1 はじめに

 前回のブログ記事(「戸籍等の謄本等交付請求に当たって定額小為替証書についてふと考える」(2017年7月31日)http://donttreadonme.blog.jp/archives/1067126413.html)においては,ゆうちょ銀行の定額小為替証書及び普通為替証書を総務省(旧自治省系)及び国税庁は有価証券と解しているのに対し,当のゆうちょ銀行が,印紙税法(昭和42年法律第23号)別表第1第17号の「非課税物件」欄の3(「有価証券〔略〕に追記した受取書」は非課税物件とされています。)に関してそうではないような取扱いをしていることについての奇妙な感じを指摘していたところです。

 「奇妙な感じ」は往々にして奥深い議論への入口となることがあるものです。

 今回は,ゆうちょ銀行の定額小為替証書及び普通為替証書の有価証券性いかんについて論じてみたいと思います。

 

2 有価証券

 まず,有価証券の定義から始めましょう。吉国一郎ほか編『法令用語辞典〈第八次改訂版〉』(学陽書房・2001年)には「有価証券」を定義していわく。

 

  私法上の財産権を化体する証券で,その権利の行使が証券によつてされるべきものをいう。例えば,手形,小切手,貨物引換証,船荷証券,倉庫証券,株券,商品券等がこれである。運送状,保険証券,下足札等は,証券に権利が化体されていないから,「有価証券」ではなく,証拠証券又は免責証券であるにすぎない。郵便切手,収入印紙等は,私法上の権利を化体するものではないから,これらも,「有価証券」ではない。有価証券は,その流通を保護するため種々の特性を付与されている(例―商法205517519,民事訴訟法7677382等)。(722頁)

 

現在,商法(明治32年法律第48号)205条は削除されていますが,商法旧205条は「株式ヲ譲渡スニハ株券ヲ交付スルコトヲ要ス/株券ノ占有者ハ之ヲ適法ノ所持人ト推定ス」と規定していました。また,商法517条から519条も,民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)3条によって,同法の施行に伴い削除されることになっています。民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行後は,有価証券については民法520条の2から520条の20までを見よ,ということなのでしょう。

「権利の行使が証券によつてされるべきもの」との箇所については,「有価証券法理の重点を呈示証券性に置き,いわゆる権利の「利用」の内容を主として権利の「行使」に求めようとするものである。ヒュック,ユリウス・フォン・ギールケなどが,これに属する」理論(西原寛一『商行為法』(有斐閣・1960年)103頁)を採用したものでしょうか。これに対しては,有価証券概念に係る鈴木竹雄説,すなわち,「有価証券は権利の移転・行使のいずれにも証券を要するものと認めなければならない。〔中略〕有価証券において権利の移転に証券を要するのは,権利の行使に証券が必要とされるためであって,もし権利の行使が証券と無関係になされうるものであれば,権利の移転に証券の交付を要求することは無意味であり,他面からみれば,権利の移転の際に証券の交付が必要とされればこそ,権利行使の際に証券が基準となるのである。即ち,権利移転の際における権利と証券との結合と,権利行使の際における権利と証券との結合との間には,相互に論理的関係が存するのである。このように考えれば,有価証券において権利の移転及び行使の両者に証券が必要なのはむしろ当然なことであって,そのいずれかに証券を要すれば足りると考えるのは,右の両者の関係に思いいたらないものと云うべきである。」との議論(鈴木竹雄『手形法・小切手法』(有斐閣・1957年)27頁)を補っておくべきでしょうか。

 

3 公示催告手続と定額為替証書・普通為替証書

ところで,約束手形等の有価証券では財産権が証券に「化体」しているため,有価証券が盗取されたり,又は紛失若しくは滅失した場合に当該有価証券上の権利者がどのように当該権利を行使すべきかが問題となります。そこで,公示催告手続(非訟事件手続法(平成23年法律第51号)の第4編が公示催告事件について規定しています。)が設けられています。「手形喪失者に権利行使を認めるためには,喪失手形につき善意取得者が生じていないことを確認した上で手形上の権利と手形との結合を解くという手続をとらなければならない,その手続が公示催告手続である。この手続は,有価証券一般について,その権利と証券との結合を解くためのものであって,有価証券以外のものについては認められない。」というものです(前田庸『手形法・小切手法入門』(有斐閣・1983年)253頁)。

ところが,ゆうちょ銀行の定額小為替証書及び普通為替証書については,公示催告手続によって無効とする(改正後民法520条の11520条の18520条の19第2項及び520条の20参照)ということが想定されていないようなのです。ゆうちょ銀行の為替規定11条は,次のように規定しています。(なお,改正後民法における上記条項の整備に伴い,民法施行法(明治31年法律第11号)57条(「指図証券,無記名証券及ヒ民法第471条ニ掲ケタル証券ハ非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第100条ニ規定スル公示催告手続ニ依リテ之ヲ無効ト為スコトヲ得」)も前記平成29年法律第45号の第1条によって削除されます。記名債券も公示催告手続で無効とし得るようにしたことについては(改正後民法520条の19第2項),「記名債券も有価証券の消極的作用によって証券なしでは権利を行使できないものであるから,それを喪失した場合には当然除権判決を認めざるをえないのであって,民法施行法〔57条〕の規定を限定的に解することが誤りなのではないかと思う」とつとに説かれていました(鈴木315頁)。)

 

11 為替証書の再交付

 (1)為替証書を失ったときは,差出人は,当行所定の書類に必要事項を記入し,記名押印又は署名をし,かつ,為替金受領証書を添えて,為替証書の再交付の請求をすることができます。

 (2)為替証書が汚染され若しくはき損されたため,記載事項が分からなくなったとき又は為替証書の有効期間が経過したときは,差出人又は受取人は,当行所定の書類に必要事項を記入し,記名押印又は署名をし,かつ,元の為替証書を添えて,為替証書の再交付の請求をすることができます。

  (3)前2項の請求があったときは,当行は,為替金が払い渡されていないことを確認したうえ,為替証書を当行所定の方法により発行してこれを請求人に交付します。ただし,定額小為替証書を失った場合においては,当該定額小為替証書の有効期間内は,為替証書の発行及び交付は行いません。

  (4)為替証書が再発行されたときは,元の為替証書は,為替金の払渡し又は払戻しの請求に使用することはできません。

 

為替規定の11条1項によれば,ゆうちょ銀行の為替証書を失ったときに再交付の請求ができるのは,差出人のみとなっています。これを有価証券無効宣言公示催告事件に係る非訟事件手続法114条の規定と比較してみると,同条では,有価証券が盗取され,紛失し,又は滅失した有価証券について公示催告手続の申立てができるのは,無記名式又は白地式裏書がされたものについては「その最後の所持人」(1号),その他の有価証券については「その有価証券により権利を主張することができる者」(2号)となっています。為替規定上は,ゆうちょ銀行の為替証書の所持者は,差出人によって受取人が指定されていない場合を含めて,「その証書により権利を主張することができる者」ではないように見えます。2007年の郵政民営化に伴い廃止された旧郵便為替法(昭和23年法律第59号)21条1号では受取人も普通為替証書亡失のときは郵便為替証書の再交付ができるものとされていましたが(旧郵便為替規則(昭和23年逓信省令第31号)14条参照。なお,同法には定額小為替証書が亡失した場合の証書再交付に係る規定はありませんでした(同法38条の2第1項は同法21条1号を準用せず。)。),ゆうちょ銀行においては差出人に限定されたわけです。
 差出人が為替証書を亡失したときは為替規定11条1項の特則により,それ以外の者が亡失したときは公示催告手続によるものとするという棲み分けは,為替規定自体には記載されておらず,技巧的に過ぎるでしょう。また,同条3項は「為替金が払い渡されていないことを確認」するのみであって為替証書が善意取得されていないことまでを確認するものではないと規定しているのですから,同条の制度は公示催告手続制度に対応したものともいえないでしょう。ゆうちょ銀行の為替証書については,善意取得ということが想定されていないのでしょうか。

 

4 郵政当局の見解:証拠証券=免責証券説

どうも不思議だということで,1955年の郵政省編『為替貯金事業概説 郵政研修所用教科書』を調べると,郵便為替証書の性質について次のようにありました(下線は筆者によるもの)。

 

 郵便為替証書は,郵政官署と差出人との間でした郵便為替送金の約束によつて,郵政官署が確実に送金の目的を達成するために発行するもので,この証書によつて,郵便為替に関する利用行為をする権利を証明する書類として役立たせるものである。したがつて,この為替証書は,為替金の払渡を受けたり又は払もどしを受けるときは,これを郵便局に提出しなければならない(85頁)

 

これは,郵便為替証書は,有価証券ではなく証拠証券だということなのでしょう。有価証券と証拠証券との違いは,「有価証券は,権利が証券に「化体」(Verkörperung)したものと言える。これに対し証拠証券というのは,単純な証明の用に供せられる文書のことであって,たとえば借用証書その他の契約書類・運送状(商570条)・預金証書などがそれである。証拠証券では,無形の法律関係が主眼であって,証券は単に証明の一方法たるにすぎない。」と説かれています(西原・商行為法104頁)。

ゆうちょ銀行の為替規定9条4項は「差出人が受取人を指定していない為替については持参人に為替金を払い渡すこととし,これにより生じた損害については,当行等〔ゆうちょ銀行及び日本郵便株式会社(同社が同行に係る銀行代理業を委託した者を含む。)〕は責任を負いません。」と規定していますが,これは,ゆうちょ銀行の為替証書であって差出人が受取人を指定していないものに係る免責証券性を規定したものでしょうか。

 

下足札や鉄道の手荷物引換票等は免責証券といわれるものである。この場合には,債務者は証券の所持人に弁済すれば,たとい所持人が真の権利者でないときも,悪意又は重大な過失がない限り,免責を受け,従って真の権利者から請求されても,再び給付することを要しない。従って,この場合には証券が実体法上意義を有するのであるが,それは債務者のために以上のような免責の効果が認められるだけであって,債権者にとっては証明証書〔又は証拠証券〕としての意味しかない。従って問題が起れば,権利者は証券を所持しているという事実だけでは権利を行使することができないが,その代り,権利者たることを証明すれば,証券がなくても権利を行使することができる。これに対し,有価証券の場合には,証券を所持すれば,権利者たることの証明を要せず,当然権利を行使できるから,免責証券と有価証券とは明らかに異るわけである。(鈴木6‐7頁)

 

ところで,「悪意又は重大な過失がない限り,免責を受け」る免責証券の効能に関しては,「免責証券と債権の準占有との関係,民法471条と同478条との関係」について論じられていたようです(鈴木7頁)。確かに,現在の民法471条は,「債に関する証に債権者を指名する記載がされているが,その証の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合」に係る債務者の軽過失免責について規定しています(下線は筆者によるもの)。「かつての多数説は,これ〔免責証券〕をも記名式所持人払債権の一種となし(有価証券たる記名式所持人払債権に対し,有価証券たらざるそれとなす),これに〔民法〕第471条を適用し,その他の点では別に取り扱う(鳩山〔秀夫『増訂改版日本債権法(総論)』(1925年)〕376頁等)」ということだったそうです(我妻榮『新訂債権総論』(岩波書店・1964年)564頁)。しかし,改正後民法の第3編第1章第7節は,「有価証券」に係る規定の節となっています。「性質の異なるもの〔有価証券の一種たるものとそうでないもの〕を同一に取り扱うことは妥当でない。この種の債権における債務者の弁済の保護されることは(471条によることなく),その免責証券たる性質から直接にこれを説明すべきである」ということになるのでしょう(我妻564‐565頁)。ただし,その場合,「債務者が保護されるのは,理論としては,善意かつ無過失の場合に限ると解」されて(我妻565頁),免責証券の所持人に対する弁済であっても,軽過失では免責されないことになるようです。また,現在の民法478条は「債権の準占有者に対してした弁済は,その弁済をした者が善意であり,かつ,過失がなかったときに限り,その効力を有する。」と規定しています(下線は筆者によるもの。かつては「債権ノ準占有者ニ為シタル弁済ハ弁済者ノ善意ナリシトキニ限リ其効力ヲ有ス」と規定されていました。)。

郵便為替証書は有価証券ではないという解釈は,1900年の旧々郵便為替法(明治33年法律第55号)時代から一貫していたようです。旧々郵便為替法12条(「郵便為替証書ノ有効期間ヲ経過シタルトキ又ハ郵便為替証書ヲ亡失毀損若ハ汚斑シタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ差出人又ハ受取人ニ於テ再度証書ノ交付又ハ為替金ノ払戻ヲ請求スルコトヲ得/再度証書ヲ発行シタルトキハ原証書ハ無効トス」)に関し,後に逓信省通信局長となる田中次郎の『通信法釈義』(博文館・1901年)にいわく。

 

 (そもそ)〔郵便〕為替証書は送金手形の(たぐい)にして証書其物(そのもの)を以て権利義務の消長と共にせしむるものに(あら)又手形の(ごと)く不要因に非ず証書的に非ず(すなわ)証書は亡失し効力を失ふことあるも其送金せしもの(いま)だ払渡を()さざること(あきらか)なる以上は為替金に(つい)て権利を有するものなり〔中略〕本法は元より証書と為替金送達上の権利と始終せしめず(ゆえ)仮令(たと)ひ証書の有効期間を超過するも(払渡は為さず)其為替金に就ては払戻を請求するを得べく又は再(ママ)証書の発行を請求することを得べしとす失効のみならず証書を亡失したる場合毀損したるとき若くは汚(ママ)したるときも(また)同一なり(562563頁。下線及び振り仮名は筆者によるもの)

 

 旧々郵便為替法時代の小為替制度はいわゆる持参人払式をも認めていたものの,1954年当時の郵政中央研修所教官によれば,小為替証書はやはり有価証券ではなく,有価証券なものにとどまったものとされています。

 

  小為替制度に持参人払式のものが認められ,それが,「簡易な送金の手段」としての代表的なものとなったのは,明治32年〔1899年〕4月以降のことである。すなわち,同年3月逓信省告示第86号による郵便小為替規定の改正により,「小為替ハ差出人ノ指定シタル為替ヲ取扱フ郵便局ニ於テ其受取人ヲ指定シアルモノハ該受取人ニ又其指定ナキモノハ証書持参人ニ払渡スモノトス」ることとなったのであるが,やがてそれは,次第に有価証券的な存在として国民の多数に愛用されるところとなり,その利用度は,口数においてはもとより,金額においても,太平洋戦争ぼっ発の頃には,ついに「確実な送金の手段」としての代表的存在たる通常為替のそれをしのぐ結果となったのである。(黒田猛「郵便為替制度の変せん」逓信協会雑誌516号(1954年5月号)40頁)

 1900年の旧々郵便為替規則(明治33年逓信省令第45号)44条は,「小為替ノ差出人ハ小為替証書相当欄ニ払渡郵便局所名及受取人ノ宿所氏名ヲ記入スヘシ但シ小為替証書持参人ヲシテ為替金ノ払渡ヲ受ケシメムトスルトキ又ハ随意ノ郵便局所ニ於テ其ノ払渡ヲ受ケシメムトスルトキハ受取人宿所氏名又ハ払渡郵便局所名ノ記入ヲ省略スルコトヲ得」と規定していました。
 1948年の旧郵便為替法制定当初なお存在した通常為替については,同法8条が「通常為替においては,差出人が現金を振出請求書とともに郵便局に差し出したときに,その郵便局において,差し出された現金の額を表示する通常為替証書を発行してこれを差出人に交付するとともに,振出請求書を差出人の指定する払渡郵便局に送付し,その払渡郵便局において,送付を受けた振出請求書と通常為替証書とを対照した上通常為替証書と引き換えに差出人の指定する受取人に為替金を払い渡す。」と規定していました。通常為替証書は,送付を受けた振出請求書と「対照」するものであるという点に力点を置いて観察すると,確かに証拠証券風であります。
 再び,田中次郎の『通信法釈義』にいわく。

 為替証書は為替金の振出しを証し振宛局に於て払渡しを要求しうる権利の証票と謂つべし故に其証書に有効期間を附するも之が経過に(より)(ママ)為替金権利証書亡失毀損権利手形と大に其趣を異にす為替金は一旦振出したる上は政府の有に帰し振出人若くは受取人は請求の権利を有するのみ証書は其権利を証する一材料たるのみ唯一の材料に非ざるなり〔略〕小為替証書は無記名の場合に殆ん(ママ)流通証書(かたむき)(もと)より手形と同一にせるに非ず其証書を亡失せるも有効期間を経過せるも依然払戻請求の権利あるを認めたり(530頁。下線及び振り仮名は筆者によるもの)


5 判例=学説:有価証券説

ということで,そそくさと本稿を閉じようと思ったのですが,銀行の電信送金契約はその指定受取人に直接支払銀行に対する請求権を与えるいわゆる第三者のための契約ではないとした最高裁判所昭和4312月5日判決(民集22132876頁)がまた難しいことを述べています。

 〔郵便局による電信送金業務〕においては,送金の委託を受けた郵便局は,郵便為替法第9条,12条等の規定に基づき,原則として,その送金の支払請求権を表象する一種の有価証券たる電信為替証書を発行する(下線は筆者によるもの)


 昭和
26年法律第255号による改正後において,旧郵便為替法9条は「電信為替においては,差出人が現金を振出請求書とともに郵便局に差し出したときに,その郵便局において,その旨を省令の定める郵便局に電信で通知し,その通知を受けた郵便局において,〔差出人の指示に従い,〕差し出された現金の額を表示する電信為替証書を発行してこれを差出人の指定する受取人に送達するとともに,その電報を差出人の指定する払渡郵便局(差出人の指定のないときは,電信為替証書を発行する郵便局の指定する払渡郵便局)に送達し,その払渡郵便局において,送達を受けた電報と電信為替証書とを対照した上電信為替証書と引き換えに受取人に為替金を払い渡す〔か,又は差し出された現金の額に相当する現金を,為替金として,差出人の指定する受取人に書留郵便物として送達することにより払い渡す〕。」と(〔 〕内は昭和33年法律第74号による追加),並びに同法12条1項は「為替金に関する受取人の権利は,差出人が受取人を指定しない普通為替に関するものを除いては,銀行以外の者にこれを譲り渡すことができない。」と,同条2項は「為替金に関する受取人の権利の銀行への譲渡は,当該郵便為替証書を銀行に引き渡さなければ,これを以て郵政省その他の第三者に対抗することができない。」と,及び同条3項は「前項の譲渡には,民法第467条及び第468条の規定を適用しない。」と規定していました(下線は筆者によるもの)。「有価証券は権利の移転・行使のいずれにも証券を要するもの」とする鈴木竹雄流の有価証券の定義に合致するものとして読み得ます(旧郵便為替法12条2項が郵便為替証書の引渡しを譲渡の成立要件ではなく対抗要件としているのはちょっと画竜点睛を欠きますが,民法469条の規定との関係で仕方がなかったのでしょう。)。学説においても「郵便為替では,〔略〕その通常為替証書〔ママ。「普通為替証書」の誤りと解される。〕も支払請求権を化体する構成であるのみならず,電信送金にあっても,同じ性質の電信為替証書が発行されるもの〔略〕(郵便為替9条・12条)」と説かれていました(西原寛一『金融法』(有斐閣・1968年)211頁。下線は筆者によるもの)。

現在のゆうちょ銀行の為替規定も,その第1条で普通為替証書・定額小為替証書と引換えに為替金を払い渡すものとし,同規定12条1項は「為替金に関する受取人の権利は,他の銀行その他当行所定の金融機関(次項において「他の銀行等」といいます。)以外の者に譲り渡すことができません。」とした上で,同条2項は「他の銀行等へ為替金に関する受取人の権利を譲渡しようとするときは,為替証書を引き渡すことにより行ってください。」と規定しています。

なお,昭和26年〔1951年〕に行われた旧郵便為替法の改正の概要は,次のようなものでした。

 

昭和2611月には,郵便為替制度は,新しい転換をなしとげた。いうまでもなく,現行の制度がそれであって,ここに,「確実な送金の手段」としての代表的存在であった通常為替と,「簡易な送金の手段」としてより多くの存在意義を持っていた小為替とが「普通為替」に統合され,この普通為替と従来の電信為替との二本建の郵便為替制度が生れたのである。しかも,前者は,現行郵便為替法第8条に見る如く,無案内式のものであり,かつ,受取人の指定も任意であって,その指定のないものは持参人払となるわけであるから,従って,その統合は,むしろ「通常為替」制度の廃止であり,いうなれば,「確実な送金の手段」にかたより過ぎた通常為替の「簡易な送金の手段」としてより多くの存在意義を持つ小為替に対する敗北と見るべきものである。(黒田41頁)

 

 現在の定額小為替の直接の前身は,1961年5月の昭和36年法律第79号による旧郵便為替法の改正によって,普通為替を母体として設けられた制度です(普通為替自体がそれより前の小為替の流れを汲むものであることは上記のとおり。)。1951年11月以来据え置かれていた郵便為替(普通為替及び電信為替)の料金の大幅引上げ(1口当たり平均送金額(1万0800円)の金額の送金をする場合について見れば,普通為替については76パーセント,電信為替については49パーセント,料金の「個々の金額」について「全部を平均」すると,普通為替32パーセント,電信為替31パーセント(1961年4月5日衆議院逓信委員会大塚茂政府委員答弁(第38回国会衆議院逓信委員会議録第18号3頁)))に当たって,そのいわば見合いの措置として導入されたものです。「料金引き上げをいたしました結果,高額送金者に対して負担が多くなるようにという考慮はいたしましたけれども,やはり少額のものについては何といっても割高になりますので,それを救済する意味を含めまして,3000円以下の少額送金につきまして定額小為替制度というものを設けまして,その取り扱いを簡便にいたしまして,従って料金も安くするという制度を作りまして少額送金者の救済ということを考えたわけであります。」と1961年4月5日の衆議院逓信委員会で政府委員(大塚茂郵政省貯金局長)が説明しています(第38回国会衆議院逓信委員会議録第18号1頁。なお,同月11日の参議院逓信委員会において同政府委員は,「もう一つは郵便の方で,普通郵便に現金を封入することを今回の郵便法の改正でやめるというような予定になっておりますので,そうした場合に,なるべく安くそれにかわる制度を考えたいというようなことの意味も含めまして,定額小為替制度というものを設けた」たものと,理由を追加した答弁をしています(第38回国会参議院逓信委員会会議録第17号14頁。また,同会議録17頁)。)。
 「取り扱いを簡便にいたし」た諸点は,郵便局においては,「法律に書いてございますように,種類を100円から3000円までの14種類に限定をいたしまして,公衆から金を添えて請求がございましたならば,すでに金額の印刷してあります定額小為替証書をお渡しする」
(1961年4月5日衆議院逓信委員会における大塚茂政府委員説明(第38回国会衆議院逓信委員会議録第18号1頁)。また,同月6日の同委員会における同政府委員答弁(第38回国会衆議院逓信委員会議録第19号6‐7頁))ということが第1点(これに対して普通為替の場合は,いちいち金額印を押さなくてはならない。),「普通為替につきましては原符がございます」が「定額小為替についてはその原符というものを作りません」のが第2点(同月5日同委員会における同政府委員答弁(第38回国会衆議院逓信委員会議録第18号7頁)),郵便局の日報について「郵便切手の売りさばきの報告を日報で出しますが,あの下に欄を設けまして,100円券何枚,200円券何枚が売れたという報告を簡単にするというふうに考えてお」ることが第3点(同日同委員会における同政府委員答弁(同会議録7頁)),地方貯金局においては,「結局原符がございませんから,地方貯金局では,原符を,記号番号順に保管整理しておきまして,為替の払いが済んだら,その為替証書と照合,照査するというような仕事はなくなりまして,現実に小為替に現金を払った場合には,〔定額小為替証書〕そのものが上がってきますので,そのものを記号別に,また金額別に整理をしておいて,あとで再発行とか何かの要求があったときだけ,それを調べればよろしいということになりますので,手続としては非常に簡単になる」点(同日同委員会における同政府委員答弁(同会議録7頁。また,同会議録1頁))ということのようでした(まとまった答弁としては,同月11日の参議院逓信委員会における同政府委員答弁(第38回国会参議院逓信委員会会議録第17号21頁))さらには,従来から3000円以下の普通為替証書については紛失・盗難の申出があっても支払差止めのための非常手配は行っていなかったが,定額小為替証書についても当該非常手配はやらないつもりであるとされていました(1961年4月5日の衆議院逓信委員会における大塚茂政府委員の答弁(第38回国会衆議院逓信委員会議録第18号6‐7頁))。また,為替金に関する権利の消滅期間について定める旧郵便為替法22条においては,普通為替及び電信為替に係る郵便為替証書の有効期間経過後3年間に対し,定額小為替については証書の有効期間経過後1年間となっていましたが,これについても「定額小為替につきましては,非常に少額のものにだけ限定をいたしましたので,これはそういう小さな債権債務の消滅のほかの例等も考慮し,また私どもの,いろいろ保管その他の手数省略というような点も考えまして,まあ1年ということにいたしたわけでございます。」と説明されていました(1961年4月11日の参議院逓信委員会における大塚茂政府委員の答弁(第38回国会参議院逓信委員会会議録第17号21頁。また,同会議録22頁))。


弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所

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定額小為替の利用が繁くなって,最近近所の郵便局の職員さんに名前を覚えられてしまったようです。