1 1999年の児ポ法制定時にさかのぼる

 我が児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。「児ポ法」)が,その第2条3項3号においていわゆる三号ポルノを「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義して,当該三号ポルノをも児童ポルノとして規制するに至った理由については,やはり,1999年の第145回国会における児ポ法法案の審議模様にまでさかのぼって調べる必要があるように思いました。以下は当該審議模様に係る議事録を調べた結果のあらましです。無論,先行研究もあるのですが,やはり自分で原典に当たらないままでは,たとい詰まらないことであっても,もっともらしい顔をして語ってはいけないものでしょう。また,これは人によるのでしょうが,抽象化された命題を抽象的に取り扱うよりも,その根の部分における,必ずしもきれいに割り切れてはいない人間的なやり取りを再確認する方が,法学方法論としても興味深く感じられるところです。

(なお,以下の議事録の略称は,参8・○は第145回国会参議院法務委員会会議録第8号(1999427日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,衆10・○は同国会衆議院法務委員会議録第10号(同年511日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,衆11・○は同会議録第11号(同月12日の同委員会の議事を記録)○頁の意味,及び衆12・○は同会議録第12号(同月14日の同委員会の議事を記録)○頁の意味です。)

 児ポ法成立当初の同法2条3項3号は,次のとおり。

 

 3 この法律において「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

   〔第1号及び第2号省略〕

  三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 

 児ポ法は,議員立法でした。(ちなみに,議事録の登場人物には弁護士議員が多かったです。)

 1999年4月27日の参議院法務委員会において,児ポ法法案の発議者の一人である林芳正参議院議員(法務委員ではない。)が同法案の趣旨説明を行いましたが,その中には次のような部分があります。

 

 平成6年に批准されました児童の権利に関する条約では,児童はあらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から保護されることが定められております。(参81。衆101の清水嘉与子参議院議員説明。また,参88の林議員,参82の円より子委員答弁)

 

 ・・・児童の性的な姿態を描写した写真等であって諸外国において児童ポルノとして取り締まられているものすべてが刑法上のわいせつ図画に該当するものではないのが現状であります。(参81。衆101の清水(嘉)参議院議員説明)

 

 児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号)の第34条の英文は,次のとおりです。

 

  Article 34

States Parties undertake to protect the child from all forms of sexual exploitation and sexual abuse. For these purposes, States Parties shall in particular take all appropriate national, bilateral and multilateral measures to prevent:

  (a) The inducement or coercion of a child to engage in any unlawful sexual activity;

  (b) The exploitative use of children in prostitution or other unlawful sexual practices;

  (c) The exploitative use of children in pornographic performances and materials.

 

  児童の権利に関する条約34(c)は「わいせつな演技及び物」と訳されていますが,ここの「わいせつ」は,実は“pornographic”でしたね。(また,exploitativeという修飾語がついています。)

「わいせつ図画の規制は,性的な秩序,道徳,風俗の維持をその目的としておりまして,児童の権利の擁護に資することを目的とするものではありませんので,わいせつ図画に当たらない児童ポルノもあると考えられます。そこで処罰の対象となる範囲も異なります。」(参82円委員答弁。また,参86の大森礼子議員(法務委員でない。)答弁,衆1227林(芳)参議院議員答弁)ということですから,児童ポルノの方がわいせつ図画よりも範囲が広いようです。かつ,「処罰対象となる行為をより具体的に表現すべく,淫行,わいせつ概念を使用せず,最大限の努力をいたしました。」とされています(参82円委員答弁)。

 

2 「児童を性欲の対象としてとらえる風潮」の矯正

 しかし,児童ポルノに係る行為を処罰の対象とする理由は,必ずしも専ら児童の権利の擁護ばかりではないようです。悪しき風潮の矯正も意図されているようです。

 

 ・・・性交または性交類似行為に係る児童の姿態等を描写したもの,これが児童ポルノでございますが,その児童ポルノを製造,頒布する行為は,その児童ポルノに描写された児童の心身に長期にわたって有害な影響を与え続けます。また,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にこれもまた重要な影響を与えるものと思われます。(参83円委員答弁。また,衆127-8,衆1211,衆1213,衆1216同議員答弁,参85,衆1227林議員答弁,参86,衆125の大森議員答弁)

 

 ただし,刑罰法規の部分については,1999年5月12日の衆議院法務委員会において,「こういう理解でよろしいでしょうか。つまり,刑罰法規の部分については,まさに内心の問題ではなくて,実際の侵害の行動を処罰するものだ。これは間違いない。ただ,そういったことの結果として,刑罰法規とは違った意味の部分のところで,そうした風潮を抑止するという効果もある。それも目的に入っている。ただ,あくまでも刑罰法規は行動についてのものである,こういう理解でよろしいですね。」との「理解」が枝野幸男委員から提示され,これについて発議者(円参議院議員)が「はい,枝野先生の御指摘のとおりでございます。」と答弁しています(衆112)。

いずれにせよ,18歳未満の者に対する性欲自体を望ましからぬものとして法は評価しているということになるようです。

この点に関しては,衆議院の日野市朗法務委員が,同月14日,いわゆる援助交際の児童買春性に関してですが,次のような感想を述べています。

 

  よくわからないのですが,そうすると,性行為そのもの,これは悪なんですかな。いや,金を払えば悪になる,こういうわけでしょう。ただし,児童全体が,18歳以下であれば,当然それは被害者であるという前提に立っているわけですね,この法律は。(衆1218

 

 これに対して,発議者は,児童の未熟性に対するpaternalismないしはmaternalismというより高次の理念に立っていたようでした。また,男性優位的な発想での性欲の誇示は無用のものとされています。

 

  援助交際についてはさまざまな意見があることは承知しております。ただ,いわゆる援助交際について悪とか善とかの発想に立っているわけではなくて,性的な虐待や性的搾取が子供たちの人権侵害になるということを,その子供たち自身も今の世の中でわかっていない部分もあると思います。

  ・・・本当に日本のカップルは性的な話し合いもできなければ,豊かな性的関係を持てない方々が多くて,その中から,自分よりも劣った,おとなしい,何も自己主張をしない子供たちをお金で買うというようなケースが多々ございました。そうした,今回の児童に対する性的搾取や性的虐待,それを対償をもってするという中には,どうも性差別的な発想や,また人種差別的な発想,そして性欲を誇示することが男らしいというような社会通念等まであるような感じもいたします。

  ・・・子供たちの人権というものを考えるときに,性的な人権,自己主張,そういったものがしっかりできるようになるには,ただ体の肉体的な発達があってもできない子供たちも大変多いところから,今回の法案はそうした大人の側こそ範を示すべきであるということもありまして,18歳未満の子供たちに対してはこういった法案をつくったわけでございまして,いわゆる援助交際もその中に,法に関する限りは入るものと考えております。(衆1218の円参議院議員答弁)

 

3 三号ポルノと発議者・大森参議院議員の答弁

 

(1)三号ポルノの概要

 三号ポルノについては,大森参議院議員が発議者として答弁しています。

 

  3号に当たります児童ポルノ,いわゆる三号ポルノという言い方をしますが,これは「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した」「写真,ビデオテープその他の物」をいいます。

  具体的な例としましては,全裸または半裸の児童に扇情的なポーズをとらせた姿態を描写した写真等が考えられ,これが性欲を興奮させまたは刺激する姿態であることが視覚により認識することができるものであれば,児童の性器等が描写されておらず,またはその部分にぼかしが施されているものであったとしてもこの児童ポルノに当たることになります。(参84

 

(2)児童の実在性要件と合成写真問題

なお,児童ポルノであるためには,そこにおける児童は実在しているものでなければならないという要件が更にあって,これについていろいろ議論がありました。顔と身体とが別の児童の合成写真はどうなるのだ,というようなことが質疑者と大森参議院議員との間で問題とされたものです。

合成写真問題に関する松尾邦弘政府委員(法務省刑事局長)の岡目八目的な認識は次のとおり。

 

 ・・・発議者の方〔大森参議院議員〕は,顔はある有名な少女にいたしましょうか,その写真である,下がその少女のものとは違う写真がつけられている,あるいはこれに,写真に非常に酷似した,写真と見まがうような模写でもいいかと思いますが,そういったものであれば,体の方もやはりその児童の姿態というふうに大部分が見られるならば,発議者の方もこれは〔顔写真が使われた実在の児童に係る児童ポルノに〕当たると言っているわけでございます。

 ですから,顔がありまして,下が全く児童の姿態と見られないような,そういうものがくっついているような場合にはそれは難しいかと思いますが,全体として発議者のおっしゃっているのは,下半身についても児童の姿態というふうに見られるのであれば,それは〔下半身の写真が使われた児童に係る児童ポルノに〕当たり得るというふうに先ほどお答えになったように思いますので,木島〔日出夫〕先生のお尋ねと,結論の部分においては,余り差がないものというふうに私は理解しています。(衆1229

 

(3)「衣服の全部又は一部を着けない」要件

衣服の全部又は一部を着けない」というのは,状態をいうものであって行為をいうものではないとされています(衆115の大森参議院議員答弁)。また,前記の大森参議院議員答弁にいう「全裸または半裸」については,「この用語につきましては,今枝野先生がおっしゃったように,いわゆる風営法の第2条第6項第3号「衣服を脱いだ人の姿態」という言葉について,警察庁の解釈基準で「全裸又は半裸等社会通念上」「人が着用しているべき衣服を脱いだ人の姿態をいう。」とされていることもありまして,これを念頭に置いて答弁したものでございます。」と説明されています(衆116の大森参議院議員答弁)。

 

(4)要件としての「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の広汎性

二号及び三号ポルノの「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との規定と刑法のわいせつ物頒布罪等におけるわいせつ概念との関係について,大森議員は端的かつ断乎たる答弁をしています。刑法のわいせつ概念における余計な限定は取り払われています。

 

  いわゆる二号ポルノ,三号ポルノには「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という文言がございます。この文言と刑法上のわいせつとはどう異なるかという御質問ですが,刑法175条のわいせつ物頒布等の罪に書かれてありますわいせつの意義につきましては,最高裁の判例がございまして,いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するものをいうとする判断が出ております。

  これに対しまして,この法案におきましては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされていることから,児童ポルノについては刑法のわいせつに該当しないものも含み得ることになります。もう少し詳しく言いますと,最高裁の判例,昭和26年5月10日,「いたずらに」それから「普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」,これをこちらの法案では要求しておりません。

  これにつきましては,児童ポルノの性質上,まず「いたずらに」については,これは過度にという意味ですけれども,これを要しないとしております。それから,「普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反するもの」であるかどうかについて論ずるまでもなく規制すべきである,こういう趣旨であります。(参85。また,衆129

 

「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」であって少しでも性欲を刺激するものでさえあれば,たとい普通人の正常な性的羞恥心を害さず,かつ,善良な性的道義観念に反するものでなくとも,三号ポルノとして取り締まられるのだということのようです。ただし,ここで興奮させられ又は刺激される性欲は誰のものかといえば,「通常,構成要件に規定してありますことは,一般通常人というものを基準としております。」とされてはいるところです(衆116の大森参議院議員答弁)。

 

(5)具体的事例への当てはめ

 

ア 確答回避と捜査機関等への信頼

と一応の説明はされたとはいえ,具体的事例に係る判断に当たっては,発議者の一員たる大森議員もなかなか慎重で,警察及び検察,最終的には裁判所に下駄を預けたような答弁がされています。

 

 まず,一般論としてでありますが,あるものが児童ポルノに当たるか否か,これは個別具体的な事例ごとにこの法案の要件に該当するか否かを総合的に判断することになりますので,こういう一般的な事例について確定的に答えることは困難でありますし,するべきことでもないだろうと思っております。

 今,中村〔敦夫〕委員から御指摘がありました,川辺などで児童が裸で楽しそうに遊んでいる,この場面を聞いたときに,お互い頭の中で想像している場面というのが違うかもしれません。例えば,川辺で2歳か3歳ぐらいの男の子が裸で遊んでいるそばでお母さんが楽しそうに見守っているとか,こういういわゆる和やかな川遊びの場面もあると思いますし,あるいは川辺で,児童といいましても18歳未満を児童といいますから,では17歳の女性だったらどうかとか,こういう問題が起きます。

 それで,どのように判断するかということにつきましてはいわゆる構成要件の問題になるわけですけれども,児童の姿態がどのようなものであるかによって判断されることになります。今おっしゃったのは,少なくとも一号ポルノ以外の事例だと思いますので,その場合には,一般人から見まして「性欲を興奮させ又は刺激する」と言えるかどうかという,この基準によって判断するとしかちょっとお答えのしようがございません。(参89

 

 今,中村委員がおっしゃったことは,確かに芸術的表現の自由との関係の問題だと思います。

 それから,構図等も大事である,こういうお話がございましたけれども,これは2号,3号につきましては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とありますので,確かに構図とか場面とか周囲の状況とか姿態とか,こういうことを総合的に判断して,この要件に該当するかどうかということを判断することになると思います。

 ・・・やはり犯罪ありと思料して捜査する場合には,その構成要件該当性については私どもは警察とか検察庁が十分吟味して慎重に取り扱うものと思っておりまして,本来ポルノに当たらないものを警察及び検察が当たると判断するということは考えていないところでございますが,そこのところで争いがあった場合,最終的にだれがその犯罪構成要件に当たるかどうかを決めるのかというと,最終的判断は裁判所という言い方になると思います。(参89

 

イ としまえん水着の安全性

それでも,水着については,「いわゆる通常の,普通の,としまえんのプールあたりでみんなが着ているような水着」の姿態が児童ポルノには「一般的には当たらない」かどうかが衆議院法務委員会の枝野委員によってなおも追及されています。わざわざ「としまえんのプールあたり」との限定が付いていますから,刺激的ではない,むしろ野暮ったい水着なのでしょう。さすがにこれに対しては,大森参議院議員も次のように答弁せざるを得ませんでした。

 

としまえんのプールの水着ですか。(枝野委員「などで着ているような」と呼ぶ)〔児童ポルノに〕ならないと思います。(衆115

 

ウ 下着,入浴,3歳児

しかし,下着姿や入浴の場面となると難しくなります。

大森参議院議員は,下着姿については「あくまで個別具体的な事例に基づきまして,この法案の要件に該当するか否か総合的に判断されるべきもの」として確答を避けています(衆115)。

入浴の場面については,「子供がおふろに入っている姿を見て通常,一般人は性欲を興奮させ,刺激するというところまで至らないと思いますので,そういうところから〔児童ポルノに〕当たらない場合が多いのではないかというふうにお答えできると思います。」と答弁しています(衆115)。

とはいえ,その少し後に大森参議院議員は,次のように付け足します。

 

 ただ,低年齢,3歳とかとおっしゃったのでしょうか,その裸であれば絶対該当しないかということは必ずしも言えません。性的に未熟な女の子,女児の陰部等を描写したものと認める写真についても刑法上のわいせつ図画に当たるとした判例がございます。

 そういったことから,常に否定されるわけではないと考えます・・・(衆116

 

一般通常人の性欲といえども,なかなか油断はできないようです。(児童ポルノの場合は,わいせつ物の場合とは異なって,性欲の興奮又は刺激が過度にまで及ぶ必要はありません。)

 

エ 男子児童ポルノ

この一般通常人には当然女性も含まれるので,女性の性欲を興奮させ又は刺激する男子児童の児童ポルノの存在も,大森参議院議員は否定しません。

 

・・・ジャニーズJrのようなアイドルの男の子の姿態についてはどうかということですが,これも,同じ答弁になりますが,その姿態が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であるかどうかというこの判断基準によることになります。ある程度セクシーとかそれを売り物にする場合もあるかもしれませんし,それによってファンの子が多少性的興奮といいますか,することは否定できないかもしれません。(衆115

 

オ 「芸術性」との関係

芸術作品については,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であっても芸術作品であれば児童ポルノには当たらないという考え方は採用されず,飽くまでも児ポ法2条3項の要件(「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否か)に該当するか否か一本で決すべきものという考え方が示されています(衆115,衆1111-12,衆1210,衆1222の大森参議院議員答弁)。

 

4 余話

 

 当ブログの悪癖ですが,話が飛びます。

 

(1)2014年の日弁連公告

 日本弁護士連合会の『自由と正義』2014年3月号に,岡山弁護士会が同弁護士会の○弁護士にした懲戒処分について,次のような公告が出ていました(122頁)。

 

1処分を受けた弁護士

   〔略〕

2 処分の内容 戒 告

3 処分の理由の要旨

   被懲戒者〔○弁護士〕は,Aから破産手続開始申立事件を受任し,2006年7月6日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。また,被懲戒者は,Bから破産手続開始申立事件を受任し,同月25日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。さらに,被懲戒者は,Cから破産手続開始申立事件を受任し,2007年5月1日頃,懲戒請求者に対して受任通知を発送した。

   被懲戒者は,上記各事件の処理を事務員に担当させ,201211月に上記事務員の任務懈怠が判明するまでその処理状況の確認を怠った。その結果,被懲戒者は,Cの事件につき2013年2月13日まで破産手続開始申立てを行わず,Bの事件につき同月27日まで破産手続開始申立てを行わず,Aの事件についてはAとの連絡が困難となって,同年3月8日に辞任した。

   被懲戒者の上記行為は,弁護士職務基本規程第19条及び第35条に違反し,弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

4 処分が効力を生じた年月日

    20131224

 

 2006年7月ころ及び2007年5月ころ受任した破産手続開始申立事件計3件について,○弁護士は債権者に受任通知を出しっぱなしにして後は事務員任せにし,事務員は事務員で横着をして事件を放置し,201211月に発覚(恐らく「懲戒請求者」の債権者が業を煮やしたのでしょうか。)するまで約6年4月ないしは5年6月の長期間,事件処理を怠っていたという気の長い話でした。

 この弁護士の○先生は,いろいろお疲れだったのでしょう。

 なお,弁護士職務基本規程19条及び35条は,次のとおり。

 

   (事務職員等の指導監督)

 第19条 弁護士は,事務職員,司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が,その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に及び,又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし,若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければならない。

 

   (事件の処理)

 第35条 弁護士は,事件を受任したときは,速やかに着手し,遅滞なく処理しなければならない。

 

(2)クレサラ問題における弁護士等の受任通知書の効能:取立て停止

ところで,弁護士のする受任通知の効果としては,貸金業法21条1項に次のような規定があります。

 

   (取立て行為の規制)

 第21条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は,貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて,人を威迫し,又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。

     〔第1号から第8号まで略〕

  九 債務者等〔債務者又は保証人〕が,貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し,・・・弁護士等・・・から書面によりその旨の通知があつた場合において,正当な理由がないのに,債務者等に対し,電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は訪問する方法により,当該債務を弁済することを要求し,これに対し債務者等から直接要求しないように求められたにもかかわらず,更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。

  十 債務者等に対し,前各号(第6号を除く。)のいずれかに掲げる言動をすることを告げること。

 

同法47条の3第1項3号により,同法21条1項の規定に違反した者は,2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され,又はこれを併科されるものとされています。

債務者が弁護士等に債務処理を委託して,当該弁護士等が貸金業を営む者に受任通知書を送付すると,通知を受けた業者からの取立てが止まるわけです。いわゆるクレサラ問題における弁護士等の効能の大きな一つがここにあります。

 

 

弁護士 齊藤雅俊

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