(前編からの続き)

 

5 子会社等及び親会社等の定義の効用

 新たに設けられた子会社等及び親会社等の定義が働く場面としては,社外取締役及び社外監査役の要件に係る規定(改正会社法215号・16号)並びに支配株主の異動を伴う募集株式の割当て等についての特則が適用される場合等(同法206条の2244条の2)に係る規定が挙げられています(坂本9798頁)。

 

(1)社外取締役の要件

 改正会社法2条15号においては,社外取締役の定義が従来のものから改められています。

そこにおける子会社等及び親会社等の定義に関係する改正部分として,次のような社外取締役の要件が加えられています。

改正会社法2条15号ハでは「当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと」(親会社等の関係者は社外取締役となることができないこととする。),

同号ニでは「当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと」(いわゆる兄弟会社の業務執行取締役等は社外取締役となることができないこととする。)

及び同号ホでは「当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は2親等内の親族でないこと」(株式会社の取締役等の近親者は社外取締役になることができないこととする。)

が要件として加えられています。

 改正会社法2条15号ニの括弧書きで除かれている「当該株式会社及びその子会社の業務執行取締役等でないこと」は,既に現在の社外取締役の要件としてあるところです(会社法215号,改正会社法215号イ)。「業務執行取締役等」にいう「等」は,「執行役又は支配人その他の使用人」です(改正会社法215号イ)。

 改正会社法2条15号ホの重要な使用人については,会社法362条4項3号(重要な使用人の選解任は取締役会の決定によるものとする。)を参照(ただし,同号の「重要な使用人」よりも限定して解釈する余地があるともされている(坂本109頁(注2))。)。

 会社法における社外取締役制度については,従来,「その制度の趣旨が問題である。その要件は,独立性ではなく,社外性(あるいは非従属性)が問題にされているようであるが,親会社の取締役等ないし過去にそうであった者でも社外取締役だとすれば,この取締役に求める機能が問われる」というような批判(稲葉131頁)があったところですが,「社外取締役には,業務執行者から独立した立場で,業務執行全般を評価し,これに基づき,取締役会における業務執行者の選定または解職の決定に関して議決権を行使すること等を通じて,業務執行者に対する監督を実効的に行うこと等を期待することができる」(坂本18頁)という独立性重視の認識(また,江頭496頁注(1))に基づき,手当てがされたものでしょう。

 社外取締役の機能を活用するとコーポレート・ガバナンスの強化が図られ(坂本3頁参照),「十分なコーポレート・ガバナンスが行なわれ」れば,「外国企業と比較して日本企業の収益力が低く,株価も低迷している原因」が取り除かれることになるようです(坂本2頁参照)。ただし,社外取締役は,定義上,業務執行はしません。

なお,過去に親会社の取締役等であったものについては,「過去に親会社等の関係者であったにすぎない者は,もはや親会社等に対して義務を負うわけではなく,当該者と親会社等との間の現在の利害関係は失われていることから,株式会社の業務執行者が当該株式会社の利益を犠牲にしてその親会社等の利益を図ることについての実効的な監督を期待することはできないとまではいえない」とされ,改正会社法においてもなお社外取締役になり得るものとされています(坂本104105頁)。

 

(2)社外監査役の要件

 改正会社法2条16号ハは「当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役,監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと」を,同号ニは「当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと」を,及び同号ホは「当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は2親等内の親族でないこと」を社外監査役の要件に加えています。

 従来の社外監査役の要件についても批判があって,「親会社の取締役は排除されない。集団経営(その典型は持株会社)の下では,親会社の指示で業務執行が行われていることが多い。親会社取締役やその経験者に社外監査役としての地位を認めることが,その制度設計の趣旨にかなうかどうかは,問題である。」といわれていたところ(稲葉132頁),改正会社法2条16号ハは親会社の取締役等を社外監査役から排除するものとしています。なお,「親会社関係者でも,その業務執行担当者でなければ(たとえば監査役),〔社外監査役とすることに〕問題はない」とはされていましたが(稲葉132頁),平成26年法律第90号は更に進んで,改正会社法2条16号ハにおいて例えば親会社等の監査役を社外監査役として迎えることを否定しています。その理由は,「当該株式会社とその親会社との間で利益が対立する行為につき,当該株式会社の業務執行者の善管注意義務違反の有無を監査する場面においては,当該株式会社の社外監査役には,その親会社から独立した立場で監査することが求められることから,当該株式会社およびその親会社のいずれに対しても善管注意義務を負う立場で監査を行うことは相当でありません。」と説明されています(坂本110頁(注2))。

 

(3)支配株主の異動を伴う募集株式の割当て等についての特則が適用される要件

 改正会社法206条の2(公開会社における募集株式の割当て等の特則)は,「支配株主の異動は,公開会社の経営の在り方に重大な影響を及ぼすことがあり得ますから,新たな支配株主が現れることとなるような募集株式の割当てについては,株主に対する情報開示を充実させるとともに,株主の意思を問うための手続を設けることが相当であると考えられ」て設けられたものです(坂本128頁)。

 公開会社(会社法25号。この定義規定も分かりにくいですね。)が問題になるのは,公開会社では取締役会決議で募集株式につき募集事項を決定することができ(同法2011項),募集株式の割当ても取締役(会)が決定することができ(同法2041項。同条2項参照),株主総会の関与を要しないものとされているからです。経営陣が勝手に支配株主を異動させ得るわけです。

 従来から,「支配株主を出現させるような新株発行を安易に許すことは,すべての既存の株主に重大な影響を及ぼすものとして問題があることは明らかだし,経営者が従来の株主のコントロールから脱却するためにこれを利用する危険は否定できない。その割当先の相当性の判断にも問題が起こり得る」ことから(稲葉360頁),「公開会社にあっても新たに支配株主が出現するような場合には,原則として総会の承認を要求すること,総会決議に基づかない募集の場合には,その説明を募集に当たっての開示事項(203③以下)にすること等について手当てすべきである(その説明は,総会でされるときは,賛否の議決権行使の判断資料になり,開示事項は,差止請求の要否・可否についての判断材料になる)。」と提案されていました(稲葉361頁)。

 

そこで,改正法では,第206条の2を新設し,募集株式の割当てまたは総数引受契約の締結により募集株式の引受人となった者(第206条)が,当該募集株式の発行等の結果として公開会社の総株主の議決権の過半数を有することとなる場合には,①株主に対して当該引受人(特定引受人)に関する情報を開示することとし,また,②総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主から反対の通知があった場合には,特定引受人に対する募集株式の割当て等について,株主総会の決議による承認を要することとしています。(坂本128頁)

 

 改正会社法206条の2第1項ただし書は,特定引受人が当該公開会社の親会社等であるときには同条の特則の適用を要しないものとしています。既に親会社等として当該公開会社を支配しているので,「募集株主の発行等によって支配株主の異動が生ずるわけではない」からです(坂本131頁)。

 特定引受人性の有無の決定に当たっては,当該引受人及びその子会社等がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数が基準とされます(改正会社法206条の211号)。「引受人による公開会社に対する支配の有無は,当該引受人が自ら直接に保有する議決権数のみならず,その子会社等を通じて間接的に保有する議決権数も合算して考慮することが相当と考えられる」からです(坂本130頁)。総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主(株主は複数も可(坂本134頁(注1)))が特定引受人による募集株主の引受けに反対するときは,当該特定引受人の子会社等による引受けにも反対がされたことになります(同条4項)。

 

(4)公開会社における募集新株予約権の割当て等の特則

 改正会社法は,「募集新株予約権を発行する場合の割当て等についても,〔同法206条の2と〕同様の規律を設けることとしています(第244条の2。・・・)」(坂本129頁(注2))。「募集株式の割当て等に関する第206条の2の規律・・・が容易に潜脱されることを防止するため」の規律です(坂本135頁)。

 改正会社法244条の2における親会社等及び子会社等概念の働きは,同法206条の2におけるものとパラレルです。

 なお,改正会社法244条の2は同法206条の2とパラレルに規定されているわけですが,募集新株予約権に係る同法244条の2第5項ただし書(「ただし,当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるときは,この限りでない。〔すなわち,総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が反対通知を行ったとしても,株主総会の決議による承認を要しない。〕」)の意味するところは,募集株式に係る同法206条の2第4項ただし書(同じ文言)と完全にパラレルではないようです(前者の働く場面は,後者に比べて狭い。)。

 公開会社の存立を維持するための資金調達として募集株式の発行等がされるということは理解できますが,新株予約権の発行自体についてはそうはいかないからです。「固有の新株予約権は,企業の資金調達の手段として機能するものとはいいにくい」ものであって,すなわち,「新株予約権の行使は,専ら権利者の選択に委ねられているから,会社の資金需要には対応しない」ものであり,「むしろ,独立の新株予約権は,株主構成の変動に関連して,ガバナンス絡みで利用されるもの」だからです(稲葉364頁)。改正会社法244条の2第5項ただし書が機能する場面は,主に新株予約権付社債(より精確には新株予約権付社債に付された募集新株予約権)についてのみ考えられることになりそうです(稲葉365頁参照)。「専ら資金調達を目的とする新株予約権すなわちその発行による対価が資金調達の意味をもつほどの額になるものは,オプションとしての価値に着目するものではなく,株式の価値を先取りするものでしかあり得ない」ので,「そのような資金調達は,新株予約権発行によるのではなく,新株発行によるべきもの」と説かれています(稲葉365頁)。

 

弁護士 齊藤雅俊

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