1 緒論

 

(1)問題の所在

 電波法(昭和25年法律第131号)76条1項は,「総務大臣は,免許人等がこの法律,放送法若しくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは,3箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ,又は期間を定めて運用許容時間,周波数若しくは空中線電力を制限することができる。」と規定しています。この条項については,特に放送法(昭和25年法律第132号)4条1項との関係で,放送事業者が同項に違反するものと総務大臣が判断したときには,同大臣は当該放送事業者を免許人等とする無線局の運用の停止を命ずることができるかどうかという問題がよく話題とされます。

 放送法4条1項は,次のとおり。

 

  (国内放送等の放送番組の編集等)

 第4条 放送事業者は,国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては,次の各号の定めるところによらなければならない。

  一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

  二 政治的に公平であること。

  三 報道は事実をまげないですること。

  四 意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 

1995年(なお, いわゆる「椿事件」の発生は1993年です。)の司法試験第二次試験における論文式試験の憲法の第1問においては,次のような問題が出題されています。

 

 放送法は,放送番組の編集に当たって「政治的に公平であること」,「意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を要求している。新聞と対比しつつ,視聴者及び放送事業者のそれぞれの視点から,その憲法上の問題点を論ぜよ。

 

 この問題文であれば電波法76条1項との関係を論ぜずにすむので,司法試験受験生としてはなお書きやすかったでしょうが,現実の「けしからぬ」放送事業者に対する電波法・放送法に基づく行政処分の可否という具体的な問題を前にするとなると,なかなか判断表明は難しいところでしょう。

 とはいえ,現実の問題が生じた場合は,いたずらに自己の伝来的予断を言い募るばかりというわけにはいかず,たとい判断停止という結論に最終的には至ってしまうとしても,まず何らかの法学的検討はなされるべきでしょう。とはいえ,法学的検討といっても,受験秀才的答案構成を考えたり,高尚な憲法理論を華麗に論ずるのは当ブログ筆者の柄ではありません。

 

(2)いくつかの用語の解説

 なお,あらかじめ電波法76条1項及び放送法4条1項に出てくる諸概念について説明しておくと,次のとおりです。

 電波法76条1項にまず出てくる「免許人等」とは,同法「第14条第2項第2号の免許人又は第27条の23第1項の登録人」のことです(同法6条1項9号)。このうち「免許人」とは「無線局の免許を受けた者」であり(同法14条2項2号),「登録人」とは同法「第27条の18第1項の登録を受けた者」です(同法27条の23第1項)。免許人や登録人になるとどういういいことがあるかというと,無線局を開設することができ(免許人につき電波法4条本文,登録人につき同条4号),更にその無線局は交付された免許状(免許人の場合(同法14条))又は登録状(登録人の場合(同法27条の22))の記載に係る制限の下において運用され得る(同条52条から55条まで参照)ということになります。免許人等以外の者が無線局を開設すると1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(電波法110条1号)。

 なお,無線局と無線設備とは別概念で,無線設備は電気的設備にすぎない(電波法2条4号)のに対して,無線局は人をも含んで「無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体をいう。但し,受信のみを目的とするものを含まない。」と定義されています(同条5号)。

 電波法76条1項にいう「これらの法律に基づく命令」は,行政処分のことではなくて(こちらは同項の「処分」),政令,電波監理委員会規則,郵政省令,総務省令といったものの総称としての命令です。

 電波法76条1項では単に「周波数」とされていますが,厳密には「電波の周波数」ですね。周波数にも音の周波数等いろいろあります。

 放送法4条1項の「放送事業者」は一見単純なようですが,実は「放送事業者」には「基幹放送事業者」と「一般放送事業者」とがあり(同法2条26号),「基幹放送事業者」は「認定基幹事業者及び特定地上基幹放送事業者」である一方(同条23号),「一般放送事業者」とは同法「第126条第1項の登録を受けた者及び第133条第1項の規定による届出をした者をいう。」ということになると(同法2条25号)もう何が何だか分からなくなってきますね。しかしながら,「「特定地上基幹放送事業者」とは,電波法の規定により自己の地上基幹放送の業務に用いる放送局(以下「特定地上基幹放送局」という。)の免許を受けた者をいう。」ということですから(放送法2条22号),日本放送協会(NHK)やら「民放」やらの「地上波放送局」は,この特定地上基幹放送事業者ということになるようです。しかし,厳密かつ細かしい概念規定はまだまだ続きます。「地上基幹放送」とは「基幹放送であつて,衛星基幹放送及び移動受信用地上基幹放送以外のものをいう。」とされ(放送法2条15号),「基幹放送」とは「電波法(昭和25年法律第131号)の規定により放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てられるものとされた周波数の電波を使用する放送」であり(同条2号。なお,「放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てられるものとされた周波数」については電波法26条2項5号ア参照),「衛星基幹放送」は「人工衛星の放送局を用いて行われる基幹放送」であり(放送法2条13号),「移動受信用地上基幹放送」は「自動車その他の陸上を移動するものに設置して使用し,又は携帯して使用するための受信設備により受信されることを目的とする基幹放送であつて,衛星基幹放送以外のもの」だそうです(同条14号)。NOTTVはこの移動受信用地上基幹放送をやっていたのですかね。何だか移動しながら視聴しないと怒られそうな基幹放送だったので落ち着かず,それゆえ結局潰れることになったのでしょうか。「放送局」についても丁寧に,「放送をする無線局」であると定義規定があります(放送法2条20号)。

 放送法4条1項の「国内放送」とは「国内において受信されることを目的とする放送」で(同法2条4号),「内外放送」とは「国内及び外国において受信されることを目的とする放送」です(同条12号)

 放送法4条1項の「放送番組」にも定義があって,「放送をする事項の種類,内容,分量及び配列」のことだそうです(同法2条28号)。

 

(3)原始規定

 どうも現在の放送法は,有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号),有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号),電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)及び有線放送電話に関する法律(昭和32年法律第152号)までをも取り込んでしまったので(平成22年法律第65号附則2条参照),かえって分かりづらいですね。電波法76条1項及び放送法4条1項に係る1950年の両法成立当初の原始規定を見てみましょう。

 

  (無線局の免許の取消等)

 電波法76条1項 電波監理委員会は,免許人がこの法律,放送法若しくはこれらの法律に基く命令又はこれらに基く処分に違反したときは,3箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ,又は期間を定めて運用許容時間,周波数若しくは空中線電力を制限することができる。

 

  (放送番組の編集)

 放送法44条3項 〔日本放送〕協会は,放送番組の編集に当つては,左の各号の定めるところによらなければならない。

  一 公安を害しないこと。

  二 政治的に公平であること。

  三 報道は事実をまげないですること。

  四 意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 

  (放送番組の編集)

 放送法53条 第44条第3項の規定は,一般放送事業者に準用する。

 

放送法の原始規定における「一般放送事業者」とは,「〔日本放送〕協会以外の放送事業者をいう。」とされており(同法旧51条括弧書き),「放送事業者」とは「電波法(昭和25年法律第131号)の規定により放送局の免許を受けた者」とされています(放送法旧4条1項括弧書き)。原始規定における「一般放送事業者」は,放送法の現段階における一般放送事業者ではなく,「特定地上基幹放送事業者であって日本放送協会ではないもの」ですね。

なお,放送法原始規定の第44条3項1号には「及び善良な風俗」が入っていませんが,当該部分が挿入されたのは,第2次岸信介内閣時代に制定された昭和34年法律第30号によってです。


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 東京都渋谷区神南にある日本放送協会の放送センター
 

2 電波法・放送法施行当時における電波監理総局の解釈

さて,これらの規定について,電波法・放送法及び電波監理委員会設置法(昭和25年法律第133号)の施行(1950年6月1日(「電波の日」)から)当時における電波監理委員会の事務局たる電波監理総局(電波監理委員会設置法20条1項)の人々がどのような解釈を与えていたかを知るべく,同総局の文書課長たる荘宏,放送課長たる松田英一及び法規課長たる村井修一の3氏共著の『電波法 放送法 電波監理委員会設置法詳解』(日信出版・1950年)を見てみたのですが,実はほとんど何も書かれていません。

電波法76条1項の解説においては,同項に基づく電波監理委員会の処分の単位に関する考察がされているだけで,同項にいう「・・・放送法若しくはこれらの法律に基く命令又はこれらに基く処分」(下線は筆者)に関して説くところがありません(荘=松田=村井221222頁参照)。

放送法旧44条3項については,「第3項は,放送番組の編集についての準則である。いわゆるラジオコードと称すべきものである。この外にも本法中にラジオコードに相当する規定があるが,これらは大綱を示しただけで,協会は更に詳細な放送準則を定め,それに従つて放送番組の編集を行うことになるであらう。」とだけ記されています(荘=松田=村井327頁)。ちなみに1950年当時はいまだテレビジョン放送はされていません。「ラジオコード」とは,当時日本を占領中のGHQからの指令たるSCAPIN43「日本ニ与フル放送準則(Memorandum Concerning Radio Code for Japan)」(1945年9月22日)にいうRadio Codeのことですね(放送法制立法過程研究会『資料・占領下の放送立法』(東京大学出版会・1980年)2327頁参照)。

放送法旧53条については,「本条は,一般放送事業者の放送番組の編集について規定している。/第44条第3項各号は協会の放送番組編集の場合の放送準則いわゆるラジオコードに相当する事項であるが,一般放送も放送のもつ社会的影響から考えて公共的な色彩をもつものであるから,協会と同様の原則に従うことが要求せられるのである。」とのみ解説が付されています(荘=松田=村井334頁)。

 

3 高塩修正と中村委員発言

 

(1)内閣提出法案における欠缺並びに衆議院における修正及び追加

「何も書いてない。政府当局には何か隠し事があったのか。けしからん。総務大臣答えなさい。」と代議士の先生が居丈高に政府を攻撃されても,政府御当局の方々は困ってしまって,後知恵で理屈を頑張ってひねくり出すうちに,問題が難しくなるだけでしょう。

実は,電波法76条1項における行政処分の根拠としての「放送法」との文言及び「放送番組の編集」に関する放送法旧44条3項及び旧53条(同法現行4条1項)の規定は,1950年4月7日の第7回国会衆議院電気通信委員会において高塩三郎委員から提出され採択された修正案(放送法制立法過程研究会339343頁参照)に基づくものです(電波法案については自由党,日本社会党,民主党,国民協同党及び農民協同党の共同提案,放送法案については自由党,民主党,国民協同党及び農民協同党の共同提案(第7回国会衆議院電気通信委員会議録第12号1頁))。電気通信省の電波庁の事務方が,GHQ民間通信局(C.A.ファイスナー氏等),法務府法制意見第三局(吉國一郎参事官)等と調整して作り上げた内閣提出法案には,そのような規定は無く(電波法76条1項の「放送法」関係部分及び放送法旧53条は高塩修正で追加),あるいは違った内容でした(放送法旧44条3項は高塩修正で変更)。自分が立案したのではないものとされている事項について,詳しい解説を書けと言われても建前上無理でしょう。

19491222日に国会に提出された電波法案76条1項並びに放送法案44条3項及び45条は,次のとおりでした(放送法制立法過程研究会315頁,282頁参照)。

 

(無線局の免許の取消等)

電波法案76条1項 電波監理委員会は,免許人がこの法律若しくはこの法律に基く命令又はこれらに基く処分に違反したときは,3箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ,又は期間を定めて運用許容時間,周波数若しくは空中線電力を制限することができる。

 

 (放送番組の編集)

放送法案44条3項 協会は,放送番組の編集に当つては,左の各号の定めるところによらなければならない。

 一 公衆に関係がある事項について,事実をまげないで報道すること。

 二 意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 三 音楽,文学,演芸,娯楽等の分野において,最善の内容を保持すること。

 

 (政治的公平)

放送法案45条 協会の放送番組の編集は,政治的に公平でなければならない。

2 協会が公選による公職の候補者に政見放送その他選挙運動に関する放送をさせた場合において,その選挙における他の候補者の請求があつたときは,同一の放送設備により,同等な条件の時刻において,同一時間の放送をさせなければならない。

 

 当初の内閣提出放送法案においては,放送番組の編集に関する規定は日本放送協会についてのみあって「一般放送事業者」(当時)についてはありませんでしたが,これは,1950年1月24日の衆議院電気通信委員会でされた網島毅電波監理長官の概要説明にいう「民間放送につきましては,できる限り自由に委せる方針にいたしましたので・・・第3章に最小限度必要な規定を単に2箇条〔放送番組の編集に関するものとしてのそれとしての条項は無し。〕設けているだけであります。将来民間放送がいかなる発達するか見透をつけることが困難でありますし,特権を認めたりこれに伴う監督を行いますよりは将来の発達の状況によりそこで適当に考慮をするのがよいと存ずるもでございます。」ということであったのでしょう(荘=松田=村井73頁)。

 放送法案44条3項を見ると,同項3号では「音楽,文学,演芸,娯楽等」の番組が放送されることが想定されており,何だかほのぼのしてきますね。同項1号も「報道は事実をまげないですること。」ではなく,「報道すること。」になっています。こうしてみると,同項で問題となっている「放送番組」については,放送をする事項の内容ではなく,むしろその種類に重点があったようにも思われます(放送法2条28号(同法原始規定では4号)参照)。同項2号も,時事の評論,分析又は解説の放送番組の存在を前提としているものでしょうか(第2回国会に内閣から提出された放送法案4条2項(放送法制立法過程研究会165頁)参照)。放送をする事項の種類に係る規定の欠缺は後に気が付かれたらしく,昭和34年法律第30号によって,放送法旧44条に新たに第4項(「協会は,国内放送の放送番組の編集に当つては,特別な事業計画によるものを除くほか,教養番組又は教育番組並びに報道番組及び娯楽番組を設け,放送番組の相互の間の調和を保つようにしなければならない。」)が付け加えられています(同項は,昭和34年法律第30号で新たに設けられた放送法旧51条によって当時の「一般放送事業者」にも準用。放送法現行106条1項)。また,放送法案45条1項の「政治的に公平」については,同条2項との並びで考えると,主に政治家の選挙運動との関係が考えられていたようであり,かつ,その重点は,放送をする事項の内容よりも,むしろ分量や配列にあったようです(なお,放送法案45条2項と同様の規定は「一般放送事業者」に係る第52条にもあり,両者はそれぞれ放送法原始規定の第45条(候補者放送)及び第52条(候補者放送)となった後,現在は放送法13条(候補者放送)に統一されています。)。

 

(2)高塩修正の理由

前記高塩修正の理由について高塩委員は,次のように説明しています。いわく,「〔放送法案〕第44条は,協会の放送番組編集上の準則でありまして,その第3項は,いわゆるラジオ・コードに相当する規定でありますが,諸般の角度から検討の結果,修正案におきましては,公安を害しないこと,政治的に公平であること,報道は事実を曲げないですること,意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすることの4原則をもつて規律することが,最も適当であるとして,原案に対し所要の修正を施したものであります。/なおこれとともに放送事業は民間放送といえども,高度の公共性を帯びるものでありまするから,協会放送に対して要求されるこのラジオ・コードは,民間放送に対してもまた要求さるべきものであるとの見解に立つて,修正案は第52条の次に1条を設け,前述の4原則を一般放送事業者に準用することにいたしました。・・・〔電波法案〕第76条は,無線局の運用の停止,制限及び免許の取消しに関する規定でありますが,原案においては,これらの処分をなす場合を電波法またはこれに基く命令,処分に違反したときに限つておりまするのを,放送法関係の場合をも含めることに修正いたしました。」と(第7回国会衆議院電気通信委員会議録第1212頁)。

GHQから下されたいわゆるラジオ・コードが,所与のものとして前提とされています。電波法案76条に関する説明では,放送法の具体的にどの条項が運用停止等命令発動の根拠として想定されているのか必ずしも明らかではなく,なお不親切ですね。

 

(3)中村委員発言とその背景

 

ア 中村委員発言:「道徳的,社会的な基準」

高塩修正に係る放送法旧44条3項の規定の性格については,衆議院電気通信委員会における有力委員であった元逓信官僚(電務局長, 簡易保険局長)の中村純一委員による同委員会における高塩修正採択の際の賛成討論における発言があり,注目すべきものです。いわく,「・・・日本放送協会たると民間放送たるとを問わず,いやしくも放送が社会的な公共性を有するものである以上は,放送として当然守られなければならないところの道徳的,社会的な基準に関するものでありまして,これまた適当であると考えるものでございます。」と(第7回国会衆議院電気通信委員会議録第12号4頁)。

「法的基準」ではなく,飽くまでも「道徳的,社会的な基準」であるものとされています。

 

イ 中村委員と高塩修正案の作成経緯

なお,ここで中村委員の発言を注目すべきものと述べたのには,理由があります。1950年4月7日提出の高塩修正案の作成に関して,次のような事情があったからです。

 

 〔第7回国会における電波法案,放送法案及び電波監理委員会設置法案に係る〕両院の審査は極めて熱心に行なわれ,衆議院においては24年〔ママ。昭和25年(1950年)の誤り〕2月10日をもって3法案の公聴会も了したので,同11日から箱根奈良屋〔当時はまだ営業中〕別館で修正案作成の作業が行なわれた。参加した者は,衆院から電気通信委員会委員中村純一,同専門員吉田弘苗〔元逓信院電波局長〕,法制局第三部長鮫島真男等の諸氏,電波庁からは網島〔電波監理〕長官,野村〔義男〕法規経済部長等の諸氏で,総員9人であった。13日帰京したが,その後修正案は衆院内,衆参両院間,国会政府間で検討が続けられ,3月15日衆議院はその修正案をGSGovernment Section. 民政局〕の長ホイットニー氏宛に送附した〔なお,国立国会図書館のGHQ文書のうちGSに関する“Telecommunications Ministry 7th Diet 1950-02”(Box No.2205)の21‐22コマのホイットニー局長宛て辻寛一衆議院電気通信委員長の書簡の日付は,同月16日〕

 ・・・

 GHQの・・・強い意向に鑑み,衆議院も数次のGHQ折衝の後,設置法案については遂に委員長国務大臣は断念,政府提出案のままで進めることになった。電波法案,放送法案についてもGSは衆院修正案に対して意見を出してきた。前者に関するものは比較的簡単に解決したが,放送法案については,受信料の法定を廃そうとする点および日本放送協会予算に対する国会承認を政府認可に移そうとする点が,GSの容るるところとならなかったNHKの受信料を月額35円とする放送法案32条2項が削られ,修正放送法案37条4項により「・・・受信料の月額は,国会が,〔NHKの〕収支予算を承認することによつて,定める。」ことになった(放送法制立法過程研究会341342頁参照)。荘氏の記述ではよく分からないが,放送法案32条2項は吉國一郎参事官の意見によるものだったところ,修正放送法案37条4項はGHQの当初意見案に戻ったものである(放送法制立法過程研究会435‐436頁(吉國発言))。〕。結局これらの国会修正の動きは,いずれも政府がGHQと渡り合って承認を得られなかったものを,日本側として何とかして復活実現させようとの最後の努力であったが,主要点についてはGHQはいささかも応ずるところがなかったのである。

 かくて3法案修正案についてGSの承認がでたのは4月4日であった。ここにおいて衆院電通委は,4月7日,設置法案は政府提出原案のまま,また他の2法案にはGSOKを得た修正を加えて可決,翌8日3法案は電通委議決通りで衆院本会議を通過した。(荘宏「電波三法の制定」『逓信史話 下』(電気通信協会・1962年)360361頁)

 

高塩修正というよりは,実質的には奈良屋別館組の中村純一衆議院電気通信委員による修正であって,衆議院電気通信委員会を代表してGHQ民政局と折衝したのも中村委員が中心であったものと思われます。

放送法原始規定44条3項が「道徳的,社会的な基準」であるとの中村委員の前記発言は,対GHQ折衝を経て最終化された立法者意思の表明であったものと考えられます。中村委員は前記『電波法 放送法 電波監理委員会設置法詳解』の出版に際して援助をしたものとも同書のはしがきにおいて言及されており(「・・・併せて,三法律の成立につき国会の審議にも参画せられた衆議院議員中村純一先生(愛媛県選出)を始め本書出版に際して援助せられた各位の御好意に対して御礼を申し上げる。」),同委員の見解は,電波監理総局関係者によっても了解されていたものと解すべきことも裏書きされています。

 

(後編に続きます。)http://donttreadonme.blog.jp/archives/1054087468.html