(上):秩父宮雍仁親王火葬の前例等

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3 昭和28年衛環第2号の検討

 

(1)「1」について:墓埋法と戸籍法との結合及び天皇・皇族についてのその欠如等

 

ア 墓埋法に基づく火葬の許可と戸籍法に基づく死亡の届出等との結合

現在の墓埋法52(「前項〔「埋葬,火葬又は改葬を行おうとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない。」〕の許可は,埋葬及び火葬に係るものにあつては死亡若しくは死産の届出を受理し,死亡の報告若しくは死産の通知を受け,又は船舶の船長から死亡若しくは死産に関する航海日誌の謄本の送付を受けた市町村長が,改葬に係るものにあつては死体又は焼骨の現に存する地の市町村長が行なうものとする。」)にいう「死亡の届出」とは何かといえば,「戸籍法第25条,第88条又は第93条において準用する第56条の規定に基づく届出をいう。すなわち,死亡者本人の本籍地,届出人の所在地,死亡地(それが明らかでないときは最初の発見地,汽車等の交通機関の中での死亡の場合は死体を降ろした地,航海日誌を備えない船舶の中での死亡の場合は最初の入港地)の市町村長に対して届出をすることができる。」ということだそうです(生活衛生法規研究会22頁)。航海日誌の謄本の送付については,戸籍法93条の準用する同法55条に規定があるところです。

これに対して,雍仁親王薨去当時の墓埋法82項の死亡の届出に係る当時の戸籍法88条は「死亡の届出は,外国又は命令で定める地域で死亡があつた場合を除いては,死亡地でこれをしなければならない。但し,死亡地が明らかでないときは,死体が最初に発見された地で,汽車その他の交通機関の中で死亡があつたときは,死体をその交通機関から降ろした地で,航海日誌を備えない船舶の中で死亡があつたときは,その船舶が最初に入港した地で,これをしなければならない。」と規定していました(下線は筆者によるもの)。これを現在の戸籍法88条の「できる」規定と比較すると,現在の規定では同法25条による「事件本人の本籍地又は届出人の所在地」での死亡届出が原則となってしまい,死亡地ないしは死体の到着地の市町村長が死亡の届出を受けるものでは必ずしもなくなっています。墓埋法5条の趣旨は,「埋葬,火葬又は改葬を市町村長の許可に係らしめ,埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われるように,自由な埋葬等を禁ずるものである。」と説かれていますが(生活衛生法規研究会20頁。同法1(「この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。」)参照),死亡地でも死体の到着地でもない地の市町村長は,公衆衛生云々といわれてもピンとこないのではないでしょうか。

いずれにせよ,戸籍法に基づく死亡の届出と墓埋法に基づく火葬の許可及び火葬許可証の交付とが結合されているわけです。

なお,墓埋法現52項にいう「死亡の報告」は「戸籍法第89条,第90条又は第92条の規定に基づく報告をいう」そうで(生活衛生法規研究会22頁),これも戸籍法の適用が前提となります。

 

ちなみに,墓埋法52項にいう「死産の届出」,「死産の通知」及び「死産に関する航海日誌の謄本の送付」は,「死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号(昭和27年法律第120号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く厚生省関係諸命令の措置に関する法律」第3条の規定により,法律としての効力を有する。))の規定〔同令4条及び9条〕に基づく」ものです(生活衛生法規研究会22頁)。

しかし,昭和21年厚生省令第42号の第3条は「すべての死産は,この規程の定めるところにより,届出なければならない。」と規定し,同令第2条は「この規程で,死産とは妊娠第4月以後における死児の出産をいひ,死児とは出産後において心臓膊動,随意筋の運動及び呼吸のいづれをも認めないものをいふ。」と規定しているところ,皇族の死産に同令の適用はあるのでしょうか。同令7条は,父親を第1次的の届出義務者としていますから,畏れ多くも皇后陛下の御死産の場合には天皇陛下が千代田区長に対して届出をせねばならないのか,ということにもなりかねません。聯合国軍最高司令官の要求に係る事項を実施するため昭和20年勅令第542号に基づき1946930日に昭和21年厚生省令第42号を発した河合良成厚生大臣は,そこまでの共和国的な光景をも想定していたのでしょうか。

1946年当時はなお有効だった明治40年(1907年)211日の皇室典範増補8条は「法律命令中皇族ニ適用スヘキモノトシタル規定ハ此ノ典範又ハ之ニ基ツキ発スル規則ニ別段ノ条規ナキトキニ限リ之ヲ適用ス」と規定していましたところ,同条の解釈適用が問題になるところです。これについては,天皇の裁可に係る勅令ならばともかく,一国務大臣の発する省令は,そもそも法形式として「皇族ニ適用スヘキモノ」としてふさわしくないものと通常解されるところでしょうし,かつ,昭和21年厚生省令第42号には「皇族ニ適用スヘキ」旨の明文規定も無いところです。すなわち,昭和21年厚生省令第42号は天皇・皇族に適用がないものとして制定され,そのことは,その施行日(194753日)の前日を限り明治40年の皇室典範増補が廃止された日本国憲法の下でも変わっていない,と解釈すべきものなのでしょう。

 

イ 皇室典範26条による天皇・皇族に対する戸籍法の適用除外

皇室典範(昭和22年法律第3号)26条は「天皇及び皇族の身分に関する事項は,これを皇統譜に登録する。」と規定していて,確かに,天皇・皇族には戸籍はなく,戸籍法の適用はないわけです。

ちなみに,外国人も戸籍がありませんが,こちらについては,「外国人にも戸籍法の適用があり出生,死亡などの報告的届出義務を課せられ」ているところです(谷口知平『戸籍法』(有斐閣・1957年)54頁。戸籍法252項参照)。厚生省衛生局長は,外務省欧米局長宛ての昭和32415日付け衛発第292号回答において,戸籍法の適用との関係には言及してはいませんが,「埋葬許可は,死亡者の国籍の如何をとわず,本法〔墓埋法〕施行地で死亡した場合,死亡地の市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)がこれを与えることとなっている。」と述べています(生活衛生法規研究会133-134頁。ただし,現在の戸籍法における外国人の死亡の届出は,死亡地でできることには変わりはありませんが(同法881項),届出人の所在地でするのが本則になっています(同法252項)。)。

 戸籍法の適用を受けぬ皇族たる雍仁親王の薨去の際には,同居の親族たる勢津子妃も藤沢市長に死亡届出をする義務(同法871号(当時は第2項なし))を有さず,仮に届出をしても「届出義務者でない者よりの届出は受理されるべきでない」ので(谷口55頁)結局受理されず,秩父宮家としては藤沢市長の火葬許可証を入手することができなかった,ということであったようです。

 なお,戸籍法上の死亡届出義務者に係る同法87条は,現在次のとおりです。

 

  87 次の者は,その順序に従つて,死亡の届出をしなければならない。ただし,順序にかかわらず届出をすることができる。

第一 同居の親族

第二 その他の同居者

第三 家主,地主又は家屋若しくは土地の管理人

 死亡の届出は,同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人及び任意後見受任者も,これをすることができる。

 

ウ それでも皇族の火葬は可能であるとの結論に関して

しかし,火葬許可証がない以上皇族の火葬を火葬場の管理者は行ってはならないものとは環境衛生課長は杓子定規に解していません。「第14条第3項の規定は皇族の場合を考慮していないもの」として,なお火葬の可能性を認めています。

 

(ア)墓埋法13

墓埋法13条が「墓地,納骨堂又は火葬場の管理者は,埋葬,埋蔵,収蔵又は火葬の求めを受けたときは,正当の理由がなければこれを拒んではならない。」と規定しているということが,火葬許容の方向に秤を傾けたということがあるでしょう。同条は,「埋火葬等の施行が円滑に行われ,死者に対する遺族等関係者の感情を損なうことを防止するとともに,公衆衛生その他公共の福祉に反する事態を招くことのないよう」にするためのものとされています(生活衛生法規研究会64頁。なお,同条については,後出(41)イ)の津地方裁判所昭和38621日判決に先立つものとしての内閣法制局意見(昭和35215日法制局一発第1号厚生省公衆衛生局長宛内閣法制局第1部長回答)があります(生活衛生法規研究会138-140頁)。)。当局は「遺族等関係者の感情」を重視するものと明言しているのであれば,確かに,心をこめて求めよさらば与えられん,です。

 

Petite et dabitur vobis, quaerite et invenietis, pulsate et aperietur vobis. (Mt 7,7)

 

(イ)墓埋法51項及び墓埋法施行規則14号並びに感染症予防等法30

更にこの点に関して墓埋法14条の趣旨を見てみると,「本条は,第5条及び第8条に定める埋火葬等の許可制度の実効を期するため,墓地等の管理者に対して正当な手続を経ない埋火葬等に応ずることを禁じた規定である。」とあります(生活衛生法規研究会65頁)。そうであると,市町村長による火葬の許可がそもそも何のためにあるのかを考えることも必要であるようです。

墓埋法51項の厚生労働省令である墓地,埋葬等に関する法律施行規則(昭和23年厚生省令第24号。以下「墓埋法施行規則」と略称します。)1条の第4号に,墓埋法51項の規定により埋葬又は火葬の許可を受けようとする者が市町村長に提出しなければならない申請書の記載事項として,「死因(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)第6条第2項から第4項まで及び第7項に規定する感染症,同条第8項に規定する感染症のうち同法第7条に規定する政令により当該感染症について同法第30条の規定が準用されるもの並びに同法第6条第9項に規定する感染症,その他の別)」とあるのが気になるところです。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症予防等法」と略称します。)62項から4項までに規定する感染症は,それぞれ「一類感染症」,「二類感染症」及び「三類感染症」です。同条7項に規定する感染症は「新型インフルエンザ等感染症」であって,これには,現代の恐怖の大王である新型コロナウイルス感染症が含まれます(同項3号)。同項8項に規定する感染症は「指定感染症」です。同条9項に規定する感染症は「新感染症」であって,これは,「人から人に伝染すると認められる疾病であって,既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので,当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり,かつ,当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう」ものです。

感染症予防等法30条は,次のとおりです。なお,新感染症についても,政令により一類感染症とみなされて同条が適用されることがあり得,また,都道府県知事が一類感染症とみなして同条に規定する措置の全部又は一部を実施することが可能です(感染症予防等法531項・501項)。

 

(死体の移動制限等)

30 都道府県知事は,一類感染症,二類感染症,三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の発生を予防し,又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは,当該感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体の移動を制限し,又は禁止することができる。

2 一類感染症,二類感染症,三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体は,火葬しなければならない。ただし,十分な消毒を行い,都道府県知事の許可を受けたときは,埋葬することができる。

3 一類感染症,二類感染症,三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体は,24時間以内に火葬し,又は埋葬することができる。

 

 感染症予防等法302項を見ると,火葬はlast resortとして,結局常に許可されるべきもののようです。また,死体の移動を制限又は禁止しつつも,公衆衛生のためには放置するわけにはいかないということであれば,やはりその地で火葬されるのでしょう。

 それならば,火葬をするのになぜわざわざ墓埋法51項による市町村長の許可手続が必要なのかといえば,むしろ埋葬の許可を求める者に対して,火葬の許可を受けて当該死体を火葬するように窓口指導を行う機会を得るためのもののようでもあります。「埋葬又は火葬の許可申請は,戸籍法に基づく死亡届の提出と同時に行われる場合が多く,かつ,届出事項と重複するものがあることから,同一文書による取扱いの便法が認容されている〔昭和4152日付け環整第5032号環境衛生局長から愛知県知事宛て回答「墓地,埋葬等に関する法律施行規則第1条の申請について」〕。」とされていて(生活衛生法規研究会25頁)重みが無く,また,厚生事務次官から各都道府県知事宛て通知である昭和23913日付け厚生省発衛第9号「墓地,埋葬等に関する法律の施行に関する件」の3に「埋葬,火葬(ママ)及び改葬の許可は,原則として死亡届を出した市町村長の許可を受けることとし,統計上の統一を図った。」とあるので(生活衛生法規研究会105頁),何だか統計を取る目的ばかりのように思われて力が入らなかったのですが,確かに,感染症予防等法302項に鑑みるに明らかなとおり「公衆衛生」の見地(墓埋法1条参照)からして望ましく,かつ,時には専らそれによるべきものとされる葬法であるところの火葬への誘導機能は期待されてあるわけでしょう。

 感染症予防等法302項の「規定に違反したとき」は,「当該違反行為をした者は,100万円以下の罰金に処」せられます(同法776号)。

 

   しかし,感染症予防等法302項本文,776号の罪の構成要件は分かりにくいところです。同法302項ただし書に鑑みるに,当該死体の無許可埋葬が実行行為になるのでしょうか。そうであると,埋葬も火葬もせずに放棄した場合は,刑法190条の死体遺棄罪(3年以下の懲役)でなお問擬されるのでしょう(前田雅英『刑法各論講義 第4版』(東京大学出版会・2007年)499頁参照)。死体遺棄罪に関しては,「不作為による死体遺棄罪が成立するのは,埋葬義務のある者に限られよう」と述べられています(前田499頁)。(なお,軽犯罪法(昭和23年法律第39号)118号は「自己の占有する場所内に,〔略〕死体若しくは死胎のあることを知りながら,速やかにこれを公務員に申し出なかつた者」を拘留又は科料に処するものと規定していますが,当該死体及び死胎については,「公務員をして処置させるまでもなく,その存在する場所の占有者自ら処置すべきものを含まないものと解する。また,〔略〕処置すべき者が判明しており,これらの者による処置が当然予想されるものについても同様である。したがって,〔略〕自宅療養中又は病院入院中の者が死亡した場合に,これを公務員に申し出ない行為などは,本号に当らない。」と説かれています(伊藤榮樹原著=勝丸充啓改訂『軽犯罪法 新装第2版』(立花書房・2013年)155頁)。同号の前身規定としては,旧刑法(明治13年太政官布告第36号)4258号が「自己ノ所有地内ニ死屍アル(こと)ヲ知テ官署ニ申告セス又ハ他所ニ移シタル者」18778月段階でのフランス語文では,“Ceux qui n’auront pas signalé à l’autorité locale la découverte par eux faite, dans leur propriété, d’un cadavre ou d’un corps humain inanimé ou l’auront transporté au dehors”3日以上10日以下の拘留又は1円以上195銭以下の科料に処するものとしていました。当該規定前段の趣旨は,ボワソナアドによれば,「死亡したと思われる者に,適時の救護をもたらし得ないということがないようにする」ということでした(Gve Boissonade, Projet Révisé de Code Pénal pour l’Empire du Japon accompagné d’un Commentaire; Tokio, 1886. p.1258)。)

当該「埋葬義務のある者」は誰かといえば,「専ら埋葬・祭祀・供養をなす権能と義務とを内容とする特殊のものと考えねばなら」ず,「その意味では放棄も許されない」ところの「屍体」の所有権(我妻榮『新訂民法総則(民法講義)』(岩波書店・1965年)203頁)が帰属する者でしょう。しかして死体の所有権は誰に帰属するかといえば,「判例は,相続によって相続人に帰属するという(大判大正107251408頁(家族の遺骨をその相続人が戸主の意に反して埋葬したので戸主から引渡請求をしたが認められない))。しかし,慣習法によって喪主たるべき人(〔民法(明治29年法律第89号)〕897条参照)に属すると解するのが正当と思う」ということになっています(我妻203頁)。「死体は,埋葬や供養をなす限りで権利の対象として認められる(東京高判昭62108家月40345頁,遺骨は祭祀主(ママ)者に属する。)」というわけです(山野目章夫編『新注釈民法(1)総則(1)』(有斐閣・2018年)790頁(小野秀誠))。東京高等裁判所昭和40719日判決・高集185506頁は刑法190条の死体遺棄罪の成立に関して「〔当該死体は〕被告人の妻子であるので,被告人は慣習上これらの死体の葬祭をなすべき義務のあることは明らか」と判示しています(下線は筆者によるもの)。以上をまとめる判例としては,「宗教家である被相続人と長年同居していた信者夫婦が遺骨を守っていたところ,相続人(養子)が祭祀主宰者として菩提寺に埋葬するため,遺骨の引渡しを求めた事案で,最高裁は,遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者とみられる相続人に帰属するとした原審を正当とした(最判平元・718家月4110128)。」というものがあります(谷口知平=久貴忠彦『新版注釈民法(27)相続(2)(補訂版)』(有斐閣・2013年)89頁(小脇一海=二宮周平))。死体ないしは焼骨の共同所有は法律関係を複雑なものにするでしょうから(遠藤浩等編『民法(9)相続(第3版)』(有斐閣・1987年)71頁(遠藤)参照),相続人帰属説よりはこちらの方がよいのでしょう。

ただし,死体の処分については別の配慮も必要であるとされています。「これまで学説は,遺体・遺骨を一括して,所有権の客体性,帰属原因,帰属者を議論してきたが〔略〕,両者には違いがある〔略〕。遺体の場合,特別な保存方法を用いない限り,腐敗が急激に進行することから,衛生上速やかに火葬など一定の処分をする必要があり,葬送を行う近親者に処分を委ねることが妥当である。」というわけです(谷口=久貴編88頁(小脇=二宮))。これは,葬送を行う者(近親者に限られず,戸籍法87条に基づき死亡届出をした者を含めて解してもよいように思われます。)のする死体の処分は事務管理(民法697条以下)として適法化されるということでしょうか。ちなみに,生活保護法(昭和25年法律第144号)182項は,「被保護者が死亡した場合において,その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき」(同項1号)又は「死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において,その遺留した金品で,葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき」(同項2号)において,「その葬祭を行う者があるときは,その者に対して,前項各号〔①検案,②死体の運搬,③火葬又は埋葬及び④納骨その他葬祭に必要なもの〕の葬祭扶助を行うことができる。」と規定しています

   なお,民法873条の23号(同条は,西村康稔衆議院内閣委員長提出の議員立法である平成28年法律第27号で追加)は,「成年後見人は,成年被後見人が死亡した場合において」,「成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き,相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」,「家庭裁判所の許可を得」て,「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」をすることができるものと規定しています。葬式費用の債務者は喪主であって,同人が当該費用を負担するという説がありますが(内田貴『民法 親族・相続』(東京大学出版会・2002年)364頁。また,遠藤等編31頁(稲本洋之助)),民法873条の23号の含意するところは,火葬及び埋葬に関する費用は,同法885条の「相続財産に関する費用」に含まれるということでしょうか(我妻榮=立石芳枝『親族法・相続法』(日本評論新社・1952年)374頁(我妻)参照)。

   畏くも,現在の凶悪な新型コロナウイルス問題猖獗下,あってはならないことながらも当該ウイルスに感染せられてしまっておられた尊き辺りにあって,内閣総理大臣,厚生労働大臣その他の関係者一同驚愕恐懼して総員切腹ものの事態が,我ら人民の真摯かつ厳正なるマスク着用等の思いやり及び自粛にもかかわらず生じた場合において天皇が大喪儀の喪主となられるときは(皇室喪儀令(大正15年皇室令第11号)8条参照。また,「天皇ハ最高ノ祭主トシテ皇祖皇宗歴代ノ皇霊及天神地祇ヲ祭ル」存在です(美濃部達吉『改訂憲法撮要』(有斐閣・1946年)204頁。下線は筆者によるもの)。),我が国の裁判権の及ばぬ御身ではあらせられるものの(「国法上,天皇および摂政は,〔刑事裁判権が及ぶ者から〕除外されるものと解される(皇典21条)。」(平野龍一『刑事訴訟法』(有斐閣・1958年)55頁)),至尊もまた勿体なくも日本国家の法の下にあることを蒙昧頑愚なる人民にお示しになるべく,火葬によらず御埋葬せられた後光明天皇から昭和天皇までの尊き御前例もものかわ,感染症予防等法302項本文により,不敬なる法令語のいう「新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある死体」として,御遺体をまず御火葬せられるべく勅命のあることが不可避ということになります。(東京都知事のごとき者に御身を低くして感染症予防等法302項ただし書の許可を乞うての御埋葬というようなことは,皇室の尊厳を毀損すること甚だしいものとして忌避せられるべきであると愚考せられます。)

 

 なお,「胸部疾患」といえば肺結核のことでしょうが,結核は二類感染症ですから(感染症予防等法632号),「胸部疾患」を死因とする遺体の火葬は,感染症予防等法302項本文の精神からするとそもそも拒否してはならぬものなのでした。

 

1953212日の故雍仁親王四十日祭に当り鵠沼の秩父宮別邸に行幸した際〕庭には東京赤坂表町の秩父宮邸から故雍仁親王の指示で移植された紅白の梅が咲いており,天皇はこれにつき,次の歌をお詠みになる。

  鉢の梅その香もきよくにほへどもわが弟のすがたは見えず

                          (実録第十一500-501頁)

 

(ウ)火葬場における皇族の火葬の手続(「皇族であったことを確認」)に関して

 昭和28112日付け衛環第2号は,「火葬許可証がなくとも,火葬の依頼があれば皇族であったことを確認の上火葬すべき」ものとしています。皇族であったことを確認することができさえすれば,市町村長発行の火葬許可証又はそれに代わる物がなくともよいとされた理由は何でしょうか。

 迂遠な議論から始めれば実は,戸籍法に基づく届出等がなくとも,死体又は焼骨の現に存する地の市町村長が交付し得る許可証に改葬許可証があります(墓埋法52項後段参照)。「改葬」とは「①埋葬した死体を他の墳墓に移し,②又は埋蔵し,若しくは収蔵した焼骨を,他の墳墓又は納骨堂に移すこと」をいい(墓埋法23項。丸数字は筆者によるもの),「過去に埋葬した死体を火葬し,他の墳墓に移すことも「改葬」に含まれ」ます(生活衛生法規研究会14頁)。しかし,この改葬の手続によるという便法も,塞がれていたということでありましょう。

 「日本国外で火葬を行い,その焼骨を国内で埋蔵又は収蔵する場合には,改葬の手続により取り扱うこととしている。」とされており(生活衛生法規研究会34頁),改葬の手続については一見いろいろ融通が利きそうなのですが(改葬手続については墓埋法施行規則2条に規定があります。),これは,国外から国内に焼骨を持って来て保管している状態を焼骨の収蔵と見ることができることに基づいての取扱いなのでしょう。(「収蔵」に関しては,「この法律で「納骨堂」とは,他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために,納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいう。」との規定があります(墓埋法26項)。)埋葬される前の死体(これは,焼骨ではありません。)については,まず最初に埋葬されない限り,どうしても葬ということにはならないでしょう。

 なお,道路工事現場で発見されたミイラ・人骨を火葬するための手続として,昭和321010日付け衛環発第53号厚生省環境衛生部長から東京都公衆衛生部長宛て回答「墓地,埋葬等に関する法律第14条第3項について」は,「市町村長は,発見者から発見に至った事情を詳しく取聴(ママ)のうえ,火葬許可証に代る証明書を発行し,火葬場の管理者は,これをもって火葬を行うことが適当な措置(ママ)考えられる。」と述べており(生活衛生法規研究会136-137頁),火葬許可証の特例的交付が可能であるようにも一見思われます。しかし,これについては,当該ミイラ・人骨は道路工事現場において既に埋葬されていたものと考えれば,「火葬許可証に代る証明書」なるものは実は実質的には改葬許可証のことであったと考え得るところです。

 また,墓埋法91項には「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは,死亡地の市町村長が,これを行わなければならない。」とあって,この場合,火葬許可証の交付を要せずに火葬がされ得ますが,現に火葬を行おうとする埋葬義務者がせっかくいるのに同項を類推適用するのは,やはり無理でしょう。(墓埋法9条にかかわらずそれぞれ行なわれる,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)1771項による死亡した被収容者に係る刑事施設の長のする火葬,少年院法(平成26年法律第58号)1451項による死亡した在院者に係る少年院の長のする火葬及び少年鑑別所法(平成26年法律第59号)1301項による死亡した在所者に係る少年鑑別所の長のする火葬も,他に火葬をする者がないときにされるものです。)引取者がいれば,引取者なき行旅死亡人として,行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号)7条により死体の所在市町村が火葬をするというわけにもいかないでしょう。死体解剖がされても,埋葬許可証又は火葬許可証に代わる死体交付証明書が市町村長から交付される死体解剖保存法(昭和24年法律第204号)13条の適用があるためには,引取者のない死体がその所在地の市町村長から医学に関する大学の長に交付される場合(同法12条)でなければなりません。

墓埋法5条及び14条に係る特例措置があり得るのは,それぞれ,「著しく異常かつ激甚な非常災害」(災害対策基本法(昭和36年法律第223号)86条の4),「大規模な武力攻撃災害」(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成16年法律第112号)122条)及び「新型インフルエンザ等緊急事態」(新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)56条)のときです。武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律(平成16年法律第117号)1711項による被拘束者に関する墓埋法4条及び51項の適用除外は「武力攻撃事態」に際してのこととなります。自衛隊法(昭和29年法律第165号)115条の4も墓埋法4条及び51項の適用除外について定めていますが,これは自衛隊の防衛出動のときのことです。

 改葬というわけにもいかず,火葬を行おうとされる方がせっかくおられるので墓埋法91項等に規定する場合でもない,ということでの「火葬許可証がなくとも,火葬の依頼があれば皇族であったことを確認の上火葬すべき」ものとの結論でしょうか。

なお,墓埋法24条により廃止された墓地及埋葬取締規則(明治17年太政官布達第25号。同布達は,旧刑法に対しては後法になります。)に関して,美濃部達吉は,墓地及び埋葬に関する警察制限の目的は「(1)仮死者埋葬の危険を防ぐこと,(2)犯罪隠蔽の虞なからしむること,(3)公衆の保健に危害を生ずる虞なからしむること」であり,(2)の目的のため「秘密埋葬は禁止せられて居り,死体を埋葬又は火葬するには,医師の死亡届書又は検案書を差出し,市町村長の認許証を得ることを要し,これを改葬するには警察官署の許可を受くるを要する。変死の場合には医師の検案書に検視官の検印を受けねばならぬ。」と述べていました(美濃部達吉『日本行政法 下巻』(有斐閣・1940年)255頁)。親王殿下の御遺骸であるぞとの証明が火葬場の管理者に対して高々とあれば,秘密埋葬であるとか犯罪隠蔽の虞があるというようなことはないわけです(仮死者埋葬の危険防止は,現在は墓埋法3条(「埋葬又は火葬は,他の法令に別段の定があるものを除く外,死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ,これを行つてはならない。但し,妊娠7箇月に満たない死産のときは,この限りでない。」)で手当てされています(同法211号に罰則規定)。また,火葬されるからこそ,公衆の保健に危害を生ずる虞がなくなるところです。)。(なお,「変死人ノ検視ヲ受ケスシテ埋葬シタル者」を2日以上5日以下の拘留又は50以上150銭以下の科料に処する旧刑法4269号及び「死亡ノ申告ヲ為サスシテ埋葬シタル者」を1日以上3日以下の拘留又は20銭以上125銭以下の科料に処する同法42710号の規定(18778月段階でのフランス語文での構成要件は,それぞれ,“Ceux qui ont fait inhumer une personne décédée de mort violente, sans avoir appelé l’autorité locale aux constatations nécessaires”及び“Ceux qui auront procédé à une inhumation avant le délai prescript par les règlements”(法令の定める期限の前に埋葬を行った者))に関しボワソナアドは,その改正提案(構成要件を“Ceux qui auront fait procéder à l’inhumation d’une personne sans avoir légalement fait constater le décès, ou même après cette constatation, mais avant le délai prescript par les règlements(適法な死亡の確認を受けずに,又は当該確認の後であっても法令の定める期限の前に人の埋葬を行なわしめた者)とするもの)について,フランス刑法358条の参照を求めつつ,「性急な埋葬を防止すること」が目的であると述べています(Boissonade, pp.1255 et 1258)。当該フランス刑法358条の条文は,Ceux qui, sans l'autorisation préalable de l'officier public, dans le cas où elle est prescrite, auront fait inhumer un individu décédé, seront punis de six jours à deux mois d'emprisonnement, et d'une amende de seize francs à cinquante francs; sans préjudice de la poursuite des crimes dont les auteurs de ce délit pourraient être prévenus dans cette circonstance. (当該官吏の事前の許可が求められているのにもかかわらず,当該許可を得ずに死者を埋葬させた者は,6日から2月までの重禁錮及び16フランから50フランまでの罰金に処せられる。ただし,当該軽罪の犯人が当該状況において問擬され得る重罪の訴追を妨げない。)/ La même peine aura lieu contre ceux qui auront contrevenu, de quelque manière que ce soit, à la loi et aux règlements relatifs aux inhumations précipitées. (いかなる態様であるかを問わず,性急な埋葬に関する法令の規定に違反した者も,同じ刑を科される。)というものでした。

 

   ところで,日本国民以外の者が日本国外で死亡した場合は,我が戸籍法に基づく死亡届出は(天皇・皇族の崩御ないしは薨去について行われないように)行われないはずです。これに関して,昭和27630日付け厚生省環境衛生課長から北海道衛生部長宛て回答衛環第66号「墓地,埋葬等に関する法律の疑義について」(生活衛生法規研究会111-114頁)は,身元及び死亡地不明の死体が海洋漂流中船舶に収容された場合は,当該船舶が入港した地の市町村長が墓埋「法9条を準用して措置」するものとする一方,「乗務員或いは他の者が埋葬又は火葬する場合は法第7条による。」としています(同書114頁)。現在は削除されている当時の墓埋法7条は「船舶の中で死亡又は死産があつたときは,その死体を埋葬又は火葬しようとする者は,その船舶が最初に入港した地の市町村の許可を受けなければならない。」と規定していました。しかし,当時の墓埋法7条により,戸籍法87条の死亡の届出義務者以外の者が火葬許可証の交付を得ようとしても,当時の墓埋法82項にいう死亡の届出(戸籍法によるもの)がされるものではない以上,それは不可能であったはずです。すなわち,「乗組員或いは他の者が埋葬又は火葬する場合は法第7条による。」といわれても,「乗務員或いは他の者」が戸籍法87条の届出義務者ではない限り(なお,戸籍法87条の届出義務者がいるということであれば,身元不明の死体ではないということになるはずです。),当時の墓埋法82項との関係で行き詰っていたはずであるところです。とはいえ,火葬費を出してくれるという奇特な人がせっかくいるのに,それをあえて謝絶して都道府県の費用で火葬をするというのもおかしいことだったでしょう(墓埋法92項は「前項の規定により埋葬又は火葬を行つたときは,その費用に関しては,行旅病人及び行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号)の規定を準用する。」と規定し,「すなわち,その費用は,死亡者の遺留の金銭又は有価証券があればそれを充当し,なお足らない場合は相続人,死亡者の扶養義務者の順で負担しなければならない。さらにこれをもっても足りない場合は遺留物品を売却してこれに充て,最後は埋葬又は火葬を行った地の都道府県の負担となるものである」そうですが(生活衛生法規研究会42頁),落魄した身元不明の死体については,結局都道府県負担となるものと思われます。)。漂流していた死体ですので,埋葬されていた死体として改葬の手続によるわけにもいかないでしょう。(これについては,船員法(昭和22年法律第100号)15条の水葬がされたものならば埋葬されたものに準ずるものと解してよいのではないかといっても,船員法施行規則(昭和22年運輸省令第23号)15条によれば,水葬の場合は「死体が浮き上らないような適当な処置を講じ」られているはずなのでした。)現実には,結局,お役所に代わって費用を負担してあげましょうというような奇特な人はおらず,筆者がするような心配はそもそも無用であったのではありましょうが。

 

   なお,墓埋法51項の許可を受けた者と,実際に火葬を行った者とが異なる場合の法律関係はどうなるのでしょうか。墓埋法51項「の規定に違反した者」は同法211号の刑を科されることになっていますが,構成要件が不明確であるので――実行行為が,火葬を行なおうと思っているのに市町村長の許可を得ないことなのか,それとも,市町村長の許可がないのに火葬を行うことなのかがはっきりしません――そもそも同項違反云々が刑事事件として立件されることは難しいようですが,一応問題になります。これについては,「埋火葬の許可証は,その性格上1死体につき1枚発行されるのが原則である」ところ(生活衛生法規研究会39頁。また,昭和3278日付け衛環第25号厚生省環境衛生課長から名古屋市衛生局長宛て回答依頼(ママ)「火葬許可証再発行並びに改葬手続について」(同書135-136頁)),現実には,遺体の引渡しと共に火葬許可証を交付することによって火葬許可を受けた者たる地位が譲渡されるものとして取り扱われているのではないでしょうか。「許可の効果は,人的には,特定人に対してのみ生ずる場合とそうでない場合とがある。すなわち,出願者の主観的事情に着目して与えられる許可(例えば医師免許,運転手の免許)は,一身専属的にその効果が生ずるのに対し,物又は設備等の客観的事情に着目して与えられる許可(自動車の車体検査,建築物の使用許可)にあっては,物又は設備の所有者又は占有者たる資格において,その許可が与えられていると解すべく,従って,物又は設備の承継人は,その許可の効果をも承継すると解するのが,妥当であろう。」というわけです(田中二郎『行政法総論』(有斐閣・1957年)306頁註(5)。また,原田尚彦『行政法要論(全訂第三版)』(学陽書房・1994年)145-146頁)。


(下):陵墓との関係,墓埋法は「皇族には適用されないもの」との解釈,平成19年八王子市条例第29号等に関して

http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080110347.html

 

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旧秩父宮別邸跡(神奈川県藤沢市)