(上)『法典調査会民法議事速記録』等(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1078842084.html


2 ドイツ民法草案

ところで,穂積陳重は我が民法545条の原案起草に当たってドイツ民法草案を参考にしたようですが(参照条文として,ドイツ帝国のものとしては,ドイツ民法第一草案427条,同第二草案298条,同商法354条,プロイセン国法第1部第11331条,ザクセン法911条から914条まで及び1109条並びにバイエルン草案第2326条,362条及び368条が挙げられています(民法議事速記録第25109丁表)。),ドイツ民法の当該草案はどのようなもので,当時のドイツにおける議論はどのようなものだったのでしょうか。

 

(1)ドイツ民法第一草案427

まず,1888年のドイツ民法第一草案427条。

 

  Der Rücktritt bewirkt, daß die Vertragschließenden unter einander so berechtigt und verpflichtet sind, wie wenn der Vertrag nicht geschlossen worden wäre, insbesondere, daß kein Theil eine nach dem Vertrage ihm gebührende Leistung in Anspruch nehmen kann, und daß jeder Theil verpflichtet ist, dem anderen Theile die empfangenen Leistungen zurückzugewähren.

 (解除により,契約締結者は相互に,当該契約が締結されなかった場合と同様の権利を有し,及び義務を負う状態となる。特に,いずれの当事者も当該契約により同人に与えられる給付を請求することはできず,かつ,各当事者は受領した給付を相手方に返還する義務を負う。)

   Eine empfangene Geldsumme ist mit Zinsen von der Zeit des Empfanges an, andere Gegenstände sind mit Zuwachs und allen Nutzungen zurückzugewähren, auch ist wegen der nicht gezogenen Nutzungen und wegen Verschlechterungen Ersatz zu leisten, soweit bei Anwendung der Sorgfalt eines ordentlichen Hausvaters die Nutzungen gezogen und die Verschlechterungen abgewendet worden sein würden.

  (受領された金額は受領の時からの利息と共に,他の目的物は増加及び全ての収益と共に返還されるべきものである。善き家庭の父の注意を尽くせば利益が収取され,及び劣化が回避されたであろう限りにおいて,収取されなかった利益及び劣化に係る代償も給付されるべきものである。)

   Wegen Verwendungen hat der zur Zurückgabe Verpflichtete die Rechte, welche dem Besitzer gegen den Eigenthümer zustehen.

  (支出した費用について,返還義務者は,占有者が所有者に対して有する権利を有する。)

   Kann der Empfänger einen Gegenstand nicht zurückgewähren, so ist er zur Ersatzleistung nur dann nicht verpflichtet, wenn ihm weder Vorsatz noch Fahrlässigkeit zur Last fällt.

  (受領者は,受領物を返還できない場合においては,故意及び過失が同人に帰せられないときに限り,代償給付の義務を負わない。)

 

 第一草案理由書(Motive)は,同条について次のように解説します。

 

  〔前略〕解除の意思表示(Rücktrittserklärung)によって,直接,両当事者のために(第426条第1項及び第2項),あたかも当該契約が締結されなかったごとくに,当該契約に基づく請求に対する独立の(時効にかからない)抗弁並びに返還に係る人的(persönlich)請求権及び人的義務が生ぜしめられる。原状回復義務(obligatio ad restituendum in integrum)である。債権的返還請求権に係る(des obligatorischen Restitutionsanspruches)この規格化は,解除の訴え(Wandelungsklage)に関係するところの権利と連結している(ヴィントシャイト394条第2,ザクセン法914条以下)。〔中略〕当該原則の定立と共に本案は,疑わしいときは解除による解除条件(Resolutivbedingung des Rücktrittes)の下に契約は締結されたものとみなされるという観念に――現存の諸法律においては,解除の効果を解除条件の成就に係る規定によって規整することは一般的ではなく,あるいは解除条件の成就がその結果として返還義務(die Verpflichtung zur Restitution)しかもたらさないにもかかわらず――規範として(für die Regel)依拠している通用の法律とは,その点において異なっているのである(ヴィントシャイト323条,プロイセン国法第1部第11331条,332条及び272条以下,フランス民法1184条,オーストリア法919条,1083条及び1084条,ザクセン法1107条以下,1111条,1115条,1436条及び1438条,スイス法1783項,ヘッセン草案第4部第251条,56条,57条,58条,59条以下,62条及び69-71条,バイエルン草案356条,362条,363条,364条,365条,368条,369条及び374-376条並びにドレスデン草案457条,459-463条,468条,473条,132条及び134条を見よ。)。取引の安全は,解除条件の帰結(当然直ちに生ずる(ipso jure)財産権の復帰,物権的拘束)を遠ざけておくことを要求する。本案の原則――これにより解除(Rücktritt)は当事者間における債権的法律関係のみを生じさせ,また,それにより同人らの間では契約がその効力において遡及的に(rückwärts)廃されるもの――は,両当事者の意思(Intention)の規則についてと同様,解除権の本質にもふさわしいものである。もし解除の意思表示が解除条件として働くのならば,両当事者はそのことを特約していなければならない。他者の債権に係る第三取得者の悪意は当該取得を妨げもせず当該取得者に損害賠償の義務を負わせないものとする本案の原則及び更に原理からは,同時に,解除権者は第三取得者に対して何らの請求権も有しないということが帰結される。

   第2項の規定は,原則の敷衍を含むとともに,そこにおいて,契約に基づきなされた給付は,単に理由なしにされたものとして返還請求権の規則に従って返還請求され得るものではないという当該原則の意味を明らかにする。原状回復への拘束から(Aus der Verbindlichkeit zur Herstellung des früheren Zustandes),相手方からと同様,解除権者から,受領した金額は受領した時からの利息(第217条)と共に,他の目的物は増加(第782条以下)及び全ての利益(第793条)と共に返還請求されるべきものであることが帰結される。当該原則により,返還義務者は,相手方を,具体的な状況により必要となるところの,契約がそもそも締結されなかったかのような状態に戻すための措置をするよう義務付けられる。当該契約に基づき生ずることとなった拘束からの解放及び当該契約に基づきなされた役務に対する代償給付もこれに属する。当初から解除(Rücktritt)の可能性が存在したということに鑑み,更に,各契約締結者の解除前からのものを含む過失に対する責任が理由付けられることとともに,このことから,善き家庭の父の注意を尽くせば利益が収取され,劣化が回避されたであろう限りにおいて,収取されなかった利益の又は劣化に係る代償給付の義務が帰結される。費用支出に基づき,返還義務者には,所有権主張者に対する占有者に帰属するものと同じ権利が認められる(第3項,第936条以下。ザクセン法1109条,1115条,1436条及び913条,ヘッセン草案第4部第157条,62条及び71条並びに第4部第2172条及び173条,バイエルン草案326条,362条,368条及び376条並びにドレスデン草案182条,168条,169条,460条以下及び473条参照)。第4項の規定は,既述の原理の帰結を述べるにすぎない。すなわち,ここにおいても,返還の不能(Unmöglichkeit)は,羈束からの解放としてのみ観念されるべきものなのである。

 

怪し気な翻訳ですが,要は,解約の解除の効果に係る理論構成としては間接効果説であり(「間接効果説は,解除によつて,未履行の債務については,履行を拒絶する抗弁権を生じ,既履行のものについては,新たに返還債務を生ずると説く」(我妻190頁)。),フランス民法11841項及び我が旧民法財産編4211項流の双務契約に解除条件が包含されているものとする構成は採らないということのようです。(なお,フランス及び我が国においては,解除条件は本来遡及効を有していたものです(フランス民法11831項,旧民法財産編4092項)。民法1272項が条件に遡及効がないことにしたのは,「当事者ノ意思及ヒ実際ノ便宜ヨリ之ヲ考フレハ或ハ其効力ヲ既往ニ遡ラシムルヲ可トスヘキカ」と悩みつつも,「一ニハ現在ノ事実ノ効力カ既往ニ遡ルハ普通ノ法理ニ反スルモノナルト一ニハ其効力カ既往ニ遡ルカ為メ第三者ノ権利ヲ攪乱シ又当事者間ニ於テモ既往ノ事実ニ変更ヲ生セシムルニ至リ大ニ不便ヲ感スルコトナシトセサルトヲ以テナリ」との理由であるそうです(梅謙次郎『訂正増補民法要義巻之一 総則編(第33版)』(法政大学=有斐閣書房・1911年)332-333頁)。無論,これについては当事者の意思により変更が可能です(民法1273項)。)

 

(2)ドイツ民法第二草案298

1894-95年のドイツ民法第二草案298条は次のようになっています。

 

   Hat sich bei einem Vertrag ein Theil den Rücktritt vorbehalten, so sind die Parteien, wenn der Rücktritt erfolgt, unter einander so verpflichtet, wie wenn der Vertrag nicht geschlossen wäre. Jeder Theil ist berechtigt, die ihm nach dem Vertrag obliegende Leistung zu verweigern, und verpflichtet, eine empfangene Leistung zurückzugewähren. Für geleistete Dienste sowie für die Ueberlassung des Gebrauchs oder der Benutzung einer Sache ist der Werth zu vergüten.

  (契約において一当事者が解除を留保している場合において,解除がされたときには,両当事者は,当該契約が締結されなかった場合と同様の相互の義務関係にあることとなる。各当事者は,当該契約によって同人に義務付けられた給付をすることを拒む権利を有し,かつ,受領した給付を返還する義務を負う。提供された役務に対して,及び物の使用又は収益の許与に対しては,価額が償還されるものとする。)

   Die Ansprüche auf Herausgabe oder Vergütung von Nutzungen sowie auf Schadensersatz wegen Unterganges oder Verschlechterung und der Anspruch auf Ersatz von Verwendungen bestimmen sich nach den Vorschriften, welche für das Verhältniß zwischen dem Eigenthümer und dem Besitzer vom Eintritte der Rechtshängigkeit des Eigenthumsanspruchs an gelten. Eine Geldsumme ist von der Zeit des Empfanges an zu verzinsen.

  (返還及び収益の償還並びに滅失又は劣化に係る損害賠償の請求並びに費用償還の請求については,本権に係る訴訟が係属してからの所有者と占有者との関係に係る規定の例による。受領の時から利息額が生ずるものとする。)

 

1項においては,未履行債務に対する抗弁構成が明確化されています。ドイツ民法第二草案までの段階では,いわゆる直接効果説の影は極めて薄いところでした。

 第一草案に関する議事録を見ると,次のような議論がされています(Protokolle 93. VI)。

 

427条について,次の提案がされた。

1. 第一草案の規定は,次の条項によって置き換えられるべきである。

 

   契約において一当事者が解除を留保している場合においては,解除は,当該契約を原因とする債務関係が消滅(erlischt)するという効力(Wirkung)を有する。両当事者は,当該契約が締結されなかった場合と同様の相互の義務関係にあることとなる。

   各当事者は,相手方に対し,受領した給付を返還する義務を負う。受領された金額は受領の時からの利息と共に償還されるものとし,他の物は増加及び全ての収益と共に返還されるものとする。受領された役務の給付に対しては,給付の時の価額が償還されるものとする。

   収取されなかった収益に関して,返還されるべき物の維持及び保管の責任に関して,並びに当該物に係る費用に関しては,本権に係る訴訟が係属してからの所有者と占有者との法律関係に係る規定が準用される。

 

2. 上記の提案については,第2項の第2文は削られるべきであり,第3項の最初の部分は「返還及び収益の償還に関して,」云々とされるべきであり,第3項に「受領された金額については,受領の時から利息が支払われるものとする。」との文が加えられるべきである。

 

   a) 第1の提案は,その第1文において,第一草案と次の点で相違する。すなわち,当該提案は,契約を原因とする債務関係を解除によって消滅させるものとしているのに対し,第一草案においては,債務関係は存続し,かつ,解除に基づいては抗弁のみが与えられるべきものとされている。当該提案のためには,次のように論じられた。

   第一草案における法律構成の基礎たる前提は,両当事者は当該契約はもはや存在しないものとして振る舞うべきものとしているにもかかわらず契約は存続するというものであるが,自然な理解に反するものである。実体法的抗弁は不可欠の法形式ではあるが,時効と同じようにそれと共に特別の目的が達成されるべき場合においてのみ援用されるものである。ここにおいては,当該法形式を用いる必要性が認められない。第一草案理由書281頁〔前記引用部分〕は,第一草案の奇異の感じを抱かせる法律構成を正当化するに当たって,解除が直接作用すること(die unmittelbare Wirkung des Rücktritts)は,債務の履行のためにされた物権行為(所有権の移転,地役権の設定等)を解除条件に適用される原理によって無効化し,かくして取引の安全を危殆化するという事態をもたらすという理由付けをもってした。これは誤りである。直接廃棄されるものは,債務関係,すなわち有因行為のみである。有因行為のためになされた物権関係の変動はそれとして存続し,両当事者は,しかし,反対の法律行為をもってそれを取り除くことを義務付けられるのである。解除後になお再び契約関係についてそのままにしておこうと両当事者が欲する場合において新たな契約の締結を省略することができるという点においても,第一草案の法律構成の利点なるものを認めることはできない。実行された解除を取り除くためには,その都度契約が必要である。解除によって廃棄された契約の有効化のためには一定の形式が必要である場合においても,無形式の合意をもって再び効力を持たせることは認められ得ないのである。

   当該陳述に対しては次のような異議があった。いわく,提案された規定は,物権契約に対する(債務関係法の外においても)その適用において,第一草案理由書において定められた原則からすると受け容れることができないものと思われると。これに対しては,もちろん,物権契約に関してはそもそも解除について論ずることはできないとの見解が主張された。当該見解も,専ら他の側から争われた。また,同時に,提案された文は「債務関係」との語が既に示しているように債権契約についてのみ関係するものである,という点にも注意喚起がされた。多数の者は当該理解に傾きつつも,第1の提案がその第1文において意図した第一草案の変更には大きな意義を見出さなかった。

   変更案は却下された。

   その理由は以下のとおりである。

   実務的には,ある必要な形式及びその費用の支出を繰り返すことによる契約の更新の省略が,第一草案によればなされる,ということがせいぜい考慮され得るにすぎない。この点を重視しないのであれば,問題は,第1の提案における専ら理論的な第1文が表現しようとする法律構成の相違のみにかかわる。双方の法律構成に対して,正当化の弁が述べられた。第1の提案の法律構成の方が自然な理解に近いということについては,疑いが存する。両当事者の見解によればむしろ,留保された解除が実行されたときは,当該契約はその時から消滅するのではなく,遡及的に無効となるのである(der Vertrag nicht erst von jetzt an erlöschen, sondern rückwärts hinfällig werden)。当該見解に対して,第一草案は,全体的にではないとしても,物権的効力(dingliche Wirkung)が〔契約の〕消滅について(dem Erlöschen)遡って(ex tunc)認められる,という顧慮をしているところである。

   b) 第一草案の第1項は――第1の提案は実質的にはその第1文においてのみ相違していたところであるが,同文の却下後――承認された。

   第2項については,他の点では専ら字句修正的な第2の提案が,「増加と共に(mit Zuwachs)」の文字を削るべきものとしている。

   これに関して委員会は,以下のように考慮した上,同意を表明した。

   増加の概念は,何の問題もなしに自明のものであるものではないし,いずれにせよここにおいては不可欠ではない。当該概念を第1878条において維持することを欲し,かつ,そうしなければならないのであれば,その旨留保することができる。第427条のためには,土地の構成物に関する一般規定――というのは,少なくとも主だったところでは,それについてのみ増加が問題となり得るからである(プロイセン国法第1部第9222条)――で申し分なく十分である。土地が返還されなければならない場合においては,それはその全ての構成物と共に返還されるべきことは自明のことである。第2項において増加を特に強調することは,費用をかけて生じた増加に第3項の適用があることを分かりにくくする。

   c) 第1の提案の第2項第2(ママ)文において提案された,受領された役務の給付は返還されるべきものとする,種類に関する第一草案に対する補充は承認された。

   第3項については,実質的に異議は唱えられなかった。

   d) 第4項は,第1の提案に倣って削られた。ここで示された規定は,第一草案の第2項及び第3項の条文が第1の提案の第3項によってこうむった変容を通じて大部分カヴァーされているとみなされ,また,部分的には,第429条がより分かりやすく表現していること〔「解除権者が受領した物がその責めに帰すべからざる事由によって滅失したときは,解除権はなお存続する。」〕と同じことを述べている限りにおいて,当該パラグラフとの関係では余計なものとみなされる。

 

契約の解除による消滅,ということはさすがになおも由々しいものだったのでしょうか。ローマ法について,「bona fides上,契約はたとえ不履行があっても一方当事者から解消しうるものではないし,不履行に備えるためにこそ,契約は存在していなくてはならない。当事者の意思のみによる解除の制度はついにローマ法では登場しない」と説かれています(木庭顕『新版ローマ法案内 現代の法律家のために』(勁草書房・2017年)147頁)。

なお,ローマ法上の売買の付加的約款中「一定期間内に代価の支払なき場合に売買を解除する約款」であるlex commissoria(ドイツ普通法時代に契約の解除理論構成の材料に用いられたもの)については,「当初は停止条件的に理解せられていた」そうです(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)188-189頁)。ここでの「停止条件」は我が民法1271項のそれでしょうから,lex commissoriaに基づく契約解除の効力は遡及的ではなかったものでしょう。

 

3 解除条件成就の遡及効に関して

解除条件の成就に遡及効がある場合(民法1273項参照)に関しては,我が国においては,「この遡及効は,物権的(絶対的)に生ずるものか,それとも,債権的(相対的)に生ずるものか。ドイツ民法は,明文規定(ド民159)をもつて債権的効力を生ずるものとしている。わが民法にはこれに対比すべき規定はない。多くの学説は,物権的にその効力を生じ,当事者間においてのみならず第三者との間においてもその効力を生ずるものと解している(鳩山537,三潴502,近藤461,今泉434)。それによつて被ることあるべき第三者の不利益は,対抗要件等(177178192467)によつて防止せられるからという(行判大6410新聞126029)。」とのことだそうです(於保編331頁(金山))。ドイツ民法159条は「法律行為の内容が,条件の成就に結び付けられた効果は既往に遡るものとしている場合においては,条件が成就したときには,各当事者は,当該既往の時点において当該効果が生じた場合に彼らが有すべきであったものを相互に与えるように義務付けられる。」と規定しています。

契約の解除に遡及効を認める直接効果説下においては,「解除の影響を受けない〔民法5451項ただし書〕の第三者とは,解除された契約から生じた法律効果を基礎として,解除までに,新たな権利を取得したものである(942項や963項の第三者の意味に同じ〔略〕)。契約の目的物の譲受人や目的物の上に抵当権・質権などを取得した者――但し,対抗要件を備えた者でなければならないことはいうまでもない(大判大正10517929頁)――は,第三者である」(我妻198頁。下線は筆者によるもの),「解除の遡及効が第三者の権利を害し得ないとう制限は,もとより,解除前の第三者に対する関係をいうに過ぎない。解除された後の第三者との関係は,対抗要件の問題として解決すべきである。」(我妻199頁)ということになっています。対抗要件が大活躍です。なお,「解除前の第三者に登記が要求されるのは,解除権者と対抗関係に立つからではなく,保護に値する第三者となるには権利者としてなすべきことを全て終えていなければならない,という発想による(〔解除の遡及効を前提とした上での〕権利保護資格要件の考え方〔略〕)。そうだとすると,第三者は解除までに登記を取得する必要がありそうである。〔中略〕少なくとも返還請求を受けるまでに第三者は登記をそなえていることが必要であり,かつ,解除権者自身は登記なくして未登記の第三者に勝てると考えるべきだろう。」との主張(内田貴『民法Ⅱ 債権各論』(東京大学出版会・1997年)100頁)は飽くまでも一学説であって,「判例は,対抗関係説に立っているようにみられる(大判大10.5.17民録27.929,最判昭33.6.14民集12.9.144966],最判昭58.7.5集民139.259)。解除の効果について,いわゆる直接効果説の見解に立つことを前提とした場合にも,解除者と第三者の関係を対抗関係と解することは可能であると思われる。対抗関係説によれば,Yが〔Xを売主,Aを買主とする売買契約の解除前に更にAから目的物を購入した〕解除前の第三者であるとの主張の法的構成については,目的物がAX間,AY間で二重に譲渡された場合と同様に解することができる」ものです(司法研修所『改訂 紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造』(司法研修所・20069月)120頁)。

 

(下)旧民法等(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1078842113.html