1 暴対法第5章

 平成20年法律第28号によって同法の公布の日である200852日から,3条からなる次の章が,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号。以下「暴対法」といいます。)に加えられています(平成20年法律第28号附則1条)。ただし,第31条及び第31条の3の規定は,既に平成16年法律第38号によって暴対法旧15条の2及び旧15条の3として存在していたところ(平成16年法律第38号の附則1条によって同法が公布・施行された2004428日から暴対法に追加),改めて当該新章に移されたものです。

 

    第5章 指定暴力団の代表者等の損害賠償責任

   (対立抗争等に係る損害賠償責任)

  第31条 指定暴力団の代表者等は,当該指定暴力団と他の指定暴力団との間に対立が生じ,これにより当該指定暴力団の指定暴力団員による暴力行為(凶器を使用するものに限る。以下この条において同じ。)が発生した場合において,当該暴力行為により他人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

  2 一の指定暴力団に所属する指定暴力団員の集団の相互間に対立が生じ,これにより当該対立に係る集団に所属する指定暴力団員による暴力行為が発生した場合において,当該暴力行為により他人の生命,身体又は財産を侵害したときも,前項と同様とする。

   (威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任)

  第31条の2 指定暴力団の代表者等は,当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。ただし,次に掲げる場合は,この限りでない。

   一 当該代表者等が当該代表者等以外の当該指定暴力団の指定暴力団員が行う威力利用資金獲得行為により直接又は間接にその生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得ることがないとき。

   二 当該威力利用資金獲得行為が,当該指定暴力団の指定暴力団員以外の者が専ら自己の利益を図る目的で当該指定暴力団員に対し強要したことによって行われたものであり,かつ,当該威力利用資金獲得行為が行われたことにつき当該代表者等に過失がないとき。

   (民法の適用)

31条の3 指定暴力団の代表者等の損害賠償の責任については,前2条の規定によるほか,民法(明治29年法律第89号)の規定による。

 

「指定暴力団」とは暴対法3条の規定により都道府県公安委員会の指定した暴力団をいい(同法23号),「暴力団」とは「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」をいい(同条2号),「暴力的不法行為等」とは暴対法「別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為」をいい(同条1号),「代表者等」とは,「当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者」をいい(同法33号),「指定暴力団員」とは「指定暴力団等の暴力団員」をいい(同法9条柱書き),「指定暴力団等」とは「指定暴力団又は指定暴力団連合」をいい(同法25号),「指定暴力団連合」とは同法4条の規定により都道府県公安委員会が指定暴力団の連合体として指定した暴力団をいい(同法24号),「暴力団員」とは「暴力団の構成員」をいいます(同条6号)。このうち「代表者等」については,「指定暴力団の代表者等は,組長,総裁,会長,総長等と称する当該指定暴力団の首領,あるいは若頭,若頭補佐,会長補佐,理事長補佐等と称するいわゆる最高幹部会議のメンバーが該当する。」とされています(堀誠司(警察庁刑事局組織対策部企画分析課課長補佐)「指定暴力団の代表者等に係る無過失損害賠償責任制度について」法律のひろば575号(20045月号)14頁)。

 

2 暴対法31条の2の解釈論の例

ところで,最近筆者の興味を惹いた暴対法31条の2の解釈論があります。次のような事案においては,指定暴力団員のした身体に対する侵害に係る損害賠償を,同条の規定を適用して当該指定暴力団の代表者等に対して請求し得るのだ,という原告訴訟代理人弁護士たちによる主張がそれです。

 

 事案1

  Aの幹部の子息である原告が指定暴力団U(以下「U」といいます。)の構成員であったaにより刃物で複数刺突されるという襲撃行為(以下「本件刺突」といいます。)を受けて負傷したところ,これはaが威力利用資金獲得行為を行うについて他人である原告の生命及び身体を侵害したものであるから,Uの代表者等である被告ら(総裁(Y₁)及び会長(Y₂))は損害賠償の責任を負う。Uは,Aのかかわる工事の利権獲得を目指していた(原告自身はAと全く関係のない,異分野の専門職として働いていました。)。U傘下の暴力団であるVの本部長であったbが,本件刺突の前,V構成員であったaに対し,原告を刃物で襲撃するよう指示していた。本件刺突「はUの威力を維持し資金獲得を容易ならしめるために行われたものであるから,暴対法31条の2に基づき,原告の生命及び身体の侵害による損害を賠償すべき責任を負う。」(判時242759-60頁)

 

 事案2

  Uの捜査・取締りを指揮していた元警察官であった原告が,退職から1年余り経過した後の2012年某月某日,a暴力団法31条の2から拳銃で銃撃されるという襲撃行為(以下「本件銃撃」といいます。)を受けて負傷したところ,本件銃撃はY₁及びY₂が共謀し,aに指示して行わせたものであって,構成員であるaが資金獲得活動に向けたUの威力を維持するための行為を行うについて他人である原告の生命及び身体を侵害したものである。本件銃撃「はUの威力を維持し資金獲得を容易ならしめるために行われたものであるから,暴対法31条の2に基づき,原告の生命及び身体の侵害による損害を賠償すべき責任を負う。」(判時242765-66頁)

 

 上記主張によれば,暴対法31条の2の威力利用資金獲得行為は,指定暴力団員のする,「当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を〔同人が〕得,又は当該資金を得るために必要な地位を〔同人が〕得る行為」ではなくて,「当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を〔同指定暴力団が〕得,又は当該資金を得るために必要な地位を〔同指定暴力団が〕得る行為」(当該行為に密接に関連する行為も含まれる。)ということになるようです。はて,このように読み得るものなのか。

 

3 威力利用資金獲得行為とは何か


(1)第169回国会
  

   威力利用資金獲得行為でございますが,指定暴力団員がその所属する指定暴力団の威力を利用して資金を得,又は資金を得るために必要な地位を得ると,こういった行為を考えておりまして,典型的に申しますと,その相手方に指定暴力団の威力を示して行う恐喝行為でありますとか,〔略〕みかじめ料の要求でありますとか,用心棒代の要求といった暴力的要求行為,こういったものが該当するというふうに考えております。(宮本和夫政府参考人(警察庁刑事局組織犯罪対策部長)・第169回国会参議院内閣委員会会議録第88頁)

 

やはり,資金を得,又は資金を得るために必要な地位を得る主体は,指定暴力団ではなく,指定暴力団員であるように思われるところです。

 

   威力利用資金獲得行為でございますけれども,指定暴力団員がその所属する指定暴力団(ママ)の威力を利用して資金を得,又は資金を得るために必要な地位を得る行為ということをいっております。

   具体的には,典型的な例といたしましては,相手方に暴力団の威力を示して行う恐喝行為というものが考えられます。また,彼らの有力な資金源となっておりますみかじめ料要求とか用心棒代要求とか,暴対法で規制の対象としております暴力的要求行為〔同法27号及び9条〕,こういったものが典型的な事例として該当するものでございます。(宮本政府参考人・第169回国会参議院内閣委員会会議録第811頁)

 

暴対法9条には,27種類の行為が,それに違反する行為が暴力的要求行為となるもの(同法27号)として掲げられていますが,全て「要求すること」です。すなわち,次のごとし。

「・・・金品その他の財産上の利益(以下「金品等」という。)の供与を要求すること」(同条1号),「・・・みだりに金品等の贈与を要求すること」(同条2号),「・・・当該業務の全部若しくは一部の受注又は当該業務に関連する資材その他の物品の納入若しくは役務の提供の受入れを要求すること」(同条3号),「・・・その営業を営むことを容認する対償として金品等の供与を要求すること」(同条4号),「・・・物品を購入すること,・・・興行の入場券,パーティー券その他の証券若しくは証書を購入すること又は・・・用心棒の役務・・・その他の日常業務に関する役務の有償の提供を受けることを要求すること」(同条5号),「・・・債務者に対し,その履行を要求すること」(同条6号),「・・・報酬を得て又は報酬を得る約束をして・・・債務者に対し・・・その履行を要求すること」(同条7号),「・・・債務の全部又は一部の免除又は履行の猶予をみだりに要求すること」(同条8号),「・・・金銭の貸付けを要求すること」(同条9号),「・・・金融商品取引行為を行うことを要求し,又は・・・有価証券の信用取引を行うことを要求すること」(同条10号),「・・・当該株式会社の株式の買取り若しくはそのあっせん(以下この号において「買取り等」という。)を要求」すること(同条11号),「・・・預金又は貯金の受入れをすることを要求すること」(同条12号),「・・・明渡しを要求すること」(同条13号),「・・・明渡し料その他これに類する名目で金品等の供与を要求すること」(同条14号),「・・・宅地・・・若しくは建物(以下この号及び次号において「宅地等」という。)の売買若しくは交換をすること又は宅地等の売買,交換若しくは賃借の代理若しくは媒介をすることを要求すること」(同条15号),「・・・宅地等の売買若しくは交換をすることをみだりに要求し,又は・・・賃借をすることをみだりに要求すること」(同条16号),「・・・建設工事・・・を行うことを要求すること」(同条17号),「・・・施設を利用させることを要求すること」(同条18号),「・・・示談の交渉を行い,損害賠償として金品等の供与を要求すること」(同条19号),「・・・損害賠償その他これに類する名目で・・・金品等の供与を要求すること」(同条20号),「行政庁に対し・・・要求すること」(同条21号及び22号),「国,特殊法人等・・・又は地方公共団体(以下この条において「国等」という。)に対し・・・要求すること」(同条23号。また,同条24号,26号及び27号)及び「・・・入札に参加しないこと又は一定の価格その他の条件をもって当該入札に係る申込みをすることをみだりに要求すること」(同条25号)。

問答無用で刺突又は銃撃する行為自体は,暴対法の暴力的要求行為には該当しませんし,そもそも本件刺突及び本件銃撃の際には「資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る」ための要求が相手方(被害者)に対して表示されていません。

 

   また,今回の事案の対象になりますのは,そうした資金獲得活動を行うについて与えた損害ということでございます。そういった,例えばみかじめ料の支払要求などをする際にこれに応じない業者に傷害を与えたりとか,又はその店舗を破壊をしたりする,こういったような事案,こういった深刻な事態が生じております。(宮本政府参考人・第169回国会参議院内閣委員会会議録第811頁)

 

   対象となりますのが,いわゆる恐喝行為でありますとか一般のみかじめ要求行為でありますとか,一般の方々が被害を受ける,もちろん財産犯のみならず,それについて行われた殺傷行為なども含みますけれども,そういう非常に幅広い類型を対象にしておりますので,大変大きな効果があるものというふうに考えております。(宮本政府参考人・第169回国会衆議院内閣委員会議録第129頁)

 

殺傷行為は含まれるけれども,当該殺傷行為は「財産犯」に「ついて」されたものであることが想定されているようです。やはり,財産的要求を伴わない問答無用の刺突又は銃撃行為は,威力利用資金獲得行為には該当しないようです。「「威力利用資金獲得行為・・・を行うについて他人の生命,身体又は財産を侵害したとき」に該当する場合」としては,「相手方に指定暴力団の威力を示して恐喝し,金品の供与を受けるなど,威力利用資金獲得行為の一環として他人の生命,身体又は財産を侵害する場合のほか,例えば,指定暴力団の威力を示してのみかじめ料の要求に応じない者に対し報復目的で傷害を加えるなど,威力利用資金獲得行為を効果的に行うために他人の生命,身体又は財産を侵害する場合も含まれる。」とまとめられているところです(島村英(前警察庁暴力団対策課理事官)=工藤陽代(前警察庁企画分析課課長補佐)=松下和彦(警察庁暴力団対策課課長補佐)「「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律」について」警察学論集619号(20089月号)59頁。下線は筆者によるもの)。用心深く「等」が付されていますが,天衣無縫に拡張解釈をするわけにはいかないでしょう。

なお,暴対法上の「威力」とは,「集団的又は常習的な暴力的不法行為等の被害を受けるおそれを抱かせることにより人の意思を制圧するに足りる勢力をいい,これは指定暴力団の名称やいわゆる代紋に表象されるものである。」とされています(堀・ひろば14頁)。威力利用資金獲得行為における「威力を利用して」とは,「当該指定暴力団に所属していることにより資金獲得行為を効果的に行うための影響力又は便益を利用することをいい,当該指定暴力団の指定暴力団員としての地位と資金獲得活動とが結び付いている一切の場合をいう。典型的には,暴力的不法行為等又はこれに準ずる不法な行為の手段として相手方に指定暴力団の威力を示すことが該当する。」と解説されていますが(島村=工藤=松下59頁),この解釈ですと,非典型的な場合には,「威力を示すこと」は「威力」利用資金獲得行為たるために必ずしも必要ではないと解する余地があることになります。

 「生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金」とは,「およそ何らかの使途のための資金を指すものであり,使途を限定する趣旨ではない。また,金銭以外の財産上の利益を得る行為も,最終的に資金を得ることにつながる行為であり,本条にいう「資金を得・・・る行為」に含まれる。」とされています(島村=工藤=松下59頁)。「資金を得るための地位を得る行為」には,「契約の一方当事者たる地位を得る行為や,行政庁から許認可等を受けて事業者たる地位を得る行為が該当」します(島村=工藤=松下59頁)。

 

(2)特殊詐欺事案における裁判例の展開
 ところで,水戸地判令和元年523日(裁判所ウェブ・サイト)は,威力利用資金獲得行為概念の範囲を拡張する注目すべき判断を示しています。すなわち,同判決においては,暴対法31条に2にいう「「威力を利用」するとは,「威力を示す」(同法9条参照)とは異なり,より幅の広い行為態様を意味するものと解」され,かつ,当該行為の「定義の文言からは,直ちに,威力利用資金獲得行為が,指定暴力団の威力を資金獲得行為それ自体に利用する場合に限定されると解することはできない」とした上で,「同条にいう「威力利用資金獲得行為」には,当該指定暴力団の指定暴力団員が,資金獲得行為それ自体に当該指定暴力団の威力を利用する場合のみならず,当該指定暴力団員が指定暴力団の威力を利用して共犯者を集める場合など,資金獲得行為の実行に至る過程において当該指定暴力団の威力を利用する場合も含まれる」ものと判示されています。また,威力利用資金獲得行為は暴力的不法行為等(暴対法21号)に限定されないとも判示しています(詐欺行為も含まれる。)。具体的には,指定暴力団員が,所属指定暴力団の威力を利用して,所属暴力団の使い走りをしていた知人(暴力団員ではない。)に詐欺の受け子を探し出させて詐欺グループを構成し(ただし,当該受け子については同人に対する当該威力の利用があったものとは認定されていません。),当該グループにおいて他人の親族になりすましてその親族が現金を至急必要としているかのように装って現金をだまし取った行為(当該受け子が現金を受領)は,暴対法31条の2の威力利用資金獲得行為であるものとされています。 

しかし,特殊詐欺事案における威力利用資金獲得行為概念の範囲拡大の動きは上記水戸地判令和元年523日のみでは止まらず,翌月の東京地判令和元年621日(裁判所ウェブ・サイト)は,2015年版警察白書「組織犯罪対策の歩みと展望」等を参照しつつ,いわゆる振り込め詐欺事案において威力利用資金獲得行為の範囲を更に大きく拡張しています。そこでは,「威力の利用」は,当該判決の判決文の文字どおり「背景」に退いてしまっています。詐欺行為については「それ自体が威力を必要とすることを必要とするものではない」とされるとともに,上記水戸地判令和元年523日とは異なり,詐欺グループ内における威力の具体的利用も認定されていません。いわく。

 

 〔略〕本件各詐欺〔いわゆる振り込め詐欺〕のような特殊詐欺は,それ自体が当然に暴力団としての威力を利用する犯罪類型であるとまではいえないものの,暴力団の構成員の多くが,典型的な威力利用資金獲得行為に対する種々の規制,取締りを回避して,新たな資金獲得源を確保すべく,暴力団の威力の利用を背景としてこれを実行しているという実態があり,本件当時において,このような実態が社会一般に認識されていたというべきであって,I会も,日本第3位の規模の指定暴力団であることから,その下部組織を含め,このような特殊詐欺に従事,加担する構成員が多数いたであろうことが社会一般に認識されていたといわなければならない。

  そして,前記〔略〕でみた本件各詐欺の具体的な態様は,いずれも,本件詐欺グループを構成した者らが役割を分担して本件詐欺グループが管理する預金口座に金員を振りこませるという組織的,計画的なものであって,上記でみた暴力団の構成員が従事,加担し,暴力団の威力の利用を背景として資金を獲得する活動に係るものに通有する類型であるということができる。

  そうすると,本件各詐欺は,いずれも,F組の構成員すなわちI会の指定暴力団員であったE〔本件詐欺グループに所属〕がこれを実行した以上,I会の構成員による威力利用資金獲得行為と関連する行為であるというほかないのであって,本件各詐欺は,I会の指定暴力団員であるEにおいて,威力利用資金獲得行為を行うについて他人の財産を侵害したものといわなければならない。
 

 これに対して,東京地判令和元年1111日(裁判所ウェブ・サイト)は揺り戻しを示します。指定暴力団I会所属の指定暴力団員がリーダーとなった詐欺グループによる特殊詐欺事件の被害者からのI会長への損害賠償請求に対して,当該詐欺グループの活動に係る当該指定暴力団員による準備に協力した組織がI会又は指定暴力団であったとは必ずしも認められないこと及び当該詐欺グループのメンバーについて当該リーダーが「指定暴力団の構成員であることを恐れて本件詐欺をしたと認められるものではない」ことを具体的に判示した上で「その他に,〔当該指定暴力団員〕が,犯行グループ内で指揮命令系統を維持確保し,規律の実効性を高めるためにI会又は指定暴力団の威力を利用して本件詐欺をしたと認めるに足りる証拠はない」と駄目を押して,「以上によれば,本件詐欺は,威力利用資金獲得行為であると認めることはできないから,被告〔指定暴力団I会会長〕に暴対法31条の2に基づく責任を認めることはできない。」と論結しています(民法715条に基づく使用者責任も,当該特殊詐欺活動がI会の事業として行われたものと認めることはできないとして否定。)。

 
4 暴対法5章と民法715条と

 

(1)国会における説明

ところで,暴対法第5章の指定暴力団の代表者等の損害賠償責任は,使用者の責任等に係る民法715条の特則であるものであると一応は考えられそうです。

まず,暴対法31条については,次のような国会答弁があります。

 

   暴力団の代表者,いわゆる首領,組長と言われる人間に責任を負わせるとなりますと,やはりこれは民法715条の使用者責任的な責任ということで,見も知らない末端の組員が北海道なり九州なりというところで不法行為を行う,そういう場合にトップの神戸なり東京に住んでおる組長が責任を取るというのは,やはり違法行為,不法行為自体が組織的な行為であるということ,また逆に,上から見ればそれが抽象的にでも組長の統制下にあるというふうな構成が抽象的に,観念的にでも取れなければ,なかなか幾ら民事訴訟,民事責任といっても責任を負わせるというのは非常に無理があるというようなことから,今回,条文としてくくる,類型としてくくるには対立抗争,内部抗争というのがこれは今言ったようなことに当てはまるだろう,あとのいろんな不法行為,犯罪行為,これはなかなかそこではくくる,条文としてくくるのは難しいんではないかということで,こういうふうな対立抗争,内部抗争ということに絞らせていただいたのであります。(近石康宏政府参考人(警察庁刑事局組織犯罪対策部長)・第159回国会参議院内閣委員会会議録第1119頁。下線は筆者によるもの)

 

ただし「使用者責任的な責任」であって,端的に「使用者責任」とはされていません。何やら含みのある表現です。

 暴対法31条の2については次のように説明されています。

 

   不法行為を行った暴力団の代表者あるいは傘下の組織の組長の損害賠償責任を追及するためには,現在では民法の使用者責任715条の規定によることとなるわけでありますが,この場合には,被害者側においていわゆる事業性,使用者性及び事業執行性,ちょっと難しいことでございますが,こうした事柄を主張,立証しなければならないわけであります。

   しかし,そのためには被害者側において,不法行為を行った暴力団員の所属する暴力団内部の組織形態,意思決定過程,代表者〔等〕や傘下組織の組長による内部統制の状況,上納金の徴収システム,こうした事柄を具体的に解明,立証しなければならないということになるわけであります〔下記藤武事件判決参照〕。こうしたことは一般の方々にとっては大変難しいことでございまして,例えば法人や法令に基づく許認可等を受けた事業を行うものとは暴力団は異なっておりまして,その事業の範囲(ママ)定款,法令において明確化されていないという状況でございます。

   また,暴力団は最近組織の内部を隠す,運営事項等を隠していくという方向に走っておりまして,これらの点を具体的に解明,立証するということは警察の支援が不可欠である,警察の現法体系の中ではなかなか難しい,警察自身もなかなか難しい点がある,こういうことでございまして,被害者の方に大きな負担をお掛けしておるというのが実態でございます。(泉信也国務大臣(国家公安委員会委員長)・第169回国会参議院内閣委員会会議録第811頁。また,宮本政府参考人・第169回国会衆議院内閣委員会議録第123頁。なお,下線は筆者によるもの)

 

   今回の改正案につきましては,民法の使用者責任の規定による場合と比べまして,〔略〕被害に遭われた方が,代表者等の損害賠償責任を追及するに当たりまして,訴訟上の負担が相当程度軽減され,被害の回復の促進が図られるものと考えております。(宮本政府参考人・第169回国会参議院内閣委員会会議録第811頁。下線は筆者によるもの)

 

暴対法31条の2は,「民法第715条の規定を適用して代表者等の損害賠償責任を追及する場合において生ずる被害者側の立証負担の軽減を図ることとした」ものとされています(工藤陽代(きよ)(警察庁刑事局)「対立抗争等における暴力行為の抑止,暴力団による被害の回復の促進及び暴力団の資金源の封圧を図る」時の法令1816号(2008830日号)13頁。下線は筆者によるもの)。民法715条を前提とするものでしょう。前記水戸地判令和元年523日も暴対「法31条の2は,指定暴力団の代表者等に配下の指定暴力団員の威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任を負わせるものとし,民法715条の規定を適用して代表者等の損害賠償責任を追及する場合において生ずる被害者側の立証の負担の軽減を図ることとしたものである。」と判示しています。暴対法31条の2の「「(威力利用資金獲得行為・・・を行う)について」とは,民法第715条第1項の「(事業の執行)について」と同義である。」とされています(島村=工藤=松下59頁)。

 

(2)民法715条と報償責任論等と(判例)

 民法715条の規定は,次のとおりです。

 

   (使用者等の責任)

  第715条 ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。

  2 使用者に代わって事業を監督する者も,前項の責任を負う。

  3 前2項の規定は,使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

 民法715条の使用者責任の根拠は何かといえば,判例は,「使用者の損害賠償責任を定める民法7151項の規定は,主として,使用者が被用者の活動によつて利益をあげる関係にあることに着目し,利益の存するところに損失をも帰せしめるとの見地から,被用者が使用者の事業活動を行うにつき他人に損害を加えた場合には,使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきとしたもの」とのいわゆる報償責任の思想を挙げ(ただし,「主として」との限定はありますが。),更に「被用者が使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合」に係る当該判決の事案に関して,「使用者と被用者とは一体をなすものとみて,右第三者との関係においても,使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解すべき」だと述べています(最判昭和6371日(香川保一裁判長)民集426451頁(以下「昭和63年香川判決」といいます。「香川判決」の本家については,「新しい相続法の特定財産承継遺言等にちなむ香川判決その他に関するあれこれ」記事(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1075445695.html)を御参照ください。)。

(遠藤浩等編『民法(7)事務管理・不当利得・不法行為(第4版)』(有斐閣双書・1997年)166頁(伊藤進)は,「危険責任をも根拠とする説が多くなりつつある」としつつ(下線は筆者によるもの),報償責任の原理に民法715条の根拠を求めるのが通説であるとしています。我妻榮『事務管理・不当利得・不法行為』(日本評論社・1937年)162頁が,使用者責任の民法715条による加重は「これを報償責任の一顕現となすを至当と考へる」と唱えていたところです。また,幾代通著=徳本伸一補訂『不法行為法』(有斐閣・1993年)196頁注(1)は,「判例〔昭和63年香川判決〕もまた,この考え方〔報償責任の思想〕に依拠する」とのみ述べていて,昭和63年香川判決における「主として」の語句において含意されているところのものであろう他の根拠思想(危険責任主義でしょうか。)を,補充的なものにすぎないと解してのことでしょうか,捨象しています。)

 「報償責任主義」は,「社会において大規模な事業を営む者は,それだけ大きな利益をあげているのが通例であるから,万が一にその事業活動が原因となって他人に損害を与えた場合には,当該事業者をして,つねづね彼が得ている利益のなかから当然にそれを賠償させるのが公平に適う,という考え方」であるとされています(幾代=徳本7頁註(5))。

 なお,報償責任主義の外に民法715条の根拠として挙げられることのある「危険責任主義」は,「危険物を支配し管理する者は,その物から生ずる損害については,一般の場合のような過失の有無を問題とすることなく絶対的な責任を負うべきである,という思想」であるとされています(幾代=徳本7頁註(4))。

 とはいえ,判例・通説においては,「「事業」について,一時的・継続的,営利・非営利を問わず,違法であっても構わないとされ」ていたところです(松並重雄・[32]事件解説『最高裁判所判例解説民事篇平成16年度(下)(7月~12月分)』(法曹会・2007年)661頁。下線は筆者によるもの)。制度の根拠思想に係るそもそも論を論ずる場面と違って,いったん作られた制度の運用に係る解釈は軽やかたるべきものなのでしょう。

 なお,「判例・通説によれば,「ある事業のために他人を使用する」とは,事実上の指揮監督の下に他人を仕事に従事させることを意味するものと解され」ており,「他人を使用する」については,「期間の長短,報酬の有無,選任の有無,契約の種類,有効無効を問わず,契約の存在すら必要ないと解されて」います(松並661頁)。また,ここでの指揮監督関係は,「現実に指揮監督が行われていたことを要するものではなく,客観的にみて指揮監督をすべき地位にあったことをもって足りると解されてい」るところです(松並662頁)。

 

(3)民法715条と自己責任論と(起草者)

ところで,我が民法の起草者においては,報償責任論はなお採られてはいませんでした。自己責任論です。

 

 例ヘハ車夫カ車ヲ曳クノ際其不注意ニ因リテ路人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其車夫カ被害者ニ対シテ賠償ノ責ヲ負フヘキハ固ヨリナリト雖モ主人モ亦此ノ如キ不注意ナル車夫ヲ選任シ且其車ヲ曳クニ際シ路人ニ損害ヲ加フルノ虞アルトキハ特ニ注意ヲ与フヘキニ〔人力車であれば主人がそこに乗っているのでしょう。〕之ヲ為サスシテ遂ニ第三者ニ損害ヲ加フルニ至リタルカ故ニ自己ノ不注意ニ付キ亦賠償ノ責ヲ負ハサルコトヲ得ス但是レ亦車夫ノ不法行為ニ付キ責任ヲ負フニ非スシテ自己カ其選任ヲ誤リ又ハ監督ヲ怠リタルニ付キ責任ヲ負フモノナルカ故ニ若シ其選任及ヒ監督ニ付キ相当ノ注意ヲ為シタルコト又ハ相当ノ注意ヲ為スモ損害ハ猶ホ生スヘカリシコトヲ証明シタルトキハ其責ヲ免ルヘキモノトス(梅謙次郎『訂正増補第三十版 民法要義巻之三 債権編』(法政大学=中外出版社=有斐閣書房・1910年)894-895頁)

 

 なお、そもそも梅謙次郎は,「不法(〇〇)行為(〇〇)unerlaubte Handlung)ハ一ニ犯罪(〇〇)準犯罪(〇〇〇)Délit ou quasi-délit)ト謂フ債権発生ノ原因トシテ羅馬法以来(つと)ニ認メラルル所ナリ」(梅882-883頁),「犯罪ハ故意ヲ以テ他人ニ損害ヲ加フルヲ謂ヒ準犯罪ハ過失,怠慢ニ因リ他人ニ損害ヲ加フルヲ謂フ」(梅883頁)という認識でした(旧民法財産編(明治23年法律第28号)第2部第1章第3節の節名及び3702項参照)。犯罪又は準犯罪と言われると,確かに自己責任でなければいけないのでしょう。不法行為制度に関して,「ローマに於ては復讐なり懲罰は,早くから加害者個人に加えらるべきものとの考が確立し,家族親族の連帯責任制度は見えない。」とあります(原田慶吉『ローマ法(改訂)』(有斐閣・1955年)220頁)。

 旧民法財産編371条は「何人ヲ問ハス自己ノ所為又ハ懈怠ヨリ生スル損害ニ付キ其責ニ任スルノミナラス尚ホ自己ノ威権ノ下ニ在ル者ノ所為又ハ懈怠及ヒ自己ニ属スル物ヨリ生スル損害ニ付キ下ノ区別ニ従ヒテ其責ニ任ス」と規定していたところ,その原案(“Chacun est responsible non seulement de ses propres faits ou négligences, mais encore des faits et négligences des personnes sur lesquelles il a autorité et des dommages causés par les choses qui lui appartiennet, sous les distinctions ci-après.”)に関して,ボワソナアドは次のように説明しています。

 

  274. 法案は,ここで,重要なものとされる区分に従うことになる。人は常に自らの行為に,及び特定の場合であれば「他人の行為」についても責任を負う,と述べられるのが仕来りである。しかし,物事の根底を探ってみれば容易に分かることであるが,既に指摘されたように,全ての場合において人は,彼自らの行為又は彼自らの懈怠についてのみ責任を負うものである。彼の行為又は彼の意思に基づくことなしに義務付けられてしまうということであれば,実際,それは全ての正義に反することになるであろう。人が彼の個人的行為なしに義務付けられることがあるのは,法律によって課せられた義務の場合(しかして,その数は,次節〔旧民法財産編380条参照〕において見るように,極めて少数である〔旧民法財産編380条に掲げられているものは,①親族・姻族間の養料の義務,②後見の義務,③共有者間の義務及び④相隣者間の義務で地役をなさないもののみでした。〕。)においてのみである。本条が掲げ,及び次条以下によって規定される各場合においては,法律が責任ありとする者の側に懈怠〔又は〕注意若しくは監督の欠如が常にあるのであって,これこそが彼の責任の原因(cause)及び根拠となる原理(principe)なのである。動物又は更には無生物によって惹起された被害又は損害に対しても責任が拡張されることについての説明も,同様である。このような場合においては「他人の行為」を云々できないことはそのとおりである。しかし,所有者の側に懈怠が常にあるのである。なお,懈怠が意識的かつ他人に害を与える意図をもって生ぜしめられることはまれであるので,ここにおいては准犯罪(quasi-délits)があるのみである。(Boissonade, Projet de Code Civil pour l’Empire du Japon, accompagné d’un commentaire, tome deuxième (Droits Personnels et Obligations), nouvelle édition, Tokio, 1891, pp.318-319

 

 ただし,自己責任論であっても,選任及び監督についての相当の注意による使用者免責に係る民法7151項ただし書のような規定が,必ずなければならないというものではありません。旧民法財産編373条は「主人,親方又ハ工事,運送等ノ営業人若クハ総テノ委託者ハ其雇人,使用人,職工又ハ受任者カ受任ノ職務ヲ行フ為メ又ハ之ヲ行フニ際シテ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス」とのみ規定して,その前条,すなわち,①父権を行う尊属親,②後見人,③「瘋癲白痴者」を看守する者並びに④教師,師匠及び工場長の責任(それぞれ,①同居する未成年の卑属親,②同居する被後見人,③「瘋癲白痴者」並びに④未成年の生徒,習業者及び職工(教師等の監督の下にある間に限る。)の行為に対するもの)について規定する同編372条のその第5項にある「本条ニ指定シタル責任者ハ損害ノ所為ヲ防止スル能ハサリシコトヲ証スルトキハ其責ニ任セス」のような免責規定がなかったところです。

これについて,ボワソナアドは,旧民法財産編373条の原案(“Les maîtres et patrons, les entrepreneurs de travaux, de transports ou d’autres services, les administrations publiques et privées, sont responsables des dommages causés par leurs serviteurs, ouvriers, employés ou préposés, dans l’exercice ou à l’occation des fonctions qui leur sont confiées.”)に関して次のように説明していました。(なお,ボワソナアドは,当該原案の参照条項として当時のフランス民法13843項(現在のフランス民法はその後の改正の結果条ずれを起こしてしまっています。)を挙げています。同項にも,防止不能による抗弁の規定(同条5項)は適用されていませんでした。)

 

  279.本条に掲げられた者らの責任は,前条の者らと同様,懈怠の推定(présomption de négligence)に基づいている。しかしながら,そこには,この特別規定を設けさせるに至った,前条のものとの注目すべき相違があるのである。

   第1。ここに掲げられた者らは,彼らが与えた職務(fonctions)の機会又はその過程においてなされた侵害行為についてのみ責任を負う。実際,不法行為者に対して彼らが指揮命令権(autorité)を有するのは,この範囲内のみにおいてである。また,無能な又はよろしからざる人間に信頼を与え又はそれを維持したことについて彼らが非難され得るのも,この範囲内においてである。

   第2。当該上記の者らは,侵害を防止することができなかったことを証明することを前条の者らのようには認められていない。その理由は,彼らの懈怠は,当該侵害行為の時点においてよりもむしろ彼らが選任をした時点及びそれ以後の期間において評価されるものだからである。すなわち,自由に,彼らは選任し,かつ,無能又は不誠実な被用者を罷免することができたのである。このことは,養子縁組の場合を除いては子供を選ぶものではなく,かつ,親子の縁を切ることのできない尊属についてはいえないところである。(Boissonade, p.323

 

ただし,「責任者ハ損害ノ所為ヲ防止スル能ハサリシコトヲ証スルトキハ其責ニ任セス」との免責規定はなくとも,意外の事実又は不可抗力によるもの(un cas fortui ou une force majeure)であったのだとの一般条項(“la resource équitable”)による抗弁は可能であるとされてはいました(Boissonade, p.325)。旧民法財産編374条は,動物についてですが,「動物ノ加ヘタル損害ノ責任ハ其所有者又ハ損害ノ当時之ヲ使用セル者ニ帰ス但其損害カ意外ノ事実又ハ不可抗力ニ出タルトキハ此限ニ在ラス」と規定していたところです。

 旧民法財産編373条については,「結果責任主義をとって,使用者の免責を認めない法制」と同じ立場に基づくものであると説かれていますが(幾代=徳本208頁),以上見たところからすると,「過失といった主観的事情の有無を問わずに,行為と損害との間に因果関係さえあれば賠償義務を負わせる,いわゆる原因主義ないしは結果責任主義」(幾代=徳本4頁)を同条は端的に採用したものとはいいにくいようです。


 
(4)藤武事件判決

最判平成161112日民集5882078頁(藤武事件判決)は,階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に民法7151項所定の使用者と被用者との関係の成立を認め,更に当該構成員が暴力団間の対立抗争においてした殺傷行為を同項にいう「事業の執行について」した行為と認めて,同項に基づき,当該組長に対し,当該殺傷行為の被害者の遺族に損害賠償をすべき責任があるものと認めて,当該組長からの上告を棄却しています。

(なお,藤武事件判決に暴対法31条の規定の適用がなかったのは,藤武事件に係る殺人行為の発生時が1995年(平成7年)825日であって,平成16年法律第38号の施行前であったことから,当該殺人行為については同法附則2条によって当該規定の適用がないものとされていたからです。)

藤武事件判決においては,暴力団組長に係る民法715条の事業は,「組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業」であるものとされています。「組の威力を利用して」であるところ,最高裁判所は「違法・不法な活動であっても民法715条の「事業」に当たることを肯定したものと解される」,と説かれています(松並680頁)。

当該暴力団の最上位の組長(上告人)の事業が組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業であることを認定するに当たって,藤武事件判決では,「①〔略〕組は,その威力をその暴力団員に利用させ,又はその威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とし,下部組織の構成員に対しても,〔略〕組の名称,代紋を使用するなど,その威力を利用して資金獲得活動をすることを容認していたこと」(暴対法31号,同法31条の2括弧書き参照),「②上告人は,〔略〕組の1次組織の構成員から,また,〔略〕組の2次組織以下の組長は,それぞれその所属組員から,毎月上納金を受け取り,〔略〕資金獲得活動による収益が上告人に取り込まれる体制が採られていたこと」(なお,暴対法31条の21号参照)及び「③上告人は,ピラミッド型の階層的組織を形成する〔略〕組の頂点に立ち,構成員を擬制的血縁関係に基づく服従統制下に置き,上告人の意向が末端組織の構成員に至るまで伝達徹底される体制が採られていたこと」(暴対法33号参照)が,前提事実として認定されています。

また,「暴力団にとって,縄張や威力,威信の維持は,その資金獲得活動に不可欠のものであるから,他の暴力団との間に緊張対立が生じたときには,これに対する組織的対応として暴力行為を伴った対立抗争が生ずることが不可避であること」等を挙げた上で「組の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は,〔略〕組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業の執行と密接に関連する行為」であるので事業の執行についてしたものである,と藤武事件判決は判示しています。これで,「事業の執行について」した行為であるものと認めるためには十分なのですが,暴力団組長の事業の執行行為それ自体とまでは認められていないところが気になるところです。しかしながら,これは,「対立抗争等というおよそ犯罪に当たる行為を行うことを内容とする事項が民法715条の事業に該当するか否かについては,これまでの下級審の裁判例では否定するものが多」かったところ(堀・ひろば13頁)当該事業性否定説を最高裁判所も採用したのだ,ということではありません(そうであれば,「違法・不法」な「組の威力を利用しての資金獲得活動」を,そうであっても民法715条の事業とした先行する判断と矛盾してしまいます。)。単に,「組の威力を利用しての資金獲得活動」を事業として据えた場合においては,当該事業との関係では,対立抗争における殺傷行為は,当該事業の執行行為それ自体ということにはならず,当該「事業の執行と密接に関連する行為」という位置付けになってしまう,というだけのことであると解されます。この辺の位置付けは相対的なものであって(当該事案において何を指定暴力団の事業とするかは,原告の主張次第ということになるところです。),藤武事件判決は「抗争を暴力団組長の事業とすることを否定するものでない」ので,「事案によっては抗争を事業と捉えて使用者責任を肯定する余地を残すもの」であると解されています(松並691-692頁(注38))。すなわち,藤武事件判決に付された北川弘治裁判長裁判官の補足意見はいわく。

 

   法廷意見の指摘するとおり,暴力団にとって,縄張や威力,威信の維持拡大がその資金獲得活動に不可欠のものであり,このため,同様の活動を行っている他の暴力団との対立抗争が必然的な現象とならざるを得ない。この対立抗争において,自己の組織の威力,威信を維持しなければ,組織の自壊を招きかねないことからすれば,対立抗争行為自体を暴力団組長の事業そのものとみることも可能である


 その後,東京地判平成19920日(裁判所ウェブ・サイト,判時200054頁)は暴力団の「威力・威信の維持拡大活動」としての事業を暴力団組長の事業として認め,横浜地中間判平成201216日(浦川道太郎「組長訴訟の生成と発展」Law & Practice No.04 (2010) 158頁に紹介。判時2016110頁)は更に「縄張の維持・防衛活動」も暴力団組長の事業として認めています。 

後編に続く
http://donttreadonme.blog.jp/archives/1076999730.html



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