(上):秩父宮雍仁親王火葬の前例等
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(中):墓埋法14条3項の規定は「皇族の場合を考慮していない」ことに関して
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(「3 昭和28年衛環第2号の検討」の続き)
(2)「2」について:陵墓に係る墓埋法4条1項の特別法としての皇室典範27条
火葬許可証は,火葬それ自体のみならず,その後焼骨の埋蔵をするためにもなお必要です。すなわち,墓埋法14条1項はいわく,「墓地の管理者は,第8条の規定による埋葬許可証,改葬許可証又は火葬許可証を受理した後でなければ,埋葬又は焼骨の埋蔵をさせてはならない。」と(なお,この火葬許可証には,火葬場の管理者による火葬を行った日時の記入並びに署名及び押印があります(墓埋法16条2項,墓埋法施行規則8条)。)。昭和28年1月12日衛環第2号の記の2は,火葬許可証無き焼骨の埋蔵の段階において,その可否に係る問題に関するものでしょう。
ア 皇室典範27条及び陵墓
昭和28年1月12日衛環第2号の記の2において環境衛生課長は,皇室典範27条に言及します。同条は「天皇,皇后,太皇太后及び皇太后を葬る所を陵,その他の皇族を葬る所を墓とし,陵及び墓に関する事項は,これを陵籍及び墓籍に登録する。」と規定するものです。皇室典範附則3項は「現在の陵及び墓は,これを第27条の陵及び墓とする。」と規定しているところ,皇室陵墓令(大正15年皇室令第12号)1条の規定は「天皇太皇太后皇太后皇后ノ墳塋ヲ陵トス」と,同令2条の規定は「皇太子皇太子妃皇太孫皇太孫妃親王親王妃内親王王王妃女王ノ墳塋ヲ墓トス」とするものです。
「葬」は,「〔艸を上下に二つ重ねた字〕バウ→サウ(〔略〕くさむら)の中に死(しかばね)を納めたさまにより,死体を「ほうむる」意を表わす」そうです(『角川新字源』(第123版・1978年))。であれば,「葬る所」は埋葬ないしは埋蔵をする所ではあっても,死体を焼く所ではないようです。
「墳」は「土と,音符賁フン(もりあがる意→肥ヒ)とから成り,土を高くもり上げた墓の意を表わす」そうです(『角川新字源』)。「塋」は「音符〔かんむりの部分〕ケイ→エイ,めぐらす意→縈エイ」からなり,「はか。つか。墓地。」の外「いとなむ。」の意味があるそうです(同)。
不動産である陵墓は,行政財産たる皇室用財産として国有財産となっています(国有財産法(昭和23年法律第73号)2条1項3号参照)。武蔵陵墓地もこの陵墓たる皇室用財産でしょう。内閣総理大臣の管理に服し(国有財産法5条,4条2項),それは宮内庁の所掌事務となります(宮内庁法(昭和22年法律第70号)2条14号は「皇室用財産を管理すること」を,同条12号は「陵墓に関すること」を同庁の所掌事務とします。)。
イ 墓埋法4条1項並びに墓地及び墳墓
また,墓埋法4条1項は「埋葬又は焼骨の埋蔵は,墓地以外の区域に,これを行つてはならない。」と規定しています。同条の規定に違反した者については墓埋法21条1号に罰則規定があります(同法14条の規定に違反した者と同じ号。なお,更に「行為の態様によっては刑法第190条の死体遺棄罪に問われることがある。」とされ,大審院大正14年3月4日判決が参考として挙げられています(生活衛生法規研究会19頁)。当該判決はいわく,「死体の埋葬とは,死者の遺骸を一定の墳墓に収容し,其の死後安静する場所として後人をして之を追憶紀念することを得せしむるを以て目的とするものなれば,必ずしも葬祭の儀式を営むの要なきも,道義上首肯すべからざる事情の下に単に死体を土中に埋蔵放置したるが如きは,未以て埋葬と云うべからざるを以て死体を遺棄したるものと云はざるを得ず。」と。)。
「官許ノ墓地外ニ於テ私ニ埋葬シタル者」を3日以上10日以下の拘留又は1円以上1円95銭の科料に処するものと規定する旧刑法425条13号(1877年8月段階のフランス語文では,軽罪として,“Quiconque aura, sans une permission spéciale de l’autorité compétente, procédé à une inhumation dans un lieu autre que l’un de ceux consacrés aux sépultures, sera puni d’une amende de 10 à 50 yens. / Sont exceptés les cas d’inhumations urgentes où le transport des morts aux sépultures publiques serait difficile ou dangeruex; mais à la charge d’une déclaration immédiate à l’autorité locale.”(「当局の特別の許可を受けずに,墓地として指定された場所以外の場所で埋葬を行う者は,10円から50円までの罰金に処せられる。/死者を公的墓地に運搬することが困難又は危険であるときにおける緊急埋葬については,この限りでない。ただし,直ちに届け出ることを要する。」)と規定されていました。)に関してその趣旨を尋ねれば,ボワソナアドが,その同号改正提案(1877年8月段階案と同じ条文に成規の手続によらぬ墳墓の発掘又は変更の罪に係る構成要件の1項を第3項として加えたもの(Boissonade, pp.775-776))について説明するところがあります。いわく,「公的墓地の場所は,行政によって,できるだけ公衆衛生を確保すべき条件において選択されねばならない。住宅地から余りにも近過ぎる所は避けられねばならず,水源地たる高地を選んではならず,また,各埋葬は,死体からの滲出物を避けるために十分な深さをもってされねばならない。更に,死者への崇敬を確保するためにされる当局の見回りの効率のためには,相当多数のものがまとまった形で埋葬がされるということが便宜である。/各々がその所有地において,又は公的墓地として定められた場所以外の場所で,その親族を埋葬する自由を有するとしたならば,上記の用心は無駄なものにならざるを得ないということが了解されるところである。/また,後になってから遺骸が発見されたときに,それについて確実なことを知る手段のないまま,重罪が犯されたのではないかと懸念しなければならないという不都合も生じることであろう。」と(Boissonade, pp.794-795)。
「墓地」とは,「墳墓を設けるために,墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつては,市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域」をいい(墓埋法2条5項),「墳墓」とは,「死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設」をいいます(同条4項)。墓地に係る都道府県知事の許可については,墓埋法10条に規定があります(同条1項は墓地の「経営」といいますが,個人墓地を設けるにも墓埋法10条の許可が必要であるとされています(昭和27年10月25日付け衛発第1025号厚生省衛生局長から京都府知事宛て回答「個人墓地の疑義について」(生活衛生法規研究会119-120頁))。)。
陵墓地について,墓埋法10条の許可がされているということはないでしょう。
ウ 環境衛生課長の判断
昭和28年1月12日衛環第2号における環境衛生課長の判断は,皇室典範27条の陵墓は墓埋法上の墓地に係る墳墓ではないが,同条によって,陵墓において天皇・皇族を埋葬し,又はその焼骨を埋蔵することは,墓埋法の特別法たる皇室典範によって合法なものとされていることとなる,その際陵墓の管理者による埋葬許可証又は火葬許可証の受理など当然不要である,というものでしょう。
(3)「3」について:過度の一般命題化
ところで,昭和28年1月12日衛環第2号の記の3における「墓地,埋葬等に関する法律は皇族には適用されない」との言明は,筆者には――環境衛生課長の筆の滑りによるものなのでしょうか――過度の一般命題化であるように思われます。
その第7条1項において「皇族ノ身位其ノ他ノ権義ニ関スル規程ハ此ノ典範ニ定メタルモノノ外別ニ之ヲ定ム」と規定していた明治40年の皇室典範増補は,皇室典範本体等及び皇室令と共に日本国憲法下においては廃止されたものとなっているところです。天皇・皇族にも日本国憲法下の法令が一般的に適用されるというところから出発しなければなりません。天皇・皇族に対する法令の適用除外は,例外的かつ具体的であるべきです。例えば,皇族だからとて,薨去後24時間たたぬうちに埋葬又は火葬されてしまっては,実は仮死状態にすぎなかったときには困るでしょうし(墓埋法3条,21条1号参照),死体の埋葬又は焼骨の埋蔵を陵墓でも墓地でもない場所でしたり,火葬場以外の施設で火葬をしてはいけないのでしょうし(同法4条参照。同条2項の法文は「火葬は,火葬場以外の施設でこれを行つてはならない。」です。),墓地,納骨堂又は火葬場の経営を,墓埋法10条の都道府県知事(なお,同法2条5項括弧書きにより,市長及び特別区の区長も含まれます。)の許可なしに勝手にしてはならないでしょう。
環境衛生課長としては,これ以上皇室とかかわるのは畏れ多過ぎるので,政府高官として有するその所管法令解釈権限をもって明治典憲体制風の墓埋法適用除外の特権を天皇及び皇族方に献上申し上げ,顔を覆い,目を伏せ,以後御勘弁してもらうつもりだったということかもしれません。
Abscondit…faciem suam non enim audebat aspicere contra deum (Ex 3,6)
しかしながら,墓埋法を制定した,国の唯一の立法機関である国会との関係はどうなるのでしょうか。良識ある議員諸賢の心が頑なになるということはないと考えてよいのでしょうか。
Induravitque Dominus cor Pharaonis regis Aegypti (Ex 14,8)
4 墓埋法と「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」との関係
さて,以上見てきた墓埋法の諸規定と,前記2013年11月14日付け宮内庁「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」のⅢ2(1)(イ)「御火葬施設の確保」において示された同庁の目論見とはうまく整合するものかどうか。
(1)墓埋法の適用:八王子市長の大権限
「墓地,埋葬等に関する法律は皇族には適用されない」(昭和28年1月12日衛環第2号の記の3)ということであれば,墓埋法の検討ははなから不要であるようです。しかし,天皇・皇族について墓埋法の一般的適用除外があるものとは筆者としては考えにくいということは,前記3(3)のとおりです。またそもそも,「御火葬施設」が内廷費で維持される皇室の私的施設ではなく,宮内庁に属する国の施設であれば――宮内庁長官以下の宮内庁職員になれば皇族になるというわけではないでしょうから――墓埋法皇族不適用論のみではなお不十分でしょう。国のする埋葬及び火葬にも墓埋法の適用があるのであって,それゆえに自衛隊法115条の4は,墓埋法の例外的適用除外規定として,「墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)第4条及び第5条第1項の規定は,第76条第1項(第1号に係る部分に限る。)の規定により出動を命ぜられた自衛隊の行動に係る地域において死亡した当該自衛隊の隊員及び抑留対象者〔略〕の死体の埋葬及び火葬であつて当該自衛隊の部隊等が行うものについては,適用しない。」と規定しているところです。(なお,自衛隊法76条1項1号ならぬ同項2号の事態に際しての自衛隊の出動は国外派遣になるところ,そもそも墓埋法は日本国外では適用されないものでしょう。)
「御火葬施設」を設けるにも墓埋法10条1項の許可が必要である場合,それが八王子市長房町の武蔵陵墓地内に設けられるのならば,許可権者は八王子市長となります(前記のとおり,墓埋法2条5項括弧書きによって,同法の「都道府県知事」は,市又は特別区にあっては,市長又は区長です。)。
ア 火葬場の経営主体等の問題
そこで,八王子市墓地等の経営の許可等に関する条例(平成19年八王子市条例第29号)を見てみると,その第3条1項には次のようにあります。
(墓地等の経営主体等)
第3条 墓地等〔筆者註:火葬場を含みます(同条例1条)。〕を経営しようとする者は,次の各号のいずれかに該当する者でなければならない。ただし,特別の理由がある場合であって,市長が,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めたときは,この限りでない。
(1) 地方公共団体
(2) 宗教法人法(昭和26年法律第126号)第4条第2項に規定する宗教法人で,同法に基づき登記された事務所を市内に有し,かつ,永続的に墓地等を経営しようとするもの(以下「宗教法人」という。)
(3) 墓地等の経営を行うことを目的とする,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)第2条第3号の公益法人で,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)に基づき登記された事務所を市内に有し,かつ,永続的に墓地等を経営しようとするもの(以下「公益法人」という。)
皇室も宮内庁も,地方公共団体でも宗教法人でも公益法人でもないところです。
火葬場の経営者が地方公共団体,宗教法人,公益法人等でなければならない理由は,その永続性(上記条例3条1項2号及び3号各後段参照)と非営利性の確保のためであるそうです。すなわち,昭和43年4月5日付けの厚生省環境衛生課長から各都道府県,各指定都市衛生主管部局長宛て通知「墓地,納骨堂又は火葬場の経営の許可の取扱いについて」において同課長はいわく,「従来,墓地,納骨堂又は火葬場の経営主体については,昭和21年9月3日付け発警第85号内務省警保局長,厚生省衛生局長連名通知及び昭和23年9月13日付け厚生省発衛第9号厚生次官通知により,原則として市町村等の地方公共団体でなければならず,これにより難い事情がある場合であっても宗教法人,公益法人等に限ることとされてきたところである。これは墓地等の経営については,その永続性と非営利性が確保されなければならないという趣旨によるものであり,この見解は現時点においてもなんら変更されているものではない。従って,墓地等の経営の許可にあたっては,今後とも上記通知の趣旨に十分御留意のうえ,処理されたい。」と(生活衛生法規研究会143-144頁)。
「御火葬施設」の設置は「特別の理由がある場合であって」かつ「公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がない」のだと主張して,よって上意のとおり直ちに許可をすべしと八王子市長を説得しようにも,「その都度設け」られる火葬場は永続性を欠くからそんなものを許可したら厚生労働省に叱られる,と抵抗される可能性があります。
イ 火葬場の人民使用問題
それでは八王子市長の顔を立てて「御火葬施設」を永続的なものとしましょうと妥協した場合,今度は我々人民身分の者たちからの,我々にも極楽往生のため天子様の火葬場を使わせてくれい,死んでしもうたら皆一緒じゃろうよ,とのうるさい要求に悩まされるかもしれません。「〔略〕火葬場の管理者は,〔略〕火葬の求めを受けたときは,正当の理由がなければこれを拒んではならない。」との墓埋法13条(21条1号に罰則規定)の問題です。
火葬場の使用を拒み得る墓埋法13条の「正当の理由」については,「本法の立法精神に照らし社会通念により個別事案ごとに判定するよりほかはない。例えば,新たな埋葬等を行う余地がないこと,依頼者が墓地等の正常な管理に明らかに支障を及ぼすおそれがあること等が,これに該当することになろう。」という説明があります(生活衛生法規研究会64頁)。また,「「正当の理由」に該当しない場合としては,寺院墓地における異宗徒であることによる埋葬拒否がこれに当たるという判例がある(津地裁判昭和38年6月21日)」そうです(生活衛生法規研究会64-65頁。ただし,当該判決により「埋葬時における典礼施行権は寺院墓地の管理者にあり,その権利を差し止める権限を依頼者は保有していないということが明らかにされた」ところではあります(同書65頁)。)。
身分が違うから駄目だ,帰れ帰れ,というようなroughな理由付けでは,なお剣呑に過ぎて,「正当の理由」にはならないでしょう。
ウ 火葬場の構造設備基準等問題
上記の問題は別として,八王子市長の許可を得るためには,火葬場に係る構造設備基準等がまたうるさいところです。八王子市墓地等の経営の許可等に関する条例における関連規定は次のとおり。
(火葬場の設置場所)
第14条 火葬場の設置場所は,住宅等からおおむね250メートル以上離れていなければならない。
2 火葬場内において当該火葬場の施設を増築し,又は改築する場合その他特別の理由がある場合で,市長が,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めたときは,前項の規定は,適用しない。
(火葬場の構造設備基準)
第15条 火葬場の構造設備は,次に掲げる基準に適合しなければならない。
(1) 境界には,障壁又は密植した樹木の垣根を設けること。
(2) 出入口には,門扉を設けること。
(3) 火葬炉は,5基以上設けること。ただし,地方公共団体が設ける火葬場については,この限りでない。
(4) 火葬炉には,防じん及び防臭の十分な能力を有する装置を設けること。
(5) 収骨室及び遺体保管室を設けること。
(6) 収骨容器等を保管する施設を設けること。
(7) 残灰庫を設けること。
(8) 管理事務所,待合室及び便所を設けること。
「御専用」の施設に,5基も火葬炉が必要(上記条例15条3号本文)でしょうか。
(2)皇室典範27条の射程範囲
皇室典範27条があるので陵墓地については,火葬場に係るものまでを含めて墓埋法の規定の適用はないのだ,とはいえないでしょう。陵墓は飽くまで,死体を焼く所ではなく,「葬る所」なのです。陵に準ずるものとして火葬塚がありますが(皇室陵墓令40条1項(「従前諸陵寮ニ於テ管理シタル分骨所火葬塚及灰塚ハ陵ニ準ス」)),これは専ら既に崩御した被火葬者のために残されてあるものであって,今後更にそこで火葬が行なわれるべき現役の火葬場ではないはずです。宮内庁のウェブサイトには,「陵墓については,国民の追慕尊崇の対象となっております。」とあります。
(3)皇室典範一部改正案
以上の結果,筆者なりに考えるに,前記2013年11月14日付け宮内庁「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」のⅢ2(1)(イ)「御火葬施設の確保」において示された構想の円滑な実現のためには,墓埋法との関係での法律上の手当てが,もひとつ必要であるようです。災害対策基本法86条の4等及び自衛隊法115条の4等に鑑みるに,墓埋法4条,5条及び14条との関係が問題になるところです。
これらについて確認してみると,墓埋法4条1項は皇室典範27条の規定があることにより陵墓における天皇・皇族の遺体の埋葬及び焼骨の埋蔵について適用されず,同法5条は天皇・皇族に戸籍法の適用がないことにより天皇・皇族の埋葬及び火葬について,皇室典範27条の規定により陵墓間での改葬について適用されないものとなっていると解されます。墓埋法14条については,墓地,納骨堂及び火葬場の各管理人が対象であって,その適用には,同条10条1項による都道府県知事,市長又は特別区の区長の許可がそれぞれあったことがまず前提となります。しかし,天皇・皇族の遺体の埋葬及び焼骨の埋蔵をする所としての陵墓についての当該許可は不要であり(墓埋法14条1項に関して),納骨堂は,ここでは問題となっていません(同条2項に関して)。残る墓埋法14条3項に関しては,陵墓地内の「御火葬施設」に係る同法10条1項の許可の要否が問題になりますが,これは,同法4条2項による火葬場以外の施設での火葬の禁止が,陵墓地についても適用されるかどうかにかかります。しかして,陵墓地についての墓埋法4条2項の適用は,排除され切れずに残っている,というのが筆者の意見です。同項の適用がある以上は,陵墓地における「御火葬施設」についても墓埋法10条1項の許可が必要となり,八王子市長(及び八王子市議会)との間で前記のような問題を惹起してしまうわけです。
であれば,例えば次のような法律の規定を,適当な機会に,どこか適当な場所に(皇室典範の附則3項の次辺りでしょうか。)設けるべきなのでしょう(単独法とすると,悪目立ちしそうです。)。
墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)第4条第2項の規定は,天皇及び皇族〔又は「天皇,皇后,太皇太后及び皇太后」〕の火葬であって陵墓地内において行われるものについては,適用しない。
八王子市長,そして八王子市議会議員としては,ちょっと寂しいことになるかもしれません。
なお,上皇及び上皇后の意向については,2013年11月14日付け宮内庁「今後の御陵及び御喪儀のあり方についての天皇皇后両陛下のお気持ち」に,「ご火葬施設について,両陛下のご身位に鑑み,既存の施設によらず,多摩の御陵域内に専用の施設を設置申し上げたい旨,両陛下に申し上げたところ,その場合には節度をもって,必要な規模のものにとどめてほしい,とのお気持ちをお示しであった。」との記載があります。飽くまでも「その場合には」ということですから,専用の火葬施設の御使用には必ずしも強くこだわってはおられないものと拝察すべきでしょうか。平成の終焉及び令和の開幕を国民代表として領導した安倍晋三元内閣総理大臣の国葬儀挙行(2022年9月27日)に関しても先般見られたように,何か憲法問題のようなものに関係するように思われる重儀を行うについては,明文の法律の根拠が必要ではないのか!等々煩瑣かつとげとげしい議論が国民間において盛んに行われる現在の令和共和政下においては,上記のような法制上の手当てが穏便に達成されない見込みである場合,叔父宮殿下方同様,御専用ならざる落合火葬場において火葬せられることも御許容範囲内なのでしょうか。
現在の火葬場に,煙突はありません。(東京都中野区の願正寺境内から落合斎場を見る)
ところで最近,筆者の事務所宛ての郵便物を整理していたところ,正に上記写真の落合斎場の別館に事務所を置くところの葬儀会社である株式会社グランセレモ東京(櫻井貴史代表取締役)から挨拶状が届いていました(2022年8月到達)。同社は,株式会社広済堂ホールディングス(本店・東京都港区)と燦ホールディングス株式会社(本店・大阪市)との合弁で2022年4月1日に設立されたものだそうです。株式会社広済堂ホールディングスのグループ会社の一つが,落合火葬場を含む都内6箇所の火葬場(落合,代々幡,桐ケ谷,堀ノ内,町屋及び四ツ木)を運営する東京博善株式会社であり,燦ホールディングス株式会社は,「国内最大手の葬儀社」である株式会社公益社を中核企業としているそうです。株式会社グランセレモ東京は,上記6箇所の火葬場(葬儀式場併設)における葬儀の施行を主要事業とするとのことです。ちなみに火葬の費用ってどれくらいかかるのかといえば,「お通夜,お葬式を行わず火葬のみで送る葬送の形」である「火葬式」の費用総額は,同社の場合,「30~50万円」であるものと記載されていました。
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