1 はじめに 

 20221222日の前稿「民法405条に関して」の最後(「(結)起草者意思等並びに連続複利法及び自然対数の底」http://donttreadonme.blog.jp/archives/1080258087.html)において,「民法405条と利息制限法1条との関係,具体的には最判昭和45421日の研究が残っています。「最高裁は,年数回利息の元本組入れの約定がある場合につき,組入れ利息とこれに対する利息との合計額が本来の元本に対して〔利息制限〕法の制限利率を超えない範囲においてのみ有効とした(最判昭和45421日民集298頁(年6回組入れをする))。(星野英一『民法概論Ⅲ(債権総論)』(良書普及会・1978年(1981年補訂))19-20頁)」と簡単に紹介されるだけでは済まない難しい問題が,筆者にとって,当該判決及びその対象となった事案にはあったのでした。」などと思わせぶりなことを書いてしまいました。本稿は,当該宿題に対する越年回答であります。

実は,前稿において筆者は当初――その性格にふさわしく――穏健に,判例理論をその妥当性と共にさらりと紹介し,もって行儀よく記事を終わらせるつもりだったのですが,頼りの御本尊である最高裁判所第三小法廷(関根小郷裁判長)は,昭和45421日判決(民集244298頁)において当時の流行学説の口ぶりを安易に採用してしまったもののようでもあって,当該判決において提示されたものと思われる理論を直ちに実地に応用展開しようとすると,少なくとも筆者にとっては,いろいろと心穏やかならぬ問題が生起してしまうのでした。

あらかじめ,最判昭和45421日の関係部分を掲記しておきましょう。

 

   上告代理人谷村唯一郎,同塚本重頼,同吉永多賀誠,同菅沼隆志の上告理由第1点について。

消費貸借契約の当事者間で,利息について定められた弁済期にその支払がない場合に延滞利息を当然に元本に組み入れ,これに利息を生じさせる約定(いわゆる重利の予約)は,有効であつて,その弁済期として1年未満の期限が定められ,年数回の組入れがなされる場合にもそのこと自体によりその効力を否定しうべき根拠はない。しかし,その利率は,一般に利息制限法所定の制限をこえることをえないとともに,いわゆる法定重利につき民法405条が1年分の利息の延滞と催告をもつて利息組入れの要件としていることと,利息制限法が年利率をもつて貸主の取得しうべき利息の最高額を制限していることにかんがみれば,金銭消費貸借において,年数回にわたる組入れをなすべき重利の予約がなされた場合においては,毎期における組入れ利息とこれに対する利息との合算額が本来の元本額に対する関係において,1年につき同法所定の制限利率をもつて計算した額の範囲内にあるときにかぎり,その効力を認めることができ,その合算額が右の限度をこえるときは,そのこえる部分については効力を有しないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみると,原審の確定するところによれば,被上告人〔債務者〕は,上告人〔債権者〕との間で,昭和31年〔1956年〕81日付契約書により譲渡担保の被担保債権合計2140万円(原判示元本1200万円,700万円,240万円の各債権〔利息制限法(昭和29年法律第100号)上の上限利率はいずれも年15パーセント(同法13号)〕)の元利金の支払のため,上告人を受取人とする約束手形を振り出し,2箇月ごとの手形の満期日に利息を支払つて手形を切り替えて行くことにしたが,その後,右利息の支払期(手形の満期日)にその支払がないときは,当然に延滞利息を元本に組み入れる旨の契約(重利の予約)が成立するとともに,後には,その被担保債権に原判示の元本25万円および50万円の各債権〔利息制限法上の上限利率はいずれも年18パーセント(同法12号)〕が加えられ,右同様の約定がなされたものであるところ,右被担保債権のうち,論旨指摘の4口の債権(前記債権のうち240万円の債権を除くもの〔当該240万円の口の債権に係る約定利率は当初から日歩10銭,すなわち365日当たり36.5パーセント(民集244338頁)〕)の利率は,昭和32年〔1957年〕920日までは日歩3365日当たり10.95パーセント〕ないし4365日当たり14.6パーセント〕の約定であつたが,同日,翌21日以降は日歩5365日当たり18.25パーセント〕に,また,同年1120日には,同月30日以降は日歩8365日当たり29.2パーセント〕に順次改定された,というのである。してみれば,右利息の約定は,各債権につき利息制限法による制限利率をこえる限度では無効であるから,昭和32920日にその利率が日歩5銭(年利182厘強)に改定されて後は,上告人は右制限利率の範囲内においてのみ利息の支払を求めうるのであるが,そればかりでなく,右利率改定の結果,重利の約定に従つて2箇月ごとの利息の組入れをするときは,ただちに,その組入れ利息とこれに対する利息の合算額が組入れ前の元本額に対する関係において,1年につき同法所定の制限利率をこえる状態に達したことになり,上告人は,右改定後は延滞利息を重利の約定に従つて元本に組み入れる余地を失つたものというべきである。それゆえ,これと同旨に出て,同32921日以降利息の元本組入れの効果を認めなかつた原判決には,なんら所論の違法はない。

 

 「日歩(ひぶ)」は,「元金100円に対する1日分の利息で表した利率」です(『岩波国語辞典 第4版』(岩波書店・1986年))。

 なお,「〔上告〕論旨指摘の4口の債権(前記債権のうち240万円の債権を除くもの)」ということですから,240万円の債権に係る原審判決(東京高等裁判所第10民事部昭和431217日判決)における処理については上告がされていないものと解されたわけです(したがって,当該債権に係る利率も最高裁判所によっては言及されていませんでした。)。確かに,上告理由第1点においては,原判決中から「昭和33531日迄になされた前記重利の約束による利息の元本組入れは右改訂時(昭和32921日)から1年を経ていないから利息制限法の関係で,これについて効力を認める余地がないものとするのが相当である」と判示する部分が取り上げられ(民集244311頁),「しかし,特約による利息の元本組入れについては1年を経過するを要せず,これより短期に利息を元本に組入れることを約するのは契約自由の原則により有効であることは大正688日第3民事部が同年(オ)第510号貸金請求事件につき判示したところである。(大審院民事判決録第231289頁同抄録16684頁)〔略〕然るに原審判決が1年を経過しなければ利息を元本に組入れることを得ない〔略〕として上告人の請求を斥けたのは法令の解釈適用を誤つた違法がある。」と論じられていますから(民集244312頁。ちなみに,当時は法令違背も上告理由でした(旧民事訴訟法(明治23年法律第29号)394条)。),昭和32921日に利率の改訂がされなかった240万円の口(民集244338-340頁)は上告対象外であるわけです。

 

2 連続複利法の場合の収束値及び旧判例

 連続複利法がとられた場合であってもその結果は拡散せずに収束するので――すなわち,利率年100パーセントでもってあらゆる瞬間に連続的に利息が発生し,かつ,それが元本に組み入れられることとしても,t年後の元本額(利息は各瞬間に発生すると共に元本に組み入れられてしまうので,元本しか残りません。)はではなく,最初の元本額のe2.7183)のt乗(=e^t)倍にとどまり,利率が年Rパーセントであれば,e^rt倍にとどまるので(ただし,r=R/100――明治以来のかつての判例――これは,「右の内容〔「債務者が利息の弁済期に支払をしないとき,その延滞利息を当然に元本に組み入れてさらにこれに利息を付することをあらかじめ約する」〕の重利の予約について,「ソノ利率ニシテ(旧)利息制限法第2条ニ定ムル範囲内ニアルトキハ同法ニ抵触セズ又民法ニ於テ之ヲ禁ズル所ナキヲ以テ契約自由ノ原則ニ依リ有効ナルモノト謂ハザルヲ得ズ」(大判大688民録231289頁,同旨,大判明44510民録17275頁ほか多数)としてその有効性を認めてい」たもの,換言すれば,「組入れ利息とこれに対する利息の合計額が本来の元本に対する関係で利息制限法の制限利率をこえる結果となることを容認し,利率自体が制限の範囲であればよいとする」ものです(吉井直昭「25 年数回の組入れを約する重利の予約と利息制限法」最高裁判所判例解説民事篇(上)昭和45年度210-211頁。下線は筆者によるもの。この吉井解説が,最判昭和45421日のいわゆる調査官解説となります。)――は,実は筆者にとっては納得し得るものでした。利息制限法の規定の数字は単利によるものであっても,連続複利法による場合における数字との幅までをもそこにおいて許容しているものと吞み込んで割り切ってしまえば,確かにそれまでのことであるからです。

 ちなみに,旧利息制限法(明治10年太政官布告第66号)2条の規定は,制定当初は,「契約上ノ利息トハ人民相互ノ契約ヲ以テ定メ得ヘキ所ノ利息ニシテ元金100以下(ママ)1ヶ年ニ付100分ノ20二割100円以上1000以下(ママ)100分ノ15一割五分1000円以上100分ノ12一割二分以下トス若シ此限ヲ超過スル分ハ裁判上無効ノモノトシ各其制限ニマテ引直サシムヘシ」であり,同法を改正する大正8年法律第59(赤尾彦作衆議院議員提案の議員立法)の施行(旧法例(明治31年法律第10号)1条により191951日から)以後は,前段が「契約上ノ利息トハ人民相互ノ契約ヲ以テ定メ得ヘキ所ノ利息ニシテ元金100円未満ハ1ヶ年ニ付100分ノ15一割五分100円以上1000円未満ハ100分ノ12一割二分1000円以上100分ノ10一割以下トス」と改められています。現在の利息制限法(昭和29年法律第100号)は,旧利息制限法を1954年に「全面的に改正して,新法(法100号)を制定した。新法は,制限率を高め,旧法が制限を超える部分を「裁判上無効」と規定した文字を改め〔筆者註:昭和29年法律第1001条旧2項は「債務者は,前項の超過部分を任意に支払つたときは,同項の規定にかかわらず,その返還を請求することができない。」と規定していました。ただし,平成18年法律第115号によって,2010618日から削られています(同法5条及び附則14号並びに平成22年政令第128号)。,天引について新たに規定を設け,かつ遅延賠償金の予定の制限内容を明確にするなど,現時の情勢に適応するものとなった」ものです(我妻榮『新訂債権総論(民法講義)』(岩波書店・1964年(1972年補訂))49-50頁)。

 なお,現行利息制限法の規定の数字(法定重利規定の適用があった場合を含む。)と連続複利法による場合との間の幅を具体的に示すと次のとおりです。

 

   元本の額が10万円未満の場合の利息制限法上の上限利率は年20パーセントであって(同法11号),当該利率による1年後の元利合計高は当初元本の1.2倍となり(①),これに民法405(「利息の支払が1年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。」)によって1年ごとに利息の元本組入れをして重利計算をするとt年後には当初元本の1.2^t倍になりますが(②),連続複利法の場合,1年後の元本高が当初元本の約1.2214倍(1.2214e^0.2)となり(③),t年後には約1.2214^t倍となります()。

   元本の額が10万円以上100万円未満の場合(利息制限法12号)の数字は,それぞれ,①は1.18倍,②は1.18^t倍,③が約1.1972倍,④が約1.1972^t倍です。

   元本の額が100万円以上の場合(利息制限法13号)は,①は1.15倍,②は1.15^t倍,③が約1.1618倍,④が約1.1618^t倍です。

   ついでながら更に,旧利息制限法2条で出てきた利率年12パーセント及び同10パーセントについてそれぞれ見てみると,

   利率年12パーセントならば,①1.12倍,②1.12^t倍,③約1.1275倍,④約1.1275^t倍,

   利率年10パーセントならば,①1.1倍,②1.1^t倍,③約1.1052倍,④約1.1052^t倍となります。

 

20パーセントが22.14パーセントになり,18パーセントが19.72パーセントになり,15パーセントが16.18パーセントになり,12パーセントが12.75パーセントになり,そして10パーセントが10.52パーセントになるぐらいであれば呑んでもいいのかな,この程度であれば,「利息の組入れ時期を短かくし,年に数回もの組入れを約する場合」は「債権者はこのような特約をすることによって文字どおり巨利を博し,債務者には極めて酷な結果となる」こと(吉井211-212頁)が実現されるものとまでは――法定重利(これは,単利で規定する利息制限法も,民法405条の手前認めざるを得ません。)の場合と比較するならば――実はいえぬだろう,などと思ってしまうのは,弱い者を助けるという崇高かつ遼遠な目標の達成に挑む気概を忘れた,資本家の走狗🐕的な弱腰というものでしょうか。


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