Dann rückte er auch den Stuhl zum Tische, nahm eins der aufgeschlagenen Bücher und vertiefte sich in Studien, an denen er einst die Kraft seiner Jugend geübt hatte. (Theodor Storm, Immensee)

 

1 東京地方裁判所平成29427日判決の衝撃

もう2年以上前のことになりますが,東京地方裁判所(裁判長裁判官・島田一,裁判官・島田環及び高野将人)が平成29427日に判決(判時2388114頁)を下した不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反,電子計算機使用詐欺,私電磁的記録不正作出・同供用,不正指令電磁的記録供用,電波法違反被告事件では,無線通信の秘密を窃用する罪に係る電波法(昭和25年法律第131号)109条1項の解釈が正面から争われ,検察側が敗北,同罪に係る当該公訴事実について被告人は無罪となりました。珍しいことです。同項は「無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし,又は窃用した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定しているものです。

恐らくは,電波法を所管する総務省の電波当局への照会・お墨付きをも得ての公訴提起であったのでしょうが,どうしたことだったのでしょうか。判決後の平成29年(2017年)512日の閣議後記者会見において,高市早苗総務大臣に対して質問が発せられます(総務省ウェブ・サイト)

 

 問: 幹事社の日本経済新聞の根本と申します。1問御質問させていただきます。

    他人の無線LANの暗号鍵を解読し,無断で使った行為の違法性が争われた刑事裁判で,暗号鍵の解読は電波法が禁じる「無線通信の秘密」の無断使用には当たらないとして,無罪とした東京地裁判決について検察が控訴を断念いたしました。大臣の御所感をお聞かせください。

答: 東京地検が控訴をなさらなかったということは,承知しております。

 総務大臣として,個別の係争事案に対してコメントをすることは差し控えさせていただきたいのですが,電波法に係る事案となっている点については,現在,法務省に情報提供を求めておりますので,今後,判決内容について精査をしていく考えでございます。

 後ほど,無線LANアクセスポイントの無断使用に係る電波法における考え方につきまして,担当者から皆様に説明をさせていただきます。

 9時半からの予定でございます。

 総務省では,無線LANを利用しておられる方々を対象に,セキュリティ対策を周知啓発しております。利用者の皆様には,最新のセキュリティ対策を講じていただきたいと希望いたします。

 

 当該20175129時半からの「無線LANアクセスポイントの無断使用に係る電波法における考え方」に係る説明の内容を示す情報は,総務省ウェブ・サイトをざっと検索しただけでは見当たらず,当該判決に対する電波当局担当者の当時の反応がはっきり分からないことは,残念なことです。(なお,同日の朝日新聞夕刊4版14面では,「総務省は12日,「同様の事例は電波法違反にあたる」との見解を示した。パスワードの解読のために通信を傍受して悪用することが,電波法が禁じる「無線通信の秘密の窃用(盗んで使うこと)」にあたるという。/裁判では,パスワードそのものが通信の秘密にあたるかどうかが争われた。判決は,パスワードは通信されていないため通信の秘密にあたらないと判断され,電波法上は無罪とした。/総務省によると,今回解読されたのは「WEP」という古い方式の暗号で,解読する機器が出回っているという。利用者のパソコンなどが無線LAN機器に送る通信を傍受,複製して無線LAN機器に送ることでデータを入手,これを分析してパスワードを解読する。/この行為は電波法109条第1項に違反し,1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるという。総務省電波政策課は「被害を防ぐには最新の無線LAN機器に買い替えてほしい」としている。(上栗崇)」と報じています。翌13日の読売新聞朝刊14版32面では「総務省は「暗号鍵を割り出すために,他人の無線LAN機器に繰り返し通信をかける行為は電波法違反の無線通信の秘密の窃用(盗んで使用する)に当たる」との見解を示した。」とされています。これらのような見解に依拠して,東京地方検察庁は痛い目に遭ったものでしょう。)

 

2 判決文

 前記東京地方裁判所判決における当該無罪の判示の主文は「本件公訴事実中,平成2771日付け追起訴状記載の公訴事実第1の電波法違反の点については,被告人は無罪。」であり,その理由として記されているところは次のとおりです。

 

1 無線通信の秘密の窃用の公訴事実等

   平成2771日付け追起訴状記載の公訴事実第1は,「被告人は,V₈方に設置して運用する小電力データ通信システムの無線局である無線LANルータのアクセスポイントと同人方に設置の通信端末機器で送受信される無線局の取扱中に係る無線通信を傍受することで,同アクセスポイント接続に必要なパスワードであるWEP鍵をあらかじめ取得し,平成26611日午前1126分頃,松山市〔番地等略〕被告人方において,同所に設置のパーソナルコンピュータを使用し,前記WEP鍵を利用して前記アクセスポイントに認証させて接続し,もって無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を窃用したものである。」というものである。

   被告人が,同日時頃,〔被告人方の真向かいにある〕V₈方無線LANアクセスポイントにかかるWEP鍵を利用して,同アクセスポイントに接続していたことは,証拠上認められるものの,当裁判所は,WEP鍵は電波法1091項にいう「無線通信の秘密」にはあたらず,それを利用することが同項違反にはならないと判断したので,以下補足して説明する。

  第2 WEP

1 WEPは,無線通信を暗号化する国際的な標準形式である。その際に用いられる暗号化鍵がWEP鍵である。

   暗号化の過程は概ね以下のとおりである。平文(暗号化したい情報)に,104ビットのWEP鍵と24ビットのIV(誰にでもわかるようになっている数字)を組み合わせた128ビットの鍵をWEPというシステムに入れることでできる乱数列を足し込んで暗号文を作成する。復号するためには,平文に足し込まれた乱数を引く必要があるが,その乱数を知るためには,WEP鍵が必要になる。

   WEP方式の無線LAN通信において,WEP鍵自体は無線通信の内容そのものとして送受信されることはない。

   2 前記(事実認定の補足説明)第23に認定のとおり,被告人は,1号パソコン〔被告人が使用していた押収番号1番のパーソナルコンピュータ〕からKali Linuxに収録されているwifiteを用いて,V₈方無線LAN〔アクセスポイント〕のWEP鍵情報を取得している。wifiteの攻撃手法は,ARPリプライ攻撃と言われるものであり,WEP鍵を計算で求める前提として,通信している者が出しているパケットが少ない場合に,大量のパケットを発生させることで大量の乱数を収集するというものである。

  第3 検討

1 電波法1091項の「無線通信の秘密」とは,当該無線通信の存在及び内容が一般的に知られていないもので,一般に知られないことについて合理的な理由ないし必要性のあるものをいうと解される。

   2 前記のとおり,WEP鍵は,それ自体無線通信の内容として送受信されるものではなく,あくまで暗号文を解いて平文を知るための情報であり,その利用は平文を知るための手段・方法に過ぎない。

   WEP鍵は,大量のパケットを発生させて乱数を得ることにより計算で求めることができるという点では,無線通信から割り出せる情報ではあるものの,WEP鍵が無線通信の内容を構成するものとは評価できない。このことは,WEP鍵を計算によって求めるためには,必ずしも無線LANルータと端末機器との間で送受信されるパケットを取得する必要はなく,ARPリプライ攻撃によってパケットを発生させることでも足りることからもいえる。すなわち,WEP鍵は,無線LANルータと端末機器との間で送受信される通信内容の如何にかかわらず,取得することができるのであり,無線通信の内容であるとはいえない。

   3 そうすると,WEP鍵は,無線通信の内容として送受信されるものではなく,無線通信の秘密にあたる余地はない。

   したがって,WEP鍵の利用は犯罪を構成せず,結局前記公訴事実については罪とならないから,刑訴法336条〔「被告事件が罪とならないとき,又は被告事件について犯罪の証明がないときは,判決で無罪の言渡をしなければならない。」〕により,被告人には無罪の言渡しをする。

 

当該判決書の「(事実認定の補足説明)第23」で認定されているところは,次のとおりです。

 

   3 被告人が1号パソコンからV₈方無線LANWEP鍵を取得したこと

1)認定できる事実

    警察官は,〔2014年〕611日午前1128分から被告人方の捜索を実施した。押収された1号パソコンのデスクトップ上にあった暗号化ファイル「f.atc」を復号すると作成される「f.txt」内に,被告人方の真向かいにあるV₈方の無線LANに接続するためのWEP鍵が保存されていた。

f.atc」の復号パスワードは,「p₁」であった。

その取得経緯は,次のとおりと認められる。すなわち,被告人は,1号パソコンを購入した〔2014年〕130日午後239分頃,1号パソコンにKali LinuxというOSをインストールした。同日午後320分頃,そのKali Linux上でWEP鍵情報の解析を行うことができるソフトウェアwifiteにより,被告人方の真向かいにあるV₈方の無線LANアクセスポイント(以下「V₈方無線LAN」という。)に対して攻撃がなされて,WEP鍵が取得され,同日午後526分頃から同日午後627分頃までの間,1号パソコンからV₈方無線LANに接続した。

そして,後述するとおり,被告人は,〔2014年〕611日午前1126分頃,1号パソコンを操作して,V₈方無線LANに接続したと認められる。

なお,1号パソコンのほか,被告人方から押収された押収番号18号のパソコン(18号パソコンという。)と6号外付けハードディスク〔押収番号6番の外付けハードディスク〕から,暗号化ファイル「f.atc」が発見され,それを復号すると作成される「f.txt」に,V₈方無線LANWEP鍵情報などが記録されていた。

2)検討

被告人が,1号パソコンを購入し,Kali Linuxをインストールした当日に,第三者が1号パソコンに対する遠隔操作の準備を済ませ,Kali Linuxのインストールからわずか40分程度で,wifiteを実行し,不正アクセスの準備行為であるWEP鍵の取得をした可能性は現実的には極めて低いと考えられる。そして,後述のとおり,〔2014年〕611日に,被告人がV₈方無線LANに接続したということは,1号パソコンを購入し使用した被告人がV₈方無線LANWEP鍵情報を取得したと合理的に推認することができる〔「被告人方では,被告人以外の家族が1号パソコンを使用することはなかった。」〕。このことは,被告人所有の他の機器から発見された暗号化ファイルの中にもV₈方無線LANWEP鍵情報が保存されていたことにより裏付けられている。

 

 はてさてこれは,以下のようなことでしょうか。

 

3 「無線通信の秘密」=無線通信の内容(及び存在)の秘密

まずは,「無線通信の秘密」とは「無線通信の内容(及び存在)の秘密」ということであって,それ以外の「無線通信に関する秘密」までをも含むものではない,ということでしょう。『判例時報』2388115頁において本件東京地方裁判所判決の匿名評釈者は,その漏洩又は窃用のみが処罰されるものである電波法1091項の「無線通信の秘密」の意義について,「通信自体が秘密の対象となるのではなく,通信内容それ自体に秘密性がある場合を意味すると解されている(伊藤榮樹ほか編・注釈特別刑法(6)Ⅱ(新版)(立花書房,1994439以下)。本判決もこれを前提として,無線通信の秘密とは,当該無線通信の存在及び内容が一般的に知られていないもので,一般に知られないことについて合理的な理由ないし必要性のあるものをいうと解したものと思われる。」と紹介しています。

伊藤榮樹=小野慶二=荘子邦雄編『注釈特別刑法第6巻Ⅱ交通法・通信法編(新版)』441頁において河上和雄元東京地検特捜部長は,「無線通信の秘密の意義については,〔電波法〕59条〔何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか,特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第4条第1項又は第164条第3項の通信であるものを除く。第109条並びに第109条の22項及び第3項において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。〕との関係から,通信自体が秘密の対象となるのではなく,通信内容それ自体に秘密性がある場合を意味するといわざるをえないが,この場合の秘密とは,当該無線通信の発信者,受信者間において,他の者にその存在(もっとも,存在自体に秘匿の必要性,合理性がある場合は少ないと思われる。)や,内容を秘匿する合理的理由と必要性があり,かつ,その通信の存在や内容が一般に知られていない場合,すなわち秘匿の必要性と非公知性のあるものといえよう。最高裁は,国家機密(国家公務員法10912号,1001項)について,この「秘密とは,非公知の事実であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの」(最決昭53531刑集323457)としているが,この考えは,秘密の要件の一般的特性をいうものであり,本条〔電波法109条〕の場合にも当てはまろう。ただ,国家機密と異なり,本条の秘密は,個人の秘密をも含むので,その秘密に違法性がある場合,例えば,密輸業者間の無線連絡の如きは,当事者間でいかに秘匿の必要性があっても,その存在や内容を傍受して漏らしても本条の対象とはならない。本法をはじめとして法令に違反しない正当な通信であって右の要件を具備してはじめて保護の対象となる。そして,秘密か否かの判定は,当然司法判断に服する(右最決昭53531)。」と述べています。

 

4 無線「通信」の内容

そもそも無線通信の「通信」とは,「意思,観念,感情等人の精神活動を伝達することをいうのであり,従つて特定人間の無線電信,無線電話による通信だけでなく放送,テレビジョン,フアクシミリ等による場合も含まれ」るものとされています(荘宏=松田英一=村井修一『電波法放送法電波監理委員会設置法詳解』(日信出版・1950年)81-82頁)。ということで,無線通信の「内容」は「当該通信が伝達しようとする意味の知識」ということになります(荘等108頁)。しかして,ここでの「意味」は,「意思,観念,感情等人の精神活動」に係る意味ということでしょう。ちなみに,レーダの電波は「意思,観念,感情等人の精神活動」を伝達するものではなく,したがってレーダについては無線通信の秘密を云々することはないということになるのでしょう。(なお,無線設備のうち無線通信を行わないものと高周波利用設備(電波法1001)との相違は,前者については電波の両端において電気的設備による電波の送受が前提とされている(同24号)のに対して,後者は高周波のエネルギーとして出しっぱなしになる(医療用設備,工業用加熱設備等)ということでしょうか(荘等246頁参照)。しかし,無線設備と高周波利用設備との切り分けは,それまで無線局として監理されていた誘導式読み書き通信設備(「通信」を行うものです。)が2002919日の総務省令改正によって高周波利用設備扱いに変換されてしまうなどということもあって,流動的です。)

『判例時報』の前記匿名評釈者は,「無線LAN通信で送受信しようとしている情報は,あくまで暗号文を復号して得られる平文であり,WEP鍵自体が送受信されているとは評価できない。強いて例えるならば,手紙(平文)を鍵のかかる封筒に入れて(暗号化)送るとき,そこで送られているのは,封筒の鍵(WEP鍵)ではなく,手紙であるのと同様に考えられよう。」と述べています(判時2388115頁)。この点に関しては,つとに立命館大学の上原哲太郎教授(情報セキュリティー)が「暗号鍵自体は,封筒の外側だけを見ているようなもので,中身を読んだとまではいえない。通信の秘密と解釈するのは無理があった」とコメントしていたところです(2017年4月28日読売新聞朝刊14版35面)。

 

5 無線通信の内容と当該無線通信の暗号化のための暗号鍵との別異性

結局,無線LANアクセスポイントに係るWEP鍵は,そもそも当該アクセスポイントを経由する無線通信の内容に含まれておらず,通信以前に,それらの無線通信とは別個独立に存在しているものなのだ,ということなのでしょう。すなわち,2014130日午後320分頃に「ソフトウェアwifiteにより,被告人方の真向かいにあるV₈方の無線LANアクセスポイント〔略〕に対して攻撃がなされて,WEP鍵が取得され」たといっても,まず直接収集されたのは「大量の乱数」にすぎず,そこにはWEP鍵自体は含まれておらず,「WEP鍵が取得」されたのはその後それらの乱数を基に別途パーソナルコンピュータ上で計算しでからのことだったのだ,ということなのでしょう。

封筒の鍵の形(「WEP鍵」)を知るためには,当該封筒の外側に付けられた錠の様子を調べる(「大量のパケットを発生させることで大量の乱数を収集する」)必要はあるのでしょうが,その際封筒の中の手紙(「通信の内容」)を見る必要は無いことになります。前記匿名評釈者は,「ここでも強いて例えるならば,封筒の鍵の形を知るために,その中に何が入っているのかを知る必要はないのと似ている。」と述べています(判時2388116頁)。

 

6 電波法109条の2との関係

 ところで本件は,何故電波法109条の21項の罰条(「暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが,当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元したときは,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」)で起訴されなかったのでしょうか(同項は未遂も処罰(同条4項)。なお,「「暗号通信」とは,通信の当事者(当該通信を媒介する者であつて,その内容を復元する権限を有するものを含む。)以外の者がその内容を復元できないようにするための措置が行われた無線通信をいう。」とされています(同条3項)。)。同条は平成16519日法律第47号により電波法に追加され,既に200468日から施行(同条5項を除く。)されていました(平成16年法律第47号附則12号)。

刑の重さは電波法109条の21項も1091項も変わらないところ,暗号通信の「内容」の復元というところで,同法109条の2の適用はひっかかったのでしょうか。確かに,本件被告人が2014130日に復元ないしは計算の結果取得したものは暗号化鍵でした(無線通信の「内容」ではないでしょう。)。そこで,109条の21項の適用は断念しつつ,1091項の「無線通信の秘密」には内容及び存在のほかに暗号化鍵も含まれるのだとの解釈を裁判所に呑ませようとしたものでしょうか。

それとも,単に,暗号通信の秘密の内容を復元してそれを漏洩又は窃用した場合は,電波法109条の21項の罪は同法109条の罪に吸収されるのだという解釈が採られているということでよいのでしょうか。

 なお,電波法109条の未遂に係る処罰規定(刑法44条)はありませんが,当該未遂行為が処罰されないことについて,河上元特捜部長は,「おそらく立法ミスと考えられる」と批判しつつ,未遂を処罰しない「理由を強いて考えれば〔略〕本条〔電波法109条〕では秘密を漏らす行為のほか,その窃用をも処罰の対象としている点で〔電気通信事業法(昭和59年法律第86号)179条及び有線電気通信法(昭和28年法律第96号)14条と異なり〕秘密の利用に処罰の重点をおいた関係で,未遂を処罰の対象外としたといえるかも知れない。それにせよ,必ずしも合理的な説明とはいえない。」と述べていました(伊藤等編439頁)。

7 有線電気通信法17条1号の謎

 ところで,有線電気通信法(電波法同様に総務省が主管しています。)が出てきたので最後に脱線です。実は有線電気通信法171号の犯罪構成要件は,どうも出来がよくないようです。同号により「第3条第1項から第3項までの規定による届出をせず,又は虚偽の届出をした者」は10万円以下の罰金に処せられるのですが,有線電気通信法31項は「有線電気通信設備を設置しようとする者は,〔略〕設置の工事の開始の日の2週間前まで(工事を要しないときは,設置の日から2週間以内)に,その旨を総務大臣に届け出なければならない。」と規定しているところ,あるせっかちな人が有線電気通信設備の設置をふと思い立ち,思い立った吉日に即日工事をして設置してしまった場合はどうなるのでしょうか。届出をしない罪の既遂時期は工事日(かつ有線電気通信設備の設置を思い立った日)の15の日が終了した時(期間の遡及の場合の期限について『コンメンタールNTT法』(三省堂・2011年)203頁参照)に遡及するのでしょうが,実はその時点では当該せっかち漢には有線電気通信設備を設置しようなどという気はつゆ無かったのであって,どうしたものでしょうか。「犯罪の既遂時期を明確にしなければならない」という要請(前田正道編『ワークブック法制執務(全訂)』(ぎょうせい・1983年)212頁)には一応応えているようにも見えるのですが,故意(刑法381項本文)の点はどう解したものやら。過失により届出期間を徒過した場合も有線電気通信法171号による処罰は可能であるとされていますが(伊藤等編419頁(河上和雄)),そもそも有線電気通信設備を設置しようという気の全く無かった人間に届出義務は生じていたのでしょうか。