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第1 余りなじみのない刑法93条及び94

 天下太平の平和国家である日本国の司法試験では,その短答式による筆記試験の刑法科目(司法試験法(昭和24年法律第140号)313号)及び論文式による筆記試験の刑事系科目(同条23号)において,

 

刑法(明治40年法律第45号)93条(私戦予備及び陰謀) 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で,その予備又は陰謀をした者は,3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし,自首した者は,その刑を免除する。

又は

同法94条(中立命令違反) 外国が交戦している際に,局外中立に関する命令に違反した者は,3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

 

に関する出題がされることはないでしょう(ただし,司法試験法33項の法務省令の定めである司法試験法施行規則(平成17年法務省令第84号)21項によって,両条が出題範囲から除外されているということはありませんので,念のため。)。したがって,弁護士であるからといって,刑法93条又は94条について十分な学識があるとは限りません(これは,我が国の裁判官,検察官又は弁護士になろうとする者に必要な学識(司法試験法11項)は,刑法93条及び94条については,我らの平和の現実に鑑みるに,理想的に十分なものまでである必要は必ずしもないだろうといううがった見方,ということになるでしょうか。)。また,司法試験では「学識及びその応用能力」(司法試験法11項),「専門的な法律知識及び法的な推論の能力」(同法31項),「専門的な学識並びに法的な分析,構成及び論述の能力」(同条2項)及び「法律に関する理論的かつ実践的な理解力,思考力,判断力等」(同条4項)の有無の判定はされるようですが,そこにおいて前提となる専門的な法律知識ないしは学識は,法科大学院又は予備校で素直に学ばれることが想定されており,更にその奥ないしは背後に貫穿する尖った調査研究能力までは特に求められてはいないのでしょう。

 

第2 いわゆる基本書における解説

 いわゆる基本書においても,刑法93条及び94条の解説は薄くなっているところです。

 

1 私戦予備及び陰謀の罪

 刑法93条の私戦予備及び陰謀の罪については,

 

  目的犯 外国に対し私的に戦闘を為す目的でその予備又は陰謀をする罪である。外国とは外国の一地方や特定の外国人の集団ではなく,国家としての外国である。私的に戦闘行為をするとは国の命令を経ずに組織的な武力攻撃を行うことである。ただ,日本国憲法は国権の発動としての戦争を禁じている。予備とは,兵器の調達や兵士の訓練等,外国との戦闘の準備行為一般を指す。陰謀とは,私戦の実行を目指して複数の者が犯罪意思をもって謀議することである。

   自首した者に刑の必要的免除を定める。通常の自首(42条Ⅰ項)の特別規定である。

   (前田雅英『刑法各論講義 第4版』(東京大学出版会・2007年)584-585頁)

 

とあるばかりです。なお,「組織的な武力攻撃」とありますから,さいとう・たかを(2021年歿)のゴルゴ13がするようなone-man armyによる単独戦闘行為は,私戦には含まれないようです。


 刑法学の泰斗の著書には,刑法93条が「私戦そのものについては規定を欠く」ことについて,「私戦が実際に開始されるということはほとんど想像ができないから規定を省いたのであろう。殺人罪その他の規定の適用にゆだねられることになる。」との記載があります(団藤重光『刑法各論』(有斐閣・1961年)102頁三註(1))。刑法の「各論」は「論理的よりも事実的・歴史的な考察が重視されなければならないことがすくなくない」とされておりますところ(団藤1頁),この点に関しては,後に,現行刑法案の帝国議会審議の場に遡って,法案提出者の意思に係る資料を御提供します(第411))。

  

2 中立命令違反の罪

刑法94条の中立命令違反の罪については,

 

 白地刑罰法規 外国交戦の際,すなわち複数の国家間で現に戦争が行われている場合に,局外中立に関する命令に違反する罪である。局外中立に関する命令とは,わが国が中立の立場にある場合に,国際法上の義務に従い交戦当(ママ)国のいずれにも加担しない旨指示する命令で,具体的内容は,個々の中立命令により異なる2。本罪の構成要件は,個別の局外中立命令の内容に左右されるので,典型的な白地刑罰法規とされる。

  2)具体的には,普仏戦争や米西戦争の際に太政官布告や詔勅の形で中立命令が出された。現行刑法下では,伊土戦争の際の明治44103日の詔(ママ)がある。

  (前田・各論585頁)

 

ということで,これも「構成要件は,個別の局外中立命令の内容に左右される」ということではっきりせず,肩透かしです。

 そこで,1911年(明治44年)103日付け(同日の官報号外で公布)の明治天皇の詔書(公式令(明治40年勅令第6号)1条,12条参照)を見ると,これまた,

 

 朕ハ此ノ次伊太利国ト土耳其国トノ間不幸ニシテ釁端ヲ啓クニ方リ帝国ト此ノ両国トノ間ニ現存スル平和ノ関係ヲ維持セムコトヲ欲シ茲ニ局外中立ヲ宣言ス帝国臣民並ニ帝国ノ管轄内ニ在ル者ハ戦局ノ終ハルニ至ルマテ厳正中立ト相容レサル一切ノ行動ヲ避ケムコトヲ期セヨ

 

とあるばかりです。「個別の局外中立命令の内容」なるものは,「厳正中立ト相容レサル一切ノ行動ヲ避ムコトヲ期セヨ」というものにすぎないようでもあって,甚だ漠としています。(なお,中立命令違反の罪については,国外犯の処罰はありません(刑法2条から4条まで)。)「具体的内容は,個々の中立命令によ」るものとして片付けて安心してはならなかったもので,結局,刑法94条自体についての具体的な説明が求められるもののようです(ちなみに,団藤102頁四註(2)においては,伊土戦争に係る明治44103日の詔書は,中立命令の前例として掲げられていません。)

 なお,1911年の伊土戦争は,イタリア王国がオスマン=トルコ帝国にトリポリを要求する同年928日の最後通牒を同帝国が拒絶し,同月29日に開始せられたもので,19121018日調印のローザンヌ条約によりリビアがイタリアの支配下に入る結果となっています。




私戦予備及び陰謀の罪(刑法93条)並びに中立命令違反の罪(同条94条)に関して

 (承):旧刑法の条文及び18778月案154条の2(私戦の罪)

     http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505646.html

(転):18778月案155条(外国人の刑の減軽)及び156条(中立違反の罪)並びに旧刑法133条及び134

    http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505655.html

 (結):まとめ http://donttreadonme.blog.jp/archives/1079505660.html