1 大隅良典博士と所得税法9条1項13号ホ
 大隅良典博士に
2016年のノーベル生理学・医学賞が授与されるということで,ノーベル賞の賞金には課税がされるものかどうかが,関心のある向きの間で話題にされています。

 解答は,六法をひもとく労を惜しまなければ非常に難しいものではなく,所得税法(昭和40年法律第33号)9条1項13号ホを見ると,「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」には所得税が課されないものとされています。

 同号は,次のとおり。

 

  (非課税所得)

 第9条 次に掲げる所得については,所得税を課さない。

  〔第1号から第12号まで略〕

  十三 次に掲げる年金又は金品

   イ 文化功労者年金法(昭和26年法律第125号)第3条第1項(年金)の規定による年金

   ロ 日本学士院から恩賜賞又は日本学士院賞として交付される金品

   ハ 日本芸術院から恩賜賞又は日本芸術院賞として交付される金品

   ニ 学術若しくは芸術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国,地方公共団体又は財務大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)で財務大臣の指定するもの

   ホ ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品

   ヘ 外国,国際機関,国際団体又は財務大臣の指定する外国の団体若しくは基金から交付される金品でイからホまでに掲げる年金又は金品に類するもの(給与その他対価の性質を有するものを除く。)のうち財務大臣の指定するもの

  〔第14号から第18号まで略〕

 2〔第2項略〕

 ちなみに,ただで金品を貰うのであれば贈与であるから贈与税の問題となるのではないかとも思われるかもしれませんが,贈与税は「相続税の補完税であるため,個人からの贈与による財産のみが課税の対象とされ」(金子宏『租税法 第十七版』(弘文堂・2012年)543頁),「法人からの贈与により取得した財産」は贈与税の課税価格に算入しないものとされています(相続税法(昭和25年法律第73号)21条の3第1項1号)。それでは法人から贈与された金品は非課税なのかといえば,「利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」である一時所得(所得税法34条1項)に「法人からの贈与」は含まれ(金子247頁),所得税が課されるわけです。
 

2 湯川秀樹博士と昭和25年法律第71号による旧所得税法6条6号の追加 

 さて所得税法9条1項13号ホは最近の改正による規定であろうか,何だか記憶に残るところではノーベル賞受賞者で所得税の申告漏れがあった人もいたようだったが,と思って各種ウェッブ・ページを見てみると,1949年に湯川秀樹博士がノーベル物理学賞を受賞したところ,ノーベル賞の賞金には所得税が課されるものであることが当時問題視されたことにより法改正がされてノーベル賞の賞金は非課税になったとの説明があります。

 確かに,湯川博士のノーベル賞受賞の翌年である1950年の昭和25年法律第71号(同年3月31日成立)によって,旧所得税法(昭和22年法律第27号)の第6条6号として,非課税所得となるものとして「国,地方公共団体,外国,国際機関,国際団体又は大蔵大臣の指定する団体,基金若しくはこれらに準ずるものが学術に対する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術の研究を奨励するものとして交付する金品(給与又は対価の性質を有するものを除く。)で大蔵大臣の定めるもの」が追加されています。大蔵大臣によってノーベル基金が指定され,そのノーベル物理学賞などの賞金等の金品(「品」としてはノーベル賞メダルがありました。金銭のみならず,現物給付等の経済的利益も所得税法では課税の対象となります(同法36条1項・2項参照)。)は「学術に対する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術の研究を奨励するものとして交付する金品(給与又は対価の性質を有するものを除く。)」として更に同大臣によって定められたものであるわけです。

 昭和25年法律第71号の法案が審議された1950年3月9日の衆議院大蔵委員会において平田敬一郎政府委員(大蔵省主税局長)は旧所得税法6条の新しい第6号について「この非課税は新しく入れたわけでありまして,学術研究のための特別な奨励金等を,これによりまして免税する考えであります。具体的には国,地方団体等が出します場合は,無条件にこの条文に該当するということでいいと思いますが,民間の団体等で支出します場合におきましては,個別的に審査いたしまして,告示することによってその関係を明らかにしたい。大蔵省の告示で,その関係をはつきりいたしたいと考えております。」と答弁しています(第7回国会大蔵委員会議録第29号1頁)。

 ところが,肝腎の湯川博士に対する課税についてですが,前尾繁三郎委員が心配して「ちよつとこれに付随してお尋ねしたいのは,昨年の湯川博士の例のノーベル賞に関してでありますが,この法律は遡及されるわけではないと思いますが,ノーベル賞については,おそらく湯川博士はアメリカに住居が移つておる,あるいは居所が移つておるというような理由で,非課税になると思うのでありますが,この点はいかがでありますか。」と尋ねたところ,平田政府委員の回答は「湯川博士の場合は,家族とも一緒にアメリカに住居を移しておられるものに該当するものと考えますので,課税にならないと解釈いたします。」ということでした(第7回国会衆議院大蔵委員会議録29号1頁)。せっかく心配していたのに,そもそも我が国によって課税されるものではなかったとは,ちょっと肩透かしです。
 昭和25年法律第71号によって設けられた旧所得税法6条6号に係る大蔵省告示は,1950年6月13日に出され,次のようなものでした(昭和25年6月13日大蔵省告示第441号)。

  所得税法(昭和22年法律第27号)第6条第6号の規定により,同号に規定する団体,基金又はこれらに準ずるもの及び学術に対する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術の研究を奨励するものとして交付する金品を次のように指定し,昭和25年1月1日以後交付があつた金品から,これを適用する。

  昭和25年6月13

      大蔵大臣 池田 勇人

 一 ノーベル基金よりノーベル賞として授与する金品

 二 日本学士院が日本学術会議法(昭和23年法律第121号)第24条第2項の規定により恩賜賞又は日本学士院賞として授与する賞はい(、、)賞金

 三 国が科学研究費交付金等取扱規程(昭和24年文部省令第32号)の規定により交付する科学研究費交付金,科学試験研究費補助金及び人文科学研究費補助金並びに文部大臣の裁定により交付する研究成果刊行費補助金及び科学研究奨励交付金

 四 財団法人朝日新聞文化事業団が交付する朝日科学奨励金

 五 株式会社朝日新聞社が朝日文化賞(学術に関するものに限る。)として交付する金品

 六 株式会社毎日新聞社が交付する毎日学術奨励金及び毎日出版文化賞(学術に関するものに限る。)として交付する賞金

 七 株式会社読売新聞社が読売文学賞(学術に関するものに限る。)として交付する金品
 

 旧所得税法6条の前記規定は,1965年に全部改正された現行所得税法の当初の第9条1項17号に「文化功労者年金法(昭和26年法律第125号)第8条第1項(年金)の規定による年金及び学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国,地方公共団体,外国,国際機関,国際団体又は大蔵大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)で大蔵大臣の指定するもの」として引き継がれています。当該第9条1項17号に基づく指定に係る告示として昭和40年5月28日大蔵省告示第174号が出されており,「所得税法(昭和40年法律第33号)第9条第1項第17号の規定に基づき,同号に規定する団体又は基金及び学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして交付される金品を次のように指定し,昭和40年4月1日以後交付される金品から適用する。なお,所得税法第6条第12号に規定する団体,基金又はこれらに準ずるもの及び学術に対する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術の研究を奨励するものとして交付する金品を指定する告示(昭和25年6月大蔵省告示第441号)は,同日付をもつて廃止する。」との柱書きに続いて,第1号として「ノーベル基金からノーベル賞として授与される金品」が掲げられています(第2号から第14号までは省略)。

3 川端康成と昭和44年法律第14号による所得税法9条1項18号の改正 

 ところで,現行所得税法の当初の第9条1項17号(昭和41年法律第31号によって1号繰り下げられて第9条1項18号になっていました。)は,昭和44年法律第14号によって次のように改正され,「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」が具体的に書き出される形になっています(改正部分に下線)。

 

 文化功労者年金法(昭和26年法律第125号)第8条第1項(年金)の規定による年金,ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品並びに学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国,地方公共団体又は大蔵大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品及び外国,国際機関,国際団体又は大蔵大臣の指定する外国の団体若しくは基金から交付されるこれらの年金又は金品に類する金品これらの金品のうち給与その他対価の性質を有するものを除く。)で大蔵大臣の指定するもの

 

さて,昭和44年といえば1969年。その前年にノーベル賞関係で何かなかったものかと調べれば,1968年のノーベル文学賞受賞者は川端康成であって,同年1212日にはストックホルムで「美しい日本の私」と題した講演がされています(なお,『近代日本総合年表 第四版』(岩波書店・2001年)には12月「11日」にストックホルムの「授賞式」で講演がされたと記載されていますが,どうでしょうか。)。「美しい日本」では租税法規も美しく,ノーベル基金に感謝の真心をこめてノーベル賞は非課税である旨を所得税法に確認的に明示したということでしょうか。

いやいや,昭和44年法律第14号による所得税法9条1項18号の改正は,確認的なものにとどまらず,なかなか創設的なものであったものと考えられます。すなわち,川端康成が受賞した賞は「文学」賞であって,「学術」に係る賞ではなかったので,1965年の物理学賞の朝永振一郎博士などのようには非課税の恩典に素直にあずかれなかったという事情があるところです(小谷野敦・深澤晴美編『川端康成詳細年譜』(勉誠出版・2016年)の609頁を見ると,川端康成のノーベル文学賞受賞が発表された1963年10月17日の翌日から国税庁は川端康成のノーベル文学賞に係る課税問題について検討を始め,同月22日に至って正式に非課税と決したといいますから,正に素直ではありません。)。昭和44年法律第14号の法案が審議された1969年3月25日の参議院大蔵委員会で細見卓政府委員(大蔵大臣官房審議官)は「所得税制の整備」の一環として「すなわち,ノーベル賞の賞金はすべて非課税であるということを法律の上で明記することと」したと述べていますが(第61回国会参議院大蔵委員会会議録第6号20頁),ここでわざわざ付加された「すべて」は,「文学賞及び平和賞をも含めて」という意味であったものと解されます。
 というのはすなわち,前年1968年11月6日の衆議院大蔵委員会の閉会中審査において,弁護士という面倒くさい職業人である岡澤完治委員が,川端康成のノーベル文学賞に対しては所得税を課さないものとする同年10月22日の国税庁長官見解に対して批判的な質疑をしたところ,細見大蔵大臣官房審議官(この場では政府委員ではなく説明員です。)から「おっしゃるように紛議もございますので,機会を見て,むしろこれは法律ないし告示なりを訂正願うというのが筋だろう,かように考えております。」と答弁しているからです(第59回国会衆議院大蔵委員会議録第5号9頁)。
 なかなか興味深い問答なのですが,まず岡澤委員が「川端康成先生のノーベル文学賞受賞に関連して課税の問題が論議されたことは,お互いに承知いたしておるところでございますが,結論的には,去る10月22日の国税庁長官の見解で課税されないということになったわけでございます。私はその結論に必ずしも異議があるわけではございませんけれども,所得税法の9条18項〔号〕を見てまいりますと,「学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国,地方公共団体,外国,国際機関,国際団体又は大蔵大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品で大蔵大臣の指定するもの」という大前提がございます。この大前提をすなおに読みました場合,法文解釈としてはどう考えましても,文学,いわゆる今度受賞の対象になりました川端康成先生の文学を含めまして,学術という結論は出てこないような感じがいたします。現に学術会議の会長で,ノーベル賞の受賞の先任者であります朝永振一郎博士自身が,文学は学術の中に入らないと思うという意味の見解を明らかにしておられます。同じく学術会議の副会長の桑原武夫京大名誉教授も同じ趣旨の結論を述べておられます。・・・通常の解釈からすれば,当然課税されるべきものである。国民感情がその逆だから結論を先に出して,それに合うように非課税の結論を出すということになりますと,やはり国民一般としては,川端先生に対する感情は別として,法律の解釈,適用に納得できないものがあるのじゃないか。もちろん,法のもと平等であるべきでございます・・・」と堂々の法解釈に関する議論を展開したのに対して(
第59回国会衆議院大蔵委員会議録第5号9頁),細見説明員は「このノーベル賞を,所得税法9条〔旧所得税法6条〕に基づきまする非課税賞金として指定いたしましたときには,御承知のように,湯川博士が初めてノーベル賞をおとりになったときで,この立法の当時,立法に伴います告示を出しました。当時はすべてノーベル賞というのは世界的な権威というところにむしろ重点を置きまして,もちろんそのころ平和賞,文学賞のあることも存じてはおったのですが,日本人がノーベル賞をとられるときには学術であろうということで,ここに掲示いたしておりますのは,ノーベル賞はそのものずばりで書いております。ごらん願いますように,その告示で,あとのほうにいろいろ朝日新聞の朝日学術奨励金及び朝日文化賞というようなもの,また,毎日学術奨励賞並びに毎日出版文化賞というものが特に学術ということをかぶせておりますので,立法者の意図といたしましては,当時はノーベル賞はおよそ学術ということであろうと思いますし,今日解釈いたします場合に,川端さんの活動というような,特定の文学作品ということでなくて,多数の文学作品を通ずる文化活動というような面で,かりにこういう点の広い文化活動という意味で,学術ということもいえないこともないかと思いますが・・・」と苦心の答弁をし,上記の「おっしゃるように紛議もございますので,機会を見て,むしろこれは法律ないし告示なりを訂正願うというのが筋だろう,かように考えております。」との結論に達しているところです。
 この段階での政府の所得税法9条1項18号の解釈は「この9条の趣旨は学術ということであります。その意味では,学術に限って解釈いたさなければならないと思います。ただ,立法論といたしまして,もっと広く,文化活動あるいは社会のために御活躍になった方の特別の賞金のようなものは非課税にしていいんじゃないかという立法論がございますれば別でございます,そういう意味でございます。」というものでしたので(細見説明員・
第59回国会衆議院大蔵委員会議録第5号9頁),税務当局の認識するところでは,川端康成に対するノーベル文学賞は,飽くまでも「特定の文学作品ということでなくて,多数の文学作品を通ずる文化活動というような・・・意味で〔の〕学術」を対象とする「ノーベル賞」だったのでしょう。川端康成は文学者ではなく文・学者であった,ということでしょうか。

なお,昭和44年法律第14号の制定時には,スウェーデン国立銀行による経済学賞は,まだ第1回の表彰が発表される前の段階でした(1969年から授賞開始)。現在の「所得税法第9条第1項第13号ニ又はヘに規定する団体又は基金及び交付される金品等を指定する件」(昭和441017日大蔵省告示第96号)においても,スウェーデン国立銀行及びその経済学賞の金品は所得税法9条1項13号ヘに基づき指定されていません。

ちなみに,昭和44年大蔵省告示第96号の20号の「国際レーニン平和賞委員会から国際レーニン平和賞として交付される金品」とは,何だったものやら。

4 佐藤榮作とノーベル平和賞
 ところで,ノーベル平和賞の金品も我が所得税法上非課税所得となることが明定された
昭和44年法律第14号の制定時の内閣総理大臣は佐藤榮作でした。佐藤榮作は5年後の1974年に自らノーベル平和賞を受賞しています。しかしながら,ノーベル平和賞の金品のことをあらかじめ予感しつつ,昭和44年法律第14号の法案作成に当たる主税官僚らを督励していたわけではないでしょう。

5 所得税法9条1項18号から所得税法9条1項13号ホまで
 昭和44年法律第14号による改正によって当時の所得税法9条1項18号に「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」が法律上の文言として登場したわけですが,その後同号が現在のようにイからヘまでの箇条書き方式に改められたのは昭和48年法律第8号による改正によってです。同法による改正後の所得税法9条1項18号は,現在の所得税法9条1項13号とほぼ同じ文言となっています。現在のイの「文化功労者年金法(昭和26年法律第125号)第3条第1項(年金)」が当時はなお「文化功労者年金法(昭和26年法律第125号)第8条第1項(年金)」であり,現在のニ及びヘでは「財務大臣」であるところが「大蔵大臣」になっているほか,現在のニでは「学術若しくは芸術に関する顕著な貢献を表彰するものとして」となっているところが当時はなお「学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして」となっている点のみが異なります。それまでの所得税法9条1項18号が学術中心であったことからすると,ハにおいて「日本芸術院から恩賜賞又は日本芸術院賞として交付される金品」が非課税所得となったことが,昭和48年法律第8号による所得税法9条1項18号の改正における主要な点であったということになるものと考えられます。
 それまでの所得税法9条1項18号が同項13号に繰り上がったのは,昭和63年法律第109号による改正によってです。
 平成2年法律第12号による改正によって,所得税法9条1項13号ニの
「学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして」が「学術若しくは芸術に関する顕著な貢献を表彰するものとして」に改められています。当該改正規定に基づき非課税となる芸術賞の金品の基準は「受賞者は全日本または全世界を対象として選考されるものであること。それから,受賞者は長年にわたり芸術の水準向上に関する顕著な業績を上げた者であって,その金品が特定の作品の対価といった色彩を有するものではないこと。それから,芸術分野の専門家を含む委員から成る適切な選考を確保するための委員会を設けまして,そこで受賞者を選考するものであること。4番目には,その賞金の名称は特定の営利企業や特定の商品等の名称を使用するものではないこと。」である旨1990年3月27日の衆議院大蔵委員会で答弁がされています(尾崎護政府委員(大蔵省主税局長)・第118回国会衆議院大蔵委員会議録第6号10頁)。功なり名を遂げた老大家先生らに,それまでの栄誉及び富に加えて更に非課税の賞金等を,企業メセナ等のパトロンから増し加えるということであったのでしょうか。当時は,バブル時代。しかしながら,"Whosoever hath, to him shall be given, and he shall have more abundance: but whosoever hath not, from him shall be taken away even that he hath."とは常に変わらぬ真理であります。

あとがき

 さて,さして長くもないブログ記事に「あとがき」も何ですが,今回のブログ記事の執筆動機は2016年7月21日付けの「明治皇室典範10条(「天皇崩スルトキハ皇嗣即チ践祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」)に関して」(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1059527019.html)の中にあるといえば牽強付会が過ぎるでしょうか。実は,大隅良典博士のノーベル生理学・医学賞受賞のニュースを聞いた晩の筆者は「日本も米国並みに当たり前のようにノーベル賞を取るようになったんだから,マスコミ関係者諸氏はお仕事だから仕方がないとしても,普通の米国の庶民がノーベル賞なんぞにはそもそも関心を示さないように,科学の夢やロマンが何だかだと,いい歳をして見苦しく「科学少年」ぶって,いちいち興奮して騒ぎ立てはしないよ。」と思っていたのですが,その後大隅博士一族の学者一家振りに関する報道を見てあれれと思うところがあり,関心を喚起され,ついにはおっちょこちょいに同博士のノーベル賞の賞金と所得税との関係についての考察から出発するこの記事を書くこととはなったものでした(ノーベル賞の賞金と所得税との関係についてのウェッブ・ページは多いのですが,所得税法の当該規定に係る改正経緯について条文等に具体的に当たったものは少ないようなので,このブログ記事にも何がしかの存在意義が認められ得るのではないかと願っています。)。

 大隅良典博士は,筆者がこの夏に前記の「明治皇室典範10条(「天皇崩スルトキハ皇嗣即チ践祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」)に関して」を書くに当たってその「君臣秩序と儀礼」論文(大津透・大隅清陽・関和彦・熊田亮介・丸山裕美子・上島亨・米谷匡史『日本の歴史08 古代天皇制を考える』(講談社・2001年)3186頁)から豊富に引用をした日本史学者である山梨大学の大隅清陽教授の叔父上だったのでした。

 国民が皆天皇制について考えることとなった2016年の夏が過ぎれば国民がこぞって祝うノーベル賞の秋が来て,そこにはいずれも大隅一族の偉い学者の存在があることだわい,というのが7月21日付けのブログ記事と10月5日付けのこのブログ記事とを結ぶ筆者なりの感慨であったわけです。

 ところで,甥の大隅清陽教授についてはその『律令官制と礼秩序の研究』(吉川弘文館・2011年)の「あとがき」において自らについて語っているところがありますので,一部紹介してみます。当該「あとがき」の冒頭の次の部分が,筆者にとって印象深いところです。

 

  学界関係者にはご存じの方も多いと思うが,筆者の父は,中世思想史を専攻する同業の研究者である。父が北海道大学に勤めていた関係で,筆者は,2歳から中学2年までを札幌で過ごした。父親の職業からは,「日本史」や「日本文化」というものがごく身近な家庭環境に育ったはずなのだが,ポプラやアカシアは知っていても,「日本的」な花鳥風月とは無縁の風土に育った筆者にとって,「日本史」はどこか,遠い異国の歴史のように思われた。中学3年からは家族で東京に転居したが,高温多湿の「内地」(北海道の人々は,本州以南の日本をこう呼ぶ)の気候には未だに馴染めない。こうした個人史は,「日本」を研究する者にとって,致命的な欠陥ともなり得るのだろうが,「日本」というもの(内国植民地で,入植した民族の側の子どもとして育った者にとって,それは壮大なフィクションでもある)に対する,表現し難いかすかな違和感は,自分の研究の根底とも,どこかでつながっているように思う。(大隅394頁)

 

日本史学者としての自らを語っている文章ですからオートファジー云々を連想させる話は全くありませんが,確かに大隅という苗字はそうそう多くあるものではないところでした。

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 札幌市南区真駒内の5月 


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