1 今次会社法改正の目玉:監査等委員会設置会社制度の導入

 会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の内閣からの提案の「理由」では「株式会社をめぐる最近の社会経済情勢に鑑み,社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等の強化並びに株式会社及びその属する企業集団の運営の一層の適正化等を図るため」,まず第一に「監査等委員会設置会社制度を創設する」ものとされていました(2014115日の記事「会社法改正の年に当たって(又は「こっそり」改正のはなし)」http://donttreadonme.blog.jp/archives/2471090.html参照)。

 法務省民事局において平成26年法律第90号の立案事務に関与した人たちによって書かれた坂本三郎法務省大臣官房参事官編著の『一問一答 平成26年改正会社法』(商事法務・2014年)の編別も,第1編「総論」に続く第2編「コーポレート・ガバナンスの強化に関する改正」の第1章「取締役会の監督機能の強化」における最初の部分は「第1 監査等委員会設置会社制度」となっています。

 監査等委員会設置会社制度こそが,平成26年法律第90号による会社法(平成17年法律第86号)改正(「今次会社法改正」。201551日からの施行が予定されています。)の第一の目玉であるようです。

 「日本企業では,十分なコーポレート・ガバナンスが行なわれておらず,このことが,外国企業と比較して日本企業の収益力が低く,株価も低迷している原因となっているという,内外の投資家の不信感があると考えられ」ているところ,「会社法におけるコーポレート・ガバナンスについては,経営者から独立した社外取締役の機能を活用するなど,取締役に対する監査・監督の在り方を見直すべきである等の指摘」がされていたので(坂本2頁),「社外取締役の機能を活用」するための主な改正点の第1として「①新たな機関設計である監査等委員会設置会社制度の創設」がされたのですから(坂本3頁),我が国の企業が監査等委員会設置会社制度を大いに導入することにより,「日本企業に対する内外の投資家からの信頼が高まることとなり,日本企業に対する投資が促進され,ひいては,日本経済の成長に寄与することが期待」されているわけです(坂本2頁)。

 我が国経済の困難な情況にかんがみると,このようにすばらしい成長促進効果を有する監査等委員会設置会社制度をもって,株式会社における当然の機関設計として採用すべきもののように思われます。

 

2 監査等委員会の非必置性

 しかしながら,監査等委員会設置会社制度の採用は,義務付けられていません。今次会社法改正後の会社法(「改正会社法」)326条(株主総会以外の機関の設置)2項は「株式会社は,定款の定めによって,取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人,監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。」と規定しており,監査等委員会設置会社制度は多くの機関設計の選択肢の中の一つにとどめられています。

「これまでの監査役設置会社制度および指名委員会等設置会社制度の意義を否定するものではありません。」ということです(坂本20頁)。監査役制度については,商法の数次にわたる改正及び会社法の制定を経ていますから,これを今更否定するとなると,今まで長いこと一生懸命やってきたことは何だったのかっ,という反発をかうことにもなるのでしょう。指名委員会等設置会社制度についても,「2010年当時,東京証券取引所上場会社に占める委員会設置会社〔指名委員会等設置会社〕の割合は,2.2パーセント」にすぎないとはいえ(坂本19頁(注2)の引用する同取引所『東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書201115頁),「取締役会の中に,メンバーの過半数を社外取締役とする指名委員会,監査委員会,報酬委員会の3委員会を設けて,取締役会の監督機能を強化するとともに,業務執行を担当する執行役を設け,取締役会が執行役に対して決議事項を大幅に委任することができるようにし,機動的な業務決定を可能」とするものとして(森山眞弓法務大臣・第154回国会衆議院法務委員会議録721頁),2003年4月1日からせっかく華々しく導入せしめた当該制度を軽々に廃止するわけにはいかなかったのでしょう。とはいえ,指名委員会等設置会社制度については,「社外取締役が過半数を占める指名委員会および報酬委員会に,取締役候補者の指名や取締役および執行役の報酬の決定を委ねることへの抵抗感等がある」ということですから(坂本18頁),当該制度は我が国の主流経営層からはなお嫌われているのでしょうが。(指名委員会等設置会社制度は「日本企業の主流となっておらず,実績が評価されるようにもなっていない(そのパフォーマンスは,必ずしも良好ではない)」ところです(稲葉威雄『会社法の解明』(中央経済社・2010年)455頁)。)

監査等委員会設置会社制度は選択肢の一つにすぎないというのであれば,オプションのやたらに多い情報通信機器をうまく使いこなせずせっかくのスマート・フォンでも電話機能,電子メール機能及びインターネット閲覧機能しか使用しないおじさんのように,昔ながらのやり方(監査役制度)を続けていけばよいようです。

 

3 社外取締役選任促進の動きと監査等委員会設置会社制度

 

(1)社外取締役を置いていない場合の理由の開示制度

 

ア 改正会社法327条の2

しかしながら,面倒だからといって監査等委員会設置会社制度を完全に無視するわけにいかない株式会社もあるでしょう。改正会社法327条の2の関係で,監査等委員会設置会社制度の採用を考える会社も出て来そうです。同条は,次のとおり。

 

 (社外取締役を置いていない場合の理由の開示)

327条の2 事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には,取締役は,当該事業年度に関する定時株主総会において,社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。

 

 「社外取締役が業務執行者に対する監督上重要な役割を果たし得ることに鑑み,社外取締役の選任の義務付けに代え」て設けられた(坂本79頁),「株主に対する情報提供および毎年の定時株主総会でこの説明をしなければならなくなることを前提に社外取締役を置くかどうかを会社において検討することによる社外取締役の選任の促進という趣旨・目的に基づく」規定です(坂本91頁)。

 改正会社法327条の2は「監査役会設置会社」を対象としますが,公開会社である大会社は,そもそも監査役会の設置が義務付けられている株式会社です(会社法3281項(指名委員会等設置会社である場合を除く。))。公開会社である大会社は,「類型的にみて,株主構成が頻繁に変動することや会社の規模に鑑みた影響力の大きさから,社外取締役による業務執行者に対する監督の必要性が高く,また,その会社の規模から,社外取締役の人材確保に伴うコストを負担し得ると考えられ」ている類型の会社です(坂本82頁)。

 そうだとすると,社外取締役の選任こそが日本経済を救う鍵であるのならば,株式について有価証券報告書の提出義務を負う株式会社であることとの限定を付加して,改正会社法327条2の規律の対象を「不特定多数の株主が存在する可能性が高いことから,社外取締役による業務執行者に対する監督の必要性が特に高いとかんがえられるもの」(坂本8283頁。下線は筆者)にまで更に限定する必要はないようでもあります。しかしながら,当該有価証券報告書提出義務会社という限定が更に付されたのは,やはり社外取締役選任の義務付けを見送らせるに至った(「改正法においては,社外取締役の選任を義務付ける旨の規定を設けていません」(坂本77頁)。)反対意見に相応の理由があったということでしょう。また,「社外取締役をより積極的に活用すべきであるとの指摘は,特に上場企業について,強くされてい」た(坂本82頁)ので,取りあえず当該指摘対象企業を中心に手当てすることにしたということでもありましょう。

 

イ 「理由を説明」の内容

 改正会社法327条の2の「説明」は,厄介です。社外取締役を置くことが「「相当でない」理由を説明したというためには,社外取締役を置くことがかえってその会社にマイナスの影響を及ぼすというような事情を説明する必要があります。また,例えば,「社外監査役が○名おり,社外者による監査・監督として十分に機能している」と説明するだけでは,社外取締役を置くことが「必要でない」理由の説明にすぎず,社外取締役を置くことが「相当でない」理由の説明とは認められません。」と解説されています(坂本85頁)。「このほか,例えば,「適任者がいない」ということのみの説明も,「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明とは認められないこととなり得るものと考えられ」るとされています(坂本85頁(注3))。

20141125日に法務省から意見募集手続に付された会社法施行規則の改正案(「会社法施行規則改正案」)の第124条(社外役員等に関する特則)2項及び3項は次のとおり。各事業年度の事業報告(会社法4352項)の内容に関する規定です。

 

2 事業年度の末日において監査役会設置会社(大会社に限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には,株式会社の会社役員に関する事項として,第121条〔(株式会社の会社役員に関する事項)〕に規定する事項のほか,社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容に含めなければならない。

3 前項の理由は,当該監査役会設置会社の当該事業年度における事情に応じて記載し,又は記録しなければならない。この場合において,社外監査役が2人以上あることのみをもって当該理由とすることはできない。

 

 会社法施行規則改正案124条2項の括弧書きが「(大会社に限る。)」であって,「(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)」ではないのは,同条自体が既に会社法施行規則第2編「株式会社」第5章「計算等」第2節「事業報告」第2款「事業報告等の内容」第2目「公開会社における事業報告の内容」の一部であって,公開会社についての規定だからですね。

 取締役が取締役の選任に関する議案を提出する場合における株主総会参考書類(会社法3011項)の記載事項に関する会社法施行規則改正案74条の2は,次のとおり。

 

  (社外取締役を置いていない場合等の特則)

 第74条の2 前条第1項に規定する場合〔取締役が取締役(監査等委員である取締役を除く。)の選任に関する議案を提出する場合〕において,株式会社が社外取締役を置いていない特定監査役会設置会社(当該株主総会の終結の時に社外取締役を置いていないこととなる見込みであるものを含む。)であって,かつ,取締役に就任したとすれば社外取締役となる見込みである者を候補者とする取締役の選任に関する議案を当該株主総会に提出しないときは,株主総会参考書類には,社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならない。

 2 前項に規定する「特定監査役会設置会社」とは,監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものをいう。

 3 第1項の理由は,当該株式会社のその時点における事情に応じて記載しなければならない。この場合において,社外監査役が2人以上あることのみをもって当該理由とすることはできない。

 

ウ 「理由を説明」に失敗した場合

 

(ア)そもそも説明せず,又は虚偽の説明をしたとき

事業年度の末日に置いて社外取締役を置いていない特定監査役会設置会社(会社法施行規則改正案74条の22項)の取締役が,定時株主総会において,「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明せず,又は説明はしたもののその説明が虚偽であったときには,取締役はその善良な管理者の注意義務(会社法330条,民法644条)に違反した状態になるとされています(坂本89頁)。社長は怒られざるを得ませんね。しかしこれは,全く説明をせず,又は説明が虚偽であった場合のことでしょう。

 

(イ)説明はしたが,不合理・不十分であるとき

一応説明自体はされ,うそでもないが,ただ,「社外取締役を置くことが相当でない理由」としてはなお不合理又は不十分であった場合はどうでしょう。

 

・・・各会社において取締役が説明した具体的な内容が,当該会社について「社外取締役を置くことが相当でない理由」として十分なものであるかどうかの判断は,第一次的には,当該会社の株主(株主総会)において行われることとなると考えられます。

 したがって,「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明が,客観的に見て不合理・不十分であるということのみから,直ちに第327条の2に違反したことになるものではなく,また,当該定時株主総会における株主総会の決議に瑕疵があること等になるものでもないと解されます。(坂本91頁)

 

 株主総会が無事終われば結果オーライということのようです。しかし,「社外取締役の選任の促進」を願う御当局としては,むしろ,「こらっ,社長!それじゃ説明になっていないじゃないか」というような追及があって,多少荒れる総会になってくれる方が実は望ましいということになってしまうのでしょうか。

 そこまではいかなくとも,御当局としては,説明がされたものと認められる場合自体を限定することに腐心しておられるようです。「「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明については,各会社において,その個別の事情に応じて,社外取締役を置くことがかえってその会社にマイナスの影響を及ぼすというような事情を説明しなければならず,例えば,「社外監査役が○名おり,社外者による監査・監督としては十分に機能している」ことのみをもって説明されたりしたような場合には,「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明とは認められないと解され」る(説明がされていない)というように(坂本91頁),外堀が埋められてあります。

 いずれにせよ,特定監査役会設置会社としては,社外取締役を置かないとやはりいろいろ面倒そうです。

 

(2)監査等委員会設置会社制度採用のすすめ

 そこで,そのような特定監査役会設置会社が,改正会社法327条の2に係る奔命に疲れて新たに社外取締役を置くこととした場合,是非併せて監査等委員会設置会社制度を導入してもらいたいというのが御当局のお考えのようです。

 すなわち,改正会社法327条の2のところにおいて「・・・取締役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの・・・」と定義せずにわざわざ「・・・監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの」と定義し(下線筆者),会社法施行規則74条の2第2項では正に「特定監査役会設置会社」という名称を採用しているのは,「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明という厄介なことをさせられる原因は監査役会が設置されていることであるという印象を当該特定監査役会設置会社の取締役に与えるためであるようにも思われるところです。公開会社である大会社がその本来的必置機関である監査役会の設置義務を免れる場合は,当該大会社が指名委員会等設置会社又は監査等委員会設置会社である場合(なお,両者とも社外取締役を置くものです(改正会社法3316項,4003項)。)ですから(改正会社法3281項),監査役会を廃止したいのならば,まずは指名委員会等設置会社よりもお手軽な監査等委員会設置会社制度を採用されてはいかがですか,というように思考を誘導しようということだったのではないでしょうか。(「社外監査役に加え,社外取締役の選任を義務付けることには,重複感・負担感がある」(坂本78頁(注)で紹介されている社外取締役選任義務付けに対する反対意見の主なものの一つ)というのであれば,社外役員枠を監査役から取締役に移されてはどうですか,ということででもあるのでしょうか。監査役会設置会社における監査役は3人以上でそのうち半数以上は社外監査役でなければならないとされている一方(会社法3353項),それに対応するかのように,「監査等委員会設置会社においては,監査等委員である取締役は,3人以上で,その過半数は,社外取締役でなければならない。」(改正会社法3316項)とされています。)「社外取締役を置いていない監査役会設置会社は,社外監査役をそのまま社外取締役とすればそれだけで監査等委員会設置会社に移行できるので,移行することは比較的容易であると言われている」そうです(神田秀樹「平成26年会社法改正と社外取締役」自正201412月号46頁)。

 「社外取締役については,・・・取締役会の決議における議決権を行使すること等を通じて業務執行者を適切に監督すること等を期待」されているのですから(坂本77頁),社外取締役の機能は,取締役会で発揮されることを前提としていると考えられます。「「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明に係る規定は,取締役会設置会社・・・のうちの一定の株式会社に係る社外取締役の不設置に関するものである」とそもそも理解されているのならば(坂本81頁(注1)。下線は筆者),改正会社法327条の2では「監査役会設置会社」ではなく本来「取締役会設置会社」が出てくるべきであったはずです。むろん,監査役会設置会社はすべて取締役会設置会社なのですが(会社法32712号)。

 

4 監査役制度と社外取締役制度

 

(1)ドイツ法とイギリス法

 しかし,やはり,監査役制度と社外取締役制度とは,食い合わせが悪いということなのでしょうか。ちなみに,前者はドイツ法由来,後者はイギリス法由来の制度ということのようです。

 

  先づ沿革に付て論ぜんに,中世時代に続起したる株式会社には,大株主会ありて会社重役の相談役の如き位置に立ち,重大なる事件に就て重役の諮詢に応じ,又会社の諸般の業務の監督を掌れり。此大株主会は,独逸法に於ては種々の変遷の末,終に法律上独立せる会社の監督機関として認めらるるに至りたり。之を独逸法に於ける株式会社の監査役(Aufsichtsrat)とす。然るに英法に於ては,大に沿革の趣を異にし,此大株主会は漸次変更して,終に会社重役と合同するに至りたり。故に英法に於ては,重役会(board of directors)自身が会社業務の最高監督機関の機能を掌れるなり。即ち,重役中に主として業務の執行を司るものと多少監督者の地位を有するものとの2種あるを常とす。学者或は此前者を名けて業務執行重役会(Managing board)と謂ひ,後者を称して業務監督重役会(Controling board)と謂ふは此故なり。此の如く重役自身が会社の業務を執行し,又同時に之を監督するに於ては,別に株主の為めに会社会計の正否を検査する機関を置くの必要を感ぜずんばあらず。此必要を充す為めに生じ来りたる機関が,即ち英国会社法の常任検査役〔Auditor〕なり。・・・故に英法の検査役は会計の正否を審査するの機関たるに止まり,独法の監査役の如き会社業務一般の監督機関に非ざるなり。我商法の監査役は,次に述ぶる如く会社業務の最高監督機関にして,主として独法の監査役に倣ひて設けられたる制度なり。故に英法の常任検査役とは沿革上全然別物なりと謂はざるべからず。(松本烝治「監査役制度ノ改正問題ニ付テ」(初出19105月発行法協285号)『私法論文集』(巌松堂書店・1926年(復刻版・有斐閣・1989年))6667頁(原文は片仮名書き,句読点なし。))

 

昭和13年法律第72号による改正前の商法(明治32年法律第48号)の規定中監査役の主な権限に係るものとしては,同法181条(「監査役ハ何時ニテモ取締役ニ対シテ営業ノ報告ヲ求メ又ハ会社ノ業務及ヒ会社財産ノ状況ヲ調査スルコトヲ得」),183条(「監査役ハ取締役カ株主総会ニ提出セントスル書類ヲ調査シ株主総会ニ其意見ヲ報告スルコトヲ要ス」),182条(「監査役ハ株主総会ヲ招集スル必要アリト認メタルトキハ其招集ヲ為スコトヲ得此総会ニ於テハ会社ノ業務及ヒ会社財産ノ状況ヲ調査セシムル為メ特ニ検査役ヲ選任スルコトヲ得」),184条(「監査役ハ取締役又ハ支配人ヲ兼ヌルコトヲ得ス但取締役中ニ欠員アルトキハ取締役及ヒ監査役ノ協議ヲ以テ監査役中ヨリ一時取締役ノ職務ヲ行フヘキ者ヲ定ムルコトヲ得」〔第2項略〕),185条(「会社カ取締役ニ対シ又ハ取締役カ会社ニ対シ訴ヲ提起スル場合ニ於テハ其訴ニ付テハ監査役会社ヲ代表ス但株主総会ハ他人ヲシテ之ヲ代表セシムルコトヲ得」〔第2項略〕),168条(「取締役ハ定款ニ定メタル員数ノ株券ヲ監査役ニ供託スルコトヲ要ス」)及び176条(「取締役ハ監査役ノ承認ヲ得タルトキニ限リ自己又ハ第三者ノ為メニ会社ト取引ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ民法第108条ノ規定ヲ適用セス」)が挙げられ,「此の如くにして,我商法の監査役は会社業務の一般的監督機関として取締役と対立するものたり。英法の常任検査役の如く会計検査の一事のみを司掌するものに非ざるなり。」とされています(松本69頁)。

ところで,我が商法が取締役会制度を導入したのは先の大戦後のことであって,GHQ時代の昭和25年法律第167号による改正の結果です。同法によってまた,監査役の任務は会計監査に限定されました。当該1950年改正に基づく株式会社の機関構成は,むしろ,board of directors及びAuditorとを有する前記イギリス法的構成のようですね。その後の監査役の強化の歴史は,ドイツ法的なものに戻るべき失地回復の歴史でもあったということになるようです。しかしてその間,Controling board的なものの導入強化は閑却されていたわけです。

 

  英米では,オーディター(auditor)には会計専門家の資格が要求され,したがって同人は,わが国の会計監査人に相当する。わが国の監査役に近い機能は,社外取締役によって構成され,オーディターおよび内部統制部門の経営者からの独立性を保障するために監視する監査委員会(audit committee)により担われており・・・わが国が平成14年改正で導入した委員会設置会社は,基本的にそれをモデルとしている。

  ドイツの株式会社では,監査役会が取締役を選任(重大事由があるときは解任)する

権限を有し(ド株式84条),特定の業務執行に対する同意権限も保有できるので(ド株式1114項),わが国でいえば社外取締役のみから構成された取締役会に近い。また,共同決定制度により,労働者代表の監査役が選任される・・・。・・・(江頭憲治郎『株式会社法』(有斐閣・2006年)460461頁注(1))

 

 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は会計監査人を置かなければなりませんが(改正会社法3275項),これは,英米法式の社外取締役と会計専門家たるauditorとの組合せの採用ですね。

 なお,会社法331条2項の「株式会社は,取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない。ただし,公開会社でない株式会社においては,この限りでない。」(同法3351項で監査役に準用)との規定については,「取締役に広く適材を求めることが公開会社制度の理念と認識された結果であろう。」(江頭351頁)と説明されていますが,これは昭和13年法律第72号による改正前の商法164条1項が「取締役ハ株主総会ニ於テ株主中ヨリ之ヲ選任ス」(下線筆者。同法189条で監査役に準用)と規定していたことを前提に考えるべき規定です。すなわち,反面として,取締役及び監査役は株主でなければならないという考えにもそれなりの正統性があるわけです。「我商法は,監査役は株主中より之を選任すべきものとす・・・。此,制度沿革上は頗る根拠あり。何となれば,我商法の監査役は,前述せる如く独法の監査役と同く,中世時代の株式会社の大株主会を起源とするものなればなり。又,監査役を会社事業に直接の利害関係を有する株主中より選任するは,其職務に忠実なるべきの利益あり。」というわけです(松本70頁)。

 

(2)監査役の監査と監査等委員会の監査

 

ア 独任制の機関の自らする監査と会議体の組織的監査

 監査役の監査と監査等委員会の監査とは違います。「監査役は,独任制の機関として,通常,自ら会社の業務財産の調査等を行うという方法で監査を行う」のに対し(なお,監査役会が置かれても,監査役が独任制の機関であることは維持されています(会社法3902項ただし書参照)。),「監査等委員会は,指名委員会等設置会社の監査委員会と同様に,会議体であり,組織的な監査を行う」こととなるとされています(坂本54頁)。すなわち,「監査等委員会は,内部統制システムが取締役会により適切に構築・運営されているかを監視し,他方で,当該内部統制システムを利用して監査に必要な情報を入手し,また,必要に応じて内部統制部門に対して具体的指示を行うという方法で監査を行う」ことになります(坂本54頁)。監査等委員会設置会社の取締役会が決定しなければならない事項として「監査等委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項」及び「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」が掲げられています(改正会社法399条の1311号ロ・ハ,第2項)。

 

イ NTT法15条及び18条の2

 この点,会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第91号)60条によって挿入される日本電信電話株式会社等に関する法律(昭和59年法律第85号)18条の2第1項は,「総務大臣は,この法律を施行するため必要があると認めるときは,会社又は地域会社の監査役を指名して,特定の事項を監査させ,当該監査の結果を報告させることができる。」との同法15条1項の規定に関し,「会社又は地域会社が監査等委員会設置会社である場合における第15条の規定の適用については,同条中「監査役」とあるのは,「監査等委員」とする。」と規定していますが,監査役による監査と監査等委員会による監査との性格の違いにかんがみて,どうでしょうか(『コンメンタールNTT法』(三省堂・2011年)226頁・260頁参照)。監査等委員による監査は,監査等委員会からの選定をまって初めてされるもののようですし(改正会社法399条の31項・2項),監査に当たっても,当該監査等委員は,監査等委員会の決議に従わねばなりません(同条4項)。とはいえ,いずれにせよ,NTTに対する「監査機能の強化」に係る日本電信電話株式会社等に関する法律第15条の規定に係る政府案は,日本電信電話株式会社法案をめぐって当時激しく争っていた郵政・通商産業両省に対する1984年4月4日の自由民主党の「裁定案」をうけ,同日から翌5日にかけての一夜漬けで作られたものなので(同月6日に法案閣議決定),同条の解釈には難しいところがあるのはしかたのないことなのでしょう(『コンメンタールNTT法』225234頁参照)。

 

1984年4月「5日午前4時,〔内閣〕法制局で郵政,通産両省をはさんでの法案づくりが始まった。しかし,自民党裁定がもうひとつ不明確で作業は遅々として進まない。同午前9時半,自民党政調正副会長会議が開かれ,藤尾〔正行〕政調会長が前日の裁定案についての統一見解を提示した。初めて文章化された裁定案が出たのである。(日本経済新聞198446日朝刊5面。下線は筆者)

 

城山三郎の『官僚たちの夏』的おおわらわとでもいうべきでしょうか。昔の日本には元気がありましたよね。

 

5 会社法制改正論今昔

日本の元気は変動し,昨今は低下傾向を示しているところですが,変わらないのは会社法制変更に向けた情熱でしょうか。とはいえ,当該情熱に対する回答もそれほど変わるべきものとは思われません。今から百余年前の1910年における会社法制改正論議の中にあって,後の憲法改正担当国務大臣・松本烝治既にいわく,

 

監査役制度改正問題に関する世論の批評は,略ぼ上述せる所を以て尽せりと信ず。之を要するに,研究不十分にして議論浅薄なりとの誹を免れざるなり。而して此問題に関する余の提案自身は,未だ定見として之を公表すべきものなきなり。然れども,仮に法律の改正に因りて近時続出せる会社の不始末を剿絶することを得べきものと思料するものあらば,其根本的の誤謬なることを一言せんと欲す。実業社会に法律思想が普及せられ法律を遵法するの精神が汎布せらるるの方法を講ぜず,区区たる法条の改正に因りて之が救済を図らんとするは,所謂百年河清を待つの類のみ。問題は,世道人心に在り。法は抑も末なり。(松本7273頁)

 

しかし,こう言われてしまうと困りますね。

平成26年法律第90号附則25条は,「政府は,この法律の施行後2年を経過した場合において,社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し,企業統治に係る制度の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて,社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。」と規定しています。会社法の改正は,まだまだ続くようです。

 

弁護士 齊藤雅俊

大志わかば法律事務所

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