前編(http://donttreadonme.blog.jp/archives/1076999632.html)の続き


5 暴対法31条及び31条の2の要件事実等

暴対法31条又は31条の2の規定に基づき指定暴力団の代表者等に損害賠償請求をしようという原告が主張立証すべき事項は,次のように説明されています。

 

(1)暴対法31

まず,暴対法31条の場合。

 

ア 総論

 

   原告が,指定暴力団相互間または一つの指定暴力団内部の集団相互間に内部抗争の対立が生じたということ,また当該対立に伴いまして指定暴力団員による凶器を使用した暴力行為が行われたということ,当該暴力行為によりまして人の生命,身体または財産が侵害されたという,この大きく3点を立証すれば,指定暴力団の代表者等が対立抗争等に伴う不法行為につきまして損害賠償責任を負うということになるわけであります。(近石政府参考人・第159回国会衆議院内閣委員会議録第64-5頁))

 

 注目すべき点は,指定暴力団員の暴力行為の不法行為性はそれとして要件として挙げられていないことです(暴対法31条の2の要件に関する後記国会答弁((2)ア)と要対照)。民法715条の場合には,被用者自身について一般不法行為の要件が充足されることが必要とされているところです(松並661頁等)。

なお,「対立」には,暴力団員相互間に既に暴力行為が発生していた場合のみならず,指定暴力団相互間(それぞれの傘下組織相互間を含む。)又は指定暴力団の傘下組織間に緊張関係が生じていた場合も含まれます(堀誠司(警察庁組織犯罪対策部企画分析課課長補佐)「「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律」について」警察学論集576号(20046月号)28頁・30頁)。
 また,次の国務大臣答弁にあるように,暴対法31条の代表者等の責任は無過失責任とされています。

 

   被害の回復の充実を図るためには,より高い資力を有すると見られる当該指定暴力団の代表者〔等〕のいわゆる損害賠償責任の追及を徹底する必要があることから,指定暴力団の代表者等が対立抗争等により伴う不法行為につき無過失損害賠償責任を負うこととするという規定を設けるものでございます。これによりまして対立抗争等による被害の回復の充実が図られますほかに,副次的には対立抗争の発生の抑止力にもつながるものと考えられます。(小野清子国務大臣(国家公安委員会委員長)・第159回国会参議院内閣委員会会議録第113-4頁。また,同国務大臣・同会議録23-24頁)

 

イ 凶器

ここでの「凶器」については,次のようにやや詳しい説明がされています。

 

  この凶器と申しますものは,けん銃とか日本刀とか典型的な暴力団が使う凶器のみではございませんで,バットとかそういうふうなのも用法上の凶器ということで,ほとんどの場合,素手で何か殴り合うというのを別にしまして,暴力団が不法行為を行う場合には何らかの物を持ってやるというのが大半でありましょうけれども,そういう面では素手を外したというだけの気持ちの条文というふうに理解していただいて結構だと思いますので,これであれば,これで一般の人が救えない状況が出るのかということになると,まず考えられないというところであります。(近石政府参考人・第159回国会参議院内閣委員会会議録第115頁)

 

   タオルとかその辺になるとどうなるか分かりませんけれども,いわゆる一般に考えられる人を傷付けるもの,物を壊すもの等は,大体用法上の凶器ないしは純粋の凶器ということで大丈夫かと存じます。(近石政府参考人・第159回国会参議院内閣委員会会議録第115頁)

 

ウ 「ヒットマン」が使われた場合

 指定暴力団員以外の者による暴力行為があった場合についても,あらかじめ説明されています。

 

対立抗争等における凶器を使用した暴力行為の実行行為者というのは,大抵の場合,ほとんどの場合,指定暴力団員であろうというふうに考えられますけれども,もしこのヒットマン,いわゆる実行行為者を,いわゆる指定暴力団員以外の者に依頼してやらせたということも考えられないわけではありません。そういう場合,直接の実行行為者が指定暴力団員でない場合でありましても,指定暴力団員が直接実効行為者,いわゆるヒットマンと共謀したり,その者を唆したりということで,何らか関与したという事実が認められれば,本制度の適用がなされることとなるというふうに考えております。(近石政府参考人・第159回国会衆議院内閣委員会議録第65頁)

 

 暴対法31条の「指定暴力団員による暴力行為」は,指定暴力団員が自ら直接手を下す暴力行為に限定されない,ということのようです。刑法学でいう自手犯のようなものではないということなのでしょう。

 暴対法31条の3において民法の適用があることが示されているところ,共同不法行為に係る民法719条との合わせ技が考えられているのでしょう。「指定暴力団員が実行行為者である場合のみならず,指定暴力団員が他の者と共同し,あるいは他の者を教唆し,ほう助するなど,実行行為との関係で共同不法行為を構成する場合をも含むものである。」とされています(堀・警論29頁)。しかし,民法716条(「注文者は,請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし,注文又は指図についてその注文者に過失があったときは,この限りでない。」)との関係も問題になりそうです(とはいえ同条については,ヒットマンの仕事に係る請負契約は公序良俗に反して民法90条によって無効であるから同法716条は問題にならない,と整理されたものでしょうか。)

 

エ 暴対法31条と指定暴力団ではない暴力団と(要注意)

 なお,暴対法31条は,指定暴力団ではない単なる暴力団の抗争には適用がありません。単なる暴力団であると,恒常性がなく,容易に「普通の不良とかいうのの集まり」に分解的に変性してしまうからであるということのようです。

 

非指定暴力団と指定暴力団の対立により生じた暴力行為につきましては,当該暴力行為が指定暴力団によるものであっても,また非指定暴力団によるものであっても改正法は適用されないということになっております。(近石政府参考人・第159回国会参議院内閣委員会会議録第114頁)

 

   それで,非指定暴力団がなぜこの救済措置の中に入ってこないかと申しますと,やはり非指定暴力団というのは一人一党というのもありますし,また雨後のタケノコのように出たり消えたりというか,そういうのも非常にあって,これが暴力団であるかないかというのは,我々としては,日常それを指定して,指定業務に非常に,指定といいますか,暴力団の認定,指定暴力団じゃなくて普通のそれ以外の暴力団の認定というものに努力してまいっておるところでありますが,非常に難しいということで,その過程で暴力団と,暴力団,指定暴力団はがっちり固定しておるんでありますけれども,それ以外の暴力団というのが,これは暴力団なのかそれとも普通の不良とかいうのの集まりなのか,非常に難しいところもありまして,なかなか指定暴力団同士というふうにしないと法の救済措置の網には難しいんではないかという事情もございました。(近石政府参考人・第159回国会参議院内閣委員会会議録第115頁)

 

(2)暴対法31条の2

 次に暴対法31条の2の場合。

 

ア 総論

 

   被害者が立証しなければならないことを〔略〕挙げますと,指定暴力団の暴力団員によってその不法行為が行われたということが一つ。それからまた,当該不法行為が威力利用資金獲得行為を行うにつき行われたもの,この資金獲得行為をすることに伴って行われたものであること。さらに,当該損害が不法行為により生じたものである,一般の方々(ママ)その不法行為によって損害が生じたものである。こういうことを被害者の方には立証していただく必要があると考えております。(泉国務大臣・第169回国会参議院内閣委員会会議録第88頁。また,宮本政府参考人・第169回国会衆議院内閣委員会議録第123頁)

 

イ 指定暴力団員であることの立証

ただ,当該不法行為を行った者が指定暴力団員であるかどうかはどうやって分かるのか,という問題があります。

 

   まず,指定暴力団員かどうかということでございますけれども,通常,先ほど申し上げましたように,恐喝事案でありますとか暴力的要求行為でありますとか,いわゆる暴力団がその威力を示して行う不当な行為でございますので,通常でありますと,当然被害者の方はこれが暴力団だからということで怖い。通常の場合は,大抵,組の名前を出して脅かしたりしますし,これが恐喝ということになれば当然警察として検挙いたしますので,そういう形で事案としては明らかになると。

   また,一般的にそういう被害を受けられた場合に,警察としては積極的に被害相談に応じておりまして,そうした民事的な被害を受けられた方,その民事回復のためのいろいろな相談,バックアップ,支援,こうしたことも行っております。こういったことを通じて積極的に被害者の方々を支援をしてまいりたいと,こういうふうに考えております。(宮本政府参考人・第169回国会参議院内閣委員会会議録第88頁)

 

   そこで,具体的には,暴力追放運動推進センターというものを持っておりますし,弁護士会などとの緊密な連携を図っていく。被害者に対しましては,加害者が指定暴力団員であることの情報提供をする,あるいは,新設された規定の活用などによって被害回復のための手法をお教えする,さらに,先ほど申し上げました推進センターによる訴訟費用の貸付制度の教示,それから弁護士の民事介入暴力対策委員会の紹介など,いわゆる訴訟に対しての全面的な積極的なバックアップをさせていただくことが必要だと思っておるわけであります。

   これらの事柄を通じて,嫌がらせや報復といった,一般の民間人の方がしり込みをすることのないように万全を尽くしてまいりたいと思っておるところでございます。(泉国務大臣・第169回国会衆議院内閣委員会議録第124頁)

 

ウ 免責規定

 暴対法31条の2には,そのただし書として免責規定があります。これは,「当該指定暴力団の代表者等が損害賠償責任を負うべき根拠が欠ける例外的な場合を規定している」ものであって,「指定暴力団の代表者等が損害賠償責任を負うべき根拠を裏面から明らかにする機能を有しており,こうした規定を置くことが法制上適当であると考えられた」ことから設けられたものです(工藤15頁)。「法制上適当」というのは,若手警察庁秀才官僚らが厳しくかつ悪魔的な「詰め」に苦悩苦悶苦闘する霞が関の深夜の法令審査の場辺りで,内閣法制局参事官殿辺りから御指示があったものと思われます。

 

この規定につきましては,そもそも末端の組員の行った不法行為をそれに対して関与していない組の代表者〔等〕に責任を負わせる,そういう規定を置くということでございますけれども,それはやはり代表者〔等〕の方がそもそも組員の資金獲得活動に関して威力を行うことを容認しているという実態があるとか,当然のことながら,そういった不法行為を行う予見可能性がある等々の理由から代表者〔等〕に責任を負わせるということでございますので,そういった理由が成立しない場合にはやはり負わせるのは無理であろうという前提に立ちます。

したがいまして,組長の,代表者〔等〕の方でそういうことを立証した場合には責任を負わないということで免責規定を設けたわけでございますけれども,現実問題といたしましては,この31条の2で規定しています1号,2号の場合,私ども日常の暴力団対策に取り組んでおりまして,いずれも実態としてほとんどあり得ないケースでありまして,これを立証するということは,事実上,極めて困難というふうに考えております。(宮本政府参考人・第169回国会衆議院内閣委員会議録第129頁)

 

今回の改正では,指定暴力団の代表者等,これが配下指定暴力団員による資金獲得のための威力利用を容認している,こうした威力利用に伴う他人の権利利益の侵害について予見可能性なり回避可能性を有するということ,威力利用資金獲得行為によって得られる利益を享受する立場にあること,これを根拠として,その権利利益の侵害により生じた損害について代表者等に損害賠償責任を負わせることといたしたものであります。(宮本政府参考人・第169回国会衆議院内閣委員会議録第1210頁)

 

 ここでの回避可能性は,「指定暴力団の代表者等の統制は末端の指定暴力団員にまで及んでおり,代表者等は〔威力利用資金獲得行為における威力利用による他人の〕権利利益の侵害を防止できる立場にあると認められる」ことからその存在が理由付けられています(工藤14頁)。

暴対法31条の21号の免責規定については,昭和63年香川判決等に見られる報償責任論及び藤武事件判決において組長による収益取り込み体制(「②上告人は,〔略〕組の1次組織の構成員から,また,〔略〕組の2次組織以下の組長は,それぞれその所属組員から,毎月上納金を受け取り,〔略〕資金獲得活動による収益が上告人に取り込まれる体制が採られていたこと」)の存在が前提として特に摘示されていたことに基づくものであろう,ということは御理解いただけますでしょう。そもそも,暴対法32条の2の代表者等の損害賠償責任の根拠として,「指定暴力団員による資金獲得行為は,当該指定暴力団の威力の維持拡大に資するとともに,指定暴力団の代表者等を頂点とする上納金システムを有効に機能させているという意味で,代表者等は,威力利用資金獲得行為による利益を享受している立場にあるといえる(利益の享受)」ことが挙げられていたところです(工藤14頁)。

 

   今回,末端の組員が行いました不法行為について,直接それに関与していない代表者〔等〕の責任を問う,こういう規定を置くことのできる根拠といたしましては,やはり,そういった末端の資金獲得活動の結果,代表者〔等〕としてそれなりの利益を得ている,これが一般である,こういう前提に立っております。

   したがいまして,そういうことから利益を受ける可能性の全くない場合にまでその責任を負わせることは難しかろうということでありますけれども,ただ,この規定の仕方は,例えば一つの組,指定暴力団であれば,制度として,その暴力団がいわゆる上納金システムのようなものを一切持っていない,こういう場合を想定しておりまして,現実問題として,そういう指定暴力団というのは現在私ども把握しておりません。

したがいまして,代表者〔等〕の側で,そういうシステムがない,末端の組員の活動から利益を一切得ていないということを立証しなければならないということでございますので,ある意味では,法制度的に,そういうことがない場合にまで代表者〔等〕の責任を追及することはちょっと困難であろうということでこういう規定を置いておりますが,現実的には,この点の立証を代表者〔等の〕側がするというのは極めて困難であろうと考えております。(宮本政府参考人・第169回国会衆議院内閣委員会議録第123-4頁)

 

 暴対法31条の21号の「直接又は間接に」とは,「指定暴力団の代表者等は,配下の指定暴力団員の威力利用資金獲得行為によって得られた財産上の利益を直接,得ることがないだけでなく,例えば,第三者を介したり,当該財産上の利益の保有又は処分に基づき得られた財産上の利益(転売利益や利子等)を得ることもなく,さらには,当該財産上の利益が当該指定暴力団の運営費等の原資とされることもないなど,およそいかなる意味においても間接的に財産上の利益を得ることがないことをも立証しなければ免責されないことを明らかにしたものである。」とされています(島村=工藤=松下60頁)。
 暴対法31条の22号の免責規定は,「当該指定暴力団の威力を利用」する限りにおいては(外形理論ということでしょうか。)当該威力利用資金獲得行為の結果が当該指定暴力団員の利益にならないようである場合(「当該指定暴力団の指定暴力団員以外の者が専ら自己の利益を図る目的」で当該指定暴力団員に「強要」した場合です。「強要」まで行かずに要求に従う場合は,当該指定暴力団員において自分にも何らかの見返りがあるということで当該威力利用資金獲得行為を行うものと判断されたということでしょうか。強要に屈してしまうようであれば,獲得した資金ももはや摩擦なく専ら強要者に吸い上げられてしまうのでしょう。なお,「第2号中「強要」とは,相手方の意思に反して行わせることまでは必要でなく,威力利用資金獲得行為を行った指定暴力団員には,なお不法行為責任があるものと考えられる。」とされています(島村=工藤=松下60頁)。)であっても(当該指定暴力団員からの上納金に係る原資獲得につながらないようである場合であっても)当該指定暴力団の代表者等に損害賠償責任があることを前提にした上で,しかし,当該指定暴力団員からの上納金に係る原資獲得につながらないようである場合であるので(この場合には報償責任の前提が崩れるからでしょう。報償責任主義は,無過失責任主義の妥当性を支える根拠とされています(幾代=徳本5頁)。),当該代表者等に対して当該威力利用資金獲得行為がされたことに係る無過失の抗弁を認める,というものでしょうか。当該無過失の抗弁の主張立証において,「威力利用に伴う他人の権利利益の侵害について予見可能性なり回避可能性を有するということ」の有無が具体的に問題になるということなのでしょう。ここで,「当該威力利用資金獲得行為が,当該指定暴力団の指定暴力団員以外の者が専ら自己の利益を図る目的で当該指定暴力団員に対し強要したことによって行われたもの」ということについては(なお,このような事態の発生自体,そもそも認定されることがまれでしょう。),配下の強面こわもての指定暴力団員が組の者以外の者のパシリのようなことをさせられるということですから,指定暴力団の代表者等としては,通常,予見可能性(より精確には,予見義務でしょうか。)がなさそうですが(なお,回避可能性は予見可能性を前提とすることになります(平井宜雄『損害賠償法の理論』(東京大学出版会・1971年)400-401頁等参照)。),立証責任の所在を転換して,当該予見可能性が無かったという,無かったことの証明という悪魔的証明の立証責任を指定暴力団の代表者等に負わせたものでしょう(予見義務は,暴対法31条の22号自体によって,これまた悪魔的に根拠付けられてしまっているのでしょう。)。しかも,具体的侵害行為それ自体についての予見可能性(及び回避可能性)までは求められていません。

 警察庁の担当官らは,端的に,暴対法31条の22号の場合は「当該威力利用資金獲得行為による権利利益の侵害について代表者等に予見可能性及び回避可能性があるとはいえないことから,免責されることとした」と解説しています(島村=工藤=松下58頁)。

 以上,暴対法31条の2の代表者等の損害賠償責任を根拠付ける理由としては,指定暴力団の代表者等の①予見可能性,②回避可能性及び③利益の享受の3項目が挙げられていたところです(工藤14頁)。危険責任論は,根拠付けの理由としてそれとして直接挙げられてはいません。

 

(3)暴対法31条の3

 なお,暴対法31条の3については,次のような国会答弁があります。

 

また,31条の3の規定でございます。31条及び31条の2の損害賠償責任の規定が適用されない場合,すなわち,対立抗争等の場合及び指定暴力団の威力を利用して行う資金獲得行為以外の行為により損害が発生した場合でございますが,こういった場合の代表者等の損害賠償責任については民法の規定によるということなどを明らかにしたものでございます。(宮本政府参考人・第169回国会衆議院内閣委員会議録第1210頁。下線は筆者によるもの)

 

 つまり,「など」ですから,暴対法31条又は31条の2の場合にも時効(民法723条・724条)その他に関して民法の適用があるわけです(堀・警論31頁・34-35頁註8参照)。しかし,暴対法31条の代表者等の責任は,無過失責任であるとされていますから,指定暴力団員の「選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきあったときは,この限りでない。」(民法7151項ただし書参照)というようなことはないわけです。

 暴対法31条及び31条の2の損害賠償責任の規定が適用されない場合には,他の民法の規定によるべきことは当然のことです。

 

   2次団体,3次団体の組長の責任というのは,この改正暴対法では追及されるということにはなっておりませんが,このような場合は,従来のとおり,民法の715条または719条,使用者責任ないしは共同不法行為責任等の規定によりまして損害賠償の追及ができるということに,従来どおりでありますけれども,なっておるところであります。(近石政府参考人・第159回国会衆議院内閣委員会議録第619頁)

 

6 暴対法31条と民法717条と

 暴対法31条の拠って立つ原理は何でしょうか。

(1)立法時における民法715条適用に係る疑義の存在
 平成16年法律第38号の成立は最高裁判所の藤武事件判決が出る前であって,同法の法案立案時においては,暴力団抗争における暴力団員による殺傷行為に係る暴力団組長の使用者責任(民法715条)に関しては,それを認める地方裁判所の裁判例はあったものの,高等裁判所の裁判例となると,あるいはそれ自体不法行為である対立抗争は民法715条の「事業」ないしは「事業」と関連性を有する行為には当たらないとして使用者責任を認めず(福岡高那覇支判平成14125日判時1814104頁及び同支判平成9129日判時163668頁),あるいは使用者責任を認めつつも「もとより,民法715条の使用者責任は,少なくとも公序良俗に反しない合法的な事業を前提とした上で,被用者の不法行為について事業執行との関連性に着目して使用者の責任を問うものであるから,本来,暴力団のような不法・不当な利益追求を目的とする団体の非合法な利益追求活動は公序良俗に反するものであるから,暴力団について事業を観念し,使用者責任を論じることが適当であるか疑問がないわけではない。」(大阪高判平成151030日)と歯切れの悪い判示をしていました(松並656-658頁・666-671頁参照)。

 結局,平成16年法律第38号の法案立案時には,暴力団抗争における暴力団員による殺傷行為に係る暴力団組長の責任について民法715条を適用することについては裁判例上「疑義」がなお存在していたわけであって(堀・ひろば13頁),暴対法31条の規定は民法715条と同じ根拠の上に立つ同条の特則であるものと端的に位置付けてしまっては,担当の内閣法制局参事官殿をなかなか説得することはできなかったものでしょう(学説においても,潮見佳男『不法行為法』356頁(1999年)及び佐々木宗啓・判タ1036136頁(2000年)は使用者責任否定説であったとされています(松並679頁)。)。(なお,松並678頁は,前記福岡高那覇支判平成14125日及び同支判平成9129日について「いずれも,法律判断として,独自のもの(判例通説と整合しないもの)であったと言わざるを得ないように思われる」との否定的評価を下しています。)

(2)指定暴力団の組織の危険性に基づく無過失責任

暴対法31条の拠って立つ原理は,指定暴力団の組織それ自体の危険性に求めるべきことになるのでしょうか。

 

   対立抗争等〔対立抗争(暴対法311項)及び内部抗争(同条2項)〕は〔指定〕暴力団の代表者等の統制のもとに行われる組織的活動の典型でありまして,ここにおける代表者等は配下〔指定〕暴力団に対しまして指示命令を発する立場にありますことから,対立抗争に伴い発生する不法行為につきまして代表者等に損害賠償責任を負わせることとしたものであります。(近石政府参考人・第159回国会衆議院内閣委員会議録第65頁。また,同政府参考人・同会議録16頁)

 

 暴力団の対立抗争等について,危険ではないとは評価し得ないでしょう。

指定暴力団の代表者等がその統制下にある配下の指定暴力団に指示命令を発する立場にあることは,指定暴力団の指定の要件として,当該暴力団が代表者等の「統制の下に階層的に構成されている団体であること」が求められていることから,都道府県公安委員会によって確認済みであるはずのところです(暴対法33号)。

また,暴対法31条の代表者等の責任は無過失責任とされているので,当該責任は,危険な組織に係る無過失責任ということになるように思われます。

(3)大気汚染防止法等モデル論

と,いろいろ考えさせられるところですが,実は,暴対法31条の規定は,「指定暴力団の代表者等に当該指定暴力団の組織としての活動である対立抗争等についての危険責任及び報償責任が認められることに照らし」,「大気汚染防止法等の公害法制などにおいて,公害が事業活動に伴い不可避的に発生するものであること,事業者に公害発生に係る危険責任及び報償責任が認められることなどを根拠として例外的に無過失損害賠償責任が定められている」ことに倣って設けられたものであるようです(堀・ひろば14頁)。直接のモデルは,民法715条ではなく,大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)251項(「工場又は事業場における事業活動に伴う健康被害物質(ばい煙,特定物質〔同法171項〕又は粉じんで,生活環境のみに係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定めるもの以外をいう。以下この章において同じ。)により,人の生命又は身体を害したときは,当該排出に係る事業者は,これによつて生じた損害を賠償する責めに任ずる。」)等であったということになります。

この大気汚染防止法等モデル論に対しては「しかし,企業活動は,社会に有益なものを生産するのであり,暴力団と全く異なるものともいえる」ので「公害企業との類推を経由する」必要はないとの刑事法学者からの批判があります(前田雅英「改正暴対法とその複合的効果」ジュリ1272号(2004715日号)3頁)。

(4)企業に係る民法717条類推無過失責任説(1937年の我妻榮説)
 以上の点に関し,民法典の条項中にあえて
暴対法31条の規定の根拠となるべきものを求めると,筆者としては,1937年に我妻榮の提唱した,企業に係る民法717条の類推による無過失責任説が想起せられるところです(なお,「わが国における最初の無過失責任立法」となる旧鉱業法(明治38年法律第45号)の改正は1939年になってからのことでした(幾代=徳本159頁)。また,大気汚染防止法25条の5参照)。(民法717条1項は「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときには,その工作物の占有者は,被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし,占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは,所有者がその損害を賠償しなければならない。」と規定。所有者については無過失責任になるものであると説かれています。)

 

〔前略〕一の企業組織を成すものはなほこれに本条〔民法717条〕を適用すべきものと思ふ。蓋し近代の大企業に於ける企業施設は一の客観的組織をなし,その裡に包容せられる箇々の不動産や動産を超越した綜合的一体を形成するものであつて,その客観的な恒常的存在を有し危険を包蔵することに於て土地の工作物と異る所がないからである。しかのみならず,私は更に進んで,企業に従事する被用者の行動に基因する損害についても本条を類推し得るものであらうと考へて居る。蓋し,近代の企業施設なるものは物的なものとその一部分を担当する多数人の労力との綜合より成るものである。〔後略〕(我妻181頁)

 

 当該我妻説に対しては,「しかし,このように「企業」なるがゆえに一般に無過失責任を課するという構成は,過失責任主義をいまなお原則として維持する現行不法行為法の全体系との整合性という点で,かならずしも問題がなくはないように思われる。というのは,社会的活動の実質的類型が特に危険性の大きいものであるとか,活動に用いられる道具が特別の危険物であるとかいう指標によるのではなくて,活動の主体が「企業」であるという一事によって区別を設けようとすることは,「企業」概念の曖昧さとあいまって,必ずしも充分に説得力があるとはいいかねるからである」との批判があります(幾代=徳本219頁)。確かに,民法717条それ自体の類推適用の拡張には限界があるところでしょう。しかし,無過失責任に係る特別法を制定するに当たっては,当該考え方は有効かつ有益な参考となるものでしょう。当該特別法において「企業」に代えて「指定暴力団」をもってくれば,指定暴力団は「社会的活動の実質的類型が特に危険性の大きいもの」であり,かつ,凶器などその「活動に用いられる道具が特別の危険物」であることが極めて多く,さらには都道府県公安委員会の指定(暴対法3条)によって外延もはっきりしますから,上記批判もその限りにおいては力を失うようです。

 ということで,暴対法31条の拠って立つ原理については,「これを危険責任(危(ママ)責任)の一顕現とするを至当なりと考へる。蓋し社会生活に於て特に危険多き設備〔組織〕を保有する者はこれより生ずる責任を特に加重せらるることは損害分担の理想に適合するらである。」(我妻180頁参照)ともいえそうです。暴対法31条の21号と対比して考えると,暴対法31条においては,金銭的な意味での報償責任の契機は後景に退くことになるように思われます。

 ちなみに,民法717条の損害賠償責任の根拠については,危険責任説の我妻榮とは異なり梅謙次郎はやはり自己責任論を採っていて,同条における所有者の責任の根拠について「蓋シ此場合ニ於テハ素ト所有者カ工作物ヲ設置スルニ方リ充分ノ注意ヲ為ササリシヲ以テ其損害ヲ生スルニ至リタルモノナレハナリ」と述べています(梅900頁)。

 指定暴力団という組織ないしは「企業」が対立抗争又は内部抗争という危険な活動を行う「瑕疵」を有するからこそ,民法717条的な発想でもって暴対法31条の規定が設けられたのだと考えた場合,次にはその「瑕疵」たる当該危険性は具体的にはどのように発生してどのように位置付けられるのかということになりますが,藤武事件判決の前記北川補足意見等によれば,暴力団である限りにおいての必然であり,かつ,暴力団の本質そのものであるということのようです。(内部抗争については,「暴力団の寡占化が進む近年においては,同一の指定暴力団に所属する傘下組織相互間であっても当該威力の利用の方法手段を巡り内部抗争を起こすことが多いが,これも対立抗争と同様に指定暴力団の組織の本質から必然的に発生するものということができる。」と説かれています(堀・ひろば15頁)。)
 「改正法においては,対立抗争等が指定暴力団の組織としての活動であり,指定暴力団がその威力を存立基盤とすることから必然的に発生する性格を有すること並びに指定暴力団の代表者等に当該指定暴力団の組織としての活動である対立抗争等についての危険責任及び報償責任が認められることに照らし,過失責任主義の例外として代表者等の無過失損害賠償責任を定めることとしたもの」というのが,警察庁の担当官によるまとめです(堀・警論25頁。下線は筆者によるもの)。

(5)対立抗争及び内部抗争以外の暴力団員の行為行動(2004年4月の国会答弁)

暴力団にとって対立抗争の遂行及び内部抗争の制圧は組織の存続上不可欠なものである本質的な活動であるということになる一方,それ以外の暴力団員の行為行動は,組織活動としての組織的行為として見るには,性格があいまいに過ぎるものであると考えられていたようです。

以下は,「組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業」たる暴力団組長の事業の概念が示された200411月の藤武事件判決前の,同年4月の国会答弁です。

 

   暴力団員等は,全国津々浦々と申しますか,全国各地でさまざまに連日のごとく違法,不法行為を行っておりますけれども,対立抗争等のように,代表者等の配下,指揮命令のもとに行ったというふうにもなかなか言えない。また,類型的に,いろいろなさまざまな犯罪行為,違法行為が組織活動であるというふうにも言うに足る実態というのは我々として把握しておらない現状であります。

   しかし,本制度が適用されない場合であっても,代表者等につきましては,従来の民法715条または719条,共同不法行為等所定の要件を満たせば,これらの規定に基づく責任追及がなされるものというふうには承知しております。(近石政府参考人・第159回国会衆議院内閣委員会議録第616頁)

 

   対立抗争等と違いまして,一般の通常の犯罪,違法行為,不法行為というものは,組織的なもの,また組の代表者,親分ですが,親分の統制のもとにある行為と言うのはなかなか難しい。それで,類型的に暴対法等で使用者責任的な,組長責任と申しますか,代表者責任を立法化するのは今回はなかなか難しかったというのが今までの経緯でございます。(近石政府参考人・第159回国会衆議院内閣委員会議録第616頁)

 

7 藤武事件判決と福岡地判平成31年4月23日と

 なお,福岡地判平成31423日判時242758頁②(前記事案2の事案)においては,藤武事件判決との関係で興味深い法律構成を裁判所は採用しています。原告は,暴対法31条の2の外,民法715条に基づく請求又は719条に基づく請求を選択的併合という形で行っていたのですが,福岡地方裁判所は藤武事件(これも警察関係で,現職警察官が誤って射殺された事件です。当該警察官は,暴力団の対立抗争に際して警備中,暴力団員と誤認されて殺害されたものです。)判決の前例がある民法715条の使用者責任構成を採用せず,民法719条に基づく共同不法行為構成を採用しています。

「暴力団にとって,縄張や威力,威信の維持は,その資金獲得活動に不可欠であるところ,警察組織を離れた元警察官を殺傷することは当該威力及び威信の維持及び増進に資するものであるから,その構成員がした元警察官に対する本件銃撃は,Uの威力を利用しての資金獲得活動に係る事業の執行と密接に関連する行為〔ないしは藤武事件判決の北川裁判官補足意見流には「Uの代表者等の事業そのもの」〕というべきである」というような判示を見ることはなかったわけです。