをすることができることになる時期は,2022年中の12箇月分の利息12万円全額について2023年の初めから,ということになります(202212月末支払分については,1年以上延滞どころではなく,当該期限の経過後すぐに(民法4121項参照)ということになります。)。2023年の2月に入ってから以降毎月1万円ずつ五月雨式に催告をした上で元本への組入れを行う,という辛気臭いことにはならないようです。すなわち,民法405条は「1以上延滞」といっているのであって「1年以上延滞」といっているのではない,ここでの「1年分以上」は延滞している利息の額又は量の大きさにかかっているのであって(利息は,元本債権の「額と存続期間に比例して支払われる金銭その他の代替物」です(我妻Ⅳ・42頁。下線は筆者によるもの)。),利息の延滞期間の長さにかかっているのではない,いやしくも延滞していればその期間の長短は問われないのだ,というのが梅謙次郎による同条の読み方であるということになります。

 

イ 司法研修所

 御当局は,梅式の解釈を採用しています。

 

  例えば,利息を毎月末支払うことを約して消費貸借が成立したが,継続して1年間利息の支払を延滞した場合,延滞した利息を元本に組み入れる権利(組入権)を行使する債権者は,利息の発生要件事実〔略〕に加えて,

1 消費貸借契約成立の日から起算して1年経過したこと

     2 債権者が債務者に対し1で発生した利息の支払を求める旨の催告をしたこと

     3 右催告後相当期間が経過したこと

     4 債権者が債務者に対し右期間の経過後1で発生した利息を元本に組み入れる旨の意思表示をしたこと

      〔略〕

  を主張立証しなければならない。1は,利息が1以上延滞したことを示す事実である。

  (司法研修所民事裁判教官室編『民法の要件事実について(10)』(司法研修所・1992年)23-24頁。下線は筆者によるもの。)

(なお,上記要件事実論は「継続して1年間利息の支払を延滞した場合」に係るものですが,民法405条の「1年分というのは合計して1年分ということで,必ずしも継続して1年分以上延滞することを要しない(勝本・上274)」とされています(奥田編362頁(山本=安井))。)

 

ウ 法典調査会

 この点については既に,1895125日の法典調査会(第56回)の場で議論がされ,解答が与えられていたところでありました。

 

  土方 寧君 本条の「1年分以上延滞シタル場合」と云ふことは,例へば月に幾らと云ふ割合で利息を払ふべきのを12个月も払はぬで居つたとか,或は又1年幾らと云ふ割合(ママ)何年間年々払ふべきのを払はぬで居つたのは大変不都合である,1年分の利息を12个月の末に払(ママ)と云ふ約束である,夫れ(ママ)払はなかつたら1()()1年又は12月〕の末に払はなかつたならば直(ママ)に元本に組入れても宜いと云ふことに此文章では見えますが,其御旨意でありますか。

  穂積陳重君 明かに「1年分以上」と斯うある以上は,然うなる。能く私は知りませぬが,通常は6ケ月分とか,或は月々〔利息を〕払(ママ)のではありませぬか。

  梅謙次郎君 私共の考へでは,夫れで宜い積りであります。若し,1年の終に払(ママ)べきものを払はなかつたと云ふ場合であれば,元々1年の間債権者の方では利息なしに使はせて居るですから夫れに〔その利息に〕復た利が付ても一向構はぬ。唯,月々〔利に〕利が付くとか(ママ)或は6个月目に必(ママ)利が付くとか云ふやうなことになつては困る。併し,今日銀行抔では6个月毎に利が付く。然う云ふ契約は許す。契約のないときには1年分以上延滞した場合に利を付ける。夫れは,月々払(ママ)と云ふ約束でも,1年の終に払ふべき約束でも宜からうと私は考へて居る。

  議長(西園寺侯) 別段御発議がなくば確定致しまして次に移ります。

  (日本学術振興会『法典調査会民法議事速記録第17巻』237丁裏-238丁表。原文は片仮名書き,句読点なし。)



(承)旧民法財産編3941

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258062.html

(転)フランス民法旧1154

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258084.html

(結)起草者意思等並びに連続複利法及び自然対数の底

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258087.html