1 電気通信事業法6条(利用の公平)と憲法14条1項

 電気通信事業法(昭和59年法律第86号)6条は,「利用の公平」との見出しの下,「電気通信事業者は,電気通信役務の提供について,不当な差別的取扱いをしてはならない。」と規定しています。

当該規定については,電気通信行政当局の見解を示しているものと解されている『電気通信事業法逐条解説』(多賀谷一照=岡﨑俊一=岡崎毅=豊嶋基暢=藤野克編著。電気通信振興会・2008年)の43頁において,「憲法第14条第1項(法の下の平等)の規定を受けて不当な差別的取扱いを禁止するものである。」とされており,電気通信事業法6条にいう「不当な差別的取扱い」とは,「国籍,人種,性別,年齢,社会的身分,門地,職業,財産などによって,特定の利用者に差別的待遇を行うことである。」とされています(同書43-44頁)。憲法14条1項の列挙事項に「国籍,年齢,職業,財産など」が加わっています(同項は「すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」と規定しています。)。

年齢による差別待遇を行うことが禁止されているのならば,未成年者であっても,他の契約とは違って電気通信役務利用契約を締結するに当たっては法定代理人の同意を得る必要(民法5条1項本文参照)が無い,ということになるのでしょうか。財産に基づく差別待遇がいけないのならば,電気通信役務利用料金の支払が絶対見込めない者に対してであっても,求められればお金持ちに対するときと同様に電気通信役務を提供しなければならないのでしょうか。そしてこれらの妙な主張を打破するためには,憲法14条にまで遡った議論が必要なのでしょうか。

「通信の秘密」に関する憲法21条2項のみならず,通信業界は,「利用の公平」という形でも憲法14条1項とお付き合いしなければならないことになっているようです。憲法好きな業界及び業界人ですね。

 

2 電気通信事業法6条と公衆電気通信法3条

電気通信事業法6条の前身は,公衆電気通信法(昭和28年法律第97号。電気通信事業法附則3条により1985年4月1日から廃止)3条でした。

 

(1)公衆電気通信法3条の解釈

実は,前記2008年の『電気通信事業法逐条解説』の電気通信事業法6条解釈は,次に掲げる1953年の公衆電気通信法3条解釈をほぼそのまま引き継いだものです(金光昭=吉田修三『公衆電気通信法解説』(日信出版・1953年)20-21頁)。

 

〔公衆電気通信法3〕条は公衆電気通信役務の提供に当つては〔日本電信電話〕公社や〔国際電信電話株式〕会社又はこれらに代つて事実上公衆電気通信役務を提供する者が国籍,人種,性別,年齢,信仰,社会的身分,門地,職業,財産等によつて利用者に差別待遇をなすことを禁止したものであつて,・・・「公共性」及び「民主化」の理念に基くものである。/然し乍ら本条は前述の様な理由に基いてサービスの内容を特定の人に特別の条件によつて提供することを禁止しているだけであつて,何人にも特定の条件によつてサービスを提供すること,換言すれば特殊の内容のサービスを公平に提供することを禁止するものではない。(例えば至急電報―法第14条参照―又は至急通話若しくは特別至急通話等―法第47条参照)又特定の人にだけ優先的に又は有利な条件でサービスを提供することは形式的には本条と矛盾するであろうが,それが公共的必要に基く場合,例えば非常電報(法第15条参照)緊急電報(法第16条参照)非常通話(法第49条参照)緊急通話(法第50条参照)の取扱や加入電話や専用の優先受理(法30条第2項及び第59条参照)及び公共上の必要に基く料金の減免(法第70条乃至第72条参照)等が本条と実質的に矛盾しないことはもとより言を俟たない所であろう。これは畢竟憲法第14条に規定する国民の平等性の保証が合理的な差別の禁止を意味しないことに基くものである。(法学協会編「註解日本国憲法」上巻164頁参照)尚本条に違反すると罰則にかかることになつている。(法第110条参照)

 

公衆電気通信法110条1項は「公衆電気通信業務に従事する者が正当な理由がないのに公衆電気通信役務の取扱をせず,又は不当な取扱をしたときは,これを3年以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。」と,同条2項は「前項の場合において金銭物品を収得したときは,これを没収する。その全部又は一部を没収することができないときは,その価額を追徴する。」と規定していました。

 

(2)GHQ民間通信局と逓信官僚

「民主化」やら憲法やら。逓信官僚並びにその流れを汲む郵政官僚及び電気通信官僚は,GHQの民間通信局から不信の念をもって見られていたようなので,厳しい憲法教育がされていたものでしょう。

日本国憲法施行後の1947年,GHQ民間通信局における郵便法(昭和22年法律第165号)の法案審査後の同年7月8日付け同局局内資料には,次のようにあります(同局分析課課長代理ファイスナー(C.A.Feissner)氏作成。GHQ/SCAP Records Box No.3208, Sheet No.CCS-00502)。

 

 新しい郵便法について,逓信省(MOC)郵便担当官と〔GHQ民間通信局の〕郵便課及び分析課との間で,詳細かつ逐条の議論が行われた。これは,およそ新しい法律に係る初めての審査であった――非常によく分かった(most revealing)――逓信省は,民主的法律というものを分かっていない(MOC has little conception of democratic laws)――不平等な課税――人民の基本権の侵害――逓信省の義務についての規定は無い――分析課は,逓信省に対して,郵便法について提示された原則に従って,他のすべての法律を書き直すよう要求した。

 

 ここで「不平等な課税」とは,旧郵便法(明治33年法律第54号)7条2項にあった「郵便専用ノ物件ハ何等ノ賦課ヲ受クルコトナシ」という規定のことでしょう。三等郵便局長(特定郵便局長)制度の下,三等郵便局長の私有財産であっても,「郵便専用ノ物件」ということになれば非課税扱いだったのでしょう。「人民の基本権の侵害」の例としては,旧郵便法4条前段に「職務執行中ノ郵便逓送人郵便集配人及郵便専用車馬等ハ道路ニ障碍アリテ通行シ難キ場合ニ於テ墻壁又ハ欄柵ナキ宅地田畑其ノ他ノ場所ヲ通行スルコトヲ得」という規定があり,同法5条前段は「職務執行中ノ郵便逓送人郵便集配人及郵便専用舟車馬等事故ニ遭遇シタル場合ニ於テ郵便逓送人郵便集配人又ハ郵便吏員ヨリ助力ヲ求メラレタル者ハ正当ノ事由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス」と規定し,同法6条1項には「職務執行中ノ郵便逓送人郵便集配人及郵便専用舟車馬等ニ対シテハ渡津,運河,道路,橋梁其ノ他ノ場所ニ於ケル通行銭ヲ請求スルコトヲ得ス」と規定されていました。違反者には罰金又は科料の制裁がありました(同法43条)。

 前記GHQ民間通信局局内資料作成者のファイスナー氏の人柄は,次のようなものでした。

 

  GHQにも記録に止めたい多くの人がいる。紙数の関係で他のすべての人を割愛するが,このファイスナー氏だけは是非ともここに書いておかねばならない。同氏は若いが実によく仕事をした。頭脳も明晰であった。態度は慇懃だったが,一旦思い込み,また言い出したことについては,パイプを斜めに銜えつつあらゆる反論を(ママ)底的に粉砕した。もともと少しく猜疑心が強いのじゃないかと思われる性格の上に,日本人にはずるい奴が多いという印象をどういう機会にか持ったのではないかと推察されるが,余りにもズバズバやったので,被害者が続出した。(荘宏「電波三法の制定」・逓信外史刊行会編『逓信史話 下』(電気通信協会・1962年)348-349頁)

 

 ファイスナー氏の最初の被害者は,郵便法案を突き返されて,新憲法にしっかり適合するように大修正するよう要求された逓信省郵務局の担当官たちだったのでしょう。

 

(3)郵便法5条と公衆電気通信法3条

  郵便法5条の「何人も,郵便の利用について差別されることがない。」との規定(見出しは「利用の公平」)については,「憲法の第14条に,「すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」という規定がございますが,これはまあ郵便の利用の面から規定いたしまして,「何人も,郵便の利用について差別させることがない。」という利用の公平を規定いたしたのでございます。」と,19471113日,国会において政府委員(小笠原光寿逓信省郵務局長)から説明されています(第1回国会参議院通信委員会会議録3号3頁。また,同国会衆議院通信委員会議録18120頁参照。なお,公衆電気通信法3条については,1953年2月19日及び同月21日に同様の説明が政府委員(金光昭郵政大臣官房電気通信監理官)からされている(第15回国会参議院電気通信委員会会議録11号3頁及び同国会衆議院電気通信委員会議録20号9号)。)。

公衆電気通信法3条は,次のとおり。(なお,同条にいう公衆電気通信法41条2項の契約とは,日本電信電話公社(電電公社)とその加入者との間で締結される「加入者が構内交換設備に接続される内線電話機の一部により他人に通話させるための契約」です。)

 

(利用の公平)

第3条 日本電信電話公社(以下「公社」という。),第7条又は第8条の規定により公衆電気通信業務を委託された者及び第41条第2項の契約を公社と締結した者並びに国際電信電話株式会社(以下「会社」という。)及び第9条の規定により国際電気通信業務を委託された者は,公衆電気通信役務の提供について,差別的取扱いをしてはならない。

 

 要は,「電電公社等及び国際電信電話株式会社等は,公衆電気通信役務の提供について,差別的取扱いをしてはならない。」ということです。

 

(4)「不当な差別的取扱い」と「差別的取扱い」との違い

 しかし,注意深い読者の方々は何か気が付きませんか。

 そう,公衆電気通信法3条は端的に「差別的取扱いをしてはならない。」としているのに対して,電気通信事業法6条は,「不当な差別的取扱いをしてはならない。」と規定していて,差別的取扱いは原則禁止されていないが不当なものだけ禁止される,という形になっていることです。これに対して公衆電気通信法3条は,およそ差別的取扱いをしてはならないのが原則であるが公共的必要に基づくもののような合理的な差別取扱いは認められる,という形になっています。原則と例外とが逆転しています。

 原則として電電公社及び国際電信電話株式会社(KDD)にのみ公衆電気通信役務の提供が認められ,かつ,電電公社及びKDDは公権力であると解されていた(KDDについては議論があり得ましたが。)公衆電気通信法下の体制における「利用の公平」と,電気通信分野に競争原理が導入され電気通信役務は民営化された日本電信電話株式会社以下民間企業によって競争的に提供される建前になった電気通信事業法下の体制における「利用の公平」とは,「不当な」との3文字が入った時に異なるものとなったと考えるのが素直ではないでしょうか。電気通信役務提供の担い手が公権力から民間企業に変化したのですから,憲法14条1項の直接適用が当然ということにはならないでしょう。

 「不当な差別的取扱いをしてはならない。」という規定は,電気通信事業法6条に特有のものというわけではなく,多くの法令に見られます。例えば,電気事業法(昭和39年法律第170号)も,約款又は供給条件が「特定の者に対して不当な差別的取扱いをするものでないこと。」を問題としています(同法19条2項4号・5項3号・9項4号・13項4号,19条の2第2項3号,24条2項3号,24条の3第3項5号,24条の4第4項4号)。皆が皆,憲法14条1項の私人間適用ということではないでしょうし,そうであれば電気通信事業法6条もそのように解すべきではないでしょうか。

 

(5)「公平」の行方

 また,電気通信事業法施行から3年目に出た電気通信法制研究会編著の『逐条解説 電気通信事業法 附:日本電信電話株式会社法』(第一法規出版・1987年)では,電気通信事業法6条の「利用の公平とは,電気通信役務の提供のやり方を含む一般的な義務であって,その規定の対象は,すべての電気通信事業者に及ぶが,訓示的規定である。」とされていました(34頁)。憲法の私人間適用どころか,訓示的規定でしかないということでした。

 ちなみに,日本電信電話株式会社等に関する法律(昭和59年法律第85号)3条は,日本電信電話株式会社並びに東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社が「電話の役務のあまねく日本全国における適切,公平かつ安定的な提供の確保に寄与」すべき旨定めていますが,ここでの「公平」は,1984年4月の政府提出法案には無く,参議院における修正によって追加されたものです(第102回国会参議院逓信委員会会議録4号(19841213日)28-29頁。『コンメンタールNTT法』(三省堂・2011年)117頁参照)。政府としては,電電公社民営化後の電気通信役務提供体制において「公平」を前面に出す意思はそもそも余り無かったということのようです。なお,参議院における上記修正は,198412月4日の政府委員(澤田茂生郵政省電気通信局長)の答弁(「あまねく公平」な電話の役務の提供について,「電気通信事業法の7条〔現行6条〕の中におきましても利用の公平とかいうことについて規定をいたしておりまして,・・・そういう趣旨は十分明定をしているつもりでございます。」(第102回国会参議院逓信委員会会議録2号8頁))にかかわらずされたものですから,電気通信事業法6条の「利用の公平」規定は国会議員にも余り頼りにされていなかったようです。

 

3 「法的安定性」

 ところで,「法的安定性は関係ない」わけではありません。

そのゆえか,新しい電気通信事業法6条における「不当な」の3文字追加の意味は大きなものではなく従来の公衆電気通信法3条と実質的には変わらない旨示唆するような答弁が,1984年7月11日,電気通信事業法案の国会審議において政府委員(小山森也郵政省電気通信局長)からされていました。

 

  これは要するに特定の利用者を正当な理由なく差別して取り扱ってはならないという趣旨でございまして,例えて申しますと,正当な理由というようなことを考えてみますと,福祉電話,こういったときは一般の利用者とは異なった料金でこれは差別しておりますが,差別というのは逆の意味になりますけれども,これはやはりほかの利用者の犠牲において福祉のための電話等をカバーしているわけでございます。ただしかし,そういったときには合理的な意味での区分を設けたものとしてこういったものは差別の中の不当な差別ではない,こういうような考えでございます。(第101回国会衆議院逓信委員会議録15号2頁)

 

「不当な差別的取扱い」が請求原因に来るのではなくて,依然として「差別的取扱い」との請求原因に対して「正当な理由」が抗弁となるような具合です。

質疑をした委員(松前仰衆議院議員)は,上記の答弁にやや不満であったようですが,「まあこれについて多く議論したくないのですけれども,「不当な差別」,そういう言葉が出てくると不当でない差別というのは一体あるのかというような感じがするわけですね。ですから,「不当な」という言葉は入れなくても「差別的」で十分じゃないだろうか。前の法律〔公衆電気通信法3条〕はたしかそういうふうになっていたと思うのですけれども,そういうことを申し上げておきたいと思います。」と述べて次の質疑に移っており(第101回国会衆議院逓信委員会議録15号2頁),政府委員もその場において追加説明をあえてしてはいません。

31年後の現在においても,通信管理主体に対する憲法上の「平等保障」義務の直接適用が説かれています。いわく,「憲法上の平等原則は公権力に対する客観的法規範と解するのが通説・判例であることにかんがみれば,私人たる通信事業者がこの原則に即した行為を実施する義務はただちに導かれないようにもみえる。しかし,「通信の自由を前提にそこから通信の秘密の保護を導く見解」に基づけば,憲法上,通信事業者その他の通信管理主体はその通信役務の利用者間の「平等」を保障すること(・・・「平等保障」という。)に対する義務を負うという帰結が導かれ得る」と(海野敦史「通信役務の利用における「法の下の平等」に関する序論的考察―米国オープンインターネット規制の概観―」情報通信学会誌32巻1号(2014年)26頁)。