1 勾留の裁判に対する準抗告及びその認容率

「勾留許可に対する準抗告の認容率はきわめて低い」といわれています(『刑事弁護ビギナーズ(季刊刑事弁護増刊)』(現代人文社・2007年)49頁)。また,「弁護人においては,準抗告は認められないと自制することなく,積極的に行うようにしたい。」(刑事弁護ビギナーズ50頁)とわざわざ発破をかけられています。当該発破を反対解釈すると,勾留状発付の裁判の取消し及び勾留請求の却下を求める準抗告はどうせ認められないから申立てなどしない方が利口である,というのが弁護士間での常識であるということでしょうか。

なお,被疑者が警察官に逮捕された場合における勾留のための手続ですが,検察官への送致を経て(刑事訴訟法2031項),身体拘束時から72時間以内に検察官から裁判官に勾留の請求がされます(同法20512項)。当該請求を受けた裁判官は,被疑者に対し被疑事件を告げてこれに関する陳述を聴いた後に(同法2071項,61条(勾留質問)),勾留状を発するか,被疑者の釈放を命ずるかを決める裁判をします(同法2074項)。「勾留の期間」は,検察官が勾留の請求をした日から起算して10日間です(同法2081項)。本稿は,勾留状を発する勾留の裁判に対する被疑者側からの不服の申立て(当該裁判官が簡易裁判所の裁判官である場合には管轄地方裁判所に,その他の場合は当該裁判官所属の裁判所に対してする。)たる準抗告(同法42912号)についてのお話です。

裁判所の司法統計によれば,2013年中の刑事訴訟法429条に基づく準抗告は9438件あったうち,原裁判又は原処分の取消し・変更の結果となったものが1512件あったということです。一応,申立てがいくらかでも認められたものは約16パーセントということになります。それほど絶望的ではないような気もしますが,ただし,この数字は刑事訴訟法429条に基づく準抗告全体のものですので(したがって,勾留請求却下の裁判に対する検察官の準抗告も含まれます。),その内数である「勾留許可に対する準抗告の認容率」は,やはり「きわめて低い」ものなのでしょう(東京地方裁判所平成27年(む)第80147号平成27年1月20日決定などは珍しい例外ということになります。)。そもそも,検察官からの勾留請求は裁判官によって認められるのが原則であって(刑事訴訟法2074項本文は「裁判官は,・・・勾留の請求を受けたときは,速やかに勾留状を発しなければならない。」と規定しています。),2013年中には請求による勾留状の発付数は113483件であるのに対して,却下数は2308件にすぎません(司法統計)。当該却下率はわずか約2パーセントです。


2 旧刑事訴訟法の準抗告規定及び勾留の裁判性問題

(1)旧刑事訴訟法の準抗告規定

 刑事訴訟法429条の準抗告制度は,旧刑事訴訟法(大正11年法律第75号)470条の規定を前身とするものです。同条は,次のとおり。


 第470条 裁判長,受命判事又ハ予審判事左ニ掲クル裁判ヲ為シタル場合ニ於テ不服アル者ハ判事所属ノ裁判所ニ其ノ裁判ノ取消又ハ変更ヲ請求スルコトヲ得

  一 忌避ノ申立ヲ却下スル裁判

  二 勾留,保釈,押収又ハ押収物ノ還付ニ関スル裁判

  三 鑑定ノ為被告人ノ留置ヲ命スル裁判

  四 証人,鑑定人,通事又ハ翻訳人ニ対シテ過料又ハ費用ノ賠償ヲ命スル裁判

  区裁判所判事前項第1号ノ裁判ヲ為シ又ハ受託判事トシテ前項第2号乃至第4号ノ裁判ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ裁判所ヲ管轄スル地方裁判所ニ其ノ裁判ノ取消又ハ変更ヲ請求スルコトヲ得

  第1項第4号ノ裁判ノ取消又ハ変更ノ請求ハ其ノ裁判アリタル日ヨリ3日内ニ之ヲ為スヘシ

  前項ノ請求期間内及其ノ請求アリタルトキハ裁判ノ執行ヲ停止ス


 柱書きにある予審判事は,サッカー日本代表のアギーレ監督のおかげで,スペインのそれについて最近有名になりましたね。

 なお,現在の刑事訴訟法429条1項2号(裁判官のした「勾留,保釈,押収又は押収物の還付に関する裁判」を準抗告の対象とするもの)は昭和24年法律第116号によって改正されていますが,実は立法時には刑事訴訟法429条1項2号には「保釈」が抜けていたところです。同法280条1項(「公訴の提起があつた後第1回の公判期日までは,勾留に関する処分は,裁判官がこれを行う。」)の存在を見落としていたものか。ここにも「こっそり」改正があります。

(2)勾留の裁判性問題

 旧刑事訴訟法470条1項2号の文言は,片仮名と平仮名との違いのみで現行刑事訴訟法429条1項2号のそれと同じであり,抗告を許す裁判所の決定に係る旧刑事訴訟法457条2項の文言(「前項ノ規定〔裁判所の判決前の決定に対する抗告は原則として認められないとする規定〕ハ勾留,保釈,押収又ハ押収物ノ還付ニ関スル決定及鑑定ノ為ニスル被告人ノ留置ニ関スル決定ニ付之ヲ適用セス」)も現行刑事訴訟法420条2項のそれとほぼ同一ですが,旧刑事訴訟法においては,裁判所の決定に対する抗告について,「勾留を更新する決定(第113条)・・・等に対して抗告を為し得ることは明かである。〔しかし,〕勾留・・・の処分そのものに対して抗告を為し得るであろうか。」という問題が提起されていました(小野清一郎『刑事訴訟法講義』(有斐閣・1933年)525頁。下線は筆者)。予審制度廃止後・逮捕前置主義下における検察官からの勾留の請求に対する処分に関する裁判官の権限に関して規定するものである現行刑事訴訟法207条に相当する規定を欠いていた予審制度下の旧刑事訴訟法においては(ただし,同法255条は,捜査のため検事は予審判事又は区裁判所判事に被疑者の勾留の処分を請求することができると規定していました。),勾留は原則として裁判所又は裁判長(同法93条)によってされるものとされた上で当該規定が予審判事に準用(同法122条)されており,また,「決定」との文言が用いられていなかったところ(同法901項等は「勾留スルコトヲ得」と,同法91条は「被告人ノ勾留ハ勾留状ヲ発シテ之ヲ為スヘシ」と規定。現行刑事訴訟法も同様),勾留が裁判である側面を有することが一般にはなお明らかではなかったようです。すなわち,「多くの学者は此の点〔勾留の処分そのものに対する抗告の可否〕を考へて居らぬか又は之を否定するものの如くであるが,私は勾留及び押収はいづれも裁判所の意思表示をその要素とするものであり,其の方式は特別の規定があつて,一般決定に関する規定の適用はないが,其は尚決定の性質を有するものとして之に対し抗告を許すものと考へるのである。」というのが小野清一郎教授の現状分析及び見解でした(小野525頁)。司法試験受験生が,「勾留とは,被疑者・被告人を拘束する裁判およびその執行をいう。」(田宮裕『刑事訴訟法[新版]』(有斐閣・1996年)82頁。下線は筆者)と暗唱させられる背景には,このような事情があったわけです。

 (なお,現行刑事訴訟法においては「勾留中の被疑者については,勾留事実と同一の事実で公訴提起された場合,特段の手続を要せず公訴提起の日から当然に被告人としての勾留が開始される(
20860②)。すでに勾留の際厳格な手続が履践されているからである。」ということで(松本時夫=土本武司編著『条解刑事訴訟法〔第3版増補版〕』(弘文堂・2006年)518頁),検察官の公訴の提起により被疑者の勾留が自動的に被告人の勾留(公訴の提起があった日から2箇月(刑事訴訟法602項))に切り替わるものとされていますが,これは一見,検察官の公訴提起の意思表示に基づく準法律行為的効果のような感じですね(ただし,旧刑事訴訟法では,そもそも原則的な勾留の客体である被告人には既に公訴が提起されていて,予審判事の取調べに基づき当該被告事件が当該予審判事によって更に公判に付される形(同法312条)になっていました。また,旧刑事訴訟法113条は「勾留ノ期間ハ2月トス特ニ継続ノ必要アル場合ニ於テハ決定ヲ以テ1月毎ニ之ヲ更新スルコトヲ得」と規定していて「公訴の提起のあつた日」をもって2箇月の期間が起算されるものとはしていませんでした。起算日は,指定の監獄に引致(旧刑事訴訟法103条2項)された日だったのでしょう(松本=土本121頁参照)。そうだとすると,「第255条ノ規定ニ依リ被疑者ヲ勾留シタル事件〔捜査の必要のために検事がした請求に基づき公訴提起前の被疑者を勾留した事件〕ニ付10日内ニ公訴ヲ提起セサルトキハ検事ハ速ニ被疑者ヲ釈放スヘシ」と規定する旧刑事訴訟法257条1項の10日の制限期間は,勾留ノ期間自体というわけではないのでしょう。「直ちに」釈放ではなく,「速ニ」釈放すればよいようでもありますから。現行刑事訴訟法208条の期間の性質も,釈放すべき期限に関するものであって勾留の期間を直接制限したものではないと解すべきなのでしょうか。)。ちなみに,検察官による勾留といえば,旧刑事訴訟法1291項は,現行犯及び要急事件についての判事ならぬ検事による勾留状の発付について規定していました(同法471条1項は,検事のした勾留ニ関スル処分に対して準抗告をし得る旨規定)。更に余談ですが,旧々刑事訴訟法(明治23年法律第96号)下においては勾留期間に期限は設けられておらず(小野248頁参照),また,勾留状の執行に際しては「被告人ノ請求アルトキハ之〔勾留状の正本〕ヲ示ス可シ」ということで(同法77条2項),裁判所の意思表示の通知を全てきちんと被告人に到達させることは考えられていなかったようです(刑事訴訟法77条2項及び旧刑事訴訟法103条2項は勾留状を被告人に示すことを勾留状の執行の前提としています。)。)


3 勾留請求却下の裁判と釈放命令(それとしての「釈放命令の裁判」の不存在)

(1)勾留請求に対する裁判としての却下と釈放命令

 現行刑事訴訟法下では,裁判官が検察官からの勾留請求を却下したとき(同法2074項ただし書の場合。同ただし書は「ただし,勾留の理由がないと認めるとき,及び前条第2項の規定〔制限時間不遵守〕により勾留状を発することができないときは,勾留状を発しないで,直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。」と規定。ただし,「釈放命令」については書いてあっても「却下」のことは書いてないですね。以下この刑事訴訟法の文言と実務との関係に関して論じます。)に関して,「勾留請求を却下した裁判に対して検察官が準抗告する場合,釈放命令の執行停止を求めることができるかが争われている。却下という消極的裁判には停止すべき効力がないので,執行停止はできないという意見もないわけではないが,これは妥当でない。却下は釈放命令と一体不可分のものであり,執行停止の対象となりうる。しかし,問題はそのことではなく,停止ができるにしても,停止までの拘束の根拠がないのである。すなわち,勾留請求による留置の効力は却下までは続くが,釈放命令で消失する(2072項〔現4項〕)。したがって,釈放命令の執行停止をして,準抗告による取消しを待つということはできないと解すべきである。」という議論があります(田宮88頁)。
 「これに対して,まさに勾留を継続するために却下への準抗告を許したので,それに必要な手続きが行われる時間は拘束が認められるべきだという考えがあり,実務はこの立場で運用されている(検察官の準抗告を容れて却下の裁判を取り消し勾留の裁判をしたときは,却下後の身柄拘束の有無・適否は,勾留の裁判の効力に影響を及ぼさないとした判例がある。最決昭
44217判タ236204頁)。しかし,そのような必要性があることはそのとおりだが,強制処分ゆえに法的根拠を要するというルール(憲31条,197条参照)を曲げてはなるまい。したがって,この点法の欠缺があり立法による手当てが必要である」ということですが(田宮88頁),分かりづらいですね。
 却下の裁判と釈放命令とがあるようなのですが,両者の関係はどうなっているのでしょうか。

(2)「釈放命令」の執行停止を論ずる学説
 「勾留請求を却下した裁判の場合,検察官は準抗告をするとともに,釈放命令の執行停止を求めることができるだろうか。積極説は,
432条が424条を準用していることを根拠に,準抗告裁判所(または原裁判官)に執行停止の職権発動を求め,これによって,被疑者を拘束したまま準抗告審の決定を待つことができると論ずる」そうですから(松尾浩也『刑事訴訟法上 補正第三版』(弘文堂・1991年)8990頁),当該積極説としては,準抗告に刑事訴訟法432条によって準用される同法424条1項ただし書又は2項の規定(同条は,「抗告は,即時抗告を除いては,裁判の執行を停止する効力を有しない。但し,原裁判所は,決定で,抗告の裁判があるまで執行を停止することができる。/抗告裁判所は,決定で裁判の執行を停止することができる。」と規定)に基づき,釈放命令(勾留請求却下の裁判の方ではない。)の執行停止をするものとしているようです。しかし,勾留請求却下の裁判の時から釈放命令の執行停止の時までの間のタイム・ラグ中において,「勾留請求却下の裁判から準抗告申立まで拘束を続ける法文上の根拠は見出せない。」とされています(松尾90頁。田宮上掲の「勾留請求による留置の効力は却下までは続くが,釈放命令で消失する(2072項)」という表現は,「勾留請求による留置の効力は却下までは続くが,却下=釈放命令で消失する(2072項)」との意味でしょう。確かに,前記のとおり,刑事訴訟法207条4項(かつての第2項)には「却下」との表現はありませんので「却下=釈放命令」と解すべきようであり,また,現に田宮上掲は「却下は釈放命令と一体不可分のもの」と述べています。)。
 ただし,この点の懸念は,若き平野龍一教授にはまだなかったようです。「勾留請求があれば,その効力で,逮捕期間経過後も拘禁を継続できる。勾留の請求が却下されたときも,準抗告があると,勾留請求の効力は続くから,引き続いて拘禁できることになる。そこで,これを防ぐために,法は,勾留の請求を却下するときは,釈放命令を発して,釈放させることにした。だから,準抗告があったときは,釈放命令の執行前に,その執行停止の裁判があったときにかぎり,引き続き拘禁できる。」との文章(平野龍一『刑事訴訟法』(有斐閣・
1958年)104頁注(2))は,勾留請求に基づく逮捕期間経過後の拘禁継続の「効力」は釈放命令の執行までは続く,という理解を前提にしているのでしょう。

(3)準抗告認容決定における釈放命令の不存在
 ところで,勾留の裁判に対する準抗告における申立ての趣旨は,「原裁判を取り消し,検察官の勾留請求を却下する/との決定を求める。」と書くものとされており(司法研修所『平成18年版 刑事弁護実務(別冊書式編)』6頁),認容決定の主文も「原裁判を取り消す。/本件勾留請求を却下する。」となるわけですが(前記東京地方裁判所平成27年1月20日決定),被疑者の釈放まで命じなくともよいものか。よく考えると議論があり得ますね。
 準抗告審の決定に対しては再抗告をすることはできませんが(刑事訴訟法432条によって準用される同法427条),憲法違反・判例相反を理由として最高裁判所に特別抗告をすることはでき(同法4331項),その場合,更に準抗告審の決定の執行停止を原裁判所又は最高裁判所はできることになります(同法434条によって準用される同法424条)。そうであれば,勾留の裁判が準抗告で覆った場合において,検察官が憲法違反等までをも理由として特別抗告し,何が何でも被疑者の身柄拘束を継続しようとするときには,勾留請求却下に対する準抗告に係る前記刑事訴訟法学諸文献記載の手続とパラレルに考えて,特別抗告と共に釈放命令の執行停止を求めることになるようです。しかしながら,勾留の裁判に対する準抗告を認容する決定の主文には,釈放命令は記載されていないのです。決定書に書いていないから執行停止の対象となるべき釈放命令はないのだという見解を採る場合においては,勾留の裁判が準抗告で覆ったときに,特別抗告がされても,準抗告審の決定に基づく身柄釈放に対する執行停止は空振りとなってできない(刑事訴訟法434条・4241項本文の原則が貫徹)ということになるようにも思われます。余り実益のない議論かもしれませんが,気にはなるところです。

(4)釈放命令ではなく却下がされることの根拠としての刑事訴訟規則140条

 この点は,検察官の勾留請求に対する刑事訴訟法207条4項の裁判官の裁判に関して「勾留請求却下の場合にも〔刑事訴訟規則〕140条が適用されると解すべきであ」る(松本=土本354頁)とされていることとかかわりがあります。
 刑事訴訟規則
140条は,「裁判官が令状の請求を却下するには,請求書にその旨を記載し,記名押印してこれに請求者に交付すれば足りる。」と規定しています。勾留状も令状の一種です。刑事訴訟規則140条の規定の上からは,勾留請求書に,請求を却下する旨のみが裁判官によって記載され,被疑者を釈放するよう命ずる旨の記載はされないようです。「〔刑事訴訟規則140〕条による却下手続がとられれば,検察官が,その裁判の執行停止を求めつつ準抗告をする場合を除き・・・,被疑者を留置しておく根拠・・・が失われるので,検察官は当然に被疑者を釈放しなければならない。実務もこのように行なわれて」いる,との記載(松本=土本354頁)は,釈放命令の記載がないことが前提になっていますね(田中智之弁護士の2013年12月19日のブログ記事に,「本件請求を却下する。」とだけ勾留請求書にゴム印などで記載するという書式(『令状実務(再訂補訂版)』(司法協会・2009年)87頁)が紹介されています。また,『刑事訴訟規則逐条説明第2編第1章・第2章捜査・公訴』(法曹会・1993年)2頁でも,刑事訴訟規則140条に関して,「本件勾留請求を却下する。理由 必要性なし」との記載形式が紹介されています。)。

(5)却下の裁判1本立て

 「法は,勾留の請求を却下するときは,釈放命令を発して,釈放させることにした。」との刑事訴訟法に関する平野教授の前記記述は,刑事訴訟規則140条に基づく実務(「釈放命令」はそれとしては発せられていない。)に裏切られている格好です。却下の裁判と釈放命令との2本立て論ではなく,却下の裁判1本立て論を採用すべきでしょうか。「その裁判の執行停止を求めつつ準抗告をする場合を除き」勾留請求の却下の裁判のみで検察官は当然に被疑者を釈放しなければならず,刑事訴訟法207条4項の「「釈放を命じなければならない」との規定はこの趣旨を強調するために置かれた」という解釈(松本=土本354頁)を採る立場は,1本立て論でしょう。しかし,却下の裁判1本立て論では,執行停止されるのは「釈放命令」ではなく,消極的裁判たる勾留請求却下の裁判ないしは決定が執行停止されるということになるのでしょうね。「勾留請求却下の裁判に対して,検察官は,準抗告の申立てをすることができ(429(2)),実務上,この申立てと同時に原裁判の執行停止を申し立て(432424参照)て被疑者の身柄を継続している。」との記述(松本=土本354頁)における「原裁判」は,やはり「勾留請求却下の裁判」であって,「釈放命令」ではないですね。いわゆる基本書から出発しての遠回りでしたが,そういうことのようです。(なお, 捷径としては, 丸山哲巳判事の「勾留請求の却下と被疑者の釈放」(松尾浩也=岩瀬徹編『実例刑事訴訟法I捜査』(青林書院・2012年)をお読みください。)

 


4 勾留の裁判に対する準抗告の認容事例

 以上,勾留の裁判に対する準抗告をめぐっていろいろ書いてきましたが,その動機は何かといえば,実は筆者には,「認容率はきわめて低い」とされている「勾留許可に対する準抗告」の認容決定を受けた経験があるからです。

当該事案においては,被疑者国選弁護人の選任を受けた日のその晩,勾留質問から留置施設に戻って来た被疑者と当該留置施設で第1回接見を1時間半ほどかけて行い,「本件では,被疑事実に係る罪証隠滅のおそれも逃亡のおそれも無いではないか。」との心証を得て準抗告申立てを行うことに心を決め,翌日他の事件の公判等のかたわら準抗告申立書案を起案の上,同日深夜再び1時間半ほどの被疑者との接見を行って内容を確認・補正,3日目の午前中に裁判所に申立書を提出したところ,同日午後5時過ぎに準抗告認容との連絡があり,それから2時間弱後の午後7時ころ被疑者は勾留から釈放されました。

ところで,被疑者においては,勾留から釈放されたとはいえ,刑事訴訟手続はまだまだ続きます。しかしながら,被疑者国選弁護人の選任の効力は,被疑者の釈放で終了となりました(刑事訴訟法38条の2)。私選弁護人の場合と異なるところでしょう。

 


 


弁護士 齊藤雅俊

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被疑者の身柄について,裁判所の考え方も変わってきているのでしょうか。刑事事件に限らず,ビジネス関係等,法律問題についてお気軽に御相談ください。