1 フィンテック法による仮想通貨に係る法規制

 何やら難しく響く名称の「仮想通貨」について論ずることは,一般の方々においては敬遠されているだろう,したがって,当該主題について書くと,「長い」「難しい」とつとに評判の悪い本ブログの読者を更に減らすことであろうとばかり思っていました。

 しかしながら最近,仮想通貨の将来性及びそこにおける投資機会について熱心に語られる年配の御婦人方と会う機会があり,考えを改めました。今や仮想通貨の日常化はすぐそこまで来ているのであり,そうであるのならば,あらかじめ,仮想通貨に関する法規制に関して一般の方々もある程度の知識を持っておられる方がよいと考えるに至ったものです。

 今年(2016年)6月3日に公布された情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年法律第62号。長い題名ですので以下「フィンテック法」と呼称することにしましょう。)によって,仮想通貨概念は既に実定法化されているところです。具体的には,フィンテック法11条によって改正される資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」といいます。)の改正後2条5項が次のように規定しています(なお,フィンテック法の施行は,公布の日(2016年6月3日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日からです(同法附則1条)。)。

 

 5 この法律において「仮想通貨」とは,次に掲げるものをいう。

  一 物品を購入し,若しくは借り受け,又は役務の提供を受ける場合に,これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ,かつ,不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り,本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって,電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

  二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって,電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

 

 なお,通貨建資産については,改正後資金決済法2条6項が次のように定義しています。

 

6 この法律において「通貨建資産」とは,本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され,又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行,払戻しその他これらに準ずるもの(以下この項において「債務の履行等」という。)が行われることとされている資産をいう。この場合において,通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は,通貨建資産とみなす。

 

 やはり難しいですね。

長くなりすぎず,難しくなりすぎないように注意しながら,今回の記事を書いていこうと思います。

なお,「現在交換所において法定通貨との取引が確認されている,ビットコイン(Bitcoin),ライトコイン(Litecoin),ドージコイン(Dogecoin)は①〔改正後資金決済法2条5項1号〕の定義に該当し,ビットコインと相互に交換ができるイーサ(Ether),カウンターパーティコイン(XCP)などは,②〔改正後資金決済法2条5項2号〕の定義に該当すると考えられ」ています(堀天子『実務解説資金決済法[第2版]』(商事法務・2016年)37頁)。

 

2 仮想通貨の定義に係る解釈

まず,改正後資金決済法2条5項による仮想通貨の定義についてです。この定義をかみ砕いたものとしては,次のような国会答弁が,麻生太郎国務大臣(金融担当)からされています。

 

・・・仮想通貨というものは,いわゆるマネーロンダリングとかテロ資金供与の対策のために国際基準というものをつくらねばいかぬということで,多国間の枠組みでありますファイナンシャル・アクション・タスク・フォース,FATFというものの定義というのがございますので,それを踏まえて,〔一,〕不特定の者に対して対価の弁済に使用でき,かつ,不特定の者を相手方として法定通貨と相互に交換できる,二,電子的に記録され,移転ができる,三,法定通貨または法定通貨建ての資産ではないとの性質を有する財産的価値と定義をいたしております。

 したがいまして,プリペイドカードなどの前払い式の支払い手段とか,その他,企業が発行しますポイントカードなどにつきましては,例えば,それらを使用可能な店舗というものが特定の範囲に限られておりますので,不特定の者に対して対価の弁済に使用できないものであるならば,これは基本的には仮想通貨には該当しない,そういうように定義をされております。

(第190回国会衆議院財務金融委員会議録第1613頁)

 

 池田唯一政府参考人(金融庁総務企画局長)は,仮想通貨とそれ以外のものとの切り分けについて次のように答弁しています。

 

  仮想通貨の定義に特定の取引が該当するかどうかは,個別の商品,サービスごとに具体的に判断されるべきものでありますが,一般論で申し上げれば,ただいまお尋ねのありましたポイント〔Tポイント,ANAマイル等〕ですとか電子マネー〔Suica等〕ですとかゲーム内で利用可能な通貨につきましては,例えば,それらを使用可能な店舗が発行者との契約や利用者への表示等で示されている,そして,そうしたものの交換を行う不特定の者が存在しないという通常の形態のものであるということでありますと,基本的には,仮想通貨には該当しないものと考えられるかと考えております。

 (第190回国会衆議院財務金融委員会議録第161920頁)

 

 FATFについては,「平成元年(1989年)に,マネロン・テロ資金供与対策の国際基準(FATF勧告)作りを行うための多国間の枠組みとして設立。FATF勧告は,世界190以上の国・地域に適用。FATF勧告の履行状況は加盟国間で相互審査がなされ,その際に特定された不備事項の改善状況についてフォローアップがなされる。」と紹介されています(金融審議会決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告「決済高度化に向けた戦略的取組み」(20151222日)27頁註63)。

 2015年6月26日のFATFの「リスクに基づく仮想通貨へのアプローチのためのガイドライン(Guideline for a Risk-Based Approach to Virtual Currencies)」(以下「FATFガイドライン」といいます。)においては,仮想通貨(virtual currency)は次のように定義されています。

 

  仮想通貨とは,価値のディジタル表現(digital representation of value)であって,ディジタル方式によって取引されることができ(can be digitally traded),かつ,(1)交換の媒体(medium of exchange)として及び/又は(2)評価の単位(unit of account)として及び/又は(3)価値の保蔵手段(store of value)として機能するものであるが,いずれの法域においても法貨(legal tender)としての地位(すなわち,債権者に対して提供されたときには,有効かつ法定の支払の提供であるもの)を有しないものである。仮想通貨は,いずれの法域からも発行又は保証されたものではなく,上記の機能は,その利用者のコミュニティ内部における合意によってのみ果たされる。仮想通貨は,発行国の法貨として指定された硬貨又は紙幣であって,流通し,かつ,発行国における交換の媒体として慣習的に使用され受領(accept)されているものである法定通貨(fiat currency)(現実通貨(real currency),リアル・マネー又は国の通貨(national currency)ともいう。)とは異なる。仮想通貨は,法定通貨建ての価値を電子的に移転するために利用されるところの法定通貨のディジタル表現であるeマネーとは異なる。Eマネーは,法定通貨のディジタル方式による移転のための仕組み,すなわち,法貨としての地位を有する価値を電子的に移転するものである。

 (FATFガイドライン26頁)

 

 仮想「通貨」と名付けられているとはいえ,フィンテック「法案では,現時点〔2016年4月27日〕で仮想通貨が通貨と同等の性質を有しないということを前提としつつ,支払い決済手段としての機能を事実として有することがあることに鑑みて,仮想通貨と法定通貨の交換業者について一定の規制を設けることとし」たものです(第190回国会衆議院財務金融委員会議録第1611頁(牧島かれん内閣府大臣政務官))。フィンテック法によって「この仮想通貨を通貨や公的な支払とか決済手段として認定したというわけではありませんで,また,大体六百以上種類存在すると言われておりますこの仮想通貨に対してお墨付きを与えるものでもない」ところです(第190回国会参議院財政金融委員会会議録第1417頁(麻生太郎国務大臣(内閣府特命担当大臣(金融))))。お墨付きは与えないものの,「利用者の利便性とか経済効率性というところから,これは当事者間の自由意思を尊重するということが望ましいということになるんだと思いますけれども,いわゆる適切な判断で利用者の保護とか取引の安全確保というものが可能であることなどから,〔仮想通貨の〕全面的な禁止をするよりはバランスの取れた規制ということを考えるべき」との趣旨でされた立法であるということになります(第190回国会参議院財政金融委員会会議録第1418頁(麻生国務大臣))。

 「仮想通貨は,不特定の者に対して使用できるものであることを要件としており,一種の通貨的な機能を持つ財産的価値を意味しているが,一般的には,法定通貨とは異なり,強制通用力までは有しない。仮想通貨で支払いを行おうとしても,当然には通用力はなく,債権者がこれを拒否した場合には弁済の効力が生じないため,交換価値があるとまでいえないという点が法定通貨との違いとして挙げられる。仮想通貨を保有する利用者が,弁済を行う際に仮想通貨を提示して代金を支払うとの意思を表示し,債権者がこれを受容した場合には,弁済(債務の履行,民法482条)の効力が発生すると考えられる。/また,仮想通貨によっては,価格の変動幅が大きく,価値が保蔵されているといえないことも法定通貨との違いである。」ということでしょうか(堀40頁)。そこにいう民法(明治29年法律第89号)482条は,「債務者が,債権者の承諾を得て,その負担した給付に代えて他の給付をしたときは,その給付は,弁済と同一の効力を有する。」と規定する代物弁済に係る規定です。「債権者がこれを拒否した場合には弁済の効力が生じない」というより以前に,弁済の提供の効果(民法492条)に関して,仮想通貨によって金銭債務の弁済に係る現実の提供(同法493条本文)がされるものと認められるかどうかも問題となりますが,これは否定に解すべきでしょう。「強制通用力の有(ママ)とは,この効力を有する範囲の貨幣をもってする弁済は本旨に従う弁済になるという意味である。」とされているところ(我妻榮『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』(岩波書店・1964年(第10刷修正後))37頁),仮想通貨にはそもそも強制通用力がない前提でありました。信用ある銀行の自己宛振出小切手の交付は金銭債務の弁済の提供となるといっても(最判昭37・9・21民集16・2041参照),小切手は仮想通貨と異なりそもそも通貨をもって表示されています。また,「交換価値があるとまでいえない」といっても,交換価値があると思って交換する人もいるのでしょう。

 通貨の通用力の根拠としては,通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律(昭和62年法律第42号)7条が「貨幣は,額面価格の20倍までを限り,法貨として通用する。」と,日本銀行法(平成9年法律第89号)46条2項が「・・・日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は,法貨として無制限に通用する。」と規定しています。ここでいう法貨とは,「取引において,法律上無制限に,又は一定の制限の範囲内において,強制通用力を有する通貨をいう。」とされ,通貨は「その抽象的な流通力を有する支払手段という点では法貨と同一の意義である」が,「法律的な強制流通力の側面に重点をおいて言い表す場合,特にその流通力の限界を規定する文脈では,「法貨」の用語が用いられている。」とされています(吉国一郎等編『法令用語辞典〈第八次改訂版〉』(学陽書房・2001年)673頁)。「「通貨」という用語は,通常,強制通用力のあるもの,すなわち,法貨について用いられるが(民法402)」といわれる場合(吉国等編536頁)の民法402条1項本文は,「債権の目的物が金銭であるときは,債務者は,その選択に従い,各種の通貨で弁済をすることができる。」と規定しています。また,同条2項は「債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは,債務者は,他の通貨で弁済をしなければならない。」と規定しています(相対的金種債権と推定(我妻38頁))。現在,通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律2条3項は「・・・通貨とは,貨幣及び日本銀行法(平成9年法律第89号)第46条第1項の規定により日本銀行が発行する銀行券をいう。」と定義しています。

 米国のドル紙幣について,ミルトン・フリードマンいわく(Free to Choose)。

 

 ・・・法貨であるという性質(The legal-tender quality)は,政府は自己に対する債務の弁済及び税の納付について(in discharge of debts and taxes due to itself)当該紙片(the pieces of paper)を受領し(will accept),並びに裁判所はそれらをドルで表示された債務の弁済とみなす,ということを意味する。なぜ,財及びサービスの私的交換取引においても,私人らによってそれが受領されるのだろうか。

  各人がそれらを受領するのは,他者もそうするということについて彼が確信を有している(confident)からである,というのが端的な解答(the short answer)である。当該緑色の紙片は,価値があるものと全員が思うから価値があるのである。各人が,それらが価値を有するものと思うのは,彼の経験ではそれらは価値を有していたからである。・・・

  当該習律(convention)ないしは擬制(fiction)は決して脆弱なものではない。事態は反対であって,共通の通貨(common money)を有することの価値が余りにも大きいので,人々は非常な不都合がもたらされた状態下(under extreme provocation)にあっても当該擬制に執着するのである――ここに,後に我々が見るように,通貨発行者がインフレーションから得ることのできる利益の部分(part of the gain),さらにはインフレーション惹起への誘惑が由来するのである。・・・(Avon Books, 1980, pp.237-238

 

3 仮想通貨交換業等

 フィンテック法11条による改正後の資金決済法2条7項及び8項は,「仮想通貨交換業」及び「仮想通貨の交換等」並びに「仮想通貨交換業者」を次のように定義します。

 

 7 この法律において「仮想通貨交換業」とは,次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい,「仮想通貨の交換等」とは,第1号及び第2号に掲げる行為をいう。

  一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換

  二 前号に掲げる行為の媒介,取次ぎ又は代理

  三 その行う前2号に掲げる行為に関して,利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。

 8 この法律において「仮想通貨交換業者」とは,第63条の2の登録を受けた者をいう。

 

なお,「第63条の2の登録を受けないで仮想通貨交換業を行った者」は,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され,又はこれを併科されます(改正後資金決済法107条5号)。

仮想通貨の売買とは,仮想通貨と法貨との交換ということになります。すなわち,売買は,「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代を支払うことを約することによって,その効力を生ずる」ものだからです(民法555条。下線部は筆者によるもの)。仮想通貨と仮想通貨との交換の契約は,正に「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約する」ものですから,民法586条1項の交換です。

「媒介」は,「ある人と他の人との間に法律行為が成立するように,第三者が両者の間に立つて尽力すること」です(吉国等編609頁)。

「取次ぎ」は,「自己の名をもって他人の計算で法律行為をなすこと」です(近藤光男『商法総則・商行為法〔第5版補訂版〕』(有斐閣・2008年)36頁)。例として,問屋(といや)があります(商法(明治32年法律第48号)551条以下)。

仮想通貨の交換業者について,FATFガイドライン29頁は次のように定義しています。

 

交換業者(exchanger)(また,仮想通貨取引所(virtual currency exchange)と呼ばれることもある。)は,業として,手数料(コミッション)を得て,仮想通貨を現実通貨,基金又は他種の仮想通貨及びまた貴金属への交換並びにその逆方向の交換に携わる(engaged)個人又は組織(entity)である。交換業者は,一般に,現金,電信送金,クレジット・カード及び他の仮想通貨を含む広範囲の種類の支払を受領し,並びに仮想通貨発行管理人とつながりがあること(administrator-affiliated)があり,ないときがあり,又は第三者としての業務提供者であることがある。交換業者は,取引所(bourse)として,又は両替商(exchange desk)として業務を行うことがある。典型的には,個人は,仮想通貨口座にマネーを預け,及び当該口座から引き出すために交換業者を利用する。

 

FATFガイドラインは,「リスク・アセスメントはまた,マネーロンダリング対策・テロ資金供与対策規制は,換金可能仮想通貨に係る結節点(nodes),すなわち,規制された金融システムへの出入口を提供するところの交錯点(points of intersection)を対象とすべきこと及び財又はサービスの購入のために仮想通貨を入手する利用者を規制することを目指すべきではないことを示すところである。当該結節点は,第三者として業務を提供する換金可能仮想通貨に係る交換業者を含む。そうである場合(where that is the case),それらはFATF勧告の下で規制されるべきである。かくして,各国は,国際基準によって規定され求められているマネーロンダリング対策・テロ資金供与対策に係る当該事項(relevant AML/CFT requirements)を,換金可能仮想通貨に係る交換業者,及び換金可能仮想通貨の動きと,規制された法定通貨に係る金融システムとが交錯する結節点となる他の種類の機関(institutions)に適用することを検討すべきである。」と勧告していました(6頁。下線部は,原文イタリック体)。

フィンテック法11条による改正後の資金決済法63条の2は,仮想通貨交換業について登録制度を設けます。登録制であって免許制を採らなかった理由については,「一般に我が国で免許と申しますと,法令による一定の行為の一般的禁止を公の機関が特定の場合に解除するという意味を持っていて,免許を受けた者をある程度独占的地位に置く性質を有するものと理解されていると思」われ,かつ,「他方,登録と申しますのは,一定の法律事実又は法律関係を行政庁等に備える特定の帳簿に記載するということで,一般には免許を付与する場合の方が登録のような場合よりも裁量が広く認められていると解されているかと考え」られることを前提に,「金融関係法令,法律では,顧客から資金を預かりリスク資産を含め運用を行う例えば銀行とか保険会社等については免許制が取られている。一方で,有価証券の売買,媒介,取次ぎなど,主として顧客から資金を預かるというようなことはありますが,運用を行うということのない金融商品取引業者ですとか受け入れた資金を顧客の指図に基づいて他者に移転させる資金移動業者,こういった者については現在〔2016年5月24日〕の金融関連法の中で登録制とされているところ」,「そうした中で,今回の仮想通貨交換業者につきましては,顧客から預かった財産を事業者の財産と分別して管理する義務が課されている〔フィンテック法11条による改正後の資金決済法63条の11第1項〕など,事業者において顧客の資産を自由に運用するというものではないということでありまして,こうしたことを踏まえまして,他の金融事業者との整合性等も勘案し,登録制ということで法律案を策定させていただいたということでございます。」と説明されています(第190回国会参議院財政金融委員会会議録第1419頁(池田唯一政府参考人(金融庁総務企画局長)))。

 フィンテック法11条による改正後の資金決済法63条の5第1項は,仮想通貨交換業の登録に係る登録拒否事由を掲げています。同項1号によると,仮想通貨交換業者は株式会社及び外国会社に限られます。同項3号は「内閣府令で定める基準に適合する財産的基礎を有しない法人」が登録申請者である場合を登録拒否事由としていますが,最低資本金として1000万円程度を求めることが当局によって考えられています(第190回国会衆議院財務金融委員会議録第1620頁(池田政府参考人))。仮想通貨交換業者として登録されるためには「仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備」が行われており(同項4号),かつ,フィンテック法11条による改正後の資金決済法第3章の2となる「仮想通貨」の章の規定を遵守するために必要な体制の整備」が行われていること(同法63条の5第1項5号)等が求められています。

 

4 投資家保護規制に係る継続検討

 仮想通貨を対象とした外国為替証拠金取引(いわゆるFX)類似のハイ・リスク取引が既に行われているそうですが(第190回国会衆議院財務金融委員会議録第1613頁(宮本岳志委員)),投資家保護のためのFXにおけるレバレッジの上限規制のような規制は,今回のフィンテック法においては,仮想通貨に係る取引について導入されるには至っていません。

 

  ・・・この仮想通貨を用いた取引というのを法令上どのように規制するかということにつきましては,仮想通貨と既存のいわゆる有価証券等々との類似性の程度とか,また,仮に仮想通貨を用いた取引につきましても,何らかの規制を導入する場合には,具体的にどのような類型があるかとか,また,内容の規制がふさわしいかといったことなど,これはいろいろな論点というものをもう少し整理してみる必要と,その時間も要るんだと思っております。

  したがいまして,今回の法案では,実際に投資家に被害の生じましたマウントゴックス社の破綻というものを踏まえまして,早急に仮想通貨と法定通貨との交換業者に対する登録制と,マネロンとテロ資金供与規制を導入するということにしつつ,・・・仮想通貨を用いた取引というものを法令上どのように規制するのかということにつきましては,これは今しばらく時間をいただいて,今後とも,継続して検討させていただきます。

 (第190回国会衆議院財務金融委員会議録第1614頁(麻生国務大臣)。また,同号13頁)

 

ここでいうマウントゴックス社の破綻とは,「ビットコイン」の交換所である東京都渋谷区の株式会社MTGOXが2014年2月に東京地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをし,同年4月同裁判所は当該申立てを棄却して破産手続開始を決定(その時点での同社の資産は約39億円であったのに対し負債は約87億円あって,約48億円の債務超過),更に2015年に同社代表者が業務上横領(ビットコイン売買のため顧客が預けた資金の着服等)等の容疑で逮捕されたというものです(「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」に係る説明資料(金融庁・2016年3月)8頁)。

「ビットコイン」については,「平成20年〔2008年〕に「ナカモトサトシ」と名乗る人物が公表した論文に基づき,インターネット上で有志の開発者によって開発されたと言われている仮想通貨。ネットワークに参加する者の間において,電子的に移転がなされ,全ての取引履歴は,参加者が共有する公開台帳に記録される。なお,ビットコインには,発行者は存在せず,取引を認証し,公開台帳に取引を記帳した者(一般に採掘者といわれる)に対して,その報酬としてシステム上自動的に発行される。」と紹介されています(決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告26頁註57)。

フィンテック法11条による改正後の資金決済法63条の10(「利用者の保護等に関する措置」との見出し)は,「仮想通貨交換業者は,内閣府令で定めるところにより,その取り扱う仮想通貨と本邦通貨又は外国通貨との誤認を防止するための説明,手数料その他の仮想通貨交換業に係る契約の内容についての情報の提供その他の仮想通貨交換業の利用者の保護を図り,及び仮想通貨交換業の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない。」と規定しています。

 

5 マルチ商法の客体性問題等

 

(1)連鎖販売取引の客体性

なお,消費者保護との関連でいえば,仮想通貨がマルチ商法といわれる連鎖販売取引の客体となるものかどうかも気になります。連鎖販売取引は,特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)33条1項において「物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む。・・・)の販売(そのあつせんを含む。)又は有償で行う役務の提供(そのあつせんを含む。)の事業であつて,販売の目的物たる物品(以下・・・「商品」という。)の再販売(販売の相手方が商品を買い受けて販売することをいう。・・・),受託販売(販売の委託を受けて商品を販売することをいう。・・・)若しくは販売のあつせんをする者又は同種役務の提供(その役務と同一の種類の役務の提供をすることをいう。・・・)」若しくはその役務の提供のあつせんをする者を特定利益(その商品の再販売,受託販売若しくは販売のあつせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供をあつせんする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部をいう。・・・)を収受し得ることをもつて誘引し,その者と特定負担(その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供をいう。・・・)を伴うその商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。)」と定義されています。

 仮想通貨は,「物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む。・・・)」又は「有償で行う役務の提供」に該当するものかどうか。しかしながら,仮想通貨は少なくとも「物」たる有体物(民法85条)ではないところです。他方,金銭は所有権及び占有の対象となる動産なのですから(最判昭29115刑集81675参照),役務ではないでしょう。金銭は,「財貨の交換の用具として国家がその価格を一定したものをいう。」とされています(吉国等編176頁)。金銭が役務でないのであれば,仮想通貨も役務とはいえないのでしょう。

 ただし,仮想通貨に関する「教育パッケージ」の販売ならば,連鎖販売取引の客体たる「施設を利用し又は役務の提供を受ける権利」たる物品の販売ということになるのでしょう。

 

(2)売買及び交換と「採掘」との関係

 さて,フィンテック法の施行後は,仮想通貨交換業を行うには内閣総理大臣の登録を受けなくてはならず(改正後資金決済法63条の2,107条5号),更に外国仮想通貨交換業者(同法2条9項)は,当該登録を受けずに仮想通貨交換業に係る改正後資金決済法2条7項各号に掲げる行為の勧誘も行ってはならぬものとされています(同法63条の22)。登録を受けなければならないというのは厄介ですが,細かく見てみると「仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換」(同法2条7項1号)によらずに仮想通貨を入手することに関する行為は,規制の網の目を潜れることができそうではあります。すなわち,「トークン」などを用いて仮想通貨を原始的に自ら作成(「採掘」)するのであれば,売買にも交換にも当たらないもののごとし。商法4条2項は「鉱業を営む者は,商行為を行うことを業としない者であっても,これを商人とみなす。」と規定していますが,同項のような手当てが,仮想通貨交換業の定義に関しても今後必要となるものか否か。これはいささか,先走り過ぎでしょうか。

 

6 銀行又は金融商品取引業者による仮想通貨交換業

 銀行又は金融商品取引業者が仮想通貨を取り扱えるかどうかの問題については,金融庁当局は慎重です。

 銀行の業務の範囲について規定する銀行法(昭和56年法律第59号)10条から12条までは,フィンテック法によって改められていません。

 

  一般論で申し上げますと,御指摘の仮想通貨の販売,投資,勧誘等の業務が法令で銀行に認められております業務に該当するかどうかという点は,その業務につきまして,その銀行の固有業務との機能的な親近性やリスクの同質性があるかどうか,それから,その業務規模が銀行の固有業務に比して過大ではないかなどの観点から業務の態様に応じて判断されていくべきものであると考えております。

  また,金融商品取引業者のうち,御指摘の第一種金商業者〔第一種金融取引業の定義は金融商品取引法(昭和23年法律第25号)28条1項〕あるいは投資運用業者〔投資運用業の定義は金融商品取引法28条4項〕という者については,法令に定められた一定の業務以外の業務を行う場合には当局から個別に承認を受けることが必要とされておりますが〔金融商品取引法35条4項〕,その承認に当たりましては,業務が公益に反すると認められないかどうか,あるいはリスク管理の観点から問題がないかなどの観点から判断していくことになると考えております〔同条5項〕。

  いずれにしましても,こういう判断に当たりましては,今回の法案に基づく法的枠組みの整備等を通じて,仮想通貨が銀行や金融商品取引業者が取り扱うことがふさわしい社会的な信頼等を有する決済手段として定着していくかどうかといったことも十分見極めながら判断していく必要があると考えているところでございます。

 (第190回国会参議院財政金融委員会会議録第14号5頁(池田政府参考人))

 

7 仮想通貨と税務

 

(1)消費税

 仮想通貨の事業上の取引は,消費税法(昭和63年法律第108号)2条1項8号の資産の譲渡等(「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。」)に該当するということで,消費税が課されます(同法4条1項)。仮想通貨は,支払手段だといっても,消費税法の別表1の第2号の支払手段(外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)6条1項7号に規定する支払手段)に該当しないので,その譲渡は消費税法6条1項によって非課税にはならないから,と説明されています。「非課税として限定列挙されております支払い手段」である「法定通貨とか小切手とか,そういったような物品切手に該当しませんので」ということです(第190回国会衆議院財務金融委員会議録第16号7頁の麻生国務大臣の答弁)。

外国為替及び外国貿易法6条1項7号は,「支払手段」として,銀行券,政府紙幣,小額紙幣及び硬貨(同号イ),小切手(旅行小切手を含む。),為替手形,郵便為替及び信用状(同号ロ),証票,電子機器その他の物に電磁的方法により入力されている財産的価値であって,不特定又は多数の者相互間で支払のために使用することができるものであり,その使用の状況が通貨のそれと近似しているものとして政令で定めるもの(同号ハ。外国為替令(昭和55年政令第260号)2条を見ると,当該政令の定めは無いようです。)並びに同号イ又はロに掲げるものとして政令で定めるもの(同号ニ)を掲げています。外国為替及び外国貿易法6条1項7号ニの「政令で定めるもの」として,外国為替令2条1項1号は約束手形を掲げ,同項2号は「法第6条1項7号イ若しくはロ又は前号に掲げるもののいずれかに類するものであって,支払のために使用することができるもの」と規定していますが,外国為替令2条1項2号の「もの」も,やはり有体物ということになるでしょう。なお,消費税法の別表1第2号は支払手段に「類するものとして政令で定めるもの」の譲渡についても消費税は課されないものとしていますが,この「政令で定めるもの」は,国際通貨基金協定15条に規定する特別引き出権です(消費税法施行令(昭和63年政令第360号)9条4項)。

 

附:小額紙幣

外国為替及び外国貿易法6条1項7号イに「小額紙幣」というものが出て来るのでこれは何だということになりますが,通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律附則2条3号によって廃止された臨時通貨法(昭和13年法律第86号)5条に「政府ハ必要アルトキハ臨時補助貨幣ノ外50銭ノ小額紙幣ヲ発行スルコトヲ得/小額紙幣ハ10円迄ヲ限リ法貨トシテ通用ス/小額紙幣ノ形式ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム」と,同法6条2項に「小額紙幣ハ他ノ通貨ヲ以テ之ヲ引換フ」と,同法7条に「小額紙幣ノ発行,銷却及引換ニ関シテハ大蔵大臣ノ定ムル所ニ依リ日本銀行ヲシテ其ノ事務ヲ取扱ハシム」と規定されていたものです。臨時通貨法は,その附則2項に「臨時補助貨幣及小額紙幣ハ支那事変終了ノ日ヨリ1年ヲ経過シタル後ハ之ヲ発行セズ」とありましたから,本来は前年(1937年)からの支那事変対策のための法律だったのでしょう。政府が発行するものであるので,銀行券ではありません。

 

 「消費税の課税事業者である個人のトレーダーが仮想通貨を購入する行為,これは課税仕入れということになりますし,逆に,仮想通貨で円を買うという行為は仮想通貨の販売になりますので,課税売り上げということになります。/したがって,他の取引とあわせて,課税売り上げに係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を差し引いた額を納税するということになります。」(第190回国会衆議院財務金融委員会議録第1615頁(星野次彦政府参考人(国税庁次長)))

 なお,仮想通貨の取引に係る上記の消費税課税の取扱いは,2017年6月までのこととなりました。2016年12月22日に閣議決定された平成29年度税制改正の大綱における「四 消費課税」中「(5)その他」の「(国税)」 の「(2)仮想通貨に係る課税関係の見直し」が,「①資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について,消費税を非課税とする。/②その他所要の措置を講ずる。」ものとしています。これには経過措置に係る(注1)から(注3)までが付されていますが,(注1)によれば,「上記の改正は,平成29年7月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用する。」とされています。

 

(2)所得税又は法人税

 所得税又は法人税については,「ビットコイン〔仮想通貨〕の譲渡によりまして利益が生じた場合は,所得税または法人税の課税の対象」となります(第190回国会衆議院財務金融委員会議録第1614頁(麻生国務大臣))。

 

(3)登録免許税

 仮想通貨交換業者の登録に係る登録免許税の額は,1件につき15万円となります(フィンテック法附則9条による改正後の登録免許税法(昭和42年法律第35号)別表第1第49号(三))。

 

8 犯罪収益移転防止法の一部改正

 仮想通貨を用いた「いわゆるマネーロンダリングとかテロ資金供与の対策」(実はこれが本丸でしょう。)を直接担うものとして,フィンテック法附則14条によって犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下「犯罪収益移転防止法」といいます。)の一部改正がされています。

すなわち,仮想通貨交換業者は,犯罪収益移転防止法上の特定事業者となります(改正後犯罪収益移転防止法2条2項31号)。犯罪収益移転防止法は,「特定事業者による顧客等の本人特定事項(・・・)等の確認,取引記録等の保存,疑わしい取引の届出等の措置を講ずることにより」,「犯罪による収益の移転防止を図り,併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保」する法律です(同法1条参照)。

また,改正後犯罪収益移転防止法30条は,他人になりすまして仮想通貨交換業者との間における仮想通貨交換契約(改正後資金決済法2条7項各号に掲げる行為を行うことを内容とする契約)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として,仮想通貨交換用情報(仮想通貨交換業者において仮想通貨交換契約に係る役務の提供を受ける者を他の者と区別して識別することができるように付される符号その他の当該役務の提供を受けるために必要な情報)の提供を受けること等に関する罰則を定めています。

 

弁護士 齊藤雅俊

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今年最後のブログ記事となりました。今年は,『プレジデント』の雑誌取材を受けたほか(8月29日号に記事掲載),引き続き企業法務をお手伝いする仕事に携わる一方,相続関係事件,親族関係事件,損害賠償請求事件,民事執行事件,債務整理関係事件等々,幅広い業務経験を積み重ねさせていただきました。

来年は,更により多くの方々のために御満足いただける仕事をすることができるよう祈念し,かつ,精進を期しております。

お悩みのある方は,お気軽に御相談ください。法律面からの切り口ということになりますが,かえって確実なお答えができることになろうかと思っております。(なお,弁護士相談料は,305400円(消費税額込み)が基本ということになっています。)

刑事でも,当番弁護士・国選弁護人の仕事がありました。ただし,刑事事件については,読者の方のための仕事を多々しなければならなくなるようなことがないよう,祈っております🎍